(1) |
薬学教育のカリキュラムの在り方 【多様性への対応】
○ |
薬学の範囲は幅が広く、薬学教育カリキュラムの在り方の検討に当たっては、その内容、及びこれを学ぶ学生の進路の多様性に対応したものである必要がある。 |
○ |
日本の薬学は、基礎研究分野にも比重を置き、カバーする分野が極めて多様性に富んでいる。この点が国際的にもユニークな存在として評価されていることを認識する必要がある。 |
○ |
薬剤師を取り巻く環境の変化に対応するため、医療薬学分野の充実が必要がある。 |
○ |
薬剤師養成に関わる内容と、基礎薬学・創薬研究に関わる内容とは分離せず、融合したものである必要がある。 |
○ |
カリキュラムの内容を考えるに当たっては、医療関係以外の、人間性を涵養するためのプログラムや、いわゆるリベラルアーツの充実も必要である。 |
【内容の精選】
○ |
科学技術の進展とともに増え続ける情報量の増大に対応し、常に内容を点検し、膨大となった情報の整理・精選が必要である。その際重要なのは、いたずらに先端知識を追うことではなく、最先端の知識の元となる習得すべき基礎がどこにあるかを明確にし、その習得を図ることを基本とすることである。 |
【指導方法の工夫】
○ |
薬学教育カリキュラムに必要な視点は、 科学技術の進展、社会からの要請対応した薬学生の育成、 知識偏重教育でなく技能・態度もバランスよく教育する、到達度を客観的に評価できること、である。 |
○ |
現状では、大学によっては、国家試験対策のために知識詰込型の教育が強いられていたり、またこれに多くの時間が割かれている例があり、この改善が必要である。 |
【国際通用性】
○ |
薬剤師養成、創薬・基礎薬学研究者養成の双方につき、国際通用性・グローバリゼーションの視点が非常に重要である。 |
|
(2) |
コアカリキュラムの考え方
○ |
「コアカリキュラム」の理念
 |
膨大な情報から基本・重要部分を摘出し精選すること |
 |
各大学の特色を踏まえた選択科目の余地や多様性を拡大すること |
 |
詰め込み教育ではなく、自己学習を奨励し、問題解決・課題探求能力を育成すること |
 |
既存の学体系・学問領域の枠にとらわれない、統合的内容であること |
 |
卒後の継続的専門教育を念頭においた、学部教育を可能とする内容であること |
 |
一般教養・準備教育とは区分した専門教育のコアであること |
 |
作成手順として、内容を精選する際には、その特定領域以外の専門家を中心としてコアの内容を確定していったこと |
|
○ |
コアカリキュラムは、全ての学生にとって共通・必修であるべき内容の部分であるが、この履修にあたり、大学の特徴により、指導・学習の方法や分野の濃淡に多様性がある。 |
○ |
コアカリキュラム以外の部分では、選択に応じた内容として、発展的なアドバンストの内容の取り入れ方などにより、大学の個性・特色に応じた多様なカリキュラムとする必要がある。
この場合の「選択に応じた内容」とは、一義的には、学生が自由に選べるという意味の選択ではなく、各大学が大学の個性・特色に応じて用意するカリキュラム内容であり、この中にその一部として学生毎の選択科目が在り得るものである。 |
○ |
モデル・コアカリキュラムとは、各大学におけるカリキュラム構築を縛るものではなく、大学が教えるべき内容、学生が学ぶべき内容を整理したものに過ぎない。この内容をいかなる形で教授するかは、各大学が知恵を絞り特性に応じて工夫すべきもの。 |
|
(3) |
薬学教育のコアカリキュラムの在り方
○ |
薬学の多様な内容、及びこれを学ぶ学生の多様な進路を考えた上で、全ての学生にとって必須なものという概念でコアを考える必要がある。
|
○ |
薬学教育においては、大きく見れば、薬剤師養成・医療薬学に関する内容と、基礎薬学・創薬研究にかかる内容とが、ある意味並列的であるが、両者がコンビネーションを保ちながら、多様な選択肢を許容し選べるコア・カリキュラムであることが大事な理念。この点において、両者に共通の学習すべき内容がコアカリキュラムと理解する必要がある。 |
○ |
実務実習についても、大学における教育の視点から、どのあたりがコアになるかを見極めることが重要。 |
|
(4) |
日本薬学会モデル・コアカリキュラム
○ |
日本薬学会モデル・コアカリキュラムは、今後の社会の変動を見据えた上で、薬剤師・基礎薬学・創薬研究者等を目指す学生が学んで欲しい内容を整理したガイドラインである。
|
○ |
このため、修業年限が6年であるということを前提としている医学教育のコア・カリキュラムとは異なり、これまでの薬学教育よりも更に必要なもの、社会から今後求められているもの等を加味してモデルカリキュラムを作成し、その7割をコアとしている。 |
○ |
残り3割に当たる部分において、各大学において選択・選択必修を加えることにより独自性を出すことを念頭においている。 |
○ |
生命科学という視点から見ると、日本薬学会のモデル・コアカリキュラムはかなり細かく出来ているとの認識。また、重複する部分も何ヶ所かあり、整理する必要があるのではないか。 |
|
(5) |
実務実習の在り方 【実務実習の意義と現状】
○ |
薬剤師を取り巻く環境の変化への対応、医療従事者としての使命感・倫理観を備える薬剤師の養成には、実務実習が重要である。また、医療を理解することは、基礎薬学・創薬研究に携わる者にとっても重要である。
|
○ |
平成8年の協力者会議の最終まとめでは、当時2週間程度であった実務実習期間を、当面4週間程度を目標に長期化し、内容も充実させることとされた。
現在は、10日間から19日間の実習を必修としている大学10、20日〜29日24大学、30日以上1大学であるが、他方、選択のみとしている大学は、それぞれ2大学、9大学(30日以上なし)となっている。
また、病院実習・薬局実習の割合、指導体制の中での大学の関与は、実習先ではほとんど大学が関与していない場合、あるいは大学が指導を行っている場合など、様々である。 |
○ |
体験を通じて学ぶ実習の意義が大きく、臨床面での教育を充実させるためには実務実習の期間を現在よりも長期化する必要がある。 |
○ |
平成8年の協力者会議のまとめでは、それまで2週間程度しか行われていなかった実務実習を4週間を目標に充実することが提言されているが、7年経ったいまでも実習を選択にしている大学もある。どうあるべきかを語ると同時に、現状を直視し、実行可能性にも配慮した案を考えていくべきである。 |
○ |
学生の質も指導者も施設もきちんと整っている理想形の実務実習をどこの大学でもできるようにするには、条件整備が必要である。 |
【実務実習内容の在り方】
○ |
実務実習の内容についても、コア・カリキュラムに位置付けることは必要である。 |
○ |
実務実習を通じて、病院実習と薬局実習の相違点を理解することが重要である。 |
○ |
日本薬学会の実習ガイドラインは、実務実習に関してはコアの概念で作っていない。これは、現状では実務実習を行うハード面、ソフト面いずれも条件がそろっておらず、コア化の作業が難しいためである。また、実務実習については今後の課題として大学の意識もまだ希薄であり、あまり意見が出なかったことは事実である。 |
○ |
実務実習において、実際に調剤に関わることが必要となるが、そのためにも実務実習前に、医学・歯学教育と同様の共用試験を行う必要があるのではないか。 |
○ |
実務実習の充実にはコストがかかるが、これは大学がきちんと確保すべきものである。特に私立大学においては、学生の負担にせざるを得ない。 |
○ |
実務実習では、実習生一人ひとりのレベルの違いが問題であり、コアカリキュラムだけでは対処できないのではないか。今後どうやって教える内容を標準化していくかが課題である。 |
【指導体制の在り方】
○ |
実務実習は、大学における教育として行われるものであるから、実習先に任せきりではなく、大学が指導に責任を持つ必要がある。またその質は、大学教育として行われる以上、最終的に大学の責任において担保されるべきものである。 |
○ |
医療現場は、本来医療を行うことを本務としているのであり、実務実習の受入にあたり医療現場に混乱を来すようなことがあってはならない。指導体制の構築にあたっては、大学の関与が不可欠である。 |
○ |
特に病院においては、チーム医療の一員としての薬剤師の役割について認識を深める実習である必要がある。病院での実務実習指導は薬剤師のみならず、医師や看護師を含めた、病院一体となった指導体制が重要である。 |
【共用試験の実施】
○ |
実務実習の前に学生の質を保障するという意味で、共用試験の実施が必要である。 |
○ |
医学の場合、かつて実習は見学中心だったが、診療参加型の実習に変えるために共用試験が導入された。共用試験は、知識問題解決能力をみる試験と技能・態度をみる試験の2本柱で行っている。これが薬学の場合でも参考になるのではないか。 |
○ |
共用試験とコアカリキュラムの関連について、医学の例も参考にしながら、検討する必要がある。 |
|
(6) |
実務実習の受け入れ 【受入方策】
○ |
薬局における実務実習は、これまで大学が個々の薬局との契約により行ってきた。日本薬剤師会では、今後、個々の対応ではなく組織対応とし、当面は地区調整機構の下部組織として薬局実務実習関連業務のみを行う調整機関を置き、地区薬剤師会、地区調整機構内大学関係者で共同で運営する方針。 |
○ |
日本医療薬学会では認定薬剤師制度を設けており、現在、指導薬剤師がいる研修施設は全国で206箇所である。今後とも充実させて行く方針であり、学会としても実務実習の受入れについて準備している。 |
○ |
現在は薬局と病院とで実務実習受入体制を別々に構築しているが、将来一本化することで合意がとれている。 |
○ |
指導者の資格についてはいまのところ厳密な評価体制はないが、将来的には指導者の資格評価はきちんとしなくてはならない。 |
○ |
日本薬剤師会は、指導者の質の担保に関して、当面は自主的に資格要件を設定して確保するが、将来的には第三者評価機関(薬学教育協議会)が行う予定である。 |
○ |
病院における実務実習では、病院により薬剤師の業務も異なり、実習内容に差が出ることとなるが、例えばグループ化して小さな病院等も対象とするなどの工夫が必要である。 |
【受入可能性】
○ |
薬剤師はその病院の薬剤業務を行うことが第一任務である。病院薬剤師の人数は非常に厳しい状態にある。各病院において経営方針も全て異なっており、実務実習の受入は病院次第である。現状でも、学生の希望が多いにもかかわらず、その全てを受け入れるだけのキャパシティが病院にはない。 |
○ |
内容についての議論や実習先の確保策についての議論がなく、単に「実習を長期化すればいい」との議論であると危険。 |
○ |
医療現場は、多忙かつ常に緊張を要する職場であり、実務実習を長期化して受け入れるには、現状においては受入体制が不備であると感じる。 |
○ |
実習を受け入れる各病院・薬局において、具体的に、どの内容をどのように指導し、何人受け入れ、指導体制をいかに構築するかは、非常に難しい問題である。 |
【大学附属病院での実務実習】
○ |
大学附属病院には、コメディカルスタッフも含めた、将来の医療を担う医療従事者の育成を図る教育研修機能があり、薬学生の実務実習についても積極的に受け入れる必要がある。 |
○ |
長期間にわたる実習は、教育研究施設としての附属病院があるから可能であり、附属病院を持たない単科薬科大学ではその意味で困難な面がある。 |
|