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資料3

国際的な大学の質保証作業部会
国際システムWG報告

「ディプロマ(ディグリー)・ミル」問題について

1.米国における背景
米国において少なくとも19世紀後半からある非正統的な傾向を示す教育機関を称して呼んでいるもので、厳密な学問的な定義はない。
また、米国連邦教育省のホームページにある米国教育情報ネットワークにおいても、ディプロマ・ミルという用語に何らかの法的意味があるわけではないとされている(http://www.ed.gov/NLE/UNNEI/us/accred-fraud.html)。
ディプロマ・ミルは米国以外にも存在するが、特に米国は高度資格社会であり、雇用者側も教育資格を極めて重視しており、就職、転職にあたり、より高次の学位や証明書等を有することが有効である。そのため、安易に学位等を取得できる手段として、ディプロマ・ミル(ディグリー・ミルとも呼ばれる)の偽学位販売業のサービスが活用される温床がある。
また、米国は、教育は各州の権限に属し、各州の認可等の制度があるものの、州毎にばらつきがあり、簡易な手続きや基準により大学設置が可能な州もあることから、そうしたばらつきを補い、米国の大学の質保証に重要な役割を果たしているのが民間団体によるアクレディテーション(適格認定)である。こうした複雑でわかりにくい教育制度について正確な知識を持つことを一般の人々に期待することが容易でないことも、ディプロマ・ミル問題の背景になっている。
昨今のオンライン教育の隆盛を背景に、オンライン・ディプロマ・ミルが登場し、またアクレディテーションを受けているか否かが正統な教育機関としての証明となりうるために、品質保証の裏付けのない認定を行うアクレディテーション・ミルも米国等で見受けられるような現状にあるため、米CHEA(Commission for Higher Education Accreditation)では以下のような指標を公表(2003年5月)している。

   ・ ディプロマ・ミル:贋物の証明書や学位を与える、信頼に値しない教育ないしそれに類する事業の提供者
 
学位が金で買える
その証拠がないのにアクレディテーションを受けているような言及がある
怪しげなアクレディテーション団体から認定を受けているような言及がある
連邦や州の設置許可を受けていない
学生の出席要件が(あれば)小さい/学生の単位取得要件となる課業量が少ない
学位取得までの期間が短すぎる
経験や履歴書だけで学位が取れる/逆に正統な教育を行うにしては経費が安い
キャンパスないし事務所の住所が示されていない=私書箱しかない
教員の名前や肩書きが公表されていない
有名大学と似た名前がついている
その証拠がないのに出版物があるような言及がある

アクレディテーション・ミル:贋物のアクレディテーションや品質保証ないしそれに類する事業の提供者
 
アクレディテーションが金で買える
大学が知らない間に「アクレディテーションした機関」のリストに載せられている
通常のアクレディテーション機関に比して経費が高い
その事実がないのに(連邦教育省やCHEAなどから)認証されているような言及がある
品質の基準が(公表されていれば)少ない
アクレディテーション取得までの期間が短すぎる
レビューが書類提出だけで済み、訪問調査や主要人物への聞き取り調査がない
レビューを行わないのに「永久アクレディテーション」が与えられる
有名アクレディテーション機関と似た名前がついている
その証拠がないのに出版物があるような言及がある


2. 米国における現状
 
・    米国連邦教育省としては、CHEAに登録された評価機関による適格認定(アクレディット)を受けていない高等教育機関は、連邦奨学金の対象校としていない。
上記のような状況から、米国においては、CHEAに登録された評価機関(以下「正規の評価機関」とする)によってアクレディットを受けていない高等教育機関が出す学位等については、他の高等教育機関への進学や会社等への就職等につき、通用性がない現状になっている。
それに対し、ディプロマ・ミル等は、
   1    正規の評価機関のアクレディットを受けている有名大学の卒業証書や資格証明書を偽造・模造している場合や、
   これとは別に大学と称して、
2    「非伝統的」で革新的な教育を提供しているため、正規の評価機関の評価を「意識的に」受けていないと喧伝している場合、
3    正規の評価機関のアクレディットを受けていないことを伏せて、国内の学生等に対して勧誘活動を実施している場合、
4    米国の高等教育制度に熟知していない、外国人学生等を対象とし、現地に設置したディプロマ・ミルの代理機関を通じ、正規の評価機関のアクレディットを受けていないことを伏せて、勧誘活動を実施している場合、
5    米国の高等教育制度に熟知していない諸外国において、ディプロマ・ミルにより発効された「学位」を有している著名人等の協力を得て宣伝活動を実施している場合、
  などがあるとのこと。

     米国の高等教育への信頼の失墜にも繋がる


3. 米国等における対応状況
 
・    米国では教育は、各州の権限に属し、連邦教育省としてはアクレディットされていない高等教育機関の追跡や公表は難しいとされる
CHEAではアクレディテーション団体の登録を行っている
CHEAでは、前述のように、ディプロマ・ミル、アクレディテーション・ミル等を判断する際の指標を公表。
連邦公正取引委員会の規則は、教育長官認証アクレディテーション機関によってアクレディテーションされていない限り、「アクレディテーションされている(accredited)」と表示すべきではないとしている(ただし、現実にはそうした表示を多数見出すことができる。)。
ディプロマ・ミルに関する情報提供(例:オレゴン州では、「州内で無効である」機関のリストを公表)
ディプロマ・ミルに対する連邦捜査局(FBI)のDiploma Mill Task Forceの設置
ディプロマ・ミルやアクレディットされていない高等教育機関の存在に対する国民からの情報収集(例:オーストラリア教育科学雇用省)


4. 国際機関における議論等
 
・    OECD/CERI(教育研究革新センター)
「国境を越えて展開される高等教育における消費者保護の拡大について」報告書(2003)
中等後教育の国際展開に伴い、高等教育の質保証に関し、各国が直面するであろう基本的論点として、諸外国の学位・資格等に関する情報不足に起因する学生等人物交流促進への支障とともに、“ディプロマ・ミル”、“アクレディテーション・ミル”問題の発生が言及されている。


5. 日本の消費者(学生、企業等)が直面する問題点
1 ディプロマ・ミル等が浸透する背景
 
・    90年前後の米国大学日本分校ブーム、海外の大学への留学ブーム
 
  → 各国の多様な大学の存在が、日本国民に浸透

・    90年代後半のインターネットの普及とEラーニングの登場
    → 低コストで「大学」の宣伝等がしやすくなる、また、学生等にとっても、海外に留学するなど現地に赴かなくても海外大学の学位が取得しやすくなるなど、より外国の大学の学位が身近になる。

・    日本国内の資格ブーム、大学院進学者増加
    → 学位等への関心喚起
高次の資格としての専門職学位の登場(MBA、MOT等)
日本で職業資格として未成熟だが、市場ニーズがあるものの増加(心理カウンセラーや、セラピスト等)
大学等教育機関への就職、昇進等の際にPhDなど学位が必要

2 ディプロマ・ミル等が起こりうる具体的局面
・    外国の「大学」(ディプロマ・ミル)が、その国において正規の大学と認定されていないと知らずに連携した日本の大学等が、単位互換や、共催イベント、大学関連施設の貸与等を行う(=日本の大学自体の評価・信用も低下)
上記のような連携を通じ、日本の学生及び日本社会全体において、ディプロマ・ミル等と知らないままに、その学校名が浸透
米国のディプロマ・ミルの他国における宣伝活動同様、著名人や大学関係者の名前を、(本人には無断で)役員や教員リストに掲載することを通じ、日本の学生及び日本社会全体において、その学校名が浸透
その他、有名大学等の名称を模倣される、有名大学等の学位記を偽造・模倣される   等

3 ディプロマ・ミル等による「学位」を取得する可能性があるのは誰か
・    ディプロマ・ミル等の経営者、スタッフ
就職、昇進等に利用、名誉欲を満たすために利用する人
ディプロマ・ミル等との認識がなく、正規の大学等の学位と信じた人

4 ディプロマ・ミル等の被害者は誰か
・    第1次被害者:正規の大学等の学位と信じた人
第2次被害者:ディプロマ・ミル等による「学位」取得者を信じた大学等教育機関、雇用主、顧客等

 
裾野の広い問題で、学位全体への信用性の問題、
ひいては(日本の)高等教育全体の品質維持の問題にも関わる。


 議論のポイント

1 ディプロマ・ミル等問題をどのような観点から対処する必要があるか。
   (→    日本の高等教育全体の品質維持の観点、
  消費者保護の観点 等)

2 ディプロマ・ミル等問題に対し、どのような対処が必要か。
   (→    情報ネットワークの整備
         (我が国の高等教育制度に関する基本的情報とともに、正規の大学等(通信制含む)の情報が確認でき、また諸外国の大学等についても同様の情報等が確認できる体制整備)
  ディプロマ・ミルに対する注意の喚起
         (問題意識の浸透のためには、適切な日本訳語の普及も必要)
  日本の大学等において、大学のブランド確保のため、自大学等の出身学生の学籍管理を厳格に行い、一般からの卒業者照会にも対応できる体制の確立等
  日本の高等教育界において、ディプロマ・ミル及びアクレディテーション・ミルを生み出さないためにも、日本の大学等(通信制含む)に対する評価機関の評価基準の早期定着の必要性   等)

3 高等教育の品質維持および消費者保護の観点から、具体的にどのような情報項目の整備が必要か?



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