資料7 事務局提出資料(論点整理(素案))

論点整理(素案)目次

○ はじめに

1.医師の配置やキャリアパス等について

[1]地域偏在や診療科偏在について
[2]医師のキャリアパスについて
[3]医師派遣システムの再構築について

2.医師の勤務・診療に関する環境整備について

3.地域枠の活用等による地域医療の充実について

4.基礎研究、イノベーションを担う医師(研究医)養成の充実について

5.国際貢献等グローバルな視点で活躍する医師養成の充実について

(※ 以下は、特にさらなる議論が必要と思われる項目)

6.総合医の養成の必要性について

[1]総合医の必要性
[2]総合医の養成のための教育について

7.医学教育の改革について

[1]カリキュラムの改革の必要性について
[2]各大学の特色ある教育
[3]一般教養のあり方
[4]診療参加型臨床実習の充実(基本的な診療能力の確実な修得)
[5]地域病院等と連携した教育の充実
[6]大学入学から卒後までを見通した教育の充実

8.今後の医師養成体制の充実について

[1]大学における指導体制の充実の必要性
[2]指導体制の充実の方法

以下の論点については、本論点整理以降、引き続き議論が必要

  1. 医師数の推計について
  2. 今後の入学定員増について
  3. 新設による対応について

論点整理(素案)

(はじめに)

○医学部の入学定員については、従来、昭和57年及び平成9年の閣議決定により抑制が図られてきたが、昨今の医師不足に対する社会的ニーズを踏まえ、地域の医師確保等の観点から、平成20年度より今年度まで増員が図られてきた。

○本検討会は、来年度以降の入学定員の中長期的な在り方について検討するため、昨年12月に発足し、有識者からのヒアリングも交えつつ、鋭意検討を重ねてきた。

○一方、本年4月には、規制・制度改革に係る基本方針が閣議決定され、「医師不足解消のための教育規制改革」が盛り込まれた。この中では、医師不足や地域偏在といった現状認識を踏まえ、医学部やメディカル・スクールの新設も含め検討し、今年度内に中長期的な医師養成の計画を策定することとされ、本検討会がその検討の場であることが前提とされている。

○本検討会において出された意見は、近年の少子高齢化や医療ニーズの多様化、社会経済情勢等を踏まえ、医学部入学定員の在り方や医学部新設の是非のみならず、医師の配置やキャリアパス、地域偏在や診療科偏在を踏まえた地域医療の充実、基礎研究及びイノベーションを担う医師の養成、グローバルな視点で活躍する医師の養成、総合医の養成、医学教育の改革などの医学教育の在り方そのものに至るまで、非常に多岐にわたった。

○そこでこの度、これまで本検討会においてなされた様々な議論について、一定の方向性が示されたものや、引き続き議論を深める必要があるものを整理し、現段階での「論点整理」としてとりまとめたものである。

○今後、本論点整理を踏まえて、文部科学省や厚生労働省をはじめとする関係者において、必要な財政的措置や取組が進められることを期待する。

○さらに、医師不足に対応するための入学定員の在り方や医学部の新設など、残された課題については、今後、国民的議論を深める必要がある。

※下線部は、いただいたご意見を踏まえて事務局で肉付けした箇所

1.医師の配置やキャリアパス等について

[1]地域偏在や診療科偏在について

  • 厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師調査」によれば、地域間及び診療科間で医師数の偏在が見られる。都道府県間の医師偏在状況では、人口対10万人医師数が240を超える都府県がある一方で、埼玉県や千葉県など関東地方では人口対10万人医師数が180を下回っている。
  • さらに、同一都道府県内でも、一般に県庁所在地等の都市部よりも、郡部などにおいて医師が少ない。また、北海道等非常に広い自治体もあり、人口比に加えて面積も考慮する必要もある。
  • 診療科ごとの状況をみると、医師数の全体的な増加傾向にもかかわらず、外科や産婦人科などにおいては、全体の医師数の伸びと比較してその増加率の伸びが小さい傾向にある。
  • 本検討会においては、この点について、地域偏在の問題については、地域に行ってしまうと戻ってくることが難しいのではないかという医師の不安は大きいといった意見や、診療科の偏在について、日本学術会議や日本医学会などのレベルで専門医の数と質の規制をしていくことが考えられないかといった意見が出された。
  • 大学としては、これら偏在の問題に対しては、地域枠により地域の医師を確保する施策が進めてきているところであるが、さらに医師が地域で働きやすい環境の整備のため、医師のキャリアパス構築や、医師派遣システムの再構築などの取組について、都道府県等関係団体と協力していくべきである。
  • さらに医療提供体制や医師の勤務環境、専門医制度等の見直しの必要性も指摘された。厚生労働省や関係団体においては、本検討会の意見も踏まえた議論を期待したい。

[2]医師のキャリアパスについて

  • 医師は、医学部を卒業した後にも、臨床研修、専門医となるための研修、指導医となるための研修など、継続的に学習を続けていく職業である。このため、大学病院等の研修の場にアクセスしやすい地域に医師が集中することとなる。
  • また、専門医として活躍していくために、治療にあたる症例数が多く、最先端の知識の学習環境にすぐれた都市部の基幹病院を選ぶ傾向があると言われている。
  • 本検討会においては、この点について、地域で働く若手の医師に、例えば適切な人事ローテーションにより専門医となれるキャリアパスや診療経験を生かした研究を行うキャリアパスを見せることで、地域医療へのモチベーションを働かせる必要があるといった意見や、将来の医師数を考えていく上では、医師のキャリアパスに基づくモデルを考えるべきであり、今後は、研究や留学、場合によってはそのほかの職業に変わっていくということもあり得る、といった意見が出された。
  • こういった意見を踏まえると、「地域枠」の医師が将来展望をもって地域に定着できるよう、専門医研修や研究に従事するための義務年限の弾力的な取扱い等、医師のキャリアパスを考慮した弾力ある人事システムを構築していく必要がある。

[3]医師派遣システムの再構築について

  • 地域偏在、診療科偏在の背景には、平成16年から開始された臨床研修制度の影響も指摘されている。
  • 臨床研修制度については、研修医の基本的な診療能力が向上したとの意見がある。一方、臨床研修制度の開始に伴い、大学医学部の医局への入局者が減少し大学病院の医師派遣の機能が低下したことが、医師派遣を受けていた地域の病院機能低下につながったとの指摘もある。
  • 臨床研修医採用状況を見ると、臨床研修開始前の平成15年度では、大学病院で臨床研修を受ける者の割合は72.5%だったが、平成22年度現在で47.2%まで低下しており、大学病院が新たな医師を獲得することが以前より困難となっている。
  • 本検討会においては、この点について、大学病院と地域、地域の基幹病院が密なネットワークをつくりながら、循環型の医師養成システムをつくっていくことが重要といった意見や、透明性を確保しながら、地域の大学が医師派遣システムに関与していってほしい、といった意見、都道府県が責任をもって医師を配置する機能を果たすことが重要、といった意見が出された。
  • 大学病院の医師派遣システムの再構築に当たっては、透明性を高める観点から、講座単位ではなく大学として医師派遣を行う体制の構築が必要である。
  • これらの体制構築とともに、地域医療を支援する人材を大学病院に在籍させて、大学で教育研究をしつつ地域医療を支える体制を築いていくことが有効である。
  • なお、地域の医師派遣システムの再構築に関連して、厚生労働省が予算財政面で支援し、都道府県が実施する地域医療支援センターの運営にあたっては、医師のスキルアップの場であり、地域における医師派遣の実績をもつ大学病院が関与することが重要であり、国として積極的に大学、都道府県間の連携を促していくことが重要である。

2.医師の勤務・診療に関する環境整備について

  • 医師の勤務環境については、特に若い医師の過重労働の問題を改善していく必要がある。厚生労働省の調査によれば、最も過酷な勤務環境である20代男性の病院勤務医の平均勤務時間は、1週間に実働で57.4時間となっている。
  • また、医師の過酷な勤務環境に対応していく上では、特に女性医師の勤務環境を改善していくことが重要であると考えられる。女性医師の就業率は30代中盤で最低となるという調査もある。
  • 本検討会においては、この点について、医師養成から医師が増加するまでのタイムラグを考慮すると、医療クラーク、医師以外の医療人をできるだけ現場に増やし、医師の負担を軽減するべきといった意見や、ワーク・ライフ・バランスの実現の重要性、子育て中の医師を院内保育所や病児保育などでサポートする必要性を指摘する意見が出された。
  • さらに、専門的な看護師や保健師、医療クラーク等の様々な医療職種を、大学院レベルで高度な専門性を持つ人材として養成する取組が進められていることも、ヒアリングを通じて紹介された。
  • こういった議論を踏まえると、大学としては、高度な医療職種の養成を推進し、医師の負担軽減を進めていくことが重要である。また、医師が他の医療職種と連携して医療を進めていくためには、医師の養成にあたってチーム医療の視点を教育していくことが重要である。
  • さらに、女性医師の離職を避けることは、医師不足問題の対策としても、女性の社会参画を促す観点からも重要である。
  • 大学において女性医師や看護師等の復職支援プログラムの実施や、大学病院の院内保育所の整備等が進められているが、国として引き続きこれらの取組を支援していくことが重要である。

3.地域枠の活用等による地域医療の充実について

  • 大学や都道府県においては、地域医療に従事する明確な意思をもった学生の選抜枠や、卒業後に地域医療に従事することを条件とした奨学金を設けるなど、地域医療の充実に向けた取組を行ってきている。
  • これらの取組については、従来から大学と都道府県の連携等によって実施されてきており、平成22年度現在で、67大学で入学定員1,171名の地域枠が設けられている。(文部科学省医学教育課調べ)
  • 特に平成22年度の入学定員からは、奨学金の設定等の条件の下、地域枠をつくるために医学部入学定員を増員することを認め、平成23年度定員までで372名の増員を図ってきたところである。
  • こうした取組については、大学と都道府県等の連携によって実施されてきた取組の実績から大学所在都道府県に残る割合が高まることが確認されている。
  • 本検討会においては、この点について、地域枠は、地域でキャリアを積むうちに医師が定着するきっかけになるといった意見が出され、取組自体は肯定的に捉えられている。
  • 一方で、地域枠の学生を奨学金により、義務年限中の地域医療を強制するのではなく、地域で働いていくうちに、そこで働いていくことに生き甲斐が持てるようになる教育や勤務のシステムを検討するべきといった意見や、医師としての明るい将来展望をもってキャリアを積み、結果として地域に定着する教育を工夫していくべきであるといった意見がだされた。
  • また、地域枠の学生のみならず、全ての学生が様々な地域も含めて医療現場を経験できることが重要であるといった意見も出された。
  • これらの意見を踏まえ、地域枠の取組については引き続き継続していくとともに、学生の卒後の動向などについて取組の検証を行いつつ、地域への定着に向けてより取組の効果を高めていくことが必要である。
  • このため、地域で働くことを生き甲斐とする意識を持てるよう教育を進めていくことが地域枠を実施する大学に求められる。
  • また、特に奨学金と組み合わせて実施する地域枠は、一般に、卒業後知事の指定する場所で勤務することが返還義務免除の条件とされるが、その際、地域で働く医師のキャリアパスへ配慮や、大学病院や地域医療支援センターといった医師派遣のシステムの中への位置づけ等を図っていくことが求められる。
  • なお、地域医療の向上に貢献し、地域の医療機関等と連携協力していくことは、地域枠の学生のみならず全ての医学生に対して基本的な資質として教育されていくべきことである。この教育を通じて、地域枠の卒業生のみならず、多くの医師が地域医療に携わることが期待される。

4.基礎研究、イノベーションを担う医師(研究医)養成の充実について

  • 研究医の養成については、基礎研究医となる医師の減少に対する措置とともに、製薬企業等で研究に従事してイノベーションを担っていく人材を養成していくことが重要である。
  • 医学系大学院の基礎系の講座への入る学生は、平成5年度には医師免許をもつ者(MD)が59.2%であったが、平成22年度では36.7%となっており、基礎系へのMDの進学率が低下している。
  • また、イノベーションの分野においても、欧米では、多くの医師が行政機関や製薬企業で働いているが、日本では医師がなかなか集まらず重要な医薬品の開発に遅れが出ているという意見もある。
  • 本検討会においては、基礎研究医の養成について、卒後に研究に進む医師への直接的な支援や、基礎研究医の待遇の改善が必要といった意見や、学生は卒業してすぐに臨床研修を終えておこうとする傾向があり、このことにより、基礎研究医の不足を招いているとの指摘があった。
  • また、我が国の医学の強みは、臨床経験を有する医師が基礎研究を行えることであるとの意見が出されており、製薬会社等の研究部門において医師を増やしていくことが考えられる。
  • 研究医の養成については、平成22年度の入学定員から、複数大学の連携により研究医を養成するための医学部入学定員増員を、奨学金の設定を条件に認め、平成23年度入学定員までに23名の増員を図ってきている。
  • 今後は、研究を志向する医師が研究費やポストの面で不安を感じている点について、企業や研究機関と連携して支援策を講じる等の方策を検討していくべきである。
  • また、臨床研修に進む間に研究を志向するモチベーションを低下させてしまわないよう、医学生がシームレスに医科系の大学院に進学する方策を検討する必要がある。

5.国際貢献等グローバルな視点で活躍する医師養成の充実について

  • 我が国の医療技術、医療サービスは世界最高水準にあり、グローバルな社会の中で医療の分野においても国際貢献を進めていくことが求められている。
  • 現在行われている国内の医科系の大学の国際貢献活動としては、学生の派遣・受入れといった教育面や、共同研究の実施といった研究面での貢献のみならず、治療技術指導のための医師派遣等の医療面での貢献等が見られる。
  • 本検討会においては、この点について、長崎大学熱帯医学研究所などの発展途上地域への医療協力する大学の取組や、貧困地域での医療活動の状況が報告された。この際、日本の医師が国際的に活躍していくためには、国として国際活動を行う医師を養成する場を提供していくことが必要であるといった意見が出された。
  • これらの意見を踏まえると、後述する臨床実習の充実等、日本の医学教育を国際水準からみて遜色ないものとしていくことが必要である。
  • また、国際水準の教育を実施していることを証明する観点から、日本の医学部がWFMEグローバルスタンダードに基づくプログラム評価を受ける場合の環境整備を促進していくべきである。

 (※ 以下は、特にさらなる議論が必要と思われる項目)

6.総合医の養成の必要性について

[1]総合医の必要性

  • 地域医療の医師不足を背景に、自治体関係者や病院関係者から、へき地の診療所や小規模病院等で、様々な病気にまず対応できる総合医への要望が高まっている。
  • さらに、卒前、卒後に必要な医学的知識や、全身の診察、基本的検査所見のとり方などの教育にも総合医は有用と言われている。
  • また、ある程度の規模を持つ病院では、医療の高度化に伴い、より専門分化が進む中で、どの科が担当すべきかわからない症状、複数の科に横断的な対応が求められる症状などへの対応ができる総合医が求められる。
  • 高齢化という観点からも、様々な病気に複合的にかかる患者を、身近なところで診ることができる医師養成に重点を置くべきであるという意見があった。
  • さらに、東日本大震災においても、震災発生直後から、全国の大学や都道府県から、災害派遣医療チーム(DMAT)が応援に駆けつけた一方で、避難生活が長期化する中で、慢性的な疾患への対応、複数の診療科にまたがる対応が必要となった。もともとの医師不足が指摘される地域でもあり、こうした状況下においても総合的な診療能力をもつ医師の必要性があると考えられる。

[2]総合医の養成のための教育について

  • 総合医の養成を議論するにあたっては、総合的な診療を専門とする総合医と、特定の専門を持ちつつ、他の専門領域もある程度診ることのできる医師の養成の両方が必要ではないかという趣旨の意見があった。
  • 現在のところ、総合的な診療を専門とする総合医の育成のための医学教育が確立されているとは言い難く、例えば研修医の2年間だけプライマリ・ケアの勉強をすれば総合医となれるものではないという指摘もあった。大学によっては総合診療科を持ち、専門の教授等を置いているところもあるが、そうした教育研究のポストの確保も含め、今後の総合医の教育の方法や体制の構築に向けて、各大学における工夫と、国からのバックアップが求められる。
  • 総合医の育成のためには、日常的に多い疾患を中心に様々な患者、症例に接することが必要であること、診療科横断的な基礎能力が求められることから、大学病院本院だけでなく分院や他の病院等と連携した実習の実施や、病院内の診療科間の連携、協力が求められる。
  • あわせて、専門を持ちつつも、他の専門領域をある程度診ることができる医師の養成のために、卒前や卒後の研修及び臨床医の再教育や生涯教育において、基礎的な診療能力の育成(プライマリ・ケア教育)の充実を図ることが必要である。
  • なお、へき地の総合医も、病院の総合医も、一人で全て完結できるわけではなく、他の病院や専門医との連携があってこそ意義のあるものである。このため、各大学等においても、総合医を育てるだけでなく、それを活かす地域医療体制の構築に向け、病院内、病院・診療所や福祉施設等との連携や役割分担のあり方も、合わせて検討されることが望ましい。

7. 医学教育の改革について

[1]カリキュラムの改革の必要性について

  • 医学教育は、先に挙げた、基礎研究やイノベーションを担う医師、国際貢献等グローバルな視点で活躍する医師養成の充実など、多様なニーズに応えることが求められている。
  • また、短期間で医学部入学定員を増加したことなどによる医学生の学力が低下しているのではないかという意見があった。
  • こうした多様なニーズや課題に応えるためには、平成23年3月に行われた「医学教育モデル・コア・カリキュラム」の改訂の柱である、[1]基本的な診療能力の確実な修得、[2]地域の医療を担う意欲・使命感の向上、[3]基礎と臨床の有機的連携による研究マインドの涵養という視点を、本検討会で指摘された様々な課題に対応していくために、どのように充実させていくかが課題である。
  • このためには、多くの大学において、医学部の6年次の時間の大半を、医師国家試験の対策に費やし臨床実習が必ずしも十分でないと言われている現在の医学部での教育を、6年間の医学教育の効果を高め、特に後述する診療参加型臨床実習の充実など、各大学におけるカリキュラム改革が求められる。

[2]各大学の特色ある教育

  • これまでの医学教育の特徴として、他学部に比べ、卒業後のキャリアパスが画一的に考えられていたのではないか、もっと多様なキャリアパスを想定し、例えば地域医療に貢献する医師、臨床経験を研究に生かす医師など、それぞれに応じた教育を考えるべきではないかという意見があった。
  • これらを踏まえ、これからの医学教育は、どのような医師を育てるかというアウトカムから考えていくべきではないかという意見が多く出た。
  • 一方で、医学教育に関するニーズは非常に多様であり、全ての大学が全てのニーズに対応するというよりは、各大学のミッションに合わせた教育改革が期待されるという意見があった。
  • 「医学教育モデル・コア・カリキュラム」では、大学のカリキュラムのうち約2/3程度をモデル・コア・カリキュラムに基づくものとし、残りの約1/3程度を、大学ごとの特色あるものとすることを求めている。
  • 基本的な診療能力の養成といった、すべての医学部での教育に求められる教育の充実を図りつつ、例えば、地域医療への貢献、国際的に活躍できる人材の育成、医学・医療の発展につながる研究を担う医師養成など、地域の課題やニーズを踏まえた上で、大学毎の設立の理念や特色を踏まえた教育を進めていくことが求められる。

[3]一般教養のあり方

  • 医師としての専門教育のみならず、一般教養が改めて重要であるという指摘も多くなされた。
  • 大学によっては、教養教育の内容が高校での学習の繰り返しになっていたり、医学教育のカリキュラムを全体として前倒ししていくことにより、教養教育が質・量ともに貧弱になっていたりするという意見もあった。
  • これに対し、教養科目を、1年次または2年次に履修させるのではなく、6年間のカリキュラムの中に入れていく等、大学6年間を通したリベラル・アーツ教育とすることが必要という意見があった。
  • なお、教養教育の充実と関連して、米国のように、一般の大学の学部で4年間学び、その後に医学部に入学するメディカル・スクールの設置を検討してはどうかという提案がヒアリングの中であった。一方、現在の医学教育、医師、学生の質を考えたときに、現在の医学部と4年制のメディカル・スクールをダブルスタンダードとすべきではないとの反対意見があった。このため、教養教育の充実に関しては、制度の問題としてではなく、6年間を通じて医師として必要な教養を学ぶことができるようにする等、上記の各大学のカリキュラムの充実、工夫が進むことを期待したい。

[4]診療参加型臨床実習の充実(基本的な診療能力の確実な修得)

  • 臨床実習は、概ね5年次から6年次にかけて行われている。しかし実施時間数がきわめて少ない大学があることや、全体としても時間が少ないこと、さらに実習の内容が見学にとどまるものが多いなどの問題もある。
  • 背景として、前述の国家試験の準備に多くの時間を割くために実習が形骸化している場合があるのではないかという指摘があった。
  • こうした中、医学部入学定員を短期間で増加させたことに伴う、医学生の能力に対する懸念に応えていくためには、特に臨床実習の充実が非常に重要であるという意見があった。
  • このため、臨床実習については、学生が指導教員の下で医療チームの一員として、患者の診察、診断、治療等に参加する、診療参加型の臨床実習の充実が必要であるという意見が多かった。
  • 診療参加型臨床実習がある程度根付くことは、卒業後、早い段階から専門分化していくことができたり、臨床研修でのプライマリ・ケアの研修を充実できるなど、卒後の研修充実にもつながるのではないかという意見もあった。
  • また、米国のECFMGなどから要求される国際基準にこたえるためにも、診療参加型の診療実習の量・質の充実を中心に、国際的に通用する医学教育としていくことが重要である。
  • 診療参加型臨床実習の充実のためには、指導教員の確保と、その指導力の向上が不可欠であるという意見があった。
  • また、実習に協力する患者の確保が不可欠であることから、共用試験を充実させ、広く社会一般に認知してもらうことで、共用試験を通った学生が臨床実習を行う際に、患者の協力をより得やすくすることも重要という意見があった。
  • 一方、CBTやOSCEといった共用試験の合格基準は大学ごとに設定されており、共用試験に権威を持たせるためにも合格基準を統一する必要があるという意見があった。
  • 診療参加型実習の充実については、各大学における取組が必要であるが、国としても各大学における取組を後押しすることを期待したい。

[5]地域病院等と連携した教育の充実

  • 大学病院は、多くの患者を抱えている一方で、特定機能病院として、専門科に分化して、地域の病院で対応が難しい患者などを中心に受け入れている。このため、学生にとっては、大学病院での実習だけでは、日常的にかかる疾病などを幅広く経験できるわけではない。
  • このため、学生の教育のためには、大学病院の中だけで臨床実習を行うのではなく、地域の病院や診療所等との連携を行うことで、より充実した教育が行われることが期待される。特に、総合医の養成のためには、より日常的な疾病の患者と関わることができる地域の病院等との連携の必要性が高いと考えられる。
  • また、総合診療科を設置している地域の病院での実習により、学生が総合医の役割を認識し、関心を高め、その希望者が増加することも期待できる。
  • 地域の病院等においては、介護や福祉関係との他職種連携を経験する上でも有効な実習が可能となると考えられる。
  • 臨床実習だけでなく、入学して間もない段階で、早期に地域での医療を体験することで、地域医療への関心、意欲を高めることが期待できる。
  • ヒアリングで紹介された、福島県立医科大学が行っているホームステイ型の診療所実習、委員から紹介のあった東京慈恵会医科大学で行っている早期体験実習や、筑波大学が水戸協同病院と協力して設置した水戸地域医療教育センターの、一般病棟内に大学附属病院のキャンパスを設置して、指導教官を配置、学生実習を行っている例など、各大学で進められつつある取組を、今後さらに推進していくことが期待される。
  • このような地域の病院等と連携した教育を行うにあたっては、大学と病院等の間で、モデル・コア・カリキュラムや、各大学独自のカリキュラムのなかで、どのような医師養成を行っていくか等、目標の共有を図るとともに、関係者の教育能力を高める研修の機会を継続的に行うことが望まれる。

[6]大学入学から卒後までを見通した教育の充実

  • 地域医療や国際貢献に対する熱意などの「志」というべきものは、カリキュラムの工夫だけでは育めないものであるから、入学段階から、高校と大学が連携し、志ある人材が入学できるようにすべきという意見があった。各大学と、高校や地方公共団体とが連携し、学力だけでなく、医療に対する確かな意欲や責任感のある医学生を受入れ、育てることができるよう、学生募集や入学選抜の工夫を行うことが期待される。
  • 志ある医学生の確保のためには、各大学や自治体が行っている奨学金や授業料減免のように、能力と志のある若者が、経済的理由のみで医学部への進学を断念することのない道を開くことも重要である。
  • 医学部での教育の充実に関して、医学知識の評価は臨床実習前の共用試験において行い、医師国家試験は、より臨床実習によって培われた能力の評価に特化すべき等、医師国家試験のあり方についての意見も出された。医師国家試験のあり方については、厚生労働省の「医道審議会医師分科会医師国家試験改善検討部会」では、医師国家試験の内容について臨床実習での学習により重きを置く方向性が示される一方、大学における卒前OSCEなどの実施状況を見ながら引き続き議論していくこととされた。本検討会での意見も踏まえ、各大学における今後の取組が期待される。
  • 卒前OSCEの実施については、現在、半数以上の大学で取組が行われている(文部科学省医学教育課調べ)が、実施に非常に時間がかかることや、教員の能力も求められることから、大学の負担軽減も考慮することが必要との指摘があった。
  • 臨床研修については、厚生労働省において議論が開始されたところであり、本検討会において議論された内容についても議論されることを期待したい。

8.今後の医師養成体制の充実について

[1]大学における指導体制の充実の必要性

  • 今後の医学教育、医師養成の充実のためには、学生の指導をする教員の質、量の確保を初めとした医師養成体制が必要である。
  • 医学部入学定員が増えればそれに見合った教員増が必要であるが、定員増に見合うだけの教員増が行われていないのではないかという意見があった。
  • また、ヒアリングでは、大学によっては、国立大学の定員削減の中で、基礎系の教員が減ったことにより、解剖などの教育を担当する教員の確保が難しくなり、研究だけでなく、学生の教育に支障を来しているという報告もあった。
  • さらに、今後、診療参加型の臨床実習の抜本的な充実を図っていくためには、実習の教育的効果や、医療安全の観点からも、十分な指導体制が必要となる。

[2]指導体制の充実の方法

  • 指導体制の充実のため、分野によっては他学部教員の活用や学部間連携による教育や、定数外のポストの活用、臨床教授等として卒業生や地域の病院等の医師の協力により対応できるのではないか等の意見があった。数の問題だけではなく、効率のよい、効果的な教育を行う工夫が必要との意見もあった。
  • また、大学においては、全て教員から学生に教えるのではなく、いわゆる「屋根瓦方式」と呼ばれる、上級生から下級生、研修医から学生への指導など、様々な形での学習ができる仕組みを活かすことも必要という意見もあった。
  • このほか、大学の人的リソースの確保のためには、臨床医のキャリアパスが見えるようにすること、また裾野の広い研究医を育てる体制を作り、若い医師等に見えるようにするなど、大学が若い医師に将来の青写真を見させるようにすることが必要という意見もあった。
  • 一方で、こうした大学の工夫、努力だけでは限界があり、そもそもの大学の財政面の充実、安定も必要という意見もあった。医療費や高等教育全体の財政的な問題などを踏まえつつも、国民のニーズに応えられる医師を、大学が責任をもって養成していくための環境整備にも期待したい。 

以下の論点については、本論点整理以降、引き続き議論が必要 

1.医師数の推計について

 医師の需要と供給に関する中長期的推計については、厚生労働省が平成20年に機械的な試算を行っている。これによると、需要の面では医師の勤務時間の上限の設定によって推計値も大きく変わり、供給の面でも医学部入学定員の設定の仕方が推計値に大きく影響する。同時に、社会の少子高齢化が進み、人々のライフスタイルが多様化するに伴い、国民が求める医療の在り方も変化することが予想される。これらのことを踏まえれば、今後の医師数について需要と供給の正確な中長期的推計を行うことは極めて困難であると言わざるを得ない。
 ただし、いずれの前提に立ったとしても、「現時点では、医師の需要が供給を上回っていること」や「将来的には、医師の供給が需要を上回る時期が来ること」については見解が概ね一致している。
 本検討会においては、この点について、

 ○医師需要の将来予測を行うことは困難であり、米国を除いてどこの国もやっていない。

 ○人口は今後減少するが、病気が多くなる65歳以上の人口は今後増加してくることを考慮に入れるべき。

 ○将来的には若い人が減って高齢者が増え、ケアの内容が大きく変わってくる。また、要介護者が増えていく。

 ○医療が高度化して複雑になればなるほど、より多くの医者が必要となる。

 ○日本人の8割が病院で亡くなる時代となっており、かつては開業医が担当していた「看取り」は、病院の勤務医が行うようになってきている。

などの意見が出されたが、他方で、

 ○需要は予測できないことを前提に、定期的に医師の定数を見直していくという仕組みを作るべき。

などの意見も出された。
 そこで、今後の入学定員の在り方については、以上の推計の特性も踏まえつつ議論を進める必要がある。

2.今後の入学定員増について

 すでに見てきたように、現時点では、医師数について需要が供給を上回る状況にあるが、この需給間のギャップを埋めるために考えられるのが、既存の医学部入学定員の増員による対応と、後述する大学医学部の新設による対応である。
 医学部の入学定員については、従来、昭和57年及び平成9年の閣議決定により抑制が図られてきたが、昨今の医師不足に対する社会的ニーズを踏まえ、平成20年度から定員増が図られてきた。具体的には、平成23年度の定員は、20年度から計1,298人増の8,923人となっている。
 本検討会では、今後の医学部入学定員増について、例えば、

○既存の医学部の体制を強化しながら、医学部定員増で対応をしていくべき。

○2022年以降は、医師が余ってくると推計されている。この余った医師をどうするのか、我々は将来にも責任を持たなければならない。

○現在の不足数をどうするかということと未来をどうするかということは分けて考える必要がある。

○東日本大震災による医師喪失・不足に対応する目的で、10年間の時限つきで被災地にある医学部の入学定員増を提案したい。

○医師数を増やすべきでないとするならば、偏在対策についての議論が必要であり、増やすべきとするならば、都市部への集中傾向や医療費の問題を議論すべきである。一点だけを議論するのではなく、システムとして考えるべき。

などの意見が出された。
 医師不足対策として、入学定員増で対応することとした場合、将来、医師供給に超過が生じた場合に定員減に転ずるなど、需給状況を踏まえた柔軟な対応が可能であると考えられる。他方、定員増をしてから実際に医師が増加するまでのタイムラグが大きいという側面もある。
 また、定員増などに要する経費については、

○地域のニーズを議論した上で、国民の税金としてどこまで払うのか、地域のお金でどこまでやるのかという議論をしていくことが必要。

○米国並みの医療サービスを日本で提供するならばもっとずっと医療費がかかるだろうが、医療費にそこまで支出することは難しいのではないか。

とする意見が出された一方で、

○日本の対GDP比医療費(8.1%)はOECD平均(9.0%)に比べて低いとの指摘があるが、医師養成にかける費用も少ない。高等教育費を回復する機会があるならば、総合医の養成に力を入れる大学に手厚くすることが考えられないか。

などの意見が出された。
 したがって、医師不足対策としての入学定員の在り方等を検討するに当たっては、経費についても念頭に置きながら議論を進める必要がある。

3.新設による対応について

 現下の医師不足への対応として、前述の入学定員の増員による対応のほかに、大学医学部の新設による対応も考えられる。
 この点について、本検討会においては、

○既存の医学部の入学定員を増やしているが、教員も増えておらず、周りの施設もないという状況。この対応を現場に強いるのは限界があり、医学部を新設すべき。

○医学部が東西に偏在しているため、医学部を東日本に新設すべき。

○しっかりした医学教育ができるシステムを作るために医学部新設を検討するのもよいかと思うが、医師数を増加させるためだけに医学部を作るのは賛成しかねる。

○医学部を新設してから医師が働くまで時間がかかることを考えると、教員などを増強しながら、今の医学部の定員増で対応して医師を育てていくべき。

○将来的に医師数が過剰になった場合を考えると、既存の医学部定員数の調整で対応していくべき。医学部新設は到底考えられない。

などの意見が出された。
 医学部を新設することとした場合、医学部の地域偏在の解消につながるとともに、総合医などの新しい医療ニーズに特化した医師養成が可能になるなどの利点があるとの指摘がある。他方、将来、医師供給が超過した場合に規模を縮小することが事実上難しいことや、新設する際、指導力のある優秀な医師を教員として確保するために広く医師を募る必要があり、結果的に地域の医師不足が助長されるのではといった指摘もある。また、入学定員増の場合以上に新設から実際に医師が増加するまでのタイムラグが大きいという問題とともに経費面にも配慮をする必要がある。

 いずれにせよ、現下の医師不足対策として、既存の定員増による対応と医学部新設による対応とのいずれがふさわしいのかについては、現時点では結論を出すには至らず、今後、国民的議論を深める必要がある。

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