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資料1

教育者・研究者の養成方策の充実について

1  大学院教育の改善について
 
(1) 大学院教育の現状と課題
 
a)  平成17年9月の中央教育審議会答申「新時代の大学院教育―国際的に魅力ある大学院教育の構築に向けて―」及び中央教育審議会大学分科会大学院部会医療系ワーキンググループ報告書によると、従来、我が国の大学院教育においては、一般に研究者養成のみに重点が置かれ、かつ、その内容は論文作成の指導が中心であり、科学的な思考法や研究の方法論を身に付けさせるための体系的な教育は必ずしも十分に行われていないとの問題点が指摘されている。さらに、今後、大学院においても、教育機能を重視して、体系的な教育目的・内容を明確に持ったコースを設定し、コースワークの充実・強化を図ること等について提言がなされている。
b)  また、平成18年3月の「大学院教育振興施策要綱」においては、人材育成目的の明確化や教員組織体制の見直し、産業界との連携の強化等の大学院教育の実質化について、同月の「第3期科学技術基本計画」においては、多様性の苗床の形成のための基礎研究の推進や大学の人材育成機能の強化等について提言がなされている。
c)  さらに、高度の医療機器の開発や先端的分野における研究・開発等の医療の高度化が進む一方、医療現場においては高齢化社会の到来や生活様式の変化による慢性疾患等の罹患率等の上昇に代表される疾病構造の変化・多様化が進み、研究においても従来の医学の枠組みではとらえきれない学際的な領域のニーズの増大等が進むとともに、先端的な研究や医療現場への橋渡しの基礎となる臨床研究の重要性が高まっている。このような中、医学系大学院は、研究者養成とともに、優れた研究能力等を備えた臨床医等の養成も求められるなど、果たすべき役割が多様化している。
d)  その一方で、新医師臨床研修制度が導入され、研究者を志望している者であってもほとんどの者は臨床研修を選択するようになったことから、研究の開始が遅れ、研究者のキャリア形成に影響が及ぶことを懸念する声が上がっている。また、多くの大学病院では研修を行う研修医が減少したことを契機に、特に研修者の少ない大学を中心として、指導者層の教員の日常的な診療に関する負担が増加し、教育研究活動に十分な時間を費やすことが困難となった結果として、研究業績の停滞や研究指導者の流出も懸念されるとの指摘もある。
e)  また、博士号取得によって得られる具体的なメリットが不明確であるとともに、学位取得の過程の研鑽で得られる論理的思考力、課題解決能力、表現力等の無形の財産の意義や有効性が学生に十分認識されなくなってきているとの指摘もある。このため、博士号の取得が、教育者・研究者のスタートラインとして明確に位置づけられる必要がある。
f)  なお、日本の将来の医療レベルを向上させるためには、将来、勤務医や開業医となる者についても、臨床教育の充実とともに、一定期間の研究活動等により、科学的・論理的思考を身に付けることが望まれる。

(2) 大学院教育の改善方策
 
a)  平成17年9月の中央教育審議会答申等に基づき、医学系大学院においても、大学院教育の実質化に取り組むことが必要であり、大学院の目的を研究者養成と臨床医等養成に分けて明確化した上で、それに応じたコースワークの充実・強化等を推進することが求められる。
b)  その際、臨床医等の養成に係るコースワークの工夫・改善にあたっては、大学病院又は地域の医療機関との連携を図ることが重要である。地域の医療機関との連携にあたっては、報酬の支給等も含め、臨床教授制度の一層の活用が求められる。
c)  また、大学院設置基準の改正を踏まえ、大学院の人材養成に係る目的を明確にした上で、大学病院での研究等を目的とした診療への従事についてカリキュラムに位置付けるなど、その目的に応じた臨床教育の改善を図ることも必要である。
d)  このようにして教育課程を目的別に編成・展開した上で、相互の連携を保ちつつ、基礎研究と臨床研究の双方の教員が指導に当たるなど、大学院生に対する複数教員の指導体制の確立を図り、大学院生に基礎研究と臨床研究の双方あるいは全般的な資質を身に付けさせる取組の充実も必要である。その上で、基礎研究と臨床研究の双方の教員が連携し、学生に対して研究者への道筋を明確に提示して支援の充実を図ることが重要である。
e)  疾病構造の変化・多様化や学際的な研究領域のニーズの増大等を踏まえ、臨床研究の充実のためには、臨床疫学や生物統計学等の教科科目の充実を図るとともに、日常の臨床活動の中から新たな問題点を発見することのできる洞察力や思索力を身につけるための研究指導体制や指導者の資質の改善充実を図ることが求められる。このため、公衆衛生分野の大学院の整備を促進することが必要であり、それに必要な教員の養成やカリキュラムの開発、修了者の社会での活躍の場の拡大等の処遇の改善など、関連する施策を進めていくことが求められる。
f)  また、修士課程の活用や社会人に対する大学院教育を受ける機会の拡充等により、医学以外の分野を専門とする人材を基礎的生命科学分野等における研究者として積極的に育成することも求められる。
g)  研究者の育成については、新医師臨床研修修了後に大学院への入学準備に十分な時間的余裕を確保するための秋季入学の実施や、新医師臨床研修を受けることなく早期に進学するコースの設定など、医学部卒業生が大学院に進学しやすくするための取組の工夫改善が必要である。
h)  また、MD/Ph.Dコース(医学部4年次を修了した時点で大学院医学研究科に入学しPh.Dを取得した後、学部の5年次に再入学しMDを取得する取組)の活用を促進することも必要であり、それに必要な学生が退学することなく進学できるための休学制度の整備・活用、カリキュラムの工夫改善、大学院生に対する経済的支援、助教採用時における考慮等の修了者に対する処遇の改善など、関連する施策を進めていくことが求められる。
i)  イギリスにおいては、2年間の臨床研修(Foundation Programs)のオプションとして、将来教育者、研究者を目指す医師を対象に、研修2年目の1年間を医学研究等の学術活動に専念するアカデミックF2プログラムの取組が行われている。このような取組も参考に、新医師臨床研修の基本研修科目及び必修科目以外の研修期間に、教育者・研究者を目指す者等を対象に、研究者に求められる志や資質等(以下「研究マインド」という。)を育む研修を盛り込むなど、大学病院における新医師臨床研修の研修プログラムの工夫改善も考えられる。
 なお、イギリスにおいては、臨床研修修了者に対しても、大学と関連病院等が連携して、経済的支援も含めた、教育者・研究者養成のためのプログラムの構築に取り組んでおり、このような取組も参考に、教育者・研究者を目指す医師に対する経済的支援も含めたキャリア形成の支援方策の充実も検討する必要がある。
j)  また、大学院における人材養成に係る目的の明確化やコースワークのカリキュラムの工夫・改善を図った上で、専門医養成における大学院の取組の充実や、大学院と大学病院との連携の充実を図ることが必要である。具体的には、大学院のコースワークの中に専門医資格取得のための教育内容を盛り込むとともに大学病院における実施修練を充実させる取組や、大学病院の専門医研修者が大学院にも在籍し博士号を取得することができる取組の推進とそのための体制の整備が求められる。
k)  さらに、大学院教育の充実や、大学院生に対する様々な支援方策の推進・強化により、博士号の取得が、教育者・研究者のスタートラインとして明確に位置づけられることが必要である。博士号取得にあたっては、コースワーク等による単位取得や論文審査等に基づく客観的・公正な博士課程修了要件を定めるなど、学位審査のプロセスの透明性を確保した上で、博士号取得の有無を助教採用時に考慮する等の処遇の改善など博士号取得者に対する社会的な評価の向上が求められる。
l)  さらに、生涯学習・研修体制の構築も含めて、大学院卒業後または新医師臨床研修修了後の、臨床医、臨床研究者、基礎医学研究者等それぞれのキャリアパスの明確化とキャリア形成への支援が必要である。医療人の養成の場である大学や大学病院においては、生涯にわたって個々人の専門性を高められるよう、自ら積極的にキャリア形成の場の提供を図るとともに、都道府県や地域の医療機関等と連携して、キャリア形成に中核的な役割を果たすことが求められる。
m)  上記のような大学院教育等の改善方策を進めるにあたっては、教育や研究の成果に関して、講座や研究チームなど、プロジェクトごとに適正に評価した上で必要な教育内容の改善を図るなど、教育や研究の改善に向けた評価の充実も重要である。

2  学部教育の改善について
 
(1) 学部教育の現状と課題
 
a)  優れた教育者や研究者を養成するためには、学部教育の段階から、継続的に病態解明や診断・治療技術等について検証し、改善する意欲等を育んでいくことが必要である。特に、新医師臨床研修制度が導入され、研究の開始の遅れにより研究者のキャリア形成に影響が及ぶことが懸念される中で、可能な限り早い段階から研究マインドの育成に取り組むことが求められている。
b)  専門細分化された医療がもたらす課題を乗り越えるためにも、プライマリ・ケアや予防医学も含め全人的・包括的・継続的な医療を患者に提供することが求められている中で、研究者の素養としても、医療や患者等の有様に関する幅広い知識や理解等が求められている。このため、学部教育においても、研究者と臨床医の双方の資質を育むための幅広い教育が求められる。
c)  さらに、卒業後、臨床の現場で医療に携わる者にも研究マインドが求められており、医師であるとともに研究者でもある専門家(以下「フィジシャン・サイエンティスト」という。)の養成が求められる。
d)  なお、6年次の学習が医師国家試験合格を目指した受験のための教育に陥っているとの指摘もあり、このような観点からも、学部教育の改善充実を図ることが必要である。

(2) 学部教育の改善方策
 
a)  学部教育の段階からフィジシャン・サイエンティストの養成の取組の充実を図るため、医学教育モデル・コア・カリキュラムを改訂し、「医師として求められる基本的な資質」として医学研究の必要性の理解や生涯にわたり学習する意欲と態度等も記載するとともに、「学部教育における研究の視点」についての記載の充実を図るなど、医師として研究的な視点を常に備えるために求められる資質等を明確にすることが必要である。
b)  また、医師免許を取得した者の多くが勤務医や開業医となる実態を踏まえれば、我が国の医療レベルのさらなる向上を目指すためには、臨床教育の充実とともに、一定期間実際の研究に携わること等を通じて、科学的・論理的思考を身に付けさせることが望まれる。このため、入学後早期から研究マインドを育成するため、学部生の研究室配属を促進するとともに、受入側も学生が研究に対する関心を持つことを促すように努め、実際の研究に携わる機会の拡充やプログラムの確立等の内容面の充実を図ることが必要である。さらに、選択制カリキュラムを充実させて、研究マインドの育成に資する授業科目等の設定を促進することも有効な手段である。なお、研究室配属や選択制カリキュラムの活用にあたっては、研究に必要な基本的技能(基本的実験手技、データ整理・記録、安全性確保、利益相反も含めた研究倫理等)の修得の機会を充実させることに留意することが必要である。
c)  学生に対し幅広い教育を提供するため、教育特任教授や他学部の人材も活用した上で、医師として必要な素養に関する教育の充実や、基礎統合講座等の取組の推進を図ることが必要である。また、単位互換も含めた大学間連携等により、医学部教育を他分野の学部生に提供する一方、経済学、法律学、社会学等医学関連の分野に関して、医学部生に対する教育の充実を図ることも求められる。その際、ジョイントディグリー(ある分野で学位を授与された後に別の分野で教育を受けて学位を授与されるというように、一定期間において複数の学位を取得できる履修形態)や主専攻・副専攻制(主専攻分野以外の分野の授業科目を体系的に履修させる取組)を活用することも考えられる。また、学士編入学の活用等により、理工系の研究マインドを有する人材に医学教育・研究に携わる機会を提供することも求められる。
d)  現在、厚生労働省は、「医師国家試験改善検討委員会」を設け、医師国家試験の在り方について検討を行っているところであるが、その検討が学部教育の改善充実の方向性を考慮したものとなるよう要望するとともに、学部教育においても、医師国家試験出題基準と医学教育モデル・コア・カリキュラムの整合性の確保や、5・6年次における診療参加型臨床実習の充実等に取り組むことが必要である。さらに、卒前教育・卒後教育を通じて優れた医師を養成するための一貫した教育内容のグランドデザインを示すことも必要と考えられる。

3  その他
   上記1及び2に掲げる大学院教育や学部教育の改善を図るためには、下記のとおり、教育者の教育能力開発の推進、教育研究組織の整備、若手の研究者・教員への支援、治験を含めた臨床研究の推進等の関連する取組を推進することが必要である。

 
1  教育者の教育能力開発の推進
 
a)  医学部の教員の採用や昇任の評価は、いわゆるインパクト・ファクターを中心とした研究業績に偏り、教育に関する業績については適切な評価がなされてこなかったきらいがある。大学院教育や学部教育の改善にあたっては、その直接の担い手である教員によるところが大きく、教員の教育能力の開発を促進するとともに、その業績に対する適切な評価を行うことが重要である。
b)  医学教育の改善に不可欠な、教員の教育能力の開発を促進するために、各大学におけるファカルティ・ディベロップメント(以下「FD」という。)の充実が求められる。その際、学内で臨床実習を担当する教員や学外の臨床教授も含め医学教育に携わる職員を対象に、共通のFDを開催するなど、学内外の教員等が学部教育の目標等を共有した上で質の高い教育を行うための取組の充実や体制の整備も必要である。また、学部教育において初めて接する学問分野が基礎医学であることを踏まえれば、基礎系の教員の教育能力の開発の促進とともに、基礎系と臨床系の教員が一体となって共通のFD等に取り組むことも求められる。
c)  さらに、教員の評価については、平成13年医学・歯学教育の在り方に関する調査研究協力者会議報告の「教員の教育業績評価ガイドライン」に基づき適正な評価を実施するとともに、評価手法の充実や人材活用も含めた処遇改善を図ることが求められる。例えば、卒業生等の追跡評価等において、定量的な指標に基づき個々の卒業生等の達成度を分析し、担当教員に対する適正な評価を行うことを通じて、教育の質の向上を図ることも考えられる。さらに、近年、民間企業あるいは国及び地方公共団体においては、目標管理手法に基づく業績評価とともに、求められる役割や行動例等をコンピテンシー等として明記した上での能力評価の検討・導入も進められている。このような取組も参考にしつつ、前述した医師として研究者を志す者に求められる資質等の明確化に加え、教育者に求められる資質等を明確化した上で、それを評価に活用することも考えられる。その際、いわゆる能力評価は、能力開発型の評価制度として、求められる資質・水準を明確にした上で被評価者に対する評価を行い、不足する部分をはじめとして個々人の資質向上の機会を充実することに趣旨があることから、FDや研修の機会の付与・充実など個々人の評価に応じた教育能力の開発の取組が重要なことに留意することが必要である。また、教育業績の優れた教員について、顕彰や給与上の処遇のインセンティブを講じること等により評価結果を明確にすることが重要である。なお、このような取組を通じて教育に関する高い評価を得た者については、その能力を大学を超えて活用することが有益であり、具体的には、他大学の講義を担当したり、自大学に加え他大学の教員の指導に活用すること、さらには全国的あるいは複数の大学が参加するワークショップにおける講師等に活用することなどが考えられる。さらに、日本医学教育学会等の学会においても、分科会や教育委員会を中心に、それぞれの分野の教育者の教育能力の開発を促進した上で、その能力を評価して一定の水準に達した者に称号を与えるなど、教育者養成の取組の充実が望まれる。

2  教育研究組織の整備
 
a)  教育研究組織については、大学設置基準の改正により、学科目・講座制に関する法令の規定が削除された趣旨を踏まえ、医学系大学においても、教員の役割分担と連携体制を確保し、教育研究上の責任体制が明確になるよう教員組織を編成することが必要である。疾病構造の変化・多様化や学際的な研究領域のニーズの増大等を踏まえれば、従来の学問体系主体の講座制の見直しなど、患者に対する医療の充実という観点も踏まえつつ、各大学の教育研究の目的を踏まえた教員組織の編成を行うことが求められる。具体的には、他講座あるいは他の学問分野・研究分野との人事面、教育・研究面での交流を促進するなどの教育研究組織の柔軟化を図る必要があり、複数講座を有する科目の大講座制や、専門領域横断型の研究テーマに対応したプロジェクト制等の組織を活用し、関係者の有機的な連携を図ることが求められる。その際、教育研究ポストや指導層の充実等、大学の教育研究基盤の充実のための国の財政的支援の充実も求められる。
b)  また、平成18年3月の大学院教育振興施策要綱においては、産業界等と連携した人材養成機能の強化等産業界との連携の強化が指摘されており、社会的ニーズに対応した寄付講座の設置の促進と、それによる教育研究ポストの確保を図ることも求められる。
c)  一方、前述したように、大学病院における研修医の減少等により、中間層の診療や教育に係る負担が増加し、研究を行うことが困難になりつつある中で、中間層に対する支援方策の検討・実施とともに、大学又は大学病院の管理運営における事務系職員の機能・役割の充実を図ることも必要である。
d)  さらに、臨床の現場の医師においても、修得した診療技能の提供のみならず、診療技術の検証や、研究成果等に基づく新たな診療技術を取り入れることが必要になっている一方、研究の現場の研究者においても、患者の疾病の現状や臨床の現場のニーズを取り入れることが必要になっている。このため、任期制の活用等による人材の流動性の向上を図ることが必要である。特に、研究と臨床現場間の人材の流動性の向上など、キャリア・パスの多様化を推進することが求められる。また、臨床研究の推進のため、臨床の分野や講座において、博士号を取得した研究者の活躍の場を設けることも有効と考えられる。

3  若手の研究者・教員への支援
 
a)  前述した教育研究組織の整備とも関連するが、教員組織に関する制度改正により、平成19年度から助教の創設等が行われることとなっている。助教制度に関しては、医学系大学や大学病院の助手の大部分は将来の教育者や研究者となることが期待されている者と位置づけられているなど、他の学部・分野と異なる状況がある。このため、有望な若手医員等を助教候補者として選抜しスタートアップ(キャリア形成)の支援を行う取組や一定期間ごとの任期・審査制など助教の採用選考の工夫改善を図ることが必要である。また、助教の教育又は研究に関する職務内容を明確にした上で、助教制度を活用した若手研究者等の育成の取組の充実を図ることが必要である。あわせて、助教やいわゆるポスドク(主に博士課程修了後研究機関等で研究事業に従事する者)に至るまでの支援の充実も求められる。
b)  若手研究者等への支援については、医学分野については、新医師臨床研修を経て大学院に進学することなどにより、医学系大学院の入学者の年齢は30〜34歳が最も多い状況にあり、医学関係者の特別研究員制度の対象年齢の引き上げの検討など、医学分野の特性に配慮した若手研究者等への支援の充実が必要である。
c)  また、留学生の受入れ、研究者の交流、医療協力など、国際化が医学・医療の分野でも進展する中で、教育者・研究者の養成においても国際化への対応が求められる。このため、留学生を対象とした英語コースにおける医学生の学習機会の提供など、語学教育も含めた国際化を踏まえた学部教育等の改善・充実を図ることが必要である。さらに、帰国後の状況が不安定なことから若手研究者等が留学をためらう傾向があるとの指摘もあり、帰国後のポジションの確保や経済的支援、そのための研究休職等により若手教員の留学を支援するための取組の工夫改善が求められる。

4  治験を含めた臨床研究の推進
 
a)  新しい医療の開発を行う上で、生命科学の進歩を実際の医療へ展開するトランスレーショナルリサーチとともに、その基盤となる、治験を含めた臨床研究の推進を、産学連携等を強化しつつ図ることが重要である。
b)  このため、地域の医療機関とも連携しつつ、大学における、治験を含めた臨床研究を推進するための組織体制の整備が必要であり、その機能としては、治験のコーディネーションといった実務の他に、治験を含めた臨床研究のデータセンターとしての役割や、大学院における教育や研修の充実による専門家養成の役割の推進が求められる。その際、臨床疫学や生物統計学の専門的知識を有する公衆衛生分野の専門家が、その中核の役割を担うことも考えられる。
c)  さらに、このような取組を推進するために、全国的な拠点を整備し、臨床研究者の教育・研修・実施支援の一貫した体制を構築することが望まれる。具体的には、当該拠点において、研究者や専門スタッフの養成、治験や研究プロジェクトの実施支援、診療情報の解析、臨床試験の登録・管理に基づくデータセンター機能等の部門を兼ね備えた機関を設置し、自大学のみならず他大学の臨床研究の推進を支援することが考えられる。現在、「大学病院臨床試験アライアンス」等、大学間のネットワークを構築する取組が出始めているが、治験や臨床研究に関する大学間のネットワークの構築や基盤整備を促進する観点からも、このような拠点の整備が求められる。


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