資料3 大学への早期入学及び高等学校・大学間の接続の改善に関する協議会報告書(案)-一人一人の個性を伸ばす教育を目指して-

平成19年3月○日

背景・基本的な考え方について

  大学への早期入学(いわゆる「飛び入学」)は、我が国の教育において形式的な平等が重視される余り、子ども一人一人の個性に応じた教育を進めるという観点からの取組が必ずしも十分ではなかった等の指摘を踏まえ、平成9年の学校教育法施行規則等の一部改正により、数学又は物理学の分野に限定して制度化された。この後、平成13年には、学校教育法等の一部改正により、対象分野を問わず、各大学の自主的な判断において、飛び入学を実施することが可能となっている。

  これまで、平成10年度に千葉大学が、平成13年度に名城大学がそれぞれ飛び入学生の受け入れを開始し、その取組を継続している。加えて、平成17年度入試においては新たに昭和女子大学、成城大学、エリザベト音楽大学が飛び入学制度による学生募集を開始し、平成18年度入試においては会津大学が新たに飛び入学生の受け入れを開始したところである。しかし、全体として見て、未だその取組が定着しているとは言い難い状況にある。

  また、高等学校の多様化と選択の幅の拡大により生徒の能力や履修歴等の多様化が進む中、飛び入学という形態以外でも、高等学校の生徒に対して大学レベルの教育研究に触れる機会を与える等、高等学校と大学の連携を拡大することで個人の持つ多様で特色ある能力や個性を効果的に伸ばしていくための取組を進めることが強く求められている。

  これらの状況等を踏まえ、飛び入学制度の適切な運用及びその活用の在り方並びに高等学校と大学との接続において一人一人の能力をより一層伸ばしていくための連携の在り方に関し協議を行うため、平成17年3月に「大学への早期入学及び高等学校・大学間の接続に関する協議会」(以下「協議会」という。)が設置された。協議会としては、これまで、飛び入学や高大連携に関する事例報告の聴取や各大学に対するアンケート調査、千葉大学先進科学研究教育センターへの視察を行いつつ、協議を進めてきたところである。

  なお、高等学校・大学間の接続の場面においては、昨今、大学生の学力が低下しているのではないかという指摘や、高等学校教育の多様化に対応し大学における初年次教育あるいはリメディアル教育の重要性を指摘する声もある。このような高等学校・大学間の接続全体に関する議論については、今後、中央教育審議会等において更なる議論がなされることが期待されるが、ここでは、特定の分野において特に優れた資質を有する者や大学レベルの教育研究に触れる機会を希望する高い能力と強い意欲を持つ者の個性・能力を効果的に伸ばしていくということに主眼を置き、そのための推進方策について具体的に検討を行うものである。

  この「大学への早期入学及び高等学校・大学間の接続の改善に関する協議会報告書」(以下「報告書」)は、協議会において協議された論点とそれに対する考え方をとりまとめたものである。報告書を踏まえ、国、各地方公共団体、各高等学校、各大学等において、生徒・学生一人一人の能力の伸長に向けた更なる取組が進展することを期待する。

1. 大学への早期入学(飛び入学)と、高等学校と大学との接続における一人一人の能力を伸ばすための連携(高大連携)の検討の視点について

飛び入学と高大連携における共通点

  高等教育を受けるのに十分な能力と意欲を有する生徒が、大学において学ぶあるいは大学レベルの教育研究に触れることにより、それぞれの生徒の視点に立って一人一人が持つ多様で特色ある能力や個性を効果的に伸ばすことを目指すという点においては、飛び入学と高大連携は、互いに共通する意味を持つ。

  また、飛び入学に関する課題、高大連携に関する課題は、それぞれの課題の中で閉じているものではなく、相互に関連させながら、他の関連課題とも相俟って論じられていくことが重要と考えられる。

飛び入学と高大連携において区別して考えるべき点

  もっとも、飛び入学は、「特に優れた資質を有すると認めるもの」を対象とした、学校教育体系上例外的な制度であり、選抜の実施や制度の運用等の責任主体は、一義的には大学側となるのに対し、高大連携は大学レベルの教育研究を高等学校の生徒に触れさせるという形であるため、高等学校側も責任主体となるものである。したがって、両者は区別して検討を進めることも必要である。

検討の進め方

  これらを踏まえ、報告書では、飛び入学・高大連携それぞれの詳細についての検討は項を分けて進めながら、その上で、飛び入学や高大連携を活用した「高等学校と大学との接続において、一人一人の能力を伸ばす」ための方策について総合的に検討することとする。

2. 大学への早期入学(飛び入学)制度の適切な運用及びその活用の在り方について

(1) 飛び入学の位置付け

  21世紀は、新しい知識・情報・技術が、政治・経済・文化をはじめ社会のあらゆる領域での活動の基盤として飛躍的に重要性を増す、いわゆる「知識基盤社会」の時代であると言われている。かかる中では、先見性・創造性・独創性に富み卓越した人材を養成することが重要である。

  戦後の我が国の学校教育は、量的にも質的にも著しく普及発展し、我が国の成長と発展に大きく寄与してきたが、全体的な教育水準の向上が重視される中で、年齢に基づく平等性を重視する余り、ややもすれば一人一人の子どもの能力・適性に応じた教育を進めるという視点からの取組が必ずしも十分ではないという指摘が従来なされていたところである。

  以上を踏まえ、大学への飛び入学は、一人一人の能力・適性に応じた教育を進め、特定分野において卓越した能力を有する人材の養成を図る観点から、特定の分野で特に優れた資質を有する者について、通常の高等学校教育の課程で学ばせるよりもむしろ早期から大学の高度で専門的な教育を受けさせることによってその才能の一層の伸長を図るために制度化された。

  また、平成18年度においては、18歳人口を基準とした大学と短期大学を併せた進学率は52.3パーセントにまで達している。

  進学率の上昇に伴う高等教育の大衆化や高等学校段階までの履修内容の変化等によって、大学入学者について履修歴の多様化が一層進み、このことが大学入学者の知識・能力等の多様化を招いているとの指摘もある。

  以上のような中で、多様性を受け止めることができる仕組みを、日本の教育の中にも今後ともなお一層確保していく必要があると考えられる。

  大学への飛び入学は、能力・適性に応じたより柔軟な教育の展開による、一人一人の資質の伸長、及び我が国の学校教育全体としての教育の多様化・弾力化を推進する契機となりうるものと考えられる。

  今後、この飛び入学制度のねらいを果たすことができるよう、適切な形での運用・活用が一層図られる必要がある。

  そのために、以下、これまでの飛び入学の実施状況や現行の大学への飛び入学が抱える諸課題等についての検証を行うとともに、今後の飛び入学制度の更なる活用に向けた考え方をまとめる。

(2) これまでの飛び入学の実施状況等

1.千葉大学・名城大学・会津大学における取組、取組の評価

  これまで、千葉大学は、平成10年度から平成18年度までの間で、41名の飛び入学生を受け入れ、名城大学も、平成13年度から18年度までの間、20名の飛び入学生を受け入れてきた。さらに、平成18年度入試においては、会津大学が新たに1名の飛び入学生を受け入れた。

  千葉大学からの報告によれば、飛び入学生は、多事にわたって意欲が豊富で、自発的に勉学・諸活動に参加しており、極めて躍動的とのことである。加えて、飛び入学生の存在が、一般入学生や教員・事務職員にも意識改革をもたらしているとのことであった。

  また、飛び入学生のうち、千葉大学及び名城大学を既に卒業した者の大半は、現在大学院に進学し学習を継続している。

  協議会としても、千葉大学の先進科学研究教育センターへの視察を実施し、飛び入学生自身から、飛び入学制度に対する考え方や、大学での学習に対する旺盛な好奇心等を実地に確認した。前例のない制度への取組に対して、一定の評価ができるものと考えられる。

  もっとも、飛び入学制度による人材育成の効果についての本格的な評価は、中長期的観点に立って行う必要があり、拙速は避けねばならないが、今後、飛び入学を実施する大学においては、学校教育法施行規則上規定されている飛び入学制度の運用状況についての自己点検・評価を引き続き行うとともに、国においては、今後とも飛び入学制度の運用の進捗状況等を的確に把握し、更なる改善策を検討していく必要がある。

2.平成17年度、18年度からの新実施大学の状況

  平成17年度入試から昭和女子大学、成城大学、エリザベト音楽大学が飛び入学制度による学生募集を開始し、平成18年度入試では新たに会津大学が飛び入学生の受け入れを開始したところである。

  しかし、例えば、平成17年度の新規募集大学には未だ飛び入学生の受け入れ実績がない(平成18年度現在)ことなどを踏まえると、未だ取組として定着しているとは言えないものと考えられる。

3.これまで飛び入学の件数が伸びてこなかった要因

  これまで飛び入学の件数が伸びてこなかった要因については、複数考えられるところである。例えば、

  • 飛び入学制度を導入することにより、個人・大学・社会にもたらされる効果が明確ではない
  • 大学側の教育目的達成のために、必ずしも飛び入学の実施の必要がない
  • 教育における、年齢に基づく「公平性」「平等性」の考え方が強く存在する
  • 生徒の友人や保護者など、生徒の周囲の者が定められた年齢よりも早く進級・進学するという文化に慣れていない
  • 学校教育法施行規則上、飛び入学生を入学させる大学は、出願者が特に優れた資質を有すると認めるに当たっては、入学しようとする者の在学する学校の推薦を求める等により、適切に飛び入学制度が運用されるよう工夫を行うものとされているが、飛び入学出願の際にこの推薦を行わない高等学校がある
  • 大学が飛び入学制度の導入による業務の増加を望まない
  • (一般学生と同じ学費で、飛び入学生を対象に、特別に手厚い教育環境を整備することは、)特に私学では、学生への説明責任に耐えられない

  等の点が、その要因として考えられる。

  また、文部科学省において実施した調査結果によると、平成16年度現在、全697大学・1,823学部中、飛び入学の実施を検討している大学は、29大学・50学部にとどまり、実施の予定はないと回答した大学は、666大学・1,765学部となっている。
  このうち、平成15年度に実施した同じ調査において「実施の予定はない」と回答した1,658学部は、飛び入学実施の検討を行っていない要因について、

  • 飛び入学させることは教育上課題が多いという見解を持っている(36.4パーセント)
  • 学校教育法第56条第2項に定める「特に優れた資質を有すると認めるもの」の判断が困難(31.9パーセント)
  • 他の大学でもほとんど実施されていない(25.6パーセント)
  • 関係法令等で大学側に求められている飛び入学させた者への特別な配慮を行うことが困難(21.2パーセント)

等の事柄を挙げたところである。

  さらに、協議会においては、平成16年度調査において「飛び入学の実施を検討している」とした50学部に対し、現に各大学において制度導入に向けて障害となっている事項を明らかにするため、追加アンケート調査を実施した。
   アンケート調査結果によると、各大学での検討体制については、88.9パーセントの学部が個人または複数の担当者による検討にとどまっており、組織的な検討にまで至っていない実情がうかがえた。
   また、具体的に制度導入の障壁となっている事項としては、

  • 「特に優れた資質」を有する者の選抜方法や高等学校長の推薦等(36.1パーセント)
  • 「飛び入学」させた者に対する指導体制の整備(36.1パーセント)
  • 大学運営上のメリット等の有無(25.0パーセント)

等の事柄が挙げられるとともに、具体的には、

  • 特に社会科学の分野において「特に優れた資質」の判定が困難
  • 少数の入学者のために特別のカリキュラム編成や教育上の指導体制を整えることが困難
  • 制度導入のために解決すべき課題が多い反面、対象となる学生の数もそれほど多くなく、メリットが少ない

等の回答が寄せられたところである。特に、各大学の指導体制の整備に関するイメージとしては、

  • 制度実施に当たる組織が必要である
  • 制度を運用するための財政的基盤が必要である
  • 優秀な専任の教員スタッフが必要である

等、飛び入学の指導体制に対する負担感を感じさせる回答も多く寄せられた。
   その他、国による財政的支援を求める意見も寄せられた。

(3) 飛び入学制度の活用に向けて

1.「特に優れた資質」の具体的な捉え方の検討

  大学への飛び入学者は、学校教育法上「当該大学の定める分野において特に優れた資質を有すると認めるもの」とされている。

  具体的に、この「特に優れた資質」とは、特定の分野で他に抜きん出て優れた才能であることを指し、分野により異なるが、例えば、総合化する思考力、構想力、斬新な発想や独創的な考えを提起する力、理解の早さ又は意欲の強さ等の点において極めて高い能力を有すること等が考えられると示されている(平成13年12月27日 13文科高第1396号 学校教育法施行規則の一部改正等について)。

  また、そもそも高等教育段階である大学における学びは、学生自身が主体的な問題意識を持って学習を進めていくことに拠るものが大きく、そうした資質と意欲、適応力は飛び入学により大学に入学する者にも当然求められる。

  現行の飛び入学制度は、一般の学校制度の枠内における取扱ではその個性や才能を十分に発揮できないほどの特に優れた資質を有する者に、大学において高度で専門的な指導を受けさせることによりその才能を一層伸長させることが望まれているものであり、例えば、単に通常の試験で高得点を取るような者をその対象として想定しているものではない。

  一方で、前述の文部科学省調査結果によると、「飛び入学の実施の予定はない」と回答した大学学部のうち、31.9パーセントが、「特に優れた資質を有すると認めるもの」の判断が困難であることを、実施の検討を行っていない要因に挙げるとともに、前述のアンケート調査結果によっても、「特に優れた資質」の判断が困難であると感じられていることが明らかになった。また、飛び入学生の推薦を行うこととなる高等学校側にとっても、「特に優れた資質」の判断が困難であり、このことが高等学校側に飛び入学生の推薦を躊躇させることにつながりうるものと考えられる。これらより、「特に優れた資質」を有するか否かの具体的な判断方法の確立を求める指摘もある。

  もとより、「特に優れた資質」の判断方法は国が一律に定めるべきものではなく、学問分野ごと及び各大学の個性・特色等により「特に優れた資質」の捉え方は変わりうるものであり、画一的な判断基準を作成することはその性質上困難と考えられるが、協議会においては、例えば分野別の国際的なコンテストの結果の活用の可能性を検討することも有用との考えから、国際化学オリンピック関係者へのヒアリングを行った。

  そこでの報告によると、分野別の国際的なコンテストにおいては、難問に対して論理を一つ一つ着実に積み重ねることで正解へ辿り着く能力などが試され、そこに参加する者の意欲・能力は非常に高く、当該分野の大学教育を受けるにふさわしい能力を有する者が多いとのことであった。そのような能力を測る上で、主催者側が大学の教員による個別指導や合宿指導等を通じ、長期間に渡って個々の生徒の意欲・能力を丁寧に把握しようと努めていることは着目に値する。実際の選抜に際しては、各大学の教育理念・目標に従い、更なる審査が必要となることもあろうが、「特に優れた資質」を判定する上での一つの有効な基準となりうる。

  また、実際の飛び入学実施主体である大学・高等学校双方の間においても、「特に優れた資質」について共通理解を持つことができるよう、相互の連携協力を深めていくことが望まれる。

2.飛び入学生の選抜方法、飛び入学生に対する指導体制の在り方の検討

(選抜方法)

  学校教育法施行規則上、飛び入学生を入学させる大学は、出願者が特に優れた資質を有すると認めるに当たっては、入学しようとする者の在学する学校の校長の推薦を求める等により、適切に飛び入学制度が運用されるよう工夫を行うものとされている。

  この推薦については、

  • 高等学校等の校長等、出願者の資質を知り得る者からの推薦を求めること等により、特に優れた資質を有するか否かを適切に判断できるようにするとともに、
  • 推薦に当たって、大学関係者と高等学校関係者等との積極的な意見交換・連携に努めること
    を求めているものである。

  一方、実際に高校生が大学へ飛び入学することを希望していたが、当該高等学校が推薦を行わなかった事例があるとの指摘もある。

  さらに、前述のアンケート調査結果によると、「飛び入学の実施を検討している」と回答した大学学部のうち、36.1パーセントが「特に優れた資質」を有する者の選抜方法や高等学校長の推薦等を制度導入に当たって障害となっている事項として挙げた。

(指導体制)

  学校教育法上、飛び入学生を受け入れる大学は、「特に優れた資質を有する者の育成を図るのにふさわしい教育研究上の実績及び指導体制を有すること」とされており、この「教育研究上の実績及び指導体制」の具体的内容は、

  • 1)  特定の分野における特に優れた資質を伸長するため、適切なカリキュラムを編成するとともに、必要な教員が確保されており、十分な指導体制が整っていること
  • 2)  飛び入学により入学した学生が、様々な分野での基礎的な内容を必要に応じ学習することが可能であるようなカリキュラム及び指導体制が整っていること
  • 3)  学生に対する助言指導又は指導体制が整備されていること
  • 4)  円滑に学位が授与されているなど充実した教育研究活動が行われていること
  • 5)  募集を行う学部等から大学院への進学の実績があること

  と示されている(平成13年12月27日 13文科高第1396号 学校教育法施行規則の一部改正等について)。

  特に指導体制に関しては、協議会として視察を行った千葉大学・先進科学研究教育センターにおいても、充実した指導体制の下で、飛び入学生に対する教育が行われていたところである。

  飛び入学生が通常の大学入学生より1歳以上年齢が低いこと等に鑑みれば、大学として上記に掲げられた諸点に留意することにも意義があると考えられるところであるが、一方で、今後飛び入学制度の一層の活用を促進していく観点に立つと、飛び入学生を対象とした指導体制を必要以上に手厚く求めるべきではないとの指摘もある。

  さらに、前述の文部科学省調査結果によると、「飛び入学の実施の予定はない」と回答した大学学部のうち、21.2パーセントが、関係法令等で大学側に求められている飛び入学させた者への特別な配慮(※)を行うことが困難ということを、実施の検討を行っていない要因に挙げていた。
   ※ ここで言う配慮事項は、選抜方法、教育研究上の実績・指導体制や自己点検・評価の実施等を指す。

  加えて、前述のアンケート調査結果によると、「飛び入学の実施を検討している」と回答した大学学部のうち、36.1パーセントが、「飛び入学」させた者に対する指導体制の整備を制度導入に当たって障害となっている事項として挙げるとともに、その他、各大学の指導体制に対する負担感が明らかになったところである。

(選抜方法、指導体制の在り方の検討)

  これらを踏まえ、今後、飛び入学制度の趣旨に反した各大学の安易な運用は抑止しつつも、選抜方法、指導体制等に関して大学や高等学校等に過度に負担を強いることのないよう、関係法令により求められている選抜方法・指導体制の在り方について、より柔軟なものとする必要があるのではないか。

  学校長の推薦に関しては、普段の学習状況を知る者の意見を聞くことにより特に優れた資質や学力以外における適性を判断するに当たって引き続き有効な手段になりうるものと考えられるが、そもそも飛び入学制度は一義的には大学の責任のもとに運用されるものであり、高等学校に過度の責任を負わせるような運用がなされているとすれば、それは適切なものとは考えられない。

  また、受験者の持つ個性・能力によっては必ずしも学校においてのみ特に優れた資質が発揮されるとも限らず、その場合、例えば、学校以外の場での指導者との連携を図ることもより積極的に検討されて良い。また、継続的な高大連携の取組を通し、大学が生徒の学習意欲を含めた資質を長期間に渡るかかわりの中で見極めるという工夫も考えられる。

  特に優れた資質の内容は学問分野ごとあるいは各大学の個性・特色等によりその捉え方は変わりうるものであり、それに伴い、選抜方法に関する工夫も様々なものがあることを明確にする必要がある。

  また、特定の分野における特に優れた資質を伸長するための指導体制について、当該学問の分野、各大学の教育研究の状況によっては、通常のカリキュラムにおいても飛び入学生の資質を十分に伸長させることができるということもありうる。飛び入学生の大学生としての主体的な問題意識、学習意欲等に基づいた学習を支援するという観点を踏まえ、飛び入学生の資質を伸長させるためにどのような指導体制が適切かということについては、各大学の主体的な判断により、様々な在り方が検討されて良いのではないか。

  一方、飛び入学制度の活用が進む中で、飛び入学生によっては、一部科目については一般の大学生に比してより時間をかけた学習が必要となる可能性もある。その際、単位制高等学校(定時制又は通信制)における特定の授業科目を聴講生として履修することも制度上可能であり、学生の学習状況に応じ、これらの大学外の教育の機会を有効活用することを検討していくことも考えられる。

3.高校生が飛び入学に求める魅力の検証

  飛び入学制度による学生募集を実施しようとする大学においては、高校生が飛び入学に求める魅力を検証し、この魅力を高めるべく努めることが重要である。

  協議会が実施した千葉大学・先進科学研究教育センター視察での飛び入学生の意見では、千葉大学への飛び入学については、学生は、1年早く進学できる点に加え、提供される教育メニューの質の高さに魅力を感じていたとのことであった。

  特に優れた資質を生かし、より早く大学の高度な学問を学びたいと考える一部の生徒の期待にも応えることのできるよう、各大学が、大学の本来の責務である質の高い充実した教育研究の実施、及びその成果の絶え間ない公開を行うことが、結果として高校生の飛び入学への魅力をも高めるのではないかと考えられる。

  飛び入学制度の普及・促進を図るためには、先導的事例によりその教育的効果が実証的に明らかにされていくことが有効である。高校生のみならず、高等学校関係者や保護者の間で未だに制度そのものの認知度が低いという指摘もあり、国及び飛び入学生の受け入れ実績のある大学においては、高校生が求める魅力という観点も踏まえ、その実施状況に関する更なる情報発信に努める必要がある。

4.その他、大学が留意すべきと考えられる事項

  飛び入学実施大学においては、前述の事項に加え、例えば、

  • 飛び入学生の全人格的成長の観点から、高等学校と共同して研究を進めるとともに、机上の学習・研究を進めるだけでなく、実験、実習、実体験等を特に重視した学習プログラムの機会の提供や、課外活動への参加の機会を提供するなど、バランスの取れた人格、優れた資質を社会に還元することのできる人材の育成を目指すこと
  • 指導力の高い教職員の育成に努めること
  • 大学のアドミッション・ポリシーの中で、それぞれの大学の個性・特色を踏まえつつ、飛び入学の位置付けの検討を行うこと

  等も考えられる。

(4) その他

1.過去の旧制中学校・旧制高等学校高等科への早期入学等との比較

  我が国の旧学校制度においては、尋常小学校第5学年修了(通常6年)から旧制中学校への早期入学、旧制中学校第4学年修了(通常5年)から旧制高等学校高等科への早期入学を一般的に認める制度が存在した。

  昭和5年において旧制中学校への早期入学は、全入学者の0.5パーセント、旧制高等学校高等科への早期入学は全入学者の24.8パーセントであった(ただし、高等教育への進学率自体が当時と現在とでは大きな差があることに留意することが必要である)。

  一方、現在の飛び入学制度は、高等学校卒業後に大学に進学するという原則を維持しつつ、特定の分野において特に優れた資質を有する者に対してのみ大学進学への途を開くという学校教育体系上例外的な制度である。

  よって、当時と現在の飛び入学はその趣旨及び仕組みが異なるものだが、旧制度下での運用の実態は、今後の飛び入学の運用の在り方を考えていく際の参考となり得るものと考えられる。

2.各国及び我が国における大学入学年齢要件の捉え方

  我が国の学校教育制度上、我が国の大学に入学するためには、正規の学校教育における12年の課程を修了しなければならないものとされている。そのため、結果として、原則18歳以上でなければ大学に入学できない。

  ただし、我が国においても、大学への飛び入学制度を用いれば、17歳で大学に入学することも、大学入学年齢要件の特例として現在可能となっている。

  一方、アメリカ・フランス・ドイツ・中国等の各国においては、年齢による大学入学制限は行われていないことが一般的である。

3.飛び入学の年齢要件と対象者の考え方

  上記の各国及び我が国の状況等も鑑み、我が国においても、大学入学年齢要件についてできる限りの柔軟性を持たせる必要があるとの指摘がある。また、飛び入学制度の対象者について、特に優れた資質を有する者に限らず、自らの責任のもとに飛び入学をさせても良いのではないかという指摘もある。

  一方、大学入学年齢の低年齢化は、生徒の全人格的成長を妨げないか、受験競争の低年齢化を招かないか、いわゆる「受験エリート化」を助長することにならないか、大学入学後における大学生活に円滑に適応できるか、等の面も考慮する必要がある。一方、全人格的成長は、高大間の接続部分に集中して論ずるべきものではないことにも留意する必要があり、また、千葉大学・名城大学からの報告によれば、通常より1年早い飛び入学による、全人格的成長面への不安は現段階では感じられないとのことであった。

  以上のとおり、飛び入学の年齢要件及び対象者の考え方に関しては様々な議論が存在するが、現在の飛び入学制度はまだ十分に評価ができる段階にまでその取組が定着しておらず、また、社会的認知度も低いため、飛び入学制度について、広く一般の生徒をも対象とするようなものにするという社会的な合意形成は未だなされていないものと考えられる。
   従って、大学への飛び入学に係る年齢要件及び対象者の考え方を見直すことについては慎重に検討することが必要であり、当面、現行制度を踏まえつつ、その積極的活用によって、生徒一人一人の能力・適性に応じた教育を進めていくことが適当と考えられる。

  なお、制度の定着や実施の状況を踏まえつつ、将来的には、学校教育制度全体の中で飛び入学に係る現行の年齢要件や対象者の考え方も含め、制度の在り方そのものを検討することも期待される。

4.高等学校卒業の取扱及び大学入学資格との関係

  現行制度においては、大学へ飛び入学した学生は、高等学校を中途退学して大学に入学することとなっており、高等学校卒業という取扱にはならない。

  この取扱に対し、大学への飛び入学者にも一定の要件(飛び入学した大学を卒業する、一定の履修単位を大学において修得する等)の下、高等学校卒業の取扱を認めることができれば、飛び入学制度の活用が促進されるのではないかとの指摘もある。

  また、飛び入学した学生については、飛び入学を実施した大学において責任をもって指導することが基本であるが、やむを得ない事情等により他大学へ転学等する場合も考えられる。その場合、学校教育法施行規則上、一定の要件の下、当該学生に対しては大学入学資格が認められているが、より一般的な大学入学資格を認めるべきではないかという指摘もある。

  以上のような指摘については高等学校教育の在り方や大学入学資格の在り方などの関連で検討すべき課題でもあるが、早期に大学に入学した学生が不利益を被ることがないよう、飛び入学制度の実施状況を踏まえ、より円滑な接続環境の整備に向けて引き続き検討が行われるべきである。

5.大学学部の早期卒業・大学院への飛び入学や中高一貫教育等における取組との関係

  大学学部・大学院段階においては、それぞれの修業年限の原則は維持しつつ、

  • 大学学部の早期卒業(学部を3年間(修業年限4年を超える場合は4年間)で卒業することが可能)
  • 大学院への飛び入学(学部在籍3年(医学等を履修する際は4年)の後に、大学院へ入学が可能)
  • 修士課程、博士課程の短期修了

等の制度があり、能力・適性に応じた、柔軟な大学・大学院教育を実施することが可能となっている。また、大学への飛び入学に比べると、これらの制度の活用は進んでいるところである(平成17年度現在、大学学部の早期卒業を実施した大学は40大学、大学院への飛び入学を実施した大学は83大学)。

  また、私立の学校を中心に、高校生のうちに系列の大学の授業科目を科目等履修生等として履修させ、単位を修得することができれば、大学入学後、当該単位を入学前の既修得単位として認定するなど、様々な高大接続の工夫が行われている。

  一人一人の能力・適性に応じた教育の必要性は、高等学校・大学間の接続時に限定して論じられるべきものではなく、初等中等教育から高等教育を俯瞰した視点が求められる。各学校においては、それぞれの個性・特色を踏まえた上で、大学への飛び入学以外にも、例えば、上記の諸取組の活用を進めること等、多様な方法により、一人一人の能力を伸ばす教育を展開していくことも望まれる。

3. 高等学校と大学との接続における一人一人の能力を伸ばすための連携(高大連携)の在り方について

(1) 高等学校と大学との接続における一人一人の能力を伸ばすための連携の位置付け

  中高一貫教育や現行学習指導要領の実施等により高等学校の多様化と選択の幅の拡大は更に進展している。この結果、特定の分野について高い能力と強い意欲を持ち、大学レベルの教育研究に触れる機会を希望する生徒の増加が予想される。このような生徒の希望に応じ、高等学校段階から科目等履修生として大学の授業科目を履修させるなど、高大連携の取組の拡大によって一人一人の個性・能力の伸長が図られることが期待される。

  このような生徒の能力・意欲に応じた教育の実現を目指していくためには、「高等学校教育」あるいは「大学教育」のいずれか一面のみから論ずるべきではない。高等学校・大学の双方が、後期中等教育機関・高等教育機関としてそれぞれ独自の目的や役割を有していることを踏まえつつ、高等学校と大学との接続を柔軟に捉えることが必要である。高等学校・大学間の接続の場面においては、ややもすると大学入学者選抜の点のみクローズアップされがちだが、高大連携の取組は、まさにそういった偏重に風穴を開け、両者の接続を円滑にするための有効な手段となりうるものである。

(2) 高等学校と大学の連携の状況

  高等学校と大学が連携することにより、高校生の大学における学修を高等学校の単位として認定することや、大学へ科目等履修生として高校生を受け入れること等、高校生が大学レベルの教育研究に触れることのできる各種取組については、今後、適切な形で、高校生一人一人の能力・適性に応じつつ、拡大を図っていくことが必要である。

  現状では、高等学校教員は大学教育の状況についての、大学教員は高等学校教育の状況についての理解が十分とは言えず、お互いのことをよく理解する必要があるとの指摘がある。また、高大連携についての実質的な意義についての理解が、高等学校教員・大学教員の間に広がっていないとの指摘もある。個々の高大連携の取組の振興は、まさに現場の教員の役割にかかっている。今後、高等学校・大学間の相互の理解を深め、個々の高等学校・大学間の連携取組の意味・目的を明確にしていくことが重要である。

(3) 一人一人の能力を伸ばすための、高大連携の促進に向けて

1.高等学校と大学の連携強化の在り方

  高等学校教員と大学教員の相互理解を促進していくためには、高等学校教員と大学教員の交流・連携ネットワークが様々な形で構築されることが重要である。

  現在、高等学校と大学との間における連携協議会等の設置が進みつつあるが、今後、この連携協議会等の設置を一層促進しつつ、連携協議会等を形式的な場にとどまらせることのないようにするには、どのような内容を高大連携授業として提供するかといったことについて両者がともに企画・立案を行っていくなど、その活用の一層の促進を図っていく必要がある。具体的には、連携協議会等を通じて、教育委員会や高等学校においては、大学における教授内容を把握し、個々の生徒の能力・適性、興味・関心、進路等に応じた科目や公開講座を生徒に紹介すること、一方大学においては、高校生の学習の進捗状況や理解度、ニーズ等を把握することに資すると考えられる。

  その他、高大連携を効果的に進めていくためには、高等学校教員・大学教員が随時適切な情報等を入手していくことが重要であることに鑑み、高等学校教員を対象とした各種研修、大学教員を対象としたFD(ファカルティ・ディベロップメント)のプログラムに、それぞれ大学教員・高等学校教員の参加を得ながら、最新の高大連携に関連した内容を加えること等も効果的と考えられる。

  また、例えば、高等学校のPTA活動の中で地域の大学の施設等を活用したり、地域の大学に進学している卒業生の協力を得たりすること等により、地域の高等学校と大学との間の相互理解を深める方策も考えられる。

  高等学校と大学が連携した人材育成を積極的に進めていくためには、公立高等学校の管理者である教育委員会が果たすべき役割も大きい。特に域内の高等学校を管理する立場から、高大連携を一部地域だけの活動にとどまらせないための活動、複数大学・複数高等学校間における事務を効果的・効率的に行う窓口的機能、高大連携事業を各高等学校における教育能力の向上につなげていくための取組、その他、人的・財政的支援などが期待される。

  また、個々の高等学校と大学との連携を仲介する機能を果たす組織についての検討も重要である。これらの組織の存在は、連携の強化にあたり効果的と考えられ、例えば地域における大学コンソーシアム等の組織が、これらの機能を果たしていくことも期待される。

  なお、連携の在り方を検討するに際しては、大学側から高等学校側への一方向的な支援・連携ではなく、双方向の関係を構築することが重要である。例えば、双方向の連携を構築することにより、高等学校側は大学レベルの教育研究資源の提供を受けることができる一方、大学側も初年次(1年次)教育を進める上で高等学校側の知見の提供を受けることができる。

2.高校生に対して、大学レベルの教育研究に触れる機会の促進

  現在、高等学校と大学が連携することにより、十分な能力・意欲のある高校生が大学レベルの教育研究に触れることができる取組として、

  • 科目等履修生として、大学の授業科目を受講すること(成果として大学の単位を取得することが可能。大学入学後、当該大学における授業科目の履修により修得したものとみなすことも可能。)
  • 聴講生として、大学の授業科目を受講すること(単位の取得は不可。)
  • 大学が実施する公開講座を受講すること
  • 大学の教員が(ポストドクター等の参加も得つつ)高等学校に出向き、いわゆる「出前講座」「土曜講座」等の講義や実験実習等を行うこと
  • スーパーサイエンスハイスクール(SSH)、スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール(SELHi)、目指せスペシャリスト(「スーパー専門高校」)、サイエンス・パートナーシップ・プロジェクト(SPP)等の先進的な事業による、大学等と連携した取組を実施すること
  • インターネットを活用し、大学から高校生に対して講義を配信すること

等が考えられる。

  また、高校生の大学等における学修を、学校外における学修として高等学校の単位に認定することも可能となっている。

  高等学校においては、生徒一人一人の能力・意欲を踏まえつつ、教育的観点から、積極的にこれらの取組の機会を生徒に与えていくと同時に、適切な事前・事後指導を行うなど、それらの成果をフィードバックした高等学校教育を展開していくことが重要である。

  大学においては、これらの取組について、

  • 特定分野で卓越した能力を持つ高校生に機会を提供するという視点にとどまらず、
  • 専門的な事項について強い意欲や関心を持つ高校生に対し高等教育機関が提供する多彩かつ多様な教育に触れる機会を広く提供するという視点
  • 高校生のニーズに対応した魅力ある科目の設定や授業展開を図るという視点
    が重要である。この際、高等学校教育の状況を踏まえた取組の実施が不可欠である。

3.取組に要する時間、コスト等

  連携取組の実施に際しては、高校生の履修の実態に配慮することが必要である。学校外学修等として実施するほか、夏季等の休業期間中や土曜日等に集中講義の形態で実施する等、各大学・高等学校は、高校生が履修しやすいような工夫を行うことが重要である。

  中高一貫教育校(特に中等教育学校、併設型中高一貫教育校)においては、教育課程の特例が設けられ、中高を通した6年間の中で柔軟な教育課程を編成することが可能となっている。例えば、設置者の判断により、大学と連携した特色ある教育を展開していくことも考えられる。

  一方、例えば、ある高等学校の周辺に大学が存在せず距離的に離れて立地しているような場合、生徒が移動することが困難なため、可能な連携取組にも制約が出てくる。その際、例えば、インターネット、衛星通信、その他の情報通信網の活用、または教育委員会や大学コンソーシアムのコーディネートによる遠隔地で開催する公開講座等により、距離的な問題は一部解消できる。また、放送大学の講義の活用なども考えられる。ただし、インターネット等を活用した遠隔教育を行う場合には、双方向としたり、高等学校教員のサポート体制の整備を図るなど、生徒の学習意欲の維持方法などについて工夫を図ることが必要である。

  各大学・高等学校等におけるコスト負担の問題については、例えば、既存の公開講座や初年次に提供される基礎科目などの活用、既に整備が進んでいる各高等学校でのインターネット環境や各地域において整備されている情報通信網などの既存のインフラを活用するなどの創意・工夫が必要である。

4.行政の支援

  高大連携の取組を進める上でのコスト負担の問題については、連携取組の多様性に応じて、一義的には各大学、高等学校または連携取組への参加者による負担等が考えられるが、高大連携の取組が緒に就いたばかりの現状にあっては、高等学校・大学双方ともに高大連携事業にとりかかるための予算に制約があるという指摘がある。国においては、各大学・高等学校等が継続的に高大連携の取組を行うことができるよう、その実施手法の開発やスタートアップ支援等に取り組む必要がある。

  前述のSSHなどに加え、現在、国においては「特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)や「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」等の、国公私立大学を通じた大学教育改革を支援するプログラムが整備されている。例えば、地域の高等学校等と連携した取組を行っている大学が、これらの支援プログラムに申請することも、取組内容によっては可能である。

  国による財政支援を検討する上では、連携取組の趣旨・目的、実施主体、対象者、地域性、学問の分野等の多様性に留意し、各実施主体がそれぞれに取り組む課題に対して創意・工夫を凝らした教育取組を行いうるよう、きめの細かい支援に努める必要がある。さらに、高大接続の場面における大学入学者選抜への偏重や高等学校と大学の教育内容の非連続性といった指摘に対して戦略的にそれらの課題の解決に向けて取り組むという観点からも、多様な高大連携の取組を支援するためのプログラムを更に拡充し、高等学校・大学間の接続環境の改善に努める必要がある。

(4) 連携取組促進のための留意点

1.指導内容・指導体制

  大学の科目等履修生は、大学における正規の授業科目のうち特定のものを履修する仕組みであるが、あくまで大学の授業科目は、大学生としての4年間の学習を念頭に置き体系的に編成されているものである。高校生に一部の授業科目を科目等履修生として受講させる際には、大学側は高校生の能力・意欲等も踏まえつつ、コース登録等に際して、適切な履修指導を行うことが必要である。例えば、大学の初年次教育の一環として行われている基礎的な授業科目を履修の核とすること等が考えられる。

  高大連携の取組を実施するだけで終わらせることなく、必要に応じて高等学校教員が事後に補習的な指導を行うことなどにより、より大きな教育効果を生むことができるよう努める必要がある。また、大学レベルの教育研究に触れることにより、逆に自らの能力に不安を感じてしまう高校生も存在しうるところである。必要に応じ、メンター等の相談体制を整備することが必要と考えられる。

  また、学問の分野によって、指導内容・指導体制等の方法も違いうることに留意することが必要である。

2.個々の生徒の能力・意欲の把握

  高校生に対して大学レベルの教育研究に触れる機会を与える際には、その内容に応じて、対象者の選抜・絞り込みを行うべきもの、ある程度対象者を広く設定してよいものに分けて考える必要がある。

  例えば、大学の科目等履修生として高校生を受け入れる際には、その成果に対して大学の単位が与えられることから、対象となる高校生が該当する授業科目を履修するに相当の学力を有しているか等について、適切に審査することも考えられる。

  個々の生徒のニーズや能力・意欲を踏まえることなく、一律に大学レベルの教育研究に触れる機会を与えるような取組は、高大連携の趣旨に反し、本来の目的を達成することが困難と考えられる。高等学校教員及び大学教員双方が連携しつつ責任を持ち、個々の生徒の能力・意欲の把握を行うことが不可欠であり、そのための識見が高大連携を実施する高等学校教員・大学教員に求められる。

3.大学の単位付与の際の留意点

  高校生が大学レベルの教育研究に触れる機会が増えつつある中で、高校生に対して、履修の成果として大学の正規の「単位」を与えようとする試みが見られる。

  しかし、大学の単位は、高等教育機関として正規に提供される授業科目の学修の成果として与えられるものであり、制度上、高校生に対して大学の単位を与えることができるのは、高校生を科目等履修生として受け入れているときに限られることに留意する必要がある。

  もとより、科目等履修生として単位を付与する以外にも、大学は高校生に対し、一定の教育課程を履修した成果として任意の証明を行うことは可能であり、これらの活用も考えられる。

(5) その他

1.高大連携の様々な目的・効果・機能

  高大連携においては、各高等学校・大学がどのような目的を持ってどのような連携取組を行うかにより、様々な教育的効果が期待される。例えば、学生の中には十分に学ぶ意義や目的を理解しないままに大学を選択し、学業や学生生活に適応できない者もいるという指摘がある中、短期間あるいは一度であっても大学の模擬授業等を経験させ、生徒に進路についての目的意識を持ってもらうことを目的とするものもある。

  また、高大連携には様々な効果がある。高大連携は個々の生徒の学習に資するのみでなく、高等学校・大学の双方が互いの教授法、高等学校での学習内容、大学での最新の学問分野の動向などに関する理解を深め、個々の高等学校教員・大学教員にとって有効な研修の機会となりうるものである。特に、高等学校においては大学の教育内容に着目した適切な進路指導能力の向上にも資することが考えられる。

  さらに、大学においては、昨今、大学の社会貢献機能が着目される中、大学が高大連携事業を通して地域社会にその教育研究成果を還元していくことも可能となってくるものである。

2.アメリカにおけるアドバンスト・プレイスメント(AP)の考え方

  アメリカには、アドバンスト・プレイスメント(AP)と呼ばれる、ハイスクールの生徒を対象に、在学中に大学レベルの学習機会を与え、所定の試験に合格すれば大学の単位として認定する取組がある(指導は、ハイスクールの教員が行う)。

  我が国とアメリカでは教育制度が異なり、そのままAPを取り入れることは困難であるが、高等学校教員自身が大学レベルの授業を行うという考え方自体は、大学教員・高等学校教員の連携の促進、個別教員の力量向上の観点から、参考となりうる点がある。

  APの考え方を参考としつつ、例えば、高校生がある大学で科目等履修生として取得した単位が、当該大学への入学後のみならず、他の大学へ入学した際も大学入学前の既修得単位として認定することができるよう、各大学間での協定締結の取組が広く進展すれば、より早く大学レベルの教育研究に触れたいと考える能力・意欲ある高校生にとって学習のインセンティブとなりうると考えられる。

4. 高等学校と大学との接続において、一人一人の能力を伸ばすための、早期入学・高大連携の振興について

飛び入学や高大連携を適切かつ総合的に活用した、一人一人の能力を伸ばす教育の展開

  ここまで見てきたように、高等学校と大学の接続において、十分な能力と意欲を有する者一人一人を伸ばしていくための方策としては、大学への飛び入学や各種高大連携の取組等、様々なものがある。

  これらの取組を適切かつ総合的に活用することにより、「大学生」「高校生」という枠組みに過度に制約されない、学生や生徒の視点に立つ、一人一人の能力・適性に応じた教育を図ることができると考えられる。

  例えば、高校生は、その能力・意欲に応じ、大学に飛び入学し「学生」となることが可能である一方、高校生としての身分を持ちつつ、科目等履修生等の形態で「パートタイム学生」としての身分を持つことも可能である。あるいは、特に学生という身分を持たなくとも、公開講座の受講、大学教員の出前講義の受講、SSHの取組等で、大学レベルの教育研究に触れることが可能となっている。多様な取組が考えられる中で、必要に応じ複数の取組を総合的に組み合わせつつ、それぞれの状況に応じた適切な取組を行うことが期待される。

  一人一人の個性・能力は十人十色である。たとえ学力において優れた成績を収めている者であっても、全人格的成長の観点から、高等学校に籍を置きながらより高度な教育内容に触れることが適切な者もいるであろうし、逆に、個々の知識が不十分であったとしても、その高い学習意欲と身に付けられた学習方法により、十分に大学レベルの教育内容を学ぶことができる者もいる。そういった様々な個性に対し、適切な選択肢を複数示すことのできる環境の整備が肝要である。

  報告書の考え方を踏まえ、各高等学校・大学において、その個性・特色、生徒の能力・意欲等に応じ、飛び入学や高大連携に係る各種の取組を適切かつ総合的に活用し、一人一人の能力を伸ばすための教育の推進が図られることを期待するとともに、国においては、それらの各高等学校・大学の自主的な取組を支援するため、必要な情報提供、財政的支援、その他の環境整備に努めるべきである。

  高等学校・大学間の接続を巡る問題はこの協議会において取り上げた問題にとどまるものではなく、例えば、高等学校の教育内容と大学入試・大学における教育内容との連続性の問題や、将来的に検討を要するものとして、我が国の学校教育では教育内容と年齢が過度に結びついた学年主義があるのではないかという指摘もある。このような様々な課題に対し、引き続き、あらゆる場面において検討・改善に至る努力がなされることを期待する。

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高等教育局大学振興課大学改革推進室

(高等教育局大学振興課大学改革推進室)