参考資料2 桑江委員配付資料

「今後の医学部入学定員の在り方等に関する検討会」

                               2011年6月13日
都立多摩総合医療センター産婦人科部長
桑江千鶴子

【提案とその理由について】

(1)医学部入学定員の在り方と医師数

 「医療の質は医師の質」であり,国民が求める良質な医師を教育養成するためには,良質な教育環境および一定数の疾患数が必要であり,しかも将来にわたって経済的に持続可能な医療制度であることが求められる。結局,人口比にして医師数の割合を一定にすることが現実的である。また、この委員会では、将来にわたり責任を持って医師数を決める必要がある。

提案:
(その年の生産人口数)X(0.3%)≒(その年の医学部定員数)

*ただし,5年ごとに見直しをする。
*社会の変化に応じて,係数を見直すことは妨げない。
*人口10万人につき医師300人になるまでの工程表は,別途定める。

    例:2012年~2020年まで    現状の8932人
     2021年~2025年まで    7000人
     2026年~2030年まで    5000人
     2031年~2035年まで    3000人など

(2)現状の医師不足問題について

 きっかけは「福島県立大野病院の母体死亡事件」であり,「都立墨東病院における脳内出血妊婦搬送問題」でいずれも産科であった。産科医療の特徴は,「いつ産まれるかわからない」しかも「急変する」分娩に対して,24時間365日,大量出血を伴う緊急手術に対処しなければならないことである。

  福島県立大野病院の産婦人科常勤医師は,たった1人であり,都立墨東病院の産婦人科医師は,2人当直体制にも関わらず研修医2人と常勤医5人しかいなかった。

 前者は代わりの医師がいなければ休みも取れず、後者はひと月に10回もの当直をしなければ成り立たなかった。こういった医療現場で産科の事故は起こった。

  医師不足は,常勤医師1~3人以下で,24時間365日分娩や救急疾患対応をしなくてはならない部分に起こっているのであって,地域の医師不足も同じ構図で説明できる。

  常勤医師定数2~3人以下の公的病院の医師不足は,北海道はじめ広い土地に人口が少ない地域での共通の問題である。非人間的な労働環境に耐えられない医師と,いつでもどこでも高度専門的医療を受けたいと希望する現場とのミスマッチがもたらしているものである。

  現状をそのままにして,たとえ医師数を大幅に増やしても,そういう現場に医師は充足しない。

(医師不足)=(病院勤務医不足)=(少数医師で24時間365日の医療を担う現場の医師不足)

(3)必要なところに必要な待遇とポストを

    医師が,仕事をしながら人間的な普通の生活ができなくては,その現場の医療は成り立たない。その指標として,女性医師が妊娠・出産しても継続して働き続けることができるかどうかがある。日本は、国連の指標では女性の地位が多くの発展途上国よりも低く、女性の社会的進出が阻まれている。今後女性の能力を活用できるかどうかは,国の存続にも関わってくる重要な問題である。女性医師が3割を占める医療は、その特殊性によって継続的就労が困難であるが、解決を目指すための、その先駆的な役割を担っていると女性医師たちは考えて、現状を変えるために努力している。

  週に1度の当直(夜勤)をするとして,少なくても
24時間365日の医療を提供する現場には,
31日÷月に4回の当直≒医師は最低8人必要

 であるが、その地域にそれだけの医師を必要とする医療二-ズがあるのかどうか,医療経済的に可能か否か,将来にわたって持続する医療を提供するためには、地域として選択と集中ができるか,アクセス・コスト・クオリティの3つは満たせないとしたら,どれをとってどれを我慢するか,アクセスはIT技術やドクターヘリ活用などによる代替え手段が可能であるか、医療提供体制として検討する必要がある。

  基礎医学の医師不足も,待遇改善とポストの確保,研修制度の見直しの中で人材を発掘することは可能であろうし,製薬会社への医師の就職や医療イノベーションへの就職も、魅力があれば解決していくだろう。こういった分野に必要なのは、臨床のニーズに比較すれば少数の医師で充足する問題だと考える。

  団塊世代の高齢化や,平均寿命の延びについての医療の需要増加については,一時的な時代の要請だが、在宅医療の推進や,寝たきり老人の防止策,痴呆症に対するグループホームの充実など,介護や保健の分野と協働で解決してゆく問題であろう。医師を増やす対策だけで,国民が満足する医療になるのかどうか,自宅で看取られることを希望している人も多くいるが、医師でなければならないとは限らないし、家族の看取りもあるだろう。寿命で亡くなっていく方に、いつでも同じ急性期医療を提供することが必ずしも良いとは限らない。国民のニーズも変化してゆくこともあるだろう。その時代にあった医療を提供することが求められている,と考える。

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