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資料4

医師の需給に関する検討会報告書について

 本検討会は、平成17年2月に検討を開始し、途中同年7月には喫緊の課題である地域別、診療科別の医師偏在の解消に資するための中間報告を取りまとめ、その後も審議を行い、合計15回の会議を開催し別紙の報告書を取りまとめたものである。
 本報告書の内容は、概要及び本文をお読みいただければ明らかなように、これまでの検討会と異なり、将来のマクロの需給見通しにとどまらず、現下の医師の厳しい職場環境、偏在等を踏まえた当面の対策についての議論が中間報告以降も多く行われ、その成果を盛り込んでいるところに特徴がある。
 各委員からは現下の医師、医療機関の置かれた厳しい状況、とりわけ病院勤務医の勤務環境の改善なくしては、また、病院と診療所の役割・関係を整理しなければ、仮にマクロの医師数は充足するとしても、将来にわたって国民の求める質の高い医療を安定的に提供することは困難であるとの意見が多く述べられた。
 こうした問題意識の中、平成34年(2022年)には医師の需給が均衡し、必要な医師数が充足される見通しは示されたが、それとは別に今後の対応の基本的考え方として、1地域に必要な医師の確保と調整、2手術等の地域の中核的な医療を担う病院の位置付け、3病院における持続的な勤務が可能となる環境の構築、4病院を入院機能に特化すること等による生産性の向上、5診療所の休日夜間を含めた外来機能の強化による病院への負担の軽減、6国民の期待する専門診療と診療科・領域別の医師養成の在り方の検討、7医学部定員の暫定的な調整といった多くの取り組むべき課題、施策を提言している。これらの施策の詳細あるいは実施のための手順を示すことは本委員会の枠を超えているが、国、都道府県、市町村、大学、医師会、病院団体等の関係者がそれぞれ当事者意識を持ち、十分な協議を行い連携を図りつつ、施策の実施に取り組むことを期待する。とりわけ国においては、より効果的な施策を講じるために、今後とも不断に適切な場での検討を強く要請するものである。

平成18年7月28日
医師の需給に関する検討会座長 矢崎義雄


医師の需給に関する検討会報告書(概要)

1   はじめに

2   医師の需給に関する現状
 
 毎年、約7,700人程度の新たな医師が誕生し、退職などを差し引いて、年間3,500〜4,000人程度が増加。しかし、地域別・診療科別の医師の偏在は必ずしも是正の方向にあるとは言えないこと。また、病院・診療所間の医師数の不均衡が予想される等の問題があること
 病院における医師数が増加しているにもかかわらず、病院における勤務医への負担が経年的に強まっていることが医療現場から強く指摘

(診療科における状況)
 
1) 小児科
 
 小児化医数は増加傾向にあり、少子化と相まって、全体としての医療の必要量は低下傾向にあるものの、核家族化の進行などから、休日や夜間の救急受診が増加し、小児救急医療を実施する特定の病院への患者の集中など、患者の受診行動が変化していること。こうした傾向に効率的に対応するためには、他職種と共同で小児患者の保護者向けの電話相談体制を整備することを含め、地域における診療所に勤務する医師が参加する休日夜間の小児医療提供体制の確立が優先されると考えられること
2) 産婦人科
 
 出生数の減少に伴って、出生数当たりの産婦人科医数は横ばいで推移しているものの、このままの状況が続けば、産婦人科医の減少傾向が続くことが想定されること
 医療においては、利便性より安全性がより重視されるべきであり、緊急事態への対応を図るためにも、相当の産科医師の配置が可能となるよう医療機関の集約化・重点化を進める必要があること
 助産師の活用により、外来における妊婦検診や正常分娩等において、産科医の負担軽減と業務の効率化を図ることが期待されること
 患者と産婦人科医の良好な関係を維持するため、中立的な機関により医療事故の原因究明を行う制度などが必要であるとの指摘
3) 麻酔科
 
 麻酔科医は増加傾向にあるものの、手術件数の増加や、全身麻酔を麻酔科医が実施する傾向から、麻酔科医に対する需要が高まったものと考えられること。麻酔科医に無理が掛からない体制作りが求められること

3   医師の需給に関する見通し
 
 受療動向の推計と人口構成の推計から将来の医療需要を推計し、これに見合う医師数を将来の必要医師数としていること
 無職や保健医療関係以外の業務に従事している医師を除いた全ての医師数は、平成27年(2015年)には29.9万人(人口10万対237人)、平成37年(2025年)には32.6万人(人口10万対269人)、平成47年(2035年)には33.9万人(人口10万対299人)と推計
 医療施設に従事する医師数は、平成27年(2015年)には28.6万人(人口10万対227人)、平成37年(2025年)には31.1万人(人口10万対257人)、平成47年(2035年)には32.4万人(人口10万対285人)と推計
 必要医師数の算定に当たっては、医師の勤務時間を週48時間と置いており、これによれば、平成16年(2004年)において、医療施設に従事する医師数が25.7万人(病院勤務16.4万人 診療所勤務9.3万人)であるのに対し、必要医師数は26.6万人と推計されること
 今後、徐々に必要医師数が増加し、平成52年(2040年)には医療施設に従事する必要医師数は31.1万人となると推計されること
 医師の需給の見通しとしては、平成34年(2022年)に需要と供給が均衡し、マクロ的には必要な医師数は供給されること
 しかし、病院の入院需要は、平成52年(2040年)には現状の約1.4倍となること。一方、病院に勤務する医師数は、現在の16.4万人から17.6万人まで7パーセント程度の増加にとどまると推計されるため、長期的に見て、病院に大きな負担が生じる可能性があること。ただし、病院で勤務する医師の診療時間の4割が外来に費やされており、病院が入院機能に特化することによりこれを緩和することができること

4   今後の対応の基本的考え方
 
(1) 地域に必要な医師の確保の調整
 
 地域に必要な医師の確保の調整を行うシステムの構築が急務であること。これは、医療法の改正に盛り込まれた地域医療対策協議会がその役割を果たすとされており、都道府県が運営の中核を担うことが求められること。キャリアパスや処遇といった点も考慮し、地域に必要な医師の確保のため、国を含む行政、医師会、医療機関、学会、大学等が総力を挙げる必要があること。その地域だけでは必要な人材を確保できない場合については必要に応じて国も都道府県を支援する必要があること
 地方公共団体が設立・運営する病院間においては、連携体制を構築し、同一組織内のみならず地域内での医師の効果的な配置・相互の異動を実施することが期待されること
(2) 手術等の地域の中核的な医療を担う病院の位置付け
 
 人員の配置や効率的・有効的な病院内のシステム、資金の配分等について、病院間あるいは病診の役割分担の在り方も含めて、地域の中核的な医療を担う病院の位置付けが必要
(3) 持続的な勤務が可能となる環境の構築と生産性の向上
 
 地域で医療機能の集約化・重点化を行い、医師への負担を軽減すること、他の職種とのチーム医療、かかりつけ医の機能を強化することにより病院への過度の患者集中を軽減するなどで、病院に勤務する医師の持続的な勤務が可能となる環境の構築と生産性の向上が必要
 今後女性医師の比率が上昇していくことも踏まえ、多様な勤務形態の確保や、院内保育所の優先的な利用といった、出産や育児など多様なライフステージに応じて切れ目なく働くことが可能となる環境を整備することにより、特に病院における継続的な勤務を促すことが必要
(4) 地域における医師の確保に関する取組み
 
 大学医学部の入試における地域枠の設定や、地方公共団体が取り組んでいる9年間程度の勤務地を指定した奨学金の設定、さらには地域枠と奨学金の連動は、今後一層推進・拡大すべきであること
(5) 臨床研修制度の活用等
 
 臨床研修制度については、地域別、診療科別の医師偏在緩和に資することができるよう、補助制度の見直しを含めて、適切な措置を講じること
(6) 国民の期待する専門診療と診療科・領域別の医師養成の在り方の検討
 
 診療科別の必要医師数については、専門医の位置付け・役割等を踏まえ、効果的な誘導策等も考慮しつつ、その養成の在り方も併せて、検討することが望まれること
 診療科・領域別の必要医師数を検討する前提として、これらの医療の地域における提供体制を検討する必要があること。各診療科や専門医療の関係学会は行政とともに、医療機関相互の連携を含む、有効で効率的な医療提供体制のあり方についてイメージを作成することが期待されること。その際、地域における医療の提供が持続でき、医師の研修から退職までを視野に入れたキャリアプランの作成とその促進方策の検討も求められること
(7) 医学部定員の暫定的な調整
 
 すでに地域において医師の地域定着策について種々の施策を講じているにも係わらず人口に比して医学部定員が少ないために未だ医師が不足している県の大学医学部に対して、さらに実効性のある地域定着策の実施を前提として定員の暫定的な調整を検討する必要があること

5   おわりに
 
 今回の推計では、長期的にみれば、供給の伸びは需要の伸びを上回り、マクロ的には必要な医師数は供給されるという結果になったが、これは短期的・中期的にあるいは、地域や診療科といったミクロの領域での需要が自然に満たされることを意味するものではないこと
 4で記述した基本的考え方を実現するためには、国、都道府県、医師会、病院、学会、大学等がそれぞれの役割を果たすことにより、国民・患者とこれに実際に接する医師との良好な関係を築くことが不可欠であること
 特に、国にあっては、今回の検討で示した方針、施策を適切な検討の場で速やかに具体化し、効果的な医師確保対策を不断に講じること


医師の需給に関する検討会報告書

1   はじめに
 
 医師の需給については、昭和45年には、「最小限必要な医師数を人口10万対150人とし、これを昭和60年を目途に充たそうとすれば、当面ここ4〜5年のうちに医科大学の入学定員を1,700人程度増加させ、約6,000人に引き上げる必要がある」とされた。
 このことを目標とし、その後昭和48年から「無医大県解消構想」いわゆる「一県一医科大学」設置が推進され、昭和56年には医学部の入学定員は8,360人となった。その結果「人口10万対150人」の医師の目標は昭和58年に達成された。
 その後も依然として毎年8,000人を超える医師が誕生していくことが見込まれる状況の中、将来の医師の需給バランスについて検討し、所要の措置を講ずるべきとの指摘がなされるようになったことを受けて、昭和59年5月に「将来の医師需給に関する検討委員会」が設置され、昭和59年11月に中間意見が、昭和61年6月に最終意見が取りまとめられた。その内容は、昭和100(平成37)年には全医師の1割程度が過剰となるとの将来推計を踏まえ、「当面、昭和70(平成7)年を目途として医師の新規参入を最低限10パーセント程度削減する必要がある。」というものであった。旧厚生省はこれを受けて、医学部の入学定員の削減について関係各方面に協力を求めてきた。
 その結果、平成5年には医学部入学定員は7,725人(削減率7.7パーセント)となったが、当初目標の10パーセント削減には達していない状況にあった。平成5年8月には「医師需給の見直し等に関する検討委員会」が開催され、平成6年11月に意見を公表した。その中で、将来の医師需給について推計を行ったところ、将来医師が過剰になるとの推計結果を得たため、「若干の期間をおいて推計値を検証して、必要であるとすればその適正化のための対策を立て、できるだけ速やかに実行することが望ましい」と提言された。
 この報告書が発表された後、医学部の入学定員はほとんど変化しなかったが、介護保険制度の創設等新たな要素を勘案した上で新たなデータが得られる時期となったこと、また、平成9年6月に医師数を抑制する旨の閣議決定がなされたことから、平成9年7月新たに「医師の需給に関する検討会」を設置し、平成10年5月報告書を公表した。これによると、医師の需給に関する認識としては、「地域的にみて医師の配置に不均衡がみられるものの、現在の医師数の状況は全体としては未だ過剰な事態には至っていないが、診療所医師数の増加がある程度続いた後は医師の過剰問題がより一層顕在化し始める」というものであった。
 一方、新聞報道で医師不足が取り上げられた件数について年次推移をみると、平成12年(2000年)以降、徐々に件数が増加するなど、近年、特定の地域や診療科について医師の不足を指摘する声が強まった。これらを背景に、「へき地を含む地域における医師の確保等の促進について」(平成16年2月26日。地域医療に関する関係省庁連絡会議)において、「医師の養成・就業の実態、地域や診療科による偏在等を総合的に勘案し、平成17年度中を目途に医師の需給見通しの見直しを行う。」とされた。これを受け、平成17年2月より新たな「医師の需給に関する検討会」(以下、「本検討会」という。)が開催されることになった。
 本検討会では、平成17年7月、喫緊の課題である地域別、診療科別の医師の偏在解消に資するため、中間報告として、「当面の医師確保対策」を取りまとめた。厚生労働省では、これに並行して、総務省および文部科学省とともに関係省庁連絡会議を開催し、平成17年8月には「医師確保総合対策」が策定された。また、本年6月に成立した「良質な医療を提供する体制の確立を図るための医療法等の一部改正」において、都道府県を中心に地域の医師等の確保を図るための枠組み(地域医療対策協議会)が創設されるなど制度面での対応を行ったほか、予算や診療報酬での対応も行うなど各般にわたる取組みを行った。
 なお、全国知事会からも、平成17年12月、医師の地域や診療科の偏在を解消するため、実効性のある対策に取り組むことを求められている。
 この後、本検討会において新しい医師の需給見直しを作成するには、医師の勤務状況を把握することが必要ということになり、平成17年12月から18年1月にかけて、医師の勤務状況に関する調査を行った。
 平成18年4月以降、国会において、上記法律案の審議が行われたが、この中でも、地域や診療科に関する医師の確保方策が大きな論点となった。
 本検討会報告書は、国会等における議論も踏まえて行われた15回の議論を経てまとめたものである。

2   医師の需給に関する現状
 
(1) 全体の状況
 
 現状では、年間約7,700人程度の新たな医師が誕生している。また、2年ごとに行われる医師・歯科医師・薬剤師調査では、7,000〜8,000人程度が増加していることから、退職などを差し引いた、医師の増加数は年間3,500〜4,000人程度と概算される。
 病院・診療所別にみても、それぞれ増加が見られる。病院と診療所に勤務する割合の推移を年齢階級別にみると、各年齢階級での大きな変化は見られない。近年の診療所に勤務する医師の増加は、一般には、前述の医学部入学定員の増加に伴い、診療所勤務の割合が高い高年齢層での医師数が増加していることによるものと考えられる。
 都道府県別に医師数の変動をみると、平成10年と比較して、すべての地域で人口当たりの医師数の増加がみられるが、一方で依然として都道府県間の格差は縮小していない。
 後述するように、全体の需給とは直結しないが、地域別・診療科別の医師の偏在は必ずしも是正の方向にあるとは言えず、また、病院・診療所間の医師数の不均衡が予想される等の問題があり、厚生労働省は関係省庁と連携して効果的な施策等を講じることが必要である。
(2) 病院における状況
 
 病院に従事する医師数を、平成14年及び平成16年医師・歯科医師・薬剤師調査で比較すると、平成14年159,131人、平成16年163,683人と2年間に約4,600人が増加している。
 このように病院における医師数が増加しているにもかかわらず、一方、病院における勤務の繁忙感が経年的に強まっていることが医療現場から強く指摘されている。医師の勤務状況調査の結果によれば、3年以上同一の施設に常勤で勤務している医師に3年前と比較した勤務負担を尋ねたところ、67.7パーセントが「勤務負担が増えている」と回答している。その理由(複数回答)としては、1病院内の診療外業務(院内委員会活動・会議など)(62.3パーセント)、2教育・指導(49.4パーセント)、3外来患者数の増加(または減少)(32.7パーセント)、4外来患者1人に費やす時間(28.9パーセント)が挙げられている。
 その他、以下のような理由があることも指摘されている。
 
1  患者の入院期間の短縮及び患者の高齢化による診療密度の上昇
2  インフォームドコンセント、医療安全に対する配慮の強化
3  医療技術の向上と複雑化、多様化
4  1年365日24時間どんな時間でも専門医に診てもらいたい等、患者側の要望の拡大
5  医師が作成する文書量の増大
6  医師の専門性の細分化による医師相互での診療依頼(コンサルテーション)の増加 等
 入院患者に占める65歳以上の割合は平成2年には32.5パーセントであったが、平成14年には45.2パーセントとなるなど、入院医療における高齢者の割合が増加している。
 また、上記のような病院における繁忙感に加え、勤務に見合う処遇が与えられていないこと、さらに訴訟のリスクにさらされていることも含めて社会からの評価も低下しつつあるという感覚が病院診療の中核を担う中堅層に広がり、病院での勤務に燃え尽きるような形で、病院を退職する医師が増加しているとの指摘がある。
(3) 診療所における状況
 
 診療所に従事する医師数を、平成14年及び平成16年医師・歯科医師・薬剤師調査で比較すると、平成14年90,443人、平成16年92,985人と2年間に約2,500人が増加している。一方、各年齢階級別に診療所に勤務する医師の割合を見ると、あまり変化は見られない。その増加は主として昭和40年代後半から50年代の医学部入学定員増の影響を受けた50歳代の医師の増加によるものとなっている。
 各年齢において人口当たりの外来受療率は低下しており、医師一人当たりの患者数は一貫して減少傾向にある。
 今回の医療制度改革においては、入院から在宅医療まで切れ目のない患者本位の医療を提供できるよう医療機能の分化・連携を推進している。こうした中で、診療所の医師は、かかりつけ医機能を発揮し、一次救急医療の提供や、病診の役割分担、在宅医療の実施に際し受け皿となること等が期待される。
(4) 診療科における状況
 
 
 様々な診療科・領域において医師の偏在が指摘されているが、特に問題となっている3つの診療科について以下に記述する。
1) 小児科
 
 小児科については、平成16年医師・歯科医師・薬剤師調査では、14,677人と平成14年調査に比べ、約200名増加している。病院に従事する医師は、この間に8,429人から8,393人と約40人減少しているが、各年齢階級における病院に従事する医師の割合の変化は明らかではなく、臨床研修制度の開始により診療科に従事する医師の就職が遅れた影響がうかがわれる。
 新たに小児科を志望する医師の動向については、この数年、増加傾向にある。平成16年医師・歯科医師・薬剤師調査では、臨床研修制度の開始直前の平成15年に医師となり、小児科に従事している者は556名であった。これは平成15年に医師となり、医療施設で勤務している医師全体の7.7パーセントに当たる。
 平成18年3月に実施した「臨床研修に関する調査(中間報告)」においても、臨床研修2年次生で研修修了後の進路を決めている者のうち、約8パーセントが小児科を志望しており、ここでは減少する傾向は認められない。
 小児科については、対象年齢の受療率の低下が見られるなど、少子化と相まって、全体としての医療の必要量は低下傾向にあるものの、核家族化の進行、共稼ぎ家庭の増加等にも起因して、休日や夜間の救急受診が増加し、さらに専門医志向も伴って、小児救急医療を実施する特定の病院への患者の集中など、患者の受診行動が変化している。これらの休日夜間における小児患者の9割以上は入院の必要がない軽症の患者であり、救急医療の対象者となるものは限られているのが実情である。こうした傾向に効率的に対応するためには、小児科の医師数の増加によるよりも、他職種と共同で小児患者の保護者向けの電話相談体制を整備することを含め、地域における診療所に勤務する医師が参加する休日夜間の小児医療提供体制の確立が優先されると考えられる。このためには、開業医で休日夜間診療を行うための動機付けを行うことが必要であり、地域医師会のリーダーシップが期待される。
 日本小児科学会は、病院における小児医療提供体制について、二次医療圏、三次医療圏における集約化を中心とした将来の在るべき姿の検討を行っており、診療所との連携の検討が十分ではないものの、他の診療科・診療分野における今後の取組みの参考になると評価できる。
2) 産婦人科
 
 産婦人科については、出生数の減少が続く中、平成16年医師・歯科医師・薬剤師調査では、10,163人と、平成14年調査に比べ、455人減少している。また、この数年は、新たに就職する医師は年間約300名程度と、相対的に低い水準で推移している。「臨床研修に関する調査(中間報告)」においても、進路を決めている者のうち、約5パーセントが産婦人科を志望しており、臨床研修制度開始の前後で、新たに産婦人科を志望する医師の傾向に変化は見られない。分娩に関与する常勤医師数について、日本産科婦人科学会は平成18年6月に、約8,000人であるとの調査結果を発表している。
 「臨床研修に関する調査(中間報告)」においては、専門として産婦人科を選択することを希望している者のうち、約7割が女性となっており、急速に女性の進出が進んでいる。女性医師全体からみると、小児科についで2番目に志望者の多い専門分野となっている。安定的に産婦人科医療を提供するためには、今後、女性にとって働きやすい環境の整備に特に配慮する必要があると考えられる。
 出生数の減少に伴って、出生数当たりの産婦人科医師数は横ばいで推移しているものの、このままの状況が続けば、産婦人科医の減少傾向が続くため、地域によっては、妊婦にとって産科医療の利便性が損なわれることが想定される。また、新たに就職する医師は、特定の病院に集中する傾向が見られており、各施設は産婦人科医として従事することの魅力を向上させる必要がある。
 一方、以前よりわが国の産婦人科医療体制は、施設当たりの産婦人科医数が諸外国に比較して少ないことが問題点として指摘されてきた。医療においては、利便性より安全性がより重視されるべきであり、緊急事態への対応を図るためにも、相当の産科医師の配置が可能となるよう産科医療を提供する医療機関の集約化・重点化を進める必要がある。その際、集約される側の医療機関の役割分担と共に当該地域の医療提供体制のあり方にも十分配慮する必要がある。
 また、産婦人科医師については、比較的早期に病院を離れる傾向があるため、新規の就業者の確保に加え、退職を抑制するための方策を講じる必要がある。
 周産期医療では、可能な限り適切な医療を提供しても、一定の患者が不幸な転帰をたどることがあり、このことについて国民・患者に周知が図られる必要がある。また、患者と産婦人科医の良好な関係を維持するため、中立的な機関により医療事故の原因究明を行う制度などが必要であるとの指摘があった。
 なお、助産師が病院で外来における妊婦健診や正常分娩の介助を行う体制をつくることにより、産婦人科医の負担の軽減・業務の効率化と共に、妊産婦のケアの向上が期待される。
3) 麻酔科
 
 麻酔科については、平成16年医師・歯科医師・薬剤師調査では、6,397人となっており、平成14年に比べ、310人が増加している。また、臨床研修制度の開始直前の平成15年に医師となり、麻酔科に従事している者は339名であった。「臨床研修に関する調査(中間報告)」においては、進路を決めている者のうち、約6パーセントが麻酔科を選択しており、増加傾向にある。
 麻酔科は、基本的に病院で勤務を続ける診療科であり、また、麻酔科医は相対的に若い医師が多いことから、現在の状況が続けば、全国的には堅調に増加傾向が続くものと考えられる。
 麻酔科医師の需要については、手術件数の増加や、医療安全の観点から全身麻酔を麻酔科医が実施する傾向が強まったこともあり、麻酔科医に対する需要が高まったものと考えられる。麻酔科医は病院において外科関連業務の中で欠かすことができない要素となっており、麻酔科医の確保ができないことによって、手術の実施の延期・中止などが起こりうる。一方で、特に中小規模の病院において必要とされる麻酔科医の人員が限られるために業務の負担が集中しやすい傾向がある。こういった麻酔科の特性を考慮し、無理のない効率的な体制で麻酔科医の関与する医療を実施することが必要である。
 麻酔科医は男女とも徐々に麻酔科医から離職する傾向があることから、女性医師の子育て等による離職を抑制することに加え、男性医師も対象として勤務条件の改善やキャリア形成の支援等により離職を抑制することでさらに麻酔科医を確保することができると期待できる。
 麻酔科医の業務に対する認識については、日本麻酔科学会が行った調査では、麻酔科医からは「社会的評価の高い仕事」であるとした回答が22パーセントにとどまる一方、麻酔科医以外からは「麻酔科医への謝金・給与が他科に比べ高い」といった指摘が多くあり、このように病院における麻酔科医への評価が相対的に低いことが麻酔科医の勤務を続ける動機を弱めているとの指摘がある。麻酔科医の不足が言われている一方で、麻酔科医のいる施設において業務量の増加に見合った採用枠の増加が認められないことも、麻酔科医側からの問題として指摘されている。各病院においては麻酔科医の意見を尊重した体制づくりが求められる。
 日本麻酔科学会は、病院内での業務の効率的な実施や、地域圏内で麻酔科医の他施設への兼業を認め、相互に状況に応じた支援を行うことにより、救急医療等、地域で緊急に必要となる医療の実施を円滑にするべきとの提言を行っており、その可能性について検討が必要である。

3   医師の需給に関する見通し
   医師の需給に関する見通しの概要は以下のとおりである。なお、詳細は、別添報告書のとおりである。診療科別の見通しについては前述した。
 
(1) 医師の需給についての基本的考え方
 
 今回の推計も、前回と同様に、将来の受療動向を推計し、これに人口構成の将来推計を併せて、基本的な医療需要の変動を推計し、この変動に見合う医師数を将来の必要医師数としている。
 前回は、医療需要の変動に合わせた医師数を推計するに当たり、医療法に定められた患者当たりの標準となる医師数を基礎として検討したが、今回は、実際の医師の勤務状況を調査し、これと将来の医療需要の変動推計を併せて検討したものであり、実際の医療現場の状況をより反映したものとなっている。
 また、入院需要の変動を検討するに当たり、前回は入院受療率(ある時点での人口当たり入院患者数)に基づいていたが、現状では入院期間の短縮化が進んでおり、これに基づいて今後の入院需要を推定すると、将来の入院需要を実際の負荷よりも軽く評価することになるとの指摘もあった。そのため、今回は一定期間内に入退院する患者数(入院患者数および退院患者数)の動向に基づいて推計することとした。この方法は、医療処置の密度が高い急性期医療を重点的に評価するという特徴がある。
 さらに、年齢ごとに1回ごとの入院や外来にかかる医療処置の量が異なっていることを考慮するため、年齢階級ごとの1回当たり医療処置の量の比を推計し、これに基づく調整を行うことにより、人口の高齢化等の影響を考慮している。今回の推計では、入院・外来とも年齢階級別1回当たり医療費を用いている。
 なお、医師の養成には、6年間の医学部における教育と、2年間の臨床研修に加え、専門分野における数年間の時間が必要となる。そのため、医師数全体、特に臨床に従事する医師について増加、または減少させるという議論を行う場合、医学部入学定員による調整は、実際にそれが一人前の医師の誕生という効果を得るまでに少なくとも10年程度の時間が必要となることを認識しておく必要がある。さらに、いったん養成された医師の専門性を転換する場合にも多くの労力と時間が必要となる。
(2) 医師の供給の見通し
 
 わが国では、海外からの医師の流入はほとんど無いため、わが国における医学部の卒業生数がほぼそのまま新たな医師数になる。したがって、大学医学部の定員数により、事実上将来の医師数を見通すことが可能となる。
 年齢階級毎の分布をみると、40歳代前半以下の世代では、医師の養成数がほぼ一定となっていることを反映し、各年齢はほぼ7,000人程度で一定となっている。医学部の定員が一定であるとすると、今後は医学部定員が大きく増加した昭和40年代以降に入学した、今後50歳以上となる医師が、増加数の中心となる。
 女性については、子育て等が理由であると推測される若年層における就労する人数の低下が、一般女性より少ないものの認められる。女性の就業割合は、医籍登録以降徐々に低下し、11年目には、男性に対して82.9パーセントとなる。医籍登録後12年目以降は上昇し、30年目以降は再び低下するが、35年目には、男性の就業率も低下するため、男性と女性はほぼ同等になる。医籍登録後45年目まで累積した男女の就業割合は、女性は男性の92.4パーセントとなる。
 これらを考慮した見通しとしては、現状の医学部入学定員で推移すれば、無職や保健医療関係以外の業務に従事している医師を除いた全ての医師数(医療施設以外の従事者を含む医師数)は、平成27年(2015年)には29.9万人(人口10万対 237人)、平成37年(2025年)には32.6万人(人口10万対 269人)、平成47年(2035年)には33.9万人(人口10万対 299人)となると推計される。また、医療施設に従事する医師は、平成27年(2015年)には28.6万人(人口10万対 227人)、平成37年(2025年)には31.1万人(人口10万対 257人)、平成47年(2035年)には32.4万人(人口10万対 285人)となると推計される。
 なお、平成10年に行われた検討では、医師の労働力提供を70歳までとしていたが、医師・歯科医師・薬剤師調査における現在の回答状況及び就労状況にかんがみ、今回は上限を設定していない。
(3) 医師の需要の見通し
 
 今回の需要の見通しの検討においては、国民皆保険とフリーアクセスが確保されている中、現状で総量としては、基本的には国民が必要としている医療を提供しているものと仮定し、医師の勤務時間の現状と、勤務時間のあるべき姿とのギャップを現状の医師数に上乗せした人員を現在の医師必要数と置いた。必要医師数の算定に当たっては、医師の勤務時間を週48時間とおいた。これによれば、平成16年(2004年)において、医療施設に従事する医師数が25.7万人(病院勤務16.4万人 診療所勤務9.3万人)(医療施設以外の従事者を含む医師数 26.8万人)であるのに対し、医療施設に従事する必要医師数は26.6万人(医療施設以外の従事者を含む必要医師数 27.7万人)と推計される。
 なお、上記の推計は、医師が医療機関において過ごす時間のうち、診療、教育、他のスタッフ等への教育、その他会議等の時間を勤務時間と考え、これを週48時間までに短縮するのに必要な医師数から求めたものである。また、仮に、休憩時間や自己研修、研究といった時間も含む医療施設に滞在する時間を全て勤務時間と考え、これを週48時間までに短縮するには、医療施設に従事する必要医師数は31.8万人と推計され、前述の25.7万人との差は6.1万人(病院勤務 5.5万人、診療所勤務 0.6万人)となる。しかしながら、休憩時間や自己研修は、通常は勤務時間とは見なされない時間であり、これらを含んだ時間を全て勤務時間と考えることは適切ではない。
 また、仮に、診療を行っている時間のみを勤務時間とすると、すべての年代でこれを週40時間までにするには、医療施設に従事する必要医師数は26.9万人と推計される。
 将来推計に当たっての試算方法は以下の通りである。
 将来の医療需要を推計するに当たっては、まず、外来受療率、人口当たりの退院回数率について、以前の値から指数曲線によって回帰した場合(回帰法)、現在の値を将来にもそのまま当てはめた場合(固定法)、回帰による変動幅を3割までに限定した場合(限定法)といった方法でそれぞれ将来推計を行った。
 次に、外来受療率、人口当たりの退院回数率の推計値に将来人口を乗じてそれぞれ外来医療および入院医療の需要について将来推計を行った。さらに、患者の実際の医療ニーズを反映させるため、これに年齢階級別1回当たり医療費の比率による調整(重み付け)を行った。次に、現在の入院と外来の医療費の比率に従って外来医療と入院医療を合わせた将来の医療需要の変動を推計した。必要医師数の変動はこの将来の医療需要の変動に一致すると仮定した。
 年齢階級別の受診1回当たり医療費による重み付けを行った外来診療の需要の動向は、これまでの動向に基づいた回帰法では、平成52年(2040年)には現状の約7割の水準まで低下する。また、現在の受療率が続くとした固定法では平成40年(2028年)頃に現在の約1.2倍の水準でピークとなりその後は緩やかに減少する。回帰による受療率の変動幅を現状の3割までとすると(限定法)、平成52年(2040年)には現在の約9割の水準まで低下する。
 年齢階級別の入院一回当たり医療費による重み付けを行った入院診療の需要の動向は、これまでの動向に基づいた回帰法では、今後上昇を続け、平成52年(2040年)には現状の約1.7倍に達する。また現在の退院率が続くと仮定した固定法では、平成42年(2030年)には現状の約1.3倍に達し、その後、ほぼ横ばいに推移する。回帰による人口当たりの退院回数率の変動幅を現状の3割までとすると(限定法)、平成52年(2040年)に約1.4倍となる。これらのいずれの推計においても平成27年(2015年)頃までほぼ一致して約1.2倍まで上昇する。
 外来と入院を現在の医療費の比率によって合わせた全体の需要の動向については、固定法では、平成40年(2028年)に現在の1.24倍に達し、その後は横ばいとなる。回帰法では、平成52年(2040年)に1.16倍となるまで増加する。限定法では、平成52年(2040年)に1.15倍となるまで増加する。回帰法と限定法は平成52年までほぼ重なって推移する。この動向に、現在の必要医師数を併せて変動させると、例えば限定法では、徐々に必要医師数が増加し、平成52年(2040年)には医療施設に従事する必要医師数は31.1万人(医療施設以外の従事者を含む必要医師数 32.6万人)となると推計される。
(4) 病院・診療所別に見た医師の需給に関する見通し
 
1) 病院・診療所別に見た医師の供給の見通し
 
 医師は、就業開始後、時間が経過するに従い、病院勤務から診療所勤務に徐々に移行する。仮に、病院勤務から診療所勤務に移行する割合が現在の値のまま一定であるとした場合の将来の病院・診療所別に勤務する医師数を予測すると、今後の医師数の増加は、50歳以上の医師が中心となるため、診療所に勤務する医師の増加に比べ、病院に勤務する医師の増加は限られたものとなり、平成37年(2025年)には、病院で勤務する医師は約17.8万人、診療所で勤務する医師は約13.4万人になり、病院で勤務する医師についてはこれ以降横ばいになる。平成47年(2035年)には、病院で勤務する医師は約17.8万人、診療所で勤務する医師は約14.5万人になりその後安定すると予測される。
(平成47年の病院従事者対診療所従事者イコール55対45、現在は64対36)
2) 病院・診療所別に見た医師の需要の見通し
 
 病院における医師の需要予測を行うと、病院における医師は、診療時間のうち、6割の時間を入院診療に費やしており、入院医療の需要予測では、例えば限定法では、平成52年(2040年)には現状の約1.4倍となる。一方、病院に勤務する医師数は、現在の16.4万人から17.6万人まで7パーセント程度の増加にとどまると推計される。このような状況から長期的に見て、病院に大きな負荷が生じる可能性がある。ただし、病院で勤務する医師の診療時間の4割が外来に費やされており、病院が入院機能に特化することにより需要を軽減することが可能である。
(5) 医師の需給の見通し
 
 将来の医療需要の推計に当たってこれまでの推移と現状とのバランスをとった「限定法」を用いると、医師の需給の見通しとしては、供給の伸びが需要の伸びを上回り、平成34年(2022年)に需要と供給が均衡し、マクロ的には必要な医師数は供給されるという結果になった。しかし、需要は、医療政策をはじめとして様々な要因の影響を受けるため、確定的ではない。
 ただし、これは、現在の医師の勤務状況について、診療や教育など医師の勤務として必須と考えられる時間を基礎としており、自己研修や研究、休憩時間などを含め、各医師がゆとりを持って勤務するためには、各病院や各地域の医療提供体制・医師の業務を見直し、医師が限られた時間の中で本来の業務に専念できるような体制づくりが必要であることに留意が必要である。
 さらに、病院と診療所との関係については、今後、病院に勤務する医師の増加が限られる一方、入院医療の需要が増大する可能性があり、これに対応するためには病院と診療所の間で、医師の配置と、例えば病院が入院医療に専念するような業務の分担を調整する必要がある。

4   今後の対応の基本的考え方
 
 
 まず、現状をまとめると、病院、診療所とも、医師数は一貫して増加しており、また、地域でみても全ての地域で増加している。ただし、地域間の格差は必ずしも減少の方向には向かっていない。
 地域における医師配置の問題は、地方を中心に、大学病院における卒後臨床研修医を始めとした若手医師が減少するとともに、研修医に対する指導体制や医療提供体制の確保に努める必要が生じたことから、大学が従来のように地域の医療機関等からの医師紹介の要請に応じることが困難になりつつある一方、臨床研修や、臨床研修修了後の研修として、地域の病院又は病院群によって医師を育成するシステムがその緒についたばかりであることや、大学からの紹介に代替する医師の紹介・派遣システムが確立していないことに大きく起因するものと考えられる。したがって、医師の確保が困難な病院における勤務を含みつつも専門診療能力の獲得につながるなど魅力のあるキャリアパスを示して地方勤務の動機付けを行うことが重要である。
 医師の養成には時間がかかること、また、多額の国費が投入されていることを踏まえれば、医師数が大きく過剰になるような養成を行うことは適当ではない。一方で、医師の繁忙感や不足感に対応しつつ、増大する国民の期待に応えるためには、医師の定数のあり方に加え、医療機関の適正な配置のあり方を含む地域における医療提供体制のあり方を見直すと共に、病院内の業務のあり方の見直し等による生産性の向上を図ることが必須となる。まず地域に必要な医療の提供のあり方を医療計画等で明確にすると共に、医師の業務の効率化や質の向上を図る観点から、看護師等の医師以外のスタッフの充実やスタッフ間の役割分担の見直しを図る必要がある。業務効率が向上すれば、患者に対し十分な医療の提供ができるだけでなく、医師の勤務環境の改善にもつながることが期待できる。
 また、医療資源と医療従事者が限られていることを考えれば、医療の受け手である患者・国民に正しい情報を提供し、課題に対する意識を共有することが重要であり、今後、行政、保険者、医療提供者、マスコミ等各般の主体による総合的な取組みが必要である。
(1) 地域に必要な医師の確保の調整
 
 現在起こっている地域・診療科における医師不足は、従来からの地方医大における地元出身者の割合が限られていることに加えて前述のとおり近年の医師の流動化等により、大学により大きな差はあるが大学が従来のように、全ての医師紹介の要請に応じることが困難になったことによって生じていると考えられる。
 そのため、まず、大学を含む地域内の医療機関や関係者が参加して、地域の医療ニーズをきちんと把握した上で、医師の配置について認識の共有と、地域に必要な医師の確保の調整を行うシステムの構築が急務である。これは、医療法の改正に盛り込まれた地域医療対策協議会がその役割を果たすこととされており、都道府県が運営の中核を担うことが求められる。
 これらの取組みに当たっては、その調整は簡単ではないが、医師にとってキャリアパスや処遇といった点で魅力があり、併せて持続可能な医療提供体制とするため、国を含む行政、医師会、医療機関、学会、大学等が総力を挙げて実施する必要がある。
 なお、種々の施策を講じているにもかかわらず、その地域だけでは必要な人材を確保できない場合については必要に応じて国も医師の確保について都道府県を支援することが必要である。
 地方公共団体が設立・運営する病院間においては、連携体制を構築し、医師本人、病院開設者である首長、大学、地域住民の理解を得て、同一組織内のみならず地域内での医師の効果的な配置・相互の異動を実施することが期待される。
 また、傘下に多数の病院を有する国立病院機構、日本赤十字社、済生会等の団体にあっては、組織内の医師の効果的な配置・異動の取組みが行われており、一層の成果が期待される。
(2) 手術等の医療を担う地域の中核的な医療を担う病院の位置付け
 
 病院の役割としては、手術等や救急医療のための入院医療を適切に実施することが最も重要である。医師をはじめとした、病床当たりのスタッフ数は、諸外国に比較して限られていることが指摘されており、人員の配置や効率的・有効的な病院内のシステム、資金の配分等について、病院間あるいは病診の役割分担の在り方も含め、地域において中核的な医療機能を果たす医療機関の位置付けが必要である。この際、病院における外来診療の在り方をあわせて検討する必要がある。
(3) 持続的な勤務が可能となる環境の構築と生産性の向上
 
 医師不足の声が上がっている診療科や地域では、医師の人数が少ないために、長時間拘束されることなど、元来、勤務の継続が困難であることが指摘されている。これは個々の病院の問題としてだけではなく、地域の課題として効果的・効率的な医療サービスの提供体制を構築する必要があり、必要とされる医師の確保・養成と並行して地域で医療機能の集約化・重点化を行い、医師への負担を軽減することや、各病院においてもスタッフ間の連携と協働による実効性のあるチーム医療体制の整備などで、持続的な勤務が可能となる環境を構築する必要がある。併せて、いつでも相談に応じるという安心感で患者とかかりつけ医が結ばれ、地域におけるかかりつけ医の機能を強化することにより、病院への過度の患者集中を軽減することも求められる。
 また、今後女性医師の比率が上昇していくことも踏まえ、まず、女性医師が医療に欠かすことのできない貴重な担い手であることを、医療機関を始めとする関係者が十分に認識し、多様な勤務形態の確保や、院内保育所の優先的な利用といった、出産や育児など多様なライフステージに応じて切れ目なく働くことが可能となる環境を整備することにより、特に病院における継続的な勤務を促す必要がある。これらの取組みは、医療以外の分野においてすでに多くのノウハウの蓄積があり、これらを周知することや、医療分野における実践成果の情報交換を行うなどにより、各医療機関の取組みを促進することが必要である。
 今後の医師の供給見通しとしては40歳代以下の医師数はほぼ一定となり、50歳以上の医師の増加が続く。そのため、今後は、中堅層のキャリアの形成を視点に入れ、短時間勤務や交代勤務等による勤務体系の多様化などにより、さまざまな年代の医師が病院において長期に勤務できるシステムを構築する必要がある。
 持続的な勤務が可能となる環境の構築は、産婦人科など不足が指摘される診療科で、退職者を抑制する効果が期待できるだけでなく、新たに就業する医師数を増加させるためにも必要である。
 また、医師が行っている事務作業など業務の内容を確認し、事務職など他の職種で対応できる業務を見直すことにより、医師が本来の業務に専念できるような体制をつくる必要がある。これにより、患者に対し十分な医療が提供できると共に、医師の過度の負担が軽減されることが期待される。
 なお、医療事故等の患者と医療機関との間の紛争については、医療提供体制の充実により、その未然の防止に努めることが必須であり、その上で、医療機関が組織的に対応することにより、医師の勤務継続の動機を下げるような過度の負担を負わせないことが求められる。さらに、前述のとおり中立的な機関により医療事故の原因究明を行う制度などが必要であるとの指摘があった。
(4) 地域における医師の確保に関する取組み
 
 地域間偏在の調整が困難な中、大学医学部の入試における地域枠の設定や、地方公共団体が取り組んでいる9年間程度の勤務地を指定した奨学金の設定、さらには地域枠と奨学金の連動は、地域における医師の確保に一定の効果が期待されるので今後一層推進・拡大すべきである。
 「臨床研修に関する調査(中間報告)」では、研修修了後の進路選択に当たって、十分な情報に基づいて判断していないことが推測される結果が示されている。医師の確保を希望する各主体は、研修内容や処遇について十分な情報提供を行うことが求められている。
(5) 臨床研修制度の活用等
 
 臨床研修制度により全ての医師がプライマリ・ケアのための基本的な診療能力を身につけることは、中長期的には専門細分化された非効率的な医療提供の解消に資するものであり、今後とも推進することが必要である。なお、臨床研修制度については、施行5年以内の見直しが規定されているが、それを待たずに地域別、診療科別の医師偏在緩和に資することができるよう、補助制度の見直しを含めて、適切な措置を講じることが必要である。また、臨床研修修了後のいわゆる後期研修において、特定の大学・病院に医師が集中しないような措置を検討することが必要である。
(6) 国民の期待する専門診療と診療科・領域別の医師養成の在り方の検討
 
 全体の医師数が不足か足りているかという議論は、現実と遊離したものになりやすい。一方、診療科別の必要医師数については、その算定方法等個々の困難はあるが、今後、病院機能の再編成、病診の役割分担、専門医の位置づけ・役割等を踏まえ、また効果的な誘導策等も考慮しつつ、その養成の在り方も併せて、検討することが望まれる。
 また、診療科・領域別の必要医師数は、各診療科・領域に係る医療の提供体制のあり方により大きく異なる。したがって、診療科・領域別の必要医師数を検討する前提として、これらの医療の地域における提供体制を検討する必要がある。その検討に資するため、各診療科や専門医療について、議論の出発点として共通のイメージがあることが有効である。国民の医療に対する期待は、一般的な医療については身近なところで患者の抱える問題の解決につながる丁寧な対応を求めている。また、専門的な医療については十分なレベルで提供されることを求めている。これに応えるよう、各診療科や専門医療の関係学会は行政とともに、医療機関相互の連携を含む、有効で効率的な医療提供体制のあり方についてイメージを作成することが期待される。その際、地域における医療の提供が持続でき、各診療科や専門医療に従事する医師の研修から退職までを一貫して視野に入れたキャリアプランの作成と、その促進方策の検討も併せて行うことが求められる。これにより、医師は、将来の見通しが分からないことによる不安が解消され、利点と欠点を十分に理解して各診療科・専門分野への就職を判断し、定着することが期待される。
 上記の医療機関相互の連携が機能し、患者が安心して医療機関を受診すると同時に、医療提供側にとってもその果たすべき機能が最大に発揮できるよう、患者にとって適切な受診につながる情報が十分に提供されることも必要である。
(7) 医学部定員の暫定的な調整
 
 前述のように、医学部定員の増加は、短期的には効果がみられず、中長期的には医師過剰をきたす。そのため、医学部定員の調整は、基本的に中長期的な観点に立って検討すべきものである。一方、医師数の地域間格差は、必ずしも縮小しておらず、(へき地を含む)地域における医療体制の確保は喫緊の課題であることから、すでに地域において医師の地域定着策について種々の施策を講じているにも係わらず人口に比して医学部定員が少ないために未だ医師が不足している県の大学医学部に対して、さらに実効性のある地域定着策の実施を前提として定員の暫定的な調整を検討する必要がある。

5   おわりに
 
 国民の医師充足感は、全体の医師数のみではなく、国民の医療に対する質に関する期待をはじめ、時代、環境の変化を含めた多くの要因によって影響を受けるものである。
 今回の推計では、長期的にみれば、供給の伸びは需要の伸びを上回り、マクロ的には必要な医師数は供給されるという結果になった。しかしながら、これは短期的・中期的にあるいは、地域や診療科といったミクロの領域での需要が自然に満たされることを意味するものではない。
 4で記述した基本的考え方を実現するため、国、都道府県、医師会、病院、学会、大学等は、質・量とも十分な医療を確保するために必要なそれぞれの役割について責任を果たすことにより、国民・患者とこれに実際に接する医師との良好な関係を築くことが不可欠である。
 特に、国に対しては、今回の医師の需給に関する検討会で示した方針、施策を適切な検討の場で速やかに具体化し、今後とも医師確保対策を不断に実施することを求める。


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