第一次報告(概要)

1 地域医療を担う医師の養成及び確保について

(1)地域医療を担う医師の不足と医学教育・大学病院の果たす役割

  • 関係者の努力にもかかわらず、医師の地域偏在は依然として大きな問題であり、へき地を含む地域での医師の確保は極めて困難なものとなっている。
  • 各大学においては、地域の医育機関として、学部教育、卒後教育の各段階において、将来の地域医療を担う人材の養成に努めるとともに、各大学病院においては、地域の中核病院として、他の医療機関との緊密な連携による適切な医療体制の構築のために協力を行うことが必要である。

(2)医学部の今後の入学定員の在り方

  • 医師の需給見通しに基づく医師数の適正化については、大学の入学定員の削減という養成課程の入口の段階だけではなく、養成課程における学生への進路変更を含めた適切な指導、国家試験の改善などの養成の出口の段階、さらには資格取得後の段階も視野に入れ、総合的に対策を講じることが必要である。また、医学部の入学定員については、医師の需給というマクロ的な数量調整の観点だけでなく、質の高い医師の育成・確保をいかに図っていくべきかという視点から検討する必要がある。
  • 地域別・診療科別の医師の偏在の問題に関する対応としては、入学定員の増加は短期的には効果は見られず、地域に必要な医師の確保の調整を行うシステムの構築等が求められるところであるが、入学定員に関してもこの問題への対応を図るため、医学部定員の暫定的な調整の実施に向けて関係者が連携して具体的に検討を進めることが必要である。このため、本調査研究協力者会議においては、大学の具体的な定員の在り方について、大学の地域定着策の実施等も含め、今後、具体的に検討を行うこととしている。

(3)入学者選抜における地域枠の在り方

  • 地域枠を設ける大学においては、高校生に対して、へき地等における医療の確保・向上や地域住民の福祉の増進など医師として地域社会に貢献することの魅力や、そのような医師に求められる人格や適性などについて説明する機会を設けるなど、高等学校教育との連携を図ることが必要である。
  • 地域枠の設定に当たっては、受験生に地域の社会福祉施設等におけるボランティア活動を通じて地域の保健、医療、福祉について考える経験を求めるなど、より地域医療に対する意欲の高い学生を選抜する工夫をこらすことや、大学として適切な教育体制を確保することを前提に、地域枠を拡大することも考えられる。
  • 地域枠で入学した学生を地域医療に貢献できる医師として養成するため、カリキュラムを編成する際には、選択制カリキュラムの設定や内容の工夫も含め地域医療への関心を高めるためのカリキュラムを開発するとともに、地方自治体や地域の医療機関等と連携して地域医療と接して学ぶ機会を提供するなど、地域医療への貢献を志す学生が、6年間を通じて地域医療についての理解を深めるよう工夫することが必要である。
  • 入学者選抜における地域枠の実施と奨学金制度との関連を持たせることは有効である。大学や都道府県が協力して地域枠と奨学金制度を有効に組み合わせる例は現在でも見られ、今後は、従来の地元出身者のための地域枠に加え、出身地にとらわれず、将来地域医療に従事する意志を有する者を対象とした新たな入学枠(新たな地域枠)を設定した上で卒業後の従事を担保するための奨学金制度を組み合わせるなど、卒業後実際に地元に定着することに結びつけるための取組を一層推進することが必要である。

(4)学部教育における地域医療を担う医師養成の在り方

  • 地域医療従事者や地域保健従事者による特別講義、コメディカル等の医療従事者体験実習や離島、へき地における実習を実施したり、社会医学実習において地域特有の課題について保健所の職員とともに調査研究を実施するなど、学生の地域医療や地域保健への関心を高めるための取組の広がりと充実が求められる。
  • 学生にへき地医療についての理解を深めさせ、プライマリ・ケアの能力を向上させるために、各大学は、各都道府県に置かれているへき地医療支援機構の担当医師の参画を得たり、地域医療を専門とする教育組織を設けるなど、その教育体制の整備について検討を行うことが必要である。
  • 各大学における地域医療を担う医師養成の取組を、国や地方公共団体がそれぞれの役割分担に応じ、必要な予算措置や寄附講座の設置等を通じて支援することが必要である。

(5)卒後教育における地域医療を担う医師養成の在り方

1.大学病院における新医師臨床研修の充実

  • 地域全体として大学病院と地域の医療機関、保健所等が、連携した卒後臨床研修体制を整備し、医学生への積極的な情報提供を行うことが必要である。
  • 各大学においては、ワークショップや指導医講習会の開催を通じて、指導医に対し、地域保健・医療の重要性について理解を深めさせることが必要である。また、地域保健・医療の研修の効果を高めるためには、大学側と受け入れ側の緊密な連携が不可欠であるとともに、研修前後の研修医への十分な指導が必要である。
  • さらに、大学病院における研修医の減少傾向が生じた原因を分析するとともに、研修医に対する教育指導体制の整備や処遇の改善、大学病院と協力病院等との緊密な連携体制の構築等に取り組むことが必要である。

2.新医師臨床研修後の研修における総合診療医の育成

  • 地域社会で特にニーズの高い総合的なケアを修め、プライマリ・ケアを極める医師も、高度な専門性を持った臨床医であるとの認識に立って、専門医研修における総合診療医の養成システムを構築していくことが重要である。
  • 大学病院においては、地域の医療機関との連携を図りながら、プライマリ・ケアのための研修を行うことのできる体制を整備することについて検討する必要がある。
  • 関係学会が総合診療医の認定医制度を設けるなど、総合診療医の専門性が社会的にも認知されるような仕組みを設けることが望まれる。

3.大学や大学病院における生涯学習体制の整備

  • 医療人の養成の場である大学や大学病院においては、学部教育、卒後教育の各段階において、医師が生涯にわたって個々人の専門性を高められるよう、医師としてのキャリア形成に中核的な役割を果たすことが求められる。
  • 大学や大学病院において、地域医療等にかかわることを希望する様々な年代の医師が診療能力の向上を目指して、プライマリ・ケアやへき地医療、医師不足が指摘されている分野の医療等について学ぶ機会を提供することが期待される。特に、地域における医療体制の確保のためには、離・退職した潜在的な医師の活用が求められることから、定年退職した医師や子育て等の理由により退・休職した女性医師の復帰に対する支援の充実が求められる。

(6)地域医療を担う医師確保に関する大学病院の役割

1.大学病院による地域医療支援

  • 各大学においては、診療科単位で行っている医師紹介の窓口を一本化するなど、透明性を確保しながら医師紹介を行うシステムを構築することが必要である。
  • 大学として地域医療対策協議会へ積極的に参画し、地域の医療機関との病病・病診連携を実施して、地域における医療機能分担を推進したり、地域における医療資源の集約化に資する医師紹介を行なったりするなど、都道府県の医療施策への協力が期待される。
  • 大学病院は、自ら積極的に医師としてのキャリア形成の場の提供を図るとともに、都道府県や地域の医療機関等と連携し、地域における医療提供体制の確保に重要な役割を担うことが必要である。
  • 小児科、産婦人科等、医師不足が指摘されている分野も含め、指導体制の充実を図るなど、人材養成のための体制を整備することが必要である。
  • 大学病院の救命救急センターや救急部は、地域の救急体制の中核として重要な役割を果たしており、救命救急体制の整備・充実と救急医の養成を図ることも必要である。

2.遠隔医療システムの活用

  • 大学病院が、情報通信技術を活用して地域の医療機関とのネットワークを形成するなどにより、医療面での協力を行うことが期待されるところであり、国や地方公共団体が必要な支援を行うことについて検討が必要である。

2 医学教育モデル・コア・カリキュラムの改訂について

(1)「医学教育モデル・コア・カリキュラム」に基づく学部教育の充実

  • 医学や医療を取り巻く環境の変化により、地域医療を担う人材の育成や腫瘍学教育、医療安全教育の充実のように、社会的要請が高く、早急にモデル・コア・カリキュラムへ反映されることが望ましいものも生じていることなどを踏まえて、モデル・コア・カリキュラムの改訂について検討する必要がある。

(2)地域保健・医療についての記載の充実

  • 各大学における地域保健・医療を担う人材の育成の取組を推進し、学生に地域保健・医療に関する興味・関心を高めるための体系的な学習機会を提供するためには、「項目(F)医学・医療と社会」の中に、地域保健・医療に関する新たな項を新設した上で、「地域医療の在り方と現状及び課題を理解し、地域医療に貢献するための能力を身に付ける。」ことを一般目標として明示するとともに、地域保健・医療の全体像を把握することのできる学習内容を到達目標として記述することが適当である。
  • その際、医師の地域偏在、小児科・産婦人科等の分野別偏在等の地域保健・医療の抱える課題に関する各大学の教育を推進する観点からの記述を到達目標に明記することが適当である。

(3)腫瘍に関する病態発生・診断・治療についての体系的記載

  • がん治療専門医の育成のため、各大学における腫瘍に関する専門的な教育を推進するための必要な見直しを行うことが適当である。
  • 腫瘍に関する項目を「D 全身におよぶ生理的変化、病態、診断、治療」の中に位置づけた上で、【病理・病態】【発生原因・疫学・予防】【診断】【治療】等の系統的な学習事項の区分を設けてそれぞれの区分ごとに到達目標を明示するなど、体系的に記載することが適当である。
  • 各大学においては、がん診療全般を取扱う教育組織を設置するなどして学部教育の充実に取り組むとともに、大学病院においても、がん診療に特化した診療組織の設置や専門医研修の実施等によりがん診療や専門医養成等の充実に取り組むことが必要である。
  • 特に、大学院のコースワークの中に専門医資格取得のための教育内容を盛り込むとともに、大学病院における実施修練を充実させるなど、がん専門医の養成における大学院と大学病院との連携の充実を図ることが必要である。そのために、大学院と大学病院におけるがん治療教育のコーディネーターを設けることも考えられる。さらに、各診療科の基盤学会の資格を取得した医師を対象とした、がんの診断・治療・研究に必要な高度先進的な知識と技術の修得の機会の提供や、がん医療に携わるコメディカルに対する実践的な教育の機会の提供も必要である。

(4)医療における安全性への配慮と救命・救急に関する記載の充実

  • 社会的要請である質の高い医療の提供を実現するためには、新たな診断・治療方法の確立等と並んで、患者側の視点に立った安全性の高い医療の提供が重要であり、医療上の事故等の発生後の対応に加えて、具体的な予防方法に関する学習内容を盛り込むなど、医療上の事故等を予防するための学習内容を充実させることが適当である。あわせて、医療従事者自身の安全確保や事故対応に関する学習内容も新たに盛り込むことが適当である。
  • さらに、様々な分野における個人情報の流出が社会問題となっていることを踏まえ、医療現場におけるこのような事案の発生を予防するために、患者のプライバシーへの配慮等の個人情報の取り扱いに関する学習内容を新たに盛り込むことが適当である。

(5)医学教育モデル・コア・カリキュラムの改訂に関する今後の検討課題

  • 医師国家試験出題基準の改正も踏まえつつ法制度、名称等の変更にすみやかに対応してモデル・コア・カリキュラムに反映するための恒常的な体制の構築を、文部科学省を中心として、各大学、医学関係者、社団法人医療系大学間共用試験実施評価機構、東京医科歯科大学医歯学教育システム研究センター(MDセンター)の協力を得ながら具体的に検討することが適当である。

3 最終報告に向けた検討課題

(1)入学者選抜方法の改善について

  • 大学から高等学校等への適切な情報提供の在り方なども含め、入学者選抜方法の改善について検討する必要がある。

(2)共用試験の位置付けの明確化

  • モデル・コア・カリキュラムの改訂を行う際には、共用試験の問題作成や出題を円滑に行う観点からも検討が行われることが必要であり、明らかな記載上の誤りの修正を行うとともに、法制度や名称の変更による修正などを行う必要がある。また、法制度、名称等の変更にすみやかに対応してモデル・コア・カリキュラムに反映するための恒常的な体制の構築について検討する必要がある。さらに、本格的なモデル・コア・カリキュラムの改訂の際に、社団法人医療系大学間共用試験実施評価機構の果たす役割についても検討する必要がある。

(3)新医師臨床研修との整合性・接続性・役割分担を踏まえた臨床実習の在り方

  • 診療参加型臨床実習の実施にあたっては、各診療科の連携協力体制、さらにはコメディカルを含めた診療チームの連携協力体制を構築するなど、組織的な教育体制を確立することが必要である。
  • 医療安全に対する国民の要望が高まる中で、診療参加型臨床実習における侵襲的医行為等の実施にあたっては、学生の態度、技能、知識の適切な評価や指導医による指導・監督等に加え、患者に対する医学生である旨の明確な紹介と患者の理解と同意を徹底することが必要である。
  • 医療安全の観点も踏まえて、新医師臨床研修制度における研修内容との整合性・接続性・役割分担に配慮した診療参加型臨床実習の在り方について明らかにするとともに、臨床実習に係るモデル・コア・カリキュラムの改訂について検討する必要がある。

(4)大学病院における新医師臨床研修の充実

  • 各大学病院においては、診療科ごとだけではなく、大学全体の統一的な理念に基づく研修目標やプログラムを策定するとともに、基本研修科目や必修科目ごとに到達目標を明示し、その下でローテート方式の新医師臨床研修を実施する体制を構築することが必要である。
  • 総合診療部などを活用した総合診療方式の積極的な導入、卒後臨床研修センター等を中心とした全体的なコーディネート体制の充実、学外の多様な医療機関との連携や研修希望者の要望の反映、研修希望者への情報提供の在り方など具体的な改善方策について検討する必要がある。

(5)専門医養成の在り方

  • 新医師臨床研修修了後は、都道府県や地域の医療機関と連携し、大学病院や地域の多様な医療機関をローテートしながら修練や経験を積むことにより、医師としてのキャリア形成が可能となるような医師養成システムを構築することが必要である。大学病院は、自ら積極的に専門医養成の場の提供や養成プログラムの充実を図った上で、地域の医療機関等と連携し、このような医師養成システムの構築に中核的な役割を果たすことが求められる。
  • さらに、大学院における人材養成に係る目的の明確化やコースワークのカリキュラムの工夫・改善を図った上で、専門医養成における、大学院の取組の充実や、大学院と大学病院との連携の充実を図ることが必要である。具体的には、大学院のコースワークの中に専門医資格取得のための教育内容を盛り込むとともに大学病院における実施修練を充実させる取組や、大学病院の専門医研修者が大学院にも在籍し博士号を取得する取組の推進とそのための体制の整備が求められる。
  • 大学院教育との関連も踏まえながら、専門医養成の在り方について検討する必要がある。

(6)医学系分野で求められる教育者・研究者の養成

  • 優れた教育者や研究者を養成するためには、学部教育の段階から、継続的に病態解明・診断・治療について検証し、改善しようとする意欲や積極的に研究に参加する姿勢などを育んでいく必要がある。
  • 医学系分野で求められる教育者・研究者の養成方策について、新医師臨床研修制度による状況の変化も考慮に入れながら検討する必要がある。

(7)臨床研究の推進

  • 臨床研究を推進するために、大学は、臨床研究のデータセンターとしての機能・役割を充実させることが必要である。
  • 我が国における臨床研究の推進のために求められる人材や、その養成方策について検討する必要がある。

(8)教育研究病院としての大学病院の役割を適切に果たすための組織体制の在り方

  • 新医師臨床研修制度の導入に伴う研修医の減少に見られるように、大学病院が教育機関としての役割を果たすための体制の整備が十分ではないのではないかと考えられるような状況が見られる。
  • 教育研究病院としての大学病院の役割を適切に果たすための組織体制の在り方について検討する必要がある。

(9)女性医師の増加に伴う環境整備

  • 大学病院における、女性医師の働きやすい環境の整備や、退・休職した女性医師の復帰に対する支援の充実について検討する必要がある。

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高等教育局医学教育課