医学教育カリキュラム検討会(第3回) 議事録

1.日時

平成21年2月27日(金曜日)16時45分~18時45分

2.場所

文部科学省13F1・2会議室

3.議題

  1. 地域や診療科に必要な医師を養成・確保するための方策(関係者からのヒアリング)
  2. その他

4.出席者

委員

荒川委員、飯沼委員、石川委員、今井委員、小川委員、北村委員、田中委員、辻本委員、寺尾委員、名川委員、奈良委員、伴委員、平野委員、福田委員、南委員、吉田委員、吉村委員

5.議事録

○荒川座長  それでは、時間でございますので、これから第3回の医学教育カリキュラム検討会を開きます。

 前回も、地域や診療科に必要な医師の養成・確保につきまして3名の方にお話を伺いましたが、きょうもまた3名の方々においでいただきまして、ヒアリングをしたいと思っております。

 最初に、事務局から、きょうの委員の出欠状況、それから配付資料の確認をお願いします。

○樋口医学教育課長補佐  失礼いたします。本日、非常にお足元の悪い中ご出席いただきまして、まことにありがとうございます。

 今回の出席状況でございますけれども、おくれてこられる方も含めまして、座席にお配りしています座席表のとおりでございます。

 次に、配付資料の確認をさせていただきます。

 今回のカリキュラム検討会会議次第をおめくりいただきますと、前回、第2回のカリキュラム検討会の概要(案)を資料1としてございます。資料2といたしまして、事務局提出基礎資料。以下、資料3としまして海野信也先生の資料、資料4としまして板橋先生の資料、資料5といたしまして横田先生の資料、いずれも本日、意見発表をお願いいたしました先生方からご提出いただいている資料でございます。また、参考といたしまして、先般取りまとめられました医師臨床研修制度等に関する意見につきまして、検討会の報告書を付してございます。

 配付資料につきましては以上でございます。

 なお、前々回、前回の検討会の議事録につきましては、作成後、速やかに先生のところにご送付させていただきまして、ご了解の後、ホームページ上の公開をさせていただく予定でございますので、よろしくお願いいたします。

 資料等の過不足がございましたら、お申し出いただきますようお願いいたします。よろしゅうございますでしょうか。

○荒川座長  どうもありがとうございました。

 各診療分野の方々から、医学教育に求められるものということでお話を伺っておりますが、きょうも3人の先生方にお集まりいただきました。お忙しいところ、どうもありがとうございました。

 ご紹介しますと、産科婦人科の立場から北里大学の海野信也先生、日本産科婦人科学会・産婦人科医療提供体制検討委員会の委員長を務めておられます。それから、周産期・新生児分野の立場から、昭和大学の板橋家頭夫であります。日本周産期・新生児医学会の理事でございます。それから、小児科の立場から、横浜市立大学の横田俊平先生でございます。日本小児科学会の会長でございます。その先生方から、診療科を取り巻く課題、将来の診療科の医療の担い手をどうするか、そしてまた、すべての医学生に対しまして医学教育の修了までにどういうことが求められるかということにつきまして、お一人10分をめどにプレゼンテーションを行いまして、議論をしたいと思います。

 ヒアリング前に、事務局から関連資料の説明をお願いします。

○樋口医学教育課長補佐  失礼いたします。資料2に、事務局提出資料がございます。ここに関して簡単にご説明いたします。本日、時間の限りがございますので、どのようなことがこの中に書いてあるか、概略だけ説明させていただきます。

 資料2、1ページをお開けいただいて、ページ番号でいうと2番以降でございます。まず、この資料の構成といたしましては、産科、小児科、周産期医療にかかわる医師養成に関して、各大学さまざまな取り組みがある中で、卒前、卒後に一貫して取り組んでいる大学の例、これは私どもが補助金の形で支援していた事業でございますけれども、幾つか記載してございます。

 また、ページ番号5の右下のところでございますけれども、来年度から医学部の定員増を行う際、各大学に計画をお願いいたします地域医療に係る貢献策の中で、産科、小児科等の医師養成に係る取り組みを出していただいた大学の中から、幾つかの領域に絞りまして例を示したところでございます。例えば、4年時から大学院までに至る一貫したプログラムでコースを設けている例、学部の早い段階で産科、小児科に進むきっかけを与える機会を設けている例、1診療科ではなくて、さまざまな診療科の横断的なプログラムを形成している例、そうした中で関連の地域病院との連携を強化し、そういう中で県との連携で奨学金などをつけて、卒後も奨学金などの形を通して定着を図っていく例があるところでございます。

 ページ6以降でございますけれども、主として臨床実習の取り組みに係る近年の動向について例示してございます。第1回の資料の中でも提示させていただいたところが多うございますので、説明のほうは省かせていただきますけれども、臨床実習に係るさまざまな取り扱い、それから学生の医行為に関して、今、大学でどういう取り扱いがなされているかという概略をお示ししたところでございます。

 参考資料といたしまして、臨床研修制度のあり方等に関する検討会から、2月18日付で意見の取りまとめがございました。この検討会の概略につきましては先般の会議の中でも申しましたので、時間の関係上、詳細な説明は省かせていただきますけれども、こうした臨床研修制度の見直しを踏まえた卒前教育のあり方を考えていくというのが、カリキュラム検討会設置の一つの大きな柱でもございますので、申しわけございませんが、先生方にはお時間ができたときにご一読いただけますと非常に幸いでございます。

 以上でございます。

○荒川座長  どうもありがとうございました。

 それでは、これからヒアリングを始めたいと思います。

 最初に、海野先生、お願いできますか。

○海野発表者  北里大学の海野と申します。私、厚生労働省で昨年の夏に行われました、「安心と希望の医療確保ビジョン」具体化に関する検討会の委員もさせていただいておりまして、その辺の議論が今回の臨床研修の検討会、それから、この検討会という形でつながってきているのかなと思いまして、その辺も踏まえてちょっとお話ししたいと思います。

 私ども産婦人科なわけですけれども、これは産婦人科の医師の数です。60歳未満の医師の数になりますが、60歳未満となりますとだんだんに入れかわっていきますから、定常状態では変わらないはずなんですが、基本的には、上の診療所勤務医が増えて、病院勤務医が減少しているという状況がございます。病院勤務医が6年間に11%減少しているというのが産婦人科の状況になります。

 それで、今、一般病院と大学病院で産婦人科医がどういう勤務状況にあるのかを学会で調査をして、データをまとめている最中です。これは報道もされましたけれども、一般病院では月間300時間ぐらいの在院時間がございます。大学病院の場合は、勤めている病院とアルバイトがありますが、両方を足しますとプラス60時間ぐらいの在院時間があります。どこが過労死レベルかは難しいところですけれども、在院時間が非常に長い勤務を現状でやっているということは間違いのない事実だと思います。こういうことを学生が見ているというのが一番です。

 今、産婦人科医がどういう状況にあるかという一例を挙げますと、これは日本の産婦人科医の英文論文の数の変化です。この間、産婦人科学会で調べたんですけれども、産婦人科の臨床の2大英文誌、グリーンジャーナルとグレージャーナルと言っていますけれども、発表論文は2003年から2006年で激減して、20年前のレベルまで落ちてしまっているというのが現実でございます。ほんとうに悲しいことですけれども、これも事実です。

 これは、ビジョン検討会のときに厚労省で調べていただいたデータですが、外科系学会の新入会員の数です。もちろん、学会に入ったから、みんなその科の専門医になるかどうかはわかりませんけれども、学会に入らないと専門医になれませんので、基本的には、毎年、新規専攻者を反映する数字だと考えられます。これが外科です。1994年から2007年まで、臨床研修導入の2年間で落ち込んで、その後、どう戻ってきたかが問題になりますけれども、基本的には長期下落傾向から脱していないことがわかります。

 産婦人科が足りないということは、私どもも随分喧伝しているところでありますが、外科系も形成外科を除いて全部減っています。減り方も大体同じような割合、20%とか、そのぐらいの減り方をしています。この減少分は、前は臨床現場にいたはずの人たちがいなくなってしまっているという数になります。これが、医療崩壊の一つの大きな要素にならざるを得ないだろうと思います。

 産婦人科学会の状況は、数が減っているという状況プラス女性医師の増加という著しい特徴を持っております。これは、直近の産婦人科学会の学会員の年齢と人数を男性と女性とでプロットしたものです。ごらんいただくとわかりますように、学年ごとの全体の数はそんなに変わらないかもしれないですけれども、女性医師の割合が毎年どんどん増えている。現在、20代の産婦人科医ですと、7割が女性という状況でございます。

 学会の新入会員の数を年次別に見ると、こういう状況でございます。今、我々、必死になって産婦人科医をリクルートする活動をしております。その結果として、臨床研修制度導入以前の状況に何とか戻れたかなというところまで来ました。いろいろな施策でご協力いただいている結果ですが、こういう状況にあります。これでも、産婦人科医はまだまだ減っていくだろうという状況であります。

 女性医師の増加という部分ですが、これも学会の調査ですけれども、産婦人科の女性医師は15年働きますと50%が分娩の現場から離れるということがわかっています。男性医師は20%ぐらいですから、女性医師の増加分が全トータルの現場の医師の数の減少ということにもなります。

 今の臨床現場、これは産婦人科医限りませんけれども、過重労働の問題があります。そういう環境が女性医師が続けられない環境をつくっていて、それが絶対的労働力の減少を招いている。外科系の壊滅というのはご理解いただけると思います。産婦人科医だけではないようですけれども、研究分野の非常な停滞がこの数年起きています。

 それから、これは研修医、あるいは若い先生たちの考え方ですが、臨床研修導入でプライマリケア重視だと、医学部教育の段階からずっと言われています。それはもちろん正しいことなんですが、彼らの立場からいくと、学生は易きに流れますので、プライマリケアだけでよしとする風潮が起こります。それで、長期間の修練が必要な診療分野への新規専攻者の減少を招くということが起こっているのではないかと思われます。

 私ども産科婦人科学会は、何とかこの状況を改善しようということで、学生、研修医への働きかけを強めております。何が問題なのかと申しますと、産婦人科医になる人間はそんなに多くないわけです。100人の学生がいたとしても、10人はいない、せいぜい数名であります。どうしようかなと思う人間がいたとしても、個々の大学ではかなり少数派で、孤立した存在で、自分は考え方がおかしいのではないかぐらいに思っているような学生が多いのも確かです。そういう学生を集めて、サマースクールというものをやってみたんですが、自分と同じ考え方を持っている人間が結構いることがわかって、産婦人科医が少し増えてきた非常に大きなきっかけになったのではないかと、私どもは考えています。

 それで、医学教育の問題点で、私、診療科間偏在との関係でずっと考えていたんですが、学生の立場でいいますと学生時代のハードルがございます。まず、入学試験が一番大変なハードルで、その後、各学年に上がっていって、CBT、OSCEがあって、臨床実習に入って、卒業試験があって、医師国家試験がある。そういう中で学生は、目前の大きなハードルを常に意識しながら勉強したり、生活しています。今、起きていることは、医師国家試験は非常に難しいです。全部の学生ではないかもしれませんけれども、非常に難しい。5・6年生の臨床実習の間に、本来、臨床現場で学ぶべきことが十分学べていない可能性が高いと思います。CBT、OSCEでせっかく臨床現場に出るための基本的、基礎的な学力を得ている学生たちが、この間を医師国家試験の勉強のために費やしている結果になっている。

 その結果として何が起きるかというと、前は卒業した時点で専攻科を決めるだけの判断ができる状況になっていたわけですけれども、今、大多数の学生はそこでは決めない。もう2年間様子を見ているわけです。トータルとして起きていることは、卒前の臨床実習期間がむだになっている可能性があると思います。

 私自身は、医師国家試験のハードルを少し下げて、学内での判断をするCBTのハードルを上げることで、ここは大分改善できるのではないかと考えております。いろいろな問題はありますが、ビジョン具体化検討会で一番問題になっていましたのは、日本の教育予算が少な過ぎるということが議論されていたんですが、それは厚生労働省の会議では取りまとめに入れられないと言われました。それで、やむを得えず入ってないんですけれども、そこが一番大きく議論されておりました。

 私自身は、卒前、卒後の教育内容に、過剰に国家が介入している現状があるのではないか。コアカリキュラムは大変よくできていると思いますが、医師国家試験のガイドラインも含めて、全体の量があまりにも多くて、学生はそれを消化するだけで、少なくとも北里の学生は消化し切れないまま卒業しているのが現実だろうと思っています。あとは、文部科学省と厚生労働省との間での、改革の一貫性の欠如があるのではないかと考えております。

 もう一つ検討会で問題になったことですが、私立医科大学の高額学納金の問題です。今、自治医大と産業医大を除きますと、私立医科大学の平均学納金は3,420万円です。国立の10倍ぐらいです。これが、医学生の30%程度を占める私立医科大学生の背景にあるということになります。そういう富裕層の中から選んでいるのが、今の医学生の30%なんだということがあるかと思います。それを何とかしようと思えば、学費を下げればいいんですけれども、何とか下げられないものかお願いしたい。今年、順天堂は大分下げていただいたようですけれども、これが何とか進むといいかなと思っています。

 国家試験は、先ほど申し上げましたように、難し過ぎることが卒前の臨床実習の形骸化につながっているのではないかと思います。これを何とか改善するには、まず量の問題と、もっと臨床に即した、臨床実習の内容と近い問題を出していかなければいけないのではないかと考えます。

 医学の問題で私どもが一番悩んでおりますのは、臨床系教員の劣悪な環境です。その中で、教育デューティーは増大しています、臨床のデューティーも増大していますので、研究活動は壊滅しているということです。

 産婦人科の事情を申し上げますと、産婦人科は医者全体でいえば、もとは10%ぐらいいたんですが、今、4%を切るぐらいの数です。医療全体の適正な数のバランスからいっても、全体の6%から8%程度ではないかと思いますが、ほかの分野の診療内容と重複している部分が非常に少ない。ですから、産婦人科医がいないとどうしようもないという局面がいろいろなところで起こります。

 もう一つは、女性のセクシャリティに関係することがあるものですから、学生としては非常に入りにくい分野で、勉強するのがなかなか難しい分野です。ですから、十分な知識に基づいた上で現場に入っていくことが必要な分野ということになります。

 今、申し上げたような問題点があって、産婦人科の診療領域を支える人材養成ができていない状況があります。私ども名案はないんですけれども、状況としては、これは産婦人科に限らず外科系に共通の問題があるんですが、診療部門の勤務条件を緩和する必要がある。それには、教育費を増やしていただくことにもつながりますけれども、定員を増やすことが必要だろう。それから、細かいことですが、男子学生の実習、お産の見学ができないということが起こっています。患者さんとかお産される方々に断られてしまうことが多いので、学生実習の自由度をどうやって確保していくのかということを、特に産婦人科側から申し上げないといけないと思っております。

 以上でございます。

○荒川座長  どうもありがとうございました。

 後ほどまた全体でお話はありますが、今の海野先生のお話に特にコメント、ご質問があればお願いしたいんですが、いかがでしょうか。どなたでも結構です。

 今井先生、どうぞ。

○今井委員  ありがとうございました。札幌医大の今井と申します。

 大変生々しい実情がよくわかりまして、大変なことであると。私どもも北海道にいて、それは実感しておるんですが、教育だけに限って申しますと、教員の数も非常に足りないですし、実習もできないという実態があろうかと思うんですが、モチベーションとしてはもう下がっているというお考えなんですか。

○海野発表者  それは、現場の産婦人科医師がということですか。

○今井委員  教育に携わる教員のほうです。

○海野発表者  実際、産婦人科が持ちこたえるために若い人たちに入ってもらわないと困るので、現場では何とかしたいのは確かです。ただ、大学病院の現場はものすごく忙しくて、しかもアルバイトがある。それを学生が見ているという状況で、当直を8回、9回とやっている数年先輩を見ているということになりますので、非常に厳しい。

○今井委員  教育もしなければいけないんですけれども、大学病院で臨床もやっているわけですよね。おまけに、教員たちは時々地方にも行かなければいけない。全国的にそういう実態なんです。そこは、私の感じでは、もう爆発寸前になっているのではないかと推測するんですが、いかがでしょうか。

○海野発表者  先生のおっしゃられるとおりだと思います。どこかの病院で急に人がばっといなくなるとか、そういうことにもつながっていると思います。

○今井委員  それを見ている学生は、その方たちに教わる学生にすれば、そういう立場になりたくないと思うのはむしろ自然な形で、やはり先生おっしゃるように、もう少し資金を投入して、教員の数や何かを増やさないと解決にはならないのではないかと私は思うんですが、いかがでしょうか。

○海野発表者  私もカリキュラムのこともいろいろ考えたんですが、まずは人の問題が一番大きいのかなということで、きょう、こういうお話をさせていただきました。

○今井委員  ありがとうございます。

○荒川座長  ほかに。どうぞ。

○伴委員  名古屋大学の伴と申します。

 文部科学省のほうが準備されました資料2という参考資料があると思うんですが、その4ページに金沢大学のポンチ絵があって、その下のほうに「家庭医療は産科医療救急を救う」とうたってあるんですけれども、先生もその領域に関心があられると思うんですけれども、先ほど重なる医療専門職が少ないと言われたことに対する一つの改善策になると、先生はお考えになっておられますか。

○海野発表者  家庭医療の分野の先生に、どれだけ余裕があるかという問題が一番大きいと思います。そういう先生方が、それぞれの地域できちんと活動できるような基本的体制があるのであれば、私どもの今の産婦人科のネットワークと、あとは助産師さんなんかの活動と、その間にうまく入っていただけるようなことも十分あり得ると思います。あり得るわけですけれども、それにはまず家庭医療分野のこの国の中での位置づけとか、育て方が大きな要素になると思いますので、現状はこういうことだと理解しております。

○伴委員  ありがとうございました。

○荒川座長  どうぞ。

○辻本委員  時間がないようですので後からでも結構ですけれども、お話を伺っていて、おおよそのことは、想像と、今までお聞きしたことで理解ができました。ただ、1点、6ページに書いてある2つ目、卒前、卒後教育の内容に過剰に国家が介入しているという部分がどういうことなのかちょっと想像もつかなくて。患者の立場にも理解できるようにもう少しご説明を願いたいと思います。

○海野発表者  いろいろな部分があるんですが、きょうの説明の中で一番わかりやすい部分は、私がつくった上のポンチ絵の医師国家試験の部分です。医師国家試験のガイドラインは、資料にもございますけれども、かなり膨大なものです。私、国家試験問題の作成委員もやっているんですが、ものすごい労力でつくっています。それはいいんですけれども、それが今の医学生にとっては非常に大きなハードルになっていて、卒前の医学教育自体が予備校化にならざるを得ない状況になってしまっているというところが、一番象徴的な部分なのではないかと思います。

○荒川座長  これまた大事な問題ですが、後ほどございますので、板橋先生、お願いします。

○板橋発表者  昭和大学小児科の板橋です。後ろの方、スライドが見づらいと思いますので、座ってお話しさせていただきます。

 私は、海野先生と横田先生の間に挟まれて周産期医療をやっております。今回、要請があったんですが、時間が十分なかったものですから、基本的には学会の中でコンセンサスを得られたものではないということをお断りしておきたいと思います。

 ご存じのように、新生児科を取り巻く医療の現状と課題ということで、これは主に周産期医療の中で取り上げられていることだろうと思います。新生児科医の大部分は小児科医出身です。一部、産婦人科出身の先生方もいらっしゃいますが、大部分は小児科医出身でございますので、小児科を希望する医師数によって新生児を専攻する医師の数が影響を受けやすい。もう一点は、いわゆる中核病院で勤務していますと、新生児医療とともに、小児救急を含めた両方をやらざるを得ないという部分があります。特に、地方に行けばその傾向は顕著でございます。新生児医療をずっとやっていきたいと思っていても、事情が許さないという状況は多々あるわけでございます。それが一つ難しい問題で、新生児科医不足の一つのファクターでもあるわけでございます。

 もう一つは、医療の変遷でございます。お隣に海野先生がいらっしゃるので、ちょっと恥ずかしいんですが、これは妊産婦の周産期データ、登録データの一部をお借りしたものでございます。横軸に在胎期間、縦軸に経膣分娩、帝王切開以外の分娩のパーセンテージが書いてあります。ごらんになってわかりますように、我が国では26週、28週あたりの帝王切開率が80%と極めて高い。これは主に2次、3次の施設でございますけれども、26週、28週の子供たちを1次の施設で扱うことはありませんので、これはおそらく日本のデータだろうと思いますが、こういうふうに早産児に対する医学的な介入は以前に増してかなり積極的に行われております。

 もう一つ、こちらのデータをごらんいただければわかりますが、小児科学会の新生児委員会が、1,000グラム未満で産まれた赤ちゃんの死亡率について、2005年に全国調査しております。回収率は99%ありますので、ほとんど網羅しているわけでありますが、上の段が2000年の死亡率のデータでございます。下が2005年のデータでございます。極めて未熟な赤ちゃんの死亡率は、たった5年の間でこのように劇的に改善しております。

 一方、イギリスでは、今、22週、23週は取り扱わないという方向性になっていますので、イギリスとは大きく違います。それだけ医学的な介入を含めて、あとはさまざまな診療技術の進歩に伴って、小さい子たちが生きるのが当たり前の時代になってきたというのも現実でございます。そういった中で、小さい子供たちはどんどん増えてきつつあるわけであります。

 さらに、これは産科的な問題なんでしょうけれども、産科の2次施設の分娩の取り扱い数は減ってきておりますし、取り扱わない施設も増えてきております。また、先ほど申し上げましたように低出生体重児の生存率の向上、それから積極的な介入がありますと、どうしても大学病院を中心とした3次医療施設において、低出生体重児やハイリスク児の入院数が増加してきております。絶対的な新生児科医が増えない状況で、こういうバックグラウンドを抱えておりますので、新生児科医も産科医と同様に過酷な勤務状態でございます。その中で、やはり医師は燃え尽きてしまいますし、新生児を診療する担い手の減少にもつながっております。こういったことは、当然のことながら学生はよく見ているわけでございます。

 新生児医療を担う医師に求められるものは、新生児医療といいますとどうしても新生児集中治療がメーンにはなりますけれども、健康な新生児のほうがはるかに多いわけでございます。今後、こういう子供たちをどのように育てていくかということにも新生児科医はかかわっています。ただ、特に手がかかって、診療が必要なのが新生児集中治療でありまして、新生児医療を担う医師であれば、さまざまな母体要因から産まれてくる子供のリスクを占う。あとは、実際の集中治療の知識や技術。それから、施設によって多少違いますが、NICUを退院した子供たちを成人近くまでずっとフォローしていく。それから、母子関係をどのように理解するか。こういったことが周産期医療の中で、特に新生児医療を担う医師に求められるところであると思います。

 医学教育の修了時に求められるものは、当然、学生レベルと、将来、新生児科医になる人たちでは大きく異なります。学生に対しては、周産期医療を認識、理解してもらう。特に大事なのは、やはり正常新生児の発達、整理、ケア、それから母乳、育児の問題。それから、どのような児がハイリスク新生児であるのかを予知する。それから、現在、周産期・新生児医学会で積極的にやっておりますが、新生児の蘇生法を学生のときに学ぶことは、新生児医療に関心を持つために極めて重要なことと思っております。

 将来の新生児医療の担い手に対しては、新生児医学の知識や技術以外に重要なのは、やはり小児科全般の意識は最低限必要であります。単に集中治療だけやっていればいいという問題ではないと思っております。それから、当然のことながら、周産期医療を担っているわけですから、母体の異常と新生児のリスクはどのように関連するか、胎児期の発達、生理等も必要でございます。あとは、出生前診断等との兼ね合いもありますので、小児外科的な知識も非常に重要と考えております。

 卒前医学教育に効果的な方策というのは、実質そういう処方せんはないんだろうと思うんですが、私は大学のほうでは学生の臨床実習の責任者であります。また、初期臨床研修の研修委員長でもある立場で、しばしば学生や研修医にお話を聞きます。そうしますと、診療科を選ぶ重要なキーはやはり卒前教育と言う研修医は多いです。いかに診療科で面倒を見てもらったかというのは、実習自体が非常にハードであっても、すごく学生の心を動かすというのはよく聞く話であります。そういう意味では、やはり積極的な診療参加型の実習は絶対的に必要だろうと思います。

 しかしながら、国民の皆様に、医学教育とはどんなことをやっているのかというのはほとんど啓蒙されておりません。大学病院に来て、小児科であれば外来で問診をし、診察をさせていますけれども、そういったことが当たり前のように根づくのはまだまだ難しい。そういった意味で、国民に対してきちんと医学教育の重要性を啓蒙しておくことがまず大事だろうと考えています。

 それから、これは個人的な見解ですが、CBT、OSCEを前期の国家試験として位置づけて、こういう国家試験を通った学生が患者さんを診ているんだ、ということをオーソライズすべきであろうと思います。

 もう一つ問題は、実習期間が非常に短いです。実際、5年生の実習は、私どもでも三十七、八週くらいしかありません。もっと多いところはもちろんあるわけですが、40週未満が平均的なところだと思っております。そういった中で、小児科の実習というのは、十分な時間をとることがなかなか難しいということがございます。やはり5年生、6年生を通じてしっかり実習をする、それも診療参加型で、実習から得るものが学生の身についた知識として将来につながっていくわけです。例えば、5年生では内科、外科、救急、麻酔科などを行い、国家試験にするかは別としても6年生で残りの診療科を回る。そういったように十分な時間を設けて、よりプラクティカルな部分での実習をさせることが大事であると、私どもの研修医や学生の話から思いました。

 それから、先ほど海野先生から出ましたように、やはり卒前教育に専念する教員の配置でございます。ほんとうに教育の負荷が非常にかかってきております。なおかつ、病院の中にいる、大学の中にいる定員は決まっておりますので、1人の負荷がどんどん、どんどん増えていく。教える側も、十分な時間を割いてあげられないことのジレンマはたびたび訴えてきております。そのことを何とかしないと、学生も忙しそうにしているとなかなか声をかけられないので、結局のところ、ただカルテを見て終わるという実習になりかねないということであります。

 もう一つは、患者さんに対してどのような内容の実習をするのか、診療行為をするのかということを全国レベルできちんと統一し、知らしめるということも、診療参加型には欠かせない部分だろうと思います。

 こういう実習を行うことが可能であれば、現在の初期臨床研修でやっているレベルのことは、5年生、6年生の実習の中で行い得ると十分考えられます。

 最後に、周産期に限っての話です。まとめになりますが、現状では小児科の卒前実習があまりにも短くて、その影響で新生児医学を実習する期間も短いということでありますので、先ほど申し上げましたように、十分な実習期間を確保することが必要ということ。

 あとは、産科、新生児科、あるいは小児科という形で周産期医学を学ぶのではなくて、やはり産科と新生児科がリンクするような形の実習を積極的に導入していくことが必要だろうと思います。

 ちなみに、私どもの大学でもこれからこういうような形で、なるべくローテーションの中で、先に新生児科に行って後で産科という場合と、その逆もありますが、少なくとも流れとして周産期医療を理解してもらう、体験してもらうということは非常に重要だろうと考えております。

 新生児蘇生法については、私ども大学で学生相手に、シミュレーターを使って教育をしております。学生も非常に喜びます。

 新生児医療という中では、フォローアップ外来の実習も非常に重要で、NICUで小さい子が生きた、死んだという話ではなくて、やはり生存してNICUを退院した子たちがこういうふうに大きくなっていく、それを実感する、経験するということも非常に大事だと考えております。

 以上が私の発表でございます。どうもありがとうございました。

○荒川座長  どうもありがとうございました。

それでは、ご質問ありましたら手を挙げていただけますでしょうか。いかがでしょうか。

 どうぞ。

○辻本委員  6のところで効果的な方策というお話を伺ったんですが、ちょっと質問をさせていただきます。

 一つには、国民が安心して卒前教育に協力できる、つまりは患者もお医者さんたちを育てるという、いわば患者のボランティア精神に働きかけていただくことはとても大切だと、私は思っています。その前提として、産婦人科などで男性ドクターを嫌うという患者の情の部分の問題が一つあります。それから、まだまだ払拭し切れない医療不信とか、医療に対する無理解も含めた不安の強さもございます。ですから、単に実習で行う内容を明確にするだけで患者、国民がわかりましたと言えるかどうか、大きく疑問に感じています。

 それから、大変生意気な発言ですけれども、先ほど国民に対して医学教育の重要性を啓蒙するとおっしゃったときにどきっとしました。患者の理解、協力を求めようと思うときに、やはり上から目線で言われたのでは、患者は理解しようにもできないのが情の問題です。ですから、こういったところも啓蒙でなく、啓発、もっと言えば協力を求めるというお気持ちをあらわしていただきたい。

 すいません、ごめんなさい。ちょっと勇気を持って言いました。

○板橋発表者  いえいえ、とんでもないです。言わんとすることは同じでございますので、言葉遣いだと思います。

○荒川座長  具体的に何かお考えですか。

○板橋発表者  一つは、各病院でどういった内容の実習をやっているのかを、気になる方々は視聴できる。それから、患者さんの権利等についてあわせて理解していただく。あとは、身近に医学教育を感じていただくことがすごく大事だと思っています。もちろん、先ほどお話しあったように一朝一夕で理解が得られるわけではありませんが、今までそういったことをきちんと国民の皆様に見せてこなかったことも、大学病院でサンプルにされてしまうのではないかとか、そういった誤解が生じる大きな要因だったように思っております。

○荒川座長  ほかにございますか。いかがでしょうか。

 それでは、また後ほどありますので、横田先生からお話をお聞きしましょうか。

○横田発表者  ありがとうございます。

 私、横浜市立大学の小児科を主宰しております横田でございます。きょうのお話は、先ほどの板橋先生と同じなんですが、ちょっと時間が足らないことと、実は今週、小児科学会の教育担当の先生方はあちこちで入学試験と重なっていまして、皆さん医学部長とか病院長とかやられていますので、重責にある先生たちなのでなかなか出てこられない、したがって私が出てきたのはそういう経緯です。

 もう一点は、きょうのお話は苦言を呈するというよりは、私たちが横浜、神奈川でこういうことをすることによって、小児医療が変わってきたということをお話ししたいと思います。何がどういうふうに変わってきたというところをつつけば、今後の方策も見えてくるだろうと考えます。

 私たち、小児医学医療を変えるについて、何が大事かということを考えました。それは、きょうのテーマであると思いますが、やはり教育ということ、これは医学教育ももちろんですが、研修医教育が小児の医療医学を変えるものであろうと考えています。

 現状の分析ですけれども、これはもう言い古されていることがほとんどです。しかし、まず基本を押さえなくてはいけないということで挙げました。小児科医の数はあまり変わってないではないかというのが厚生労働省の公式見解ですが、内容を見ますと、開業医の先生は増えています、しかし勤務医がどんどん減っています。これは非常に大きなことです。それから、産婦人科、外科と同様に、診療科の偏在ということで小児科医のなり手かがなかなか少ない。

 もう一つは、小児科の場合、地域の偏在が非常に多うございます。これは、後ほど表でお見せいたします。

 もう一つは、社会が変わりました。小児科医の需要が増大しているということが挙げられます。ご存じのように、私どもの医学生に赤ちゃんを抱いたことがあるかと、特に女子学生に聞きますと、抱いたことあるという人は1割ぐらいです。あるいは、1週間でも一緒に過ごしたことがあるかと聞くと全くないです。すなわち、一人っ子で育ってきた方たちが今や母親になる段階に来ている。そうすると、産まれた子供さんが熱でも出ようものなら、すぐに小児科に連れてくるという事態になっています。それから、僕が若いころはまだ核家族という言葉がありましたけれども、おじいちゃん、おばあちゃんのいない家庭がほとんどになってきています。もう一般化してしまいました。それから、女性も含めて高学歴になってきたことも僕は大事だと思っていて、高学歴で、さまざまな知識が頭に入ってきているために、非常な育児不安に襲われる。それから、専門医志向が非常に強い。こういうことが小児科医の小児医療の需要が増大している原因だろうと思います。

 それから、「小児の救急」とあえて書かずに、ここには「急病外来」と書いたんですが、今のこういうお母さんたちは自分の子の熱が出たときにどうするか。すぐに連れてくるわけです。そうすると、24時間、365日の診療を要望してくる。小児科医も、これに対応するのが小児科医だという意気込みでずっとやってきている。そして、疲弊が進んだということが挙げられると思います。

 それから、小児医療のすそ野が非常に広がっております。乳幼児の発育支援も小児科医の役割ですし、園医、あるいは学校医としての活躍もございます。また、後ほどお話ししますが、最近、高度救命救急医療というものが導入されて、非常に専門性の高い医療が片一方で進んでいるのと同時に、総合医の問題が内科で出ておりますが、当然、小児科でも総合小児医療というものが重要視されるようになってきています。伴先生いらっしゃるので、いずれまた、この辺お話になると思います。

 社会が変わる、医療が変わる中で、小児医療全体のコンセプトが実は何もなかったのではないか。子供を診る医者が小児科医である、これではまずいだろうということで、昨年7月にマニフェストを出してコンセプトを確定いたしました。

 それから、小児急病に関して、♯8000番の電話で対応することで受診者を減らせないかとか、夜間・休日診療所を開業医の先生たちが運営することで、2次病院、大学病院への患者数を減らせないか。これまでもずっとやってきているんですが、効果は非常に薄い。そうすると、小児医療の提供体制そのものを変えないとうまくいかないのではないか。その一つは、先ほど産婦人科の先生のお話がございましたけれども、産婦人科医が減っている、小児科医が減っているではなくて、減った分を、医療を集約化することで高度の医療提供ができるのではないか、というのが私たちの考えです。

 3番目、医学教育、研修医教育の方法論を少し変えていこうではないか。それから、今、お話しした医療提供システムを変えていくということです。

 コンセプトの問題は、私たちは大きく3つに切り取っています。1つは、小児科医が予防接種をする、先ほどの板橋先生の赤ちゃんを診ていくというような、子供の成長を支えるヘルスオリエンテッドペディアトリクスという言葉がアメリカにございます。これが小児科医の非常に重要な役割である。

 2つ目は、明治以来やっております、小児科医が赤ちゃん、子供の病気を診るという点です。これに質の高さを加えた医療をどうやって提供できるか。

 3番目、これは小児科学会でもこれまで取り上げられなかったことですが、毎年毎年、ある一定の数の障害児が出てきます。その障害児に対してのケアのシステムが今まで何もないんです。介護保険はありますけれども、子供さんの介護保険はないんです。それから、ヘルスオリエンテッドの問題も、老人保健はございますが小児保健はございません。我々の社会では、小児科、あるいは子供さんそのものが、重要なものとして扱われていなかったということなのではないかと感じております。

 小児科を担う医師が持つべきものとして、小児医療のコンセプトをつくりました。このコンセプトに沿って、それぞれのコンテンツを確定してきているところです。子供の発育、発達支援に関して、全国的な子供たちの発育状況のデータというのは実はないんです。今、環境省と一緒に、12年間にわたって6万人の子供をインボルブして、出生コホートというものをやろうと。妊婦さんから産まれてくる子供さんについて、いつ、どこで、何が起こっているかということを、一人一人、6万人について決着していこうということです。

 また、予防医学も、予防接種に関して、多くは厚生労働省の行政の方が机の上でつくられたものを我々に直接流してくるわけですが、そうではないだろう。現場へ行くと、必ず反対論がいっぱい出てきます。それは、やっている人たちの意見を吸い上げていないからです。アメリカでいえば、ACIPという受益者と国レベルとの話し合いが年間3回行われているんです。今後はこういう予防接種の方法がいいとやっている。日本では、なかなかそういうことができないでいます。特にワクチン学会とか小児科学会という先生方に集まっていただきまして、民間での予防接種体制を組んでいこうと、今、考えています。

 そのほか、次世代の育成も非常に大事なことで、このことがまさに大事です。

 それから、総合小児医学を創設していくつもりです。

 それから、特殊、サブスペシャリティーといいますか、小児の循環器であるとか、私はリュウマチ、膠原病をやっていますが、そういう専門医療も非常に大事です。助けられる医療としては非常に大事です。そういうものの充実を図っていく。それから、先ほどの障害児のネットワークをつくっていく。こういうことをやっていこうではないか。

 医学生については、こういう一つ一つの問題をクリニカルクラークシップ、それから今、小児のOSCEができ上がりつつあります。それから、何よりも小児科らしいというのは新生児と乳児なんです。そこで、学生をNICUの実習にどんどん参加させていく。あるいは、近所の幼稚園の実習、健診に乗せていく。長崎でそういう試みがあって、中学生を健診の場面に連れていくと暴力行為がなくなるんだそうです。学校が壊れなくなったという実例がございます。

 そういうことで小児医療をつくっていきたいと思っているわけですが、小児医療のすそ野が広がったというのがこの図です。ここに挙げましたようなさまざまなものに対応しなくてはいけないんですが、段階的に教育していくのがやり方だと考えています。第1段階は、医学生、初期研修医の総合的な物の見方を育てていく方法。2段階目は、小児科専門医の研修のとき。そして、サブスペシャリティーの研修が第3段階目になります。この医学生、初期研修医、専門研修医のカバーするところはほぼ同じですが、内容のレベルを違えてあるということです。

 一昨日、オバマ大統領がステートメントが発せられました。その中で彼が一番最初に言ったのは、教育を変えるということです。2番目は医療制度を変える。それは彼が初めてではなくて、19世紀までのアメリカの医療はひどいものだったそうです。20世紀の初めに、大統領に指名されたフレクスナーという先生が、医療を改善させるにはどうしたらいいか考えて、この4条件をつくりました。これが医療の現場で非常に重要な要件である、特に医学教育と研修を直して、いい医者ができてくれば、この人たちがあとの2つ、3つは全部やってくれるはずである。現在、アメリカの医療が世界の模範となっているわけです。いろいろ問題があるのはご存じのとおりですが、それは20世紀初頭にフレクスナー先生が、教育が何よりも大事だということで教育改革をされたということがございます。

 勤務医と開業医の数のバランスはここではまだ書いてありませんが、わずかずつ減っております。地域による違いが出てきているというんですが、これは北海道から沖縄まで並んでいますが、ダントツに多いのは東京都です。医科大学がたくさんあるからです。これは小児医の数で、大学に入局した先生方の数です。これが大阪です。福岡です。神奈川はこの辺にございます。図をごらんください。逆に言うと、地方、特に東北地方とか四国の地方には、ここ3年間から5年間、ほとんど小児科医が入っていないという実態がこれでわかります。

 これを何とかしなくてはということで、横浜では52の病院で輪番をやっておりました。それを7つの病院に集中させました。それぞれの病院には11名以上、18名という病院もございますが、小児科医を集約化しました。そうすると、何が起こるかといいますと、集約化することで小児科医が大変過重労働から開放されるという点が一つ。それから、たくさん小児科医がいるために、そこでの臨床研修が非常にうまくいくということです。つまり、教育システムとして集約化が行われたということです。

 それを比べてみました。これが拠点病院7つでつくったもので、これはむしろ集約化されてしまったほうの病院です。これは大学病院です。見ていきますと、これが2007年度前半、2007年度後半、これは2008年度前半でも4カ月分なんですが、集約化されてしまった病院の患者さんが集約化した病院へ集まってきているということが見てとれると思います。

 これは外来者数ですが、同様のことが言えて、やはりだんだんと拠点病院へ集約化されてきました。特に救急車の受け入れ数を見てみますと、集約化された病院にほとんど集まってきまして、集約化がされていなかった、あるいは小児科医数が減っていった病院については、救急車の受け入れ数がダントツに減っているわけです。

 これは、今、小児医療はこうあるべきだと私どもが考えているシステムでございます。今、お示ししました拠点病院というところは、小児科医が十数人から20人近くいる病院を拠点として集めまして、そうすると患者もそこに集まってくる。そこで、研修に非常に大事なたくさんの疾患を診ることができる。しかも、多人数の小児科医かいるために、たくさん教えてもらえる。そういう意味で、非常にいいシステムができたと思っています。

 それから、これは一つ余計なことかもしれませんが、小児の救急救命システムがようやく立ち上がりました。何のことかというと、小児のドクターヘリ救急です。静岡県でこれが立ち上がることで、亡くなっていた子供さんの数が導入する前より半減いたしました。すなわち、こういう特殊医療も、子供の生活の質、命を救うという意味では非常に大事だということがお分かりいただけると思います。

 卒前教育をこういうプロセスの中でどういうふうに考えるかといいますと、先ほどから出ておりますが、アーリーエクスポージャーとして乳児、幼児の体験をしてもらうことが非常に大事だろう。

 アメリカでは、屋根がわら方式で、1年上の人が1年下の人を教えていくというシステムで臨床研修がやられているわけですが、それは人数がいないとできないのは当然のことです。先ほどからお話しございますように、何とか教育の中に人数を当てはめていきたいということと同時に、私たちの努力で小児科医を集約化して集めていくことが大変大事になるだろうと思います。

 それから、臨床研修の中で、私たち、今、炎症というものを中核に置いて研修をしております。なぜかというと、人間の病気の90%以上は炎症なんです。したがって、炎症の見方ができない研修医なんて役に立たないです。軽い炎症から、命を落とすまでの炎症というものがございます。だから、炎症を中核にした研修を行っております。

 これは私個人の私見ですが、18日に新しい初期研修のプログラムが厚生労働省から出されました。きょうも紙が配られていますが、もうそろそろ抜本的にシステムを変えないと、日本の医療は壊れてしまうだろうと思います。どういうことかというと、今は6年間の医学教育があって、2年間の初期研修があって、その後、小児科の場合は3年ですが、専門医研修がございます。最初の8年間をもう少し整理したらどうか。今、医科学というのはものすごく進歩しています。DNAをはじめ、細胞医学も非常に進歩しております。こういうものを集中的に一般大学、あるいは医科学コースで教育した学生に、アメリカでいうメディカルスクール科ですが、入学したときから聴診器を持たせて、屋根がわら方式で教えていく。そういう教育を目指したらどうかと考えています。

 少し長くなりました。ありがとうございます。

○荒川座長  どうもありがとうございました。

 それでは、横田先生のお話に対してコメント、質問ございましたらお願いします。いかがでしょうか。どうぞ。

○今井委員  札幌医大の今井でございます。大変興味ある、すばらしい試みもお示しくださってありがとうございます。

 先生の最後の部分の、拠点化するといいますか集約化するお話ですが、これはいろいろなところで試みがあるかと思うんですが、北海道のような非常に広いところは、なかなかこういうぐあいには、思ったようにはいかなくて、やはり町と町との距離が相当あるわけです。そうしますと、こういうふうにすることによって一見、比較的狭いところは便利だと思うんですが、広いところだと患者さんはそこまで行かなければいけないという問題があって、交通機関の問題ですとか、そういうことがあるんです。先生、その辺いかがでしょうか。

○横田発表者  私どもが拠点病院構想を打ち上げた後、研修医の先生たちが全国から集まっています。神奈川県、4大学ございますが、きょう、海野先生いらっしゃいますが、北里大学、東海大学、聖マリアンナ大学、入局者はここ3年間ほとんどゼロに近い形です。ほんの数人というところです。ところが、私どもの小児科には、3年間で52人の入局者がございます。それは、やはりいい研修をしたいということで集まってくるんだと思います。

 これは、都市だからできることです。東北地方、それから四国地方では、北海道と全く同じ事態がございます。私は横浜にいるからこのシステムをつくったので、地方におられる方は地方なりの方法が必要かと思います。余計なことですが、僕はやはりヘリコプター医療ではないかと思います。

○今井委員  それはそれで考えるべきだと私も思うんですが、これは一般論というか私の意見ですけれども、医師が足りなければ集約化だとか、いろいろな手段を考えて、また頑張ってしまう。もちろん、うまくいけばいいんですが、そこでまたひずみが出るということも同時に裏の事情にはあるわけですよね。北海道の場合、小児科ではございませんが、あまりうまくいっていないように思うんです。それから、町同士が非常に難しい関係になる。ですから、工夫はとても大事だとは思うんですが、工夫をして、たどり着くまでの時間とか、いろいろな要素を考えていかないとなかなか難しいのかなと同時に思ったものですから、ちょっと意見を言わせていただきました。

○横田発表者  形としては、私どものような大都会と、郊外型の医療があると思います。それから、過疎地の医療があると思います。だから、それぞれのモデルをつくっていくべきだと考えています。きょうのプレゼンテーションは、教育という面で、特に研修医教育が非常にうまくいっているということが全国に流布したので、学生さんたちがマッチングで横浜に集まっているんだと思います。

○今井委員  ありがとうございます。

○荒川座長  どうもありがとうございました。

 きょうは、まさに教育の話ですが、私の予定としましては、これから50分ぐらいかけて皆さんと一緒にお話をしてみたいと思います。3人の先生方にご質問でも結構ですし、先生方のお考えでも結構です。きょう、お招きした産科婦人科、周産期、小児科を含めて、医学教育にどう反映していくかということにつきまして、そういった分野が増えてほしいという願いもあるかと思いますが、ひとつお話を願いたいと思います。どなたでも結構です。

 私、ちょっとお聞きしたいんですが、皆さん、やはりお気持ちとして、それぞれの専門分野の教育をしっかりしろ、時間が足りないとおっしゃって、まさにそのとおりですが、今、与えられた全体の中で増やす。そうすると、当然、どこか減るかもしれません。それについてどうお考えかお聞きしたいと思うんですが、いかがでしょうか。どなたでも結構です。

○海野発表者  私自身は、今の医学部の教育時間の中で、産婦人科が少ないとは思ってないんです。ただ、何を教えるかという部分で、先ほど申し上げましたコアカリキュラムや国家試験のガイドラインによって、教える内容がかなり規定されている部分があります。学費も高いですから丁寧に教育しなければいけない部分もありまして、試験を受からせないといけないという環境で、実際、大学が運営されている感じもあります。そういう背景もありまして、その中でほんとうに魅力のある、臨床医となったときに役に立つような、特に産婦人科は小児科とはちょっと違いまして、産婦人科医になる人はごくわずかなんです。それはもうわかっていることです。ただ、産婦人科の領域についてどれだけ普通の医者として理解してもらえるかということで考えたときに、どれだけ魅力ある話ができるかということになると、そこはなかなか苦しいと思っています。ですから、もう少しガイドラインの部分でのバランスを考えていただく必要があると考えております。

○荒川座長  ありがとうございました。

 どうぞ。

○板橋発表者  今の卒前教育の枠組みから外れないでこの議論をすると、かなり厳しい話で、何かを削って何かを増やすという、それこそ陣取り合戦になってしまうと思うんです。その視点でお話しする限りは、なかなか難しいだろう、現状から大きく動くことはないだろうと思います。

○荒川座長  全体を変えてしまうと。

○板橋発表者  そうですね。

 もう一つは、学生に教えるのではなくて、学生が学ぶんだろうと思うんです。学ぶための実習をどうするかということに力を注がないと、入学するまでずっと受動的な教育を受けてきて、大学に入ってもあまり大差のない教育をこのままやっていく限り、本質的に日本の医療は大きく変わらないのではないかと思うので、やはりそのあたりをもう少し、何かが、何週間あればいいかではなくて、何を学んでほしいか、学生が何を学びたいかで実習の期間等が決まっていくのではないか、という視点で考える必要があると思っています。

○荒川座長  そういう点で、平成18年にコアカリキュラムが示されましたね。ああいうものを考えますと、むしろ運用の問題ということになるのでしょうか。

○板橋発表者  運用の問題もありますし、それをどう評価するか。おそらく点数でしか評価していないので、その評価をもう一度きちんとして、それからコア・カリキュラムをどう改善していくかとフィードバックしていかないと、やはり提示だけでは進まないのではないかと思います。

○荒川座長  どなたかいかがでしょうか。

 どうぞ。

○田中委員  今週の前半までハーバード大学にいたんですけれども、ハーバードメディカルスクールなどは教員の数がけた違いですよね。アメリカの教育システムはすばらしいと横田先生がおっしゃいましたけれども、全くそのとおりですけれども、今、それを日本ができるかというと非常に難しいだろうと思うんです。現実的にできることといえば、海野先生や板橋先生がおっしゃいましたけれども、国家試験ですよね。国家試験の負荷を減らすだけでも随分違ってくると思うんです。イギリスなどはマッチングを成績で決めますけれども、それは在学中の成績が4分の1、エッセイが半分ぐらい、残り4分の1はペーパーテストですけれども、ペーパーテストは臨床実習中に自分が経験した症例についてこういうことを書けという問題です。やはり臨床実習を一生懸命やると通るような試験問題に変えない限りは、とても無理だろうと思うんです。

 ここは厚生労働省の委員会ではないので、そこで思考停止に入ってしまうんだろうと思うんですけれども、やはり厚生労働省と連携していただいて、厚生労働省の委員会で教育の話になると予算の話でストップしてしまう、そこで思考停止という話になると、もうどうにもならないと思うんです。

○荒川座長  どうぞ。

○横田発表者  僕は、文部科学省の高等教育局の中で、医学というのは全然別な、ちょっと特殊なものだろうと思っているんです。医学の研修というのは、片一方でサイエンスをやらなくてはいけないし、サイエンスの頭がないとできないわけです。同時に、経験を非常に重視される。ある意味で、言葉は悪いかもしれませんけれども、職人のトレーニングをしなくてはいけない。職人のトレーニングが職人でない理由は、サイエンスの頭を持って経験を演繹していくということになるわけです。ところが、ほかの大学教育を見ていると、職人的な経験の部分というのはある意味では欠落していると思うんです。実験するときにこういうテクニックがあるんだとか何とかというのはあると思いますけれども、サイエンスと経験というのは、相互に動きながら教育をしていくというところが一番大事で、そのためには、徒弟制ではないですけれども、経験というのは上の人が下の人を教えていくようなシステムが一番合っていると思うんです。だから、教育の中で、同じものということではなくて、全然別の教育なんだという発想がベースにないと、物がうまくいかないのかなと思います。

○荒川座長  どうぞ。では、順番にいきましょうか。今井先生から。

○今井委員  今の横田先生お考え、私もほんとうにそういうふうに思います。そこから広がる話なんですが、もちろん医学教育の中に、そこから育っていく教員をつくったり、医学研究をする人たちも育てていかなければいけないわけです。それは、日本の国全体を考える場合に非常に重要な問題です。それを抱えながら、今、臨床医の話を中心にしていますけれども、行政ももちろん重要ですし、いっぱい分野がございます。その分野について、それぞれの重要性をきちんと分析して、オーバービューをして、全体のマップを学生に示して、その上で一定のストレスを与えながら選んでいくという過程をやることこそが医学教育の非常に重要なポイントで、しかも日本では欠けていた部分ではないかと思うんです。

 確かに、ハーバードなんか、要するにアメリカは3倍ぐらい医師の教育者がいて、別の学部までつくってちゃんとやっている。そういう国と、我が国のように一つの医学部で、今、言ったところを全部カバーしながら、しかも横田先生のように工夫までして、これでもか、これでもかというふうにしてやっていって、爆発寸前の大学、日本とでは大きな違いがあると思うんです。ですから、私は、やはりこういう場ですので、根本的なところも変えていかないと、いっぱい変えるところはありますが、一番根本はそこの教育の考え方と人の整備がなされないと、なかなか根本は変わらないのではないかと思っておりますので、よろしくお願いいたします。

○荒川座長  では、北村先生。

○北村委員  きょうの話題の、産婦人科、あるいは小児科の医師が足りないということの本質に、私は危ないということがあるんだと思うんです。患者ではなくて医者です。医者が訴えられるとか、自分の診療が怖いというか、子供、赤ん坊を扱うのが怖い。学生時代の教育、あるいは研修医のところから怖さから取ってやらないと、あるいは、あなたは一生訴えられることは少ないですよというようなことをアピールしないと、なかなか学生は喜んでいかない。

 横田先生がおっしゃった集約化というのは、見方を変えれば、大勢の小児科医がいるので安全である、後ろを振り向けば指導医がいる、助けてと手を挙げれば10人近くが集まってくる、安全な研修ができるという面があって喜んで行く。やはり人が少ないところだと、振り向いても指導医がいない、応援を頼んでもいない、それは危険だ、怖いということにつながっているのではないかと思うんですが、この診療科は安全であるとアピールするようなしかけというのはないでしょうか。

○荒川座長  では、海野先生。

○海野発表者  北村先生おっしゃられた部分は、私もずっと悩んでいる部分です。と申しますのは、実際、産婦人科は一番訴えられやすい科です。でも、みんながいつでも訴訟を抱えているというわけではないです。実際にそういう経験をしたこともない先生が、すごく心配していることもある。

 何でなんだろうと、うちのレジデントと話をしていたときに、そりゃ医師免許が大事ですからと言うんです。我々にとっては、国家試験に受かったり、医者になったのは昔のことで、医者であることが当たり前になっていますけれども、若い先生たちは非常に苦労して、やっとここまで来たという気持ちもある。これから新しいキャリアを開いていこうというときに、労働条件よりもそちらのほうがずっと大事ですと言うんです。あまり政治的な発想しない人間がそういう感覚を持っているというのも事実で、それは大事なんだなと、先生おっしゃられるとおりだと思っております。

 ただ、それをどうするかということになりますと、正直申し上げますと我々の診療分野は患者さんにとても近い。小児科もそうだと思うんですけれども、患者さんの人生の根幹ととても近い部分で仕事をしなければならない。何か問題が発生したとき、その患者さん自身にとっては非常に大きな問題になってしまう。そういう診療分野を担当しているんです。そういう問題が発生すること自体、ある程度やむを得ない部分だろう。そういう認識を我々も持つべきだと思いますし、制度上、それを前提としていろいろなものを考えていかなければならないだろう。

 寺尾先生おられますけれども、無過失補償制度みたいなものは、いいか悪いかいろいろな議論があるかもしれません。ただ、医療分野によっては、そういうことを根本的に持っている分野があるんだということはご理解いただかないといけないと思います。

○荒川座長  先ほどお話になったと思いますが、産科、あるいは小児科医療の大部分を総合診療で賄うんだというポリシーがもしあるとすれば、当然、卒前教育も卒後教育もそこに組ませる。その辺のところは、伴先生、どうお考えですか。先生、先ほど質問されましたが、これは大きな違いになってきます。

○伴委員  先ほど横田先生にもちょっと振っていただきましたけれども、今まで卒前教育にそういう考え方は全くなかったんです。先ほど海野先生のところでちょっと出てきましたけれども、プライマリケアと、すべての臨床医が獲得すべき基本的な能力が混同されていて、将来、眼科に行く人も、耳鼻科に行く人も、心臓外科に行く人も持っていてほしい医学部教育、あるいは臨床研修を受けた限り、これぐらいの能力は期待されるというところを学ぶのが最初の6年プラス2年で、総合診療というのはその先にある、小児科の3年にほぼ相当する3年ないし4年が想定されているところです。これが日本にないというのは非常に問題で、私たちもそれに対して努力をしようということで、ある程度マンパワーがそろってくれば、小児科の先生方と協力して、あるいは産婦人科の先生方と協力して、あまりコンプリケーションのない部分をシェアして、一緒にやっていく。それにまた、産科の場合ですと助産師さん、小児科の場合ですと内科医の先生が連携してやっていく。それぞれが単独でやっていくというのは、どこかでひずみが来たらがたがたと行ってしまうというのは、産業の世界でも十分知られていることだと思います。

 お答えは、それぐらいでいいですか。

○荒川座長  はい。

○伴委員  一つだけコメントを。

 横田先生のご発表に大変感銘を受けて、これは「小児」を取って、「医学と医療 『教育』がすべてを変える!」と考えるのが一つ大事かなと思います。先ほど今井先生おっしゃったように、お金をつぎ込まずに、人をつぎ込まずに工夫ばかりしていたらますます自分の首を絞めるというのも、確かに一方ではそうですから、それは審議官のほうで、もっと国政レベルで、教育が大事なのに何でこんなちょっとしかお金を回さないんだとか、削るんだということを強く言っていただきたい。一方で、教育のノウハウを知っていたら、人の生かし方、物の生かし方、情報の生かし方がわかってきますから、やはり横田先生のような工夫も出てくると思います。

○荒川座長  どうもありがとうございました。

 どうぞ。

○石川委員  私も横田先生のお話に大変感銘を受けました。小児医療の守備範囲と研修ということで、専門医であっても学生であっても教育の内容は同じでレベルが違うだけだというグランドデザインについてお話いただいたと思います。確かに小児科は、子供さんがすこやかに育っていく過程を見るという、すばらしい夢のある科だとは思います。先生がおっしゃったように疾患のみならず、モデル・コア・カリキュラムにもある小児保健や小児栄養などを履修するためには、小児科のドクターだけでは卒前教育は時間的にも大変かと存じます。例えば母子保健などは、保健師さんや社会学の教官の方など、基礎系の先生でご専門の方がいらっしゃるかもしれません。教員数を増加することが困難な状況であれば、小児医療に関連した臨床医以外のご専門の方とコラボレートして教育する可能性はいかがでしょうか。

○横田発表者  実際、もう動いていまして、今、看護師の中で専門化が進んでいて、小児専門看護師というものが50人ほど成立しています。私どもの病棟に2人おりまして、この方たちが、医学部の学生で小児科に回ってきた人たちに時間を持ってやってくれています。それから、医療相談室の方たちにも、どういう問題が社会に起こっているのかという話をしてもらったりしております。

○荒川座長  よろしいでしょうか。

 どうぞ。

○奈良委員  東京医科歯科大学の奈良でございます。

 これまでの議論の中でも、医学教育で最も大事なのは臨床実習で、その充実が強調されていると思います。しかし、臨床実習を充実させる上で、どうしても国家試験というバリアの存在を見逃すことができないと思います。というのも、現行の医学部教育では、国家試験対策という現状があろうかと思います。臨床実習を行うべき6年生は、国家試験という目前のバリアに直面し、勢い国家試験対策の勉強になってしまいがちです。

 国家試験対策に偏重することなく臨床実習を充実させるためには、一つには国家試験のあり方を見直して行くことが必要だと思います。それと同時に、臨床実習をきちんと受けて臨床能力を高めていることの評価をしていくことが大切だと思います。医学部教育では、知識の学習と、臨床能力の習得が重要です。学生がこの両者を適正に学修していることを評価できるシステムを構築することにより、医師になる資質を確認し、それでもって国家試験に振り替えることも考えられると思います。臨床能力の評価は困難な側面もありますが、例えば欧米ではポートフォリオを導入し、臨床実習での成果を評価しています。アメリカやドイツには国家試験がありますが、イギリス、オランダ、オーストラリアなどには国家試験がありません。そのような国では、各医学部が学生をきちんと評価して医師として送り出しています。各医学部が学生をきちんと評価し、評価を受けた学生なら国家試験は合格できるようなシステムに変えていくことも可能性としてあると考えます。このためには、大学医学部を客観的かつ適正に評価することが必須要件にはなります。

 先ほど、日本の医学教育には国家が介入し過ぎるというご意見がございました。もっとも、ある意味では日本は自由度が高いとも言えます。先週、韓国に先週、韓国に出張してまいりました。驚いたことに、韓国では医師の診療科偏在の問題がないと言うのです。その理由を尋ねると、医師の診療科への振り分けに国家が介入しているというのです。成績優秀な学生は自分の好きな診療科を選ぶことができるのですが、成績の芳しくない学生は学会等の意見を取り入れながら、人気がなくて人数が少ない診療科に強制的に行かされるというのです。

 それから、では個々の大学が入学者を選別していますが、オランダ、ベルギー、ドイツ、マレーシアなど、国が入学する大学を振り分けているところもあります。とても奇異な現象ですが、それによって大学間の学生の質を標準化するという意味があるようです。もっとも、ドイツでは、学生が大学を移ることができるといった自由度があるようです。

 いずれにしても、日本の医学教育は自由な面があると思います。大学が自由であることは大いに結構ですが、医学部には医師というプロフェショナルを養成するという義務を伴います。そのためには、臨床実習を臨床実習をしっかり行い、学生の学習成果到達度を適正に評価する制度を構築していく必要があると思います。国民が安心して任せられる医者を育てるということは非常に大事な責務だと思います。国家試験をもう少し易しくすることも大事だと思いますが、それと同時に、医学部が学生を適正に評価していくことも大事だと思います。

○荒川座長  6年生には臨床実習が全くなくて、試験勉強だけといううわさもありますが。

○奈良委員  海外10カ国を訪問して医学教育について意見を交換してまいりました。国家試験の話も出たのですが、国家試験対策が日本では大変だという話をしたら、欧米ではとても全然信じられないという反応でした。欧米では、内科なら内科実習が終わった後、OSCEやポートフォリオ等でその都度評価している。そしてきちんと学習した学生のみが次のステップに進めるようなシステムになっています。

 オランダ例では、大学間で協力して共通カリキュラムが策定され、共通の試験が行われているようです。ただし、日頃きちんと学習さえしていれば、試験勉強などしなくても合格できるような問題にしているようです。そして次の段階に進めば、少しグレードが高くなるようになっています。学習成果に応じた試験制度で、こうした試験システムは参考になると思います。

 私たちは大学の教員という立場ですが、実のところ、教員自身が教育学の訓練を受けていることはほとんどないと思います。見よう見まねで教育法を勉強してきたり、教育論をかじったりして、学生の教育に当たっていると思います。ですから、学生を適正に評価する方法も十分に認識できていないかと思います。評価法を標準化して、それを広げていくような努力が、今後必要になるのではないかと思っています。

○荒川座長  ありがとうございました。

 どうぞ。

○海野発表者  奈良先生のおっしゃられることはよくわかるんですが、大学病院の臨床現場にはそんな余裕は全くないので、おっしゃられることは正しくても、この国の今の状況では絵にかいたもちにすぎないわけです。それをどうするかというのは、文部科学省と厚生労働省につくってもらわなければどうしようもないことなので、絵にかいたもちの議論をしても、外国がいいなということにすぎないと思うんです。我々は、これから何をどうするかということを具体的にやっていかなければいけなくて、そのためにはまず何が必要なのかということをお役人に我々が言わないとどうしようもないと思っています。

○奈良委員  確かにご指摘のとおりで、日本では教員の圧倒的に数が少ないという欠陥が現実にあります。教員を増やす努力は重要ですが、それとともに、ヒューマンリソースを活用する工夫を見いだすことも大切だと思います。たとえば、オランダの医学部は、1学年定員が約400人です。400人に対してチュートリアル教育を行っているわけですから、教員の負担は相当なものです。しかし、学生数に対する教員の数を調べてみると、決して恵まれてはいません。ではどのように工夫しているかと聞くと、上級生が下級生を教えたり、学生同士が互いに学習しあうなどで勉強の仕方を工夫しています。他者を教えること自体が当人にとっても貴重な勉強の機会になります。学生たちが自主的に勉強するようにすれば、教員の負担も減ります。

 また、アメリカでは確かに教員数は日本に比べて圧倒的に多いのが現状です。しかし、その内容を聞いてみると、たとえば結婚して家庭に入った女性医師がテュートリアル教育のチュータとして参加する、退官した教員が教育の参加したりしています。彼らはすべてボランティアで、大学からの報酬はないのですが、次世代を育てるという使命感に燃えて教育の参加しているようです。

教員の数を増加させるのが困難な現状では、教育効果を高める種々の工夫が必要かと思います。

○荒川座長  寺尾先生、どうぞ。

○寺尾委員  我々は、生涯学ぶことができるような、リサーチマインドを持った臨床医を育てたい、そのためにはどうしたらいいかということなんですが、リサーチマインドを育てるにはそれなりの土壌がないといけないけれども、残念ながら今の大学、臨床実習を行っている大学の土壌の中で、先ほどの産婦人科の2つの代表的なジャーナルの投稿数の激減というのは、まさに医学が荒廃したとしか言いようの状況に陥っているわけです。これをどうしたら立て直すことができるのか。そちらの土壌をうまく直さないと、その前の臨床教育のほうも容易には直らない。結局は、医師が疲弊してしまっているということであろうかと思いますので、教育専門の医師の定員を増やしていただく。なかなか医師がいないので、地方の病院から医師をはぎ取ってくることになるかもしれませんが、一時的にそういう現象が起こるかもしれないけれども、大学の中をもうちょっと充実しないとどうしようもないと思います。このままでは、日本の医学研究はだめになってしまうと思います。その土壌を何とかしましょう。それをどうするかということも考えていく必要があるのではないでしょうか。

○荒川座長  どうぞ。

○今井委員  先生おっしゃるとおりで、これは学術会議でも大きな問題になっていまして、要するにこういうことがずっと続いて、卒後臨床研修制度から始まったと思うんですが、基礎医学を選ぶ人も激減していますし、臨床をやっている人でも、研究マインドどころか研究をする人がどんどん減っているわけです。大きく言うと、日本のバイオサイエンスのパワーが非常に落ちている、もっと落ちるだろうと言われていますので、それをどうやって解決するかというのは、日本の大きな問題点にもなっているわけです。そうしますと、医学部の現状をこのままにしておいて、工夫が必要だというのはもちろん認めた上で、工夫するのは結構ですけれども、根本的なところで相当参っているという事実はあろうかと思いますので、ここはほんとうに文部科学省に頑張っていただいて、財務省にでも言っていただいてやらないと、国の力が落ちてしまうと私は思っております。

○荒川座長  小川先生。

○小川委員  今の件と先ほどの件ですが、海野先生のご発表の中で産婦人科の発表論文がこんなに減っているとありました。実は、昨年10月に朝日新聞に載ったんですけれども、論文数の伸び率ですが、中国が505%、韓国204%、西欧諸国22%から80%、米国10%、日本5%ということで、従来、日本の論文数は世界で2番目だったんですが、今はもう5番目に落ちてしまっている。こういう状況で、先ほど今井先生のほうからもありましたけれども、今、論文すら書く状況にない。あと、東京大学で基礎医学に行く人間がいなくなった。これは歴然たる事実であります。したがいまして、日本の研究力は、あっという間にがたがたと落ちているということだろうと思います。これをどういうふうに回復するかということも含めて、ご検討いただかなければなりません。

 もう一点、海野先生の話の中で外科系の新入会員の推移があって、臨床研修制度の2年間の問題だけであれば、全く同じ形で研修制度が始まる前に戻ってしかるべきなんですが、全く戻っていない。この辺の理由は、先生、どういうふうにお考えでしょうか。

○海野発表者  産婦人科の理由は考えたんですが、いろいろ複合的な問題があると思います。一つは、臨床研修制度の必修科目に入っていなくて、2年間全く接する機会がなかった科がかなりあるというのも事実だと思います。もう一つは、産婦人科みたいに、必修であったことがかえってマイナスになってしまったということもあるかもしれません。

 トータルからいえば、こんなに働かなくても医者は飯を食っていけるということを研修医がわかってしまったということではないかと思います。これは全員が思っているわけではないです。要するに、トータルで25%の減少ですから、どちらにしようかな、外科にしようか内科にしようかと考えている人間はいっぱいいますから、その中で何人かが変わったことによってこういう現象が起きてしまうということだと思います。

○小川委員  結局、臨床研修制度が2年間の医師不足を助長しただけではなくて、その中にモラルハザードを起こしてしまった。これはアメリカの何年か前の「JAMA」に載っていたんですけれども、コントローラブル・ライフスタイル、要するに自分の好きなように生活をしたいというのが、米国では7年で20%から30%に増えた。日本では、あまりその辺が問題になっていなかったんだけれども、臨床研修制度のもう一つの副作用として、コントローラブル・ライフスタイルを追求できるような条件がかなってしまった。したがって、モラルハザードが起こって、夜中に呼び出される、命にかかわるような3Kの職場には行きたくない。それだったら、お金がいっぱいもらえて、医療事故もなくて、楽ができるような科を選ぶことになってしまったというのが、先ほどの外科系が戻ってこないことのいい例ではないかと思っています。

○荒川座長  臨床研修制度につきましては、議論がいろいろあったと伺っています。杉野課長も苦労されたようですが、まとめが出ておりますので、またお読みください。

 そういうことを受けて、この会は医学教育をどうしようかということでございまして、根本的にこうやれという議論も大事ですし、その中でもすぐできるもの、あるいはちょっと時間がかかるものとありますが、その辺をこの検討会としては期待しているところがありますので、工夫のところもぜひ言及、議論していただければと思っています。

 では、吉村先生からいきましょうか。

○吉村委員  吉村です。

 研修制度とか医師の養成というのは、先ほど研究者のお話もありましたけれども、いかによい臨床医を養成するかということに尽きます。そのために、卒前の医学教育があり、初期研修が考えられ、また専門研修があるわけですから、研修制度見直しの検討会でも一貫性を保とうということが中心の課題となりました。先ほどございましたように、総合医は初期研修が終わった後、3年から4年かかるというお話がございました。それから、今日、産科と小児科と新生児それぞれをお聞きしますと、やはりそれぞれの専門性がありますし、小児科としての幅広い知識もありましょう。また、その根底にはさらに医師としての基本的なものもあるでしょう。それを医学教育と卒後の教育の中で、どのように一貫性を持って、よき臨床医を育成するかということを考えていかないといけないと思います。

 その中で考えなければいけないのは、卒前としては、今、海野先生からございましたように、やはり国家試験のハードルが非常に高過ぎて、研修の実が上がっていない。ハードルを少し下げるのであれば、共用試験をいかに実効性のあるものにするか。それに派生して、学生の医行為であるとか、社会の理解をいかに得るかとか、そういったさまざまな問題が出てくると思います。その辺の具体的なことも、提言できるとよろしいのではないかと思います。

○荒川座長  ありがとうございました。

 どうぞ。

○板橋発表者  一つは、臨床現場の中で、大学病院であっても経営の問題を常に要求されて、我々、診療する側も要求されているわけです。経営の面も考えながら、なおかつ教育もという、医療人を教育していく大学病院に対しては、診療報酬上なのかもしれませんが、ある程度インセンティブを与えて経営面をいい方向に持っていかない限り、人をキープしようにもできないということがあります。

 昔は、大学病院というと何となく余裕があって、それこそ夕方になると実験室に行ったりという人たちがいましたけれども、今は、少なくとも小児科でいえば皆無です。夕方5時、6時になればご両親が来て、患者さんの説明をするのが日課で、それが終わるのが8時、9時。それから研究しますかといってもあり得ないわけで、昔はそれでも夜中の10時ぐらいにやっていた人間もいましたけれども、今はとてもそんなことはできない状況です。根本的には教育の問題ではありますけれども、やはり経済の問題でもあるわけで、それは大学側にうまく誘導していくようなシステムも、これこそ文部科学省と厚生労働省の話し合いだと思いますが、そういったこともやっていかなければとてもできないことだと思います。

 もう一つ、私のプレゼンの中で、CBT、OSCEを国家試験にして、その後2度と言いました。それは、奈良先生がおっしゃったような、あまり高いレベルではなくて、実習で学んだことをきちんとクリアしていることを、国民の皆さんにちゃんと認識してもらうというステップを踏むことが、信頼感を生む一つの重要なプロセスと思っています。例えば、5年生の間に外科、内科等をやって、その後、残りの診療科をやる。その間に、1カ月あけて国家試験。あとは、自分がやった実習のレポートをチェックする。そういうことで、実習をやっている学生もモチベーションが上がると思うんです。単に今のレベルでの国家試験を通るんだったら、適当に臨床実習をさぼって勉強していたほうが国試に受かる確率はよっぽど高いわけで、そうあってはいけないと思うんです。

 現に私どもの6年生は、いわゆる選択実習といいますか、1カ月間、診療科を3カ所選んで実習に入ります。1カ月、自分が行きたい診療科に行って、診療グループに組み込まれて一緒にやっていると、その学生は非常に楽しそうにやっていますし、モチベーションはすごく上がっています。5時になっても帰りたくないといいますか、スタッフと一緒にディスカッションしたり、エンジョイできています。

 5年生は、知識が非常に未熟ということもあるし、モチベーションがなかなか保てないという部分があって、診療参加型を一見やっているように見せてはいますが、実際、ほんとうに診療参加型になっているかというと、必ずしもその保障はないと思います。やはり卒前の教育についても、節目、節目できちんと評価をするという方法をとることが、今後、絶対的に必要なのではないかと思っております。

○荒川座長  どうぞ。

○小川委員  板橋先生のスライドの6枚目ですが、先ほど非常に重要なことをご指摘いただきまして、診療参加型のしっかりとした臨床実習にするということであれば、やはりCBTを国家試験化といいますか、免許、資格に連動させた形にしないと到底無理だと思いますし、国民の理解、国民に参加をしていただけるかということに関しましても、やはり免許とか資格がなければ、到底協力はしてもらえないだろうと思います。診療参加型の臨床実習をやりましょうというかけ声だけで、年々、だんだん後退していっているのはその辺にあると思いますので、この辺はぜひこの会の議論の中心に据えてやっていただきたいと思っています。

 もう一つ、これは文部科学省だけではないんですが、現在の医師国家試験、卒業してからの医師国家試験は厚生労働省でやっているわけですけれども、せっかく4年間知識を学習して、2年間臨床実習に行って、技能と態度を実習しているにもかかわらず、それが終わった後、4年生までの知識の部分が試される。結局、6年一貫教育の中で、6年生の半分ぐらい、ひどい大学になりますと1年近くが、1年から4年までに学習したことの復習に費やされている。そういう意味では、医学教育のカリキュラムの総仕上げとしての評価ですから、ぜひ6年終わったときの国家試験のあり方はどうあるべきかということも含めて、この検討会でご議論いただきたいと思っております。

○荒川座長  先生、その場合、各大学の卒業試験の意味というのはどんなものですか。今、各大学、必ず卒業試験をやりますよね。あれは、どういうふうにお考えですか。

○小川委員  外国でもそういうところはありますし、昔の日本の医学教育の中でも、大学を卒業したことをもって免許を与えるという時代があったわけです。ですから、各大学の卒業試験が標準化されていれば、何も国家試験などという面倒くさいことをやらないで、大学を卒業したことイコール医師の免許を与えるということにしても、全然構わないことだと思います。

○荒川座長  ただ、そうではない現実があるということですね。

○小川委員  ええ。ですから、卒業試験のあり方、国家試験のあり方というのは、全国共通の卒業到達目標をどこに置くのかという設定だと思うんです。

○荒川座長  ほかに。

 どうぞ、吉田先生。

○吉田委員  九州大学の吉田です。先ほどのお話、どうもありがとうございました。いろいろインスパイアされるところが多かったと思います。

 診療参加型臨床実習については、今のところ、導入している大学においても、診療科によっては導入していて、ある診療科は見学型という状況になっていると思うんですけれども、診療参加型臨床実習で一番評価しなくてはいけないところは、やはり技能と態度の面だと思うんです。プロフェッショナリズムと言われている態度の面で、これはアメリカのデータですけれども、医師免許を取って就職した後に訴えられる、あるいは州から懲戒処分を食らう医師は、学生時代に診療参加型臨床実習、クリニカルクラークシップをやっている間、「無責任」だったとか、「批判を受け入れず理屈っぽい」という評価を受けていた人が多かったというのです。つまり学生の中にそういう人がいるわけですが、そういう評価を複数の指導医から受けた人が卒業すると、懲戒処分を受ける率が高いということが研究結果によって示されたわけです。では、日本の臨床実習でそういうことを評価したかというと、実はほとんどの診療科では、表向きはレポート、口頭試問とかで、態度の面はあまり評価してこなかった。もちろん、やっている大学は、OSCEをやっていらっしゃる。札幌医科大学さんとか、やっていらっしゃるところもあります。しかし、OSCEで評価できるのはせいぜい技能までで、態度領域は実習中の観察評価が最も重要なわけです。そして、実習中に「無責任」あるいは「批判を受け入れず理屈っぽい」という評価を下せるには、やはり診療参加型、つまりチームの一員として学生が何らかの業務を分担していないとそんな評価はできないでしょう。

 表向きというのは、実は裏向きにはやっていたんです。僕も診療科の先生方に聞いてわかったんですけれども、こいつはやっていけるだろうとか、入局させるかどうかという裏の評価表をつけていて、実は医師の資質を確認するものとしてそのことが一番大事なんです。その後、そのことをちゃんと学生にフィードバックするかどうかです。資質の部分といいますか、態度面をフィードバックすると、そういうことを言われると学生はかなり傷つくでしょう。育てるためには、低学年のころからそういう教育をしていく必要があると思います。4年間とか5年間、医学部でやってきて、その時点であなたは無責任だからもうだめですと言われてもどうしようもないので、低学年からやっていく必要があるだろう。診療参加型臨床実習では、やはりその面の評価は絶対に必要ですし、アメリカでデータが出た以上、ほかの国はどうなっているんでしょうかというのはそのうち聞かれることになると思います。

 もう一点は、カナダの医師国家試験にOSCEが入っていますけれども、これは伴先生のほうがお詳しいと思いますけれども、「JAMA」に出た論文で、コミュニケーションスキルの点数と、その後、州の医療機関、日本でいえば厚生労働省ですけれども、そちらに来る苦情の発生率を調べた研究が行われて、5年から12年ぐらい観察されているんですが、コミュニケーションスキルが低かった人がその後医師になったら苦情が発生する率が高かったというのです。今後、そういうことも、そのあたりが一番、先ほどお話がありました国民の信頼感を生むかどうかというところにつながってくると思いますので、診療参加型臨床実習で、態度面の評価をしっかりやることを提言していくことが重要だと思います。

 もう一つは、そういうことを評価して、学生がちゃんと耳を傾けて聞くようにするには、やはり医師国家試験の膨大な知識テストは問題があるのではないか。学生から見ると、どの方向に向かっていけばいいかというと、やはり資格試験が一番大切になりますから、先生から何と言われたって、あそこの試験を通りさえすれば医師免許をもらえるわけでしょうとなると、やはりそうなってしまいます。診療参加型臨床実習で、態度面で医師には向いてないと言われた人は、やはり医師には向いてないと思いますから、そこのところをきちんと評価すべきだと思っています。

 あと、お話が後になってしまったんですけれども、小児科と産科のことですが、モデル・コア・カリキュラムが導入されて、今、いろいろな大学で選択制のカリキュラムができていまして、九大も遅まきながら新カリキュラムで選択制のカリキュラムを入れていて、低学年から周産期チーム医療をエクスポージャーするような試みが出ていますので、ぜひ先ほどのサマースクールのようなものを学会主導でやっていただいて、その中にそういう学生を全国から集められると増えていくのではないかとちょっと思いました。

 ありがとうございます。

○荒川座長  どうぞ。

○辻本委員  最終的に、臨床の場のドクターの態度の評価をするのは患者だと思います。失礼ながら、教員の中にもお行儀の悪い人はいっぱいいるなと、指導者研修会などでも感じていることですので、教員や指導医だけで教えていただくことができるのか大いなる疑問を持っております。

 私もNPOということで、電話相談で患者さんや家族の方のお話を18年間聞いてきた中から、医学教育にその話をしてくれということで、幾つかの医学部のアーリーエクスポージャーの場面に招いていただいております。そこで先生が「私の講義のときには半分の学生は寝ているのに、何で辻本さんの話のときにはこんなに一生懸命聞くんだろう」と言ってくださって、私は、あなたが怠惰ではないんですかと冗談を返してしまいます。

 共用試験の後に、急に患者さんの協力を求めると言うよりも、アーリーエクスポージャーも含めて、あるいは共用試験の修了後、臨床実習に出る前という折々、もっと言えば、医学教育の6年間の節目、節目で患者の声を聞くということをもう少し取り組んでいただくことができないか。時に厳しい意見を言う、被害者感情をお持ちの方のお声も大切だと思います。あるいは、ほんとうに満足した医療を受けて夫は亡くなったというご家族、遺族の看取り体験のお話を聞くことだって、大きな教育効果が得られると思います。

 ここに座らせていただいていることが、今後への患者の医学教育への理解と協力につながることを願っています。ぜひこの後も、カリキュラムの中にそういったことを、前向きにお受けとめいただきたいということをお願い申し上げます。

○荒川座長  ありがとうございました。

 どうぞ。

○田中委員  診療参加型臨床実習にしましても、今、おっしゃったアーリーエクスポージャーにしましても、お金がかかるということを私は強調したいんです。あちらを向いてお話ししたほうがいいかもしれませんけれども、要するに臨床実習を充実させるということになりますと、大学病院だけでやるべきではないという意見もあります。そうしますと、協力病院にお願いすることもあります。そうしますと、そういうところにも十分な謝礼をお払いしなければいけないし、設備を整えていただく必要もあります。屋根がわらといっても、医員とか非常に待遇の悪い人たちが屋根がわらの3枚目ぐらいにいるわけですから、そういう人たちにインセンティブを与える必要は十分にあるわけです。

 去年も定員が10%ぐらい増えましたけれども、教育予算が10%増えたかどうか私は把握しておりませんけれども、要するに診療参加型臨床実習を充実させる、何をさせるということをここで議論するとともに、ぜひ財政的な裏づけをいただきたいというお願いです。

○荒川座長  先生、どうぞ。

○福田副座長  あまり時間がなくなってきましたので、まとめに近い形になるかもしれませんが、きょう、お三方の先生方のプレゼンテーション、大変ありがとうございました。非常に苦しい現場の中で苦労されていて、問題点を鋭く指摘していただきまして、ほんとうにありがとうございました。それから、臨床実習の充実のためにどうしたらいいかということ、共用試験をどう扱ったらいいかということで、大変前向きにご検討いただきました。

 私どもは、実際、共用試験を実施して、運用している立場ですが、全大学のご協力をいただいてここまでやってこられました。それから、辻本委員をはじめ患者さんの代表の方々のご意見も伺っています。これは、ほんとうに遅きに失したと思っています。それから、先ほど小川先生からもご指摘があったように、入ってくる学生の中に非常に危ない兆候が見られる。モラルハザードよりもっとひどいです。これをこれから迎えなければいけない時代です。ゆとり教育の影響かもしれませんが、学生が今年ぐらいから入ってきているかなり危ない状況を聞いております。

 そうした学生を前にして、我々は何をしなければいけないか。一方で国民の期待にもこたえなければいけないし、国民は研修医であろうと始めから完全性を求めてきます。これは、外国でも同じようです。医師を育てるためには、やはり学生のうちから患者さんの前にある程度は出していかなければいけない。せっかくここまで来ましたので、文部科学省と厚生労働省の交流人事もあり、よい機会ができているようで、きょうと、前回のお話も含めて大事なことが要約されていると思います。かなり広範囲の問題ばかりですから、ここで特に焦点を絞って検討していく必要があろうと思います。

 あと一つは、共用試験に参加していただいている、CBTの問題作成の先生方は非常に熱心です。分野を超えてやっていただいています。もっと熱心なのはOSCEです。OSCEの評価者として、講習会に大変たくさんの方が来られている。この大学病院、関連病院の先生方の努力も、今のままほうっておくとつぶれると私は思っています。それは、お三方の先生がおっしゃったように、やはり大学病院の教育機能に対しての基本的な支援がない限り続かないでしょう。そういうことも含めて、国家試験のことは申し上げませんけれども、実際、共用試験の作成は国家試験の弊害を防ぐ方向を基本方針としておりますので、もっと充実するように具体的な検討をしていければと思います。きょう、いただいたご意見は実態をよく表していますので、これを順番を決めて検討していただければ幸いです。座長、よろしくお願いします。

○荒川座長  どうもありがとうございました。

 そろそろ閉じたいと思いますが、どうしても発言したいという方がおられたらご発言ください。いかがでしょうか。どなたか。

 どうぞ。

○南委員  どうしてもということはございませんが、私、きょう、おくれてしまって、途中から聞かせていただきましたけれども、ほんとうに感想みたいなことで恐縮ですが、普通の、一般の国民の目から見て、きょうのお話の中で非常に違和感を覚えたのは、海野先生のお話でしたか、学費の問題ですね。6年間にわたってかかる学費が三千四百何万円、一番高いのが4,900万円、これはどう考えても今の医師の質とかと無関係とはいえない。

 ここでの議論の対象では全くないんですけれども、今、日本の子供の貧困ということが国際的に見てもほんとうに大変な問題になっていまして、何でも経済学者に言わせると、富を再配分しても子供にお金が行かない。つまり、教育費が全く足りてないという意味だと思いますけれども、国際的には非常におかしなことが起こっていて、この学費がかなりのことを物語っていると思えます。いろいろな事情でこういうふうになっているということは重々承知の上で、やはり一般の国民が素朴に考えてこの学費ではまずいのではないかと、私は強く申し上げたいということが一つです。

 それから、もう一つだけ言わせてください。国民に医学教育のことをわかってもらう必要があるというのはおっしゃるとおりなんですが、それより以前に、やはり医療、医学全般ですよね。医学教育の重要性をわかってもらう以前に、医療がどういうふうになっているのか。最近は、医師不足と医師の養成があまりにも混同して議論されている感じで、それが国民に整然とは理解されていないんです。そこが非常に大きな問題になっているので、医師不足の問題と医学教育の問題をやはり整然と、きちんと国民に説明をする必要がある。

 国民から見たら、医学教育のことも大事ですけれども、例えばきょうのお話の中でいえば、NICUが普及したことによって未熟児がどのくらいたくさん産まれていて、その子たちがどれくらい社会的にも、財政的も大きな負担になっているか。先進医療の光と影みたいなことの理解も得ていかないと、医療全般にかかわることではないかという気がいたしました。すみません。

○荒川座長  大変貴重な意見をいただいております。これを後で交通整理しないといけないと思っていますので、ぜひお願いしたいと思います。

 私もいろいろな会に出ておりますが、このような遅い時間に、しかもこれだけの出席がある会はあまりないです。それだけ先生方が非常に一生懸命だということもよくわかっておりますので、大変感謝しております。また、お役所のことも言われましたが、きょうは厚生労働省、文部科学省の両高官の方々が臨席しておられますので、そういうことが十分おわかりで、頑張っていただくことを期待しておりますし、これは非常にいい機会ですので、皆さんと一緒に勉強したいと思っています。

 それで、実は皆さんにお願いしたいんですが、これまで3回お話があったわけです。その話を通じて、卒前の医学教育をどうしようか、どう変えたいか、この辺はこうしたほうがいい、こんな問題がある、こうしてほしいということを、お一人ずつ紙に書いて出していただけませんでしょうか。とても大事なことだと思いますので、自由な、形式は問いません。ひとつ思いのたけを、要点をなるべくわかるようにしていただきたいと思います。いかがでしょう、よろしいでしょうか。3月23日ぐらいまでと事務局は言っていますが、そんなことでぜひ先生方からご意見を賜りたいと思います。

 これから整理しまして、卒前教育の中で、もうコア・カリキュラムは提示されていますが、そこで私たちは何をしなければならないかという喫緊の問題、目の前の問題、あるいは先の問題、いろいろありますが、ぜひ実りのあるものにしたいと思います。それでよろしいでしょうか。

○福田副座長 そのために、卓上にある資料ですけれども、前回の協力者会議で今後の課題になった論点が整理されております。これはモデル・コア・カリキュラムの改訂ということでしたけれども、これとあわせて第1次報告から第3次報告、特に最終報告ですか、この辺にきょうお話のあった議論の大半は出ていると思いますので、本文をもう一度お読みいただいて、参考にしていただきたい。

○荒川座長  つくった方が大勢おられますが、つくられた方の反省も込めてお願いします。

 それでは、事務局からお願いします。

○樋口医学教育課長補佐  大変遅い時間にもかかわらず、ご議論ありがとうございます。

 次回の開催でございますが、3月13日の16時から、当省の3階の会議室で開催する予定でございます。議事の内容といたしましては、今回に引き続きまして、救急医療先進化等の立場からの医師の養成上の課題、方策について、関係者からの意見発表と議論をさせていただきたいと思います。

 以上でございます。

○荒川座長  どうもありがとうございます。

 それでは、これで終わりたいと思います。

 

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