薬学教育の改善・充実について(最終報告)

平成16年2月
薬学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議

検討事項

 平成14年1月に薬剤師養成問題懇談会(文部科学省、厚生労働省、日本薬剤師会、日本病院薬剤師会、私立薬科大学協会、国公立大学薬学部長(科長・学長)会議により構成)で取りまとめた課題について検討するため、平成14年10月から「薬学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議」を開催。
<主な検討事項>
薬学教育におけるカリキュラム等について
実務実習について
薬学に関する教育制度について

最終報告のポイント

◆今後の薬学教育への期待◆
医療の質の改善が求められる中で、特に医療人としての質の高い薬剤師養成が必要
1 従来の主として化学に立脚した物質を対象とする学問はもとより、「ヒト」を対象とする薬物治療に直接関連する学問の発展
2 薬学の基礎的な能力と臨床に関わる知識を身に付けることが重要
3 人間理解のための幅広い教養、患者とのコミュ二ケーション能力、問題発見・解決型の能力、倫理観、医療事故や薬害を防ぐ危機管理能力等を育成することが重要
↓
 医療技術の高度化、医薬分業の進展などを背景に、薬剤師養成のための薬学教育には、トータルの期間として6年間必要
 薬剤師の養成のためには6年間の学部教育を基本とするが、研究者などの多様な人材の養成といった薬学教育の果たす役割にも配慮しつつ、現行通り4年間の学部教育という形も必要。
 6年制学部を基礎とする大学院については、医学・歯学・獣医学と同様、4年間の博士課程とすることが適当。

 各大学においては、日本薬学会モデル・コアカリキュラムを参考としながら、基礎薬学と医療薬学とのバランスを考慮したカリキュラム編成を行うことが重要。

 実務実習の受入体制の拡充、指導体制の構築、施設の充実が必要。
  なお、実務実習の長期化を含めた充実を図るため、薬剤師養成のための薬学教育として必須の内容を「実務実習モデル・コアカリキュラム」として策定。



薬学教育の改善・充実について

(最終報告)







平成16年2月12日

薬学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議



目 次

1. 薬学教育の改善・充実に関する基本的な視点

2. 薬学教育カリキュラムの在り方等

3. 薬学教育制度の在り方

4. 大学における継続教育・生涯学習

参考  
  薬学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議について




薬学教育の改善・充実について(最終報告)

 
  平成16年2月12日
薬学教育の改善・充実に関する
調査研究協力者会議
 
 

 薬学教育については、平成8年3月に文部科学省の「薬学教育の改善に関する調査研究協力者会議」から「薬学教育の改善について(最終まとめ)」が公表された。そこでは、薬学教育の改善について、学部段階における薬学教育の抜本的改善と大学院修士課程の拡充を図ることとし、薬学教育年限の在り方については、大学院修士課程の整備の進展や大学院修士課程修了者に対する医療現場の需要動向等、現実的に解決するべき問題点の推移等を踏まえつつ、今後とも継続して検討すべき問題、とされていた。その後、平成8年より、日本薬剤師会、日本病院薬剤師会、私立薬科大学協会、国公立大学薬学部長(科長・学長)会議、文部科学省、厚生労働省の関係者からなる「薬剤師養成問題懇談会」において検討が進められ、平成14年1月に、薬剤師の質の向上のために各参加者によってそれぞれ解決すべき課題が取りまとめられた。
  文部科学省においては、「薬剤師養成問題懇談会」で取りまとめられた課題について検討するため、平成14年9月に「薬学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議」を発足させ、大学における薬学教育の改善・充実を図るための具体的諸方策について、これまで17回会議を開催し、調査研究を行ってきた。
  平成15年8月にそれまでの12回の会議における審議の状況を「中間まとめ」として取りまとめて公表し、関係者からの意見を幅広く聞くとともに、当該意見も踏まえ、中間まとめにおいて更に検討すべきとされた事項につき審議を重ね、この度、最終報告を取りまとめた。


1. 薬学教育の改善・充実に関する基本的な視点
(1) 薬学教育への期待
  我が国の薬学教育は、病院や薬局で働く薬剤師の養成に加えて、医薬品の創製、開発、製造等に従事する研究者・技術者、公衆衛生や衛生行政従事者、薬学教育に携わる教員等、多様な人材を養成してきた。
 近年、医療の質の一層の改善が求められている中、薬学教育に対する要請・期待も増加し、特に医療人としての質の高い薬剤師養成に対する強い期待が寄せられている。このような状況下、薬学教育を支える薬学という学問自体も、従来の主として化学に立脚した物質を対象とする学問はもとより、「ヒト」を対象とする薬物治療に直接関連する学問を発展させることが求められている。今後、薬学教育の改善・充実を図っていく上では、新規医薬品の創製とともに、医薬品の適正使用を一層進めるため、医薬品を疾病治療・健康増進に安全有効活用できる人材の養成に、これまで以上に力を注ぐことを考える必要がある。
  薬学は創薬科学、衛生薬学、医療薬学及びこれらの基礎となる基礎薬学とからなる。薬学を学ぶ者は、薬学の基礎的な知識と臨床に関わる能力を身につけることが重要であり、そのためにも基礎薬学、創薬科学、衛生薬学と医療薬学の統合を図り、これらを総合的に取り扱うカリキュラムを各大学が構築していくことが必要である。また、特に薬剤師を目指す者には、実学としての医療薬学をこれまで以上に学ぶことが求められている。
  さらに、人間理解のために必要な幅広い教養、コミュニケーションができる豊かな人間性、研究する心と態度、高い創造性、問題発見・解決の能力、論理的思考力、倫理観、生涯にわたり学び続ける意思と能力、国際的に活躍できる能力、根拠に基づく医療に貢献できる能力、医療事故や薬害を防ぐ危機管理能力なども身につけることのできる教育を行うことが必要である。

(2) 医療薬学教育への期待と今後の在り方
  医薬分業が急速に進展し、同時に医療が高度化するなか、薬剤師には、医薬品の適正使用を推進するため、服薬指導、薬歴管理、リスクマネジメント、安全な薬物療法の提供、医薬品情報の伝達や治験の推進といった業務がこれまで以上に強く求められており、薬局における患者等への服薬指導やサービスの一層の向上、病院における医療チームの一員としての積極的な役割が期待されている。
  他方、現行の薬剤師養成のための教育は、必ずしも十分なものとなっていない。たとえば、臨床教育が不足している点や、薬剤師国家試験対策の講義、演習となってしまっている点等である。
  平成2年と平成12年の薬系大学・薬学部における学部卒業者の進路動向を比較すると、薬局や病院の薬剤師としての業務に就く者の割合が6割以上伸びている。このことは、医薬分業率が上昇してきていることや医療チームの一員としての病院薬剤師の役割が高まってきていることを背景として、薬剤師という職業を選択する学生が増えてきていることを示している。また、平成7年から平成14年の間に、修士課程を修了した後に薬局や病院で薬剤師となる者の割合がほぼ倍増しており、修士課程における履修を経た後に薬剤師という職業を選択する薬学生が増えてきている。この背景には、最近のゲノム創薬等、創薬研究の多様性から、製薬企業が薬科大学・薬学部以外の学部出身者の採用を増やしている、という事情があることも指摘されている。
  このような環境において、医療薬学教育の更なる改善・充実を図っていくためには、実務実習の一層の充実とともに、薬学の科学的な基盤を身につけるための教育の充実並びに医療チームの一員としての役割を果たすための医療システムについての教育の充実等が求められる。そのためには、創薬科学、衛生薬学はもとより、薬学関連領域の科学の成果を十分に理解し、かつ応用する能力の開発も、急務である。

(3) 基礎薬学、創薬科学、衛生薬学に係る教育への期待と今後の在り方
  我が国の薬学部や薬科大学では、基礎薬学が充実していることを特徴としており、多くの分野で世界的な貢献が行われている。これまで薬学は、有機化学等の薬学関連分野において、世界に誇り得る多数の優れた研究成果をあげてきた。これらの基礎薬学分野の卓越した研究成果は、我が国の薬学教育の充実と高度化に大きな役割を果たしている。近年、めざましく発展し、今後も大きな可能性を秘める生命科学の一翼を担う薬学研究への期待も大きいものがある。また、基礎資源の乏しい我が国においては、知識集約的産業である創薬産業の国際競争力の強化は国家的要請であり、これに応えるために創薬科学教育の更なる拡充と研究の高度化も必要である。さらに、将来の薬学教育を担う人材の養成に当たっても大きな貢献を行っている。
  他方、これまでの薬学は、医療との関わりが希薄であったという問題がある。
  平成2年から平成12年の間に、薬学部の修了者が修士課程に進学する割合が倍増しており、博士課程への進学者の割合も微増ではあるが増加している。このことは、学部における履修以上の内容を大学院において学び、研究者や薬剤師を目指す薬学生が増えていることを示している。
  このような環境において、基礎薬学、創薬科学、衛生薬学に係る教育の更なる改善・充実を図っていくためには、医療薬学との接点を意識し、健康科学、生命科学という観点も加味していくことが重要である。


2. 薬学教育カリキュラムの在り方等
(1) 薬学教育のカリキュラムの在り方
(イ) 多様性への対応
  薬学を学んだ学生の進路は、病院や薬局の薬剤師、医薬品の創製、開発、製造等に従事する研究者・技術者、食品や環境に関する衛生化学や衛生行政従事者など多岐に渡っていることから、薬学教育のカリキュラムの在り方を検討するに当たっては多様性の確保という視点が不可欠である。

(ロ) 内容の精選
  薬学教育における現行カリキュラムは、薬剤師国家試験に対応するためもあって、知識を一方向的に教える教育が中心であり、かつほとんどの科目が必修となっているために他学部のカリキュラムと比較しても過密になっているのが現状である。
  科学技術の進歩、医療の高度化、情報化の進展といった環境変化の中で薬学教育のカリキュラムを考えるに当たっては、膨大な情報の中から必要な情報を整理・精選するとともに、常にその内容を点検していくことが必要である。

(ハ) 指導方法の工夫
  カリキュラムの改善の実を上げるために、指導方法の工夫・改善が求められる。受け身型から能動型の教育への転換を図るため、各大学においては、演習、少人数討論、チューター制の導入、卒業研究の充実といった方策を検討する必要がある。
  また、教員の教育能力の向上を図るため、各大学においてFD1 の導入を検討する必要がある。

1   Faculty Development高等教育に携わる教員の職業的能力を高めること、すなわち「教員能力開発」、あるいはそのための「教員能力開発プログラム」という意味で使われることが多いが、同時に「教育組織の機能開発」、あるいはそのためのプログラムという意味が付加されている。

(ニ) 国際通用性の観点
  医薬品の分野での国際的な調和、交流が進む中、市場アクセスの自由化に伴い創薬分野での国際競争力の飛躍的向上が求められており、また、留学生の受け入れも進んでいる。さらに、例えば、EUにおいて薬剤師資格の相互乗り入れが進められている。
  これらの点を視野に入れつつ、諸外国において薬学教育の期間が全体として5年から6年となっている点も考慮して、我が国の薬学教育においても国際通用性の視点からカリキュラム及び教育システムの改善・充実を図ることが重要である。

(2) 薬学教育におけるコアカリキュラムの考え方
  今後、薬学教育においては、学生の多様な進路を考慮しつつ、すべての学生にとって必須な内容で、基礎薬学と創薬科学、衛生薬学、医療薬学の適正なバランスを考慮したカリキュラムを、コアカリキュラムとして位置づけていく必要がある。
  コアカリキュラムの内容を実際に教育するに当たっては、大学の個性・特色に応じ、指導方法、単位数(授業時数)に多様性の生じることが想定される。また、コアカリキュラム以外の部分については、各大学が発展的な内容を取り入れるなど、個性的なカリキュラムを構築することが求められる。
  日本薬学会モデル・コアカリキュラムは、今後の社会の変動を見据えた上で、学ばなければならない内容を整理したガイドラインとして作成されたものであり、これまでの薬学教育の内容を精選するとともに、今後必要となってくる事項が加味されている。
  このモデル・コアカリキュラムを参考としながら各大学においてカリキュラムを編成することが求められており、同時に様々な状況を踏まえながらモデル・コアカリキュラム自体の改善充実を図っていくことが必要である。

(3) 実務実習の在り方
(イ) 実務実習の意義と現状、課題
  医療人としての使命感・倫理観を備え、実務についての知識を有する薬剤師を養成するには、医療現場における実務実習が不可欠である。また、実務実習を通じて医療を理解することは、創薬研究や基礎研究に携わる者にとっても重要である。
  臨床面での教育重視の観点からは、実務実習を量的にも質的にも充実することが必要である。平成8年の「薬学教育の改善に関する調査研究協力者会議」最終まとめにおいては、実務実習期間に関して当面4週間程度を目標に長期化することや内容の充実が提言されたが、7年経った現在、これが十分に実現されているとは言い難い。今後、実務実習の更なる充実を検討する際には、全ての大学でこれを十分に実施することができるよう、受け入れ体制の拡充、指導体制の構築、施設の充実等を検討することが必要である。

(ロ) 実務実習モデル・コアカリキュラム
  実務実習の長期化も含めた充実を図るためには、実務実習に関するコアカリキュラムを策定し、それを実施するための方略2 を策定することが必要である。その際、病院業務と薬局業務の相違点を理解させるためにも、病院実習と薬局実習の双方を取り入れたものとすることが重要である。
  このため、本会議においては実務実習モデル・コアカリキュラムを策定することとし、平成15年7月より小委員会を設置して検討を進め、同年12月に実務実習モデル・コアカリキュラムを別添資料のとおり取りまとめた。
  本モデル・コアカリキュラムは、薬剤師養成のための薬学教育として必須の内容を取りまとめたものであり、今後、各大学においては、当該モデル・コアカリキュラムに則ったカリキュラムの構築が行われ、実務実習の充実を図ることが重要である。

2   方略とは、モデル・コアカリキュラムの到達目標一つ一つにつき、学習方法、場所、必要となる人的資源、物的資源、必要となる時間等につき整理を行ったもの。

(ハ) 共用試験の実施3
  実務実習を行う学生の質を保証するため、医学や歯学で行われている共用試験を薬学においても実施することとし、その具体的な進め方につき検討を行うことが必要である。
  なお、実務実習は免許を持たない学生が実際に調剤業務や服薬指導等に当たることから、薬剤師法をはじめとする医療関連法令に抵触することがないよう、違法性を阻却するための諸要件が検討されなければならない。

3   医学・歯学において平成14年度より試行されている大学間で共用される試験。学生の臨床実習に必要な基本的な臨床能力(態度・技能・知識)を適切に評価するため、大学間で合意の上、共同で質の高い総合試験問題を作成・実施するもの。希望する大学によって実施されており、平成15年度現在、ほとんどの大学が参加している。試験には、知識評価のための多肢選択形式のCBT(Computer Based Testing)及び診察技能や態度を評価するための客観的臨床能力試験(Objective Structured Clinical Examination:OSCE)が用いられている。

(4) 実務実習の指導体制及び受け入れ体制の在り方
(イ) 指導体制の在り方
  実務実習は大学における教育として行われるものであることから、大学は、実習受け入れ機関に学生の指導を任せきりにするのではなく、指導に責任を持ち、実習の質の担保を図らなければならない。 
  指導体制の構築に当たっては、実務実習の受け入れが医療現場に混乱を来すようなことがないよう、十分留意する必要がある。また、実務実習の充実にかかるコストの確保については、各大学において適切な方策を検討する必要がある。さらに、病院実習の場合、チーム医療の一員としての薬剤師の役割について認識を深める実習にしなければならないので、指導体制の構築に当たっては、薬剤師のみならず、医師や看護師を含めた医療チーム構成員が薬学教育への理解を持つ必要があり、病院一体となった体制の構築が不可欠である。その際、特に、患者の視点に立った医療の在り方や、医療事故防止のシステム、在宅医療への理解など、多様な医療ニーズにおける薬剤師の在り方を理解できるような工夫がなされることが重要である。
  また、実務実習の指導が適切に行われるためには、指導施設と指導者の質の担保を図る必要があり、そのための指導体制の評価の在り方については、更なる検討が求められる。

(ロ) 受け入れ体制の在り方
  モデル・コアカリキュラム及び方略に則った実務実習が日本中どの地域でも同じ質を確保しつつ実施されるようにするため、適切な実務実習の受け入れ体制を構築する必要がある。
  病院実習については、日本病院薬剤師会が中心となって、病院をグループ化した実習の実施が検討されている。また、大学附属病院においては、自大学の学生はもとより、病院を持たない大学の学生の実習施設としての役割を果たしてきたところが多い。さらに、薬局実習については、これまで大学が個々の薬局との契約により行ってきたが、今後、当分の間は、日本薬剤師会を中心として、地区調整機構のもとに置かれた調整機関(地区薬剤師会、地区調整機構内大学関係者等が運営)が大学と薬局との調整を行うこととなっている。
  なお、病院実習と薬局実習については、現在、受け入れ体制が別々に用意されているが、将来的には、できるだけ速やかに一本化する方向で、日本病院薬剤師会と日本薬剤師会との間で合意がなされている。
  さらに、例えば、日本医療薬学会では認定薬剤師制度のもと、指導薬剤師を配置した研修施設の拡充を進めており(指導薬剤師がいる研修施設は全国で262箇所)、学会においても受け入れ体制を整えつつある。
  医療現場においては病院薬剤師の人数が少ない現状にあるが、全ての学生を受け入れつつ、実習生に対する十分な指導が行われるための準備を進めることが必要である。充実した実務実習の実施のために、各薬科大学・薬学部からの積極的な関与と関係行政機関の協力のもとに、職能団体や関係機関による受け入れシステムの構築が必要である。


3. 薬学教育制度の在り方
(1)  6年の年限の必要性
 医療技術や医薬品の創製・使用における科学技術の進歩、医薬分業の進展など、薬学をめぐる状況が大きく変化してきている中、薬剤師を目指す学生には、基礎的な知識・技術はもとより、豊かな人間性、高い倫理観、医療人としての教養、課題発見能力・問題解決能力、現場で通用する実践力を身につけることが求められている。このため、各大学において教養教育を充実しつつ、モデル・コアカリキュラムに基づく教育を進めるとともに、特に臨床の現場において相当期間の実務実習を行うなど、実学としての医療薬学を十分に学ばせる必要がある。また、各大学がモデル・コアカリキュラムに基づく教育に加えて、それぞれの個性・特色に応じたカリキュラムを編成することも必要である。その際、従来のような詰め込み教育にならないように特段の配慮が必要である。
  こういった様々な要請に応えるには、薬学教育の現状の修業年限(4年間)は薬剤師養成には十分な期間とは言えず、今後は、6年間の教育が必要である。
  なお、薬剤師養成には6年間の教育が必要、ということにつき、一般国民、大学、学生などそれぞれの立場から様々な意見があることを踏まえつつ、広く社会から受け入れられるような説明を行っていくことが重要である。そのためには、医療の現場において薬剤師が行っている職務内容と、今後期待される職務内容につき、職能団体等による啓発が引き続き広く行われていく必要がある。

(2)  6年の年限とした場合の教育制度の在り方
 薬剤師を養成するための薬学教育の年限を6年とし、教育制度の在り方につき検討を行う中で、6年制学部とすることが適当であるという意見と、研究者等の養成といった多様性を考慮すると4年制学部+2年修士とすることが適当であるという二つの意見があった。

(イ)  6年制学部が適当であるという意見は、主に以下の理由に基づくものである。
1  教養教育、専門教育、実務実習が有機的に組み合わされた教育課程を編成し、医療人としての知識・技能・態度が一体化した総合的な教育を行うことが可能
2  医療人養成のために不可欠な実務実習の長期化に対応し、かつ実務実習の履修方法の自由度が高い
3  入学時点で「将来的に薬剤師になる」という目的意識が明確になることにより、医療人としての自覚を持たせる教育が早期から可能となる
  なお、6年制学部を制度化する場合には、他学部・他学科との双方向での編入学等や、学部在学中に研究者を志向することとなった学生に進路変更を可能とするための方策など、柔軟性を確保することが必要である。

(ロ)  4年制学部+2年修士とすることが適当であるという意見は、主に以下の理由に基づくものである。
1  現行の薬学の修業年限を維持することにより、(6年制学部とする場合よりも)大学院課程に早期に進学し研究を開始することを制度的に保証できる
2  大学院重点化政策により、多くの薬学修士課程に医療薬学専攻・コースが設置されており、長期実務実習の導入や医療系カリキュラムの充実等は4年制学部+2年修士の制度の中で十分再編可能であると考えられることから、新制度への移行がスムーズである4
3  6年制学部と比較した場合、早期に学部卒業を可能とすることにより、就職や他学部の大学院への進学など、学生の適性・資質に応じた多様な進路選択が可能

4   大学院修士課程において医療薬学専攻を設置している大学数は、平成8年段階で12であったものが平成15年段階では31となっており、総定員数についても276人から607人となっている。

  なお、4年制学部+2年修士の形態については、教育課程が学部と大学院に分断される中で薬剤師養成を体系的・効果的に行うための方策、修士課程の2年間において医療薬学と研究の双方を十分に行うための方策、大学院に進学せず学部4年で大学を卒業する者の位置づけ、教育課程・学問分野の面からの6年制学部との違い・特色等が明確になるように検討することが必要である。

(ハ)  これらの意見を勘案した結果、本協力者会議においては、薬剤師の養成のための薬学教育は、6年間の学部教育を基本とするが、(ロ)で述べた趣旨から、研究者など多様な人材の養成といった薬学教育の果たす役割にも配慮しつつ、4年間の学部教育も必要であるという認識で概ね一致した。なお、いずれを採用するかは各大学において決定されるものである。

(ニ)  双方の課程の特色、違い、カリキュラムの在り方、学生の進路について
  6年制学部においては、これまでの「薬学」に加え実務実習も含めた医療薬学を特に充実した教育課程とする。また、教養教育の内容も充実させることが必要であり、教養教育、専門教育、実務実習が有機的に組み合わさった課程が構築されることが特色となる。
  4年制学部においては、これまでの「薬学」の「基礎薬学」の内容につき重点的に教育研究が行われるとともに、「医療薬学」の一部、実務実習のうち見学を中心とした部分、生命科学等の境界領域に係る部分などにつき教育研究が行われることとなる。
  4年制学部の卒業者の進路については、大学院進学をはじめ、製薬企業の医薬情報担当者、化学・食品産業の研究者・技術者・商品開発担当者・広報担当者、食品や環境に関する衛生化学や衛生行政従事者、ジャーナリスト等、多様な進路が想定される。

(ホ)  必修単位数について
  6年制学部については、現行の6年制学部である医学・歯学の課程において188単位、獣医学の課程において182単位とされていること、また、学部段階において現在1学年で平均31単位の履修を求める制度となっていることから、現在の4年間で124単位を6年間とした場合186単位の履修が求められることになる。協力者会議においては、これらの点も含め、制度的事項につき中央教育審議会に検討を委ねることとした。
  なお、4年制学部の必修単位数については、現行の124単位のままとすることが適当である。

(ヘ)  教員数、施設設備等について
  教養教育、専門教育、実務実習を充実するとともに、指導方法の工夫が求められていることを考慮して、教員数の増を含む教育体制の充実が図られることが必要である。また、収容定員に応じた施設設備を整備する必要がある。

(ト)  制度の柔軟性の確保
  多様な薬学生の進路を考慮し、制度に柔軟性を持たせるため、学生が6年制と4年制の双方の課程の間で進路変更することができるような方策等につき、検討することが必要である。
  この点については、大学間の編・転入学は年齢による制限のほかは特段の制度的規制が行われておらず、基本的に大学の裁量に委ねられていることから、各大学において適切な方策を講じる必要がある。また、この目的のため、一つの大学内で双方の課程を設置することも考えられる。

(チ)  学生負担の軽減
  年限が延長されることに伴い、2年分の学費が追加されることに関して、高校生の進学を容易にするために、大学に対しては授業料の減免や奨学金等の配慮を求める意見があり、国に対しては大学への財政的支援や奨学金制度の充実を求める意見があった。今後、学生の負担が過重にならないような工夫が求められる。

(リ)  専門職大学院制度
  高度専門職業人の養成を目的として専門職大学院制度が設けられているが、専門職大学院において薬剤師を養成することについては、医学、歯学、獣医学など他の医療職養成課程の動向を十分に踏まえつつ、慎重な検討が必要である。

(ヌ)  なお、平成8年の「薬学教育の改善に関する調査研究協力者会議」による「薬学教育の改善について(最終まとめ)」においては、その時点で薬剤師養成のための薬学教育の年限延長が困難な理由として、大学の教員、施設、設備等の整備にかかる投資、実務実習施設の確保、指導体制等の問題、薬学部入学を希望する高校生の進路選択への影響、創薬基礎科学に関する教育・研究機能への影響が挙げられている。
  今回、教育年限を延長するに当たっては、これらの課題が指摘された背景等も十分に考慮しつつ、制度導入までにこれらの課題を解決するための方策が講じられる必要がある。

(3)  大学院の在り方
  6年制学部を基礎とする大学院については、医学・歯学・獣医学と同様、4年間の博士課程とすることが適当である。4年制学部を基礎とする大学院が現行通り5年間の博士課程(前期課程と後期課程を区別する場合には、2年の修士課程と3年の博士課程)となることを踏まえると、6年制学部では学部入学段階から博士課程修了まで10年が必要とされるのに対し、4年制学部では9年で済むこととなるが、6年制学部と4年制学部では教育研究の目的や内容が異なるため、当該年限の差異については合理性があると判断された。協力者会議においては、これらの点も含め、制度的事項につき中央教育審議会に検討を委ねることとした。


4. 大学における継続教育・生涯学習
(1)  大学の生涯学習支援
  薬学部・薬科大学は、薬学に関わる者に対し、生涯にわたる学習活動をサポートすることが求められている。特に、大学は薬剤師に対して、日々高度化する医療知識と増え続ける医薬品情報を学習するための継続教育の機会を提供することが重要である。
  大学が生涯学習支援を行っていくに当たっては、社会人特別選抜の実施、科目等履修生制度の活用、昼夜開講制の実施あるいは夜間大学院の開設、公開講座、通信講座等、薬剤師を含む社会人が受講しやすいよう、各大学の工夫が必要である。また、修業年限を超えて一定の期間に渡り計画的に教育課程の履修を希望する社会人等に対しては、長期履修学生制度の活用も検討される必要がある。

(2)  経過措置としての支援
  薬剤師養成のための薬学教育が4年間から6年間に延長されることとなった場合、現行の4年制学部教育を受けて薬剤師になった者に対して制度の移行に伴う必要な支援を行うことが重要であり、各大学において継続教育・生涯学習の機会を設けることが望まれる。また、学術団体や職能団体における取り組みも期待される。

(3)  継続的な学習の制度的保証
  医薬品に関する情報が日々増大する中で、薬剤師には常に知識をリフレッシュする努力を行うことが求められているので、この学習が継続的に実施されることを保証する方策が検討される必要がある。このため、薬剤師が常に知識・技術の研鑽に努めることを制度的に保証する仕組みが、大学の生涯学習支援とともに、制度所管官庁や学術団体・職能団体においても設けられることが期待される。また、このような仕組みを設けることは、実務実習の指導に当たる薬剤師の資質の向上という観点からも重要である。





薬学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議について
 
  平成14年9月24日
高等教育局長裁定
 
 

1. 目的
  大学の薬学教育の改善、充実に関する専門的事項について調査研究を行い、必要に応じ報告を取りまとめる。

2. 調査研究事項
(1)  薬学教育におけるカリキュラム等について
(2)  実務実習について
(3)  薬学教育の改善に関する方策について
(4)  薬学に関する教育制度について
(5)  生涯学習の推進方策について
(6)  その他

3. 実施方法
(1)  別紙の協力者により調査研究を行う。
(2)  必要に応じ、小委員会を設置して検討を行うことができるものとする。
(3)  必要に応じ、別紙以外の者にも協力を求めるほか、関係者の意見等を聴くことができるものとする。

4. 実施期間
  平成14年10月から1年間程度

5. その他
  本会議に関する庶務は、高等教育局医学教育課において処理する。



別 紙
薬学教育の改善・充実に関する調査研究協力者名簿

(◎:座長 ○:副座長)

秋 尾  沙戸子 ジャーナリスト
市 川  厚 武庫川女子大学薬学部教授
乾    賢 一 京都大学医学部附属病院薬剤部長
入 村  瑠美子 東京大学医学部附属病院看護部長
北 澤  京 子 日経BP社 日経メディカル副編集長
桐 野  豊 東京大学大学院薬学系研究科長
児 玉  孝 社団法人日本薬剤師会常務理事(平成15年6月12日から)
佐 村  克 己 社団法人日本薬剤師会副会長 (平成15年6月11日まで)
佐 藤  登志郎 北里大学名誉学長・学園相談役
末 松  安 晴 国立情報学研究所長
全 田  浩 社団法人日本病院薬剤師会会長
高 柳  輝 夫 第一製薬株式会社取締役
舘    昭 大学評価・学位授与機構教授
寺 田  弘 東京理科大学薬学部教授
富 田  基 郎 昭和大学薬学部教授
野 村  靖 幸 北海道大学大学院薬学研究科長
福 田  康一郎 千葉大学医学部長
望 月  正 隆 共立薬科大学学長
矢内原  千鶴子 大阪薬科大学学長
吉 岡  亨 早稲田大学理工学部教授
※ 五十音順、敬称略

-- 登録:平成21年以前 --