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資料2

薬学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議
中間まとめ案
(後半部:中間まとめ作成のための論点整理)

平成15年7月      日
薬学教育の改善・充実に関する
調査研究協力者会議


   文部科学省では、平成8年より、日本薬剤師会、日本病院薬剤師会、私立薬科大学協会、国公私立大学薬学部長(科長・学長)会議、厚生労働省とともに、「薬剤師養成問題懇談会」を開催してきた。その結果、平成14年1月には、薬剤師の質の向上のため各参加者がそれぞれ解決すべき課題が取りまとめられた。
   文部科学省においては、「薬剤師養成問題懇談会」で取りまとめられた課題について検討するため、「薬学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議」を発足させ、平成14年9月以来、大学における薬学教育の改善・充実を図るための具体的諸方策について、これまで12回会議を開催し、調査研究を行ってきたところである。
   今回、現段階における審議の状況を中間的に取りまとめ、公表することとした。今後も関係者の意見を幅広く聞きつつ、更に審議を尽くすこととしたい。

1.薬学教育の改善・充実に関する基本的な視点
(1)薬学教育への期待
          我が国の薬学教育は、病院や薬局で働く薬剤師の養成に加えて、医薬の創製に関わる基礎研究、医薬品開発、医薬品製造等に従事する研究者・技術者、衛生化学や薬事行政従事者等、多様な人材を養成してきた。
   近年、医療の質の一層の改善が求められている中、薬学教育に対する要請・期待も変化し、特に医療人としての質の高い薬剤師養成に対する強い期待が寄せられている。このような状況下、薬学教育を支える薬学という学問自体も、従来の化学に主として立脚した「モノ」を対象とする学問はもとより、「ヒト」を対象とする薬物治療に直接関連する学問をこれまで以上に発展させることが求められている。今後、薬学教育の改善・充実を図っていく上では、医薬品をヒトの疾病治療・健康増進のために安全有効に活用できる人材の養成に、これまで以上に力を注ぐことを考える必要がある。
   今後、薬学を学ぶ者には、いずれの進路を目指す場合であっても、薬学の基礎的な能力と臨床に関わる知識を身につけることが必要であり、そのためにも基礎薬学と医療薬学とを総合的に取り扱うカリキュラムにしていくことが必要である。
   さらに、コミュニケーションをとることができる豊かな人間性、問題発見・解決型の能力、根拠に基づく医療に貢献できる能力、研究する心と態度、生涯にわたり学び続ける意思と能力、高い創造性、論理的思考力、倫理観なども身につけることのできる教育を行うことが必要である。

(2)医療薬学への期待と今後の在り方
          医薬分業が急速に進展し、同時に医療が高度化するなか、薬剤師には、服薬指導、薬歴管理、リスクマネジメント、安全な薬物療法の提供、医薬品の適正使用のための情報の伝達といった業務がこれまで以上に強く求められており、薬局における患者等への服薬指導やサービスの一層の向上、病院における医療チームの一員としての積極的な役割が期待されている。
   他方、現状における薬剤師養成のための教育は、臨床教育が不足しているといった点や、薬剤師国家試験に対応するための詰め込み教育となってしまっている場合もあるといった点から、必ずしも十分なものとなっていない。
   平成2年と平成12年の薬系大学・薬学部における学部卒業者の進路動向を比較すると、薬局や病院の薬剤師となる者の割合が6割以上伸びている。このことは、医薬分業率が上昇してきていることや医療チームの一員としての病院薬剤師の役割が高まってきていることを背景として、薬剤師という職業を選択する学生が増えてきていることを示している。また、平成7年から平成14年の間に、修士課程を修了した後に薬局をや病院で薬剤師となる者の割合がほぼ倍増している。このことは、修士課程における学修を経た後に薬剤師という職業を選択する薬学生が増えてきていることを示している。
   このような環境において、医療薬学の更なる改善・充実を図っていくためには、臨床教育の一層の充実とともに、科学的な基盤を身につけるための基礎薬学に係る教育の充実、医療チームの一員としての役割を果たすための医療システムについての教育の充実等が求められる。

(3)基礎薬学への期待と今後の在り方
          我が国の薬学部や薬科大学は、基礎薬学の分野が充実していることを特徴としており、特に有機化学の分野では世界的な貢献が行われている。
   他方、これまでの基礎薬学は、医療との関わりが希薄であったという問題がある。
   先の調査によると、平成2年から平成12年の間に、製薬企業に就職する者の割合が3分の1以下に激減する中、薬学部を修了した者が修士課程に進学する割合が倍増しており、博士課程に進学する者の割合も微増ではあるが増加している。このことは、学部における学修以上のことを大学院において学ぼうとする薬学生が増えていることを示していると考えられる。
   このような環境において、基礎薬学の更なる改善・充実を図っていくためには、医療薬学との接点も意識し、健康科学、ライフサイエンスという観点も加味していくことが重要である。

2.薬学教育カリキュラムの在り方
(1)薬学教育のカリキュラムの在り方
(イ)多様性への対応
          薬学を学んだ学生の進路は、病院や薬局の薬剤師、企業において創薬研究開発や医薬品の供給に携わる者、薬品衛生行政の担い手、大学等における研究者等と、多岐に渡っていることから、薬学教育のカリキュラムの在り方を検討するに当たっては多様性の確保という視点が必要である。

(ロ)内容の精選
          薬学教育における現行カリキュラムは、薬剤師国家試験に対応するためもあって、知識を一方的に教える教育が中心であり、ほとんどが必修となっているために他学部のカリキュラムと比較しても過密になっているのが現状である。
   科学技術の進歩、医療の高度化、情報化の進展といった環境の変化の中で薬学教育のカリキュラムを考えるに当たっては、膨大な情報の中から必要な情報を整理・精選するとともに、常にその内容を点検していくことが必要である。

(ハ)指導方法の工夫
          カリキュラムの改善と同時に、指導方法の工夫・改善を図っていくことが必要である。今後は受け身型から能動型の教育への転換を図っていくことが必要であり、各大学において、演習、少人数ディスカッション、チューター制の導入、卒業研究の充実といった方策を検討する必要がある。
   また、教員の教育能力の向上を図るため、各大学においてFD(Faculty Development)の導入を検討する必要がある。

(ニ)国際通用性の観点
          創薬分野での国際競争力の向上や留学生の受け入れの促進が求められており、また、EUにおいては薬剤師資格の相互乗り入れが進められていることも視野に入れつつ、薬学教育においても国際通用性の視点からカリキュラムの改善・充実を図ることが重要である。

(2)薬学教育におけるコアカリキュラムの考え方
          今後、薬学教育においても、薬学の多様な内容、及びこれを学ぶ学生の多様な進路を考慮しつつ、すべての学生にとって必須なものを、コアカリキュラムとして位置づけていくことが必要である*。その際、基礎薬学と医療薬学とのバランスを考慮した内容とすることが必要である。
   コアカリキュラムの策定に当たっては、大学の個性・特色に応じ、指導方法、単位数(授業時数)に多様性が生じることが想定される。また、コアカリキュラム以外の部分については、各大学が発展的な内容を取り入れるなど、多様なカリキュラムを構築することが求められる。その一部に学生毎の選択科目が設けられることとなる。
   日本薬学会モデル・コアカリキュラムは、今後の社会の変動を見据えた上で、基礎薬学・医療薬学を問わず、薬学生に学んでもらうことが必要な内容を整理したガイドラインとして作成されたものであり、これまでの薬学教育の内容を精選するとともに、今後必要となってくる事項が加味されている。ここで示された内容は、大学教育の7割程度を想定しており、残り3割の部分で各大学が選択科目や選択必修科目を設けることを念頭に置いている。
   このモデル・コアカリキュラムを参考としながら各大学においてカリキュラムを編成することが求められており、同時に様々な状況を踏まえながらモデル・コアカリキュラム自体の改善充実を図っていくことが必要である。

(4)実務実習の在り方
(イ)実務実習の意義と現状、課題
          医療人としての使命感・倫理観を備え、実務についてもひととおりの知識を有する薬剤師の養成には、医療現場における実務実習が重要な役割を果たす。他方、実務実習を通じて医療を理解することは、創薬研究や基礎研究に携わる者にとっても重要である。
   臨床面での教育の充実のためには、実務実習について、量的にも質的にも充実することが必要である。平成8年の「薬学教育の改善に関する調査研究協力者会議」最終まとめにおいては、実務実習期間を当面4週間程度を目標に長期化することや内容の充実が提言されたが、7年経った現在、これが実現しているとは言えない。今後、実務実習の充実を検討する際には、全ての大学で実施することができるよう、受け入れ体制の拡充、指導体制の構築、施設の充実が必要である。

(ロ)実務実習モデル・コアカリキュラム
          実務実習の長期化も含めた充実を図るためには、実務実習に関するコア・カリキュラムを策定し、それを実施するための方略*を策定することが必要である。その際、病院業務と薬局業務の相違点を理解させるためにも、病院実習と薬局実習の双方を取り入れたものとする必要がある。
   このため、本会議においては実務実習モデル・コアカリキュラムを策定することとし、小委員会を設置して検討を進めているところである。

(ハ)共用試験の実施
          実務実習を行うこととなる学生の質を保証するため、医学や歯学で行われている共用試験を薬学においても実施することが必要である。
   なお、実務実習は免許を持たない学生が実際に調剤業務や服薬指導等に当たることから、薬剤師法に抵触することがないよう、違法性を阻却するための諸要件が検討される必要がある。

(5)実務実習の受け入れ体制及び指導体制の在り方
(イ)受け入れ体制の在り方
          モデル・コアカリキュラム及び方略に則った実務実習が日本中どの地域でも同じ質を確保しつつ実施されるようにするため、実務実習の受け入れ体制を構築する必要がある。
   病院実習については、日本病院薬剤師会が中心となって、病院をグループ化した実習の実施が検討されている。また、大学附属病院においては、自大学の学生はもとより、病院を持たない単科薬科大学の学生の実習施設としての役割を果たしてきたところが多い。さらに、薬局実習については、これまで大学が個々の薬局との契約により行ってきたが、今後は、日本薬剤師会を中心として、地区調整機構のもとに置かれた調整機関(地区薬剤師会、地区調整機構内大学関係者等が運営)が大学と薬局との調整を行うこととなるとのことである。
   なお、病院実習と薬局実習については、現在、受け入れ体制を別々に構築しているが、将来的には一本化する方向で日本病院薬剤師会と日本薬剤師会との間で合意がなされている、とのことである。
   さらに、日本医療薬学会では認定薬剤師制度のもと、指導薬剤師を配置した研修施設の拡充を進めており(指導薬剤師がいる研修施設は全国で273箇所)、学会においても受け入れ体制を整えつつあるとのことである。
   このように多様な機関が受け入れ体制の構築を行っており、また今後行うことを表明しているが、医療現場においては、病院薬剤師の人数が少なく、全ての学生を受け入れるだけの体制が不備である、といった意見や、附属病院を持たない単科薬科大学では実務実習の実施に困難な面がある、といった意見もあることからこれらを解決するためにも、受け入れ体制がシステムとして構築されることが必要である。

(ロ)指導体制の在り方
          実務実習は大学における教育として行われるものであることから、大学は、実習受け入れ機関に学生の指導を任せきりにするのではなく、指導に責任を持ち、実習の質の担保を図る必要がある。
   指導体制の構築に当たっては、実務実習の受入れが医療現場に混乱を来すようなことがないよう、十分留意する必要がある。また、実務実習の充実にはコストがかかるが、これは大学が確保すべきものであり、各大学において適切な方策を検討する必要がある。さらに、病院実習の場合、チーム医療の一員としての薬剤師の役割について認識を深める実習とする必要があるため、指導体制の構築に当たっては、薬剤師のみならず、医師や看護師を含めた病院一体となった体制の構築が重要である。
   また、実務実習の指導が適切に行われるためには、指導者の質の担保を図る必要があり、指導者の評価の在り方について、更なる検討が求められる。


*(参考)医学教育におけるコアカリキュラムの理念
       1 膨大な情報から基本・重要部分を摘出し精選すること
  2 各大学の特色を踏まえた選択科目の余地や多様性を拡大すること
  3 詰め込み教育ではなく、自己学習を奨励し、問題解決・課題探求能力を育成すること
  4 既存の学体系・学問領域の枠にとらわれない、統合的内容であること
  5 卒後の継続的専門教育を念頭においた、学部教育を可能とする内容であること
  6 一般教養・準備教育とは区分した専門教育のコアであること
  7 作成手順として、内容を精選する際には、その特定領域以外の専門家を中心としてコアの内容を確定していくことが必要。

*   方略とは、コアカリキュラムの到達目標一つ一つにつき、学習方法、場所、必要となる人的資源、物的資源、必要となる時間につき整理を行ったもの。


※   以下、中間まとめ作成のための論点整理

3.薬学教育制度の在り方
【6年の年限の必要性】
          薬学教育として、トータル6年間の教育が必要であるとの点は、これまでの議論で概ね一致した認識。
   
   詰め込み教育にならないようにコアカリキュラムを十分に理解させながら教えつつ、同時に各大学の個性・特色に応じたカリキュラムを編成するためには、現状の4年の年限は十分ではなく、6年必要である。
   医療技術や医薬品の創製・適用における科学技術の進歩、医薬分業の進展など、薬学をめぐる状況は大きく変化してきている。そのような中で、基礎的な知識・技術を身につけた上で、課題発見能力・問題解決能力、現場で通用する実践力を養成するためには、卒業研究に加え、臨床の現場において実務実習を行う期間が相当程度必要であるなど、実学としての臨床薬学を学ばせることが必要となっており、そのためには現状の4年の年限は十分でなく、6年必要である。
   トータル6年間の教育が必要である、ということにつき、一般人、大学、学生などそれぞれの立場から様々な意見があることを踏まえつつ、広く社会から受け入れられるような説明を行っていくことが必要である。
   なお、現状よりも増えるカリキュラムについて、その内容と単位数を表示すると理解が得られやすい。

【6年の年限とした場合の教育制度の在り方】
          薬学教育の年限を6年とする場合、教育制度の在り方として、6年制学部とすることが適当であるという意見と、4年制学部+2年修士とすることが適当であるという意見があった。それぞれの制度を採用する場合の利点と解決すべき課題は別表(PDF:16KB)のとおり。
     薬学部の性格(「薬学士」教育のアイデンティティー)につき、薬学部における学部教育と大学院教育の関係をどのように整理するのか、という点については、6年制学部、4年制学部+2年修士の双方の制度について、更なる検討が必要。
     薬学教育の年限を6年にした場合、教員数の増や施設設備の拡充が必要となることが予想されるので、そのことにも留意しておくことが必要。


4.大学における継続教育・生涯学習

       《大学の生涯学習支援の要請》薬学部・薬科大学は、薬学に関わる者に対し、生涯にわたる学習活動をサポートすることが求められている。特に、薬剤師に対しては、日々高度化する医療知識を身に付けるための情報提供を大学が担うことが重要。大学が生涯学習支援を行っていくに当たっては、夜間大学院、公開講座、通信講座等、社会人が受講しやすい工夫が必要。
  《再教育の必要性》企業従事者は社内教育で、大学関係者は学会等を通じて、知識をリフレッシュする機会に恵まれている。薬剤師も、大学において再教育を受けるなど、常に知識をリフレッシュする努力が必要。
  《現在の4年制教育を受けた薬剤師のケア》現行の4年制学部教育を受けて薬剤師になった者に対し、制度の移行に伴うケアを行うことが必要ではないか。


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