資料4 教職大学院の教育の質の保証に関する審議経過(案)

平成21年8月31日
教職大学院の教育の質の保証に関する協力者会議

 1.はじめに

○ 平成18年7月の中央教育審議会答申「今後の教員養成・免許制度の在り方について」を受けて、教職大学院制度が創設され、平成21年度現在において24の教職大学院が設置されている。

○ それぞれの教職大学院では、教育委員会等の緊密な連携の下、「理論と実践の融合」を体現する新しい教員養成の在り方を提示する様々な取組が進められつつある。

○ しかし、その一方で、発足2年目にして定員未充足の状況が多くの教職大学院でみられ、また、平成20年度の設置計画履行状況等調査において、19大学中17大学に対し留意事項が付され、様々な課題が指摘されている。

○ 各教職大学院は、当初から力量ある教員養成の制度的なモデルとなることが強く期待されていることを十分に認識し、制度導入後の現状に関し、以下の検討すべき課題について早期に点検を行い、教育内容の質の保証を図るため不断の検証・改善に努める必要がある。

2 .検討すべき課題

(1)教職大学院に求められる役割の再確認

○  教職大学院制度は、「開放制の教員養成」の原則の下に、教員としての基礎的・基本的な資質能力の育成は学部段階で行うことを基本としつつ、その上に、高度専門職業人として教員に求められる高度な実践力・応用力を育成するための専門職大学院(プロフェッショナル・スクール)として誕生した。

○ しかしながら、それぞれの教職大学院が養成すべき高度専門職業人としての教員が具体的にどのような教員なのか、その養成像や習得させるべき資質・能力について、各大学における関係者の間で必ずしも十分な共通理解が得られていない。

○ 各大学において、改めて以下の(ア)~(オ)の視点に基づき、教職大学院に求められる役割や養成すべき教員像、習得させるべき資質・能力について再確認を行い、養成に携わる教員一人一人がそれらを十分に意識して教育を行う必要がある。

(ア)学部教育との違いの明確化

○ 当然のことながら、教職大学院で養成される資質・能力が学部段階での養成と同程度であってはならない。各大学での学部レベルでの養成像の延長線上に、高度専門職業人としての教員の養成像があり、教職大学院の2年間で新たに得られる高度な資質・能力の具体化を図ることが極めて重要である。

○ 教職大学院で学ぶ際に、スタート時点で求められる資質・能力と修了時の最終的な到達点を改めて明確にし、それらを関係者で共有するとともに、教職を目指す学生に分かりやすく示していく必要がある。

○ 具体的には、既にいくつかの教職大学院で取り組んでいるように、入学時やその後一定期間におけるポートフォリオの作成などにより学生に対して学習成果の可視化を行い、最終的な到達点に向けて、学びの成果を実感させるとともに、それらを活用して各教員が担当する授業科目の改善を日常的に行うようにするといった取組が考えられる。

○ これらの取組を通して、教職を目指す学生や教育委員会等に対し、4年間の学部教育に加えさらに2年間を教職大学院で学ぶことの意義や、そこで具体的に得られる資質・能力が広く伝わるようにすることが重要である。

○ そのような観点から、現在3大学ある、学部段階からの接続コースの設置を種々の形で促進することは、学部との一貫性の中で教職大学院の意義を広げる上で有益である。

(イ)学部段階を含め教職課程全体の改善のモデルの提示

○ 高度専門職業人の養成そのものを行うという役割ととともに、教職大学院制度の大きな役割のひとつは、学部段階を含めた教職課程全体の改善のモデルを実際の姿で示すことにある。

○ それは、何よりもまず、全国のあらゆる種類の学部段階の教員養成の手本となるように、自らの学部における教員養成を具体的に改善することにつながるものでなければならない。例えば、上記(1)(ア)により、教職大学院への入学段階において学生に求められる資質能力が明確に示されることは、学部修了段階において求められる到達基準をより明確に学部に対し示すこととなる。

○ 教職大学院を設置した大学では、大学教員が学校現場に出向く機会が増え日常的に現場とのつながりが強化され、実務家教員と連携した学部段階での授業の展開が図られる等、教職大学院の設置が既に学部段階での教員養成課程の改善につながった面があるが、これをさらに系統的・組織的なものとして拡げる必要がある。

○ 教職大学院の設置により学部段階における教職課程全体に具体的にどのような改善が図られたのか、各大学で、教育委員会等のデマンドサイドからの視点を加味した検証を行うとともに、改善がみられない場合には、教職大学院に求められる役割を再度認識し、早急に必要な方策を進める必要がある。

(ウ)既存の大学院との相違

○ 教職大学院と既存の修士課程を併設する大学にあっては、教職大学院の設置の段階で両者の関係が一般的に示され、明確化されてきた。しかしながら、新たな高度の知識と技能を得たいと考えている学生や現職教員からみて、その違いがより明確に理解できるものとなっているかという視点から、改めて教職大学院と既存の大学院との違いを再確認し、学生・現職教員に正確にその違いを示していく必要がある。

○ 特に、既存の修士課程は、学校教育の各分野における深い学問的知識と能力の育成に重点を置くのに比べ、教職大学院は、理論と実践が融合したカリキュラムの中で、学校現場の課題を解決できる実践力・応用力の育成に重点をおくものである点を一層鮮明にすることが必要である。

○ その際、既存の大学院においても教職大学院の設置により教員養成教育への貢献という観点から具体的にどのような改善が図られたのか、検証を行う必要がある。

(エ)現職教員にとって魅力ある学びの場

○ 教職大学院では、現職教員を対象に、地域の学校における指導的役割を果たしうる教員として、確かな指導理論と優れた実践力・応用力を備えたスクールリーダー(中核的中堅教員)の養成を行うことが目的とされている。各大学においては、このスクールリーダーの養成像や養成されるべき資質・能力について、改めて教育委員会等の意見を踏まえ、より具体的に明確化する必要がある。

○ その際、例えば、平成20年度より新たな職として学校教育法上に定められ、各県で導入が進んでいる主幹教諭や指導教諭に求められる資質・能力の養成を図るなど、教育委員会が具体的に設定するキャリアパスに沿った養成を行うことで、教職大学院が現職教員のキャリアパスの一環として、より明確に位置づけられるようにすることが考えられる。

(オ)一般学部で教育職員免許状を取得した者が実践力を身につける場

○ 一般学部での教員養成は、教員養成系大学・学部に比べ一般的に学校現場に触れる機会が少ないなどの理由から、一般学部で教員免許を取得した者の中には、より高度な実践力・応用力を身に付けたいといったニーズがあり、このようなニーズに応えることも教職大学院の役割のひとつとして期待される。

○ その際、既にいくつかの大学で取り組まれている通り、教員養成学部以外の出身者に対して、実務家教員が中心となった勉強会の開催や、実務家教員や指導教員による個別指導・補習の実施、追加的な基礎資料の提供などを行うといった指導上の配慮が求められる。

(2)「理論と実践の融合」によるカリキュラム、教育方法の確立

1.教育委員会等からの評価及び実務家教員との協働

○ 教職大学院制度の最大の特徴である「理論と実践の融合」という新しい教員養成のカリキュラムや教育方法は、いまだ発展途上にある。そのため、各大学において、教育委員会等からの不断の評価や修了した現職教員からの評価などを通じて、常にカリキュラムや指導方法等について検証を行い、必要に応じ、将来のカリキュラムの見直しも視野にいれた柔軟な検討を行う必要がある。

○ 具体的には、例えば、教育委員会が各大学のカリキュラムを定期的に評価する場や、教育委員会と大学が共同して現職教員学生の成果発表を行う場を作ったり、学生の評価を教育委員会と共同して実施する授業を設定したりといった取組が各大学で進められており、有益である。

○ また、「理論と実践の融合」による教育を実現するための核となるのは、実務家教員と他の教員との協働体制である。

   具体的には、実務家教員と緊密な連携を図りながら、適切な教育方法や効果的な教材の選定などについて研究を行い、役割分担の明確化を図った上で、すべての科目で実務家教員とのティームティーチングを導入するなどの先進的な取組を参考に、可能な改善を積極的に行うことが重要である。

2.現職教員学生と学部新卒学生の合同教育の在り方

○   現職教員学生と学部新卒学生との合同教育については、学部新卒学生にとっては現場経験のある現職教員からアドバイスを受けることができる、現職教員学生にとっては学部新卒学生との交流を通して、新人教員への指導の訓練となるといったよい面が指摘されている。

○   その一方で、学部新卒学生からは、現場経験のある現職教員と同じ教育内容であることについての不安や、現職教員学生からは、カリキュラム等について物足りなさを指摘する声もある。

  そのため、(1)で指摘した通り、現職教員学生及び学部新卒学生それぞれの養成像や養成されるべき資質・能力、到達目標を具体的に明らかにした上で、各大学で現職教員学生と学部新卒学生の合同教育の在り方について検証を行う必要がある。

○   いくつかの大学では、例えば、高度な実践性が求められる講義や実習はクラスを分けたり、学習・実習グループの編成に際して配慮を行ったり、また、現職教員学生と学部新卒学生では取り扱う課題や教材を変える、さらに、学部新卒学生に対しては、補習や個別指導等を実施するといった取組が進められている。

   これらの先進的な取組を参考に、合同教育の良さを活かしつつ、両者の力を最大限に引き伸ばすことができるきめ細やかな指導体制を構築することが必要である。

3.実践的指導力育成のための実習体制の整備

(ア)実習免除についての検証

○ 現在24大学中19大学で何らかの形で実習の免除(うち4大学が全部免除)を行っているが、「理論と実践の融合」における実習の重要性を踏まえ、基準の厳正な運用に努める必要がある。

○ 具体的には、各教員のこれまでの勤務実績や研究実績が、各教職大学院で養成すべき教員像や習得できる資質・能力に相当するものかどうかを、書類の提出により厳密に検討することはもちろん、いくつかの大学で実施されているように、面接や入学前後のレポート、模擬授業の評価を通してより厳正な運用を図るといった取組が有益である。

○ あわせて、これまでの免除の実績と、それが教育効果に与えている影響について分析し、必要に応じ、より厳格な基準へ見直しを図ることを検討したり、カリキュラム全体で実践性が十分に担保されているか改めて検証を行う必要がある。

(イ)現職教員学生が現任校で実習を行う場合の日常業務への配慮

○    現職教員学生の現任校での実習は、現在24大学中12大学で様々な方式で実施されている。現任校での実習は、現職教員学生の実習が日々の業務に埋没し、教職大学院としての実習として期待される効果が得られないのではないかといった問題点が指摘されている。

○ 一方、実際に学校現場で抱えている課題を直ちに研究課題として取り組むことができるというメリットも指摘されており、教育委員会との連携のもと、教職大学院が責任を持って学生の資質・能力を習得させる体制を構築した上で現任校での実習を行うことは、学校現場の影響を最小限にしながら優秀な現職教員学生を多く集める点においても有効な手段のひとつと考えられる。

  そのため、例えば、いくつかの大学で取り組まれているように、大学の担当教員が定期的に現任校に訪問し、現職教員学生に対する指導を行ったり、校務分掌の見直しなどにより現職教員学生の職務の負担軽減を図るよう教育委員会等に依頼するなどの配慮を行いながら、現任校での実習を効果的に進めるための種々の工夫をする必要がある。

(3)教育委員会等との連携

○ 教育委員会や学校との連携は、教職大学院制度の根幹であり、教職大学院の創設を契機に教育委員会等との連携が進んだ大学も多い。しかし、現段階では連携が十分とはいえない大学もあり、今後さらなる連携強化が期待される。

○ 入学者の確保を図るため、教職大学院への現職教員の派遣や、修了者の処遇、名簿搭載期間の延長、採用試験・研修の免除等を図るためにも、教育委員会との連携は不可欠である。

○ 教育委員会との連携が進んでいる大学を見てみると、教職大学院の創設前から、大学教員一人一人が学校現場に積極的に出かけ、現職教員への研修を行ったり、学生ボランティアが積極的に学校現場に入るなど、教育委員会側としても得るものが大きい関係となっている。また、教職大学院の修了を教育委員会の人事システムに組み込むといった具体的な制度上の連携を図る例もみられる。

○ 教職大学院の創設を契機にさらに連携を深めるためには、教育委員会から派遣されている実務家教員を通した現場への結びつきを進めつつ、例えば、実習に際し、大学教員が専門的見地からサポートを行いながら学校現場の課題を解決するなど、教育委員会側にとって利益となるような関係を積み重ねることが重要である。

○ その上で、教育委員会等からの不断の評価を通じて、デマンドサイドの意向を踏まえたカリキュラムや教育方法を積極的に生み出すのはもちろんのこと、教職大学院のみならず学部段階を含めた教育委員会や学校現場との継続的な連携体制を構築することが必要である。

(4)入学者の確保

○ 平成21年度入学者選抜において24の教職大学院中、11の教職大学院で定員未充足となっており、入学者の確保は大きな課題となっている。

○ これらの教職大学院に対して行ったヒアリング結果を踏まえると、定員未充足の主な理由として、(ア)教育委員会の財政事情による派遣者数の伸び悩み、(イ)教職大学院の学習・成果についての理解の不十分さ、(ウ)教職大学院修了後のメリットの不明確さ、(エ)都市部における教員採用数増加による進学者の減少、(オ)授業料等の経済的負担の大きさ(景気後退により進学辞退者も増加している)、(カ)現職教員の多忙のための、学習機会の確保の困難さ(キ)広報期間・募集期間の不十分さ(21年度新設大学)といった点があげられる。

○ 主な改善方策としては、教育委員会との連携による教職大学院への進学のインセンティブを高める取組や、奨学金の充実・授業料の減免などがあげられる。これらの方策について、各大学ではすでに取り組んでいるところではあるが、今後の入学者の確保に向けて一層の努力を進める必要がある。

○ 学生の質を保ちつつ安定的に定員を確保していくためには、長期的視点に立ち、上記(1)~(3)の教育内容の質の保証を図るための取組を積み重ねていくことが基本となる。 

○ また、社会人経験者を数多く受け入れている、又は専門教科毎の実践力・応用力を身につけるコースを設定している、学部との継続コースを設けているといった各教職大学院の特色を打ち出していくことも有益であると考えられる。

○ なお、各大学において、上記(1)~(3)に掲げる教育内容の質の保証のためのあらゆる取組を実施した上で、定員を充足できないことが中長期的に見込まれる場合には、入学定員の見直しを検討していく必要がある。

 

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