2 医学教育モデル・コア・カリキュラムの改訂について

(1)「医学教育モデル・コア・カリキュラム」に基づく学部教育の充実

  • a)モデル・コア・カリキュラムの策定・導入は、我が国で初めての試みであったことから、検討に当たっての時間的制約等もあり、記載上明らかな誤りや重複が見られる。また、モデル・コア・カリキュラム公表後の法制度等の変更により、モデル・コア・カリキュラムの記述が現在の状況にそぐわなくなっている点も見られる。
  • b)さらに、医学や医療を取り巻く環境の変化により、地域保健・医療を担う人材の育成や腫瘍学教育、医療安全教育の充実のように、社会的要請が高く、早急にモデル・コア・カリキュラムへ反映されることが望ましいものも生じている。
  • c)これらのことを踏まえて、モデル・コア・カリキュラムの改訂について検討する必要がある。
  • d)ただし、モデル・コア・カリキュラム導入による学生への教育効果を検証するためには、モデル・コア・カリキュラムによる教育を受けた学生が2~3回卒業する時期まで待つ必要があると考えられる。
  • e)このため、今回の改訂は、モデル・コア・カリキュラムの全面改訂ではなく、必要最小限の改訂とすることとした。
  • f)具体的には、以下に示すように、1.地域保健・医療についての記載の充実、2.腫瘍に関する病態発生・診断・治療についての体系的記載、3.医療における安全性への配慮と救命・救急に関する記載の充実を図るとともに、法制度、名称等の変更に伴う用語や記載上の誤り等の修正を行う。その他の今後改訂が必要と考えられる事項については、引き続き検討を行うこととする。
  • g)また、今後、医学・医療の進歩やこれらを取り巻く環境の変化に伴って、モデル・コア・カリキュラムの全面改訂が必要となると考えられることから、そのサイクルと仕組みについて検討する必要がある。

(2)地域保健・医療についての記載の充実

  • a)現在のモデル・コア・カリキュラムにおいては、医学生の到達目標として、「地域医療の機能と体制(地域保健医療計画、救急医療、災害医療、へき地教育、在宅ターミナル)を説明できる。」、「地域保健と医師の役割を説明できる。」、「地域保健(母子保健、老人保健、精神疾患、学校保健)を概説できる。」ことなどが掲げられているが、他の事項についても記述されている各項目の中で散在している。
  • b)各大学における地域保健・医療を担う人材の育成の取組を推進し、学生に地域保健・医療に関する興味・関心を高めるための体系的な学習機会を提供するためには、「項目(F)医学・医療と社会」の中に、地域保健・医療に関する新たな項を新設した上で、「地域医療の在り方と現状および課題を理解し、地域医療に貢献するための能力を身に付ける。」ことを一般目標として明示するとともに、地域保健・医療の全体像を把握することのできる学習内容を到達目標として記述することが適当である。
  • c)その際、地域における医師不足等の社会問題を踏まえ、医師の地域偏在、小児科・産婦人科等の分野別偏在等の地域保健・医療の抱える課題に関する各大学の教育を推進する観点からの記述を到達目標に明記することが適当である。
  • d)上記を踏まえ、別添資料1のとおり改訂を行うことが適当である。

(3)腫瘍に関する病態発生・診断・治療についての体系的記載

  • a)現在のモデル・コア・カリキュラムにおいては、「B 医学一般」の「3 原因と病態」の中で、腫瘍に関する項目を設けるとともに、他の項目の中でも腫瘍に関連する記述を設けるなどして、医学生の到達目標を定めている。
  • b)がんが日本人の死亡原因の第一位を占め、全死亡原因の約3割を占めるに至る中で、がん治療専門医の育成のため、各大学における腫瘍に関する専門的な教育を推進するための必要な見直しを行うことが適当である。
  • c)具体的には、手術、放射線療法、化学療法をはじめとして、がん治療に必要とされる集学的治療(高度で専門的な技術等を必要とする治療法の組み合わせ)のための基本的事項を確実に習得できるよう、腫瘍に関する項目を「D 全身におよぶ生理的変化、病態、診断、治療」の中に位置づけた上で、【病理・病態】【発生原因・疫学・予防】【診断】【治療】等の系統的な学習事項の区分を設けてそれぞれの区分ごとに到達目標を明示するなど、体系的に記載することが適当である。
  • d)上記を踏まえ、別添資料2のとおり改訂を行うことが適当である。
  • e)なお、各大学においては、社会的要請の高い放射線療法や化学療法も含め、がん診療全般を取扱う教育組織を設置するなどして学部教育の充実に取り組むとともに、大学病院においても、がん診療に特化した診療組織の設置やがんに関する専門医の資格を取得できる専門医研修の実施等によりがん診療や専門医養成等の充実に取り組むことが必要である。特に、大学院のコースワークの中に専門医資格取得のための教育内容を盛り込むとともに、大学病院における実施修練を充実させるなど、がん専門医の養成における大学院と大学病院との連携の充実を図ることが必要である。そのために、大学院と大学病院におけるがん治療教育のコーディネーターを設けることも考えられる。さらに、大学院における学位の取得とともに専門医を養成する取組に加え、内科認定医、外科専門医等各診療科の基盤学会の資格を取得した医師を対象とした、がんの診断・治療・研究に必要な高度先進的な知識と技術の修得の機会の提供や、看護師、薬剤師、診療放射線技師等のがん医療に携わるコメディカルに対する実践的な教育の機会の提供も必要である。

(4)医療における安全性への配慮と救命・救急に関する記載の充実

  • a)現在のモデル・コア・カリキュラムにおいては、医学生の到達目標として、「医療事故はどのような状況で起こりやすいかを説明できる。」「医療事故や潜在的医療事故が発生した場合の対処の仕方について学ぶ。」こと等が掲げられている。
  • b)社会的要請である質の高い医療の提供を実現するためには、新たな診断・治療方法の確立等と並んで、患者側の視点に立った安全性の高い医療の提供が重要であり、医療上の事故等の発生後の対応に加えて、ダブルチェックやチェックリスト法等の具体的な予防方法に関する学習内容を盛り込むなど、医療上の事故等を予防するための学習内容を充実させることが適当である。なお、このような学習は、医学生が患者に直接接する臨床実習開始前までに行うことが適当である。
  • c)あわせて、医療従事者自身の安全確保や事故対応に関する学習内容も新たに盛り込むことが適当である。
  • d)さらに、様々な分野における個人情報の流出が社会問題となっていることを踏まえ、医療現場におけるこのような事案の発生を予防するために、患者のプライバシーへの配慮等の個人情報の取り扱いに関する学習内容を新たに盛り込むことが適当である。なお、このような学習は、入学後早期に行うことが適当である。
  • e)上記を踏まえ、別添資料3のとおり改訂を行うことが適当である。
    f)なお、救命・救急に関しては、モデル・コア・カリキュラムの配列順序は履修順序を示しているものではなく、順序も含め具体的な履修方法は各大学の判断によるものであるが、医療安全に関する学習の充実や臨床実習における安全性の確保の徹底の観点から、救命・救急の基本的処置方法である一次救命処置(脳心肺蘇生)を入学後早期に医学生に履修させた上で体系的な学習機会を提供するなど、各大学において、臨床実習開始前までに救命・救急に関する基本的な知識・技能を確実に習得させるための取組を行うことが必要である。
  • g)今後、上記のような各大学の取組の推進を図った上で、その取組の状況を踏まえ必要と判断される場合には、一次救命処置(脳心肺蘇生)の早期の履修も含め救命・救急に関するモデル・コア・カリキュラムの改訂を検討することが適当である。

(5)医学教育モデル・コア・カリキュラムの改訂に関する今後の検討課題

  • a)医学教育が医師養成を目的としていることを踏まえれば、そのカリキュラムの編成にあたっては医師国家試験との関連を考慮することが求められる。
  • b)モデル・コア・カリキュラムの公表後の法制度、名称等の変更により、モデル・コア・カリキュラムの記述が現在の状況にそぐわなくなっている点も見られ、共用試験の問題作成と出題の際の支障となっている。
  • c)このため、医師国家試験出題基準を参考に、法制度、名称等の変更に伴う用語や記載上の誤り等の修正をすみやかに行うことが必要である。
  • d)さらに、4年ごとの医師国家試験出題基準の改正も踏まえつつ、法制度、名称等の変更にすみやかに対応してモデル・コア・カリキュラムに反映するための恒常的な体制の構築を、文部科学省を中心として、各大学、医学関係者、社団法人医療系大学間共用試験実施評価機構、東京医科歯科大学医歯学教育システム研究センター(MDセンター)の協力を得ながら具体的に検討することが適当である。
  • e)その際、モデル・コア・カリキュラムによる教育を受けた学生が2~3回卒業し、学生への教育効果の検証が可能な平成20年度前半には、モデル・コア・カリキュラムの全面改訂を行うことも考えられるが、その際には、上記d)の体制を活用することが考えられることから、この点も視野に入れて検討を進めることが望まれる。

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