獣医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議(平成23年度~)(第16回) 議事要旨

1.日時

平成26年2月20日(木曜日) 13時~15時

2.場所

文部科学省16F2会議室

3.議題

  1. 獣医学教育の改善・充実について
  2. 大学院教育の充実について
  3. 入学定員の在り方について
  4. その他

4.出席者

委員

伊藤座長、酒井座長代理、石黒委員、大井委員、尾崎委員、藏内委員、佐藤委員、竹中委員、中山委員、平井委員、政岡委員、三角委員、村上委員、横尾委員

文部科学省

牛尾専門教育課長、児玉専門教育課長補佐

オブザーバー

藁田農林水産省消費・安全局畜水産安全管理課長、滝本厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課長

(その他発表者)
村上宮崎大学農学部長・研究科長

5.議事要旨

議事の概要:
事務局から配布資料についての確認があった後、以下のとおり議事が進行した(◯:委員・発表者、●:事務局・オブザーバー)。

 

(議題1について)
村上宮崎大学農学部長より、資料1に基づき宮崎大学医学獣医学総合研究科の設立の経緯及び教育・研究の状況について発表があったのち、質疑応答。

○ 修士課程の基礎となる学部はどこをターゲットにしているか。
【村上教授】 生命科学のうち、医科学は短期医療関係の3年課程等が多い。動物理化学は畜産から。高度医療・生命倫理は、臨床技師や看護師など。
○ 博士課程の入学者に占める社会人の割合はどの程度か。
【村上教授】 現役の学部生定員30名のうち、博士課程にあがるのは3~5名程度で、残りはほとんど社会人。留学生は東南アジアからがほとんど。
医学系だと、理、薬、農、私立の獣医からもいる。医学系には現役で卒業して大学院に入る人はほとんどいないが、研修医の2年目から入るという例が多い。
○ 研究費について、新研究科としてもらえる部分はどれくらい潤沢になったのか。
【村上教授】 正確には把握していないが、山口連大のときは、4大学で3億位。4つの大学で教員が100人くらいいれば、一人当たり300万。今は90人程度の主指導教員がいるが、一人当たり17万円。全然桁が違う。連合大学に来ているお金は旅費・教員研究費等いろいろな形の付帯した経費がきている。
先生方は苦労して、よその大学で指導していたりということもある。それはそれで良しあしがあるが、研究費に関してはそういうのが実情。
○ 獣医系に限った場合、留学生はどのくらいか。
【村上教授】 獣医系にかぎると毎年大体2~3名。ただ、大学でアフガニスタンのピースプロジェクトを引き受けており、継続的に4名が来るようになっている。
○ 医学系の留学生は東南アジアからか。
【村上教授】 ほとんど東南アジア。薬学や理学から。
○ 授業は英語で行っているのか。
【村上教授】 英語でプレゼンの場合はスライドをできるだけ日本語とし、日本語でプレゼンの場合はスライドを英語とする形。今年からは、これだけ留学生が増えたので、できるだけ英語でやろうということになった。
○ 医学系の高度臨床にはどのくらい行くのか。
【村上教授】 医学の方は完全な臨床志向。臨床に特化した高度な技術を身につけたいという人が入ってくる。8割は研究者を志望しているが、中には研究よりスペシャリストを志向して大学に行きたいという方もいる。就職が有利になるということでなく、自分なりに先端的な技術を取得していますよ、というもの。
○ 医学系の先端的な技術について、具体的に獣医側から要望するものがあるか。
【村上教授】 例えば獣医の外科は裾野が細分化されているわけではない。医学系の血管外科なら血管の病気ばかりをやっている先生方が教えるので、そのあたりは少し違うかなと思う。
○ 医学系から見て、特殊な技術を身に着けたいというときに、獣医学にはどういった受皿があるか。
【村上教授】 そういったことは期待していない。高度な技術を求める医師は高度臨床医育成コースに行く。ここは獣医の先生方はほとんど関われない。獣医の最先端と医の最先端はおのずと分かれてしまうので、高度獣医師育成コースと高度臨床医育成コースを分けた。融合させるのは至難の業。研究者育成コースは、両方からきて、先端的なことをやるけれども、両方にとって大体メリットがあるというレベル。
○ 研究者育成コースはみな研究者になるのか。
【村上教授】 必ずしもそうではない。研究することによって、物の見方、考える力、指導できるような立場、客観性等いろいろな能力が備わるというのが研究者コース。研究をするということは本質を見抜かなくてはいけないということで、必然的にそういう力が付く。そこがみなさんが集まってくる理由だと思う。
○ 医獣連携は、例えばドイツでは100年も前から行われている。それを宮崎大学が我が国で初めて実施しているのは、大変嬉しく思う。
大学院教育については分かったが、学部教育についてはどのような状況か聞きたい。
【村上教授】 宮崎大学では共同学部・学科を作らなかった。もともと畜産との連携が深く、宮崎大学の獣医学科は産業動物獣医師の育成を目指している。畜産の先生方と獣医学科の先生方は完全に入り込んでいる。実験動物、水産系も全部入り込んで、教員組織は農学の中で大きく一元化している。一つの教員組織としての獣医学科専任の教員という形ではない。産業動物に関する教育については、獣医学科の枠を超えた形の教育と考えていただければと思う。
一方で、医学については、学部教育にはまだ完全には入り込んでいないが、実験動物や生化学の一部は、獣医学の先生にやってもらっている。
○ 研究指導を昼夜に、授業を土日に開講すると、教員の負担が非常に大きいのではないか。
【村上教授】 国立大学の法人化後、教員の負担はものすごく増えているが、これくらいの負担はそれほど苦にならない。土日の講義は確かに最初は大変だと思ったが、やってみると楽しいという感じがする。最近はそれがルーティン化していて、誰も文句も言わない。過労にならないようにとだけはいつも言っている。
○ 長期履修制度について、自己申告によって最長8年まで、それぞれの学生の個人によって教えるタイミングの問題があるが、どのように解決しているのか。
【村上教授】 長期履修は自己申告だが、例えば「1年生を2年やります」「3年やります」という形の申告。通常1年でとる講義の場合、学生は毎年毎年開講している講義を、2年間でとればいいという形。このため教員の負担という問題はほとんどない。また、授業の出席は事務が取るので、教員も学生もそこは把握しなくていい。事務の方からあと何回取らないと進級できませんよ、という通知がいくので、そこも問題ない。
○ 4月から修士課程が開講するが、従来の農学研究科とオーバーラップしないのか。
【村上教授】 医学獣医学総合研究科と農学研究科と重複する部分は畜産分野の人材。医学獣医学総合研究科には畜産の教員は一人もおらず、完全に獣医学と医学。畜産分野の人材が医学獣医学総合研究科に流れるのは、農学研究科にとってはマイナスな気もするが、農学研究科はもともと定員オーバーなので困らない。むしろ畜産分野の学部生で、衛生に興味がある場合は、獣医学を学びたいというふうになることがある。私の講義は生理だが、畜産と獣医の学生が一緒にやっている。畜産の学部生も最初から獣医学の勉強をやっている。修士でどちらの方に行くかは、学生本人のモチベーションがどちらにあるかだけで決まる。そのため、教員もそれに対してクレームをつけない。
○ 医獣連携をやるに当たって、外国の事例を参考にしたのか。
【村上教授】 エジンバラ大学を参考にした。これほど融合した講義はやっていないが、研究は相当やっている。私たちは、研究だけの共同では非常に限られてくる、もう少し広い知識を得ることが研究科の目的ではないかと考え、エジンバラよりも融合した教育を重視している。

 

(議題2について)
事務局より、資料2について説明があった後、意見交換。

○ 大学教員の養成のうち、TAについて。将来大学教員になりたいという学生が結構いる。実際に自分で授業を組み立てて学生に教えてみるTAにそれなりの報酬を与えることができないか検討すべきだ。
○ そこまで可能なら、むしろ、特任副手になってもらい、大学院には社会人入学させてはどうか。助手でありながら大学院に在籍するということを、昭和50年代頃はやっていたことがある。
● 制度的に不可能ではない。TAとして身を立てるというのも、TA任せになってしまったら問題があるが、本来の担当教員の指導監督の下で教育実習的なものも入れられるというのはありうると思う。そのこと自体にプラスアルファの報酬をだすというのも考えられなくはない。助手・社会人であることと大学院生であることが両立するのか、教育上の効果をどう考えるかという問題はある。
○ ライフサイエンス系の医学、その他理学、薬学部が一緒にやるような大学で、学部の枠を超えて積極的に教育を展開するのは、今後の方向性の一つ。宮崎大学も成功例のひとつではないかと思う。
○ 私学と国立の間の格差は現存している。私立大学と国立大学のハンディキャップについては、別の角度からでもいいのできちんと手当した方がいいのではないか。
○ 国立の授業料は50万、私立5大学は平均で200万。この200万で教育できるかというとなかなか難しい。私立の薬学では平均400万くらい。薬学より低い授業料で教育が行われているが、施設や教員の充実となると、教育にしわ寄せ・負担がかかる。
○ 進学者の確保について、宮崎大学の長期履修、昼夜・土日の開講等の例があり、また、各大学でも3分の1は社会人が入っている。社会人が進学しやすい教育環境の整備も一つの論点になるのではないか。
○ この協力者会議はあくまで獣医学教育の充実改善に向けて大学教育をどうするのかを検討している。各大学の教育内容の特色や地域性についてブロックごとに、長期的な大学・大学院の充実という視点から考えることも重要ではないか。
○ 海外の獣医系大学院おける教員育成の方法について学んでおく必要があるのではないか。最初の論点にも国際通用性というのが柱としてあったが、きちんと議論できていない。海外の獣医系学部については、以前の橋本先生からの発表資料でうまくまとめられているのでそこからいいヒントが得られるのでは。教員養成の視点から大学院の役割を議論し、その結論に応じて、履修システムであったり、カリキュラムであったりを組み立てる必要がある。
○ 社会人を増やすと元の会社に戻っていってしまうというところがある。教員養成という面からは、学部から上がってきた人をそのまま教育した方が有効。
○ 一度企業を経験してから大学院に入り直しアカデミアの世界に入るという人は結構いる。大学院にとってもいいチャンスではないか。
○ 特に臨床系では多いのではないか。臨床系は現場に出て、共済に行って、それから大学に帰ってくる。内部進学者というのは養成が非常にやりやすいが、社会人を活用するのは、本人にとっても教育組織を整備するうえでもプラスになるのではないか。
○ 学生がアカデミアだけで教員になるよりも、回り道の方がなかなか面白いのではないか。
○ 大学教員の養成となると、最終的には教員歴を問題にしようとする傾向がある。TAであるとか、そういう方の活動できるようなシステムがあれば。
○ 大学の特色あるいは地域性を考えて議論すべきというのは、非常に重要。このことは論点として挙げた方が良いと思う。これまでの分析で、それぞれの大学院が、社会人が多かったり、外国人留学生が多かったり、その他大学からの学生が多かったりと、それぞれの特色が出ていたかと思う。
○ 連合大学院は各大学の機能強化や戦略と非常に密接に関連している。各大学が考えられることが、まずは非常に重要なポイントだと思う。
○ 協力者会議はグランドデザインを考えるところ。個別大学の立場は大事だが、全体をどう考えるのか、ということは論点としてまとめておくべきだ。
○ 博士人材があふれていると一時聞いたことがあるが、博士課程を出た後、しっかりしたポストに就けているのか。
● 割合としては大学の研究者が一番高い。先ほど元の職に帰る、帰らないという話があったが、臨床の職場から来た人は元の臨床の職場に、企業から来た人は企業に帰る、という方が多いのではと思う。ただ、博士課程修了後に最初にどこに行ったかは分かるが、その後どこに行ったのかまではよく分からないところがある。そのことの把握には限界はあるが、結果研究の場に着地する人の割合が比較的多いのではないかとみている。
○ 以前に、理学のオーバードクターが問題になったことがあったが、獣医については、ライセンスを持った人が大学に行って、どこかには入っている、と感じる。やはり免許が強みになっているのが大きいのでは。
○ 博士課程を卒業する予定だが、推薦でお願いできないか、というような話が企業には毎年来る。その中に獣医の免許を持っている方はいない。そういう点では全然違う。
○ 今は、ポスドクという形で自由に給料をもらいながら研究を続けているという方はかなりいる。昔のようなオーバードクターというものはない。
● 海外については、過去の委託事業の様子も少し調べてみて、大学院に特化して拾えるものがあるか確認してみたい。
○ 日本は学部6年と博士4年で構成されているが、海外では修士制度のある大学もあるため、そのまま比べることもなかなかできない。欧米の大学では学部生に比べ大学院生はかなり少ないというのは間違いないが。

 

(議題3について)
資料3に基づき、事務局より説明があった後、意見交換。
○ P2-1に「採用に困難を抱える地域の存在」とあるが、これは需要の増要因とはちょっと違う。現場では退職者した分を採用できないとか、定着率が悪いという声はあるが、必要数自体は基本的には増えていない印象。
○ P2「全ての獣医系大学は獣医学コミュニティが議論してきた教育基準・評価基準を満たすべき」というのは非常に重要だが、「議論してきた」は「議論している」という現在形の方が良い。というのも、教員数については大学基準協会、学部長会議、国立大学が掲げてきた数値がそれぞれ存在している状況。そこで、この部分を「議論している」という現在系に変えて、現在大学基準協会で議論している第三者評価基準をある意味目標にしてはどうか。
○ P1「単に大学設置基準の求めを満たすのみでは、国際的な信頼を勝ち得ることはできない」という記述について、大学設置認可は基本的には大学設置基準に沿うもの。事前チェック、事後チェック、その後の認証評価でトータルして質の管理をしていくという今の潮流からすると、大上段に言い過ぎているのではないか。大学設置基準は最低守るべきという基準であり、この表現のままだと大学設置基準は一体何なのかということになるので、適切な表現に直すべきだ。
● 表現については検討したい。
○ アジアの獣医系大学の規模は本当に大きくなりつつある。今までは日本の獣医系大学を卒業して教員になっている方が結構いて、そういう国々が日本の大学院教育を信頼してくれているが、現時点で新しい大学を作るとなったときに、規模の面で現在の大学設置基準に従うのみの小さな大学を作ってしまうと、国際的な信頼という意味で、いろんな批判を浴びる可能性もあるのでは、ということでこのような表現になっている。
○ 入学定員管理の厳格化を行った場合に、国立大学、私立大学にどんな影響があるのか。
● ここに書いている趣旨は、学生と教員の比率を改善することで教育水準を上げていく、という意味。一方で、経営面から見ると、学生の数が減るということは授業料が減るということになり、厳しいことを各学校に求めているのも事実。バランスなり支援なりについて、最終的には考える必要がある。
○ そもそも日本の教育をスタートさせるときに公でカバーできない部分について、私学にお願いをした、そういった経緯があると聞いている。そういう中で私学は役割を果たしてきた。私学の経営者が何かをやろうとして資金を調達する際に、融資の制度そのものが国立と違う。そういったところも考えないといけない。経営がしっかりしていないと教育に大きな影響が出る。
○ P2-1「獣医師免許を持ちながら、現在は獣医療から離れている者の活用の促進」について、卒業生の約半分が小動物の臨床医で、その半数が女性。30歳になるとその半分位が現場から離れ、35歳では2割くらいしか残っていない。新卒で小動物診療に行く人が過剰ということか。期待と現実のギャップで現場から退く方がいるのはもったいない。そのような人を適切な領域に進ませることができれば、定員は今のままでもいいのではないか。
○ 獣医師は、食の安全にかかわる問題において重要な役割を占めている。海外の獣医師はそういう問題に正面から取り組み、例えばデンマークでは、農家が獣医師と1軒1軒衛生契約を結び管理をしている。食の安全の観点を需要増の要因に入れるべきではないか。
○ 食の安全だけではなく、もう少し広くレギュラトリ―サイエンス分野の人材も重要。
○ 偏在の改善と、それを解消するために必要な処遇の改善、その2点は要因として入るのではないか。
○ P1「その他、獣医師の需給について考える際の留意事項」は後でつけられたような感じだが、獣医師の需給に与える要因というような仕訳にしてはどうか。また、P1最後の「獣医系大学が地域において果たすべきとして掲げられた機能」については、括弧をつけないで、3つの要員は追加説明でなく、定員の在り方についての3点としてはどうか。
○ 地域で果たすべき機能について、地域の危機管理拠点とまで表現すると重い感じがする。危機管理そのものは大学の役割ではないので、サポート機能という表現にしてはどうか。
○ 地域で果たすべき機能の3点について、大学がこれをやろうとしたときに、どのくらいのヒト・モノ・カネが要るかは分からない。ここにこれを書くということは、今後大学がこういうことを目指す必要があると国民に知らせるということ。その経費負担は莫大なものになる。
○ 臨床の方では、卒後教育拠点と書かれているが、確立すべきなのは、新人の研修医制度を全国的に大学の中に整備していくこと。ただし、これをするためのマンパワーや施設は不足しているのが現状。
○ 書く以上は、そのためのロードマップが必要で、そこを見据えてこの言葉を上げるのなら賛成。
○ 地域をどのくらいの広さでとらえるかも考えなければならない。私立は東京に集中している。実質的にはかなり狭い地域をカバーしている。一方で北海道はあの広い地域に3つ。役割は地域の広さによってかなり違ってくる。
○ 二次診療の場合、北海道大学は北海道からは出ない。総合的な診療をどう学生に教えようかということの方が問題になっているくらい。
○ 医学でもそうだが、国際貢献やグローバルの視点は議論しなくていいのか。日本国内のマーケットだけ見ていればいいのかと思う。外から来る人たちを受け入れるのか世界に向かって出ていくような人材を育てていくのか。
○ 食の安全等について、海外の獣医師の質が上がらないと、いつまでたっても病気も収まらないし、いつまでたってもその脅威にさらされるという議論があった。そういう意味で、国際化は、現在全ての大学で向かう方向性。
○ 会議の調査にかかる各大学からの回答においても、国際化が入っている。
○ 国際化は教育改善の観点では確かに大事。ただし、獣医師の需給の議論の中では、海外での需給見込み・資格の扱い等詳細はとても詰められない。需給の議論においては、海外市場や外国人獣医師等の課題があるというくらいでとどめておくことも必要ではないか。

(以上)

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