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3.高等学校と大学との接続における一人一人の能力を伸ばすための連携(高大連携)の在り方について


(1)高等学校と大学との接続における一人一人の能力を伸ばすための連携の位置付け

   中高一貫教育や現行学習指導要領の実施等により高等学校の多様化と選択の幅の拡大は更に進展している。この結果、特定の分野について高い能力と強い意欲を持ち、大学レベルの教育研究に触れる機会を希望する生徒の増加が予想される。
   このような生徒の能力・意欲に応じた教育の実現を目指していくためには、「高等学校教育」あるいは「大学教育」のいずれか一面のみから論ずるべきではない。高等学校・大学の双方が、後期中等教育機関・高等教育機関としてそれぞれ独自の目的や役割を有していることを踏まえつつ、高等学校と大学との接続を柔軟に捉え、生徒一人一人の能力を伸ばすための、高等学校・大学双方が連携した教育の在り方を、以下検討していく。

(2)高等学校と大学の連携の状況

   高等学校と大学が連携することにより、高校生の大学における学修を高等学校の単位として認定することや、大学へ科目等履修生として高校生を受け入れること等、高校生が大学レベルの教育研究に触れることのできる各種取組については、今後、適切な形で、高校生一人一人の能力・適性に応じつつ、拡大を図っていくことが必要である。
   現状では、高等学校教員は大学教育の状況についての、大学教員は高等学校教育の状況についての理解が十分とは言えず、お互いのことをよく理解する必要があるとの指摘がある。また、高大連携についての実質的な意義についての理解が、高等学校教員・大学教員の間に広がっていないとの指摘もある。個々の高大連携の取組の振興は、まさに現場の教員の役割にかかっている。今後、高等学校・大学間の相互の理解を深め、個々の高等学校・大学間の連携取組の意味・目的を明確にしていくことが重要である。

(3)一人一人の能力を伸ばすための、高大連携の促進に向けて

  1   高等学校と大学の連携強化の在り方
   高等学校教員と大学教員の相互理解を促進していくためには、高等学校教員と大学教員の交流・連携ネットワークが様々な形で構築されることが重要である。
   現在、高等学校と大学との間における連携協議会等の設置が進みつつあるが、今後、この連携協議会等の設置を一層促進しつつ、連携協議会等を形式的な場にとどまらせることなくその活用を図るとともに、個々の高等学校・大学間での意思疎通を一層推進し、真に個々の高等学校教員・大学教員間での相互理解を深める等、高大連携の取組の実質化を図ることができる具体的な連携の在り方を、協議会として検討することが必要である。
   その他、高大連携を効果的に進めていくためには、高等学校教員・大学教員が随時適切な情報等を入手していくことが重要であることに鑑み、高等学校教員を対象とした各種研修、大学教員を対象としたFD(ファカルティ・ディベロップメント)のプログラムに、それぞれ大学教員・高等学校教員の参加を得ながら、最新の高大連携に関連した内容を加えること等も効果的と考えられる。
   また、例えば、高等学校のPTA活動の中で地域の大学の施設等を活用したり、地域の大学に進学している卒業生の協力を得たりすること等により、地域の高等学校と大学との間の相互理解を深める方策も考えられる。
   高等学校と大学が連携した人材育成を積極的に進めていくためには、公立高等学校の管理者である教育委員会が果たすべき役割も大きい。連携の多様な在り方に配慮しつつ、高等学校と大学との連携における教育委員会の役割(各高等学校の窓口的機能や財政支援、各種研修の実施等)についても、協議会として検討を進める必要がある。
   また、個々の高等学校と大学との連携を仲介する機能を果たす組織についての検討も重要である。これらの組織の存在は、連携の強化にあたり効果的と考えられ、例えば地域における大学コンソーシアム等の組織が、これらの機能を果たしていくことも期待される。
   なお、連携の在り方を検討するに際しては、大学側から高等学校側への一方向的な支援・連携ではなく、双方向の関係を構築することが重要である。例えば、双方向の連携を構築することにより、高等学校側は大学レベルの教育研究資源の提供を受けることができる一方、大学側も初年次(1年次)教育を進める上で高等学校側の知見の提供を受けることができる。

  2   高校生に対して、大学レベルの教育研究に触れる機会の促進
   現在、高等学校と大学が連携することにより、十分な能力・意欲のある高校生が大学レベルの教育研究に触れることができる取組として、
   
 科目等履修生として、大学の授業科目を受講すること(成果として大学の単位を取得することが可能。大学入学後、当該大学における授業科目の履修により修得したものとみなすことも可能。)
 聴講生として、大学の授業科目を受講すること(単位の取得は不可。)
 大学が実施する公開講座を受講すること
 大学の教員が(ポスドク等の参加も得つつ)高等学校に出向き、いわゆる「出前講座」「土曜講座」等の講義や実験実習等を行うこと
スーパーサイエンスハイスクール(SSH)、スーパー・イングリッシュ・ランゲージ・ハイスクール(SELHi)、サイエンス・パートナーシップ・プログラム(SPP)等の先進的な事業による、大学等と連携した取組を実施すること
 インターネットを活用し、大学から高校生に対して講義を配信すること
等が考えられる。
   また、高校生の大学等における学修を、学校外における学修として高等学校の単位に認定することも可能となっている。
   高等学校・大学は、それぞれの状況に応じ、積極的にこれらに取り組むことが望まれ、協議会としてもそのための更なる促進策の検討を進める必要がある。
   高等学校においては、生徒一人一人の能力・意欲を踏まえつつ、教育的観点から、積極的にこれらの取組の機会を生徒に与えていくと同時に、それらの成果をフィードバックした高等学校教育を展開していくことが重要である。
   大学においては、これらの取組を通じて、
   
 特定分野で卓越した能力を持つ高校生に機会を提供するという視点にとどまらず、
 専門的な事項について強い意欲や関心を持つ高校生に対し高等教育機関が提供する多彩かつ多様な教育に触れる機会を広く提供するという視点
が重要である。この際、高等学校教育の状況を踏まえた取組の実施が不可欠である。

(4)連携取組促進のための留意点

  1   指導内容・指導体制
   大学の科目等履修生は、大学における正規の授業科目のうち特定のものを履修する仕組みであるが、あくまで大学の授業科目は、大学生としての4年間の学習を念頭に置き体系的に編成されているものである。高校生に一部の授業科目を科目等履修生として受講させる際には、大学側は高校生の能力・意欲等も踏まえつつ、コース登録等に際して、適切な履修指導を行うことが必要である。例えば、大学の初年次教育の一環として行われている基礎的な授業科目を履修の核とすること等が考えられる。
   大学レベルの教育研究に触れることにより、逆に自らの能力に不安を感じてしまう高校生も存在しうるところである。必要に応じ、メンター等の相談体制を整備することが必要と考えられる。
   また、理系と文系において、指導内容・指導体制等の方法も違いうることに留意することが必要である。

  2   個々の生徒の能力・意欲の把握
   高校生に対して大学レベルの教育研究に触れる機会を与える際には、その内容に応じて、対象者の選抜・絞り込みを行うべきもの、ある程度対象者を広く設定してよいものに分けて考える必要がある。
   例えば、大学の科目等履修生として高校生を受け入れる際には、その成果に対して大学の単位が与えられることから、対象となる高校生が該当する授業科目を履修するに相当の学力を有しているか等について、適切に審査することが必要である。
   個々の生徒のニーズや能力・意欲を踏まえることなく、一律に大学レベルの教育研究に触れる機会を与えるような取組は、高大連携の趣旨に反し、本来の目的を達成することが困難と考えられる。高等学校教員及び大学教員双方が連携しつつ責任を持ち、個々の生徒の能力・意欲の把握を行うことが不可欠であり、そのための識見が高大連携を実施する高等学校教員・大学教員に求められる。

  3   取組に要する時間、コスト等
   連携取組の実施に際しては、高校生の履修の実態に配慮することが必要である。学校外学修等として実施するほか、夏季等の休業期間中や土曜日等に集中講義の形態で実施する等、各大学・高等学校は、高校生が履修しやすいような工夫を行うことが重要である。
   中高一貫教育校(特に中等教育学校、併設型中高一貫教育校)においては、教育課程の特例が設けられ、中高を通した6年間の中で柔軟な教育課程を編成することが可能となっている。例えば、設置者の判断により、大学と連携した特色ある教育を展開していくことも考えられる。
   一方、例えば、ある高等学校の周辺に大学が存在せず距離的に離れて立地しているような場合、生徒が移動することが困難なため、可能な連携取組にも制約が出てくる。インターネットの活用等により、距離的な問題は一部解消できるが、各大学・高等学校等におけるコスト負担の問題等が引き続き残る。連携取組の促進を検討していく際には、SSHやSPP等国が行う支援事業の有効活用を進めつつ、協議会としてこれらの地域的な問題、コスト負担等の問題について併せて検討を進めていく必要がある。

  4   大学の単位付与の際の留意点
   高校生が大学レベルの教育研究に触れる機会が増えつつある中で、高校生に対して、履修の成果として大学の正規の「単位」を与えようとする試みが見られる。
   しかし、大学の単位は、高等教育機関として正規に提供される授業科目の学修の成果として与えられるものであり、制度上、高校生に対して大学の単位を与えることができるのは、高校生を科目等履修生として受け入れているときに限られることに留意する必要がある。
   もとより、科目等履修生として単位を付与する以外にも、大学は高校生に対し、学修成果として任意の「履修証明」等を発行することは可能であり、これらの活用も考えられる。

(5)その他

  1   アメリカにおけるアドバンスト・プレイスメント(AP)の考え方
   アメリカには、アドバンスト・プレイスメント(AP)と呼ばれる、ハイスクールの特に学力優秀な生徒を対象に、在学中に大学レベルの学習機会を与え、所定の試験に合格すれば大学の単位として認定する取組がある(指導は、ハイスクールの教員が行う)。
   我が国とアメリカでは教育制度が異なり、そのままAPを取り入れることは困難であるが、高等学校教員自身が大学レベルの授業を行うという考え方自体は、大学教員・高等学校教員の連携の促進、個別教員の力量向上の観点から、参考となりうる点がある。
   APの考え方を参考としつつ、例えば、高校生がある大学で科目等履修生として取得した単位が、当該大学への入学後のみならず、他の大学へ入学した際も大学入学前の既修得単位として認定することができるよう、各大学間での協定締結の取組が広く進展すれば、より早く大学レベルの教育研究に触れたいと考える能力・意欲ある高校生にとって学習のインセンティブとなりうると考えられる。

  2   行政の支援
   現在、国においては「特色ある大学教育支援プログラム(特色GP)や「現代的教育ニーズ取組支援プログラム(現代GP)」等の、国公私立大学を通じた大学教育改革を支援するプログラムが整備されている。例えば、地域の高等学校等と連携した取組を行っている大学が、これらの支援プログラムに申請すること等も可能である。
   その他、国においては、高等学校と大学との間の連携取組や接続の改善を支援するためのプログラムを更に拡充する工夫も必要である。


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