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平成17年9月の中央教育審議会答申「新時代の大学院教育−国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて−」及び中央教育審議会大学分科会大学院部会医療系ワーキンググループ報告書によると、従来、我が国の大学院教育においては、一般に研究者養成のみに重点が置かれ、かつ、その内容は論文作成の指導が中心であり、科学的な思考法や研究の方法論を身に付けさせるための体系的な教育は必ずしも十分に行われていないとの問題点が指摘されている。さらに、今後、大学院においても、教育機能を重視して、体系的な教育目的・内容を明確に持ったコースを設定し、コースワークの充実・強化を図ること等について提言がなされている。
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また、平成18年3月の「大学院教育振興施策要綱」においては、人材養成目的の明確化や教員組織体制の見直し、産業界との連携の強化等の大学院教育の実質化について、同月の「第3期科学技術基本計画」においては、多様性の苗床の形成のための基礎研究の推進や大学の人材育成機能の強化等について提言がなされている。
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さらに、高度の医療機器の開発や先端的分野における研究・開発等の医療の高度化が進む一方、医療現場においては少子高齢社会の到来や生活様式の変化による慢性疾患等の罹患率等の上昇に代表される疾病構造の変化・多様化が進むとともに、研究においても従来の医学の枠組みではとらえきれない学際的な領域のニーズの増大等が進み、先端的な研究や臨床への橋渡し研究とともに、その基盤となる臨床研究の重要性が高まっている。また、医師の地域偏在への対応が求められる中で、継続的かつ安定的に優れた医師を確保していくためには、医療制度の改革に加えて、医学教育の果たす役割が重要になる。このような中、医学系大学院は、研究者養成とともに、優れた研究能力等を備えた臨床医等の養成も求められるなど、果たすべき役割が多様化している。
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また、国連の人口統計の中位推計(United Nations,World Population Prospects:The 2004 Revision)によると、我が国の1,000人あたりの死亡者は、1980年代の6から、2050年頃には15に増加するなど、多死社会、すなわち人口の高齢化が進み保健・医療・福祉のニーズが著しく高まった社会へ移行すると予測されている。厳しい財政状況の中で、このような社会に対応していくためにも、21世紀の我が国の医療を担う人材の養成・教育の充実と、医学研究の推進や医療技術の開発が急務となっている。
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その一方で、新医師臨床研修制度が導入され、研究者を志望している者であってもほとんどの者は臨床研修を受けるようになったことから、研究医としてのキャリアを開始する時期が遅れ、研究者のキャリア形成に影響が及ぶことを懸念する声が上がっている。また、多くの大学病院では研修を行う研修医が減少したことを契機に、特に研修者の少ない大学を中心として、指導者層の教員の日常的な診療に関する負担が増加し、教育研究活動に十分な時間を費やすことが困難となった結果として、研究業績の停滞や研究指導者の流出も懸念されるとの指摘もある。
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また、博士号取得によって得られる具体的なメリットが不明確であるとともに、学位取得の過程の研鑽で得られる論理的思考力、課題解決能力、表現力等の無形の財産の意義や有効性が学生や一部の医師に十分認識されなくなってきているとの指摘もある。 |