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2 教育者・研究者の養成等の医学教育の改善

1  学部教育の改善について
(1) 学部教育の課題等
 優れた教育者や研究者を養成するためには、学部教育の初期の段階から、継続的に病態解明や診断・治療技術等について検証し、改善する意欲等を育んでいくことが必要である。特に、新医師臨床研修制度が導入され、研究の開始の遅れにより研究者のキャリア形成に影響が及ぶことが懸念される中で、可能な限り早い段階から、研究者に求められる志や資質等(以下「研究マインド」という。)の育成に取り組むことが求められている。

 専門細分化された医療がもたらす課題を乗り越えるためにも、プライマリ・ケアや予防医学も含め全人的・包括的・継続的な医療を患者に提供することが求められている中で、研究者の素養としても、医学・医療に関する幅広い知識や理解等が求められている。このため、学部教育においても、研究者と臨床医の双方の資質を育むための幅広い教育が求められる。

 また、日本の将来の医療レベルを向上させるためには、将来、勤務医や開業医となる者についても、臨床教育の充実とともに、一定期間の研究活動等を経験することにより、科学的・論理的思考を一層身に付けることが望まれる。
 卒業後、臨床の現場で医療に携わる者にも研究マインドが求められており、医師であるとともに研究者でもある専門家(以下「フィジシャン・サイエンティスト」という。)の養成が求められる。

 なお、6年次の学習が医師国家試験合格を目指した受験のための教育に陥っているとの指摘もあり、このような観点からも、学部教育の改善・充実を図ることが必要である。

(2) 学部教育の改善方策
(モデル・コア・カリキュラムの改訂)
 大学院教育の改善も含め教育者・研究者の養成の充実には、その前提として学部教育の改善が不可欠である。このため、学部教育の段階からフィジシャン・サイエンティストの養成の取組の充実を図るため、モデル・コア・カリキュラムを改訂し、「医師として求められる基本的な資質」を新設した上で、その中で医学研究の必要性の理解や生涯にわたり学習する意欲と態度等も記載するとともに、「学部教育における研究の視点」についての記載の充実を図るなど、医師として研究的な視点を常に備えるために求められる資質等を明確にすることが必要である。

 上記を踏まえ、別添資料1及び別添資料2のとおり、モデル・コア・カリキュラムの改訂を行うことが適当である。

(学部教育における研究マインドの育成)
 また、医師免許を取得した者の多くが勤務医や開業医となる実態を踏まえれば、我が国の医療レベルのさらなる向上を目指すためには、臨床教育の充実とともに、在学中の一定期間に実際の研究に携わること等を通じて、科学的・論理的思考を身に付けさせることが望まれる。このため、入学後早期から研究マインドを育成するため、学部生の研究室配属を促進するとともに、受入側も学部生が研究に対する関心を持つことを促すように努め、実際の研究に携わる機会の拡充やプログラムの確立等の内容面の充実を図ることが必要である。さらに、選択制カリキュラムを充実させて、研究マインドの育成に資する授業科目等の設定を促進することも有効な手段である。なお、研究室配属や選択制カリキュラムの活用にあたっては、研究に必要な基本的技能(基本的実験手技、データ整理・記録、知的財産の取り扱い、安全性確保、利益相反も含めた研究倫理等)の修得の機会を充実させることに留意することが必要である。

(多様な教育機会等の提供)
 学生に対し幅広い教育を提供するため、教育特任教授(各大学の規程等に基づき、企業等の研究開発者等も対象として、特別の教育や学生指導に携わる教授として任命または委嘱された者)や他学部の人材も活用した上で、医師として必要な素養に関する教育の充実や、基礎統合講座等の取組の推進を図ることが必要である。また、単位互換も含めた大学間連携等により、医学部教育を他分野の学部生に提供する一方、経済学、法律学、社会学等医学関連の分野に関して、医学部の学生に対する教育の充実を図ることも求められる。その際、ジョイントディグリー(ある分野で学位を授与された後に別の分野で教育を受けて学位を授与されるというように、一定期間において複数の学位を取得できる履修形態)や主専攻・副専攻制(主専攻分野以外の分野の授業科目を体系的に履修させる取組)を活用することも考えられる。また、学士編入学の活用等により、理工系の研究マインドを有する人材に医学教育研究に携わる機会を提供することも求められる。

 また、留学生の受入れ、研究者の国際交流、国際医療協力など、国際化が医学・医療の分野でも進展する中で、教育者・研究者の養成においても国際化への対応が求められる。このため、留学生を対象とした英語コースにおける医学生の学習機会の提供など、語学教育も含めた国際化を踏まえた学部教育等の改善・充実を図ることが必要である。

(医師国家試験との関連)
 厚生労働省が医師国家試験の制度改善方策について検討を行うために設置した「医師国家試験改善検討部会」の報告(平成19年3月)においては、「出題内容を重要度に応じたものに精選することにより、医学生が試験対策のみに走ることなく卒前の臨床実習に集中できるよう配慮することが望ましい」などの提言が行われたところである。今後とも医師国家試験の実施等が学部教育の改善・充実の方向性を考慮したものとなるよう要望するとともに、学部教育においても、医師国家試験出題基準とモデル・コア・カリキュラムの整合性の確保や、5、6年次における診療参加型臨床実習の充実等に取り組むことが不可欠である。さらに、卒前教育・卒後教育を通じて優れた医師を養成するための一貫した教育内容のグランドデザインを示すことも必要と考えられる。

2  大学院教育の改善について
(1) 大学院教育の課題等
 平成17年9月の中央教育審議会答申「新時代の大学院教育−国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて−」及び中央教育審議会大学分科会大学院部会医療系ワーキンググループ報告書によると、従来、我が国の大学院教育においては、一般に研究者養成のみに重点が置かれ、かつ、その内容は論文作成の指導が中心であり、科学的な思考法や研究の方法論を身に付けさせるための体系的な教育は必ずしも十分に行われていないとの問題点が指摘されている。さらに、今後、大学院においても、教育機能を重視して、体系的な教育目的・内容を明確に持ったコースを設定し、コースワークの充実・強化を図ること等について提言がなされている。

 また、平成18年3月の「大学院教育振興施策要綱」においては、人材養成目的の明確化や教員組織体制の見直し、産業界との連携の強化等の大学院教育の実質化について、同月の「第3期科学技術基本計画」においては、多様性の苗床の形成のための基礎研究の推進や大学の人材育成機能の強化等について提言がなされている。

 さらに、高度の医療機器の開発や先端的分野における研究・開発等の医療の高度化が進む一方、医療現場においては少子高齢社会の到来や生活様式の変化による慢性疾患等の罹患率等の上昇に代表される疾病構造の変化・多様化が進むとともに、研究においても従来の医学の枠組みではとらえきれない学際的な領域のニーズの増大等が進み、先端的な研究や臨床への橋渡し研究とともに、その基盤となる臨床研究の重要性が高まっている。また、医師の地域偏在への対応が求められる中で、継続的かつ安定的に優れた医師を確保していくためには、医療制度の改革に加えて、医学教育の果たす役割が重要になる。このような中、医学系大学院は、研究者養成とともに、優れた研究能力等を備えた臨床医等の養成も求められるなど、果たすべき役割が多様化している。

 また、国連の人口統計の中位推計(United Nations,World Population Prospects:The 2004 Revision)によると、我が国の1,000人あたりの死亡者は、1980年代の6から、2050年頃には15に増加するなど、多死社会、すなわち人口の高齢化が進み保健・医療・福祉のニーズが著しく高まった社会へ移行すると予測されている。厳しい財政状況の中で、このような社会に対応していくためにも、21世紀の我が国の医療を担う人材の養成・教育の充実と、医学研究の推進や医療技術の開発が急務となっている。

 その一方で、新医師臨床研修制度が導入され、研究者を志望している者であってもほとんどの者は臨床研修を受けるようになったことから、研究医としてのキャリアを開始する時期が遅れ、研究者のキャリア形成に影響が及ぶことを懸念する声が上がっている。また、多くの大学病院では研修を行う研修医が減少したことを契機に、特に研修者の少ない大学を中心として、指導者層の教員の日常的な診療に関する負担が増加し、教育研究活動に十分な時間を費やすことが困難となった結果として、研究業績の停滞や研究指導者の流出も懸念されるとの指摘もある。

 また、博士号取得によって得られる具体的なメリットが不明確であるとともに、学位取得の過程の研鑽で得られる論理的思考力、課題解決能力、表現力等の無形の財産の意義や有効性が学生や一部の医師に十分認識されなくなってきているとの指摘もある。

(2) 大学院教育の改善方策
(大学院の目的の明確化と教育内容の実質化)
 現在、平成17年9月の中央教育審議会答申等に基づき、各大学が大学院教育の実質化に取り組むとともに、「21世紀COEプログラム」や『「魅力ある大学院教育」イニシアティブ』に加え、19年度からは新たに「グローバルCOEプログラム」や「大学院教育改革支援プログラム」が実施されるなど、国の支援方策も講じられている。このような中、医学系大学院においても、大学院教育の実質化に取り組むことが必要であり、大学院の目的を研究者養成と臨床医等養成に分けて明確化した上で、それに応じたコースワークの充実・強化等を推進することが求められる。

 その際、平成17年1月の中央教育審議会答申「我が国の高等教育の将来像」において、各学校ごとの個性・特色の一層の明確化や、自らの選択に基づく大学の機能別分化(世界的研究・教育拠点、高度専門職業人養成等)等について提言されていることも踏まえ、各大学ごとに、大学院の目的や機能を明確にした上で、それに応じた教育内容の実質化に取り組むことも必要である。

 大学院設置基準の改正を踏まえ、大学院の人材養成に係る目的を明確にした上で、大学病院での研究等を目的とした診療への従事についてカリキュラムに位置付けるなど、その目的に応じた臨床教育の改善を図ることも必要である。臨床研究の重要性が指摘されている点でもこのような取組は重要である。
 なお、大学院生が研究等を目的として診療に従事する場合には、学生教育研究災害傷害保険などの保険加入を義務づけるなど、安全確保に万全を期すことも必要である。

 また、臨床医等の養成に係るコースワークの工夫・改善にあたっては、大学病院又は地域の医療機関との連携を図ることが重要である。地域の医療機関との連携にあたっては、報酬の支給等も含め、臨床教授制度の一層の活用が求められる。

 このようにして教育課程を目的別に編成・展開した上で、相互の連携を保ちつつ、基礎医学と臨床医学の双方の分野を担当する教員が協力して指導に当たるなど、大学院生に対する複数教員の指導体制の確立を図り、大学院生に基礎研究と臨床研究の双方あるいは全般的な資質を身に付けさせる取組の充実も必要である。その上で、基礎研究と臨床研究の双方の教員が連携し、学生に対して研究者への道筋を明確に提示して支援の充実を図ることが重要である。

(公衆衛生大学院の整備等)
 疾病構造の変化・多様化や学際的な研究領域のニーズの増大等を踏まえ、臨床研究の充実のためには、学部教育及び大学院教育において臨床疫学や生物統計学等の教科科目の内容の充実を図るとともに、日常の臨床活動の中から新たな問題点を発見することのできる洞察力や思索力を身につけるための研究指導体制や指導者の資質の改善・充実を図ることが求められる。このため、公衆衛生分野の大学院の整備を促進することが必要であり、それに必要な教員の養成やカリキュラムの開発、修了者の社会での活躍の場の拡大等の処遇の改善など、関連する施策を進めていくことが求められる。

(修士課程の活用や秋季入学の実施等)
 また、修士課程の活用や社会人に対する大学院教育を受ける機会の拡充等により、医学以外の分野を専門とする人材を基礎的生命科学分野等における研究者として積極的に育成することも求められる。

 研究者の育成については、新医師臨床研修修了後に大学院への入学準備に十分な時間的余裕を確保するための秋季入学の実施や、新医師臨床研修を受けることなく早期に進学するコースの設定など、医学部卒業生が大学院に進学しやすくするための取組の工夫・改善が必要である。

(米国のMD/Ph.Dコースを参考にした早期進学特例の活用)
 また、米国のMD/Ph.Dコースを参考に大学院への早期進学特例を活用した取組(注)を促進することも必要であり、それに必要な、カリキュラムの工夫・改善、大学院生に対する経済的支援、助教採用時における考慮等の修了者に対する処遇の改善など、関連する施策を進めていくことが求められる。その際、学生が退学することなく大学院に進学できるよう、学生の身分等の取り扱いに関する学内規程等を整備した上で、学部を休学して大学院に進学する扱いを行う(休学制度の整備・活用)などの取組も望まれる。
(注) 米国のMD/Ph.Dコースを参考に大学院への早期進学特例を活用した取組
米国の医学校の修業年限は通常4年であり、卒業するとMD(Doctor of Medicine)が授与されるが、研究を志向する優秀な学生のために、通常の学修と並行して、Ph.D(Doctor of Philosophy)を取得するための学修を行い、6〜7年間の修業年限で両方の学位を取得することのできるコース(MD/Ph.Dコース)が置かれているところがある。
米国のMD/Ph.Dコースも参考に、一部の医科大学(「わが国の大学医学部(医科大学)」(平成18年5月全国医学部長病院長会議編集)によると、17大学)においては、学校教育法第67条第2項に基づく早期進学特例として医学部4年次を修了した時点で大学の定める単位を優秀な成績で修得した者を大学院医学研究科に入学させた場合、Ph.Dを取得した後、学部の5年次に再入学し学士を取得するなどの取組を行っている。

(新医師臨床研修の研修プログラムの工夫・改善等)
 イギリスにおいては、2年間の臨床研修(Foundation Programs)のオプションとして、将来教育者、研究者を目指す医師を対象に、研修2年目の1年間を医学研究等の学術活動に専念するアカデミックF2プログラムの取組が行われている。このような取組も参考に、新医師臨床研修の基本研修科目及び必修科目以外の研修期間に、教育者・研究者を目指す者等を対象に研究マインドを育む研修を盛り込むなど、大学病院における新医師臨床研修の研修プログラムの工夫・改善も考えられる。
 なお、イギリスにおいては、臨床研修修了者に対しても、大学と関連病院等が連携して、経済的支援も含めた、教育者・研究者養成のためのプログラムの構築に取り組んでおり、このような取組も参考に、教育者・研究者を目指す医師に対するキャリア形成の支援方策の充実も検討する必要がある。

(専門医養成と連動した取組)
 また、大学院における人材養成に係る目的の明確化やコースワークのカリキュラムの工夫・改善を図った上で、専門医養成における大学院の取組の充実や、大学院と大学病院との連携の充実を図ることが必要である。具体的には、大学院のコースワークの中に専門医資格取得のための教育内容を盛り込むとともに大学病院における実施修練を充実させる取組や、大学病院の専門医研修者が大学院にも在籍し博士号を取得することができる取組の推進とそのための体制の整備が求められる。

(博士号取得のメリットの明確化等)
 さらに、博士号は、研究者として自立して研究活動を行うために必要な能力や学識等の成果として関係法令では位置づけられているが、大学院教育の充実や、大学院生に対する様々な支援方策の推進・強化により、博士号の取得が、教育者・研究者のスタートラインやキャリア・パスとして明確に認識・実感されることが必要である。博士号取得にあたっては、コースワーク等による単位取得や論文審査等に基づく客観的・公正な博士課程修了要件を定めるなど、学位審査のプロセスの透明性を確保した上で、博士号取得の有無を助教採用時に必要条件とすることや、博士号取得を考慮した処遇の改善など、博士号取得者に対する社会的な評価の向上が求められる。

 なお、博士号は、科学的・論理的思考を行う能力等を有することを証明するものであることから、勤務医や開業医となる者にとっても、その取得は意義があるものと考えられる。

(キャリア形成への支援等)
 さらに、生涯学習・研修体制の構築も含めて、大学院卒業後または新医師臨床研修修了後の、臨床医、臨床研究者、基礎医学研究者等それぞれのキャリアパスの明確化とキャリア形成への支援が必要である。医療人の養成の場である大学や大学病院においては、生涯にわたって個々人の専門性を高められるよう、自ら積極的にキャリア形成の場の提供を図るとともに、地方公共団体や地域の医療機関等と連携して、キャリア形成に中核的な役割を果たすことが求められる。

(教育研究の評価の充実等)
 上記のような大学院教育等の改善方策を進めるにあたっては、教育や研究の成果に関して、講座や研究チームなど、プロジェクトごとに適正に評価した上で必要な教育内容の改善を図るなど、教育や研究の改善に向けた評価の充実も重要である。

3  教育者の教育能力開発の推進
 
 医学部の教員の採用や昇任の評価は、いわゆるインパクト・ファクターを中心とした研究業績に偏り、教育に関する業績については適切な評価がなされてこなかったきらいがある。大学院教育や学部教育の改善にあたっては、その直接の担い手である教員によるところが大きく、教員の教育能力の開発を促進するとともに、その業績に対する適切な評価を行うことが重要である。

(ファカルティ・ディベロップメントの充実)
 医学教育の改善に不可欠な、教員の教育能力の開発を促進するために、各大学におけるファカルティ・ディベロップメント(以下「FD」という。)の充実が求められる。その際、学内で臨床実習を担当する教員や学外の臨床教授等も含め医学教育に携わる職員を対象に、共通のFDを開催するなど、学内外の教員等が学部教育の目標等を共有した上で質の高い教育を行うための取組の充実や体制の整備も必要である。

 また、学部教育において初めて接する学問分野が基礎医学であることを踏まえれば、基礎医学の教員の教育能力の開発の促進とともに、基礎医学と臨床医学の教員が一体となって共通のFD等に取り組むことも求められる。その際、国立大学法人においては中期計画にFD等の推進を盛り込むなど、国公私立を問わず全ての大学において医学部全体さらには大学全体の推進体制を整備することも望まれる。

(教員の評価の充実等)
 さらに、教員の評価については、平成13年医学・歯学教育の在り方に関する調査研究協力者会議報告の「教員の教育業績評価ガイドライン」等を参考にしつつ適正な評価を実施するとともに、評価手法の充実や人材活用も含めた処遇改善を図ることが求められる。例えば、卒業生等の追跡評価等において、定量的な指標に基づき個々の卒業生等の達成度を分析し、担当教員に対する適正な評価を行うことを通じて、教育の質の向上を図ることも考えられる。また、同僚の教員が、授業参観の形式で担当教員の講義に対する評価を行うともに、担当教員に対する助言等を行う機会を設けることも考えられる。

 さらに、近年、民間企業あるいは国及び地方公共団体においては、目標管理手法に基づく業績評価とともに、求められる役割や行動例等をコンピテンシー等として明記した上での能力評価の検討・導入も進められている。このような取組も参考にしつつ、前述した医師として研究的な視点を常に備えるために求められる資質等の明確化に加え、教育者に求められる資質等を明確化した上で、それを評価に活用することも考えられる。その際、いわゆる能力評価は、能力開発型の評価制度として、求められる資質・水準を明確にした上で被評価者に対する評価を行い、不足する部分をはじめとして個々人の資質向上の機会を充実することに趣旨があることから、FDや研修の機会の付与・充実など個々人の評価に応じた教育能力の開発の取組が重要なことに留意することが必要である。

 また、教育業績の優れた教員について、顕彰や身分、あるいは給与上の処遇改善のインセンティブを与える方策を講じること等により評価結果を明確にすることが重要である。なお、このような取組を通じて教育に関する高い評価を得た者については、その能力を大学を超えて活用することが有益であり、具体的には、他大学の講義を担当したり、自大学に加え他大学の教員の指導に活用すること、さらには全国的あるいは複数の大学が参加するワークショップにおける講師等に活用することなどが考えられる。

(学会の取組の充実)
 さらに、日本医学教育学会等の学会においても、分科会や教育委員会を中心に、それぞれの分野の教育者の教育能力の開発を促進した上で、その能力を評価して一定の水準に達した者に称号を与えるなど、教育者養成の取組の充実が望まれる。

4  教育研究組織の整備
  (教員組織の編成等)
 教育研究組織については、大学設置基準の改正により、学科目・講座制に関する法令の規定が削除された趣旨を踏まえ、医学系大学においても、教員の役割分担と連携体制を確保し、教育研究上の責任体制が明確になるよう教員組織を編成することが必要である。疾病構造の変化や学際的な研究領域のニーズの増大等を踏まえれば、従来の学問体系主体の講座制の見直しなど、患者に対する医療の充実という観点も踏まえつつ、各大学の教育研究の目的を踏まえた教員組織の編成を行うことが求められる。

 具体的には、医学部内外の他講座あるいは他の学問分野・研究分野との人事面、教育研究面での交流を促進するなどの教育研究組織の柔軟化を図る必要があり、複数の専攻分野を有する教育研究組織の整備や、専門領域横断型の研究テーマに対応したプロジェクト制等の組織の活用等により、関係者の有機的な連携を図ることが求められる。その際、教育研究ポストや指導層の充実など、大学の教育研究基盤の充実のための国の支援の充実も求められる。

(産業界と連携した寄付講座の設置等)
 また、平成18年3月の大学院教育振興施策要綱においては、産業界等と連携した人材養成機能の強化等産業界との連携の強化が指摘されており、社会的ニーズに対応した寄付講座の設置の促進と、それによる教育研究ポストの確保を図ることも求められる。

(中間層に対する支援等)
 一方、前述したように、大学病院における研修医の減少等により、中間層の診療や教育に係る負担が増加し、研究を行うことが困難になりつつある中で、後述する助教制度の活用も含め講師・助教等の中間層に対する支援方策の検討・実施とともに、大学又は大学病院の管理運営における事務系職員の機能・役割の充実を図ることも必要である。

(キャリア・パスの多様化等)
 さらに、臨床の現場の医師においても、修得した診療技能の提供のみならず、診療技術の検証や、研究成果等に基づく新たな診療技術を取り入れることが必要になっている一方、研究の現場の医師においても、患者の疾病の現状や臨床の現場のニーズを取り入れることが必要になっている。このため、任期制の活用等による人材の流動性の向上を図ることが必要である。特に、研究と臨床現場間の人材の流動性の向上など、キャリア・パスの多様化を推進することが求められる。また、臨床研究の推進のため、臨床医学の分野や講座において、医学以外の博士号を取得した研究者を助教等に登用する等の活躍の場を設けることも有効と考えられる。

5  若手の研究者・教員への支援
  (助教制度の活用等)
 前述した教育研究組織の整備とも関連するが、教員組織に関する制度改正により、平成19年度から助教の創設等が行われることとなっている。助教制度に関しては、医学系大学や大学病院の助手の大部分は将来の教育者や研究者となることが期待されている者と位置づけられているなど、他の学部・分野と異なる状況がある。

 このため、博士号を取得した有望な若手医員等を助教候補者として選抜しスタートアップ(キャリア形成)の支援を行う取組や一定期間ごとの任期・審査制など助教の採用選考の工夫・改善を図ることが必要である。また、助教の教育又は研究に関する職務内容を明確にした上で、助教制度を活用した若手研究者等の育成の取組の充実を図ることが必要である。あわせて、助教やいわゆるポスドク(主に博士課程修了後研究機関等で研究事業に従事する者)に至るまでの支援の充実も求められる。

(医学分野の特性に配慮した支援)
 若手研究者への支援については、医学分野については、新医師臨床研修を経て大学院に進学すること等により、医学系大学院の入学者の年齢は30〜34歳が最も多い状況にあり、医学関係者の特別研究員制度の対象年齢の引き上げの検討や、前述したイギリスでの研究者等の支援・養成の取組を参考にした支援方策の検討など、医学分野の特性に配慮した若手研究者等への経済的支援の充実が必要である。

(若手教員の留学支援等)
 さらに、帰国後の状況が不安定なことから若手研究者等が留学をためらう傾向があるとの指摘もあり、帰国後のポジションの確保や経済的支援、そのための研究休職等により若手教員の留学を支援するための取組の工夫・改善が求められる。

(提言のポイント)
 なお、以上の提言のポイントを、別添資料4「今後推進すべき教育者・研究者の養成方策について」にまとめたので、参照されたい。

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