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資料6−2

医療機関の治験実施体制に関する現状調査班 報告書【概要版】

【調査班 構成員】
班長   中野 重行   国際医療福祉大学大学院教授
大分大学医学部創薬育薬医学教授
班員 荒川 義弘 東京大学医学部附属病院 臨床試験部副部長
  梅原 貞臣 日本製薬工業協会 医薬品評価委員会臨床評価部会 副部会長
  中山 智紀 富山県くすり政策課主幹
  安田 邦章 日本製薬工業協会 医薬産業政策研究所主任研究員
  山本 精一郎 国立がんセンター がん対策情報センターがん統計解析室室長
  山本 晴子 国立循環器病センター 臨床研究開発部臨床試験室長
    (五十音順)

1. 概要
   わが国の治験を活性化するために必要な事項のうち、治験実施体制に関して最も重要と思われる4つの事項(治験ネットワークの機能強化、治験施設支援機関(SMO)の利用状況、被験者候補登録システムと個人情報への配慮、治験施設における治験審査体制)について調査し、「次期治験活性化計画策定に係る検討会」へ報告することを目的とし、平成18年6月から10月にかけて4回の班会議を開催し、併せてアンケートによる実態調査、及び実地調査を行った。

2. 調査方法
 
2−1. 治験に関するアンケート調査
   大規模治験ネットワークに登録している医療機関及び治験推進協議会に加盟している施設など約2,000施設を対象に治験実施等に関する調査を実施し、346施設より回答を得、実態調査の基礎資料とした。

2−2. 実態調査
   調査期間を2006年8月11日から8月31日とし、調査票の送付による実態調査を行った。
 治験ネットワーク及びSMOに関する実態調査は、治験ネットワークについては45のうち31から回答が得られた(回答率68.9パーセント)。SMOについては56のうち33から回答が得られた(回答率58.9パーセント)。
 治験を除く臨床試験に関する実態調査は、1,783医療機関のうち353機関から回答が得られた(回答率19.8パーセント)。

2−3. 実地調査
   平成18年9月27日、28日に、2−2の実態調査において比較的機能していることが推測された下記の3治験ネットワークを訪問し、実地調査を行った。
 福岡治験ネットワーク(地域の中核病院主体)
 岡山治験ネットワーク(大学病院主体)
 名古屋市医師会臨床試験ネットワーク支援センター(医師会主体)

3. 調査結果
  【実態調査】
(1) 治験ネットワーク全体として受託治験の有無・受託件数は少なく、治験における症例集積度の向上や国内治験の効率化といった面では、治験ネットワークに期待される本来の機能は最大限に発揮されていない状況にあった。治験ネットワークの機能強化により治験を含む臨床研究基盤全体の活性化を果たすためには、以下の点について具体的に実行する必要がある。
 
1  多施設における一元的な対応による治験の効率化(治験情報の一元管理・データベース化、被験者候補・登録情報の活用と管理など)
2  ネットワーク内での治験を含む臨床研究に係わる人的資源の効率的活用(中核事務局におけるCRC配置促進、ネットワーク内施設へのCRC派遣、SMOの活用)
3  ネットワーク全体の質の向上(医師、看護師、CRC、事務職員など治験従事者の育成・教育、中央IRB(共同IRB)の設置・活用など)
4  被験者の情報管理体制の構築(情報漏えい防止対策と管理の徹底)

(2) 国内の治験を除く臨床研究の実態調査の結果、臨床研究の実施環境は治験と比べて未整備であり、研究者の負担も大きいことがわかった。そのため、現状の臨床研究の実施体制下では、質の高い臨床研究を多くこなすことは困難な状況となっていることが予想された。

【実地調査】
(1) 現場の生の声を聞くことにより、巧く活動しているネットワークに共通している点が「ネットワーク運用に熱意を持ち、かつ周りからの協力を得られるKey Personが存在すること」であること、また、短期間で実績を構築するのは無理であり、一歩一歩地道な努力が必要であることが分かった。
(2) 共通した課題として、治験に携わる医師のインセンティブを維持すること、審査体制の確保が挙げられたが、訪問したネットワークにおいては、設立経緯に即した方法で克服していた。
(3) 今後の課題として、(2)に挙げたもの以外には、治験書式の統一化等治験業務の効率運用に関わる課題が共通して挙げられた。

4. 今後の課題
   次期の治験活性化計画策定にあたっては、世界同時開発・国際共同治験の導入という環境変化を見据え、「遅い、高い」の問題により焦点をあてた、従来の延長ではない抜本的な施策の見直しが必要である。
(1) 問題点と当事者の課題(図1)
 
1  治験計画から治験届までの期間:
   医薬品医療機器総合機構の体制整備、国際共同治験などにおいては計画作成の迅速化等の企業の努力と医療機関の協力が必要である。
2  各医療機関への契約申請・承認及び契約の過程の期間およびコスト:
   契約過程の期間の短縮には、各医療機関側と企業側の事務の効率化が必要であり、契約様式の統一や書類の簡素化など、行政も規制等で後方支援することが期待される。
 少症例数多施設の問題は、モニターコストにも大きく関わる問題であり、ネットワーク形成による症例集積の促進や様式・手順の標準化・簡略化を行う必要がある。医療機関において、国際共同治験を実施しやすい環境の整備も望まれる。
3  被験者リクルート及び医師の実施インセンティブ:
   医療機関としては、患者への啓発活動や治験外来での優遇等の対応を図る必要がある。
 医師のインセンティブに関しては、次のような措置を講ずることが検討されるべきである。
 
治験に係る研究費について治験を実施する医師に適正に配分されるような医療機関内での工夫
行政機関が研究費の申請要件として治験・臨床研究の実績を評価すること
学会等が認定の要件として臨床研究の経験を評価すること
臨床研究の業績を、学位の取得、人事等の際に評価すること。

  図1.治験における3つのクリティカルパス

(2) 治験活性化のための方向性
 
1  治験ネットワークの機能(図2)
   ネットワークは、本実施体制調査班の中心課題であったため詳述する。
 
ア. ネットワークの形態
 
(全国型の連携)中核的病院、拠点となる病院が横に連携して共同作業、情報や治験審査委員会の共有化などにより効率化するもの
(地域型の連携)地域の拠点となる病院が主導して地域の関連病院、診療所をネットワーク化し、治験審査委員会や救急対応等の機能を拠点病院が補完するもの、又は、医師会等が主体となり地域内で同等の医療機関が連携するもの
イ. 全国型の連携の事例と特徴
 
医療機関の規模や専門性では、大学病院や国立高度専門医療センター等の拠点となりうる病院において、より重症な患者や難病・希少疾患を対象とした治験が実施されている。
ウ. 地域型の連携の事例と特徴
 
医療機関毎の規模、対象疾患、治験の経験、動機等が多様であり、共同で治験を実施することが容易ではない場合がある。ネットワークの果たすべき役割が当事者に不明確となりやすく、SMOの協力を必要とせざるをえない場合もある。
一方、実地調査を行った名古屋市医師会臨床試験ネットワークの場合は、医師会を中心とした地域型の連携であるが、治験の事業としての推進に係る参加医師の動機が共通かつ明確で連携がとりやすい環境であり、良く機能していると考えられた。
医療機関の規模や専門性では、中小病院や診療所において、生活習慣病を中心とした治験が実施されている。
エ. 今後のネットワークの課題
 
より重症な患者や難病・希少疾患を対象とした治験の実施のスピードとコストの改善が今後ますます求められる。これまで全国型の拠点病院の連携が、効率的かつ十分に連携した事例は少なく、病院間の横の連携の整備が現状では急務である。また、拠点病院を核とした医療機関の協力により症例集積性を高めることも課題である。
がん、精神科、神経内科、小児など専門性が高くかつ症例集積困難な疾患群においては、領域別に構成されたネットワークも有用であり、臨床研究者の育成により臨床評価方法の標準化や効率的な試験が実施できるものと考えられる。
これらの高度な医療や専門医療を提供する医療機関では、治験以外の臨床研究との戦略的連携も新しい医療技術の開発やエビデンス形成には重要であり、臨床研究基盤の早急な整備により、研究者や支援する人材の育成と支援組織の充実が期待される。
ネットワークにおいて治験を行う場合には、その拠点・中核となる医療機関が、参加施設の実状を十分に把握し、適切に実施していく必要がある。
ネットワークにおいて中央IRBを設置し有効活用するなど、治験や臨床研究の審査を適切かつ効率的に運用してゆくことも課題である。
オ. 治験の拠点・中核となる医療機関について
 
今回のネットワーク調査で、実際には治験を行っていない等、十分に機能していなかったネットワークが多数存在した。
今後、全国型の拠点・中核となる医療機関が確保されるべきである。
これは医療機関や医療従事者が治験に関心を持ち、治験に関わる人材が育成されるためにも有効と考えられる。
ただし、治験の拠点・中核となる医療機関の確保が、逆に治験実施医療機関を結果的に絞り込むものであってはならない。
2  治験施設支援機関(SMO)の利用状況
   今回の調査で、多くの治験実施医療機関がSMOを利用していることがわかった。その主な内容はCRCの派遣が大部分を占め、加えて事務局業務の代行であった。日本の治験の向上のためにはSMOの質の向上も望まれる。
3  被験者候補登録システムと個人情報への配慮
   医療機関が被験者候補を登録しておくことは、治験の効率化のためには有効な部分もあるが、個人情報への配慮が重要となる。具体的には、医療機関において、管理手順書を作成し、院外の登録システムを利用する場合でも契約等に明記する等の取組が必要である。
4  治験施設における治験審査体制
   治験の適正な運用のため、GCPにおいてもIRBの設置は必須とされているが、その設置状況や構成委員に関して実態の把握を行うため、全国のIRB情報の調査を行うことが望まれる。その上で、IRBの質を高めるため、以下の取組が行われるべきである。
 
ア. 人材の教育
   被験者の立場を十分に配慮した審査が行われるため、非専門家や外部委員も自由な発言を行えるよう、IRB委員への教育がなされる必要がある。
イ. IRBの評価
   医療機関に対する外部評価においても、IRBの設置だけでなくその内容(IRB委員への研修実施の有無、議事録の保存、情報開示など)について評価してゆく方法について考慮していく必要がある。

  図2.治験ネットワークのあり方


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