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資料4−1

医学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議 第二次報告(案)

はじめに

 本調査研究協力者会議は、平成17年5月の発足以来、近年の医学教育改革の動向を検証するとともに、新たな課題の解決を目指した医学教育の改善・充実方策を提言するため、検討を行ってきた。

 平成18年11月には、それまでの審議を踏まえ、地域医療を担う医師の養成・確保や社会的要請が高い事項に対応するモデル・コア・カリキュラムの改訂等について、第一次報告としてとりまとめたところである。
 具体的には、入学者選抜における地域枠の在り方、学部教育・卒後教育における地域医療を担う医師養成の在り方、地域医療を担う医師確保に関する大学病院の役割、医学教育モデル・コア・カリキュラムの改訂(地域保健・医療、腫瘍、医療安全等)などについて具体的な提言を行ったところである。

 本調査研究協力者会議においては、その後も残された課題について検討を行ってきたところであるが、このたび、第一次報告において、今後具体的に検討を行うべき課題としていた、医学部における入学定員の在り方について一定の議論の結果をとりまとめたので、第二次報告として公表するものである。

 今後、本報告に沿って、文部科学省をはじめとする関係者において、必要な措置や取組が行われることを求めたい。

 さらに残された課題については、最終報告の取りまとめに向けて引き続き議論を行っていくこととしたい。

1  医学部の定員をめぐる動向
 
(1) 我が国の医師養成制度
 
 我が国の医師国家試験の受験資格は、「大学において医学の正規の課程を修めて卒業した者」(医師法第11条)とされており、医師免許を取得するには、外国の医学校を卒業した場合や外国において医師免許を取得した場合等を除き、医学部の卒業が必須となっている。
 すなわち、我が国の医師養成は基本的には大学医学部で行われており、このため、その定員の在り方は、医療政策や医師の需給等と密接な関わりを持っている。

(2) これまでの医学部の定員の取扱いの経緯
 
 戦後、新制大学が発足して以来、大学医学部の数は46校(国立21校、公立12校、私立13校)、入学定員は3,000人前後で推移してきた。昭和40年代に入り、国民皆保険制度の定着に伴う医師需要の増加や医療水準向上の要請に対応し、大学医学部の拡充が行われた。国の無医大県解消計画や私立大学の設置申請により、大学の新設や定員の増加が進められ、昭和56年度には、大学医学部数は79校(国立42校、公立8校、私立29校)、入学定員は8,280人に達した。
 昭和50年代後半からは医師の需給に関する議論が始まり、昭和57年には、医師については、全体として過剰を招かないように配意し、適正な水準となるよう合理的な養成計画の確立について政府部内において検討を進めることが閣議決定(「今後における行政改革の具体化方策について」)された。昭和61年には、厚生省の「将来の医師需給に関する検討委員会」の最終意見において、平成37年には医師の10パーセントが過剰になるとの需給検討に基づいて、平成7年を目途に医師の新規参入を10パーセント程度削減するとの提言がなされた。また、昭和62年に文部省の「医学教育の改善に関する調査研究協力者会議」の最終まとめにおいて、平成7年に新たに医師になる者を10パーセント程度抑制することを目標として、国公私立大学を通じて入学者数の削減等の措置を講じることが提言された。
 さらに、平成9年には、大学医学部の整理・合理化も視野に入れつつ引き続き医学部定員の削減に取り組むことが閣議決定(「財政構造改革の推進について」)された。平成10年には、厚生省の「医師の需給に関する検討会」の報告書において、平成29年頃から供給が需要を上回り、その後も乖離の拡大が続くとの需給検討に基づいて、高齢者人口が最も多くなる平成32年を目途に医師の新規参入の概ね10パーセントの削減を目指すことを提言した上で、入学定員については、昭和61年の検討委員会の提言に係る、昭和59年当時の医学部入学定員を10パーセント削減するという目標の達成に向けて、改めて関係者が調整の上、具体的に取り組むことが要請された。また、平成11年に文部省の「21世紀医学・医療懇談会」の第4次報告において、医学部の入学定員について、当面、昭和61〜62年に立てられた削減目標の達成を目指して国公私立大学全体で対応すべきことが提言された
 これらの提言を踏まえ、医学部の入学定員は、新たな入学定員増は行わないとともに入学定員の削減を図ってきたところであり、現在までに、入学定員が最高であった時点と比較して、国公私立を合わせ7.9パーセント(国立10.7パーセント、公立0.8パーセント、私立5.3パーセント)の削減が実施されている。

(3) 最近の医学部の定員の取扱いをめぐる動向
 
 厚生労働省においては、平成17年2月より、「医師の需給に関する検討会」を設けて平成10年の検討会報告書公表後の医療を取り巻く環境の変化や社会経済状況の変化等を踏まえた医師の需給の将来推計や取り組むべき課題について検討を行い、同年7月には地域別、診療科別の医師の偏在解消に関する当面の医師確保対策等を中間報告としてとりまとめた上で、平成18年7月には、その報告書(以下「検討会報告書」という。)がとりまとめられた。
 検討会報告書では、将来の医師の需給の見通しとしては、「供給の伸びが需要の伸びを上回り、平成34年(2022年)に需要と供給が均衡し、マクロ的には必要な医師数は供給されるという結果になった」としている。一方、「全体の需給とは直結しないが、地域別・診療科別の医師の偏在は必ずしも是正の方向にあるとは言えず、また、病院・診療所間の医師数の不均衡が予想される等の問題があり、厚生労働省は関係省庁と連携して効果的な施策等を講じることが必要である」とした上で、大学医学部における地域枠の設定、地方公共団体が取り組んでいる勤務地を指定した奨学金の設定、地域枠と奨学金の連動の推進等の具体的な取組に関する提言がなされた。入学定員に関しては、「医師の養成には時間がかかること、また、多額の国費が投入されていることを踏まえれば、医師数が大きく過剰になるような養成を行うことは適当ではない」「医学部定員の増加は、短期的には効果がみられず、中長期的には医師過剰をきたす」とする一方、「(へき地を含む)地域における医療体制の確保は喫緊の課題であることから、すでに地域において医師の地域定着策について種々の施策を講じているにも係わらず人口に比して医学部定員が少ないために未だ医師が不足している県の大学医学部に対して、さらに実効性のある地域定着策の実施を前提として定員の暫定的な調整を検討する必要がある。」としている。
 さらに、平成18年8月に、地域医療に関する関係省庁連絡会議(厚生労働省、総務省及び文部科学省)において取りまとめられた「新医師確保総合対策」においては、奨学金の拡充など実効性のある医師の地域定着策の実施等を条件として、医師の不足が特に深刻と認められる10県(青森、岩手、秋田、山形、福島、新潟、山梨、長野、岐阜、三重)において、平成20年度からの最大10年間を限度として、最大10人を医師の養成数に上乗せする暫定的な調整の計画等を容認するとともに、自治医科大学においても同様の暫定的定員増の申請を容認することとされた。その上で、関係審議会において、大学の具体的な定員の在り方について検討を行った上で大学の定員増の申請の審査を行うこととされたところである。

2  医学部の今後の定員の在り方
 
(1) 基本的な考え方
 
 現在、関係者の努力にもかかわらず、医師の地域偏在は依然として大きな問題であり、へき地を含む地域での医師の確保は極めて困難なものとなっている。また、小児科、産婦人科等の特定の診療科での医師の確保も困難なものとなっている。
 このため、第一次報告で提言しているように、入学者選抜の工夫改善、医学教育モデル・コア・カリキュラムの充実等による学部教育における地域医療に関する教育の改善、大学病院における新医師臨床研修や地域医療支援等の改善など、地域別・診療科別の医師の偏在の問題への対応の充実を図ることが必要になっている。
 地域別・診療科別の医師の偏在の問題に関する対応としては、入学定員の増加は短期的には直接的な効果は見られず、検討会報告書で提言されているように、地域に必要な医師の確保の調整を行うシステムの構築等が求められるところである。しかしながら、地域における医師の偏在の現状やこの問題への対応の必要性を踏まえれば、「新医師確保総合対策」で掲げられている緊急対策等の実施を前提として、医師の不足が特に深刻と認められる10県の大学医学部及び自治医科大学において、期間を付した定員増を認めることが適当である。
 国においては、私立大学における定員増の認可のみならず、国立大学における中期計画の変更や公立大学における定員増の届出も含め、平成20年度からの入学定員増に必要な申請等に対象大学が対応できるよう所要の措置を講じる必要がある。また、定員増の取扱のみならず、医学教育の改善等、医師の養成・確保の充実を図る必要がある。

(2) 期間を付した定員増の具体的な要件
 
 検討会報告書にあるように、平成34年に医師の需要と供給が均衡すること等を踏まえると、入学定員増の期間は平成29年度(収容定員増の期間は平成34年度)までとすることが適当である。この場合、平成21年度以降からの入学定員増の申請等の場合も平成29年度までとし、対象大学が期間を付した定員増の申請等を行うにあたっては、その廃止時期も明記することが必要である。
 また、定員増に伴う教育環境の維持等を踏まえると、増員は入学定員当たり10名を限度とすることが適当である。
 期間を付した定員増は、対象県の医師不足の現状に鑑み容認すべきものである。また、「新医師確保総合対策」においては、対象県が奨学金の拡充等一定の措置を講じることが条件とされている。対象県の取組の審査は厚生労働省において行うこととされているが、対象大学の定員増の前提となっているため、対象大学の申請等にあたっては、文部科学省においても、対象県の取組について関係書類により審査(条件を満たしていることの確認)を行うことが必要である。
 なお、対象県においては、定員増の条件以外の取組も含め、医師の確保や地域定着に関する取組の充実・強化を図ることを期待したい。
 定員の扱いについては、医師の需給というマクロ的な数量調整の観点だけでなく、優れた資質能力を有する医師の育成・確保をいかに図っていくべきかという視点から検討することが必要である。期間を付した定員増が対象県の医師不足の現状に鑑み容認するものであることを踏まえれば、対象となる大学においては、学部教育の改善をはじめ、医師の育成・確保に資する取組について一層の改善・充実が求められる。
 このため、対象大学の定員増の申請等の審査に当たっては、教員組織や教育環境等の審査に加え、1地域枠の設定、推薦入学における工夫、地元高等学校との連携(アドバンスドプレイスメント)など、入学者選抜段階における取組の推進、2地域医療への関心と意欲を高めるためのカリキュラム開発、早期体験学習や臨床実習における地域医療と接する機会の提供など、学部教育における取組の推進、3学部教育の改善等に当たっての地域の医療機関との連携の推進など、学生を地域に定着させるための大学の取組を考慮することが必要である。
 なお、対象県の医師不足の現状や求められる医師の需要等を勘案すれば、地域に定着させるための取組は、増員分の学生のみならず学生全体に対して広く取り組むことが重要である。また、定員増の対象以外の大学においても、このような取組の充実が求められる。
 期間を付した定員増の取扱や審査を統一的に行うため、国立大学に係る期間を付した定員増の審査は、学部等の設置の際と同様、大学設置・学校法人審議会における「意見伺い」等の審査を行うことが望まれる。また、公立大学に係る定員増の届出にあたっても、対象県の取組や学生を地域に定着させるための対象大学の取組に関する資料の提出が求められる。

(3) 期間を付した定員増に当たって求められるもの、留意点等
 
 期間を付した定員増は、地域間の偏在により一部の地域における医師の不足が深刻な状況に鑑み容認するものであり、全国一律に医師の養成規模の量的拡大を意図するものではないことに留意すべきである。また、前述したように、定員の扱いについては、医師の需給というマクロ的な数量調整の観点だけでなく、優れた資質能力を有する医師の育成・確保をいかに図っていくべきかという視点から検討することが必要である。このため、期間を付した定員増の実施にあたっては、定員増の対象大学をはじめとして、大学の医師養成の取組の改善・充実が図られることが重要である。
 期間を付した定員増の申請等の有無及び規模については、対象大学の主体的な判断によるものであるが、各大学における申請等や規模の検討に当たっては、単なる養成数の増大となることがないよう、教育内容の一層の改善・充実等質を高める取組に十分留意することが求められる。
 また、期間を付した定員増が対象県の医師不足の現状に鑑み容認するものであることを踏まえれば、対象大学の検討に当たっては、県の医師確保策等を踏まえるなど、検討の段階から県との十分な連携を図ることが求められる。さらに、県と大学との連携の充実とともに、寄付講座の設置など、県による大学への支援の充実も望まれる。また、学部教育の改善等、大学が学生を地域に定着させるための取組を行うに当たっては、大学や学生への地域医療に関する情報の提供、学生が地域医療と接する場の提供など、県の協力の充実も望まれる。
 さらに、対象大学においては、卒後教育について、生涯学習の場の提供や、大学病院とともに地域の多様な医療機関をローテートしながら修練や経験を積む機会の提供など医師としてのキャリア形成への支援について、県とも連携しつつ、取組の充実を図ることが望まれる。
 国においても、対象大学の定員増の検討や実施に当たって必要な助言、情報提供、援助等に努めるとともに、優れた資質能力を有する医師の養成・確保に取り組む大学に対する財政的支援も含めた支援施策の一層の充実を図ることが必要である。また、定員増の対象以外の都道府県の地域別、診療科別の医師の偏在の状況や大学の取組の状況・課題等を踏まえ、定員増の対象以外の大学も含めた取組の充実や支援について検討することも必要である。
 前述したように、定員の増加は、医師の偏在の問題に対して短期的には直接的な効果は見られないことから、この問題への対応の充実を図るためには、医学部の定員の扱いと併せて、関係者が連携協力して地域に必要な医師の確保の調整を行うシステムの構築や、卒業後学生が実際に地元に定着することに結びつけるための学部教育等の工夫・改善等が求められる。このため、定員増の対象大学をはじめとして、各大学においては、入学者選抜の工夫改善、学部教育における地域医療に関する教育の改善、大学病院における新医師臨床研修や地域医療支援等の改善など、第一次報告で提言した事項に積極的に取り組むことを改めて期待したい。


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