大学病院における新医師臨床研修の充実 |
a) |
平成16年4月より医師の臨床研修が必修化され、診療に従事する医師は、医師免許取得後2年間の臨床研修を受けなければならないこととされた。 |
b) |
従来の医師の臨床研修については、出身大学やその関連病院を中心に専門の診療科に偏った研修が行われていたため、幅広い診療能力が身に付きにくく、また、地域医療との接点が少ないと評されてきた。 |
c) |
こうした背景を踏まえ、新医師臨床研修制度は、医師が、医師としての人格をかん養し、将来専門とする分野にかかわらず、医学及び医療の果たすべき社会的役割を認識しつつ、基本的な能力を身につけることを基本的な考え方としてスタートした。 |
d) |
研修医は2年間の研修プログラムの中で、内科、外科、救急、小児科、産婦人科、精神科、地域保健・医療の各医療分野において、日常的に頻繁に関わる負傷又は疾病を経験するとともに、医師として必要な基本姿勢・態度を身につけることとなる。 |
e) |
また、都市部の大病院だけではなく、地域の中小病院、診療所、保健所、社会福祉施設等においても研修が行われることとなり、研修医は、医療のみならず、地域の保健、福祉の分野についても経験することとなった。 |
f) |
各大学病院は、それぞれの大学の特色を生かしつつ、専門分野に偏ることのない基本的な診療能力の育成を目的とした研修プログラムの策定や、共同して臨床研修を実施することとなる地域の医療機関との幅広い連携、研修医の指導を行う指導医の養成、研修医が研修に専念できるような適切な処遇の確保など、様々な点で尽力している。 |
g) |
しかしながら、研修医のマッチングの結果、ほとんどの大学病院において研修医の数は必修化以前と比べて減少した。大学病院の臨床研修医の在籍状況は、必修化前の平成15年度の72.6パーセントから、必修化後の平成16年度は55.9パーセント、平成17年度は49.2パーセント、平成18年度は44.7パーセントと大幅に低下しつつある。特に地方大学における減少が著しくなっている。さらにスーパーローテート方式になり、研修医の配置や指導体制についても、見直しが必要となった。 |
h) |
このため、大学病院においては、自らの教育、研究、診療の体制を確保する必要が生じ、従来のように地域の医療機関等からの医師紹介の要請に応じることが難しくなっている。 |
i) |
このような状況の中で、独自に必要な医師を確保することが難しく、かつ、大学病院のほかに医師の紹介を要請するあてのない地域の医療機関は、診療を継続することが困難になっており、このことが、「新医師臨床研修制度の実施に伴い、大学病院が医師を引き揚げている。」との指摘につながっている。地域での卒後臨床研修者数を増やすとともに、地域医療への定着を図る観点から、地域全体として大学病院と地域の医療機関、保健所等が、連携した卒後臨床研修体制を整備し、医学生への積極的な情報提供を行うことが必要である。 |
j) |
さらに、新医師臨床研修制度においては、「地域保健・医療」が必修科目となっており、少なくとも1ヶ月以上の研修が必要とされるが、臨床研修の指導医や研修医が地域保健・医療の重要性を十分に理解していない場合があるとの指摘がある。 |
k) |
各大学においては、ワークショップや指導医講習会の開催を通じて、指導医に対し、地域保健・医療の重要性について理解を深めさせることが必要である。 |
l) |
また、地域保健・医療の研修の効果を高めるためには、大学側と受け入れ側の緊密な連携が不可欠であるとともに、研修前後の研修医への十分な指導が必要である。 |
m) |
その際、保健所等における地域保健に比して、診療所等における地域医療の経験が十分でないとの指摘もあり、研修医の地域医療の経験を充実させることが必要である。 |
n) |
さらに、大学病院における研修医の減少傾向が生じた原因を分析するとともに、研修医に対する教育指導体制の整備や処遇の改善、大学病院と協力病院等との緊密な連携体制の構築等に取り組むことが必要である。
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新医師臨床研修後の研修における総合診療医の育成 |
a) |
臨床医は一定の専門領域を持って患者に医療を提供しており、臨床研修の終了後、専門領域の基礎的な研修を行う必要がある。 |
b) |
旧来の卒後臨床研修修了後の専門領域における研修については、大学病院を中心とした研修病院にすべてが委ねられ、研修を希望する医師は、多くの場合、各病院の診療科に配属されて、独自の指導体制の下で、標準化された研修プログラムもなく、診療を行っている場合が少なからず見られた。 |
c) |
このため、卒後2年間だけでなく、引き続き実力ある専門医の養成と継続的かつ専門的な臨床教育・研修提供体制を整備する必要があり、広範囲な分野において高度専門医療を提供する大学病院が地域の医療機関等と連携を図りながら、その中核を担っていくことが求められる。 |
d) |
地域医療を担う医師を養成する観点からは、卒後3年目以降の医師には、専門的診療能力、チーム医療を行うためのリーダーシップに加えて、地域医療を担うための全人的な診療能力を高めさせることが必要である。 |
e) |
このため、地域社会で特にニーズの高い総合的なケアを修め、プライマリ・ケアを極める医師も、高度な専門性を持った臨床医であるとの認識に立って、専門医研修における総合診療医の養成システムを構築していくことが重要である。 |
f) |
大学病院においては、各診療科のみならず、地域の医療機関との連携を図りながら、プライマリ・ケアのための研修を行うことのできる体制を整備することについて検討する必要がある。 |
g) |
その際、関係学会が総合診療医の標準的な研修プログラムの設定も含めた認定医制度を設けるなど、総合診療医の専門性が社会的にも認知されるような仕組みを設けることが望まれる。
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大学や大学病院における生涯学習体制の整備 |
a) |
医師の生涯にわたる学習については、各学会や医師会等により様々な場が提供されている。医学・医療に関する最も豊富な教育資源を有する大学や大学病院は、地域の実情に応じて、医師等の医療人のみならず、社会人に対する生涯学習の機会を提供することが求められており、平成17年3月現在、68の大学病院で生涯学習に関する取り組みを行っている。さらに、57の大学病院で地域の医師、看護師等を研修生として受け入れており、60の大学病院で医療従事者を対象とした講演会等を実施している。今後、このような取組の効果等を検証した上で、現に医療現場で勤務している者が参加しやすい運営上の工夫等の改善に努めることが必要である。 |
b) |
特に、医療人の養成の場である大学や大学病院においては、学部教育、卒後教育の各段階において、医師が生涯にわたって個々人の専門性を高められるよう、医師としてのキャリア形成に中核的な役割を果たすことが求められる。 |
c) |
地域医療を担う医師の養成の観点からは、例えば、大学や大学病院において、地域医療等にかかわることを希望する様々な年代の医師が診療能力の向上を目指して、プライマリ・ケアやへき地医療、医師不足が指摘されている分野の医療等について学ぶ機会を提供することが期待される。特に、地域における医療体制の確保のためには、離・退職した潜在的な医師の活用が求められることから、定年退職した医師や子育て等の理由により退・休職した女性医師の復帰に対する支援の充実が求められる。 |