【事例報告】 |
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千葉大学先進科学研究教育センター長 上野信雄委員
千葉大学では、飛び入学実施との関連も踏まえ、高大連携について独自に戦略的な計画を進めている。今年度から高大連携企画室というものを立ち上げて私がその担当になっており、飛び入学と高大連携の両方を統括して見ることができるので、このような取組も行いやすくなった。
まず、この企画の背景について申し上げると、現状では、高大連携というものは先生方の個人的なつながりによって各学科がバラバラにやっているものが多いと思われ、高校側から大学側へコンタクトしようとするときに不便であったと考えられる。この企画では、全学部を巻き込んで統一的にそのような取組を行う。その上で、産学官とマスメディアが協力により、理科離れ問題の改善及び理科教育の高度化を目指すものである。
この企画の目的としては、第一に、戦略的な高大連携のモデルを作る。第二に、産学官連携の仕組みを活用する。企業の技術力等を教育資源として活用するとともに、企業は県外にも多く分布しているので、地理的な問題の改善に資する。第三に、大学、高校、県庁(教育委員会や産業関係部局)、文部科学省、産業界、そして広報活動を戦略的に行うためにメディアと連携し、幅広い層に対する理数教育を振興するとともに、先生方の教育力の向上に資する。第四に、企業の技術力等を教育資源として活用するとともに、企業側にとっても社会的責任を果たしやすくする場を提供する。第五に、メディアと協力し、千葉モデルを全国に戦略的に発信する。
具体的な実施体制としては、各機関が連携・協力しながら実施に当たるわけですが、大学においては、先ほど申し上げた通り、全学的な統一的な指示系統で行うことになっている。特に、生徒のアンケート等を見ると、若い先生や大学院生の講義の満足度が高く、このため、大学院生の集団を作って派遣する等の方法を実施しようとしている。また、メディアとの協力に関しては、新聞社だけでなく、広報関連企業の協力を得ようとしているところである。
具体的な事業内容としては、第一に、研究現場を訪問する等の特別授業を実施する。また、教育委員会等が独自にサマーキャンプを行っている例もあるが、必ずしも多くの人を集めることができないようだ。こういった取組も戦略的に組み込んでより実質的成果を挙げられるよう進めていきたい。第二に、私たちは遊びの世界の中で理科に親しんできたということがあるが、現代はそのような経験が不足しているので、科学クラブの活動を普及・推進し、自主研究や課題研究といった経験を積むことを支援する。第三に高校の先生方の教育力向上のため、大学や企業との連携による研修や、高校教師同士のネットワーク形成を支援する。
実施の方法に関しては、まず、大学に事務局を設置するとともに、教育委員会にも連絡担当者を設置していただく方向で話を進めている。また、教育委員会から各高等学校への包括的協力要請を行っていただくなど、事務手続きの簡素化を進める。労力の低減は非常に大事なことで、窓口を整備するとともに事務担当者や特任教員を配置するなどして、大学側・高校側双方にとって過剰な負担を抑えて気軽に活動できる場を形成することを目指している。
今後の動きとしては、全学高大連携委員会を開催して学内各部局に様々な事業実施に向けて依頼を行うとともに、学外のメディア関連企業や教育委員会等と計画を具体的に詰めていく。また、9月に千葉大学で行う物理学会において、高校生のポスターでの研究発表を行う予定である。
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【質疑応答】 |
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お話を聞いて一番強く思うのは、やはり教育は人の力によって成るということであり、千葉大学の場合、上野先生中心に執行部や教育委員会等、多くの方々の努力があってこれらの取組がなされていることと思う。今後、それら中心として活躍されてきた方々の努力を組織として継承していくことが大事かと思う。
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上野委員
当センターではこの4月に新たに新任の教授が着任した。また、関連学部の各学科の中にも我々が行っている取組の具体的なカリキュラム編成等の部分を担ってくれる先生方が多くいる。戦略的にこれらの取組を行っていける後継者を育てるという点は課題かもしれないが、着実に育ってきている状況だと思う。
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また、企画の目線がきちんと子どもの方を向いているということが素晴らしい。教育者は既製品を子どもに伝えれば良いのではなく、子どもたちなりに求めているものを感じる必要がある。飛び入学に関しても、もしも入学者がその後伸びなかったとしても、学問の側に子どもの視点に対応できなかった部分があったのかもしれないということを考えねばならない。
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高校で生徒を対象にしている教師と大学で学生を対象にしている教員とは大きな違いがある。高大連携を通して中高の先生方が大学教員の教え方・価値観を共有することで中高の教育に与える影響も大きいのではないか。逆に、大学教員が自分の好き勝手に教えただけでは伝わらないということを学ぶという面もあるのではないか。
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このような事業を行う際のコストの問題というものがある。そのような観点から、事業についてのメリットを説明できることが大事である。例えば、実は、高大連携は大学教育の教育方法の向上につながるということで、教員の研修活動の一環という視点がある。その点で、費用というのは回収できると。先ほどの話の中で、高校教員の教育方法の向上という話があったが、大学教員の教授技術の向上ということもあろうかと考えた。高校生に対して教える場合、通常の大学の授業より、データの作り方、話し方などの点において工夫を凝らさねばならず、大いに大学の教員の向上に資するという点があろうかと思う。
また、高校生の参加の仕方について、同じ生徒が継続的に参加するというやり方と企画毎に単発で参加するというやり方がある。高大連携においては、ある程度の教育内容のボリュームと体系性が必要になってくることも考えられ、すると、やはりメンバー選考ということがどうしても関わってくる。その中で、公平性をどのように担保するのかという問題が出てくるが、この点、千葉大学の取組においてはどのようになっているか。
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上野委員
能力のある生徒を育てようという場合、ある程度公平性を犠牲にする側面もあるかもしれないが、決して参加しようとする者を排除するものではなく、様々な地域に分散している企業の協力を得るなどして機会均等には十分に配慮しようとしている。
実際に継続的に参加する生徒もいるが、決して繰り返し来ないといけないなどというものではなく、あくまで生徒たちが自分の意思で進むのを手助けするための場を提供してあげるという視点が大事かと思う。
万遍なくやらなければならないなどという形式的な公平性ばかり気にしていても前に進まないものもある。
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高大連携がある程度継続性を持ったアクティビティなのか、非常に瞬発的でもいいから大きなインパクトを与えるのが良いのかというのは大事な視点であると思う。一過性のものでも大きなインパクトを与えるものもある。両方とも大事なことと思うが、議論するに当たっては両者の違いを認識しながら話を進める必要があろう。 |