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1. 薬学教育の改善・充実に関する基本的な視点
(1)    薬学教育への期待
   我が国の薬学教育は、病院や薬局で働く薬剤師の養成に加えて、医薬品の創製に関わる基礎研究、医薬品開発、医薬品製造等に従事する研究者・技術者、衛生化学や薬事行政従事者等、多様な人材を養成してきた。
   近年、医療の質の一層の改善が求められている中、薬学教育に対する要請・期待も変化し、特に医療人としての質の高い薬剤師養成に対する強い期待が寄せられている。このような状況下、薬学教育を支える薬学という学問自体も、従来の主として化学に立脚した「モノ」を対象とする学問はもとより、「ヒト」を対象とする薬物治療に直接関連する学問を発展させることが求められている。今後、薬学教育の改善・充実を図っていく上では、新規医薬品の創製とともに、医薬品の適正使用を一層進めるため、薬を疾病治療・健康増進に安全有効活用できる人材の養成に、これまで以上に力を注ぐことを考える必要がある。
   薬学を学ぶ者は、薬学の基礎的な知識と臨床に関わる能力を身につけることが重要であり、そのためにも基礎薬学と医療薬学の統合を図り、両者を総合的に取り扱うカリキュラムを各大学が構築していくことが必要である。また、特に薬剤師を目指す者には、実学としての医療薬学をこれまで以上に学ぶことが求められている。
   さらに、人間理解のために必要な幅広い教養、コミュニケーションをとることができる豊かな人間性、研究する心と態度、高い創造性、問題発見・解決型の能力、論理的思考力、根拠に基づく医療に貢献できる能力、生涯にわたり学び続ける意思と能力、国際的に活躍できる能力、倫理観なども身につけることのできる教育を行うことが必要である。

(2)    医療薬学教育への期待と今後の在り方
   医薬分業が急速に進展し、同時に医療が高度化するなか、薬剤師には、医薬品の適正使用を推進するため、服薬指導、薬歴管理、リスクマネジメント、安全な薬物療法の提供、医薬品情報の伝達や治験の推進といった業務がこれまで以上に強く求められており、薬局における患者等への服薬指導やサービスの一層の向上、病院における医療チームの一員としての積極的な役割が期待されている。
   他方、現状における薬剤師養成のための教育は、臨床教育が不足しているといった点や、薬剤師国家試験に対応するための詰め込み教育となってしまっている場合もあるといった点から、必ずしも十分なものとなっていない。
   平成2年と平成12年の薬系大学・薬学部における学部卒業者の進路動向を比較すると、薬局や病院の薬剤師としての業務に就く者の割合が6割以上伸びている。このことは、医薬分業率が上昇してきていることや医療チームの一員としての病院薬剤師の役割が高まってきていることを背景として、薬剤師という職業を選択する学生が増えてきていることを示している。また、平成7年から平成14年の間に、修士課程を修了した後に薬局や病院で薬剤師となる者の割合がほぼ倍増しており、修士課程における履修を経た後に薬剤師という職業を選択する薬学生が増えてきている。なお、この背景には、最近のゲノム創薬等、創薬研究の多様性から、製薬企業が薬科大学・薬学部以外の学部出身者の採用を増やしている、という事情があることも指摘されている。
   このような環境において、医療薬学教育の更なる改善・充実を図っていくためには、実務実習の一層の充実とともに、科学的な基盤を身につけるための基礎薬学に係る教育の充実並びに医療チームの一員としての役割を果たすための医療システムについての教育の充実等が求められる。

(3)    基礎薬学教育への期待と今後の在り方
   我が国の薬学部や薬科大学は、基礎薬学が充実していることを特徴としており、多くの分野で世界的な貢献が行われている。すなわち、有機化学や生命科学等の各分野において、世界に誇り得る多数の優れた研究成果をあげてきた。これらの基礎薬学分野の卓越した研究成果は、我が国の薬学教育の充実と高度化に大きな役割を果たしている。近年、めざましく発展し、今後も大きな可能性を秘める生命科学の一翼を担う薬学研究への期待も大きいものがある。さらに、基礎資源の乏しい我が国においては、知識集約的産業である創薬産業の国際競争力の強化は国家的要請であり、基礎薬学教育の更なる拡充と研究教育の強化も必要である。
   他方、これまでの基礎薬学は、医療との関わりが希薄であったという問題がある。
   平成2年から平成12年の間に、薬学部を修了した者が修士課程に進学する割合が倍増しており、博士課程に進学する者の割合も微増ではあるが増加している。このことは、学部における履修以上の内容を大学院において学ぼうとする薬学生が増えていることを示している。
   このような環境において、基礎薬学教育の更なる改善・充実を図っていくためには、医療薬学との接点も意識し、健康科学、生命科学という観点も加味していくことが重要である。



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