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2. 薬学教育カリキュラムの在り方
(1)    薬学教育のカリキュラムの在り方
(イ)    多様性への対応
   薬学を学んだ学生の進路は、病院や薬局の薬剤師、医薬品の創製に関わる基礎研究、医薬品開発、医薬品製造等に従事する研究者・技術者、食品や環境に関する衛生化学や薬事行政従事者など多岐に渡っていることから、薬学教育のカリキュラムの在り方を検討するに当たっては多様性の確保という視点が不可欠である。

(ロ)    内容の精選
   薬学教育における現行カリキュラムは、薬剤師国家試験に対応するためもあって、知識を一方的に教える教育が中心であり、ほとんどが必修となっているために他学部のカリキュラムと比較しても過密になっているのが現状である。
   科学技術の進歩、医療の高度化、情報化の進展といった環境の変化の中で薬学教育のカリキュラムを考えるに当たっては、膨大な情報の中から必要な情報を整理・精選するとともに、常にその内容を点検していくことが必要である。

(ハ)    指導方法の工夫
   カリキュラムの改善と同時に、指導方法の工夫・改善を図っていくことが必要である。受け身型から能動型の教育への転換を図っていくことが求められている中、各大学においては、演習、少人数ディスカッション、チューター制の導入、卒業研究の充実といった方策を検討する必要がある。
   また、教員の教育能力の向上を図るため、各大学においてFD*1の導入を検討する必要がある。

(ニ)    国際通用性の観点
   医薬品の分野での国際的な調和、交流が進む中、市場アクセスの自由化に伴い創薬分野での国際競争力の飛躍的向上が求められており、また、留学生の受け入れも進んでいる。さらに、例えば、EUにおいて薬剤師資格の相互乗り入れが進められている。これらの点を視野に入れつつ、諸外国において薬学教育の期間が全体として5年から6年となっている点も考慮して、我が国の薬学教育においても国際通用性の視点からカリキュラムの改善・充実を図ることが重要である。

(2)    薬学教育におけるコアカリキュラムの考え方
   今後、薬学教育においては、薬学の多様な内容、及びこれを学ぶ学生の多様な進路を考慮しつつ、すべての学生にとって必須となる内容であり、基礎薬学と医療薬学の適正なバランスを考慮したカリキュラムを、コアカリキュラムとして位置づけていくことが必要である。
   コアカリキュラムの内容を実際に教育するに当たっては、大学の個性・特色に応じ、指導方法、単位数(授業時数)に多様性が生じることが想定される。また、コアカリキュラム以外の部分については、各大学が発展的な内容を取り入れるなど、多様なカリキュラムを構築することが求められる。
   日本薬学会モデル・コアカリキュラムは、今後の社会の変動を見据えた上で、基礎薬学・医療薬学を問わず、薬学生に学んでもらうことが必要な内容を整理したガイドラインとして作成されたものであり、これまでの薬学教育の内容を精選するとともに、今後必要となってくる事項が加味されている。
   このモデル・コアカリキュラムを参考としながら各大学においてカリキュラムを編成することが求められており、同時に様々な状況を踏まえながらモデル・コアカリキュラム自体の改善充実を図っていくことが必要である。

(3)    実務実習の在り方
(イ)    実務実習の意義と現状、課題
   医療人としての使命感・倫理観を備え、実務についてもひととおりの知識を有する薬剤師の養成には、医療現場における実務実習が不可欠である。他方、実務実習を通じて医療を理解することは、創薬研究や基礎研究に携わる者にとっても重要である。
   臨床面での教育の充実のためには、実務実習を量的にも質的にも充実することが必要である。平成8年の「薬学教育の改善に関する調査研究協力者会議」最終まとめにおいては、実務実習期間を当面4週間程度を目標に長期化することや内容の充実が提言されたが、7年経った現在、これが十分に実現されているとは言い難い。今後、実務実習の更なる充実を検討する際には、全ての大学でこれを十分に実施することができるよう、受け入れ体制の拡充、指導体制の構築、施設の充実等を検討することが必要である。

(ロ)    実務実習モデル・コアカリキュラム
   実務実習の長期化も含めた充実を図るためには、実務実習に関するコア・カリキュラムを策定し、それを実施するための方略*2を策定することが必要である。その際、病院業務と薬局業務の相違点を理解させるためにも、病院実習と薬局実習の双方を取り入れたものとすることが重要である。
   このため、本会議においては実務実習モデル・コアカリキュラムを策定することとし、小委員会を設置して検討を進めているところである。

(ハ)    共用試験*3の実施
   実務実習を行うこととなる学生の質を保証するため、医学や歯学で行われている共用試験を薬学においても実施し、その具体的な在り方につき検討を行うことが必要である。
   なお、実務実習は免許を持たない学生が実際に調剤業務や服薬指導等に当たることから、薬剤師法をはじめとする医療関連法令に抵触することがないよう、違法性を阻却するための諸要件が検討される必要がある。

(4)    実務実習の指導体制及び受け入れ体制の在り方
(イ)    指導体制の在り方
   実務実習は大学における教育として行われるものであることから、大学は、実習受け入れ機関に学生の指導を任せきりにするのではなく、指導に責任を持ち、実習の質の担保を図る必要がある。
   指導体制の構築に当たっては、実務実習の受け入れが医療現場に混乱を来すようなことがないよう、十分留意する必要がある。また、実務実習の充実にはコストがかかるが、これは大学が確保すべきものであり、各大学において適切な方策を検討する必要がある。さらに、病院実習の場合、チーム医療の一員としての薬剤師の役割について認識を深める実習にしなければならないので、指導体制の構築に当たっては、薬剤師のみならず、医師や看護師を含めた医療チーム構成員の薬学教育への理解が必要であり、病院一体となった体制の構築が不可欠である。
   また、実務実習の指導が適切に行われるためには、指導施設と指導者の質の担保を図る必要があり、指導体制の評価の在り方について、更なる検討が求められる。

(ロ)    受け入れ体制の在り方
   モデル・コアカリキュラム及び方略に則った実務実習が日本中どの地域でも同じ質を確保しつつ実施されるようにするため、適切な実務実習の受け入れ体制を構築する必要がある。
   病院実習については、日本病院薬剤師会が中心となって、病院をグループ化した実習の実施が検討されている。また、大学附属病院においては、自大学の学生はもとより、病院を持たない単科薬科大学の学生の実習施設としての役割を果たしてきたところが多い。さらに、薬局実習については、これまで大学が個々の薬局との契約により行ってきたが、今後、当分の間は、日本薬剤師会を中心として、地区調整機構のもとに置かれた調整機関(地区薬剤師会、地区調整機構内大学関係者等が運営)が大学と薬局との調整を行うこととなっている。
   なお、病院実習と薬局実習については、現在、受け入れ体制を別々に構築しているが、将来的には、できるだけ速やかに一本化する方向で日本病院薬剤師会と日本薬剤師会との間で合意がなされている。
   さらに、日本医療薬学会では認定薬剤師制度のもと、指導薬剤師を配置した研修施設の拡充を進めており(指導薬剤師がいる研修施設は全国で263箇所)、学会においても受け入れ体制を整えつつある。
   このように多様な機関が受け入れ体制の構築を行っており、また今後行うことを表明しているが、医療現場においては、病院薬剤師の人数が少なく全ての学生を受け入れるだけの体制が不備である、といった意見や、附属病院を持たない単科薬科大学では実務実習の実施に困難な面がある、といった意見もあることから、これらを解決するためにも、各薬科大学・薬学部が積極的に関与した受け入れシステムの構築が必要である。



*1    Faculty Development 高等教育に携わる教員の職業的能力を高めること、すなわち「教員能力開発」、あるいはそのための「教員能力開発プログラム」という意味で使われることが多いが、同時に「教育組織の機能開発」、あるいはそのためのプログラムという意味が付加されている。
*2    方略とは、モデル・コアカリキュラムの到達目標一つ一つにつき、学習方法、場所、必要となる人的資源、物的資源、必要となる時間等につき整理を行ったもの。
*3    医学・歯学において平成14年度より試行されている大学間で共用される試験。学生の臨床実習に必要な基本的な臨床能力(態度・技能・知識)を適切に評価するため、大学間で合意の上、共同で質の高い総合試験問題を作成・実施するもの。希望する大学によって実施されており、平成15年度現在、ほとんどの大学が参加している。試験には、知識評価のための多肢選択形式のCBT(Computer Based Testing)及び診察技能や態度を評価するための客観的臨床能力試験(Objective Structured Clinical Examination:OSCE)が用いられている。



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