3 最終報告に向けた検討課題

入学時点に係わる論点

(1)入学者選抜方法の改善について

  • a)近年、少子化の進行に伴って、専攻分野によっては学生数が収容定員に満たない大学が生じてきている中で、すべての医学部においては入学定員を満たすのに十分な学生が入学を志願しており、かつ、他分野と比較して成績優秀な学生が多いと考えられている。
  • b)しかしながら、その一方で、入学後に医師になろうとする目的を見失ってしまい、学習に十分に取り組めない学生の姿も見られる。
  • c)各高等学校においては、生徒本人の希望や適性に基づいて進路指導が行われているところであるが、高等学校の教員の中には医学部の出身者がいないため、生徒本人も教員も医師に求められる資質や医学部教育を受けるのに必要な学習、医学部の教育や研究の現状、医療現場の問題点などを十分に理解することなく、進路を決定している場合もあると考えられる。
  • d)このため、今後、大学から高等学校等への適切な情報提供の在り方なども含め、入学者選抜方法の改善について検討する必要がある。

学部教育に係わる論点

(2)共用試験の位置付けの明確化

  • a)医学部における教育の効果を高め、質の高い医師を育成するためには、学生が臨床実習に入る際の進級の時点や卒業認定の時点において、カリキュラムの内容に準拠して、それぞれ必要とされる能力・適性の目標を設定し、段階を踏んで厳正に評価することが必要である。
  • b)このような観点から、医学生が患者に直接接する診療参加型の臨床実習を開始する前に学生が備えるべき必要最小限の態度、基本的診療能力、知識の総合的理解力及び問題解決能力を適正に評価する共用試験が、医系全80大学の参加を得て、社団法人医療系大学間共用試験実施評価機構により平成17年12月から正式実施されている。
  • c)この共用試験は、モデル・コア・カリキュラムに準拠し、臨床実習開始前に1.コンピュータを用いた客観試験(Computer Based Testing ,CBT)によって知識の総合的理解力と問題解決能力を評価し、2.客観的臨床能力試験(Objective Structured Clinical Examination,OSCE)によって態度、基本的臨床技能を評価することにより、一定基準以上の学生を臨床実習に参加させるために、医系全80大学が協力して推進している大学間で共通の評価システムである。
  • d)このような共用試験の位置付けにかんがみ、モデル・コア・カリキュラムの改訂を行う際には、共用試験の問題作成や出題を円滑に行う観点からも検討が行われることが必要である。
  • e)したがって、前述したように、今回のモデル・コア・カリキュラムの改訂においては、明らかな記載上の誤りの修正を行うとともに、法制度や名称の変更による修正などを行う必要がある。また、法制度、名称等の変更にすみやかに対応してモデル・コア・カリキュラムに反映するための恒常的な体制の構築について検討する必要がある。さらに、本格的なモデル・コア・カリキュラムの改訂の際に、社団法人医療系大学間共用試験実施評価機構の果たす役割についても検討する必要がある。

(3)新医師臨床研修との整合性・接続性・役割分担を踏まえた臨床実習の在り方

  • a)診療参加型臨床実習は、学生が診療チームに参加し、その一員として診療業務を分担しながら、医師の職業的な知識・思考法・技能・態度の基本的な内容を学ぶことを目的としている。
  • b)診療参加型臨床実習は、モデル・コア・カリキュラムに位置付けられるとともに、平成13年協力者会議により平成3年の厚生省臨床実習検討委員会最終報告の内容を踏まえたガイドラインが示されている。
  • c)医学部白書によれば、平成16年11月現在、66大学において診療参加型臨床実習を何らかの形で実施しているが、その実施を各診療科に任せることなく組織的に教育体制に組み入れている大学は43にとどまっている。このため、診療参加型臨床実習の実施にあたっては、各診療科の連携協力体制、さらにはコメディカルを含めた診療チームの連携協力体制を構築するなど、組織的な教育体制を確立することが必要である。
  • d)また、平成16年度より新医師臨床研修制度が導入されて卒後の臨床研修が必修化され、マッチング・システムに基づいて研修医が出身大学以外の大学病院や臨床研修病院で研修を行っている中で、研修医の臨床に関する態度、技能、知識の習得の程度が出身大学により大きく異なっているとの指摘がなされている。このため、診療参加型臨床実習参加前のみなならず、終了時すなわち卒業時に求められる、臨床に関する態度、技能、知識の標準的な到達目標の提示や評価の在り方について検討することが必要である。
  • e)さらに、医療安全に対する国民の要望が高まる中で、学生が、臨床現場で医療安全の徹底の観点から決して行ってはならない行為を学習することが重要となっている。また、診療参加型臨床実習における侵襲的医行為や羞恥的医行為の実施にあたっては、学生の態度、技能、知識の適切な評価や指導医による指導・監督等に加え、患者に対する医学生である旨の明確な紹介と患者の理解と同意を徹底することが必要である。このため、前述したように、診療参加型臨床実習に関するガイドライン等は示されているが、医療安全の観点から、侵襲的医行為や羞恥的医行為の在り方について更に検討することが必要である。
  • f)また、学生に対し、専門的な知識にとどまらず、患者や家族と良好で信頼されるコミュニケーションができる能力や態度を育成し、医療チームの構成員との協調や実践的な診療技能を習得させるためには、実際の医療の現場における診療参加型臨床実習の充実を図ることが必要である。このため、各大学においては、学生が診療チームの一員として診療業務を分担しながら実践的に学ぶ機会を充実するため、臨床実習のカリキュラムの工夫・改善や教育体制の整備・充実に努めることが必要である。
  • g)その一方で、医学部白書によれば、平成16年11月現在、53大学において学外の地域の医療機関での臨床実習が何らかの形で導入されており、大学病院では経験しにくい症例や地域における医療の実態を学ぶことができるなどの利点が指摘されており、学外の医療機関の活用とともに、大学病院との連携協力体制の構築が必要である。
  • h)このような状況の中で、学部段階における臨床実習と新医師臨床研修との整合性・接続性・役割分担を明確にし、より効率的に医学教育を行うことの必要性が指摘されている。
  • i)このため、医療安全の観点も踏まえて、新医師臨床研修制度における研修内容との整合性・接続性・役割分担に配慮した診療参加型臨床実習の在り方について明らかにするとともに、臨床実習に係るモデル・コア・カリキュラムの改訂について検討する必要がある。

卒後教育に係わる論点

(4)大学病院における新医師臨床研修の充実

  • a)平成16年度から導入された新医師臨床研修制度では、コンピュータによるマッチングによって研修希望者の研修病院が決定されており、大学病院における研修医数は、新制度導入前(平成13~15年度)は、全体の約7割を占めていたが、新制度導入後は年々減少し、平成18年度の研修希望者では約5割となっている。
  • b)この減少傾向には、様々な要因が考えられるが、平成17年3月に厚生労働省が行った「臨床研修病院及び臨床研修医に対するアンケート」結果によれば、研修医が受けている臨床研修の満足度について、臨床研修病院では、概ね5割が満足し、2割が満足しておらず、大学病院では、概ね3割が満足し、4割が満足していない状況にあり、臨床研修病院と大学病院とでは満足度に差が生じている。大学病院の研修医が研修に満足していない主な理由としては、1.待遇・処遇が悪い(22.2パーセント)、2.プライマリ・ケアの能力がよく身に付けられない(21.6パーセント)、3.研修に必要な手技(症例)の経験が不十分(19.7パーセント)、4.研修に関する診療科間(病院間)の連携が悪い(14.9パーセント)が挙げられ、いずれの理由も、臨床研修病院の研修医より高い割合となっている。一方、研修医が大学病院に応募した動機については、1.地理的条件が良い(30.4パーセント)、2.病院の施設・設備が良い(22.8パーセント)が上位となっており、臨床研修病院の研修医と比較して多い動機としては、1.大学病院など他病院との臨床研修終了後の研修の連携がある(13.6パーセント)、2.自病院における臨床研修終了後の研修が充実(10.4パーセント)が挙げられる。なお、平成18年3月に厚生労働省が行った2年次研修医に対するアンケート結果においても、研修体制や研修プログラムについての研修医の満足度は、大学病院より臨床研修病院において高い状況にある。
  • c)また、平成17年の研修医マッチングの中間公表によると、大学病院を第一志望とする者は、33.9パーセントにとどまっており、この点からも、大学病院は、新医師臨床研修の研修場所としては必ずしも研修医から評価されていないことが伺える。
  • d)大学病院は、本来的には医師養成を行う医学部等の教育研究施設として設置されているものであるが、その指導体制や教育機能を活かし、新医師臨床研修制度で求められている基本的な診療能力を幅広く身に付けさせるための総合的な臨床教育を提供することが期待されている。
  • e)このため、各大学病院においては、診療科ごとだけではなく、大学全体の統一的な理念に基づく研修目標やプログラムを策定するとともに、基本研修科目や必修科目ごとに到達目標を明示し、その下でローテート方式の新医師臨床研修を実施する体制を構築することが必要である。
  • f)また、総合診療部などを活用した総合診療方式の積極的な導入、卒後臨床研修センター等を中心とした全体的なコーディネート体制の充実、学外の多様な医療機関との連携や研修希望者の要望の反映、研修希望者への情報提供の在り方など具体的な改善方策について検討する必要がある。

(5)専門医養成の在り方

  • a)医師の養成においては、まず医師として必要な基本的知識、態度及び技能についての6年間の医学部教育を経た後、基本的な診療能力を幅広く身に付けるための2年間の新医師臨床研修が義務付けられており、その後、必要に応じて、3~5年程度の専門医資格を取得するための専門医研修が行われている。
  • b)このように、専門医の養成に至るまでに10年程度の長期間の養成システムが不可欠であり、しかも、1施設のみで医師の養成のすべてを担うことは困難であるとともに医師が多様な経験を積むためには好ましくない。
  • c)したがって、特に、新医師臨床研修修了後は、都道府県や地域の医療機関と連携し、大学病院や地域の多様な医療機関をローテートしながら修練や経験を積むことにより、医師としてのキャリア形成が可能となるような医師養成システムを構築することが必要である。大学病院は、自ら積極的に専門医養成の場の提供や養成プログラムの充実を図った上で、地域の医療機関等と連携し、このような医師養成システムの構築に中核的な役割を果たすことが求められる。
  • d)また、大学病院における専門医養成においては、医師の分野別偏在の指摘も踏まえつつ、幅広い診療分野においてバランスよく専門医を養成していくことが期待される。その際、診療から離れた医師も含めて専門医資格の取得を希望する様々な年代の医師に対しても専門医研修を提供することが望まれる。また、前述したとおり、地域医療を担う医師を養成する観点から、大学病院の専門医研修における総合診療医の養成システムを構築していくことが必要である。
  • e)さらに、大学院における人材養成に係る目的の明確化やコースワークのカリキュラムの工夫・改善を図った上で、専門医養成における、大学院の取組の充実や、大学院と大学病院との連携の充実を図ることが必要である。具体的には、大学院のコースワークの中に専門医資格取得のための教育内容を盛り込むとともに大学病院における実施修練を充実させる取組や、大学病院の専門医研修者が大学院にも在籍し博士号を取得する取組の推進とそのための体制の整備が求められる。
  • f)このため、大学院教育との関連も踏まえながら、専門医養成の在り方について検討する必要がある。

教育者・研究者養成に係わる論点

(6)医学系分野で求められる教育者・研究者の養成

  • a)大学や大学病院は、現在の我が国の医療を担うとともに、今日の医学・医療の諸課題に対応するための高度かつ多様な教育研究を展開し、未来の医療を切り拓くという使命も担っており、医学系分野の教育者・研究者の養成は重要な課題である。
  • b)優れた教育者や研究者を養成するためには、学部教育の段階から、継続的に病態解明・診断・治療について検証し、改善しようとする意欲や積極的に研究に参加する姿勢などを育んでいく必要がある。
  • c)また、平成17年9月の中央教育審議会答申「新時代の大学院教育-国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて-」及び中央教育審議会大学分科会大学院部会医療系ワーキンググループ報告書においては、従来、我が国の大学院教育においては、一般に研究者養成のみに重点が置かれ、かつ、その内容は論文作成の指導が中心であり、科学的な思考法や研究の方法論を身に付けさせるための体系的な教育は必ずしも十分に行われていないとの問題点が指摘されている。
  • d)さらに、今後、大学院においても、教育機能を重視して、体系的な教育目的・内容を明確に持ったコースを設定し、コースワークの充実・強化を図ることなどについて提言がなされている。
  • e)また、平成18年3月の「大学院教育振興施策要綱」においては、人材育成目的の明確化や教員組織体制の見直し、産業界との連携の強化等の大学院教育の実質化について、同月の「第3期科学技術基本計画」においては、多様性の苗床の形成のための基礎研究の推進や大学の人材育成機能の強化等について提言がなされている。
  • f)その一方で、新医師臨床研修制度が導入され、将来研究者を志望する者であってもほぼ臨床研修の実施を選択することから、研究の開始が遅れ、研究者のキャリア形成に影響が及ぶことや、また、多くの大学病院で研修を行う研修医が減少したことを契機に、特に研修希望の少ない大学を中心として、医学研究を担う人材が不足して、研究そのものが沈滞することを懸念する声が上がっている。
  • g)このため、医学系分野で求められる教育者・研究者の養成方策について、新医師臨床研修制度による状況の変化も考慮に入れながら検討する必要がある。

(7)臨床研究の推進

  • a)新しい医療の開発を行う上で、生命科学の進歩を実際の医療へ展開するトランスレーショナルリサーチや、その基盤となる、これまでの診断・治療の検証を行いながら医療の改善を目指す臨床研究の役割は重要である。また、予防医学の観点からの社会医学(疫学)研究、治験に関わる研究、大学間や他の医療機関との連携によるEvidence Based Medicineのデータの蓄積等も必要である。
  • b)研究における日本の論文の割合は伸張しているが、臨床研究での割合は横ばいである。また、我が国の医学研究のうち、「Nature」や「Science」に掲載されるような基礎研究分野に比べて、「New England Journal of Medicine」や「Lancet」に掲載されるような臨床研究分野の論文数は伸張していないのが現状である。
  • c)このような状況の中、臨床研究を推進するために、大学は、臨床研究のデータセンターとしての機能・役割を充実させることが必要である。
  • d)臨床研究を推進する際の課題としては、1.基礎研究と比較して臨床研究の学問的価値が社会的に十分評価されていない、2.大学病院において臨床研究を行うに際して、医師が研究に十分な時間を割くことができない、といったことが考えられる。
  • e)さらに、人材養成の観点からは、1.臨床研究を行う上で必要な疫学、統計学についての専門家が不足している、2.一部の大学院の臨床系の専攻においては、収容定員以上の学生を受け入れているためにティーチング・スタッフが不足している、3.臨床系の専攻に所属する学生に対して十分な臨床研究の指導が行われていない、ことが考えられる。
  • f)このため、我が国における臨床研究の推進のために求められる人材や、その養成方策について検討する必要がある。

教育研究病院としての大学病院に係わる論点

(8)教育研究病院としての大学病院の役割を適切に果たすための組織体制の在り方

  • a)大学病院は、医療人の養成のための教育機関、新しい医療技術の研究・開発を行う研究機関、高度の医療を提供する地域の中核的医療機関として、重要な役割を果たしてきた。
  • b)国民の医療に対するニーズが多様化・複雑化し、医療人の一層の資質の向上が期待されている中で、大学病院には、医療人の育成のための一層の臨床教育の充実が求められている。
  • c)しかしながら、新医師臨床研修制度の導入に伴う研修医の減少に見られるように、大学病院が教育機関としての役割を果たすための体制の整備が十分ではないのではないかと考えられるような状況が見られる。
  • d)また、大学病院が安定的な経営を行っていくために臨床系の教員は診療に多大な時間を割かなければならない状況にあり、教育、研究に深刻な影響を与えている。多くの教員が、教育、研究、診療を発展させようと使命感を持って働いているが、診療の負担から教育や研究の時間を十分に割くことができず、総労働時間も長時間に及び、厳しい現実に疲弊してしまうような状況も見られる。
  • e)このため、教育研究病院としての大学病院の役割を適切に果たすための組織体制の在り方について検討する必要がある。

(9)女性医師の増加に伴う環境整備

  • a)厚生労働省の調査によれば、女性医師の数は昭和40年に10,128人であったものが平成16年には44,628人となっており、この間に4.4倍増加している。男性医師の数は、昭和40年に99,241人であったものが平成16年には225,743人となっており、この間の女性医師の増加率は、男性医師の同期間の増加率2.3倍を大きく上回っている。
  • b)医師総数における女性医師の割合は、昭和54年までの15年間は9パーセント台で推移していたが、昭和55年に10パーセント台に達してからその割合が順調に増え、平成16年には16.5パーセントとなっている。
  • c)育児休業等、子育てと仕事の両立を支える制度の整備は進んでいるが、実態では女性医師は男性医師に比べ、出産・育児による労働の一時的な中断や短縮が多く、平均した生涯労働時間が少ない傾向にある。
  • d)このため、大学病院における短時間勤務の導入や勤務時間内のカンファレンスなど、女性医師の働きやすい環境の整備や、子育て等の理由により退・休職した女性医師の復帰に対する支援の充実について検討する必要がある。

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