今後の留学生政策の基本的方向について (留学生政策懇談会 第一次報告)

平成9年7月
 

  <目次>


はじめに
1  留学生交流の意義
2  留学生交流の現状と評価
  (1)  「留学生受入れ10万人計画」に基づく施策
  (2)  留学生受入れの現状
  (3)  これまでの実績と最近の減少の原因
3  今日の課題と今後の施策の重点
4  具体的な施策の方向
  (1)  高等教育機関におけるグローバルな視点に立った教育体制の充実
    i)グローバルな視点に立った教育システムの弾力化
    ii)留学生のニーズに対応した魅力ある教育プログラムの推進
    iii)国際的な大学間学生交流の推進
    iv)留学生に対する教育・生活面の相談・支援体制の充実
  (2)  留学希望者の我が国の高等教育機関へのアクセスの改善及び日本語教育に配慮
    した留学生交流施策の推進
    i)留学情報の提供体制の充実
    ii)留学生の入学選考方法の改善
    iii)留学生施策の一環としての日本語教育振興施策の推進
  (3)  国・地方自治体・民間の協力による多様かつ効率的な方法での留学生の生活支援
    i)諸外国及び留学生のニ−ズに応じた奨学金等の重点的充実
    ii)留学生のための宿舎の確保
    iii)各種保証制度の改善
    iv)留学生の日本人学生・地域住民・民間団体との交流活動の推進
  (4)  その他
    i)留学後のアフターケアの充実
    ii)高等学校における国際交流の推進
5  留学生交流の効率的な推進のための関係機関の一体的な取組体制の確立
  (1)  関係省庁等の連絡協議の場の設置
  (2)  地方自治体相互間の情報交換や連絡協議の推進
  (3)  「地域留学生交流推進会議」の活性化等








                      今後の留学生政策の基本的方向について
                        (留学生政策懇談会第一次報告)

                                                            留学生政策懇談会 



はじめに

    我が国は、昭和58年以来、いわゆる「留学生受入れ10万人計画」に基づき、留学生交流の推進に係る諸般の施策を総合的に推進してきた。
    この結果、我が国の高等教育機関に学ぶ外国人留学生数は大幅に増加し5万人を超えたが、近年その伸びが鈍化し最近では減少するに至っている。
    また、留学生交流については、受入れ人数の増加のみならず、あるいはむしろその前提として、留学生受入れの質的側面の一層の充実も各方面から指摘されている。
    一方、我が国は現在深刻な財政危機の状況にあり、留学生交流施策のほとんどを依存するODA(政府開発援助)予算についても縮減していくこととされている。したがって、ますます高まっている留学生交流の意義を踏まえ、どのように施策の推進を図っていくかが大きな課題といえる。
    このような状況を踏まえ、本懇談会は、文部大臣の要請を受け、平成9年1月から、今後我が国が取るべき留学生政策の在り方全般について検討を行ってきた。また、平成9年4月からは、留学生交流の実際に関わっている各方面の関係者から成る専門会議を設けて、幅広くかつ詳細な検討をしてきた。
    本懇談会の検討期間は2年間とされているが、本懇談会においては、留学生政策をとり巻く厳しい状況の下での緊急な対応の必要性にかんがみ、これまでの検討の結果を、「今後の留学生政策の基本的方向について」の提言として以下のとおり取りまとめたので、ここに報告するものである。
    なお、本懇談会においては、今後とも、本提言に基づく施策の進展や留学生の受入れ状況の推移等を見つつ、さらに検討を継続し、適宜その結果を取りまとめることとしたい。




1  留学生交流の意義

    留学生交流は、諸外国との国際関係及びグローバルに開かれた社会の構築にとって、極めて重要な意義を有している。
    特に、近年の国家間の相互依存関係の深化や情報化の進展の中で、我が国の知的国際貢献の充実は国内的にも国際的にも強く要請されている。また、学生、研究者等の世界的規模での交流が急速に進展する中で、我が国の高等教育機関についても、国際的な魅力と競争力が問われるようになっている。
    このような状況に対応するため、我が国としては、高等教育のグローバル化、留学生に対する高度な教育水準の確保による国際的な競争力の強化を図り、諸外国から優れた留学生や研究者が集中するいわば世界のセンター・オブ・ラーニングを確立することを目指して最大限の努力をしなければならない。
    このようなことから留学生交流の意義を改めて整理すると次のとおり要約できる。すなわち、第一には、今日国際社会が冷戦後の新たな平和的秩序を模索している中で、各国の国民が相互に理解し信頼しあう関係を築くことがますます重要になっているが、留学により諸外国の学生が交流し、異なった文化や社会を体験することは、このような我が国と諸外国の間の友好信頼関係を築く上で大きく貢献するものである。
    第二には、次代の世界を担う若者の教育及び学問研究の発展は、豊かな未来を創造するための全世界共通の課題であるが、留学生の交流は、各国がその教育研究基盤を共有しあうことにより、世界的な教育研究の発展を促進するものである。また、我が国の高等教育機関にとって、多様な文化的背景を有する優れた人材の受入れは、その教育研究に刺激を与え、活性化と水準の向上を大いに促すものと期待される。さらに、留学生の交流は、彼らを受け入れることによる地域社会の国際化や、雇用機会の提供等による企業の国際化・活性化にも大いに寄与するものと考えられる。
    第三には、開発途上国にとっては、将来の社会・経済の発展を支える人材の養成が急務であり、特にアジアを中心とする諸外国からの我が国の協力に対する期待が高まっているが、留学生の受入れは、このような期待に直接応えるものである。
    なお、我が国が、留学生交流の推進の意義を考える際には、高等教育のシステムを整備するだけではなく、他国の人々と共生し異なる文化を受容できる社会環境が整うなかで留学生の受入れが自然に行われるようになることが重要であるとの視点を忘れてはならない。



2  留学生交流の現状と評価

(1)「留学生受入れ10万人計画」に基づく施策
    留学生交流の意義の重要性にかんがみ、我が国は、昭和58年の「21世紀への留学生政策に関する提言」及び昭和59年の「21世紀への留学生政策の展開について」の提言に示されたいわゆる「留学生受入れ10万人計画」に基づいて、留学生受入れ体制の整備のための諸般の施策を総合的に推進してきた。また平成4年の「21世紀を展望した留学生交流の総合的推進について」の提言及び平成7年の「短期留学の推進について」の報告書に基づき、時代の変化に対応した新たな施策の展開が図られている。文部省の平成9年度の留学生交流関係予算は556億円となっており、主な施策の概要は次のとおりである。
  i)  国費留学生については、「10万人計画」の牽引力としての役割を果たすものとこれを位置付け、21世紀初頭に1万人を受け入れることを目指して計画的に整備されてきている(平成8年5月1日現在の国費留学生数は8,051   人)。
  ii)  私費留学生に対しては、成績優秀で生活困難な者に対する学習奨励費の支給、授業料減免を実施した学校法人に対する援助などの経済的支援がなされている。また、平成7年度から、大学間交流協定に基づき母国の大学に在籍しながら1年以内の期間我が国に留学する学生に対して奨学金を支給する短期留学推進制度が実施されている。
  iii)  留学生に対する教育・研究指導の充実のためには、国立大学等における留学生センター及び留学生課の設置、留学生担当教職員の配置の充実などの機構定員上の措置が進められており、特に平成7年度からは短期留学生に対し外国語(主として英語)で教育を行う特別プログラムの実施に対する支援が行われている。また、私立大学等については、私立大学等経常費補助金の特別補助において、留学生の受入れに係る経費について補助している。
  iv)  留学生のための宿舎の確保については、国立大学や公益法人の留学生宿舎の整備、地方自治体や学校法人による宿舎建設の奨励措置、民間企業の社員寮への留学生の入居の促進など、多様な施策が推進されている。
  v)  このほか、海外における日本留学フェアなどの情報提供、帰国留学生に対するアフターケアの充実などの施策が進められている。


(2) 留学生受入れの現状
    我が国における留学生数は、平成8年5月1日現在で52,921人となっている。留学生数は、平成6年までは「10万人計画」の想定を上回る伸びを示してきたが、近年伸び率が鈍化し、平成8年には初めて前年より減少(926   人減)するという事態になった。
  その内訳を見ると、次のとおりである。
  i)  全体の82.3%に当たる43,573人が私費留学生であり、この数は、平成7年から2年連続で減少している。
  ii)  在学段階別では、大学院については、なお増加傾向にあるが(1,134 人増)、大学学部の伸び悩み(107 人増)、専門学校(専修学校専門課程)の急減(2,087   人減)が目立っている。特に専門学校の留学生数は、平成2年の12,574人をピークに減少を続けており、最近3年間で約4,500 人減少している。
  iii)  留学生の出身地域別では、アジア地域が全体の90%以上の圧倒的多数を占めており、近年大きな変化は見られない。
  iv)  1年以内の短期留学生は、3,570 人(482 人増)で、主な出身地域別で見ると、アジアが全体の50%を超えており、米州、欧州、オセアニアの順となっている。
  v)  留学生の受入れ地域については、関東地域が平成3年には63%であったのが平成8年には54%になったように、徐々にではあるが大都市圏からの地方分散が進みつつある。
  vi)  留学生の宿舎の状況を見ると、学校、公益法人等が設置する留学生宿舎や一般学生寮などに入居している者は全体の約3割であり、残りの約7割は民間宿舎・アパート等に入居している。
  vii)  我が国の高等教育機関全体の在籍者数に占める留学生数の割合は、約1.5%であり、他の主要国では、イギリスが約10%、ドイツ・フランスが約7%、アメリカが5.6%などとなっているのに比較すると、著しく低い。我が国の場合を学校段階別に見ると、大学院では10%程度に達しているが、その他の段階では1%程度にとどまっている。
  viii)  日本語教育施設に在籍する就学生の数は、留学生数には含まれていないが、私費留学生の多くが日本語教育施設を経て大学等に進学していることから、その数の動向は留学生数に大きな影響を及ぼすものである。ちなみに、日本語教育施設の在籍者数の推移を見ると、平成5年度には33,107人であったのが、平成8年度には11,224人となっており、3年間で約3分の1に激減している。

(3) これまでの実績と最近の減少の原因
    「留学生受入れ10万人計画」に基づく諸般の施策により、我が国の留学生受入れ基盤は大いに整備され、最近までの留学生数の伸びに貢献してきたと考えられる。また、大学等においても、単に外部的要請に応えるという受け身の姿勢ではなく、自らの教育研究の活性化のために留学生を積極的に受け入れようという考え方が強まっている。地方自治体、民間国際交流団体、企業、ボランティア団体等の留学生支援活動も広がりつつあり、地方自治体や企業の国際化・活性化に寄与している。さらには、元日本留学生はそれぞれの母国の発展のために各方面で活躍し、我が国との友好信頼関係の強化に貢献しており、諸外国における我が国との留学生交流に対する期待はますます大きくなっている。
    しかし、一方で、我が国の受入れ体制の整備は留学生の急速な増加に十分に追いついておらず、留学生の中には留学の成果を必ずしも肯定的に評価していない者もかなりいると言われている。
    特に、近年留学生数が伸び悩んでいる原因としては、次のような事情が複合的に関わっていると考えられる。
  i)  我が国の生活コストが諸外国と比較して高く、また、宿舎の確保も非常に困難であること。
  ii)  我が国の高等教育事情、留学手続、奨学金などの情報が、特に海外において不足していること。
  iii)  我が国の大学等の教育研究体制が、学生や研究者の世界的規模での交流の活発化に必ずしも十分に対応できていないこと。
  iv)  留学生が日本人学生や地域社会に親しみ、日常的な交流を体験する機会が必ずしも十分でないなど、依然として日本の社会全般に異なる文化を受容する意識が薄いこと。
  v)  我が国の多くの留学生の出身地であるアジア諸国において大学等の整備が進み、留学ニーズが大学院などの高いレベルに移行してきていること。
  vi)  英語の国際語化の世界的な進展に伴い、英語圏への留学志向が一層強まり、比較的困難で時間を要する日本語の習得を避ける傾向が強いこと。
  vii)  近年我が国の不況が長引いたことなどが、日本での就職や海外に進出する日系企業への就職への期待感を低下させるなど、日本留学の将来性に対するイメージに影響を与えていること。

    なお、「10万人」という留学生数の目標は、昭和58年の「21世紀への留学生政策に関する提言」において、「21世紀初頭には現在のフランス並み(注:当時約12万人)の留学生を受け入れることを想定して、留学生政策を総合的、構造的に推進すること」が要請されたことを受けたものであるが、この目標自体についても様々な意見がある。  しかし、我が国の高等教育機関の在籍者に占める留学生の割合が今なお諸外国に比べて著しく低いことから分かるように、この目標は我が国の国際社会における今日的立場や高等教育機関の規模にかんがみると決して過大なものではない。しかも、冒頭に述べたように留学生交流の意義は今日の世界においてますます高まっていることや、これまでのこの目標に向けた大学関係者をはじめ、関係省庁・地方自治体・民間団体等による取組や、国民の理解の広がりにかんがみ、受入れ環境の整備のために、この目標に向けて引き続き最善の努力をすべきである。



3  今日の課題と今後の施策の重点
    留学生の受入れについては、単に人数を増加させるというのではなく、充実した教育指導を提供し、大きな留学の成果を得させることが重要である。このような留学生施策の質的充実によって、留学生数の増加も期待できるのであり、そのためには、受入れ人数の増加と質的充実のバランスのとれた施策を講じていかなければならない。特に、学部レベルでの短期留学や大学院レベルでの留学生の増加等、最近の留学生交流の傾向の大きな変化を踏まえた取組が重要である。また、国費留学生を中心として、将来母国のリーダーとなるような優秀な人材を全世界から積極的に招聘し、母国の発展及び我が国との友好信頼関係の要としての活躍を期待するという政策的な観点も重要である。
    一方、我が国は現在、未曾有の財政危機の状況にあり、財政構造改革が政府全体の喫緊の課題となっており、ODA(政府開発援助)についても量から質への転換を図ることにより、その関連予算を縮減することとされている。留学生施策についてもこの例外ではないが、その中で、前述したような知的国際貢献の重要性にかんがみ、受入れ人数の増加と質的側面の充実に最大限の努力をしていく必要があろう。
    そのためには、既存の事業についてもその成果を十分評価した上で所要の見直しを行いつつ、今日の課題を踏まえた施策の重点化を図る必要がある。また、国のみならず、国際化を志向する地方自治体や民間との連携協力により、一体的な取組を一層推進することが不可欠である。

    具体的には、次の点に今後の施策の重点を置くべきである。
  i)  我が国の高等教育機関がグローバルな視点に立った魅力ある教育体制を充実させること。
  ii)  留学希望者が我が国の高等教育機関へアクセスしやすいよう留学システムを改善するとともに、日本語教育に配慮した留学生交流施策を展開すること。
  iii)  国・地方自治体・民間が連携・協力し、官民一体となって多様かつ効率的な方法により留学生の生活支援や交流活動を充実させること。



4  具体的な施策の方向
(1) 高等教育機関におけるグローバルな視点に立った教育体制の充実
    留学生の受入れを拡大するためには、我が国の大学等が世界に開かれた高等教育機関として、グロ−バルな視点に立った教育体制を確立し、国際競争力のある魅力ある教育を推進するために、まず、自らが変革することが何より重要である。

i)グローバルな視点に立った教育システムの弾力化
    近年の世界的規模での留学生交流の進展は、我が国の大学等の教育システムを国際的な通念に照らして見直し、多様な教育的背景を持つ諸外国の学生を弾力的に受け入れられるような運用を求めている。

  ○入学時期等の弾力化
    学年の始期・終期は国により様々であり、学生の国際的な流動化を促進するためには、弾力的な受入れができるようにしなければならない。各大学においては、秋季入学の実施やセメスター制の採用などに積極的に取り組むことが望まれる。

  ○外国の大学との単位互換や編入学、転入学の推進
    留学生が外国の高等教育機関における学修の成果を生かすとともに、短期間で効率的な留学ができるよう、各大学において大学間の学生交流協定等による外国の大学との単位互換等を一層進める必要がある。
    また、例えばマレイシアでは、アメリカやオーストラリアの大学と連携して、大学教育の初期の段階は母国で受け、途中の学年から留学するといういわゆるツイニング・プログラムが普及しつつある。我が国においても、留学生の第一学年からの受入れだけでなく、各大学の判断で、編入学・転入学による第二学年以降での受入れについても積極的に推進すべきである。
    さらに、設置基準上、学部のみならず大学院でも、入学前の既修得単位の認定が一定範囲で認められており、各大学において留学生の受入れに際してのより積極的な活用が望まれる。

  ○外国語による教育の推進
    留学希望者の日本語習得に要する負担を軽くし、多くの学業優秀な外国の学生に我が国への留学機会を提供するためには、外国語(主として英語)による教育プログラムの整備が重要である。また、このようなプログラムには、留学生に加えて日本人学生も積極的に参加させるようにすべきである。
    各大学等においては、このような取組をさらに推進するとともに、日本人学生を主たる対象とする通常の授業についても、必要に応じて一部を外国語で行ったり、日本語と外国語を併用するなどの試みを拡大することが望まれる。

  ○学位授与の改善
    我が国の学位授与の在り方については、かねてから国際的な通念に照らして改善を図ることが各方面から求められ、相当程度の改善を見ているが、特に文科系の一部の分野においては、依然として博士号の授与が少なく、一層の改善が必要である。
    また、近年、諸外国の大学院においては、集中的な教育プログラムにより、修士号・博士号を取得させることが普及しつつある。我が国においても、最近、優れた業績を修めた留学生について、1年間で修士号を取得できるよう配慮している大学院修士課程の例があり、このような取組の進展が望まれる。

ii)留学生のニーズに対応した魅力ある教育プログラムの推進
    各大学等においては、単に受け身で留学生を受け入れるのではなく、より積極的・意識的に、多様なニーズに応える知的国際貢献を推進する観点から、各種の教育プログラムを推進することが望ましい。

  ○各種の分野における特別プログラムの推進
    留学生の各大学等における受入れの形態には、従来、個々の留学生をその希望に応じて既存の教育プログラムに受け入れるものが多かったが、今後、より積極的な知的国際貢献を進めるためには、諸外国の多様なニーズに対応した様々な分野の特別プログラムを開発し、目的意識の明確な留学生を組織的に受け入れることが必要である。現在、このようなプログラムの例としては、国立大学大学院の主として国費留学生を対象とする特別コース(15大学21コース)などがあるが、より幅広く多様な方法で推進を図るべきである。
    今後、考えられる具体例としては、企業等との協力によるインターンシップ(実務研修)をカリキュラムの一環として組み込んだプログラム、経済・国際関係・教育などの分野の若手行政官を対象とする研修プログラム、外国の特定大学の教育研究体制の充実に協力する若手教官の養成プログラム、環境・開発分野や医療分野など開発途上国において特にニーズの高い分野の人材養成プログラム、日本語教育の指導者の養成プログラムなどが考えられる。
    また、諸外国においては、学位の果たす役割が大きいことから、これらのプログラムについても、各大学において、できるだけ正規課程の中に位置付け、それを修了することで学位取得が可能となるように配慮することが望ましい。
    各大学においては、それぞれの特性等を生かして、積極的にこれらのプログラムの開発に取り組むことが望まれる。なお、留学生の地方での受入れの推進が大きな課題となっているが、地方の大学等において、その特色を最大限に発揮した特定分野の重点的な取組を行い、広報活動に力を入れることは、留学生受入れの拡大に大いに役立つものと考えられる。
    さらに、以上のような取組を奨励するために、国費留学生の重点的な配置を図るほか、人材養成を支援する国際機関(世界銀行、国際通貨基金など)との連携、海外経済協力基金(OECF)による円借款の活用、民間奨学団体との連携など、様々な方法での支援を進めるべきである。

iii)国際的な大学間学生交流の推進
    大学の学生の国際的な流動化は世界的な趨勢であり、これを積極的に推進して、大学等の国際化・活性化に生かしていかなければならない。

  ○短期留学特別プログラムの推進
    大学間学生交流の中心的な形態である短期留学は、欧米のみならず、近年各国の高等教育機関の整備に伴い、アジア地域でもそのニーズが高まっている。多様な分野の学生を受け入れ、短期間で教育効果を挙げるためには、主として英語による教育の実施が不可欠であり、国立大学の学部における特別プログラムの設置を引き続き推進すべきである。
    なお、短期留学のニーズは大学院レベルでも大きく、これに組織的に対応する特別プログラムの開発も検討する必要がある。

  ○大学間交流の活性化
    大学間の学生交流を活性化するためには、単位互換、授業料の相互不徴収等を含む学生交流協定の締結を促進する必要がある。この場合、特に密接な教育研究面の連携協力関係を構築するための二大学間の交流にとどまらず、米国などで盛んなコンソーシアム方式を導入し、多大学間の学生交流についても普及させる必要がある。
    また、アジア太平洋大学交流(UMAP)等、多国間・多大学間の留学生交流に我が国がより積極的に参画し、ヨーロッパにおけるECTS(欧州内単位互換制度)のような域内共通の単位互換システムの構築など多国間交流の促進に資する条件整備等にも努めるべきである。
    さらに、大学間の提携関係を拡大するためには、まず相互の情報や意見の交換の機会を拡充する必要があり、我が国と外国の大学等の留学生交流を担当する教官や事務職員の相互交流を支援すべきである。
    なお、大学間の学生交流は、一方通行ではなく、双方向での交流が行われるところに大きな意義がある。したがって、日本人学生の海外留学についても、奨学金制度や授業料の相互不徴収協定を活用することにより、積極的に進めるべきである。特に我が国においては、アジア地域からの留学生がほとんどであるのに、日本人学生のアジア地域に関する知識や理解が乏しいことがよく指摘される。海外留学のための奨学金の運用に際しては、特にアジア地域への留学を奨励するよう留意する必要がある。

iv)留学生に対する教育・生活面の相談・支援体制の充実
    留学生にとって、最も身近で重要な基盤はその在籍する大学等にあり、各大学等は、その教育・生活面の相談にきめ細かく対応し、必要な支援を行う体制の整備に努めなければならない。

  ○留学生に関するセンタ−機能の整備
    国立大学では、留学生数の多い大学を中心に留学生センター及び留学生課が計画的に 整備されてきており、私立大学では、国際交流センターなど様々な形で同様の機能を果たす組織が設けられている。引き続きこれらの整備を進める必要がある。なお、公立大学においても、必要に応じてこのような取組を進める必要がある。
    また、形式的には組織が設けられていても、実際には留学生に必要な情報が学内の各部局にとどまっていて、留学生センターが把握しておらず、必ずしも的確に相談に応じられていない例が多く見られる。各大学等においては、留学生センターと各部局との連携を密接にして、必要な情報をセンターに集中し、センターがその機能を十分に果たすことができるように努めるべきである。
    さらに、このようなセンターは、留学生が気軽に相談等に訪れたり、日本人学生等と交流したりできる場を備えている必要があるが、現状では十分な施設が確保されていない大学等が多く、今後の整備が課題である。

  ○留学生担当教職員の配置の充実と専門性の向上
    大学等においては留学生担当教職員の配置が進められており、ボランティアやチューター制度等も活用されているが、留学生数の増加になお十分には対応できておらず、引き続き充実に努める必要がある。
    特に、留学生は大学等の特定の学部・研究科等に集中する傾向があるが、国立大学等においては、このような実態に即した留学生担当教職員の重点的整備を行うとともに、大学院の整備充実の一環として、受入れ留学生数を勘案した学生定員の設定(定員内化)を進めることが望まれる。
    また、事務職員については、留学生の様々な相談に対応したり、海外の大学との交流を進めるためには、幅広い知識や語学力が必要であり、研修の充実などによってその専門性の向上を図るべきである。
    なお、留学生にとって、我が国への入国・在留のための各種の入国管理上の手続は大きな負担であり、これらの手続の大学等による代理申請や申請取次の制度の利用の普及が期待される。そのためには、大学等の事務職員に対する研修会に、地方入国管理局の協力を得て、入国管理制度に関する研修を含めることなどを進める必要がある。


(2) 留学希望者の我が国の高等教育機関へのアクセスの改善及び日本語教育に配慮した留  学生交流施策の推進
    海外における我が国への留学に対する関心は極めて高いと言われている。ところが、現実に我が国の大学等に入学するための手続が分かりにくいために、このような潜在的な需要に十分に応えられていないと考えられ、この点の改善が急務である。
    また、我が国への留学のためには、外国語による教育プログラムをある程度普及させたとしても、一般的には日本語能力が不可欠である。したがって、我が国の留学生受入れの拡大の前提として、留学生交流施策との一貫性を図りつつ、国内外における日本語教育の振興のための施策を推進する必要がある。

i)留学情報の提供体制の充実
    海外においてより多くの学生が、日本への留学に興味を持ち、また自らの留学目的に合った教育機関を選択して、実りある留学を達成できるようにするためには、我が国の事情や個々の大学等の教育、研究上の特色等に関する適切な情報を提供することが重要である。

  ○留学フェア、インターネットの活用等による情報提供の推進
    (財)日本国際教育協会の実施する日本留学説明会(日本留学フェア)は、海外における留学情報提供の貴重な機会であり、各大学等の積極的な参加が望まれる。なお、この機会を有効に活用するためには、参加大学等において、単に一般的な情報を紹介するのではなく、具体的な留学生の入学選考や大学間交流協定の締結について責任と権限を持って判断できる体制の下で、関係教職員を派遣するよう努めるべきである。
    また、各大学等においては、インターネットを活用し、そのホームページにおいて、入学選考方法、宿舎事情などを含め、真に留学希望者に必要とされる情報の提供に努める必要がある。さらに、留学希望者が、このような情報に容易にアクセスできるようにするため、各大学等のホームページと(財)日本国際教育協会や在外公館のホームページとの接続の充実を図るべきである。

  ○在外公館における国・地域の状況に応じた情報提供体制の充実
    国・地域の状況に応じたよりきめ細かな留学情報を提供していくには、在外公館における日常的な情報提供の充実が必要であり、そのための専門的なスタッフの充実が望まれる。
    また、留学希望者が、気軽に相談し有益な情報を得られるようにするためには、在外公館が、国際交流基金や(財)日本国際教育協会等と協力しながら、現地の大学その他の教育関係機関と連携して各地に情報提供の拠点を作っていくことが望まれる。このことにより、我が国の大学等も効果的な情報提供先を把握しやすくなると期待される。

ii)大学等における留学生の入学選考方法の改善
    我が国の大学等における入学選考方法等の問題については、文部省学術国際局長の要請で設けられた調査研究協力者会議により、本年3月にまとめられた「留学生の入学選考の改善方策について」と題する提言において詳細に述べられている。本懇談会においても、この提言の内容を基本的に支持するものであり、早急な改善を要請したい。

  ○渡日前の入学許可の普及
    各大学等においては、留学生の母国の教育機関の成績や教官の推薦、母国の統一試験の成績等の書類選考により、渡日前に入学を許可するシステムを開発すべきである。
    また、文部省においては、このような取組を支援するとともに、留学生の入学選考に関するいわゆるアドミッション・オフィス機能の整備についても検討すべきである。

  ○大学院における研究生制度運用の見直し
    各大学等においては、学位取得を目的とする留学希望者を、研究生ではなく、所定の選考を経て直近の入学時期から正規生として受入れ、併せて入学後の指導の充実及び適正な評価等に積極的に取り組むべきである。

  ○私費留学生の日本留学のための新たな統一試験の開発
    現在の私費外国人留学生統一試験及び日本語能力試験に代わり、留学に必要とされる適性を総合的に評価でき、留学希望者及び各大学等にとってより利用しやすい新たな試験を早期に開発・実施すべきである。
    また、その実現までの間においては、私費外国人留学生統一試験の内容の改善及び日本語能力試験の利用方法の見直しを図るべきである。
  ○国費留学生の募集・選考体制の一層の充実
    国費留学生制度は、主として将来母国の基幹的人材となるよう期待される優秀な若者を積極的に招聘するものであり、文部省及び外務省の協力により、その募集・選考体制を一層強化すべきである。
    そのため、例えば、在外公館においては、広報活動を一層充実させること、現地の政府や関係機関のみならず、在外研究員等として現地に滞在する我が国の大学等の教官の積極的な協力を得るなどの工夫が望まれる。また、文部省及び外務省においては、私費留学生の入学選考方法等の改善と同様、国費留学生に対する試験の在り方をも検討し、我が国の大学等の教官による在外公館における選考状況の定期的モニターや、助言の機会を設けるなどの協力体制を整備することが必要である。

iii)留学生施策の一環としての日本語教育振興施策の推進
    私費留学生の多くは、まず国内の日本語学校で日本語教育を受けた後、大学等に進学しており、日本語学校への「就学」が、事実上「留学」の第一段階となっている。また、海外における日本語学習は我が国への関心を大いに高め、日本留学を促進するものである。このように日本語教育の振興は留学生交流と極めて密接な関係があるにもかかわらず、従来必ずしも十分な連携が図られていなかったきらいがあり、今後、就学生にも配慮した一貫した施策を展開していく必要がある。

  ○大学等の日本語教育体制の充実
    現在、多くの大学等について、留学生の入学選考において日本語能力を重視し過ぎるとの指摘があり、「留学生の入学選考の改善方法について」の提言においても、専門分野や指導形態による違いなどを考慮しつつ、その改善を図る必要性が指摘されている。
    今後、各大学等では、日本語以外の学力・能力に秀でた留学生を適正に選抜して入学許可を与えることが期待されるが、それに伴い、国立大学の留学生センタ−及び私立大学の留学生別科における日本語教育の役割が必然的に大きくなるので、これらの整備と有効活用を同時に検討すべきである。

  ○日本語教育振興協会の審査認定事業による国内の日本語学校の質の確保
  (財)日本語教育振興協会は、平成2年以来、文部省の調査研究協力者会議が策定した「日本語教育施設の運営に関する基準」に基づく日本語教育施設審査認定事業を行い、日本語学校の質的向上と就学生の円滑な受入れに寄与してきた。今後とも、この事業を引き続き推進していく必要がある。

  ○大学等と日本語学校との連携の推進
    前述のように、今後、大学等における日本語教育体制の充実がますます重要になってくるが、学内だけでの体制整備は困難な場合もある。そこで、日本語学校が有する日本語教育の指導体制を一層有効に活用することが期待される。そして、大学等に在籍する留学生や入学を予定する者に対する日本語指導をはじめ、留学希望者の募集、選考などの充実のため、大学等と日本語学校との連携を積極的に推進する方策を検討すべきである。

  ○海外における日本語教育への支援
    近年、海外における日本語学習者は質量ともに広がりを見せており、これがさらに進展することは、留学生交流を推進する上で大きなメリットとなる。そこで、海外における日本語教育への支援のためには、現在、国際交流基金による日本語教育専門家の海外派遣、日本語教材の寄贈、海外日本語センターの整備等の支援が行われており、その一層の充実が期待される。
    また、大学等の日本語教員養成課程においても、外国人の日本語教育指導者の養成のための特別プログラムを設けたり、大学間交流協定に基づき、外国の大学における日本語・日本文化専攻科等に教官を派遣するなどの協力を行うことを検討すべきである。


(3) 国・地方自治体・民間の協力による多様かつ効率的な方法での留学生の生活支援
    我が国の留学生の当面する最も深刻な問題は、高い生活コストや宿舎確保の困難さである。また、日本人社会にとけ込むことが困難であるという不満もよく聞かれる。これらについては、厳しい財政事情の下で、国においては、関係省庁が連携を図り、重点的な施策を推進する一方、地方自治体や企業等民間における国際化のための取組の一環としての留学生に対する支援を促進するような施策を重視したり、あるいはこれらとの連携を図るなどにより、効率的な施策を行うよう努めるべきである。

i)諸外国及び留学生のニ−ズに応じた奨学金等の重点的充実
    奨学金については、単に留学生を量的に確保するというのではなく、優れた人材の確保や大学等における特色あるプログラムの奨励などの観点から、重点化を図る必要がある。

  ○国費留学生制度による基幹的役割を果たす人材の我が国への招聘の確保
    国費留学生制度は、諸外国の将来を担う優れた人材を全世界から招聘する我が国の留学生施策の根幹をなすものであり、今後ともその整備を推進していく必要がある。
    その際、前述したように募集・選考体制の充実を図り、また、諸外国のニーズに応じた各種の分野の特別プログラムにおける組織的な受入れを推進するなど、制度本来の趣旨が十分に生かされるように留意すべきである。

  ○学習奨励費の支給予約等の私費留学生に対する支援の充実
    (財)日本国際教育協会が実施する学習奨励費制度は、我が国の私費留学生に対する中心的な育英奨学制度としての役割を果たしている。
    この学習奨励費は、これまで、我が国の大学等に既に入学した者について大学等の推薦に基づいて支給しているが、今後、留学希望者が安心して我が国に留学できるよう、渡日前に優れた評価を得て大学等へ入学を許可された者を対象に、学習奨励費の支給予約制度を創設することが適当である。民間の奨学団体の奨学金についても、このようなことから我が国の大学等や現地の教育機関などとの連携により、今後、渡日前の支給予約が普及することが期待される。
    また、大学進学を目指して日本語学校で勉強している就学生については、従来から進学を条件に学習奨励費の支給予約制度を実施しているが、優れた就学生の学習意欲を高めるために、一層の拡充を図るべきである。
    なお、現在、日本語学校に在籍している就学生については、公的にも民間レベルでもほとんど支援措置が設けられていない。前述したように「就学」が「留学」の第一段階になっているという実態を考慮すれば、今後、この段階における支援措置についても検討すべきである。また、民間の奨学団体に対しても、このような状況についての理解を求める必要がある。

  ○特別プログラムによる短期留学生の積極的受入れ
    今日世界的な趨勢となっている大学間交流協定等に基づく活発な短期留学は、我が国としても一層の推進を図っていかなければならない。このため、平成7年度に創設された短期留学推進制度については、前述の主として英語による特別プログラムの推進などによる積極的受入れに重点を置きつつ整備を進めるべきである。また、民間奨学団体による短期留学への支援も期待される。

  ○地方自治体・民間奨学団体の私費留学生のための奨学金の充実と連携
    近年、地方自治体や民間奨学団体においても、留学生交流の意義に対する深い理解の下に各種の奨学金が設けられてきており、誠に喜ばしいことである。今後とも、新たな民間奨学団体の設立をはじめ、地方自治体、民間奨学団体による奨学金の一層の充実が期待される。
    なお、これらの奨学金については、それぞれの創設の趣旨が尊重されなければならないのはもちろんであるが、関係団体が連絡協議会等の場を通じて連携し、受入れ大学等とも意見交換をしながら、各奨学金制度がそれぞれの特色を発揮しつつ、一層有効に活用される方策をさらに検討すべきである。

ii)留学生のための宿舎の確保
    留学生のための良質で低廉な宿舎の確保は、留学生受入れのための重要な基盤であり、国・地方自治体・民間が、それぞれの立場から多様な方法で取り組まなければならない。

  ○国立大学等の宿舎の整備
    国立大学等については、留学生宿舎を整備するとともに、留学生と日本人学生との交 流を促進するため混住型学生寄宿舎の整備も推進していく必要がある。

  ○地方自治体、学校法人、民間団体等による留学生宿舎建設の促進
    地方自治体、学校法人、民間団体等による留学生宿舎の建設に対しては、現在(財)日本国際教育協会が留学生宿舎建設奨励金制度を実施している。また、日本私学振興財団は、学校法人の留学生宿舎を含む国際交流施設の建設に対する低利融資制度を実施している。このほか、地方自治体による国際交流施設の整備については、起債措置(地域総合整備事業債)が認められているので、これらの制度の積極的な活用が期待される。

  ○企業の社員寮や公営住宅の留学生への提供等の推進
    (財)留学生支援企業協力推進協会が実施する留学生への社員寮提供事業については、200社以上の企業から良質で低廉な宿舎が提供されるとともに、企業社員との日常的な交流を通じた相互理解の醸成の面でも大きな効果を挙げており、その普及・拡大が期待される。また、地方自治体においては、公営住宅への留学生の入居についての周知等の一層の促進を図ることが望まれる。
    なお、これらについては、各大学等が、地方自治体や地元の企業に積極的に働きかけ、その理解と協力を得るよう努力していくことが重要である。

  ○大学等における民間の留学生宿舎の確保と情報提供・あっせんの充実
    留学生にとって、自ら適当な民間宿舎を探すことは大きな負担であり、また、その過程で不愉快な経験をする例もよく聞かれる。そこで、各大学等においては、(財)内外学生センターの指定宿舎事業等を活用したり、地元の不動産業者団体などを通じて、留学生が入居できる民間宿舎の情報を積極的に収集して留学生に提供したり、入居をあっせんしたりするよう努めるべきである。

iii)各種保証制度の改善
    留学生の入国・在留手続に従来必要とされた身元保証人制度が、平成8年12月に法務省において関係規則の改正により廃止されたことは、大きな前進であると考えられる。しかし、我が国には、このほかにも各種の保証制度の慣行が存在し、留学生の大きな負担となっており、その改善が望まれる。

  ○大学等の入学時の保証制度の見直し
    現在、多くの大学等では、入学料、授業料等についての債務保証を求めており、さらに、学生に対する生活指導上の役割を期待して身元保証的な保証人を求める例も見られる。しかし、身元保証的な保証人については、その実益に乏しいことが指摘されており、廃止について検討すべきであろう。また、債務保証については、これに代わる制度の創設を含めてその必要性を検討し、留学生であるがゆえの障害の軽減を図る方策を講ずべきである。

  ○宿舎入居に係る保証についての保険制度の活用や保証制度の推進
    宿舎入居に係る債務保証も大きな問題であるが、民間の商慣習であり、一般にこれを廃止することは困難である。このため、(財)内外学生センタ−においては、留学生の宿舎に与えた損害について保険制度により宿舎入居時の保証人の確保を容易にする事業を行っているが、補償の範囲が狭いことなどから十分に普及していない状況にあり、その大幅な改善を図る必要がある。
    また、最近、福岡県においては、地域国際化協会等が中心となって、留学生の宿舎入居に際しての連帯保証人となる制度を発足させた。このような保険制度の推進について、今後関係団体において検討する必要がある。

iv)留学生の日本人学生・地域住民・民間団体との交流活動の推進
    留学生と日本人学生や地域住民、民間団体との交流活動は、留学生及びその家族の生活に潤いを与え、日本の文化・社会への理解を深める一方、日本人の国際的な視野を広げるような効果や、地域社会の国際化への一助ともなる絶好の機会となり、相互に有益であるので、これを積極的に推進する必要がある。

  ○大学等による日本人学生や地域社会への積極的な働きかけ
    各大学等においては、日本人学生の国際交流サークルやボランティア活動を積極的に奨励し、留学生に紹介したり、交流の場を提供するなどの支援を行うことが望まれる。
    また、地方自治体や地域の国際交流団体・ボランティア団体と連携を密にするほか、民間企業の協力も得て、これらの団体の企画する交流活動、企業見学、ホームステイや家庭訪問などの機会を留学生に積極的に紹介し、参加を促進することが期待される。

  ○学校教育や社会教育における国際交流活動への留学生の参加
    地方自治体においては、地域の文化関係や国際交流関係の行事などへの留学生の積極的な参加を推進している。
    今後、学校教育や社会教育の場において、外国語や国際理解に関する教育活動に留学生を講師や指導者として招くなど、相互に有益な事業を日常的に実施していくことが望まれる。

  ○留学生支援のためのボランティア活動の奨励
    ボランティア活動が地域における留学生に対するきめ細かい支援を行ううえで果たす役割は極めて大きく、国においては、このような活動を一層促進し、奨励を図る方途を検討すべきである。また、地方自治体における同様の検討が期待される。特に、ホームステイにより受け入れる場合は受入れ家庭の負担が大きいことから、これらの家庭への配慮が十分なされる必要がある。

  ○留学生のアルバイトのための環境整備等
    留学生がアルバイトを行うことや、そうせざるを得ない生活環境におかれることは本  来歓迎すべきものではない。しかし、現実には留学生の生活費の一部がアルバイトに依  存していることを考慮すれば、これらの留学生が、学業に支障のない範囲で行えるアル  バイトをより容易に見つけることができるよう、今後さらに、関係方面において留学生  に適したアルバイトの開拓や紹介システムの整備等について検討することが望ましい。


(4) その他
i)留学後のアフターケアの充実
    留学生がその成果を十分に生かし、また、我が国との密接な関係を保ち続けることができるような留学後の支援が重要である。

  ○留学後の我が国における就職等への配慮
    海外の日系企業にとって、日本への留学経験者は、日本事情に詳しく、日本人とのコミュニケーションに優れているという利点があり、また、日本国内の企業にとっても、外国人留学生の採用は多様で国際的な人材が得られるという利点がある。留学生の中には、大学卒業後ただちに帰国し就職を希望する者ばかりでなく、大学等を卒業した後、そこで得た知識や技術を生かして日本で就職し、実務面の経験も修得した上で母国に帰国したいという希望を持っているものも多い。このような希望に応えるため、(財)内外学生センタ−では、留学生のための就職情報誌を作成、配付しており、また、労働省の設置する外国人雇用サービスセンターも情報提供や相談等の業務を行っている。関係企業の理解を得ながら、これらを充実していく必要がある。
    なお、これまで、専門学校の留学生については、入国在留手続において、卒業後直ちに母国に帰国することが義務づけられ、我が国での就業が認められなかった。今般、法務省においてこの取扱いが改善され、専門士の称号を取得した専門学校卒業生は、他の高等教育機関と同様、卒業後日本国内での就職が可能となった。また、専門学校卒業後の大学への進学についても、専門学校で受けた教育と一貫性のある学部等についてのみ認める取扱いであったが、このことについても改善されたので、その周知と制度の活用が望まれる。

○帰国留学生に対するフォローアップの充実
    我が国の大学等で学業を終えて帰国した留学生が、政治、経済等の様々な分野で、我が国と母国との友好の架け橋として、貴重な存在となっていることを考えると、帰国留学生のフォローアップは極めて重要な意義を有している。
    そこで、帰国留学生に対するフォローアップを充実するには、まず帰国留学生の名簿を整備することが必要となる。各大学等や在外公館においては、名簿の整備・更新を早急に進めることが望まれる。
    また、在外公館においては、帰国留学生が連帯して我が国との絆を維持するのに重要な役割を果たしている帰国留学生会に対する支援を充実させる必要がある。
    さらに、帰国留学生の現地日系企業への就職希望に応えるため、在外公館においては、帰国留学生会や現地の日本商工会等と連携して、就職情報の収集・提供などの支援を行うことが期待される。

ii)高等学校における国際交流の推進
    高等学校段階の留学交流も、国際理解・友好親善の増進という面では、高等教育に劣  らない意義を有している。すなわち、異なった文化、言語や習慣の中にあって、様々な  困難を克服したり同世代の生徒との交流を深めることによって得られるものは、総じて  非常に大きいと言えよう。また、これらの経験を礎として、さらに大学等への留学を志  す契機になることも予想されるなど、将来的に見て、大きな効果を生むものと考えられる。

  ○留学交流の推進
    高等学校における留学交流の現状を見ると、平成6年度の日本人高校生の3か月以上の留学は3,998 人、外国人高校生の受入れは1,143 人と、日本人高校生の海外留学に比べて、外国人高校生の受入れが少ない。留学交流は、本来双方向で行われることが重要であり、各高等学校においては、教育委員会、ホストファミリ−及び民間の留学交流団体と連携を密にして、積極的に受入れ体制を整備すべきである。
    また、交流の相手地域が欧米に偏りがちであり、アジア地域との交流の拡大が望まれる。
    さらに、近年、高等学校における姉妹校提携も増加してきており、このような関係を利用した継続的な留学交流の推進も期待される。
    なお、高校生の留学については、海外の高等学校における学習の成果を30単位まで国内の高等学校における履修とみなし、単位の修得を認定することができる。各高等学校においてはこの制度を積極的に活用することが望まれる。

  ○日本語を専攻する外国高校生の短期招致の推進
    最近、外国の高等学校での日本語教育が盛んになってきている。このような学校で日本語を専攻する高校生を我が国に招致することは、短期間であっても直接日本の文化・社会に触れる機会を与え、我が国への関心と理解を深めさせるとともに、学習の継続への大きな励みになることが期待される。
    現在、文部省では、(財)エイ・エフ・エス日本協会及び(財)ワイ・エフ・ユ−日本国際交流財団を通じて、アセアン諸国やアメリカの日本語を専攻する高校生を対象とする短期招致事業を実施しており、一層の活用を図るべきである。



5  留学生交流の効率的な推進のための関係機関の一体的な取組体制の確立
    以上述べてきたように、留学生交流の推進や留学生に対する支援については、国・地方自治体・民間がそれぞれの立場からの取組を進めるべきであり、また、現に様々な取組が行われているが、費用対効果においてより効率的な推進を図るためには、関係機関が連携協力して一体的に取り組む体制を確立することが求められる。

(1) 関係省庁等の連絡協議の場の設置
    国においては、文部省、外務省、法務省をはじめとする関係省庁が、留学生交流の推進を図るための方策について定期的に連絡協議を行う場を設け、国としての総合的な施策の効率的な推進に努めることが望まれる。
    また、このような場においては、必要に応じ、地方自治体や民間の国際交流団体、経済団体等の関係者との意見交換を行う機会も積極的に設ける必要がある。

(2) 地方自治体相互間の情報交換や連絡協議の推進
    各地方自治体においては、それぞれ特色ある留学生交流・支援活動を展開しているが、これらの活動について、地方自治体相互間で情報を収集・整理し、紹介すること等を検討するなど、今後の方策について連絡協議を進めることが望まれる。
    また、各地方自治体の情報の共有と取組の活性化を図るため、各地方自治体の活動内容を収集整理し、特色ある事例を紹介するような資料を作成・配布することも検討すべきである。

(3) 地域留学生交流推進会議の活性化
    現在、各都道府県には、地域の中心的な国立大学が事務局となって、地域の大学等、地方自治体、国際交流団体、経済団体等の幅広い関係者により構成される「地域留学生交流推進会議」が設置されている。これは、地域レベルでの関係機関の連携の緊密化を図る重要な組織である。この会議を一層活性化し、単なる情報交換だけではなく、地域の特色を生かした関係機関の協力による新たな事業の企画立案など地域の主体的な留学生交流を推進する中核としての役割を果たすことが期待される。

-- 登録:平成21年以前 --