【資料3】薬学教育モデル・コアカリキュラムの基本理念と利用上の留意点について(中間まとめ)(案)

1. モデル・コアカリキュラムの基本理念と位置付け

【基本理念】

大学における各分野の社会的要請に応えた人材養成のためのカリキュラム構築は、本来、各大学が独自の理念や特色に基づいて設定すべきものである。しかし、修業年限6年の薬学教育プログラムを実施する学部又は学科(以下、「6年制学部・学科」という。)の場合は、大学卒業時に薬剤師の資格にふさわしい必要最小限の基本的な資質や能力を備えていることが求められる。一方、生命科学、医学や科学技術の進歩は著しく、医療における薬剤師の情報量と職責に求められる薬学の知識や技能は増え、専門分化されると同時に高度化している。限られた教育課程の中で、これらの膨大な知識や技能等を網羅して修得することは不可能であり、6年制学部・学科の学士課程教育では、将来どのような分野に進んだ場合にも共通に必要となる薬剤師としての基本的な資質と能力を養成するべきである。その上で、生涯にわたって常に研鑽し、社会に貢献することが求められる。このような状況において、薬学教育モデル・コアカリキュラムは、6年制学部・学科としての教育内容を精選し、卒業時までに学生が身に付けておくべき必須の実践的能力(知識・技能・態度)の到達目標を分かりやすく提示したものである。

【位置付け】

薬学教育モデル・コアカリキュラムは、6年制学部・学科におけるカリキュラム作成の参考となる位置付けの教育内容ガイドラインとして提示したものである。項目立てや記載内容は、各大学における授業科目名を意味するものではなく、また、履修の順序を示すものではないことに留意すべきであり、具体的な授業科目等の設定や教育手法等は各大学の裁量に委ねられている。
また、モデル・コアカリキュラムに示された教育内容だけで薬学の学士課程教育が完成するものではなく、6年制学部・学科の教育課程の全てを画一化したモデル・コアカリキュラムの履修にあてることは正しくない。6年制学部・学科のカリキュラムは大別すると、従来の教養教育を含む薬学準備教育、モデル・コアカリキュラムに準拠した教育、各大学独自の薬学専門教育から構成されるが、これらの履修時期、時間は教育研究上の目的に沿って学修成果を評価しながら、バランスよく配当される必要がある。改訂後の薬学教育モデル・コアカリキュラムは到達目標(SBO)数の上で、従前のものに比してスリム化されていることもあり、およそ教育課程の時間数の7割を、モデル・コアカリキュラムに示された内容の履修に充てることが妥当と考えられる。
各大学においては、それぞれの教育理念等に基づいて、薬学アドバンストカリキュラムを含む特色ある大学独自のカリキュラムを設定することが必須であり、学生のニーズや将来の進路に合わせて自由に選択できる多様なカリキュラムを提供することが重要である。このモデル・コアカリキュラムに示された内容を確実に修得した上で、残りの3割程度の時間数で個性ある各大学独自のカリキュラムを準備することが必要である。(○ページ【薬学準備教育ガイドライン及び大学独自の薬学専門教育カリキュラムの設定】を参照)
今回の改訂は、大学が主体的で実効性のある充実した薬学教育を展開することにより、6年制薬学教育の質の向上を目指すために行うものであり、各大学の教育カリキュラムが薬学共用試験や薬剤師国家試験の合格することを目標とする教育に過度に偏ることのないよう留意すべきである。

2. 表示の方法と利用上の留意点等

【基本的資質】

薬学教育モデル・コアカリキュラムの基本理念や医療全体を取り巻く情勢の変化等を踏まえ、「薬剤師として求められる基本的な資質」を、(1)薬剤師としての心構え、(2)患者・生活者本位の視点、(3)コミュニケーション能力、(4)チーム医療への参画、(5)基礎的な科学力(6)薬物療法における実践的能力、(7)地域の保健・医療における実践的能力、(8)研究能力、(9)自己研鑽、(10)教育能力の10の視点より明確にした。

【一般目標と到達目標】

薬学教育モデル・コアカリキュラムでは、卒業時までに修得されるべき「薬剤師として求められる基本的な資質」を前提とした学習成果基盤型教育(outcome-based education)に力点を置いている。すなわち、最終的に「基本的な資質」を身に付けるための一般目標(学生が学修することによって得る成果)を設定し、一般目標を達成するための到達目標(学生が一般目標に到達するために、身に付けておくべき個々の実践的能力)を明示した。学生が卒業時まで(一部は臨床薬学実習開始前まで)に到達目標を包括的に修得することで、個々の一般目標が達成され、個々の一般目標をスパイラルに発展させることで「基本的な資質」を修得できる。到達目標の総数は1,061項目であり、これらは客観的に評価できるよう、可能な限り明確な表現とした。

【A~Gの項目立て】

項目A~Gは、各大学におけるカリキュラム作成の参考として利用しやすくし、学修者に学修内容の全体像を把握しやすいよう構成した。薬学生が薬剤師として身につけるべき生命・医療の倫理、チーム医療とコミュニケーション、患者中心の医療、医療安全、薬学の歴史及び生涯学習などを学ぶ【A 基本事項】、人、社会の視点から薬剤師を取り巻く様々な仕組みと規制、及び薬剤師と医薬品等に関わる法規制、地域における保健、医療、福祉などを学ぶ【B薬学と社会】は、入学後早期から卒業までに継続して修得していくべき内容である。また、薬学生が、いずれの分野に進むにせよ必要である薬や化学物質と生命に関わる物理系薬学、化学系薬学、生物系薬学の知識と技能を学ぶ【C 薬学基礎教育】、人々の健康・公衆衛生、生活環境・健康保全を学ぶ【D衛生薬学教育】、薬の作用・体内動態・疾病治療、製剤化を学ぶ【E 医療薬学教育】では、それぞれの項目の知識・技能のみにとらわれることなく、薬剤師に必要な人の命と健康を守る使命感、責任感及び倫理観を養えるよう十分な教育上の工夫が必要である。【F 薬学臨床教育】は、薬学実務実習前に、大学において調剤、製剤、服薬指導など薬剤師としての職務に必要な基本的知識、技能、態度を学んでおく到達目標(事前学習)と、病院及び薬局で行う参加型の薬学実務実習の到達目標(薬学実務実習)からなっている。薬学実務実習では、病院又は薬局に勤務する場合に必要となる内容について効果的に履修できるよう、これまで重複して履修していたものを整理したものであるが、すべての内容は適切な医療提供施設の環境と実習先の指導薬剤師及び大学教員のもとで効果的に実施するためには別途方略を設定することが必要である。さらに、AからFまでの履修を基盤にして、【G 薬学研究】を学ぶことにより、研究課題を通して、科学的根拠に基づいて問題点を解決する能力を修得し、それを生涯にわたって高め続ける知識、技能、態度を養うことも必要である。

【アドバンストカリキュラムの設定】

 アドバンストカリキュラムの到達目標は、卒業時までに修得することが望ましい内容を示すが、すべての学生に一律に履修を求めるのではなく大学の特色や学生の進路に応じて、できる限り幅広く履修することが望まれる。また、履修時期についても各大学のカリキュラム体系の中で、適当な時期を選ぶことが望まれる。

【薬学教育における実習】

 薬学臨床教育を学ぶためには、知識だけでなく、実習を通じて経験する学修が重要である。したがって、薬学教育における実習を充実するとともに、その実習について適正な評価を行わなければならない。実習には、入学後の早期の段階から実施される地域の保健、医療、福祉、介護等の機関における【F薬学臨床教育】(番号)の「早期体験学習」、主として2~4学年次に実施される【C薬学基礎教育】(番号)「薬学基礎実習」、4~5学年次に実施される【F薬学臨床教育】の「実務実習事前学習」と「病院・薬局における実務実習」、5~6学年次に実施される【薬学研究】などがある。これらの実習を6年間の教育課程の中で段階的かつ体系的に関連づけて実施することにより、効果的に体験・認識を蓄積していくことが必要である。
「薬学基礎実習」で行うべき実習項目について、【C薬学基礎】の中に「到達目標(技能)」を設けた。なお、その実施時期については、講義及び演習等の授業内容と緊密に連携させるように設定すべきである。
 なお、実習においては、予測されるリスクを回避、低減させるためのマネージメントとともに、学生が常に安全を確認しながら学修を行う習慣が身につくように指導することが必要である。また、化学物質、実験動物、培養細胞や細菌、低レベル放射線などを用いた実習においては、それぞれの取扱いに関わる国内外の法令や国際条約の遵守とともに、生命倫理、生物多様性や自然環境保全を規範とする態度を学修することの重要性を指導する。

【薬学準備教育ガイドライン】

医療の担い手としての薬剤師を目指す6年制薬学教育の前提として身につけておくべき基本的事項をガイドラインとして提示した。薬学準備教育では、人文科学、社会科学及び自然科学などを広く学び、知識を獲得し、様々な考え方、感じ方に触れ、物事を多角的に見る能力と医療社会のグローバル化に対応するための国際的感覚を養うことを目的とした専門性の高い語学能力を養う。そして、見識ある人間としての基礎を築くために、自分自身について洞察を深め、生涯にわたって自己研鑽に努める習慣を身につけておくべき基本的事項を<1 人と文化>、<2 薬学・薬剤師英語入門>、<3 薬学の基礎としての物理>、<4 薬学の基礎としての化学>、<5 薬学の基礎としての生物>、<6 薬学の基礎としての数学・統計学>、<7 IT>、<8 プレゼンテーション>として整理し、提示した。薬学教育の準備という視点から提示されたものであるが、これらは薬剤師、研究者となる上で不可欠となる素養を培っていくものである。

【選択的な大学独自のカリキュラムの設定】

各大学は、それぞれの理念や教育研究上の目的に基づいて学生段階からの研究志向の涵養(かんよう)や、学生の興味や将来の専門分野への志向に応じて、学生自身が自由に選択できる特色あるカリキュラムを、各大学の教育研究上の目的に基づいて準備することが重要である。
カリキュラムとしては、研究室配属等を通じた科学的・論理的思考の修得や、基礎研究や臨床研究を実施するために必要な基礎的訓練(研究方法論、研究倫理、研究取りまとめ方法、発表・研究報告/症例報告の公表)等、探求心旺盛な学生の将来の展望にも配慮し、高度で応用的な特定分野等の素養を養う必要もある。薬剤師業務の医療現場でのニーズの変化や医療の国内外の動向に対応、あるいはそれらを先取りすることも重要である。
また、これらの実施に当たっては、各大学の状況に合わせて、研究室等での実験研究への参加や成果の取りまとめ、病院及び薬局における薬学実務実習と経験した研究の取りまとめ、海外派遣研修等の多様な授業形態とし、これらの成果の発表とその評価等の修了要件も明確にすることが必要である。

◎平成25年度改訂版・薬学教育モデル・コアカリキュラム改訂概要

今回の改訂は、「薬学系人材養成の在り方に関する検討会」(座長:永井良三自治医科大学長)(以下、「検討会」という。)において各大学の現状や寄せられた要望等、また、大学団体及び職能団体等からの改訂に対する強い要望を踏まえて審議された結果行うことと決定した。平成23年に恒常的なカリキュラムの検討を行う組織として設置された薬学教育モデル・コアカリキュラム改訂に関する専門研究委員会(以下、「専門研究委員会」という。)において、改訂の原案・方針の作成の原案作成が行われ、(1)6年制学部・学科の学士課程教育に特化した内容とすること、(2)現在の薬学教育モデル・コアカリキュラム及び実務実習モデル・コアカリキュラムの二つを関連づけて一つのコアカリキュラムとして作成すること、(3)薬剤師として求められる資質を明確にし、その資質を身につけるためにこれを学ぶ形で編成するという方針を決定し、検討会においてその方針が了承され作業が開始された。その後、専門研究委員会において薬剤師として求められる基本的資質(案)が作成され、具体的な作業チームとして日本薬学会に薬学教育モデル・コアカリキュラム及び実務実習モデル・コアカリキュラム改訂に関する調査研究委員会(以下、「調査研究チーム」という。)が設置され、大学へのニーズ調査や具体的な改訂作業が行われた。
具体的には、(1)薬剤師の基本的な知識、技能、態度の確実な修得、(2)チーム医療及び地域の医療を担う意欲・使命感の向上、(3)基礎薬学教育と臨床薬学教育の有機的連携による研究マインドの涵養(かんよう)、(4)薬剤師として生涯にわたり学び続ける意欲の醸成、の4つの観点から検討し、更に近年の薬学教育に対して社会から求められる事項及び全体の利便性向上に留意しつつ、改訂を行った。以下、具体の内容を概説する(略)

◎薬剤師として求められる基本的な資質(案)

豊かな人間性と医療人としての高い使命感を有し、生命の尊さを深く認識し、生涯にわたって薬の専門家としての責任を持ち、人の命と健康な生活を守ることを通して社会に貢献する。
6年卒業時に必要とされている資質は以下の通りである。

(薬剤師としての心構え)
薬の専門家として、豊かな人間性と生命の尊厳について深い認識をもち、薬剤師の義務及び法令を遵守するとともに、人の命と健康な生活を守る使命感、責任感及び倫理観を有する。

(患者・生活者本位の視点) 
患者の人権を尊重し、患者及びその家族の秘密を守り、常に患者・生活者の立場に立って、これらの人々の安全と利益を最優先する。

(コミュニケーション能力)
患者・生活者、他職種から情報を適切に収集し、これらの人々に有益な情報を提供するためのコミュニケーション能力を有する。

(チーム医療への参画)
医療機関や地域における医療チームに積極的に参画し、相互の尊重のもとに薬剤師に求められる行動を適切にとる。

(基礎的な科学力)
生体及び環境に対する医薬品・化学物質等の影響を理解するために必要な科学に関する基本的知識・技能・態度を有する。

(薬物療法における実践的能力) 
薬物療法を総合的に評価し、安全で有効な医薬品の使用を推進するために、医薬品を供給し、調剤、服薬指導、処方設計の提案等の薬学的管理を実践する能力を有する。

(地域の保健・医療における実践的能力)
地域の保健、医療、福祉、介護及び行政等に参画・連携して、地域における人々の健康増進、公衆衛生の向上に貢献する能力を有する。

(研究能力)
薬学・医療の進歩と改善に資するために、研究を遂行する意欲と問題発見・解決能力を有する。

(自己研鑽)
薬学・医療の進歩に対応するために、医療と医薬品を巡る社会的動向を把握し、生涯にわたり自己研鑽を続ける意欲と態度を有する。

(教育能力)
次世代を担う人材を育成する意欲と態度を有する。

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