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a) |
近年、医師不足が特に深刻な地域に設置されている大学を中心に、医学部の既存の入学定員内に地元出身者のための入学枠(地域枠)を設けて、将来、地域医療に従事する意欲のある者の養成に努めようとする取組が行われている。 |
b) |
平成18年度の入学者選抜においては、地域枠を用いた入試を実施する大学医学部は全部で15大学であり、このうち平成18年度から新たに実施した大学は9大学である。いずれも推薦入学において実施されており、その割合は入学定員の1割程度である。 |
c) |
一般に、卒業後に地元の医療機関等に勤務する者の割合については、地元出身者が地元以外の出身者を上回っていると考えられることから、こうした地域枠の設定は、地域の医師確保に資する有効な方策の一つであると考えられる。 |
d) |
しかしながら、大学が、6年間の医学教育を通じて、特定の学生について地域医療に貢献したいという考えを深めていくことは容易なことではない。 |
e) |
地域枠を設ける大学においては、例えば、地域枠の対象となる高等学校等に対して地域枠の趣旨を十分に説明するとともに、高校生に対して、医師としてへき地等における医療の確保や向上と地域住民の福祉の増進に貢献することの魅力や、そのような医師に求められる人格や適性などについて説明する機会を設けるなど、高等学校教育との連携を図ることが必要である。 |
f) |
特に、理科や数学に重点を置いたカリキュラムの開発や大学等との連携方策についての研究を実施しているスーパーサイエンスハイスクールと大学とが連携を図ることにより、高校生の生命科学や医学に対する興味・関心を、より一層高めることも期待できる。 |
g) |
また、地域枠の設定に当たっては、AO入試の一環として行うことや、推薦入試で行う場合であっても、受験生に地域の社会福祉施設等におけるボランティア活動を通じて地域医療について考える経験を求めたり、医師不足の深刻な地域の関係者の意見を参考にしたりするなど、より地域医療に対する意欲の高い学生を選抜する工夫をこらすことや、大学として適切な教育体制を確保することを前提に、地域枠を拡大することも考えられる。 |
h) |
さらに、カリキュラムを編成する際には、地域医療への貢献を志す学生が、6年間を通じて地域医療についての理解を深めるよう工夫することが必要である。 |
i) |
一方、都道府県の中には、地元の医師確保のために奨学金制度を実施しているものもある。 |
j) |
これは、都道府県が、学生に対して医学部・医科大学在学中に奨学金を貸与し、卒業後、自県内の公的医療機関等において一定期間医師として勤務することを条件に返還を免除するものである。こうした奨学金制度の中には、小児科、産婦人科など特に医師の確保が困難な診療科での勤務に特定したり、へき地での勤務に特定したりして実施している例も見られる。 |
k) |
学生の地域医療に対する志向を促すためには、入学者選抜における地域枠の実施とこうした奨学金制度との関連を持たせることも有効である。 |
l) |
地域枠を設ける大学においては、その実施に当たって、都道府県との連携を図ることが重要である。 |
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a) |
モデル・コア・カリキュラムは、すべての医学生が、卒業までに学んでおくべき態度、技能、知識に関する教育内容を精選し、現代的課題を加え、基礎医学と臨床医学の有機的連携を備えた教育内容のガイドラインである。 |
b) |
各大学では、平成14年度よりこれに基づいたカリキュラム改革を進めている。 |
c) |
平成17年5月に全国医学部長病院長会議が公表した「わが国の大学医学部(医科大学)白書2005」(以下「医学部白書」という。)によれば、平成16年11月現在、医系全80大学(防衛医科大学校を含む。以下同じ。)中66大学においてカリキュラム改革が実施されている。 |
d) |
モデル・コア・カリキュラムにおいては、医学生の到達目標として、「地域医療の機能と体制(地域医療の機能と体制(地域保健医療計画、救急医療、災害医療、へき地医療、在宅ターミナル)を説明できる。)、「地域保健と医師の役割を説明できる。」、「地域保健(母子保健、老人保健、精神疾患、学校保健)を概説できる。」ことなどが掲げられている。 |
e) |
地域医療に関する教育は、授業科目数や開講年次に差があるものの、すべての大学医学部・医科大学において実施されており、今後一層の充実が求められている。 |
f) |
今後の各大学の地域医療に関する教育の改善を図るため、モデル・コア・カリキュラムにおける地域医療に関する記述の充実を提言する。(P) |
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※ 改訂のポイントを紹介する。 |
g) |
学生の地域医療に関する興味・関心を高めるためには、学部教育の早期から地域医療の現場に赴いて、地域住民の生活意識や医療ニーズについてアンケート調査を行うなど、学生に地域の実情を肌で感じる経験をさせることも有効である。医学部白書によれば、平成16年11月現在、51大学において臨床実習開始前に地域病院や医療施設での早期体験学習が実施されている。 |
h) |
さらに、53大学において臨床実習を学外の病院で行っているほか、20大学において地域保健に関する実習を保健所等で行っている。 |
i) |
このほか、地域医療従事者や地域保健従事者による特別講義、コメディカル等の医療従事者体験実習や離島、へき地における実習を実施したり、社会医学実習において地域特有の課題について保健所の職員とともに調査研究を実施したりするなど、学生の地域医療や地域保健への関心を高めるための様々な取組が見られる。 |
j) |
各大学におけるこのような取組の広がりと充実が求められる。 |
k) |
また、学生にへき地医療についての理解を深めさせたり、プライマリ・ケアの能力を向上させたりするために、各大学は、各都道府県に置かれているへき地医療支援機構の担当医師の参画を得たり、地域医療を専門とする教育組織を設けたりするなど、その教育体制の整備について検討を行うことが必要である。 |
l) |
このような各大学における地域医療を担う医師養成の取組を、国や地方公共団体がそれぞれの役割分担に応じ、必要な予算措置や寄附講座の設置等を通じて支援することが必要である。 |
m) |
地域医療に関する教育に対する国の財政支援としては、「地域医療等社会的ニーズに対応した医療人教育支援プログラム」(平成17年度予算額7億5千万円)がある。これは、平成17年度から予算措置された事業であり、大学病院を置く国公私立大学が、全人的医療や地域医療を担う医療人を養成するために行う特色ある優れた教育の取組みに対して重点的な財政支援を行うものである。地域医療を担う医師養成の重要性にかんがみ、各大学の取組の充実に加えて、今後、このような国の財政支援が拡充されることが求められる。 |
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大学病院における新医師臨床研修の充実 |
a) |
平成16年4月より医師の臨床研修が必修化され、診療に従事する医師は、医師免許取得後2年間の臨床研修を受けなければならないこととされた。 |
b) |
従来の医師の臨床研修については、出身大学やその関連病院を中心に専門の診療科に偏った研修が行われていたため、幅広い診療能力が身に付きにくく、また、地域医療との接点が少ないと評されてきた。 |
c) |
こうした背景を踏まえ、新医師臨床研修制度は、医師が、医師としての人格をかん養し、将来専門とする分野にかかわらず、医学及び医療の果たすべき社会的役割を認識しつつ、基本的な能力を身につけることを基本的な考え方としてスタートした。 |
d) |
研修医は2年間の研修プログラムの中で、内科、外科、救急、小児科、産婦人科、精神科、地域保健・医療の各医療分野において、日常的に頻繁に関わる負傷又は疾病を経験するとともに、医師として必要な基本姿勢・態度を身につけることとなる。 |
e) |
また、都市部の大病院だけではなく、地域の中小病院、診療所、保健所、社会福祉施設等においても研修が行われることとなり、研修医は、医療のみならず、地域の保健、福祉の分野についても経験することとなった。 |
f) |
各大学病院は、それぞれの大学の特色を生かしつつ、専門分野に偏ることのない基本的な診療能力の育成を目的とした研修プログラムの策定や、共同して臨床研修を実施することとなる地域の医療機関との幅広い連携、研修医の指導を行う指導医の養成、研修医が研修に専念できるような適切な処遇の確保など、様々な点で尽力している。 |
g) |
しかしながら、研修医のマッチングの結果、ほとんどの大学病院において研修医の数は必修化以前と比べて減少した。大学病院の臨床研修医の在籍状況は、必修化前の平成15年度の72.6パーセントから、必修化後の平成16年度は55.9パーセント、平成17年度は49.2パーセントと大幅に低下しつつある。特に地方大学における減少が著しくなっている。さらにスーパーローテート方式になり、研修医の配置や指導体制についても、見直しが必要となった。 |
h) |
このため、大学病院においては、自らの教育、研究、診療の体制を確保する必要が生じ、従来のように地域の医療機関等からの医師紹介の要請に応じることが難しくなっている。 |
i) |
このような状況の中で、独自に必要な医師を確保することが難しく、かつ、大学病院のほかに医師の紹介を要請するあてのない地域の医療機関は、診療を継続することが困難になっており、このことが、「新医師臨床研修制度の実施に伴い、大学病院が医師を引き揚げている。」との指摘につながっている。各大学においては、地域全体として大学病院と地域の医療機関、保健所等が、連携した卒後臨床研修体制を整備し、医学生への積極的な情報提供を行い、地域での卒後臨床研修者数を増やすとともに、地域医療への定着を図ることが必要となっている。 |
j) |
さらに、新医師臨床研修制度においては、「地域保健・医療」が必修科目となっており、少なくとも1ヶ月以上の研修が必要とされるが、臨床研修の指導医や研修医が地域保健・医療の重要性を十分に理解していない場合があるとの指摘がある。 |
k) |
各大学においては、ワークショップや指導医講習会の開催を通じて、指導医に対し、地域保健・医療の重要性について理解を深めさせることが必要である。 |
l) |
また、地域保健・医療の研修の効果を高めるためには、大学側と受け入れ側の緊密な連携が不可欠であるとともに、研修前後の研修医への十分な指導が必要である。
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新医師臨床研修後の研修における総合診療医の育成 |
a) |
臨床医は一定の専門領域を持って患者に医療を提供しており、臨床研修の終了後、専門領域の基礎的な研修を行う必要がある。 |
b) |
旧来の卒後臨床研修修了後の専門領域における研修については、大学病院を中心とした研修病院にすべてが委ねられ、研修を希望する医師は、多くの場合、各病院の診療科に配属されて、独自の指導体制の下で、標準化された研修プログラムもなく、診療を行っている場合が少なからず見られた。 |
c) |
このため、卒後2年間だけでなく、引き続き実力ある専門医の養成と継続的かつ専門的な臨床教育・研修提供体制を整備する必要があり、広範囲な分野において高度専門医療を提供する大学病院が地域の医療機関等と連携を図りながら、その中核を担っていくことが求められる。 |
d) |
地域医療を担う医師を養成する観点からは、卒後3年目以降の医師には、専門的診療能力、チーム医療を行うためのリーダーシップに加えて、地域医療を担うための全人的な診療能力を高めさせることが必要である。 |
e) |
このため、地域社会で特にニーズの高い総合的なケアを修め、プライマリ・ケアを極める医師も、高度な専門性を持った臨床医であるとの認識に立って、後期研修における総合診療医の養成システムを構築していくことが重要である。 |
f) |
大学病院においては、各診療科のみならず、地域の医療機関との連携を図りながら、プライマリ・ケアのための研修を行うことのできる体制を整備することについて検討する必要がある。 |
g) |
その際、関係学会が総合診療医の認定医制度を設けるなど、総合診療医の専門性が社会的にも認知されるような仕組みを設けることが望まれる。
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大学や大学病院における生涯教育体制の整備 |
a) |
医師の生涯にわたる学習については、各学会や医師会により様々な場が提供されている。医学・医療に関する最も豊富な教育資源を有する大学や大学病院は、地域の実情に応じて、医師等の医療人のみならず、社会人に対する生涯学習の機会を提供することが求められており、平成17年3月現在、68の大学病院で生涯教育に関する取り組みを行っている。さらに、57の大学病院で地域の医師、看護師等を研修生として受け入れており、60の大学病院で医療従事者を対象とした講演会等を実施している。 |
b) |
地域医療を担う医師の養成の観点からは、例えば、大学や大学病院において、退職後の医師を含めて地域医療にかかわることを希望する様々な年代の医師が、プライマリ・ケアやへき地医療について学ぶ機会を提供することが期待される。 |
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大学病院による地域医療支援 |
a) |
へき地を含む地域における医療提供体制の確保は、医療政策における重要課題であるが、従来、地域の医療機関等からの要請に基づいて必要な医師を派遣するようなシステムは構築されていなかった。 |
b) |
このような状況の中で、大学病院は、地域の中核的な医療機関として、地域の医療機関等からの要請を受けて医師を紹介することにより、地域における医師確保に対して一定の役割を果たしてきた。 |
c) |
しかしながら、これは大学病院が組織的に行うものではなく、各診療科の裁量に委ねられていたために、透明性に欠けるものであったことは否めない。 |
d) |
このため、文部科学省では、大学における医師紹介システムの明確化と決定プロセスにおける透明性の確保を推進しており、平成17年3月現在、35大学で、医師紹介窓口を一本化している。各大学においては、診療科単位で行っている医師紹介の窓口を一本化するなど、透明性を確保しながら医師紹介を行うシステムを構築することが望ましい。 |
e) |
さらに、地域医療の充実・発展に貢献する観点から、大学が地域の医療行政を担う都道府県と緊密な連携を図ることが求められている。例えば、大学として地域における医療確保対策協議会へ積極的に参画し、地域の医療機関との病病・病診連携を実施して、地域における医療機能分担を推進したり、地域における医療資源の集約化に資する医師紹介を行なったりするなど、都道府県の医療施策への協力が期待される。 |
f) |
また、大学病院の救命救急センターや救急部は、地域の救急体制の中核として重要な役割を果たしており、大学病院における救命救急体制の整備・充実と救急医の養成を図ることも必要である。 |
g) |
このような大学病院の地域医療の確保のための取組を国や地方公共団体は支援することが必要である。
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遠隔医療システムの活用 |
a) |
平成17年3月現在、大学病院においては、28病院において遠隔医療を実施しており、例えば、旭川医科大学では、眼科領域での遠隔医療システムによって、患者が遠方の医療機関を受診しなくても、身近な地域で、対面で専門医の診察を受けることとほぼ同等の成果が得られている。 |
b) |
このように、大学病院が、情報通信技術を活用して地域の医療機関とのネットワークを形成するなどにより、医療面での協力を行うことが期待されるところであり、国や地方公共団体がこうした成功事例等を取り上げ、必要な支援を行うことについて検討が必要である。 |