平成23年5月13日(金曜日)午後2時から午後4時30分まで
文部科学省3F1特別会議室
安西 祐一郎、今井 浩三、片峰 茂、木場 弘子、栗原 敏、黒岩 義之、桑江 千鶴子、坂本 すが、 竹中 登一、中川 俊男、中村 孝志、西村 周三、山本 修三(敬称略)
鈴木文部科学副大臣、磯田高等教育局長、新木医学教育課長、植木視学官、玉上大学病院支援室長、小野医学教育課長補佐
(厚生労働省医政局)村田医事課長
【安西座長】 それでは、時間でございますので、ただいまから今後の医学部入学定員の在り方等に関する検討会第5回を開催させていただきます。
会議に入ります前に、この会議は冒頭より公開とさせていただきます。御了承いただければと思います。よろしくお願いいたします。
また、前回の会議がちょうど3月11日に開かれました。それ以来でございますけれども、被災地、被災者の皆様、いかばかりかと思いますけれども、そういう思いを含んで、また続けさせていただければと思います。
今日は、鈴木副大臣が御出席でございますが、適宜御発言もいただければと思っております。よろしくお願い申し上げます。
今日は、前回に引き続きまして、有識者の方からヒアリングを行わせていただきます。お忙しいところ、長崎県病院企業団企業長の矢野右人先生、岩手医科大学学長の小川彰先生、東京大学医科学研究科特任教授の上昌広先生の3人にお越しいただいております。よろしくお願い申し上げます。
お三人の方、それぞれに20分ずつお話を頂いて、適宜御質疑いただくという、前からのスタイルでやっていければと思いますけれども、もうお聞きになっている方々にとりましては、ヒアリング、随分回を重ねてまいりました。途中でも、特に御質問があれば、あるいは御意見があれば、もう出していただく。なるべくインタラクティブにやらせていただければというふうに思いますが、余り長く途中で止まりますとあれですけれども、特に御質問があれば、お三人全部終わってから形式的にというよりは、もう少しインタラクティブにできればと思っております。よろしくお願いを申し上げます。
それでは、まず事務局から配付資料の確認等をお願いします。
【植木視学官】 まず、事務局に人事異動がございましたので、御挨拶申し上げます。
4月1日付で高等教育局視学官を拝命いたしました植木と申します。よろしくお願いいたします。
それから、同じく4月1日付で医学教育課課長補佐を拝命しました小野でございます。
【小野課長補佐】 よろしくお願いいたします。
【植木視学官】 それでは、配付資料の確認をさせていただきます。
封筒の中、1枚目、座席表を1枚入れております。その次に、今回の検討会の議事次第、一枚ものでございます。
続きまして、資料1といたしまして、矢野長崎県病院企業団企業長から御提出を頂いた資料をお配りしております。全部で12ページでございます。
次に、資料2といたしまして、小川岩手医科大学長から提出いただいた資料でございます。こちらは全部で14ページになってございます。
その次に、小川先生の方からパンフレット、日本私立医科大学協会の『医学振興』という冊子、同じく小川先生から、『月刊 新医療』、これも冊子になっている白い表紙のパンフレットがございます。
続きまして、上先生から御提出を頂いている医師不足に関する見解という資料、こちらは資料3-1から資料3-2-4までを一括してとじさせていただいております。
その次に、事務局からの参考資料といたしまして、まず参考資料1、医学教育モデル・コア・カリキュラムの平成22年度改訂版を入れております。大部になりますが、一括して冊子としてお配りをしております。
最後に1枚、参考資料2といたしまして、規制・制度改革に係る方針(平成23年4月8日閣議決定)についてという一枚ものをお配りしております。
配付申し上げている資料は以上でございます。落丁、乱丁等ございましたら、お知らせいただければと思います。
以上でございます。
【安西座長】 ありがとうございました。よろしゅうございますでしょうか。
それでは、ヒアリングに移りたいと思います。
まず、長崎県病院企業団企業長の矢野右人先生から御意見を伺わせていただきます。一応20分ということでお話をよろしくお願いいたします。
【矢野右人氏】 長崎の矢野でございます。よろしくお願いいたします。
私は、30年ほど国立病院に勤務いたしまして、その病院が離島病院群の親元病院でしたので、医師の育成、それから医師の派遣に関与してまいりました。ちょうど10年前に退職いたしまして、長崎県の病院事業管理者として、現在11病院の経営、運営に携わり10年目になります。
常に、医師偏在が非常に強い長崎県で、この10年、行政面から医師の偏在、医師の充足に努力をしてまいりました
まず、結論から申し上げますと、現在の医療環境のままで医師の増員を図っても、医師の偏在は解消されないだろうということ。まず、医師の働きやすい環境をつくり、穏やかな医師の増員を図るべきと思っています。
全国の医師偏在の縮図とも言えます長崎県の事例より意見を述べさせていただきます。
資料1の2ページ目をお開きください。上段でございますけど、これまで何度もこの会で述べられてきましたように、10万対医師数のベストテン、これを左側に、それから右側に少ない方の10都道府県を挙げています。この両群ともに医師不足が大きな声で叫ばれているわけでございます。この両群を見比べてみると、2倍近く医師がいるのに、少ない県同様、多い県でも医師不足が叫ばれているということは、医師の絶対数の問題だけではなくて、医療提供体制の問題が主であるというふうに思っています。
下の表は、2008年から4年間の医師増加数を示していますが、これは医師が多い県に、より多く集積する傾向を示しているわけでございます。しかし、この上の表、10万対都道府県の医師数、あるいは増加数からは、地域医療に対する医師不足のバックグランドというのは全く見えてきません。
次の3ページを御覧ください。3ページの上段の表は、縦軸に医師数、上に行くほど医師が多い都道府県、それから右に行くほど患者数が多いというところでプロットいたしました。このプロットはイメージと書いてありますけど、多少都道府県によって上下と左右がやや違っているところがございますので、イメージとお考えください。
こういたしますと、都道府県のグループが四つに分かれてまいります。Aグループは、これは大都会の病院のお話ということになります。Bグループは、大都会、あるいは、それを取り巻く衛星都市での問題ということになります。それから、Cグループ、患者が多く、かつ医師が多い県ということになります。Dグループが、患者が多く、かつ医師が少ないという県になります。この四つに分けると、大体バックグランドが分かってくるわけでございます。
この4群で叫ばれている医師不足は、全く質を異にしているわけでございます。例えば、A群、B群にとりますと、これは高い専門性、あるいは高度の救急医療、それから先進医療に対する医師が不足しているということが叫ばれている都道府県でございます。比較的D群から比べると、ぜいたくな医師不足の叫びでございます。
それから、C群は、医師過剰と言ったら悪いのですけど、日本の平均値よりも医師過剰であるが、これらの県においては病院数、病床数が非常に過剰に配置されていまして、医師にとりましては過剰になる労働力を要することから、医師不足が叫ばれているバックグランドがあるわけでございます。
それから、このD群でございます。これは絶対的に医療の不足、医師の不足でございます。全国の平均の人口10万対比の病院数は6.16でございますけど、ここにあります紫で示した病院は10万対比、病院が7以上のところ、茶色で示しているのは6病院未満ということになります。
もしも医師が、今の提供体制のままで増えていきますと、C群の病院タイプが増えてくるということになりかねないわけでございます。これまでは、A群、B群、大都会について、あるいは大都会の衛星都市については、私は余り携わってきていないので深く考えてこなかった面がございますので、日本の大多数を占めるC群、D群についての意見になると思います。
横軸に、この表では患者数をとりましたが、病院数、それから病床数とした方が適当かもしれません。なぜならば、下の表を御覧になっていただきますように、この10年間をとりましても、長崎県の患者数が100%から57%に激減しています。しかし、これは自然に減ったのではございません。この中には、DPCの採用、7対1というような政治的、行政的な面が強く働いた部分で、どーんと患者数が減っているわけでございますから、数というのは、現在のところ絶対数ではございませんで、これはかなり診療費、あるいは社会情勢によって変わってくるということがございますので、現在、終戦後、ずっと固定されてまいりました病院数、それから病床数というところが問題になるのではないかと思っています。
次の4ページ目をお開きください。人口10万単位の病院数が多い10県を左側に、少ない県を右側に示しています。C群に属する県が、断然、左側の病院が多い県にあることは、御覧のとおりでございます。この10県対比では、病院対数が、病院が少ないところと多いところと比べますと、これはものすごい数の病院数の違いということになりまして、両者を比べると病院過剰と、少な過ぎるかというところに行き着くのではないかと思います。
ただ、ここで病院規模を見てみますと、400床以上の大病院率がどうなっているかを見ますと、病院数が多い県では大病院は非常に少なくて、大病院率は3から6%程度、病院が少ない県では非常に大病院率が高いということが分かります。医師が多い県では、小さな病院が多数存在し、管理職、当直、その他に人員がとられまして、非常に多忙になっています。これは医師の勤務環境が非常に悪くなっているということが言えるわけでございます。医師不足が叫ばれる中、病院数が少ない県では、比較的大病院が多くて、結果的には医療の集約化が進んでいるとさえ、これは理解できるところでございます。
一方、下の表を御覧いただきたいと思います。これは自治体病院で、小規模病院は非常に多くて、特に市立・町立病院では極小病院が多いということでございます。常勤医師が5名以下が25.3%とありますし、常勤医師が3名以下の病院が13.4%を占めているわけでございます。常勤医師が3名以下で24時間経営の病院を開設すること自体、これは医師にとりまして労働条件が問題外でございますし、医療のレベルを保(たも)てるわけがございません。ましてや、これは自治体が責任を持てる病院かというと、存在が許されることではないというぐらいに小さい病院が多く、ここが病院崩壊ということにつながってきている問題だと思います。ただし、この小病院の936病院のうち、5名以下236とありますけど、この中で北海道だけは一番これが多いことでございまして、ちょっと特殊というふうに御覧いただきたいと思います。
それでは、5ページ目をお開きください。上の方でございますけれども、長崎県は離島だけで9病院、それから57の公立診療所が存在いたしまして、ここに県として医師の派遣ということは歴史的に非常に苦労してきているわけでございます。
下の図を御覧ください。これが九つの二次医療圏がございます。医師の偏在が著明で、本当に全国の縮図ということが、この長崎県で見られるというふうに理解しています。医師は長崎医療圏に集中していまして、それから県央、佐世保で占められているわけでございます。離島のみではなく、これは例えば県南とか県北とか本土地域でも、一旦県庁所在地を離れますと、非常に医師が不足しているというようなことがお分かりだと思います。
6ページ目を御覧ください。上段でございます。長崎県の九つの二次医療圏の中では、周辺部を含めまして、人口減少が著しいために、人口が減っているために10万対の医師数は比較的保たれています。これは長崎県独自の医師養成をしている結果だというふうに思っています。
ただ、下段を御覧いただきたいと思います。下の段で、最近10年間で長崎県内の医師総数は371名増加いたしました。しかし、そのうちの213名が医師数過剰と言われる長崎医療圏にやはり集中しているわけでございます。直近2年間で見ますと、県庁所在地一極化で、増えた分は全て県庁所在地に集約しているということになります。医師が幾ら増加しても偏在の解消はほとんどなく、都市に集中しているというようなことが見えてきます。この結果から見ても、医師が多い県でも、医師の増員が医師の偏在解消には直接結びついていかないというふうに考えています。
次、7ページを御覧いただきたいと思います。これは常識的なことで大変失礼ですけれども、何で医師が都会型になってきているかということでございます。この1番のとこで、文明、文化ということは、当然都市集中型、医師だけではございません。ただ、この2番でございますけれども、行っている医師のほとんどの方が言うことは、やっぱり教育環境の充実がないということを言うわけでございます。これは特に若い地域枠、義務年限をつけた医師を派遣いたしましても、子供が小学生、あるいは中学生になるぐらいの年齢にちょうど当たりますと、まず教育環境が悪い、学校問題ということで、都市に住みたいというのが一番大きな原因でございます。
また、離島へき地では、医療環境が2番に示しているように、悪うございます。病院規模が小さくて、当直、日直が、まず多いということがございます。それから専門性がはっきりできずに、広い分野を、いわゆるプライマリー・ケアをほとんど担当しなければならないということがございますし、高度の医療機器も整備していないということでございます。
ただ、この問題の中で、1番は我々管理行政の中ではどうしようもないとこでございます。ただ、この2番だけは、どうしても我々が解決していかなければいけないところだと思っていますが、そのことにつきましては後ほど述べさせていただきます。
それでは、8ページ目をお開きいただきたいと思います。長崎県では、独自の医師養成制度を41年前から始めてきましたので、その問題点を提起いたします。自治医大の開設2年前の昭和45年に発足いたしました。自治医大と異なる点は、このスライドにもありますように、生活費、これは当時から月額7万円でございますけど、生活費を支給するということでございます。したがいまして、長崎県の奨学生の義務年限は12年、離島6年、内地6年の12年でございます。研修期間2年も当然入っているわけでございます。
下のスライドでございますけれども、こういう状況で、既に長崎県の修学生は150名、自治医大生96名の計246名が、この資金の貸与を受けています。共に、初期研修が修了すると、全員我々の病院企業団へ配属されまして、病院企業団の中でこれらの周辺部の病院に対する医師派遣を行っています。配置委員会を形成して配置を行っています。人事権が企業長にあるために、それ以外の特に医局派遣と異なりまして、県の観点から不足しているところに、この人たちの配置を転換できるということから、この医師不足のパニックが防いでこられたものだと思っています。
9ページをお開きください。9ページの上にはヘリコプターの話が出ているのですけれども、1958年以来、4000件以上の海自ヘリの患者搬送、それから現在では、年間500件以上のドクターヘリ、それから防災ヘリの3系統で、この周辺部離島の医療を援助しているわけでございますが、ここでわざわざこれを示させていただいたのは、これは、ただ患者搬送ではなくて、若い医師を周辺部へ張りつけるためには、何かあると必ずヘリでカバーいたしますよという安心感を持ってへき地へ勤務していただくということを含めまして、これは配置しているところでございます。
下の表を御覧いただきたいと思います。義務年限の期間は、全て病院企業団で運用させていただいていますけれども、ここに書いてありますように、いろいろ問題点が生じています。これは、やはり若いドクターが行きますので、専門医がなかなかとれないというようなこと、それから義務年限途中の医師配置転換の中の不公平性、あるいは義務年限途中の離脱というようなことがございます。
次の10ページをお開きください。ここにお示ししていますのは、五島医療圏、新上五島医療圏、対馬医療圏の三つをあわせています。ここに現在、病院企業団として94名の医師を配置していますけれど、そのうちの40名が、いわゆる地域枠と言われるような長崎県の奨学金をもらっている方と自治医大の方が、この40名のうち43%でございます。上五島医療圏では70%の方々が、それから対馬医療圏では57%の医師が、そういう県独自の、あるいは自治医大の奨学生で占めているわけでございます。
ここで見られますように、ここは専門医とは書いてございません。専門医をとっているわけではございませんで、いわゆる標榜(ひょうぼう)医、自分は外科だ、内科だと言っている標榜(ひょうぼう)医がちゃんと充足されてきそうなのは、内科、外科、整形外科、小児科まででございまして、その他の専門になりますと、どうしても大学その他の派遣が必要ということになってきます。
それから、問題は、やはり県の奨学生が奨学金を返して義務年限を回避するという問題でございます。下の表にございますように、150名の長崎県奨学生の中で64名が全額返還ということをしているわけでございます。これが40年の集積でございます。それから、自治医大生は96名中7名でございますから、自治医大生と、県独自の養成医では、自(おの)ずからモチベーションの差が違ってきているというところでございます。
11ページをお開きください。11ページの上段に示しています。では、全額返還の理由が何かということでございます。返還率を見ましても、医学修学生の場合はトータルで42.7%の返還と、自治医大が7.3%の返還ということになっているわけでございます。したがいまして、こういう返還率の最大の理由は、下に書いてありますように、専門医志向が途中で強くなりまして、この奨学金で決められた地域に行かれると専門医が取れないということで、大学その他に帰りたいというようなことが出てくるのが、この一番の理由でございまして、それから成績不良、医師免許が取れなかったというのが出てくるわけでございます。その辺、自治医大では一つのモチベーションで、これを在学中の団結意識の中でやっていきますからいいのですけれども、一般大学の中での地域枠、奨学生になりますと、どうしても仲間内の中でこうしようとか、医局からの呼びかけで、そんなのはすぐ返せるよというような医局関与などで負けるということが非常に多いということでございます。
それから、下のスライドでございます。平成18年7月28日、矢崎委員会の結論、病院勤務医の勤務環境の改善なくしては、また病院と診療所の役割関係を整理しなければ、単にマクロの医師数は充実するとしても、将来にわたって国民の求める質の高い医療を安定的に供給することは困難であるというふうに出ています。全くこのとおりの意識の中で、平成16年から長崎県では、この改革を続けてきたわけでございます。ただ、この矢崎結論の中で、平成19年12月に総務省が公立病院改革ガイドラインを示しまして、都道府県の公立病院改革プランを示し、再編ネットワーク化と経営形態の見直しということで、これで非常に進んできたというふうに私は思っています。これは5年以内というふうに書いてありますので、平成25年には完成しなければならないところでございます。
そこで、このスライドでございますけれども、長崎県では基本計画をつくりまして、人口50万人に1か所、3基幹病院を置きまして、その基幹病院に救命救急センター医師養成機能を完備した基幹病院をつくる。その次に、2番目として二次医療圏に1か所ずつの公的地域医療の確立を図る拠点を起き、それから、3番目は独自でございますけど、6人未満の施設は診療所化とありますけど、実際は3人未満の病院は診療所化して、医師の勤務環境を改善するということを決めたわけでございます。
これによりまして、何も医師数が浮くわけでございませんで、ここは旧態依然として昔の「おらが病院」があるわけでございますけど、そういうところを地域中核病院にいたしまして、医師をそこにまとめまして診療所化したら、そこに派遣するという格好をとって、ネットワーク化を図っていったわけでございます。
12ページ目をお開きいただきたいと思います。最後のページでございます。これ、ちょっと見づらい表で恐縮でございますけれども、最後に黄色い1行がございますけど、そこを見ていただきたいと思います。25の自治体病院を平成26年までに13病院へ編成いたします。ただ、既に6病院が診療所化になり、4病院が2病院へ新築統合中でございます。残る5病院の改革が今進行中で、体系化を図っていくということでございます。
まとめの中でも申し上げましたように、最後のスライドが示しているとおりでございまして、まずは受入れ体制をしっかりしないと、今のような機能が分化してない中で医師を増やしても、先ほどのCグループのような感じの医師のぼやけた増やし方といいますか、機能が充実しないような増やし方におさまっていってしまうのではないかというふうに感じています。
以上です。
【安西座長】 ありがとうございました。お急がせして申し訳ありません。何か特に御質問等ありますでしょうか。
【片峰委員】 矢野先生の御意見は、前からお聞きして重々分かっているのですが、自治医大の学生さんと長崎大学などの普通の医学部に入った地域枠の学生との差の話ですけど、一つは、恐らく入ってくる学生のモチベーション自体に差があるという観点が一つあって、もう一つは、先生が言われたように、在学中の教育の仕方、特に一般大学においては、なかなか差別化した教育ができていないという点があると思います。もし後者であれば大学が今後きちっと差別化した教育をやれば改善する可能性は十分にあると思うのですけど、そこらに関する御意見はいかがでしょうか。
【矢野右人氏】 現在は、地域枠が非常にしっかりした規模の中で行われているのですけど、今まで、この40年、長崎県でやってきたのは、各大学に応募してこられた方で、大学単位としては、そういう教育は全く行われていないわけでございます。その中で、面接をしてみますと、そういう学生さんは、どうも奨学金をもらっているということを余り表に出したがらない。むしろ隠したいというところがあって、自分たちが少数派でこそこそしているような感じを受けているのです。どちらかというと、モチベーションではなくて、逆にもらっていることを余り公表したくない、引け目を感じているというようなことでございますので、これからは今までの私たちのデータとは、やや違ってくるのではないだろうかというふうには考えています。
【安西座長】 ありがとうございます。
【今井委員】 大変御努力されているのはよく分かりました。広さの議論は前からしておりますが、やはり長崎の場合は、今、離島のお話で、ある一定の広さとか困難性というのがあるのはよく分かりますが、東北、北海道、つまり東側の方は、更にその面積が広くて、したがって今のような病院を少し集約化しようとか、そういうのはお気持ちとしてはよく分かりますが、現実には、そこに人が住んでおりまして、その間も交通機関が余りないというような状況、それから雪も降るわけで、ドクターヘリというものも、もちろん少しは役に立ちますが、余り精神的なサポートになってないということで、かなり東と西の違いもあるのかなとお聞きしておりました。コメントでございます。
【矢野右人氏】 この間も北海道の県議の方が見学に来られたのですけど、広さから言いますと、対馬から五島、それから島原を含めますと、長崎の面積は北海道と余り変わらないのです。北海道は陸続きだけど、うちは海の上をこうやっていかなければいけないから、広さだけという、真ん中に人が住んでいらっしゃることは分かるのですけれども、それ以上に真ん中が海というのは非常に苦労しているところがございます。
それと、もう一つ、3人の病院が成り立つか。北海道では40ぐらいあるのです。3人の病院で、3人の医師で守れるか、24時間守らせる。これは不可能であるという前提に立って医師を充実させていかなければいけないと思っています。
【安西座長】 ありがとうございました。後で全体的な質疑の時間はとらせていただきますので、よろしゅうございますか。
それでは、移りたいと思います。2番目に岩手医科大学学長の小川彰先生に、やはり20分程度でお願いを申し上げます。よろしくお願いいたします。
【小川彰氏】 今日は、「医師養成増は医療崩壊を救うか」ということでお話をさせていただきます。
本日のお話の内容につきましては、論点整理で6点に絞らせていただきました。
第一点は「医師養成増減の現状」です。昭和40年頃、これは新設医科大学ができる前でございますが、定員は3500でございました。その後、医科大学の新設によりまして、最大で8280名となり、その後、医師養成に関して削減をするという閣議決定が行われましたけれども、閣議決定によっても、最終的には8%の削減しか達成できなかったという過去の実例がございます。したがって、定員の削減というのは極めて難しいのだということを言いたいわけでございます。
定員7625名から国が大変英断をいたしまして、医師養成増に舵(かじ)を切ったわけでございます。平成20年から7793名、8486名、8846名、そして、今年は8923名と、この4年の間に1298名の定員増が行われました。1大学の平均が、平成19年当時95名でございましたので、14大学を新設したのと1298名の増は同義でございます。したがいまして、この4年間に全国で80大学ある医学部でございますが、それに平均で言えば14大学を新設したというのと同じ効果をもたらしたわけであります。
第二点目は、「医師増による病院医療崩壊」の危惧です。これは厚生労働省の3師調査でございますが、総医師数は28万名、病院の従事者12万名、それから医育機関の従事者4万6000名、そして診療所、これは開業医でございますが、9万7000名、そして、その他行政職など1万4000名に分かれております。
そして、医学部の定員を増やし、かつ、教育レベルを維持するのであれば教員を増員しなければなりません。教員を増員するのであれば、病院従事者を充てる以外にないというのが実情でございます。
さて、現在の医育機関の教員は4万6000名、そして現在、6学年分の全国の医学部在学生が約4万5000名でございますので、医学生1名に1名の臨床教員を必要とするというのがお分かりいただけるかと思います。
現在、1学年1298名が増えておりますので、これが6学年まで到達すれば7788名増えることになります。教育レベルを維持するのであれば、現状もいずれ8000名近い教員増が必要となるということがお分かりいただけるかと思います。
さて、それでは教員候補者というのは、余りに若い方では駄目ですし、高齢者ではだめですし、そうしますと教員候補者というのは三、四十代の病院勤務医でございますから、この30代、40代の病院勤務者が12万7000名の中にどのぐらいいらっしゃるかといいますと、7万1000名でございます。先ほど申し上げましたように、今現在の必要教員は数だけでも8000名に達するわけであります。医学教育を維持するために三、四十代の病院勤務医7万名の病院勤務医から8000名の教員を充当すると、11%の病院勤務医を減らして教員に充当する必要があることになります。
地方で、地域中核病院の、そして働き手である三、四十代の病院勤務医の1割強を大学に移すということになりますと、1割強がいなくなるわけでありますから、大変なことになります。その中で一つ、厚生労働省の3師調査の最近のデータで恐ろしいことが明らかになりました。平成12、14年、このあたりから30代の病院勤務医が激減をしております。これは臨床研修制度の影響でございます。したがって、医学部の定員増は医療崩壊を食いとめるために行っているわけでありますけれども、現在、医学教育には手がかかるようになった。したがいまして、定員は増えたということに関しましては、それに見合った教員増が必要となります。
教員候補者は、三、四十代の病院勤務者を中心とするしかないとなりますと、この方々を病院から抜けば、地域医療の病院医療の崩壊は加速をするという逆説的効果を生み出すことになります。
さて、次に第三の論点としてあげたいのは、「国民の求める医師養成になっているのかどうか」ということでございます。1960年には、18歳人口は240万人でした。2010年、昨年でございますが、18歳人口は120万人、220人には80万人になると予想されております。1960年には、医学部定員は3500名でございましたので、そして2010年には、約9000名近くになったということになりますから、1960年には690人の18歳の人口に対して1名の医師養成、2010年には135人に1名、2030年には90名に1名ということになります。
そうしますと、現在、問題となっておりますのは、大学全入時代が来ている、学力低下だと。ゆとり教育世代の入学でスタディースキルが未成熟、精神的・社会的に未熟な学生が増えているという中で、18歳人口が激減している中、医学部入学定員だけ増やせば、どんどん広き門になるわけでありますから、そうしますと有能の医師養成ということからいたしますと、国民の求める医師養成になるかということになります。
さて、第四点目として「世界一の医師数の到来」についてお話しします。医師数はどのように増えてきたのでしょうか。これは2007年のOECD30カ国の医師数でございますが、国が目標としているのはOECDの平均が10万対300、1000人対3でございます。しかしながら、日本は確かに27位でございますが、G7の平均では、10万対280名ということでございます。日本は、27位で10万対210名でありますが、昨年末では230名を超えるまで来ております。したがって、増えてきているということだろうと思います。
これは厚生労働省3師調査から医師数の年次推移を見たものでございますが、年に10万人当たり3.5人ずつ現在増えております。これは昭和57年から平成20年までの厚生労働省3師調査の医師数の年次推移でございますが、これは卒業生が定員増の影響を受けていない段階でございます。年に10万人当たり3.5人ずつ医師数は増えているというのが現状でございます。
そうしますと、300名という目標に達した後に医師養成をどうするかということを考えますと、現在年4000名ずつ医師は増えている。そうしますと、将来的には医師数目標が確保された後には、約4000名弱の医師養成で均衡に達するということになるわけであります。したがって、80大学で4000名の医師養成ということになりますと、1大学50名定員の時代が近々来るのだということでございます。この中で、現在の80大学でも現在1大学120名程度の定員でございますが、それを半分以下に減らす必要が、近い将来訪れるということを御認識いただきたいと思います。
さて、今後の医師数予測をしてみました。現在2010年といたします。この四角いものが2020年から、この間の増員の前の定員に戻した場合、最近の4年間の定員増をそのまま継続した場合が黒丸でございます。そうしますと、2050年には400名という世界一の医師数の国になるということになります。国が目標としているのは、10万人当たりの医師数300でございます。平成10年の末には10万人当たり230人に達したはずであります。そして、昨年、厚生労働省が行いました必要医師数実態調査というのがございます。そのデータには2種類の医師数養成実態調査で、今すぐ必要な医師は何名かという問いかけと、将来何名必要かということを病院長に問いかけているわけでありますが、将来何名必要かということを含めた必要医師数にいたしましても、2016年には、これに達する予定です。さらに15年後の2025年にはOECDの平均、すなわちG7の平均以上、OECDの平均までは医師数は増えるということをご認識いただきたいと思います。
さて、医学部の教育というのは6年間でございますから、卒業生を減らすためには、その6年前に定員を減らしておかなければならないということになります。そうしますと、2020年ころには定員を削減しなければなりません。10万対300名からどんどん、いつまでたっても増えていくという時代になるわけでありますから、300を維持するのであれば、2020年ころには定員を削減して、先ほどの1大学50名程度の定員まで削減をしなければ、いつまでも増え続けるということになるわけでございます。
さて、第五の論点として日本の現在医療レベル「日本の医療は世界一」について論じます。日本の医療を見てみたいと思います。これはWHOのデータとOECDのヘルスデータとカナダのデータを重ねたものでございますが、右上がWHOのデータでございます。世界二百何十か国のデータがずっと並んでございます。ここに日本があるわけですが、健康レベルは1位、そして総合目標達成度は1位、これは米国が24位で、こちらの総合目標達成度は、米国は15位でございます。
左下はOECDのヘルスデータ2007からとってきたものでございますが、左側が脳梗塞入院30日以内の院内致命率とありますが、OECDの平均が10%に対して、日本は3.3%と、世界一の質の医療提供をしている。結腸直腸がんも世界一でございます。
右下にございますのが、Conference Board of Canadaのデータです。実は、これはアメリカに対してカナダがどれだけ優れているかということを主張したくてカナダがつくったデータでございます。平均寿命、死亡率、がん、それから循環系疾患、呼吸器系疾患の障害、そして乳幼児死亡率など、11の基準で医療を総合評価したものでございますが、これは、そういう意味では、世界のデータを横に並べたデータとしては一番最近のもので、2009年に発表されました。
この中でお分かりいただけますように、日本の総合評価は1位でございますし、カナダが10位、そして米国が16位と最下位でございます。この米国に対してカナダがこれだけいいのだということを主張したいためにカナダがつくったデータでございますが、これが日本の医療が世界一であるということを証明することにもなっているわけでございます。
そういう意味で、先ほど矢野先生がお話になりましたように、医師養成も医療制度の変更も緩やかに進めていただかないと大変なことになります。現在、医師数が足りないとは言ってはいるものの、世界一の医療レベルと評価されている日本の医学医療を誤った方向に導くことだけはやめていただきたいということでございます。
さて、最後第六の論点でございますが、「適正医師数の仕組みの欠如」ということでございます。大学設置基準は、認可ルールが外形基準であります。基準に合った申請は、拒否できない状況になっております。それと、もう一つ大変重要なものは、医療人のような高度専門職の養成に対して適正な養成数への変更が不可能な仕組みになっていることが問題なのです。
したがって、結論の一つは喫緊の社会的問題は有能な医師養成である。しかし、数合わせではないということ、それには相当の教員が必要であるということ、有能な病院勤務医を充てるしかないということ、これを進めれば、医師養成増はかえって医療崩壊を増悪させる可能性があるということ。
長期的に見ますと、早急に世界最多の医師数にまで到達し、圧倒的医師過剰の状態に到達する、それから、定員の削減は極めて難しい、設置基準上、定員削減のルールがない、適正な養成数への変更ができないというルールの中でやっていることだということを御理解いただきたいと思います。
したがいまして、先ほど矢野先生もお話になりましたけれども、ただ単に定員増だけの問題、そして医師を増やせばいいかという問題ではない。要するに、地域間偏在を、先ほど議論になりましたけれども、これをどうやって是正をするのか、診療科間偏在をどうやって是正をするのかということこそ、議論をする時期に来ております。最後の結論は定員増や新設に関することを議論する時期は終わり速やかに「地域偏在」「診療科間偏在」をどのように是正するのかの仕組みこそ議論すべきと感じております。
そういう意味で、医師養成増につきましても、地域医療に、あるいは病院医療に影響を及ぼすことのない、あるいは世界一の日本の医療レベルに影響を及ぼすことのない緩やかな激減緩和の養成を行っていただきたいということを切にお願いしたいと思います。
ただいまお話をさせていただいたことに関しましては、『新医療』の「私の提言」というのと、「必要医師数実態調査で明らかになった今後の医師養成の在り方」という論文の中に書いてございますので、御参照いただければ幸いでございます。
以上でございます。ありがとうございました。
【安西座長】 ありがとうございました。何か特に御質問、御意見ありますでしょうか。
【山本委員】 大変すばらしいお話、ありがとうございました。最後、地域偏在の是正というものをきちんと議論しなければいけないということをおっしゃったのは、私もそのとおりだと思いますし、それは恐らくは、ここで大学の定員を増やすか、増やさないかという議論の中での目的になるのではないかと思っています。ですから、数だけの問題をここで議論することではないだろうという点で賛成いたします。
それから、もう一点ですけれども、先生、今日のお話の中で、研究者のお話がなかったのですが、もともとの話で出てきたのは、やはり今の大学が若手の研究者が非常に少ない。こういう人たちをどうやって養成していくのだということが一つの課題で出ていましたが、それについての御意見、先生何かございましたら、お教えいただきたいと思います。
【小川彰氏】 ありがとうございます。基礎の医師、日本の世界一の医療を支えてきたのは、実は医学部卒業生の基礎医学者がいたという、これが支えてきたと私は思っております。このスキームを壊してしまったのは、実は臨床研修制度でございます。というのは、臨床研修制度でなぜそうなったかといいますと、臨床研修医を終わっていないと院長先生になれない。院長というのは開業医も一人院長でございますから、そうしますと、例えば自分は生理学に非常に興味がある、生命科学に興味があるという学生がいたとしても、将来、講師ぐらいにはなれるかもしれないけども、一生研究で飯が食えるかということになります。やはりどうしても臨床医にどこかで逃げる道をつくっておかなければならないということで、結局、卒業してすぐに基礎医学の教室に入らないで、やはり臨床研修医に行ってしまう。臨床研修医に2年間行ってしまっているうちに、すばらしいモチベーションを持っていた基礎医学に対する興味が薄れて、そして結局、基礎医学に戻ることがないという形になってしまった。大学病院におきます基礎医学の志望者の激減という事実は、データとして臨床研修制度の導入と時を同じくしておりますので、これは間違いのないことだと私は思っております。
【安西座長】 ありがとうございます。ほかにはよろしいでしょうか。
それでは、3番目に移らせていただきます。東京大学医科学研究所の上昌広先生から、やはり20分程度でお話を伺いたいと思います。後で全体の討論はさせていただきます。よろしくお願いします。
【上昌広氏】 よろしくお願いいたします。東大の上でございます。
配付資料の、今日は3点の論点を議論したいと思います。
次、お願いします。一つ目は、2008年、どうしてこんな医師不足という議論が出てきたのだろうかと。これは、私は福島県立大野病院事件が原因だと思っているのです。実は、それまでは医療ミスとか医療過誤とかやたら出てきていたのが、この事件をきっかけに、一面、「医師逮捕」、「心切れた」「お産難民、深刻に」、「分娩施設 実態は3000か所」。実は、「分娩休止」という新聞記事を当研究室のスタッフが数えました。2006年から急増しております。「医療崩壊」というのは2007年から急増しています。新聞というのは世論の反映ですから、ある意味2007年の段階で、この国の医療は崩壊しているのだと、国民がコンセンサスを持ったと思います。
その後、東京でもたらい回しが発生しました。武蔵野の方と江東区、墨東病院ですね。そちらで発生いたしました。何だ、東京ってお医者さん余っているのではないか。ところが、あにはからんや、そんなことはなかったのです。
これを受けて、2008年、当時の舛添要一厚生労働大臣が安心と希望の医療確保ビジョンの具体化に向けてを発足させる作業委員会、舛添ビジョン改革というのを出します。メンバーは、この方々です。この中で言われたことは、年限を区切って医学部定員を50%増やしましょう。8000人を1万2000人に提言しました。ちょっと驚きますけど、このメンバーの中に、前言を撤回した方が何人かいらっしゃるのですが、研究者たるもの、意見を変えるときは、ちゃんと説明してほしいと思っております。
とにかく、この会議というのは大野病院事件、それから救急車のたらい回しを受けて、医者が足りないがコンセンサスとなって、こういう会議と提言となりました。それまでの提言というかコンセンサスです。これは読売新聞の2008年の記事、舛添会議がやっている横の記事です。どうやら自民党の中でいろいろあったのでしょうね。臨床医の医師数はどんどん増えていく。必要医師の数は決まっている。だから、やがて足りるのだ。2022年度で逆転する。もう要らないと。私は、これに関しては全くナンセンスだと思っています。なぜなら、このときに足りないと考えられたのは勤務医です。
ちょっとその前に、これは今日の議論で、是非シェアしていただきたい共通の認識ですが、日本のお医者さんは2.1でも2.2でも、1000人当たり約2人です。先進国は基本的に日本より多いです。これを二つに分けてお考えください。アングロ・サクソン系諸国、アメリカ、イギリス、オーストラリア、ニュージーランド等は約2.5です。猛烈に医師を増やしています。大陸系諸国、ドイツ、イタリア、フランスは3.5です。ここも増やしています。ナース・プラクティショナー等の規制緩和が行っているのが、アングロ・サクソン系諸国です。日本は、いずれと比べても少ないです。アングロ・サクソン系諸国よりも少ない。日本より少ないのは、当時三つ。メキシコ、韓国、トルコ、1.8、1.6、1.5です。
この数字、是非頭に入れていただきたいのですが、先ほどの読売新聞の記事、論調が、私が嘘(うそ)だと思うのは、これです。若い医者、勤務医というのは、先ほど小川先生も若い人だとおっしゃいましたが、確かに私もそう思います。私も、当直きついです。44歳以下は、もう増えません。舛添さんの会議の前まで、これは幾ら待っても医者は増えず、増えるのは管理職以上が増える。国民は、勤務医を増やしてほしいと言いました。たらい回しですからね。勤務医を増やすためには、開業医の先生が病院で働くか、あるいは若手の医師を増やすしかありません。前者の場合は、ドクターフィー制度、後者の場合は医学部定員の増員となります。このあたりのコンセンサスが2008年です。
今日、御来席の新木課長、これは着実に実行されたと思いまして、非常に敬意を持っておりますが、2008年の要点というのは、問題は勤務医の不足であると。現行の医師のキャリアパス、アメリカのようにオフィスを持って、開業医の方が勤務医もやるというような状態でなければ、勤務医不足は永久に解消しませんでした。自治医大さんのような新設での1期生が勤務医を辞める年代になれば、もう永久に増えませんから、その方々が増える。要するに、開業医さんが今後増えます。
二つの解決策。いずれも先ほどの舛添さんのビジョン会議で提言されています。ドクターフィーは動きませんでしたが、医学部定員は動きました。
ところが、昨年になって、これは全く私の個人的見解ですが、どうやら国民のコンセンサスが変わりました。格差という問題が非常に考えられるようになってきたのです。もう一つは、民主党が政権をとっても、どうやら財源は出てこないことが分かりました。ですから、お金は国にはない。何とかしなければいけない。
これは、昨年の厚生労働省の医師不足調査です。新聞は「偏る医療」「県内格差も・求むリハビリ・救急医」、診療科の格差も、要するに格差という問題を非常に重視しました。私もそのとおりだと思います。問題は、我が国の東西の格差について議論されていないことです。これは都道府県の医師数、ちょっと古いのです。平成16年ですが、濃いところが、お医者さんが多いところ、薄いところが少ないところです。明らかに西高東低です。先ほど長崎県では、壱岐地域は少ないと言いましたが、壱岐地域は東北地方の平均値です。むちゃくちゃひどいと言われた五島列島は千葉、茨城、埼玉の平均値です。これは困りましたね。
なぜこうなったのか。これは医学部が西に多いからです。東京は、医者が多いと言われます。東京の人口は1300万いて、13の医学部があります。ちなみに四国は400万で4個、中国は757万で六つ、九州は1400万で11個。少ないのは関東圏です。千葉県620万に一つ、埼玉県720万、防衛医大を入れて二つです。それは、これだけ格差があれば西に増えますよね。なぜ西に多いのか。私はこういう大学、古い大学の配置が決まってきたのが、おおむね明治から戦前にかけての、この国の近代を担った時期だと思っています。薩長(さっちょう)のリーダーたちが自分たちのところにつくったのだと考えています。
例えば、帝国大学・ナンバースクールを示しましょう。愛知県より東は、東京と仙台と北海道しかありません。東京は、当然、薩長(さっちょう)の方々がつくった町、北海道も薩長の方々が行きましたね。サッポロビールは薩摩がつくりました。となると、全く関係ないとこは仙台に1か所だけとなります。それは、これだけ格差があれば人材格差が生まれますよね。菅総理、麻生総理、鳩山総理、全て西日本です。2人以上の総理大臣を出した東側は、岩手県と群馬県しかありません。九州地区で総理を出してないのは、長崎と宮崎しかありません。恐らく、今日御来場の方々も九州の方は多いのではないでしょうか。私は、ちなみに神戸です。
東大の合格者です。うちの学生がしこしこ数えました。人口当たりの東大合格者が一番多いのは東京です。6.3、多いですね。次は、何と四国と九州なのです。神奈川県の人口当たりの東大合格者数は、何と九州、四国より下です。茨城、埼玉、栃木、群馬、千葉を足した東大合格者数よりも、九州の数の方がはるかに多いです。これ、かなり衝撃的だと思うのです。
ちなみに、昭和50年以降、高校野球で公立高校が優勝したのは、四国、九州、中国しかありません。昨年度のスポーツ、野球、ラグビー、駅伝、バレー、全て九州が優勝しました。実は、今考えなければいけないのは、この国は地政学的に中国に近いところが豊かになりやすい構造を持っているのです。地震があって西に資源が動くでしょう。このままにしておくと、恐らく東北、東日本は、私はじり貧になると思っております。
では、東西格差という問題は、この機会に是非お考えいただきたいと思いますが、もう一つは地域内の格差がございます。もちろん長崎県のように医師が非常に多い地域にも格差があります。深刻なのは、このような大きな県です。愛知県、人口740万人、5200平方キロ、70キロ四角だと思ってください。この国は、もともと尾張と三河からなります。全ての医学部が尾張にあります。尾張地区は、このように赤かったり、ピンクであったり、大陸系ヨーロッパ諸国並みにお医者さんがいます。ところが、なぜここにないか。私は尾張の最後の徳川慶勝さんが、真っ先に官軍に寝返って全国を転戦したために論功行賞があったのではないかと考えておりますが、この地区は、お金はいっぱいあります。トヨタさんがいて、自治体は極めて豊かです。ところが、お医者さんはなく、たらい回しがしばしば報道されます。こういう大きな街は、名古屋市から医師を強制派遣する程度では片づきません。
徳島県です。徳島県は、人口78万人、面積は4100平方キロ、60キロ四方ですね。このように青の系統の色は全ての地域でございません。このような地域の偏在と、先ほどの地域の偏在を一緒に議論することは、恐らく科学的にナンセンスです。徳島大は、別に歴史が古いわけではありません。戦中の医専から発達しています。ところが、このように県が小さい、面積が狭いために、どんどん医師が蓄積されてきました。
茨城県、真っ青です。水戸市がようやく緑です。こちらは人口297万人、6100平方キロメートル。ここは、もともと幕末の雄藩である水戸藩がありましたが、水戸藩は一旦お取り潰しといいますか、学校は弘道館というのがございましたが、最後は戦争して焼け落ち、そこが学校として復活するのは、何と1920年まで待たなければなりませんでした。茨城大学には医学部がありません。できたのは1973年、筑波大が移転してからです。箱根と取り合ったというのは有名ですが、このように、ある特定の時代の中でのパワーバランスが医学部の配置に影響している可能性があります。
千葉県、このように真っ青です。ところが、1か所だけ大陸系ヨーロッパ諸国並み、アメリカぐらいですかね、あります。鴨川の地域です。御存じ、亀田総合病院があるからです。このような地域は、やっぱりこのままにはしておけません。鴨川では、患者が増え過ぎて、入院受入れは支障が来したと、今年の1月に報道され、かなり千葉県民の不安を誘いました。
ちなみに、東京都です。東京都は、このように極めて偏在の激しい地域です。色づかい、これだけ違います。緑が全国平均を下回る200人以下、2.0以下です。東京の面積の大部分は医師数が不足しています。この真っ赤っかになっているのは、明治年間に開発された地域。東京に関しては、大正期に震災があって、大正、戦前は、病院は建っていません。大型病院はゼロです。戦後の復興期に、東急線の沿線、あるいは東武線、西武線の沿線に開発されます。この中央線沿線に人口が増えたのは、昭和の高度成長以降なのです。そのような地域に病床規制がかかったため、杏林大学の周囲だけ多く、あとは青です。この地域と、この地域において、たらい回しが起こりました。冒頭のスライドです。
偏在に関する総括です。我が国の医師は、偏在しています。医師の偏在は、医育機関の偏在と関連しています。愛知県の事例、あるいは茨城県の事例を見ても、医育機関の偏在と関連しています。東京ですらそうです。医育機関の偏在は、近代日本の歴史を色濃く反映しております。
ところが、各地域で考えることが違います。これは関東圏、あるいは愛知県、静岡県には極めて豊かな自治体がたくさんあるということです。財政力指数をざくっと、これは支出分の収入です。例えば、武蔵野市は一般会計570億持っていますが、財政力指数は1.7、神奈川県の厚木市は754億、成田市は570億あります。こういう地域に関しましては、恐らく国より、かなり豊かに予算を使えるでしょう。こういう地域におきまして医学部をつくりたい。お医者さんの数は、先ほど申しましたようにブラジル以下、メキシコ以下です。皆さん、お子さんがメキシコに行くときは危険だと多分言われると思うのですが、千葉県成田に行くことは、殊、医療の面においてはメキシコより指数は少ないです。こういう地域において、お金もあります、医学部もつくりたい、こういう方々が出てきております。彼らにないのは、運営するノウハウです。こういう地域においては、海外からの医科大学を誘致するような声も上がってきております。当然、一つの考え方だと思います。
三つ目です。今年になって、3.11で起こったこと。これはやはり災害に強い国、大災害が起きたときに医療をどうするのかという議論が出ました。岩手県です。岩手県は、先ほどお示ししましたが、基本的に青です。盛岡周辺が赤くなっています。もう一つは、ほぼ120キロ四方の四角です。もう一つ、山があります。大きな山があって、なかなか移動できません。災害が起こりました。岩手医大は、歴史が古いのです。1901年、私立岩手医学校を一旦廃校後に再開します。ですから、岩手は確かに地域医療としては東北の中ではレベルが高いと思います。
宮城県、235万人いて、7300平方キロ、85キロ四方です。大部分が青です。ここに大災害が起こりました。
福島県は、暖色系は1か所もありません。人口203万、約120キロ四方です。私は、今回の震災以降、御縁があって相馬市に入っております。相馬市は、ここに原発があって道路が通らないため、こうやって行きます。福島県福島市と福島西インターから南相馬まで行くのは約2時間かかります。相馬市に行くのは、1時間半強かかります。この浜通り地区は、阿武隈山地によって、ほぼ交通は遮断されています。昨日、山口県出身の大学院生と一緒に行きました。「これはあり得ないですね」と。山口でしたら、高速道路と片側2車線の高規格道路と一般国道の3本が走っています。こちらは、中央分離帯がないような国道が一本でつながっている場所があります。
こちらの部分で震災後どうなったか。原発30キロ圏外の病院、今20キロ圏外になってきましたが、そこにある大きな入院ができる病院は、今、鹿島厚生病院、南相馬市立病院です。南相馬市立病院は約250床です。医師は、現在4名しかいません。院長1人、副院長2人、常勤1人です。福島県立医大の非常勤の先生方は、いろんな理由があって、全員お帰りになりました。常勤医も辞めていかれました。彼らが、次、余震が来たとき、災害が来たときに現場を守ります。現場から逃げなかった方、地元の開業医の先生方です。開業医は逃げられません。地域に根差しています。それから、病院の幹部以上の方々が逃げませんでした。
よく新聞では、この震災を契機に医療を集約すべきかと言います。それは机上の空論です。なぜかといいますと、がんとかお産は、もう既に集約化しています。常勤の麻酔医は、浜通りに今いません。お産の常勤医も、今いません。相馬に1人来るという話はあるのですが、いません。どういうものが集約化できないか。脳卒中です。脳卒中は、発症してから、夜はヘリコプターも飛びません。片道2時間もかけて運んでいって、また帰ってくる。これでは、さすがに無理です。震災から1カ月の間に、この浜通り地区には、少なくとも40名の脳卒中患者が出て、適切な治療を受けられていません。この地域が、今後、災害をまた受ける可能性があります。集約化できるものは、現地は既に集約化しています。集約化できないものがあるのです。この浜通りだけで人口が、いわきを外して20万を超えるのです。こういう地域に人口当たりの医師数が、被災後に0.5以下になっています。この現状を何とかしないといけないと思っております。
北海道です。北海道は、面積がべらぼうに大きい。四角と考えると、一辺300キロメートルとお考えください。大部分のところに人が住んでいて、多くの部分が青です。そして、連携や集約はできません。このような函館とか根室の方、こちらの地域に関しても、こういう問題は起こしております。
未曾有の高齢化を迎える日本、人口問題は、よく人口が減って、医者が増えるから足りると言います。問題は、こちらです。高齢化が急速に進みます。医師1名1労働時間当たりの人口数です。2010年日本、現在は7.19です。2035年は、これが4.77になります。医者が余るぞと、そういう見方もできます。ところが、高齢者が増える。1.66、1.60、これも大した変わりません。ところが、総死亡者数となってくると、実は今のペースで医者を増やしても、今より10%増えます。さらに、現在の80時間働いている状態を48時間にすると、2035年に倍必要になります。後期高齢者の数は、労働時間を制約しなくても、今より50%増えます。ですから、大学病院で診るような患者は、多くはお看取(みと)りの患者になってくるはずなのです。この状況に合わせてやらなければいけません。
どういう地域が足りなくなるか。これは横軸に人口、縦軸に足りない度です。埼玉、千葉、神奈川、愛知、このような大型の県です。それから、さっき申し上げました東北地方は、200万人いる県が二つあります。
私の結語です。医師の総数が不足し、かつ偏在しております。我が国の大きな偏在は、東西の偏在です。医師不足地域において、高齢者の死亡が恐らく急増いたします。このような地域に医師をどうやって供給していくか、私は医学部新設という方法は一つの候補だと思います。様々な地域、これは全て戊辰(ぼしん)戦争で負けた地域が、医師の極度の不足に陥っております。
御清聴ありがとうございました。
【安西座長】 ありがとうございました。ただいまのプレゼンのことで、何か特に御質問、御意見いただければと思いますけど。――よろしいですか。
それでは、今日は16時半まで、2時間半ということに決めておりますので、そこまでやらせていただきます。御自由に御発言いただきまして、意見交換にさせてください。
今の三つのプレゼンテーション、非常に貴重な御意見を頂きました。そのことへのいろいろ御質問、御意見も踏まえてということにさせていただきます。どなたでも結構でございます。また、プレゼンテーションしていただいた3人の先生方も御発言いただければと思います。
【中川委員】 お三人のお話を聞いて、小川先生の最後の14ページの医師の地域間、診療科間偏在システムを議論すべきと、これに尽きるのではないかと。上先生のお話を聞いても、そう思いました。やっぱり西日本と東日本の違いは、よく分かりました。その上で申し上げたいのは、この偏在解消システムをどうするかということに尽きるのだろうと。そこで医学部新設というのは、飛び越した議論かなと私は思っています。その理由は、やはり医師過剰という問題をどういうふうに考えるのかと。将来に責任を持った議論をするために、何度もこの会でも申し上げていますが、歯学部のことで学ばなければならないのではないかと。定員割れだとか、偏差値のつかないところ、偏差値が30台の大学がたくさんできていると、そういう事態に陥っては大変なことになるのだろうというふうに思います。今の時点では、そういう感想を持ちました。
【安西座長】 ありがとうございました。
【西村委員】 小川先生と上先生に、質問を申し上げます。相互に関連はしておりますが、全部は関連はしておりません。
自分の経験を先に申し上げますが、私、先だってまで京都大学で教育担当副学長をやっておりました。医学部とほかの学部の教育の体制の比較という観点から、ちょっと分からないことがあるので、是非教えていただきたい。
先ほどおっしゃったように、新しい分野を教育しようとすれば、教員がいないというのはやむを得ないことで、教員が必ずいるところだけを教育するというわけにはいかないということ、それを先に申し上げた上で、私の印象、本当に直感的な印象で、間違っていたら、是非訂正願いたいのですが、医学部における教育とほかの学部における教育に関しては、ちょっと面白い特徴があって、これは医学部の固有の問題であるというふうにお考えになるかどうかということを聞きたいのですが、やっぱり教授、あるいは准教授を中心とする、わりとチームでいろんな教育をするという特徴があります。工学部もそうなのですけど、私から見ると、ほかの分野の方、ノンメディカルの工学部、もちろん連携をやっておられますが、今の医工の連携は、特定の目的のための医工連携の教育であって、一般的な医学部教育という意味で、私は理工系の先生方、あるいは一般教養の先生方をもっと上手に活用できるのではないかという印象を持っておりました。
それはどうしてかというと、小川先生の話、ある時期まで増やす必要があるが、その後、困るという話は、大変説得力があると感じております。しかし、ちょっと失礼な言い方ですが、自動的に教員の数と学生の数を比例的に考えるという発想では、先生の御心配のように大変なことが起きます。しかし、基礎医学研究者を増すという方向を視野において考えることは、結構意味があるのではないでしょうか。基礎医学の方に関しては、やっぱり別の明確なキャリアパスを示さないと、心配なのです。院長になれるというようなキャリアパスを考えると、そういう選択をしないということは、はっきりしているわけです。しかし、むしろ理学部の方等々、一緒に教育を受けるということになると、狭い意味の医師、狭い世界の自分のミッションを少し広く考えることができるのではないかというふうな印象を持っておりまして、そういう観点から先生のお話のうち、今の教育の在り方の教員の数というところには、若干工夫の余地があるのではないかという質問でございます。
次の上先生に、質問申し上げますが、先生の話は、かなり細分化した、従来の都道府県の議論よりも比較的突っ込んだ議論で、これは大変感銘を受けたわけですが、それは逆に言うと、それぞれの経済実態-それが明治維新以来の影響があるかどうか、それは分かりませんが-経済活動の反映でもあるわけです。つまり、そこにたくさんお医者さんに行く患者さんが、経済的にも豊かなことがあって、そこに人が集まって、それで行かれるという、そういう前提がございますので、おっしゃるとおり、県を細分化していくと、すごい明確な格差が出てくるということは分かります。
それを、最後のお話で時間が多分なかったのだと思うので、是非補足をお願いしたいと思うのは、イメージとして、一つ、あるいは、さっきの話だと、五つぐらいの地域に増設しないといけないのかなというふうな印象さえ持ちますので、そのあたり、もうちょっと補足願えないでしょうか。最後は、つくるとすれば一つをどこどこ、当然西日本でないということは明確なメッセージだと思いますが、東北、北海道、もちろんこの会議では、最初に北海道の話も実は伺っておりまして、今日も長崎の話を伺っております。それは、先生のお話を補足していただかないと、長崎の離島周辺にもつくった方がいいというようなことになります。そのあたり、つまり細かくすればするほど、もちろん吉里吉里国のように日本中の医師が、私が前から申しているのは、日本人の全体の3分の1ぐらいが医師になれば、これほどすばらしい医療の現状はないというふうに、いつも冗談で申しておりますが、そのあたりのバランスを是非教えていただきたい。長くなって、すみません。
【小川彰氏】 教員に関しましては、工夫をするというのは、これは当然のことでございますので、工夫をして、今どんどん医学教育というのは手がかかるようになっている中で、いかに効率のよい教育をするのかということで、教員も頭数だけではなくて、工夫が必要だということは、これは当然でございます。
それから、もう一つ言わなければならないのは、臨床系の教員については、先輩が後輩を教えるという屋根瓦方式が必要です。こういうことでないと、これは技術を伝授することには必要です。ただ、その中で、もう一つ考えなければならないのは、生命科学というのは非常にターンオーバーが速くて、5年経(た)ちますと、今の常識が非常識になってしまいます。現在、大学を卒業したときの知識と技術で一生医者をやっている人たちはいません。ですから、生涯学習として、5年、10年でターンオーバーして、どんどん新しい知識と技術を入れていかないと、どんどんろくでもない医者になってしまうというのが今の実情でございます。そういう意味では、ただ単に今の知識と技術を教えるだけが教育ではなくて、生涯学習として自らが学び続けることができる手法を教えるということが医学教育の基本だと私は思っています。
それから、もう一点申し上げたいのは、基礎の先生方の話ですが、基礎医学、日本の医学レベルが非常に高度な医学レベルを維持できていたというのは、医学部卒業生の基礎医学者がいたからだという話を先ほどちょっと申しましたけれども、これはやはり臨床の場にいて、臨床から問題点を抽出して、それを基礎医学にフィードバックをするから、生きた学問になっている。それがアメリカあたりのように、論文のために研究をするというのではなくて、そこに患者さんがいて、問題点がここにあるのだから、新しい治療法、あるいは、こういう患者さんを助けるためにどうすればいいのだという、そういう発想の中で基礎医学をやるから、日本の医学レベルは高かったのだということだけ申し上げたいと思います。
【上昌広氏】 私は、せっかく議論するのでしたら、お医者さんの数合わせのための議論は、余り意味がないと思っているのです。資源がないこの国の財産は、私は人だと思っています。高度な知的地下社会を実現できる人材を生むことだと思っていまして、一つの柱は、間違いなくメディカルスクールだと思います。ロースクールであっても、これが情報の方でもいいですし、そういう方々が、この国は西に偏在しています。極めて偏在している。
もう一つ、そういう方々をどうやって、どこに養成していくのか。そういう方々を国民として、長州人、薩摩人ではなく、国民として見たときに、私は東北地区、今回の震災で、昔は会津、浜通り、中通り、三つの国ですよ。薩摩一つではないです。ああいう三つの大きなところが、これまで被害を受けているのに、そこに仮設住宅だけでいいのか、地域で人を養成するような仕組みをつくるべきではないかと考えています。人材は、メディカルスクールや医学部、私はどっちだっていいと思っています。そんなのはプロバイダーの理屈であって、人材は医者が余った場合、恐らく今日の最後のスライドでもお示ししました。今後出てくるのは介護や在宅です。この国の平均年齢が75を超えてきたときに、私がやってきた骨髄移植や、ここにいらっしゃる脳外科の先生とか、多分そんなのはマイナーな問題です。50歳以下の死亡は、2035年は現在の半分以下になります。人数が減るからです。65歳は亡くなりません。今日、こちらにも65歳は多いと思いますが、85歳、90歳の方は、現在の倍に増えます。そういう方々は、骨髄移植なんかやりません。やるのは在宅とか介護の医療です。その問題が見えたのが、今回の東日本大震災なのです。
医学系の分野においては、明治以降、東大は薬学部、医学部から分かれました。保健学科もそうです。今後、多分介護学部の巨大な研究者が出てこなければいけないのですが、これまでの歴史からすると、恐らく医学部関係者から出てくると思います。もちろん西村先生のような方々も入ってくるでしょうが、課題は山積みであり、その問題を解決するマニュアルがない、想定外の問題を解決する人材は、外からは借りてこられないですから、千葉、茨城、埼玉、あるいは東北地方は自前でつくればいいと思います。制約条件はお金ですよね。
今、私たちが2011年5月に、どこに最もお金を投資すべきか。多分ほとんど御議論ないのではないですか。ある地域になりますよね。後は、今日御紹介した、極めて自治体が豊かな地域に高度の医師不足が起こっていて、そういう地域に手を挙げているところが幾つかあります。そういうのを一国民として駄目だという理由というのは、私は余りないと思っています。
以上です。
【安西座長】 ありがとうございます。比較的核心を突いてきていると思いますので、どうぞ皆様、手を挙げていただければと思います。
【栗原委員】 上先生のお話は理解出来ないことはありませんが、それぞれの地域にどういう医学部、医科大学をつくろうとしているのでしょうか。日本には80医科大学・医学部があります。それぞれの大学の特色分化を考えていいと思います。例えば、東大は、より医学研究者の育成に努める。また私学は研究者も育成するが地域医療者を中心に育成する。そのような仕組みをつくることでは解決できないのでしょうか。
先ほど青と赤で医師の分布をお示しになりましたが、医師が不足している青のところには、どのような医科大学を幾つぐらい創ったらいいというようにお考えになっているのでしょうか。また小川先生が言われた医師過剰となると考えられる問題も含めて、全体的なビジョンが必要と思います。地域でみれば、医師が足りないところはたくさんあると思いますので、どのように解決したら良いのかについて、何かご意見はありますか。
【上昌広氏】 私は、個別の問題は個別、地域の大学は誰かからつくってもらうものではないです。九州に多いのは九州の方々が頑張ったからこうなっているのであって、現地に行ってヒアリングすると、こう言います。例えば福島県、農業は非常にしんどいだろう。この地域が生き残るためには、新しいエネルギー、あるいは新しい被ばくに関する医療の研究機関が欲しいという声があります。もちろん福島県の話と岩手県、それから千葉県は違うでしょうね。千葉県の成田の方々とお話ししたら、地域医療をやる方がつくりたい。皆さん、浜通りのあの田舎が世界に冠たる研究機関をつくりたいと言っているのです。できるか、できないはともかくとして、ここの場で、あなたの地区は地域医療をやるべきだとかという議論をしても、私は意味ないと思っていますし、そういうやり方だと育たない。それが、これまでの東北であったり、関東三県だったと思っています。
今、例えば九州で鹿児島大、長崎大、熊本大、すばらしい伝統と研究をやられていますよね。おまえたちは東京から遠いから地域医療をやれと、誰も言わないですよね。医療人材をつくるこそ地域のニーズであって、そういうものを議論した上で、国民の税金としてどこまで払うのか、地域のお金でどこまでやるのかという議論をしなければならないと思っております。
【桑江委員】 お三人の方、大変すばらしいプレゼンテーション、ありがとうございました。お三方に一つずつ質問させていただいてよろしいでしょうか。
矢野先生のお話は非常にすばらしくて、地域医療の真髄を見るようでして、一つちょっと、ただ私が学生だったらと考えたときに、自治医大の方と、いわゆる地域枠の方の何が差があるかというと、一つには、トータルのお金と、片方は2000万、片方は900万ということで、あと、義務年限の違いが、若い方には9年間か12年間かというのは非常に大きい問題で、しかも自治医の方は、半分は戻ってこられるところがあります。
そこで、ちょっと考えたのは、もし40%が辞退なさるのであれば、逆にもっと貸与のお金を増やして、しかも、どちらかというと若いときは専門志向になりますが、ある程度年月を経てきますと、やっぱり地域のために尽くしたいという方も出てくるのではないかと思いますので、すぐ12年間ではなくて、生涯の中で12年間、あるいは、もうちょっと短くされると定着される方がいるのではないかというのは、一つ御質問とさせていただきます。
あと、小川先生に伺いたいのですが、基礎医学の方が少なくなっているというのは、私たち臨床医にとっても非常に恐怖な話であって、私、個人的には基礎医学の方に進まれる方がいらっしゃらなくなったのは、先生おっしゃるとおり臨床研修制度が始まったこととは一緒になるのでしょうけれども、独法化になったという影響はないのかなと思うのです。大学が独法化になったときに、どこを削ったかというと、要するに臨床はある程度経済的に潤うわけですから、お金を稼げないところを削ったなと個人的に思っておりまして、そうしたときにポストがないと、前回のヒアリングの方がおっしゃっていたのです。そうすると、基礎医学を目指す方に十分なポストがあれば、やはりそこを目指す方は、最初の2年間は後回しにできるとしても、医師会の方の御提案にもあるように、後からでも、初期研修をやって臨床に戻れるという逃げ道はつくっておくとしても、やはりポストがないとどうやって食っていくのだということで、やはり基礎に行きにくいということはあると思うのです。
ですから、少子高齢化になって、限りあるお金をどこに注(つ)ぎ込んで、この医療体制を維持するかということを考えたときに、必要なところに必要なお金を回さなければいけないということだと思うのです。ですから、ちょっと今、中国大使になられた丹羽先生が、前、新聞に書かれていたのが、企業からするとおかしなことで、産婦人科がいないというのであれば、産婦人科に2倍お金をあげればいいということを書いていらしたことがありまして、東京都ではそういうこともあって、産科の方にはある程度手当をつけていただいたりしているのですが、やはり基礎に進まれる方に生活の不安なく、十分研究していただきたいというように思うわけで、それが独法化の影響かなというようにちょっと思っているので、その件についてお聞きしたいです。
あと、上先生に御質問ですけれども、徳島は非常に医者が多いのですが、大学は1校ですよね。先生の御説明は、狭いからということだったのですが、千葉は確かに一つなんですけれども、医者が集束しているところは、やっぱり亀田のところで、千葉大のところではないわけです。あとは、確かに80大学ですが、私立大学は分院を持っておりまして、千葉大学は本院は1個なのですが、分院はたくさんございます。ですので、必ずしも大学なのか、医療提供体制ではないのかという、大きな基幹病院があって、そこの住民の方に過不足なくネットワークも含めて医療が提供できるのであれば、大学かという話は、ちょっとそのあたりを教えていただきたいです。
以上です。
【矢野右人氏】 それでは、私の方から。まず、先ほどの貸与資金のことでございますけど、自治医大の方がいいように見えていましたけど、そうではないのです。あれは自治医大の負担金といいますか、私立大学としての負担金を含めて1人で割ったものになるわけですから、本人にとりましては、自治医大と県の奨学生は、生活費7万円がプラスアルファでもらえるかどうかだけでございまして、あとの授業料その他全部、ほとんど一緒の条件になってくるわけでございますから、特に大変ではないのです。それと、返却に関しては、こちらは全国の国立大学に呼びかけまして、応募者にいつの時点でも引き受けているわけです。したがって、2年奨学資金をもらったり、3年奨学資金をもったりしているわけです。2年もらった人は、4年間が義務年限になるわけでございますけれども、そうなりますと、非常に返しやすいというのが、自治医大と比べて物理的にあるわけでございます。だから、そういう返しやすいというところが一つあるということです。
それから、もう一つ、現時点で151名の県の修学生中14名の方が義務修了しても離島で頑張ってくれています。院長までなっています。院長になっている方がたくさん出てきています。
それから、もう一つ、自治医大は96名中16名、15.6%がやはり義務年限を終わっても勤めてくださっています。だから、これは返却されているのを、もうちょっと改善したいとは思っているのですけども、現時点でも、そういう偏在を何とか解消するところに努力してくださっている人たちがたくさんいるということで、我々は感謝しているところでございます。
【小川彰氏】 私への御質問は、基礎医学研究者の減少は臨床研修制度だけではなく、独法化の影響があるだろうということでございます。まさに独法化の影響も大いにございます。それは、当然のことながら運営費交付金が、毎年毎年減らされてきているわけですから、要するに研究している余裕はない、大学の稼ぎになる臨床をやれということで、どんどんそっちの方にシフトをしているわけであります。
つい先だって、もとの三重大学の学長の豊田先生が、大変すばらしいデータを出しました。これは日本の医学研究が衰退をしているということを、論文数のデータでお出しになったわけです。その中で非常に危機的なのは、実は地方の国立大学の論文が激減をしている。ですから、どうにか維持をしているのは旧7帝国大学と、比較的健闘しているのが私立大学。一番危機的な状況なのが、地方の国立大学です。論文数そのものが8%減ですから、世界に対して競争力を失いつつあるという状況が明らかになっております。これは今日の議論とかけ離れるかもしれませんが、医学教育、それから医療全体のスキームから考え直さなければならない問題だと思っております。
【上昌広氏】 私は、トータルのパイの問題と分配の問題を分けて議論しなければいけないと思っています。
千葉県の場合は、人口約700万で、医学部が1校で、トータルの医師数が対人口当たりは全国最下位、1位から2位ですね。パイが少ないです。一方、分院とか亀田というのは、少ないパイの取り合いの問題になってきます。ですから、多分亀田総合病院が非常に魅力的に、殊、研修医に関して極めて魅力的に映っているのだと思います。ただ、私たちの近所の亀田を希望するのもいますが、有名だから嫌だというやつも、情報が介されると出ますので、そんなに一律に亀田がよくて、ほかが嫌だということはないと思うのです。研修医の方々も、旭地区の地域をやりたいから行く方もいれば、亀田に行ったら面白そうだから行く方もいれば、何となく人気が高い、あの高いハードルを飛び越えなければいけないと思っていくやつもいれば、様々なので、ただ、トータルのパイとして、あの方々があの地域において、極めて魅力的なプログラムをつくっておられると思うのです。
相双地区、相馬、南相馬、人口は鴨川よりはるかに多いのです。同じものができますよと。病院の規模として、東京大学とほぼ変わらずに、市の収入をはるかに超えるキャッシュフローを生み出し、新日鐵君津よりも従業員が多いようなものもやろうと思ったところから始まっているはずなので、是非岩手、宮城、福島復興の一つのモデル、そう考えて、実は鴨川にはお連れしました。見たら、やりたいと思うやつも出てくれば、駄目だという方もいました。一つのいいモデルだとは思います。
【安西座長】 どうぞ。
【今井委員】 上先生に、最後のところ、大分はしょられたので、付け加えます。日本の人口は確かに少しずつ減っていくわけですが、上先生の資料で言うと18ページ。この65歳以上の人口というのが、普通の全体の人口とは別にといいますか、どんどん増えるわけです。ここの部分を今の医師の労働時間ということを考えますと、今、医師の労働時間というのは、かなり無理をして、若い方が週に80時間、90時間働いて、やっともっているという状況なわけです。それを普通の国並みに48時間とすると、18ページの絵ですけど、多分私の解釈では、2035年に労働時間を普通にした場合に、65歳以上の人口というのはすごい増えるというふうに見えるのですが、その辺、先生から解説をしていただければと思うのです。そこが今までも議論になっていて、そういうデータも出ていたと思うのですが、ここではっきりしておきたいと思います。
【上昌広氏】 どうも失礼しました。では、18ページ、19ページをご覧いただきたいのですが、これは今井教授と我々と、それから、スパコンなんかの情報工学をやられている宮野悟教授のグループとやったものです。
売りは、この国では65歳は高齢者ではない。65歳以上の人口を見ていると、医療システムを理解できないかもしれないということです。左上の、これは医師1名1労働時間当たり何人患者を診ますかという図は、このまま医師が増えると人口が減るので、減ります。65歳以上の人口でも、ほとんど変わりません。ところが、今65歳で亡くなる人はほとんどいません。先日、新聞で日本の女性は平均で90歳になると言われていました。医療資源の多くは、死亡前に現在のシステムでは使われています。平均余命をもとにしたシミュレーションを行うと、19ページ上の図です。トータルで医師が余る。増やしても2035年には、今より悪くなります。まして、ヨーロッパが言っているような労働時間制限をかけると、倍要ります。ですから、現状の医療システム、患者の数、国民の数ではなくて、現状の医療の負荷を考慮に入れたシミュレーションを行うと、こういう結果になりました。
さらに、19ページの一番下が、特に後期高齢者の死亡数は、今ぐらい働いていても2035年には今より50%増です。労働時間を制限する、先進国並みにすると、100%増にして、今と同じです。その問題となる地域は、御覧になって、東日本と東北です。今もそう、これからもそうです。このシミュレーションの一番の売りは、65歳という年齢は、今、社会学的にはリタイアする年でもないし、亡くなる年でもないので、それを死亡年齢に置きかえてシミュレーションしたものです。そうすると、2035年以上、恐らく現状よりも事態は悪化すると思われます。2035年以上は、国の人口予想のデータがなかったので、ここまでやりました。
【安西座長】 ありがとうございました。どうぞ。
【中川委員】 今、18ページ、19ページの説明を頂きましたが、2035年の医師数は、どういう基準ですか。現時点の養成数のままでいった場合ですか。
【上昌広氏】 舛添さんのモデルがそのまま使ったような話です。ですから、途中で減らしています。
【中川委員】 今の小川教授から出された14大学を増やしたと同じだと、この時点の医師数で伸ばしたわけですか。
【上昌広氏】 そうです。
【中川委員】 それで、この2010年と2035年が二つありますが、2010年は労働時間の制限はないのですか。
【上昌広氏】 今の労働時間でやっています。
【中川委員】 2035年で今の労働時間と同じ制限なしでやったら、どうなりますか。
【上昌広氏】 2035年は、真ん中のコラムは制限なしです。今と同じです。
【中川委員】 先生のお考えは、医師が少ないところには、簡単に言うと、医学部をつくればいいのだと、それが一つの解決策だろうというお話なのですか。
【上昌広氏】 一つはそうです。
【中川委員】 そうすると、私、毎回申し上げているのですけど、歯学部のように医師過剰になって、定員割れしたとか、非常に質が下がってきたということに対して、その場合はどうするのだというお答えを、いろんな方から、なかなかもらえないのですよ。今日、3人のヒアリングの方の、矢野先生と小川先生は医学部の定員を増やすという議論で終わったのだと。あとの問題は偏在の解消だろうというお話なのですけど、その辺について、上先生、是非将来そういうふうになった場合、そういうことも考えなければいけないのだと私は思うのですけど、そういうふうには思いませんか。
【上昌広氏】 まず大前提で、歯学部の治療の質が、先生、本当に下がっておられるのですか。私は、20年前と比べて、今、歯科のレベルが下がっているというのを歯科からは聞いたことはないです。食えなくなったという話は聞いたことがありますが。
【中川委員】 過剰で志望する学生も少なくというような認識はございませんか。
【上昌広氏】 ある意味、私は、今日は医師が過剰で医師が困るという議論をここでする気はないのですが、過剰になれば、私は国民が減らすと思います。どんな減らし方かは、造船業界の減り方もあれば、国家試験で調整する、様々あります。
【中川委員】 そういうことを心配されて、小川先生が定員の削減するルールがないとか、いろんな御心配を示されているわけですから、そういうことに関して、ある程度おっしゃっていただいた上で、先生の18ページ、19ページという議論があると思うのです。そして最後の結論があると思うのです。新設も一つの解決策だという結論まで行くためには、やっぱりそれをクリアしていただかないと、なかなか説得力を持てないのかなというふうに私は思うのですけどね。
【上昌広氏】 例えば、徳島県の医師数で、あの数になって県内で余っておられて失業されておられますか。
【中川委員】 将来のことを申し上げています。
【上昌広氏】 現在と、このシミュレーション、徳島県の現在と我々のシミュレーションは同じです。
【中川委員】 先生は、西日本に多くて東日本は少ないと。我々の議論している目標は、こういう日本という、さほど大きくない国で、その中の地域偏在と診療科偏在の解決のシステムを考えなければならないと申し上げているのですよ。東日本は少ないのだから、あなたたち、やっぱり医学部をつくるように努力しなさいよということの結論にはならないと私は思うのです。
【上昌広氏】 先生の御意見で、将来、医師が3から3.5になったときに、余って困っているのかどうかは、今の西日本のシミュレーションは一つの参考になると思いますが、私は過分にして、そういう方はいるとは聞いてないのですが、いかがですか。
【中川委員】 そうなると、見解の相違だというふうになりますけどね。例えば、西村先生、さっき上先生の御意見に理解を一定程度示されたような気がしましたが、過剰になったときにどうするかと。歯学部に学べということは西村先生も御理解いただいているのだと思うのですけど、その辺どうですか。
【安西座長】 竹中委員が質問をされているので、続きでしたら、手短に。
【西村委員】 今のお話と関連して、少し広げたいので、後で。
【安西座長】 では、どうぞ。
【竹中委員】 私、医師でなく、かつ医療機関で働いていない、その一人として、今日の会議まで続けてまいって、いろんな方々のヒアリングを受けました。その中で、ずっと感じておりましたことは、医学部の定員を議論するに当たって、医療環境をもっと分析していかなければいけないと。各御発表の方からいろんな因子を出され、それぞれのお勤め、あるいは仕事をされている背景からいろんな資料を出していただきました。小川先生までの発表で、医学部の定員を考えるに当たり、厚生労働省の方に来ていただいて、医療体制から、見直さなければいけないとの御意見がありました。今日初めて上先生のお話を伺いまして、もう一つは違った観点からクリアになったことは、今後どうやって、もっと医師の労働条件をよくするかと言う点でした。今後、多くの因子をシンプルにまとめに入る作業となります。これは安西先生がまとめられることにはなると思うのですが……。
【安西座長】 私じゃなくて……。
【竹中委員】 まとめるということではなくてですね、今後をどういうシミュレーションするかということです。
【安西座長】 ありがとうございました。前々から申し上げておりますけれども、ヒアリングを受けさせていただいて、そろそろ、そういう考え方の軸を整理しながらというフェーズに移らせていただきたいと思っております。今日だけでも医師の数がどうかということにつきまして、上先生のところで、やはり医師の労働条件、そういうことまで加味した議論が必要だということは比較的端的におっしゃっておられると思いますし、いろんな形でそういうことをどうするかのということはあると思います。私自身、申し上げたいことは多々あるのですけれども、何か言うと片一方に偏るような、そういう感じもありまして、今のところ控えさせていただいております。
今、中川委員、また竹中委員のおっしゃったことは、非常に端的に両サイドといいましょうか、全体的なことをおっしゃっているというふうにも思いますので、もう何度も申し上げておりますけれども、いろいろな軸、偏在の問題にしましても、地域の偏在、診療科の偏在、それが一体どうして起こってきているのかというと、やはり経済合理的な行動をする、そういうこともあるし、それから、やはりプロフェッショナルとしてトレーニングをちゃんと積んでいきたいと思えば、それは患者さんの多いところにいたいということもあるわけだと思うのですけれども、そういう軸をきちっと見ていって、漏れのないようにしながら、シミュレーションをやっていく必要があるというふうに自分としては考えております。
【西村委員】 今、竹中委員のお話を伺いながら、私が申そうと思ったことは発散するので、ちょっと心配しておりますが、中川委員がおっしゃった歯科の話を踏まえると、これは、実は、ある意味答えは簡単で、全体の医療費を抑制してきたために、歯科にも全体のお金が回らなくて、増加する歯科医師が食べていくのが大変苦しくなるような状況が生まれたという認識がございます。ですから、同じようなことが医科にも適用されるとすれば、やっぱり上先生がおっしゃるような話は、そうはうまくいかないということはあり得る。ただ、上先生の御指摘が面白いのは、国と地方自治体の話を分けてされましたので、それは大変興味深いというふうに思っておりますが、それはちょっと横に置いておいて、医療費との関連についてのお考えも伺いたいと思います。
しかし、私、余り楽観的でもございませんで、本当に医療にそこまでお金を費やすことができるどうか。この話は、ちょっと話を発散しますので、今、この議論はしたくないのですが、御承知のように平成7年ごろから、日本は科学技術政策を充実するということで、ドクターの数を相当増やしました。ところが、それが歯科医の話もそうなのですが、多くの科学者を目指す方々が、ちょっと表現は微妙なのでお許し願いたいのですが、当初の意図と違う職業について、十分な研究ができないような状況におられる方がたくさんおられます。それを、当時は民間企業が採用してという期待があったわけでございますので、それが医師と若干話が違うのですが、そのことに関しては、実は最近、京都大学の物理学をやっておられた佐藤先生が、アカデミック・エンタープライズというのをつくろうという話をされて、やっぱり日本全体でどれぐらいの人間を科学者として採用し、それが食べていくためには、どれぐらいのお金がかかるか調べましょうという御提案をしております。
ここでは、その話はこれ以上申しませんが、医師については、そういう医師バージョンをつくって、そこで基礎医学にどの程度というような議論をやることを通して、今の見通しが、上先生のお話と中川先生のお話と若干のずれが解決できるのではないかというふうに私は思っておりますが、いかがでしょうか。
【中川委員】 西村先生、冒頭の医療費の抑制が歯科医師の過剰を生んだということをおっしゃいましたけど、それ以上に絶対数が多いというのが私の実感なのです。私は札幌ですので、札幌の歯科医師数を見ると、本当に街を歩くと一町内に多数の歯科医院があるわけです。そのぐらい多いのだということを申し上げているのです。
【西村委員】 それは分かります。ただ、彼らが増やすときの期待は、予防医学にどれだけという話は、とらぬタヌキの皮算用としてあったと思います。
【安西座長】 医学部卒業生は、どういう分野に何人ぐらい行くべきかということにつきまして、私も偏った言い方かもしれませんけど、どうしても医学界の方は、当然医師になるのだというふうな感覚があるように思うのです。だけど、ここからは国際的な場に出ていく人もいていいのだと思いますし、少数かもしれませんけども、そういうこともあるかなと思うのです。
【今井委員】 今、安西先生がおっしゃったのと同じような考えを私も持っていまして、やはり医学部を卒業して全部が臨床医になるわけではありませんし、基礎医学もありますし、それから何回も言っていますように、いろんな業種といいますか、医療のイノベーションに携わる方が、これから非常に必要になってまいります。そこの部分をトータルとして育てていくという考えがないと、それから、やたらに増やせばいいというふうには誰も思ってないわけで、そこをどういうふうに按分(あんぶん)していくかという話だと思うのです。そのときに、今の状態は非常に悪いと。それは医師も過重に働いているし、それから研究者を目指す人間はほとんどいなくなっているという日本の現状は、かなり危機的であるというところを考慮に入れながらやっていかないと、ただ数が増えたら大変だ、大変だということではまずいのではないか。
ですから、そこの按分(あんぶん)をきちんと考えていくことによって、今後の10年、20年、30年後のイメージができてくるのではないかというふうに考えています。
【小川彰氏】 上先生の結論が、何でここに行きつくのかどう考えても分かりません。というのは、現在地域偏在があるのだという認識があるのに、なぜ不足地域に医育機関を新設することが問題解決の一つの方法になるのかというのが全然分かりません。なぜ分からないかというと、日本は、1県1医科大学になりました。1県1医科大学の卒業生が、その割合でその地域に留(とど)まっていれば、今の地域偏在は起こらなかったわけです。先生の話の中で、北海道や宮城に、福島に、千葉に、埼玉に医育機関を新設し、そして、そこに入学してくる方々が九州の方々で、長州の方々で、長州にお帰りになっていくのだったら、全然意味がないわけです。先生の視点に全然抜けているのは、大学に入るのは自由で先ほど先生が言ったように西高東低だという中で、卒業生が故郷に戻っていくから、地域偏在になっているわけです。それを何も言わないで、ただ不足地域に医育機関を新設して、そしてその医育機関で教育された方々が、大都市、あるいは医師過剰の地域に戻っていくのだったら全然意味がないではないですか。ですから「地域偏在」を解消する仕組みこそ必要なのです。
【上昌広氏】 全員が戻るわけでも、全員が留(とど)まるわけでもないので、事実だけ言います。医学部が対人口当たり多い地域に医師は多い傾向はあります。ミクロで見ても、多い傾向はあります。殊、岩手県に関して言うと、非常に古い伝統がある地域にもかかわらず、対医師数は少ないのですが、盛岡、東北の中では比較的多いですよね。私は、全国から来た人が、人権も抜きに盛岡に留(とど)まれというのは無理です。行きたいところに行く人もいますが、100つくればゼロではない。何十は上がってきて、何よりも医育機関が多いところで開業医の数も多いのです。ですから、医師の数合わせてではなくて、その地域で人材を養成して、雇用をどうして、地域に文化をつくるという視点でいけば、徳島は80万です。山口でも150万。福島県でも200万以上いるのです。県という単位で言えば、かなり格差があると考えています。ですから、全員帰るとか、全員戻るみたいな議論というのは、多分ここでやっても意味がなくて、これまで明治から百何年たって、研究機関、育成機関があるところの周囲には、50年、100年を介して、そこに文化ができてきているのは、東北地方だろうが、西日本だろうが一緒だと考えています。
【矢野右人氏】 先ほどの中川先生と上先生のお話の中で、医師が増えたときにどうなるんだ。例えば、高知県のお話が出ました。この医療と福祉だけは、国民のそのままの希望を取り上げれば青天井でございます。上限はないのでございます。では、医師が増えたところが、それだけ医師が余っているかといったら、そこはかなり相対的なものがあるわけです。これは経済負担ができるかどうかだけによっているわけでございます。例えば、長崎、先ほど九つの医療圏を出しました。患者を多く抱えて、忙しい、忙しいと言っているところと、患者数、平均在院日数も減らしながら、効率よく自分の自治体の経済的負担を考えながらやっているところと、かなり格差があるわけでございます。その中で、高知県、徳島県、鹿児島県、日本で飛び抜けて病床数が多い県です。どうしても、病床数が多いのは、大規模医療になるからではなくて、小さい病院がたくさんあるからなのです。そういう人がみんな自分の箱を守るためには患者もいるということになってくるわけでございます。
したがいまして、そこは経済にどう抑制するか、質がどうであるかということを分析してみると、必ずしも今の状態では住民の希望は青天井でございますから、それにこたえられるのではないかと言われれば、医師は幾ら増えてもこたえられるということになるわけでございますので、そこに質的な、あるいは機能的な分類、特に介護と医療と分けていく、そこの線を明確にしなければいけないと思っています。
【片峰委員】 先ほど、上先生、それぞれの地域には特殊性があると。その中で、地域が自らの意志として医学部をつくるということであれば、反対する理由はないというようなことをおっしゃいました。その中で、東日本の話、福島県の話を例に挙げられたと思うのですけど、長崎大学も今回の震災に際しまして、放射線医療の専門家をたくさん福島県に送っております。確かに、今の福島の状況は、あれだけの事故が起こって、世界にもものすごいインパクトを与えているわけです。その中で、放射線のリスクの評価をきちんとやる、あるいはコントロールをきちんとやれる人材を、日本が特に福島で育てるということ、これは日本の義務だと思うのです。非常に特化した人材を育てるという意志が福島県から出てくれば、それだけの定員を増やすということが出てきて当然だと思うのです。だけど、それは別に新しく医学部をつくるという話ではなくて、既存の組織の中にその仕組みをつくればいい。これはやらなければいけないと思うのです。ただ、問題は、例えばそういう枠をつくっても、あるいは我々のところも含めて全国の医学部で地域枠というのをつくっているわけですが、そこに入ってくる学生たちが、なかなか地域に残らない。福島県立医大も100人の学生のうちの30人ぐらいしか、残っていないのです。そこの仕組みをどうするかというのが最大の問題で、医学部教育のところで、この地域枠を何とか実質化して、差別化して教育をして、自治医大レベルまで持っていく必要があると思います。あるいは医療のシステムにも非常に大きな問題があるわけです。例えば浜通りの方のかなりの部分は東北大学の関連病院だったり、その中で学生さんがなかなか残らないということが起こっているのだろうと思っているのです。そういう仕組みの問題が非常に大きくて、そっちを議論しながら医師の定員も考える、あるいは地域の特殊性も考えるということが大事だと思うのです。
【安西座長】 かなり議論の的は幾つかに絞られてきているとは思います。その主要な一つが、やはり偏在をどうしたらいいのかということは、これはこの中での総論としては、そこは本当に分析をきちんとして、それを何とかしなければいけないということはあるのではないかと思っております。
ほかにはよろしいでしょうか。御発言、まだない方、よろしいですか。
【中村委員】 上先生のおっしゃるように、医大を欠く県をなくすとして一つずつつくってきましたが、定員は100名という大体基本的な数でやってきていて、県によって人口が違うので、日本全体としてはトータルでは増えたのだけれども、地域的には不足が出てくるということは、当然あると思います。一般の全国企業でしたら全国に派遣できるし、また、国家公務員などだったらやはり派遣できるのだけれども、医療というのはそういう状況ではない。医局が中心になって動いてくるので、どうしても限界があるだろうと考えられます。
そういう中で、一つは今、新設医大設置をいうんですけれど、例えばカナダでしたらトロント大学が学生数を300名とるわけです。それで、ほかのところが100名というような形でやっている。一方日本では既存の大学の定員を増やすのですが、今でも数としては15名とか10名とか、均一的な形での増やし方になってしまっている、大学を新設するということではなく、地域にあった既存の大学の対応が必要ではないか。なぜそういうことが気になるかというと、大学をつくるということの中で、今、大学のファンクション、例えば、僕は自治医大が地域医療に関しては非常に貢献しているという感じがしていまして、ああいうふうな形の使命を持つような大学をつくれれば、例えば東北地域に自治医大的な、全国からとるのではなくて、地域からとるような形が、もっと使命を持ったような形でできれば、かなり変わってくるだろうという感じはしているのです。
そういう意味で、一つは大学をつくるということだけではなくて、どんな大学をつくるのかということがないと、大学をつくるということが、そのまま日本の医療の改善につながっていかないという感じがしているのです。そういう意味で、大学をつくるというときの先生のイメージとして、どんな大学を今つくりたいかという形のところですね。地域によって違ってくるから、東京大学とか京都大学みたいなものをつくっても、余り意味がないだろうという感じはするのです。そういう意味では、僕は基本的には自治医大的な使命を持ったような形で、例えば僕は西に一つつくってもいいと思っているのですけど、西は増えてきているから、むしろ東北や、北海道につくる方がいいのかという感じはするのですけど、ただ、通常の今の大学のようなものを新設しても、いまの偏在は解決できないだろうという感じがしています。
それと、小川先生が計算されている結果で、これから大学をつくるということが、将来の需要の変化で、既存の大学にかなり大きな影響を与えてくるだろうということがあります。とりわけ国立大学とか、いろいろなところの大学が持っている矛盾を新設大学をつくることで抱き込んでしまって、今大学が持っているリソースのようなものの足を引っ張ってしまうのではないかという心配がありますので、その辺のところが非常に気になるという感じがしているのです。
【安西座長】 ありがとうございました。先ほども福島の方で放射線関係の医師を育てるべきではないか、そういう特定のいろいろなやり方も考えられるかもしれないなと思いますし、いろんな御意見を今日は頂いておりますけれども。
【黒岩委員】 今日、5回目ということで、かなり議論が煮詰まってきたと思うのであります。今日の議論で、特に矢野先生のお話等で分かってきたことは、数が足りないところを増やすということは必要でありますけれども、ただ足りないところの数をただ増やせば解決する問題ではないと。それから、定着が低いところで、定着を高めれば解決するという、それだけの問題でもないということだと思います。
絶対数を増やせば、それで解決する問題ではないというのは、現在の長崎県の現状からも分かります。病院の数は多いけれども、小さな病院が多過ぎるとかえって医師の労働条件が過酷となり、ただ病院の数を増やせばいいという問題でもない。それから、定着を増やしていけばいいかというとそうでもありません。定着率が高い大都会でも、例えば東京で医療崩壊がないかというと、そうではないわけでありますので、必ずしも定着を増やすということだけでも解決はつかない問題だと思います。
それで、私は、これまでも述べてまいりましたように、数の少ないところを増やすという数の問題というのはベースとして必要でございますけれども、より重要な問題として大きく二つの問題があるかと思うのです。やはり文部科学行政が関連するところの医学教育の問題と、それから厚生労働行政が関連するところの医療体制の再構築という、この二つの大きな行政のかかわる問題があると思います。
特に、医学教育の場合には、小川先生がおっしゃったように大学における先端的な医療というのは、日本はトップのところがあるわけでありますけど、地域におけるプライマリー・ケアといいますか、そういうところで全身をきちんと診られるような総合医的な実力を今の若いドクターや、あるいは医学生に身につけさせていくと。そして、これは卒前教育においても、卒後教育においても重要なことであるかと思うのであります。
医学部の定員が増えてまいりましてから、特に医学部の2年の基礎医学をちょうど学ぶところの転換期のところで、どこの大学でも定員を100人とすると、15人とか20人近く留年者が出てきている。これは、今までと同じ難しさの試験でもって落ちる人が増えてきているということです。これは全国的な事実でありますので、基礎医学をきちっとクリアするということは、最終的に6年過ぎた後に国民に役立つ医師になるために重要なことであります。そういう基礎からたたきあげる質の確保と、総合医となる実力を学べるような臨床医学教育、これを今の医学教育カリキュラムで、医学生に、あるいは若い研修医に授けていく、そういう医師養成の問題があります。それから2番目の問題としては、繰り返し皆様から問題が出ている勤務医の医療体制の再構築が大切です。大学病院を中心とした医療体制の再構築、勤務医の労働改善、勤務医の数が確保されるような、勤務医の労働環境が確保されるような、そういう問題整備、これには非常に大きなハードルがあるわけでございますけれども、その二つの問題をクリアしないと、幾ら医師の数を増やしても、長崎県の今の状況になりますし、幾ら定着を増やしても、今の東京都の医療崩壊の状況であるということです。教育のレベルの問題、それから医療体制の再構築の問題、この問題を両方ドッキングした形でいかなければなりません。ただ、上先生がおっしゃったように医師数が少ないところをそのままにしておくわけにはいきませんので、それを是正するということはもちろん必要なわけでありますけれども、増やしたからといって、それで解決するわけではないと、そういう問題ではないかと思っております。
【安西座長】 ありがとうございます。坂本委員、お願いします。
【坂本委員】 上先生のお話を聞かせていただきまして、いろいろと感じることはありました。私はやはり医療職の働き方を、この際しっかりと検討しないといけないと思うのです。先ほどおっしゃったように、現在の医療はいろいろな努力の末に成り立ってきて、そして世界的にいいレベルで医療を保っているわけですけれども、今回の災害等も含めたら、やはりきちっと働く環境を整えていくということを前提においた必要数を計算して、そして充実させていくということが必要だと思います。それから、今の医師、とりわけ勤務医の働き方を見ていると、たくさんの仕事を背負っているというところがあるので、やはり効率的な働き方によって、働いている意味を自分自身がやりがいとしてとらえるよう、そういうものも加味して考えていかなければいけないと思っております。
【安西座長】 ありがとうございました。そろそろにさせていただければと思いますが、今日も大変貴重な御意見を頂きまして、特に小川先生、矢野先生、上先生、なかなか対立するがごときプレゼンテーションもありまして、大変ためになったというふうに思います。
鈴木副大臣にお話をいただければと思います。
【鈴木副大臣】 お三人のプレゼンターの先生、そして委員の皆様方、今日も大変貴重な御意見を頂きました。ありがとうございました。
何が論点であるかということが見えてきたかなというふうに思いますし、また、それをもう少し補足するエビデンスを集めていくということの必要性と、余り十把一絡(から)げの議論をしていてもしようがないなということを感じたところでございます。
最終的には、いろいろなマトリックスといいますか、選択肢といいますか、論点を、医療の場合はアクセスとクオリティーとコスト、これが全部は成り立たないわけで、トレード・オフなわけで、また、それがそれぞれの診療項目、あるいはジェネレーション、セグメントによって違っていくわけでありまして、ここを分かりやすい形で国民の皆さんにお示しをして、そして何をどう選んでいくのかということは、最終的には国民の皆さんが考えていただく、その素材を是非提示をしていただければ大変有り難いなと、このように考えているところでございます。
もちろん経済コストというのは非常に重要なポイントでございますけれども、今回の原子力発電の問題の反省は、やはり発電コスト優先主義の結果、お金では買えない、あがなえない、そうした犠牲を一部の地域の方々に強いてしまい、そして、そのことが致命的な結果になり、しかも、それを取り返すことができないということを痛感しました。これはこれまでの長年の政府、そして国会、そしてそこに携わった多くの専門家がそうしてきたと、こういうことも踏まえて、この国のありようといいますか、国民の皆さんが価値観の優先順位も含めて考えていただく、そういう国民的な御議論のための材料を提示してまいらなければならないと思いますが、そのための充実した御議論を頂いておりますことに、心から感謝を申し上げたいと思っております。
私、この半月ぐらい賠償問題を担当しておりまして、強くそういうことも感じたということでございます。と同時に、本当に今日は大変お忙しい中、とりわけ岩手医科大学の小川先生にお越しを頂きました。私も震災の直後に岩手医科大学、そして三陸を回らせていただいていまして、本当に先頭に立って、岩手県民の命と健康を守っておられる、また、今日多くの医学部関係、病院関係の方々がいらっしゃいますけども、本当に日本中の大学、大学だけではありません。もちろん全ての医療者が、お支えを頂いて、今なお支えておられているということを大変感銘もいたしました。そういう中、お越しいただきましたこと、そして、また引き続き大変な御活動だと思いますが、今日の御参加の皆さんを含めて、東北の地域を支えていかなければならないということを改めて私からも申し上げて、感謝の言葉にかえさせていただきたいと思います。どうもありがとうございました。
【安西座長】 ありがとうございました。皆様の方から、特にほかにはありますでしょうか。
よろしければ、今日の議論はここまでにさせていただければと思います。プレゼンをしていただきました3人の先生方、鈴木副大臣からもありましたけれども、改めて厚く御礼を申し上げます。
また、副大臣からもありましたけれども、論点はかなり出てきているように思いますので、事務局サイドにも、これを整理していただいて、それでいろいろな軸を出していけるようにというふうに思っておりますので、よろしくお願いを申し上げます。
それでは、事務局の方で日程をお願いします。
【植木視学官】 参考資料の御説明を簡単に申し上げます。
お手元に参考資料、二つお配りをしております。参考資料1が医学教育モデル・コア・カリキュラム、平成22年度改訂版でございます。内容が大部にわたりますので、6ページに概要図を記載しております。こちらをもとに御説明申し上げます。
このコア・カリキュラムにつきましては、全国の医学部が自らカリキュラムを形成する際のガイドラインとなるものでございます。学生が卒業までに身につけておくべき必須の実践的な診療能力につきまして、到達目標を明確化しております。全体の概要につきましては、6ページにありますとおり、冒頭で医師として求められる基本的な資質を明記した上で、具体的な内容といたしまして、基本事項のほか、医学・医療と社会、あるいは診療の基本、臨床実習などについて盛り込んでおります。
各大学では、このコア・カリキュラムを学生の履修時間数の3分の2程度で履修いたしまして、残りの3分の1は各大学の理念等に基づきまして、独自の特色あるカリキュラムを設定することとしております。
また、このコア・カリキュラムにつきましては、平成13年に初めて策定されました後に、平成19年の改訂を経まして、このたび2度目の改訂を行っております。今回の改訂は、三つの観点、一つは基本的な診療能力の確実な修得、二つ目に地域の医療を担う意欲・使命感の向上、三つ目が基礎と臨床の有機的連携による研究マインドの涵養(かんよう)、この三つの観点から検討いたしまして、更に近年の医学教育に対する社会からの要請、これは一つには医療安全、それからチーム医療の観点、少子高齢化への対応、男女共同参画の促進や全体の利便性向上に配慮しつつ改訂を行いました。また、全体の分量については、増やすことなく、若干減らしております。
なお、改訂内容の詳細につきましては、そちらの7ページから10ページまでにまとめております。
文部科学省といたしましては、このカリキュラムが、大学、あるいは臨床研修病院等で積極的に活用されて、医学教育の改善、充実が図られるよう、また広く社会に周知されて、国民の医学教育への理解と協力が進むように周知を進めてまいりたいと考えております。
なお、文部科学省のホームページ上では、既に掲載をしているところでございます。
続きまして、参考資料2といたしまして、規制・制度改革に係る方針ということで、本年4月8日に閣議決定したもの、1枚ペーパーをお配りしております。本件につきましては、昨年度に、内閣府の行政刷新会議の中の規制制度改革に関する分科会のもとに置かれましたライフイノベーション・ワーキンググループにおいて議論をされまして、本年1月の分科会における中間取りまとめを経て、政府の現在の方針に沿った修正が加えられた上で、このたび閣議決定をされたものでございます。
この中で、そちらにありますように、医師不足解消のための教育規制改革といたしまして、基礎医学研究者を含む医師不足や、養成数の地域偏在といった現状認識を踏まえ、医学部やメディカルスクールの新設も含め検討し、中長期的な医師養成の計画を策定されております。
文中、下線部が引いてあります「検討し」とありますのは、これは本検討会における検討を想定しておりまして、この検討会とは別に医学部等の新設に関し、方向性が別途決定されるというようなことはございません。したがいまして、これまでも本検討会において、様々な御意見をちょうだいしてきたところでございますけれども、引き続き議論を深めていっていただければと考えております。
以上でございます。
【安西座長】 よろしいでしょうか。今の最後の閣議決定の点は、検討するのはここだということだそうでございますので、よろしくお願い申し上げます。
【植木視学官】 それでは、次回の日程を御案内申し上げます。
次回は、第6回検討会として、6月13日月曜日、13時から15時までを予定させていただいております。よろしくお願いいたします。
【安西座長】 よろしいでしょうか。それでは、お忙しいところ、ありがとうございました。今日はここまでにさせていただきます。
医師養成係
電話番号:03-5253-4111(代表)(内線3683)、03-6734-2509(直通)