資料4 これまでの主な意見

獣医療を取り巻く状況

(職域全般)

○地方公共団体の獣医師が担当する主な業務は、公衆衛生分野、家畜衛生・畜産振興分野、自然保護・環境対策分野の3つに大別される。公衆衛生分野には食品衛生、生活衛生環境分野が含まれる。家畜衛生・畜産振興分野には、家畜防疫、家畜衛生、畜産技術、人獣共通感染症、獣医事、薬事行政が含まれる。自然保護・環境対策分野には、鳥獣保護、動物愛護等が含まれる。これらの3つの分野は密接に関連している。

○環境問題、動物介在活動、学校飼育動物を通した情操教育、野生動物対策、医学と協調したバイオメディカル分野の研究、海外技術協力、大学における教育研究等、獣医師が関わる分野は多岐にわたる。

○どのようにして学び、何に自分はフォーカスしていけばよいのかという指針を与えることを重視した大学教育に変えていく必要がある。

○行政処分を受ける獣医師が近年増加している。

○偏在が起こっている大きな責任が大学教育にあると思う。大学教育の中で各領域の魅力を感じモチベーションを高められるような教育をなされる必要がある。

(産業動物診療)

○最近ではアニマル・ウェルフェアの理念のもと、産業動物であってもきちっとした環境下で飼育しなければ食に供してはならない時代が近づいている。

○家畜保健衛生所における基礎的な検査についてはある程度大学で技術を習得してくるため、新採の獣医師であってもある程度活躍できる環境にある。

○新規採用される獣医師は、優秀な獣医師が多いが、コミュニケーション能力が少し足りない。

(公衆衛生)

○BSEが発生した際に1ヶ月あまりで全国一斉検査ができるようになり、世界的に見ても素早い対応ができたことで日本の公衆衛生獣医師は優秀であることが証明できた。一方で、リーダー的な存在が育っておらず、保健所の所長になるような存在は昔の人々と比べて少なくなってきたという現状がある。

○脳の採材の技術を持って診断できる獣医者が少ない。

○各自治体では公衆衛生獣医師の補充が危機的な状況にある。

○食品の安全確保や人獣共通感染症の問題が出てきたが、人材が確保できない。

○大学の授業の中で実践的な内容を取り入れれば、公衆衛生に対しての理解も進み、興味も沸くのではないかと考える。

(小動物診療)

○獣医療について国家資格のパラメディカルが全くいないため、医師と違い、獣医師の負担が大きい。

○小動物、伴侶動物の分野では、一次診療と二次診療といわゆる高度医療がある一方、動物種による診療体制も進みつつある。最近では、循環器専門、脳神経関係専門、消化器、呼吸器と専門分化が進みつつある。

(その他)

○製薬会社に就職する獣医師も公務員同様半減している。

 獣医師に求められる知識・技能、資質

(全ての職域で求められる知識・技能、資質)

○地方公共団体の職員である獣医師には、職域ごとに異なる知識・技能が必要とされ、それぞれについてプロフェッショナルであることが求められる。また、公務員としての基本的な資質を兼ね備えていることが大前提となる。

○公衆衛生は人を対象にしているため、コミュニケーション能力が必要とされる。

○獣医師は現場での問題解決能力が求められるため、バックグラウンドとなる十分な知識・技術を持っていなくてはならない。

○応用力というのは真理眼をつくるということであり、多くの情報から自分が必要なものを選ぶ能力が必要。

○新しい学術動向を着実にとらえて教育の中に盛り込んでいくことが必要。

○医学、歯学、畜産学、工学といった関連分野との連携も必要。

(産業動物診療獣医師について)

○病性鑑定の実施については迅速な初動体制と的確な対応が求められるため、経験や判断力・専門的な技術が求められる。

○獣医師単独での業務だけでなく、あらゆる分野と連携し、専門的な知識を活用していくことが求められる。

○生産構造の変化に伴う生産性向上に向けた技術開発、家畜・畜産物の輸出入の増大、グロバール化に伴う防疫体制の強化への対応が求められる。

○畜産・家畜衛生に関する産業動物診療獣医師には、草地学、飼養学、遺伝学、経営学的な知識が求められる。

○厳しい環境下で仕事に携わるため、強靱な精神力が求められる。

(公衆衛生獣医師について)

○動物の習性をよく知っていないといけないので、動物行動学の知識が必要である。

○感染症法に関する知識が必要。

○捕獲収容した動物の応急措置、飼養管理、健康管理という臨床関係の知識が必要。

○と畜検査では解剖病理、組織検査、精密検査、微生物学的・理化学的組織病理検査といった検査に関する知識と技術が必要。

○食中毒をはじめとする食品衛生に関する知識が必要。

○ウィルス感染なのか食中毒なのか判断するため疫学的な知識が必要。

○行政では監視、指導、苦情処理、検査等の様々な業務に知識・技術を活かしていかなければならないため、大学で学んだ知識・技術を応用する力が必要。

(小動物診療獣医師について)

○強靱な精神力に加えて、飼い主の気持ちが理解でき、メンタル的なケアのできる資質が求められる。

○飼い主とコミュニケーションがとれることが必要であるとともに、優しさや思いやり、責任感、忍耐力が求められる。

教育内容

(総論)

○各科目の中で何をどこまで教えるべきか、ミニマム・リクワイアメントをどこに設定するかということが問題。

○100%必要な情報を学部教育の間に伝達すること不可能である。

○大学教育では、各職域で獣医師を再教育しなくてもよい程度の基礎的な知識・技能を身に付ける必要がある。

○職域ごとに何が求められているのかを担当教員がしっかりと見据えて、最新の情報を盛り込んだ教育をしなければならない。

○獣医師は様々な職域があり、獣医師国家試験で問うもの以上に幅広い分野で活躍しているため、大学教育ではそれに応える内容の教育を行うべき。

○獣医学教育において何か求められているかということについては、大学関係者の中で議論されてきた成果として標準的なカリキュラムが作成されている。

○人獣共通感染症や食の安全が叫ばれる中、これらについて十分な獣医学教育が行われているか疑問。

○獣医学教育が6年制になったときのキャッチフレーズは、臨床教育と公衆衛生教育を充実させることであったが、この20年間で状況は悪くなっているということをいわざるを得ない。

○獣医学教育は4年制から6年制教育になったが、間延びしただけのように感じる

○海外の規制も含め、政治や法律に関する知識も必要である。

○大学教育の中で実務ができるような体制作りが必要。

(臨床教育)

○大学教育では平準化した基礎的な技術・知識を身につけさせることが求められる。

○大学教育では平準化した基本的な技術の習得や、完備された施設における高度医療技術の習得といったものが求められる。

○小動物臨床教育は、まず大学教育があり、次に卒業後教育がある。大学における実務教育が十分でないため大部分が卒後教育に偏っており、平準化した知識・技能が身に付かない。

○大学での実習では、遺体の供給がままならない状況である。それを仕方ないですませるのではなく、獣医師自身が関係者とのつながりの中で確保に努め、状況を改善していかなければいけない。

○卒業後の実務教育について、一部の人は大学に残って研究生や研修生として教育を受けるが、大学の教員は非常に多忙なため、研修生や研究生をマンツーマンで教えることは不可能である。

(公衆衛生教育)

○大学の公衆衛生の実習では自治体で行っているような理化学試験ができていない。大学の実習と地方自治体の検査のレベルに大きなギャップがある。

○学生が公衆衛生に興味を持つような大学教育の改善が重要である。

(動物愛護・倫理)

○飼い主への対応や動物虐待などついて、獣医師に対する再教育が必要。

○獣医師の社会的な責任や倫理観が教育の中でどれだけ伝達されているか不安を感じる。

○獣医師としての社会的責務や獣医倫理を学校教育の場でしっかりと身に付けさせるべき。

教育方法

○各職域で必要な専門知識や応用力を大学教育で身に付けさせ、実務ができる人材を育成するために、コース制を導入するべき。

○4年までに基本的な教育は全て終了させ、5年では臨床や公衆衛生といった獣医師として必要な知識・技能を学び、6年では産業動物診療獣医師、小動物診療獣医師、公衆衛生獣医師、あるいは製薬会社や研究者といった、それぞれの職域ごとのエキスパートとなるために必要な教育を、本人の希望に応じた形で行うようにすれば、世の中の期待にもこたえられる獣医師を養成できるのではないか。

○応用力を教育の中で修得させるためには、特に公衆衛生分野では、より実践的な内容や手法を用いて教育を行うことが有効。

教育研究体制

○日本の獣医学教育について、理念はほぼ構築できているが、理念を動かす組織、施設あるいは設備が不十分である。

○以前は各大学20名くらいであった獣医学科の教員数が、改善の結果、現在30名くらいになったが、まだまだ諸外国に比べると不十分であると感じている。

○一定数の教授・准教授がいないと専門的な教育を十分行えない。

○獣医学教育の研究者がほとんど枯渇している。講座制の崩れていく中で大学院生が減少している。

○今の教員数では国家試験のレベルの教育をクリアーすることがやっとの状態。

○国立大学の教員1人当たりの学生数は諸外国と比べても遜色ないが、これを10に小分けをしてしまっているため、教員の絶対数が不足している。外科の研究室は2・3名体制がほとんどであるが、それでは総論から各論まで教育することは不可能。

○大学では専任教員が十分配置されていないため、大学内で知識・技能が伝承されず、普遍化、平準化された知識・技能を身に付けさせる教育が行われていない。平準化された教育を責任をもって行う教員体制の構築が必要

○臨床系教員は応募が少なく、応募があったとしても、専門分野を担当できる人材が集まらない。特に動物診療の臨床分野では関連する研究機関がないため、人材が不足しているのではないか。

○小動物診療の領域でも、国立10大学の附属家畜病院は一部を除いて惨憺たる状況下の中で臨床教育がなされている。施設・設備はもちろんのこと、スタッフも足らず、専任教員が十分張りついていない。外科の担当する教員がメスをほとんど持ったことがないとか、画像診断の教授が画像診断が全く不得手であるといった状況が見られる。

○大学において教員の有機的な連携体制の確立が重要。

○ここ10年で多くの新しいニーズが発生したにもかかわらず、ハードウェアそのものはほとんど変わっていない。

○公衆衛生関係では地方自治体の機関のほうが大学よりも進んだ研究を行っている。

○産業動物に関するクローン研究ができるような施設・設備・スタッフがいる大学はほとんどなく、地方の衛生試験所や家畜衛生保健所のほうが進んでいる。

○カリキュラムについては、全国大学獣医学関係代表者協議会が作成した標準カリキュラムで良いと思うが、教員の絶対数が少ないため標準カリキュラムのような充実した教育ができない。最終目標はやはり大学再編ということしかないのではないかと思う。

○長年の議論の中で、現在10校のある国立大学を3校か4校に分ければ、十分な教育を行う規模の教員数が確保でき、問題は一気に解決すると言われているが、様々な障害があり、十分な教育を実現するには、「基準の見直し」、「外部評価の実施」、「世論喚起」等が必要。

○大学を統合する予算は国にはないので、まずは緩やかな統合ということで共同学部を作っていくことが重要。その上で構成大学ごとに特色を出せば魅力ある共同学部を作ることができる。

○大学のエゴや地域の事情というがあり、思うように再編統合は進まない。個々の大学の自助努力のみで改善を行うことも無理だと思う。

○教育体制と内容について改善すべき点はというと、一つは効率化の促進である。効率化の促進には大学の再編整備しかない。

国際的通用性

○我が国の大学は、行政官として公衆衛生分野で働く獣医師に対する教育体制が十分でなく、欧米の公衆衛生大学院に留学をさせて国際機関で働ける人材を養成せざるを得ない状況である。

○6年制教育がスタートして二十数年を数えるが、獣医学教育の改善充実が図られたとは言えない。特に欧米と比較して、実務教育はいずれの分野においても余りにも貧弱である。

○日本の獣医師は、必ず社会に出てから再教育をしなければならない。欧米に留学させて国際的な技術と知識を身につけさせなければならないのが現状である。

○特に獣医学教育はライセンス教育であり、また、グローバル化の中でどのような獣医学教育を進めていくかということが、大きな課題。

○OIEが来年10月の初旬には獣医学教育の国際的な平準化に向けて進むことを表明しており、獣医学教育の基準はできるだけ高いところに設定することが望ましいと考えている。

○アメリカでは人の健康、動物の健康、環境の健康その全てがなければいずれも立ちゆかないといった「ワンヘルス」というコンセプトを実践していく動きが急速に広まっている。これを実現していくためには、これらの分野を横断した協力が必要であり、その中心となるのが公衆衛生を担当する獣医師であるため、アメリカでは獣医療のドクターと公衆衛生のマスターの学位がとれるデュアルコースを実践している大学が半数近くある。

○欧米、特にアメリカではインターン制度があり、獣医学教育を修了した学生は、卒業と同時に応用能力を発揮して実務ができるような教育がなされている。

○グローバル化を目指すというのは重要だが、我が国固有のデマンドに対応することも重要である。

教育の質保証

○これからの大学教育は、入り口管理である学生確保と出口管理である進路指導が重要な課題である。

その他

○世の中全てを満たせるという話はどこにもなく選択と集中が必要。国家試験に合格するための最低限の教育は必要だが、あとは大学ごとに特徴があってもよいのではないか。

○獣医師国家試験は診療と公衆衛生に必要な知識及び技能を問うことを主たる目的としている。大学教育は獣医師国家試験に左右されるという意見を聞くが、あくまでも獣医師国家試験は大学の卒業試験ではなく資格試験である。

○大学教育をきちんと受けていれば、特別な対策をしなくても国家試験は合格できるはず。

 

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