審議会情報へ
資料1

薬学教育の改善・充実に関する調査研究協力者会議(第4回)議事要旨(案)

1.日    時 平成15年1月22日(水)10:00〜12:00

2.場    所 文部科学省分館201・202特別会議室

3.出席者 末松座長、佐藤副座長、野村副座長、秋尾、市川、乾、北澤、桐野、佐村、全田、高柳、舘、寺田、富田、福田、望月、矢内原、吉岡の各協力者
日本薬剤師会児玉孝理事、日本病院薬剤師会矢後和夫副会長
文部科学省: 遠藤高等教育局長、木谷審議官、小松医学教育課長、新田課長補佐、宮田課長補佐、ほか関係官

4.議事    
  (1) 前回に引き続き、カリキュラムの在り方について議論があり、各委員が作成するカリキュラムのチャート例は、日本薬学会のモデル・コアカリキュラムを参考に、これまで議論したカリキュラムの在り方を踏まえ、参考することになった。カリキュラムの在り方について主な意見の概要は以下のとおり。(○:委員、←:質問に対する発言)
   ○    薬学教育のモデル・コアカリキュラムは、医学のものと共通の問題点を抱えている。研究者育成と薬剤師育成がひとつの学部で行われていることであり、片一方だけとはいかない。医学の場合も同様であった。良い医師の育成を国民は求めており、他方で先端の生命科学の研究等も必要。医学の場合、コア・カリキュラムとは両者に共通の学習すべき内容にすべきとの結論に達した。それぞれに必要なものは選択制コースをつくることで対応することが大事。どのような領域でも共通なものをコアカリキュラムにすべきである。
   ○    薬学教育のコアカリキュラムの考え方は医学教育のコアカリキュラムと同様に全体の3分の2程度を分量と考えているのか。
   ←    実務系と研究系の両方に共有し、必要・必須なものがコアであるという概念で進め、全教官に意見を聞いて作成した。これが全体の7割になり、残り3割で選択・選択必須を付け加えることで独自性が出る。
   医学教育の場合と異なるのは、医学教育の場合修業年限が6年ということからスタートしているが、薬学教育の場合は今までのよりも更に必要なもの、社会から求められているもの等を加味してモデルカリキュラムを作り、その7割をコアカリキュラムとした点。今4年間で行っているカリキュラムを7割にしたものではない。その意味で細かすぎる、大きすぎるということになるのかもしれないが、今現在実務を担当している教員が必要と考えるもの、社会から足りないといわれているものを加味したものから7割にした。
   ○    医学教育において、米国型のメディカルスクールと同じようなシステムを学士編入学制度として日本でも導入した。各大学の事情によっても異なるが、4年〜4年半で卒業する。この点はコアカリキュラム策定の際も考慮しており、4年でも対応できる。これは年数の問題ではなく内容の問題であると感じた。医学教育のコアカリキュラムの内容はこれでも多いという批判が強い。
   ○    昨年出たイギリスのトゥモローズドクターについては、医師養成に偏っている傾向があり、その弊害が指摘され、研究者育成も併せてやるべきであるという指摘が強く出ている。
   ○    カリキュラム以前の問題として、薬学の場合「実務者(薬剤師)」と「研究者」とのみの分類は妥当ではない。「研究者」というと純粋の研究者というイメージがあり誤解を招く。医学の場合はほとんどが実務者(医師)で、「研究者」の割合は極めて低いと推測するが、薬学の場合は分布が非常に多様性を持っており、全体に占める「研究者」の割合も高くないが、他方薬剤師として実務に就く者の割合も大学により異なり私学でも新卒者の50%に満たない大学もある。これらをまとめて単に「研究者」、「実務者」とのみ区分・分類することは不適当ではないか。
   このように考えた場合、カリキュラムの在り方の検討にあたっては、広く薬学卒業生が社会に出て働く場合に学ぶべき基本は何かということが重要なのではないか。
   ○    北大薬学部・大学院の卒業生の進路についてまとめたので、参考にご報告させていただく。学部卒では約7割が進学、薬剤師が1割、2割がその他となっている。修士修了者では約3割が進学、研究職への就職3割強、薬剤師が1割、その他が3割となっている。博士課程修了者では、ポスドクが4割弱、研究職への就職2割、薬剤師1割強、その他が3割となっている。その他としては、製薬企業以外に、化学メーカー、食品企業、市役所、銀行などもあり、多様な進路となっている。
   ○    多様な進路まで考慮したコアに加え、薬剤師養成・研究者養成それぞれに必要な部分を選択にまかせるという議論になっていると思うが、この場合、薬剤師養成を考えた場合では個々の学生の選択ではない部分を要求しなくてはならず、他方、研究者養成も同様の部分があり、これら要求されるものを全てコアの部分に入れるので、コアの部分が膨らむことになる。
   ○    国際通用性を考えると、それぞれの出口で求めるものをはっきりさせるべきではないか。
   日本では学生は学科に属し、卒業時には学部卒という概念である。アメリカは、同一の学科・学部に属していても、この勉強をするとこの能力がつくという「プログラム」を単位とする発想であり、それぞれの学生が自らに必要な科目の集合であるプログラムを選択するという発想である。このような発想に切り替えないと多様性に対応できないのではないか。
   ○    薬剤師養成・研究者養成のそれぞれにおいて基礎となる科目が用意され、個人が出口に応じて勝手に選択するのではなく、大学の責任でプログラムをつくらないといけない。
   今のコアカリキュラムは全てに共通するもののコアカリキュラムであるが、薬剤師養成・研究者養成、それ以外の薬に関係していく方面のそれぞれのコアというものが必要なのではないか。このようにした場合、本来のコアは小さくて済むのではないか。
   ○    各個人が出口に応じて勝手に選択するのではなく、日本ではコースと呼んでいるが、あるコースに入ったら取るべき科目は指定している。
   ○    薬学のモデル・コアカリキュラムは薬剤師になる人に必要なものは含まなくてはいけないという考えで作成されている。薬学部は薬剤師養成を独占している学部であるため、そこの部分はきちんとしないといけないが、今後の薬剤師は例えば研究者的な態度がないと現場のいろいろな問題に対応できないので、そういったものも加味している。
   ○    コア以外の部分を選択でという場合の「選択制」とは、各学生が勝手に選択するという意味の「選択」ではなく、各大学が個性・特徴に応じ必修科目をコースとして用意するという意味の選択と理解している。
   ○    アメリカ英語では「コース」とは1つ1つの授業科目を指している。このコアカリキュラムは全てに共通するコアと薬剤師養成に必要なものを含んだものであるという整理であると理解した。
   ○    「カリキュラム」という言葉の恐ろしさを改めて感じる。「モデル・コアカリキュラム」とは、各大学におけるカリキュラム構築を縛るものではなく、教えなければいけない内容、学生が学習しなければいけない内容を整理したものに過ぎず、この内容をいかなる形で学習する、あるいは教育するかは、各大学が知恵を絞り、大学の特性に応じ工夫すべきもの。
   ○    現状では大学によっては国家試験対策のために多くの時間を費やされ、卒論実習をしていないところもあるが、本来大学教育として、薬学のカリキュラムの中には、卒業実習が含まれるべき。卒業実習の中でより深い研究者となるべき教育、あるいはより臨床に根ざした薬剤師となる教育など多様な進路づけが可能となる。
   ○    薬学部は唯一薬剤師の受験資格を持っている学部であると強く認識すべき。薬学の基本は人との絡みを持った学問であるということ。

   (2) 高柳委員より「製薬企業から大学における薬学教育に期待すること」について説明があった。説明及び質疑の概要は以下のとおり。(○:委員、→:質問に対する発言)
   ○    製薬企業は、研究・開発・製造・学術・営業の側面を有するが、これらの側面を通じ、医薬品の適正使用のための情報の創製に関わるものである。
   ○    製薬企業における全ての業務を通じ、薬学出身者にとって理解が必要な基本的項目としては、生命倫理、品質・信頼性、生体恒常性維持の仕組み、疾病発症の仕組み、医療現場の実態が挙げられる。
   ○    薬学出身者に望まれる知識としては、1研究部門では、業務内容に関しては、実験計画の立案、化学合成、毒性試験、薬理試験があり、業務遂行に必要な知識としては、ゲノム・遺伝子、薬理・薬剤学、薬物動態学、病理学など、2開発部門では、業務内容については、試験計画の立案、モニタリングなどがあり、業務遂行に必要な知識としては、薬理学、薬剤学、Regulatory Scienceなど、3製造部門では、業務内容について、製造管理、品質管理、業務遂行に必要な知識として、製剤(薬剤学)、医薬品分析の知識や技能などがある。また4学術部門では、業務内容について、市販後調査計画の立案、モニタリング、データマネジメントなど、業務遂行に必要な知識として薬理学、薬剤学、薬力学など、5営業部門では、業務内容について、製品情報説明、安全性情報伝達などがあり、業務遂行に必要な知識として、薬事法、疾病に関する知識などがある。

   ○    今の薬剤師は企業において望ましいと考えるか。
   ←    薬剤師として教育を受けた方は医療現場を十分経験しており、企業から見ても望ましい。
   ○    研究部門1の業務内容として薬学出身者に望まれる知識として、は実験計画の立案、化学合成、スクリーニング、遺伝子組み替え実験、ゲノム解析などがあるが、これらの内容であれば、理学出身でも問題ないのではないか。
   ←    他の学部出身者を否定しているわけではない。理想的な創薬研究者としては、患者にいち早く、良い薬を届けるという強い使命感が必要。総合的な知識・情報がないと薬はできないが、薬学部出身者であれば総合的な専門性が整っている。
   ○    望まれる知識として挙げられた内容は非常に専門性が高く、また日進月歩の分野であり、これを全て学部にいる間に修得するのは無理なのではないか。また学生時代に学んだことがずっとそのままの形で生かされる分野とは到底思えない。それぞれの分野に沿って、専門性が高い内容を卒業後も勉強して行くために、大学時代に何を勉強していくのが必要なのかという視点で、コアカリキュラムを考えた方がいいのではないか。
   ○    業務遂行に必要な知識として例えば、ゲノム・遺伝子とあるが、これは最先端で行われているゲノム・遺伝子の研究を指すのではなく、ゲノムとは何か、遺伝子とは何かという基礎であって、それを十分理解さえしておけば応用が利くという内容が必須。基礎なくして応用は絶対出来ないが、応用問題の暗記だけをさせておくのでは、日進月歩の科学の理解は到底できない。自分で物事を考えて解決できる人間を育てる教育が薬学のみならず教育全般で求められており、企業も、社会で役立つ全てのことを卒業生には求めているのではなく、その基礎を求めているものと思うがどうか。
   ←    そのとおり。各論的な問題等は、企業の中できちんと教育するという考え方。
   ○    薬学部卒業生に求められる、品質信頼性ということは、薬を物質的なものとして基本的に理解する力だと思われるがいかがか。
   ←    倫理性と科学性が製薬企業など医療の仕事では特に大事であり、両方の意味を含めての品質信頼性である。
   ○    つまるところ、企業ではこのようなことをやっているので、それをこなせる人間の養成をして欲しいということと理解。

   (3) 日本薬剤師会、日本病院薬剤師会より「実務実習の在り方」に関し、実務実習の受け入れ方策について発表があった。質疑の内容は以下のとおり。(○:委員、←:質問に対する発言)
  1 日本薬剤師会
   ○    平成13年度の学生の薬局実務実習の受け入れ実績は、薬学生約八千数百名中2767名。薬局での実務実習が遅れているのは病院実習から先行したこと、薬局業務は物販であるというイメージがあり薬局での実務実習について理解が得られていないこと、薬局は小規模であることが多く調整が難しいという理由がある。
   ○    薬局での実務実習の基本的な考え方として、実務実習は薬学教育の大学の授業の一環として位置付けられ、病院及び薬局における両方の実務実習を受ける必要がある。また薬学部は医学部・歯学部と異なり附属病院を持たないため、諸外国と同様に実習を外部に委託するという特性を十分に認識する必要がある。
   ○    病院での実習と薬局での実習の相違点を大学・学生が理解することが必要。薬局実務実習をすると幅広い知識が必要だと実感する。薬局ではカルテを見ることができないことから、薬局独自の調剤がある。薬局では医薬品だけでなく、工業薬品等も供給することから、あらゆる医薬品の知識が必要。地域の医療、学校保健、生活習慣病、在宅介護等を学ぶことが基本となり、病院実習とは異なる。
   ○    従来は全国8地区で薬学部学生の病院・薬局実務実習に関する協議会(地区調整機構)で調整していたが、実体は病院実習が中心となっていた。今後の薬局実務実習については均一性・公平性・長期化をふまえたシステムとして、個々の対応ではなく組織対応とし、当面は地区調整機構の下部組織として薬局実務実習関連業務のみを行う調整機関を置き、地区薬剤師会、地区調整機構内大学関係者で共同で運営する。少なくとも平成15年度中に全国的に立ち上げ、平成16年度の薬局実務実習についてはすべてこのシステムで動けるよう努力している。
   ○    全国の均一性、公平性を担保するためには、統一実習カリキュラムの作成等の課題がある。
   ○    当面は自主的に実習受け入れ薬局、指導薬剤師の基準を決め運営するが、将来的には第三者機関的な全国組織が一括して行い、日本薬剤師会の会員・非会員を問わず、一定の認定基準をクリアすれば対象となるようにできるのではないか。
   ○    現在、現地に赴きシステムの理解をいただくための努力をしており、また調整機関が中心となって大学側に薬局を見ていただく見学会を行っている。

  2 日本病院薬剤師会
   ○    今は薬学教育改革に向けての過渡期であり、薬局と病院で実務実習体制を別々に構築しているが、将来一本化するということで日本薬剤師会とも合意がとれている。
   ○    医療従事者としての使命感、倫理観を備える薬剤師の育成には、医療現場での実務実習が不可欠。医師や看護師教育に比べ実務実習の期間が圧倒的に少ないのが現状である。
   ○    薬剤師がどのような形で患者、治療に関わっているかを学生に認識させることは大事。
   ○    現状では、病院における実務実習受入学生は、平成14年度で8,566人である。
   ○    以前は学生が現場に来るのが夏休み、春休みと限られていたが、今はほぼ一年通して学生を受け入れているところもある。
   ○    長期実習の受け入れには三つの問題点がある。一つは首都圏に学生、薬学部が集中しているため、首都圏近郊だけで施設を確保することは困難である。二つ目は薬剤部の業務が病院によって格差がある。三つ目は医療現場で実習に対する教育を行うための負担が増え、更に教育の質の確保を考えるとマンパワーの問題がある。三つ目については今後薬科大学等と連携したいと考えている。
   ○    学生が出身地に戻ってふるさと実習をした場合をシュミレーションすると、1回の受け入れでは厳しいが、2回であればほぼ受け入れは可能。今迄の病院と大学が一対一での対応は、質の確保を考えると問題がある。
   ○    実習項目の均一化と質を確保するためにグループ化し、実習に必要な業務の一部行っていない場合、その部分は別の病院で実習する。現在神奈川県でモデル事業を検討しており、全国レベルのシステム作りに反映させることを考えている。
   ○    今までの実績を踏まえると受け入れ態勢を作ることは十分可能。ただし、マンパワーの問題が心配である。
   ○    日本病院薬剤師会は、今後の薬学教育に対して全面的な形で協力させていただきたいと考えている。

   ○    実務実習の効果は極めて大きいと実感しているが、薬剤師はその病院の薬剤業務を行うことが第一任務であり、教育をすることも重要な役割ではあるが、各病院においては経営方針も全て異なるものであり、それをどう受け取るかは病院次第と理解。一方、就職についても現状でも、学生の病院への就職希望が多いにも関わらず、それを十分受け入れるだけのキャパシティが病院にはない。そのような周辺の条件はどうなっており、またマンパワーについて大学に協力をお願いするとあったがどういう意味であるのか。
   ←    具体的な方策については大学側と具体的に詰める必要があるが、一例としては、今後受け入れ施設数・受入人数を増やすため、グループ化して小さな病院等も拾い上げて様々な受け皿を用意して行く必要がある。
   本来、病院に対し大学の教員を送っていただきたいとの現場の声もあるが、それは数的に絶対不可能と理解。
   今、病院薬剤師の人数は非常に厳しい状態にあり、病院によっては学生教育をする位ならもっと現業をやれという病院があるのも事実。これらも考えると教育スタッフが病院に十分という状態では決してない。
   これらの現状を考えると、複数の病院のグループの中に教員が入り、実務実習教育に参画して欲しいと言うのが、現在考えている1つの例。詳細は今後議論する必要。
   ○    国立大学の薬剤部長会議でも、実務実習にどのように加わり貢献していくか色々努力している。国立大学附属病院でも地域によっては十分キャパシティがある。日本病院薬剤師会等でグループ化をしているが、それらと今の調整機構のシステムを併用すれば十分実習は可能と考える。国立大学附属病院も実習に関し各府県の中核病院として積極的に関わることは十分出来ると考える。
   ○    学生の実務実習に対する評価のアンケートの結果があるが、学生が実務実習からインパクトを受けている雰囲気が理解できる。日本病院薬剤師会と日本薬剤師会の双方が連携すれば、学生も満足する実習が出来ると思う。

   (4) 次回は、実務実習の在り方を中心に議論することとなった。

   (5) 閉会



ページの先頭へ