獣医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議(第1回) 議事要旨

1.日時

平成20年12月17日10時~12時

2.場所

文部科学省3F2特別会議室

3.議題

  1. 獣医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議の運営について
  2. 獣医学教育の在り方について
  3. その他

4.出席者

委員

唐木座長、石黒委員、伊藤委員、加地委員、片本委員、廉林委員、小崎委員、境委員、田中委員、西原委員、政岡委員、矢ヶ崎委員、山崎光悦委員、山崎恵子委員、山田委員、山根委員、吉川委員

文部科学省

戸谷高等教育局担当審議官、德岡専門教育課課長補佐、南野専門教育課課長補佐 他

5.議事要旨

  (○:委員 ●:事務局)

 

(1) 事務局より開会の挨拶の後、座長、座長代理の選任が行われ、座長から挨拶が行われた。その後、事務局からの配付資料の確認、会議の公開方法の決定の後、自己紹介を兼ねた意見発表が行われた。主な発言は以下の通り。

 

 ○ 以前は各大学20名くらいであった獣医学科の教員数が、改善の結果、現在30名くらいになったが、まだまだ諸外国に比べると不十分であると感じている。この会議を通じてこれまでの様々な問題を整理しながら、国際的に通用する獣医学教育、あるいはその組織の在り方を検討していきたい。

 

 ○ 自治体を含めると約4,700名の獣医師が現在公衆衛生行政に従事しており、年間130名くらいの新規の需要があるが、その半分くらいしか採用されておらず、各自治体では獣医師の補充というのが危機的な状況となっている。

   また、我が国の大学は、行政官として公衆衛生分野で働く獣医師に対する教育体制が十分でなく、欧米の公衆衛生大学院に留学をさせて国際機関で働ける人材を養成せざるを得ない状況である。

 

 ○ 食品の安全確保や人獣共通感染症の問題が出てきて、自治体レベルの公衆衛生獣医師が活躍しなければならない状況だが人材が確保できない。社会の要請に応えるためにも、学生が公衆衛生に興味を持つような大学教育の改善が重要である。

 

 ○ 獣医師国家試験は診療と公衆衛生に必要な知識及び技能を問うことを主たる目的としている。大学の教育というのは獣医師国家試験に左右されるという意見を聞くが、獣医師国家試験は大学の卒業試験ではなく資格試験であることを明確にしておきたい。

   獣医師は非常に広範な分野に就業している。医師は人を中心に物事を考えるが、獣医師にとって人は一つの動物に過ぎず、動物全体を見ながら色々な分野で活躍する。このような視点で獣医学教育の充実を進めていただきたい。

   また、産業動物獣医師と公衆衛生獣医師の確保の問題は、これらの分野について将来的な展望ややりがいが明確ではないのが原因。待遇の改善も一つの手段であるが、その前にやりがいのある職場を作り、学生にこれら分野がどのようなことを目指しているのかということをよく知ってもらうことが必要である。

 

 ○ 畜産振興・家畜衛生分野に対する大学生のイメージとしてはテクニカルな臨床分野のイメージが薄いのではないか。これらの分野の楽しさややりがいについて、アピールしていくことは必要であると感じている。

 

 ○ 欧米と日本の獣医学教育に大きな格差がある一番の原因は獣医師の職業としての成立の過程にある。伝統的に肉食の文化であった欧米では、家畜の病気を予防する、家畜から人間へ病気が伝染を予防する、といった公衆衛生・食品衛生の中心を獣医師が担っていたため、獣医師は社会にとって非常に重要な職業であり、しかも公衆衛生と産業動物臨床というのは獣医師として必須の科目であった。

   一方日本では、明治のはじめに陸軍の唯一の輸送力であった軍馬の世話をするために獣医師が必要であったという理由から獣医学校が各地に設置され、近代的な獣医師教育が始まった。東大、北大を除いてはほとんど徒弟制の小さな獣医学教育の施設であったが、それでも軍馬がいる限り教育は活発に動いていた。しかし、戦争が終わって日本中から軍馬が消えてしまったため、戦地から帰国した獣医師のほとんどが職を失ってしまった。戦後の教育改革の中で戦前の教育施設が新制大学に移った際も、獣医学教育はそういったマイナスな背景があったために改善が行われずに、戦前から全国に散らばっていった小さな獣医学教育施設がそのまま新制大学の獣医学部・獣医学科となり現在に至っている。

   その後、日本の経済が発展し、生活が欧米化して肉食が中心になってくると、欧米同様に公衆衛生、産業臨床の獣医師が社会的に必要になったが、その意識が日本の中で広がっていないのが現状。さらに、動物愛護の精神が高まるとともにペットの医療も人間並の水準を要求されるようになったが、それにも全く日本の獣医学教育は対応していない。日本の社会が要求している食の安全・あるいは動物愛護に対応できる獣医学教育をなんとか構築しなくてはならない。

 

 ○ 獣医学会では、所属する各分科会が教育の質を高めるために教科書や実習マニュアルを作成するなどの取組を行ってきた。その中では、獣医学の各科目の中で何をどこまで教えるべきか、ミニマム・リクワイアメントをどこに設定するかということも問題となっている。理想的なカリキュラムということで科目を並べるということも重要だが、実際にそれぞれの科目の中でどのような教育内容を設定していくかといったことまで踏み込まないとなかなか実質的なものにならない。

   グローバル化を目指すというのは重要だが、我が国固有のデマンドにも対応することも重要であり、そのバランスも考えていく必要がある。

 

 ○ ここ10年で日本の獣医学教育については、理念はほぼ構築できているのではないかと感じている。しかし、その理念を動かす組織、施設あるいは設備が十分かというとそうではないため、本会議で議論していきたい。

 

 ○ 大学教育の中で診療に関する教育が十分に行われていないのではないかということで平成4年に獣医師法を改正し、卒後教育として6ヶ月以上の研修制度が努力義務規定として導入されたが、大学の診療教育が充実しているのかというと当時から進んでいないのではないかという疑問がある。

   獣医師については、これまで産業動物医の確保のために診療施設の整備計画を立て、獣医師を送り込むという政策をとってきたが、未だに産業動物医が不足している状況にある。また、    製薬会社に就職する獣医師も公務員同様半減しており、その分小動物診療に従事する獣医師が増え、偏在が進んでいる。

 

 ○ 小動物診療の開業医の数は増えているようにも思うが、同時に獣医師に対する教育の欠如をユーザーとして感じている。臨床教育が非常に難しいという話があったが、獣医師の一番つらいところは国家資格のパラメディカルが全くいないため、医師と違い、全て自分でやらなければならない。飼い主への対応や動物虐待など、獣医師に対する社会教育が必要。

   100%必要な情報を学部教育の間に伝達することはおそらく不可能であり、むしろどのようにして学び、何に自分はフォーカスしていけばよいのかという指針を与えることを重視した大学教育に変えていかなくてはならないのではないか。また、これから獣医師になろうという若者に対して、獣医師の社会的な責任や倫理観、動物関連の様々な事業に関するオンブズマンという役割が、教育の中でどれだけ伝達されているか非常に不安を感じる。

 

 ○ アメリカでは人の健康、動物の健康、環境の健康その全てがなければいずれも立ちゆかないという「ワン    ヘルス」というコンセプトを実践していくという動きが急速に広まっている。これを実現していくためには、これらの分野を横断した協力が必要であり、その中心となるのが公衆衛生を担当する獣医師であるため、アメリカでは獣医療のドクターと公衆衛生のマスターの学位がとれるデュアルコースを実践している大学が半数近くある。

 

 ○ 人獣共通感染症や食の安全が非常に叫ばれている中、果たして獣医学教育の中で十分な教育が行われているかどうか疑問である。地方ではすぐに獣医師の    処遇改善の問題にぶつかるが、獣医師が果たしてそれだけの知識技術を持って職場に出ているのかということが問題。処遇改善は進みつつあるが、根本にある獣医学教育をしっかりとしたものにしなければ獣医師だけ処遇を上げるということにはならない。

   OIEが来年10月の初旬には獣医学教育の国際的な平準化に向けて進むことを表明しており、私としては獣医学教育の基準はできるだけ高いところに設定することが望ましいと考えているが、いずれにしても我が国の獣医学教育を根本から変えていかないと獣医師のモチベーションも上がっていかない。偏在の問題もあるが、獣医師数は決して不足しているわけではなく、偏在の大きな要因の一つは獣医学教育の充実が十分なされていないということにもあるので、全体像を見ながら獣医学教育がどうあるべきか考えていきたい。

 

 ○ ここ10年くらいで従来の獣医学教育ではこなしきれないような新しいニーズが発生したにもかかわらず、ハードウェアそのものはほとんど変わっていない。また獣医学教育の改善という中で、教える側としての専門家がほとんど枯渇している。講座制の崩れていく中で大学院生が明らかに減ってきていることを考えると、大学院も含めた高度獣医学教育についてもどのように対応していくべきか議論していきたい。

 

(2) 事務局から資料説明の後、資料3「獣医学教育の改善・充実に関する主な論点(案)」に基づき自由討議が行われた。主な発言は以下の通り。

 

 ○ 長年の議論の中で、現在10校のある国立大学を3校か4校に分ければ、十分な教育を行う規模の教員数が確保でき、問題は一気に解決すると言われているが、それが実現しなかった阻害要因として4つの壁があると言われている。1つ目は「法令の壁」であり、大学設置基準ではどの大学も満たしており法令違反の状態ではないこと。2つ目は「大学あるいは地域エゴの壁」と言われ、うちの大学に獣医学科がくるなら統廃合は大変結構であるが、うちの大学からは外に出さないという考えがあること。3つ目は「人気の壁」と言われ、学生がたくさん来るんだから現状維持でいいじゃないかという考えがある一方で、学生が来るんだから手放せないという考えがある。4つ目は「国家試験の壁」で、ほとんどの学生が国家試験を合格しているのだから教育の内容は十分であるという考えがある。

   一方、改革を推進する方法としては、第1に「基準をきちんと設定すること」、第2に「基準に基づいて外部評価を厳しく行うということ」、第3に「世論喚起を行い世論の同意得ること」であると、今まで大学関係者の中では議論されてきた。

 

 ○ 大学によっては、教員定数を含めて十分な教育を担保するための努力がなされてきたが、一方で入学定員を増やせないという状態もある。教育を担保するといった観点から何名の教員がいれば学生を教育できるのか議論をしていきたい。

   また、公衆衛生分野の獣医師の力量が十分でないという意見があったが、日本の公衆衛生分野の獣医師は人数が少ない中、必死にやっていると思う。法令上の整備が十分ではないのではないか。

 

 ○ 獣医師は卒業してすぐは実体験がないから使えないと言われる。大学教育の中でしっかり実務もできるような体制作りをして獣医師を輩出すれば、少しでも待遇改善がなされるのではないかと理解している。

 

 ○ 獣医師が約1,000名というのは日本の獣医師の需要を十分に満たしていると言われており、農林水産省の検討会議でもほぼ足りているという結論が得られたとことから、各大学が学生定員を充実することによって獣医学教育を充実するという道はほぼ閉ざされているというのが現状。

 

 ○ BSEが発生した際に1ヶ月あまりで全国一斉検査ができるようになり、世界的に見ても素早い対応ができたことで日本の公衆衛生獣医師は優秀であることが証明できた。一方で、リーダー的な存在が育っておらず、保健所の所長になるような存在は昔の人々と比べて少なくなってきたという現状がある。

 

 ○ 今獣医学教育において何か求められているかということについては、大学関係者の中で10年間かけて議論してきた答えが標準的なカリキュラムとして出てきており、この標準的なカリキュラムにまだ不足しているものがあるのかどうかということについて議論していきたい。

 

 ○ カリキュラムについては、全国大学獣医学関係代表者協議会が作成した標準カリキュラムで良いと思うが、教員の絶対数が少ないため充実した教育ができない。最終目標はやはり大学再編ということしかないのではないかと思う。

 

 ○ やはり一定数の教授・准教授がいないと専門的な部分を教えられない。

 

 ○ これまでの議論は、閉塞状態に入っている議論に聞こえる。世の中全てを満たせるという話はどこにもなく選択と集中が必要。国家試験に合格するための最低限の教育は必要だが、あとは大学ごとに特徴があってもよいのではないか。

 

 ○ やはり国家試験のレベルはクリアーしなければならない。しかし、国家試験の科目だけで18科目あり、その中の2科目が内科・外科という臨床科目である。医学教育では、内科・外科それぞれで1つの科目ということはありえず、内科・外科がそれぞれ10科目あるとすると、臨床科目だけでも20科目になる。そうすると国家試験は18科目といっても、実際は20科目30科目の内容の試験ということになる。国立大学では、教授だけだとせいぜい10名、准教授を入れて20人しか教員がいない中で、30何科目を教えられるかというと、今の教員数では国家試験のレベルをクリアーすることがやっとの状態。私立大学あるいはそれ以上の教員数になって初めて特色がある教育ができるのではないかというのが、今までの検討の結果である。

 

 ○ やはりどこかに糸口を見つけるためには4つの壁のどれかだけでも崩さないとどうにもならない。英知を集めて議論をしても答えがないというならこのような会議で集まる意味がない。

 

 ○ 国家試験の最低基準だけはクリアーしなければならないが、大学を統合する予算は国にはないので、まずは緩やかな統合ということで共同学部を作っていくことが重要。ある大学は産業動物・家畜衛生、ある大学は小動物・伴侶動物、ある大学はリサーチ研究といった構成大学ごとに特色を出せば魅力ある共同学部を作ることができる。

 

 ○ この会議で一定の結論が出た場合、それがこの先どのように運用されていくか見通しはあるか。

 

 ● 現在、中央教育審議会では大学教育全体について議論がなされているので、この会議で一定の方向性が示され、中央教育審議会でも大学教育全体の観点から検討がなされ、同様の方向性が示されれば制度的な変更もあり得る。

 

 ○ この問題については、学術会議でも議論が行われている。中教審で明確なご意見が出されればこれは非常に強い後押しになる。

 

(3) 事務局から次回の日程について説明があり、閉会となった。

 

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