審議会情報へ

大学における学生生活の充実に関する調査研究会議事要旨

1999/10/26 議事録
大学における学生生活の充実に関する調査研究会 (第3回)議事要旨

         大学における学生生活の充実に関する調査研究会(第3回)議事要旨


1.日  時    平成11年10月26日(火)14:00〜16:00

2.場  所    文部省3A会議室

3.出席者
(協力者)  廣中平祐座長,大谷毅,加藤雅治,加藤美智子,喜多信雄,小谷部育子,佐々木大輔,西野哲朗,濱名陽子,平野敏政,保坂亨,森茜,茂里一紘の各協力者
(意見発表者)小柳晴生香川大学保健管理センター所長
(文部省)  高塩学生課長,亀井課長補佐  他



4.議  事


(1)前回議事要旨(案)について,修正意見等があれば,1週間以内に事務局に連絡いただき,座長の責任において確定することとされた。


(2)小柳晴生香川大学保健管理センター所長より「大学生の不登校について」の発表が資料に即して行われた。小柳氏の発表内容は概ね次のとおりである。

・  不登校は,地方の中規模大学である香川大学でも問題になっており,全国的にも普遍的な現象ではないか。また,不登校になって相談に来るタイプの典型例は,決して怠け者ではないだけでなく,目標が非常に高く,真面目な学生であり,これまで教育が理想としてきた学生像である。

・  小・中学校の不登校児童生徒の数は,昭和40年代後半を境に増加に転じている。これは,戦後の学校教育が始まって30年が過ぎ,今の子どもが求めるものと合わなくなっていることが原因と考えられる。大学でも,これに似た状況が起こっている。大学の統計がないためあまり問題になってこなかったが,対人恐怖,意欲減退という理由で引きこもる学生が少なからずいる。また,大学の学生相談室を訪れる学生も急激に増えている。

・  不登校に関連する過去の議論について触れると,1968年以降,70年安保闘争をはさんで留年について多くの議論と調査研究が行われた。この中に,今でいう不登校がかなり含まれているのではないか。1974年に共通一次試験が開始された頃には,スチューデントアパシー,意欲減退,退却神経症が問題になり,「モラトリアム人間」,「しらけ」という言葉も使われた。1985年には「新人類」という言葉が登場し,若い人がわからないという論調が強まった。最近は,職場や大学に行かなかったり,行ってもすぐ辞めてしまう現象を「引きこもり」と捉えているが,正確な数はわかっていない。
  大学生の不登校についての初出は1969年の東京大学の風祭元氏の「大学生の学校恐怖症」と題する東京大学学生についての報告だと思われ,今日我々が見る例とほぼ同じ現象を挙げている。
  不登校には小・中・高校の不登校と大学の現象は同じであるとする「連続説」と,両者は質が違うとする「不連続説」がある。

・ 香川大学で行った調査では,1983年から6年間の学生相談への来談者168名のうち22名(13.1%)が不登校と考えられた。男女比では,圧倒的に男子が高かった。これらの学生の追跡調査では,卒業した者が9名,退学した者が13名であった。来談した者であっても卒業をするのはなかなか難しいが,卒業者の平均面接回数は92.4回,退学者の平均面接回数は6.9回で,面接を継続した者が卒業に至っている。
  香川大学全体の不登校学生数については,教官に対してアンケートを行い,7割の回答率を得た。それによると,香川大学で1993年に不登校であると考えられた学生は44名おり,出現率は0.9%であった。男女比では,男子の方が高かった。学年では3,4年生が多くなっているが,これはゼミなどによって教官が学生と個人的に接触するようになって,はじめて不登校が判明しているためと思われる。従って,香川大学全体の不登校の学生は60〜100名,出現率は1.2〜2.0%と考えられる。
  44名のうち保健管理センターに相談に来たのは本人8名,保護者1名,関与率は20.5%とかなり低い割合で,8割の不登校学生は相談していない。また,入学時の心理テストでは不登校学生に「人に会いたくない」「他人に陰口を言われる」という項目で差が見られ,不登校学生には対人関係の葛藤を持つ人が多いと推測される。
  44名の1年後の修学状況を見ると,約6割が除籍・退学していたものの,来談している学生については退学・除籍の割合が低く,来談により,除籍・退学をかなり防止できるのではないか。

・  不登校学生が増えていることを示すデータとして,全国大学メンタルヘルス研究会で20年間集めたデータをもとに休学率・退学率の推移を理由別に表した表によると,不登校は「消極的理由群」に入るが,最近5年で「消極的理由群」による「休学」が急激に増え,1997年では休学理由のトップを占めている。更に顕著なのは「退学」で,ここ5年,「消極的理由群」による「退学」が急激に増えて1%となり,退学理由の半分を占めている。その大部分は不登校のためと考えてよいのではないか。このことからも,不登校学生は従来から存在した確信犯的に学校に行かない学生とは異なっており,近年急激に増えていることがわかる。

・  不登校のタイプとしては,対人恐怖を伴う不登校,抑うつを伴う不登校に分かれる。抑うつ型不登校は,更に真面目で,勤勉で,あらゆることを完全にこなそうとして息切れする1)疲弊型,2)逃避型,大学に入学したが,空気が抜けたように通学の意欲がなくなる3)アパシー型がある。

・  不登校の背景要因として,第一に挙げられるのは,「不適応になってきた強迫性格」である。百年以上にわたり,強迫性格は産業化社会を支えてきたが,それが現実生活を妨げるほど過度に強くなっている。例えば,完全主義で失敗を恐れるあまり何もできなくなってしまう学生,すっきりした状態を求めて心の中にわだかまりを持っていられなくなる学生,顔型,体型など,努力で解決できない問題まで努力で解決しようとする学生,無駄と思われることができずストレスをためてしまう学生などがいる。これらの学生は,強迫性のために自分とも他人とも折り合いを付けにくくしている。
  第二に,「対人関係失調の増加」が挙げられる。しかし,よく言われるように,若者は人と深く関わろうとしないわけではない。膨大な人にさらされ,人の移動性が急速に高まる中で,若者が新しい適応を探している姿であるとの見方に立ち,大学がいかに援助するかが重要である。
  第三に,「学校化した家庭」が挙げられる。学校と家庭は双方が補い合う役割を持っているが,今日,学校での評価が,そのまま家庭での子どもの評価に結びつくようになっている。家庭まで学校化すると,子どもにとっては栄養失調になってしまう。
  第四に,「情報化社会の到来」が挙げられる。最近のインターネットなど様々な情報メディアの発達により,高度な知的情報を得る場は学校のみではなくなっている。学生を引きつけるためには,知的情報の伝達に代わる新しい魅力的な役割が大学に求められている。教員との個人的な関わりを増やすことなども必要ではないか。

・  不登校学生を問題視するのではなく,不登校は自分とつき合う時間と考えるべきではないか。これは,受験勉強などにより,これまで過ごした人生の中で得られなかったことを手に入れる時間であり,外的適応を一時的に犠牲にして,学生が自分を大切にしようと内的適応を図るべく方向転換をしている時間である。大学には,カウンセラーや学生相談室といった方向転換を手伝う人・場所があり,現在の社会において生き方を変えるのに一番適した場である。このような学生を,「問題を持つ学生」として対策を講じるのではなく,「自分を創り変える」ために有効に大学を利用していると考え,援助するシステムを整備していかなければならない。

・  不登校は,大学変革の水先案内人となると思われる。戦後の日本の大学は,これまで,向学心に燃える前途有為な学生に,低廉で良質な教育の機会を提供することを目的とする「貧乏モデル」であった。しかし,戦後五十年以上経過し,学生は,今後豊かな時代を生きなくてはならず,そのための力を付ける必要がある。しかしながら,大学では未だに「貧乏モデル」を提供し続けている。カウンセリングは1人の学生に何十時間も使うという非常に贅沢なものである。その「豊かさモデル」が,今,必要とされている。「豊かなキャンパスライフ」は,大学の今後の方向を示す最高の鍵となる。

・  「豊かさモデル」を提供するために大学が可能な対応として,第一に挙げられるのは,「修学状況の把握と適切な相談援助」である。現在は,コンピュータが普及しており,単位の取得状況などはすぐ把握できる。そこに基準を設けた上で,該当学生を呼び出し,必要があれば,援助すればよい。そのためには,一万人規模の大学で2人の相談対応者が必要である。ここで大事なことは,学生を呼んで学校に行くよう説得をするシステムになってはならないことである。
  第二は,「一時的に学業を積極的に放棄できる修学システム」を作ることである。入学時に勉強が飽和している学生に,一時的に学業を放棄させ,積極的に勉強以外の体験をさせる制度が必要である。現在でもボランティアのための休学制度が検討されているが,それを拡大することも考えられる。
  第三は,「柔軟な単位取得システム」である。不登校の学生は勉強はしたいが,学校に行けない学生である。放送大学や,英検,TOEFLなどを利用した単位認定などが考えられる。単位の一部を学外で取得できれば,不登校学生の不本意な退学を防げると考えられる。
  第四は,「豊かで快適な大学環境」である。これは,現在の学生が,大学に対して,最も求めるものではないか。「豊か」とは金銭上のことではなく,例えば世界的に著名な先生が隣を歩いているとか,公園のようなキャンパス環境も贅沢である。また,先生と個人的に話ができるなども人的な豊かさである。


(3)小柳氏の発表に対する質疑応答及び自由討議が行われた。概要は次のとおりである。

○  不登校の学生の対応として単位取得状況のチェックをして呼び出すことが挙げられたが,誰がチェックをして呼び出すべきか。事務官なのか,教官なのか。わが大学の教育学部の場合の場合,専門学部に進むための教養科目の単位取得数,教育実習に行くための単位取得数の規定がなくなった結果,単位取得状況をチェックするシステムがなくなり,技術的には可能なのに,システム的にはできなくなったという状況がある。そのようなチェックが必要という意見も一方ではあるが,誰がやるかということが示されていない。香川大学ではどうか。

○  香川大学では各学部で教務委員の教官が面接を担当しているが,半期で取得単位が10単位以下の呼び出し学生は全学生の1割〜1.5割にのぼりかなり膨大なエネルギーをとられる。私立大学では取組が進んでいるようだが,国立大学はなかなか難しい。

○  わが大学ではクラス担任が各学年にいて1人あたり50人くらいの学生を担当し,保護者への連絡や面接もしている。教官の努力が重要だと思う。

○  現状では,教官個人の裁量の幅が大きすぎて,教官によって面倒のみかたの度合いが大きく異なってしまうのではないか。学内でも誰がやるべきかという共通理解がない。小柳先生が提唱した柔軟な休学制度なども,一部の先生は既に行っているが他の教官の理解を得られなくて実行できないという現状もある。

○  ここ数年で消極的理由で休・退学をする学生が急増している。こうした状況では教官の個人的努力では限界があるのではないか。担任制度などで対応できる学生は対応できるが,不登校などの学生には専門家の対応も必要である。

○  米国を訪問した際にアパシーの割合がどれくらいかを知りたかったが,プライバシーの問題ということで教えてもらえなかったことがある。

○  英国では不登校の割合は15%と聞いている。米国では義務教育段階では40万人くらい不登校の生徒がいるだろうと言われているが,米国では不登校は一つのライフスタイルとなっているので問題のある事柄として取り上げられないと聞いている。

○  担任が親にまでも連絡するのは,プライバシーの保護の点で問題にならないか。

○  日本では,入学したらできるだけ卒業させたいという考え方がある一方で,大学生は放っておいた方がいいという考え方もある。学内では大学院生についてまで面倒を見る必要があるのかと考える教官もいる。

○  自分の経験では,米国の大学は学部生の面倒は比較的よく見るが,大学院生についてはそうでもない。ところで,現在,入学は易しく卒業は厳しくと言われることについてはどう考えるか。

○  途中でゆっくりできるシステムがあればそれもいい。入学するとわき目もふらず勉強しなくてはならないというのは「貧乏モデル」の考え方である。途中でやめる人や,しばらく学校から離れる人があってもいい。

○  わが女子大学では,規模が小さいので,比較的ケア体制が整っている。教官によるアドバイザー制度を設けており,これにより学生の動向もわかる。カウンセリング・センターなどいろいろな窓口を多く作り,システムをうまく活用していくことが重要である。ただ,最近の学生の質が大きく変わり,学生相談の来談率も増えている。


(4)茂里一紘広島大学大学教育研究センター長より「学生指導について」の発表が資料に即して行われた。茂里氏の発表内容は概ね次のとおりである。

・  学生指導について重要な観点は,第一に,学生がキャンパス内で社会のひな形的な環境を経験できる状況や機会を設け,それに学生が関わることにより学生の能力を発達させ,自立した人間として成長させていくということである。第二には,学生指導に学生を組み込むことにより,学生自身も成長させるということである。
  現在の学生指導は,「人間基礎力」,つまり社会の一員として生きていくために基礎的に具備すべき能力をつけるための取組と位置づけられる。大学時代は人間基礎力をつける最後のチャンスである。それにより,学生相談に訪れる学生が悪化することを予防したり,軽度に抑えることができるのではないか。

・  米国・カナダの大学を訪問して印象に残ったことは,第一に,カウンセリングに非常に力を入れていることである。特に初期段階の対応や,学習法,進路指導などのプログラムが用意され,グループ討論に学生が気楽に参加できるようになっている。興味深いものとしては,net病,論文作成ストレスの人々などの集まり等があった。また,大学院生や上級生がインターンシップの一貫としてカウンセリングを補佐している。学生を集めるためにこういった取組に力を入れるのは大学のポリシーとして必要である,と大学側も話していた。カウンセリングルームも工夫されており,カナダのブリティッシュ・コロンビア大学(UBC)では,試験の過去問が並ぶ雑誌の閲覧室のような部屋が用意され,カウンセリングを受けるかどうかに関わらず学生が頻繁に出入りできる環境にあった。
  第二に,学生に,大学業務や学生指導に対して補助的な関わりを持たせていることである。こうした取組により,学生を,カウンセリングを受ける側からカウンセリングに対応する側に成長させている印象を受けた。例えば,カルガリー大学ではキャンパス案内を学生にさせたり,アイオワ大学では寮のレジデンス・アシスタントも学生がしていた。
  第三に,学生協議会という自治会の活動が非常に活発であることである。UBCでは,大学が資金の一部を援助し,大学運営に学生側から意見を述べさせるようにしている。学生は責任ある環境に置かれることにより,成長する。
  第四に,学生の海外派遣(Study Abroad)に熱心であることである。学生を未知の世界に派遣することで成長を促す機会を作っており,これも意義深いと思う。同じような理由でインターンシップも非常に活発であった。
  全体的な印象として,学生の能力を導くのが教育というならば,そういった教育が教室内で限定されず,キャンパスのあちこちで行われていた。学生は,一定の責任を持たせる形で訓練されており,日本の学生に比べて大人に見える。学生指導は,学生に責任を持たせ,ある程度失敗したとしても試みることができる環境を作ることではないか。

・  広島大学の学生指導の取組として行っていることは,第一にカウンセリング体制の整備である。特徴として,キャンパスのあちこちに窓口を作って専門家でない人も窓口になってもらう「分散型」で実施しているが,そこには学生も関われるようにしている。学生から希望者を集めて専門家から訓練を受けさせて,学生相談に対応させている。これが結果的には学生の訓練になる。学生相談室はUBCの例にならい,学習図書館の個室を改造して準備している。
  第二に,学生の自主的活動の活性化のためのしかけ作りである。そのため,課外活動の在り方の検討をワーキンググループで行っている。課外活動は人間基礎力を付ける教育プログラムとして重要である。
  第三には,図書館以外で学生が自由に出入りできる自習空間の整備である。外国語教育研究センターや情報教育研究センターを整備し,工学部の学生などには自由に物が作れるフェニックス工房を設置している。

・  学生指導に唯一の方法はなく,全てが試行・実験・評価すべきもので,先進的な取組については重点的に整備して試行させるのがよい。そして,学生にいろいろな経験をさせる環境を作ることが重要である。
  具体的には,資金援助して学生の海外派遣を本格的に実施したり,学生寮を教育機関として整備し,学生の世話をする兄貴分的な学生を置くことなどが考えられる。また,課外活動について,携わっている教官の評価のシステムを確立したり,その環境の整備も挙げられる。更に,分散型カウンセリングシステムを導入することや,学生協議会の活性化も必要である。
  これらの問題に取り組むためには,国立大学の場合,学生部長(学生担当副学長)の熱意が改めて重要だと考える。副学長制をとる大学は,副学長は学生以外の分野も職務であるが,学生担当であるということをある程度明確にしなくてはならないと考える。

・  大学は,学生にいかに知識を身に付けさせるかということのみならず,知識以外の基本的な人間としての力を付けさせるための努力というものが強く求められていると思う。


(5)茂里氏の発表に対する質疑応答及び自由討議が行われた。概要は次のとおりである。

○  広島大学では副学長制ができて,効果があったか。

○  副学長制よりも,学生部長が廃止になることについて学内で意見があり,当初は副学長は学生部長の仕事を全て引き継ぐことを前提に合意を得た。そのため,副学長制のデメリットはなく,むしろ学長との関係が近くなったことによるメリットがある。しかし,将来的には副学長の前身が学生部長であるという感覚が薄れていくことを懸念している。

○  小柳先生の「豊かさモデル」というキャッチフレーズはどうか。我々の世代が追い求めているものを次世代に示すことができない状況になっており,若者はある意味で,今とても飢餓状態なのではないかと思う。自ら目標を設定できる人間はごく一部である。
  また,1割未満がカウンセリングが必要な学生として,その他の9割以上の学生に対して生きる力を与えるには,課外活動が重要なのではないか。最近は他大学と連携して課外活動が行われる場合も多い。活動に参加する学生は社会性も身に付く。情報や人間の流動性が高まっている現状での学生生活の支援を考える必要がある。

○  大学の中で教官と事務官の情報の連絡はどうなっているかの。

○  わが大学でも教員と事務職員は接点が少なく,唯一の接点である学生部に正課外の学生関係の事柄が全て集中してしまう。

○  教官が全てこなすのは無理である。茂里先生の発表にもあったように,米国では学生を学生指導に活用しているのが印象的である。

○  広島大学でも,カウンセリングに学生を活用することについては様々な意見が出た。学生を活用するに際しては,完璧性は求めることはできない。だが,失敗さえも学生を育てることになる。

○  米国の大学では,宿題を学生に採点させている。完璧ではないが学生の勉強になる。採点ミスなどで失敗したときには,学生同士のやり取りにより更に勉強になる。ある意味で不完全性を教育効果として利用している。

○  国立大学の場合,現在のチュートリアル制度の幅が広がると学生を活用しやすい。現在は,授業の補助という制度上の位置づけなので,広く学生を活用しにくい。

○  TA制度などでは報酬を払っている。茂里先生の発表でいう学生の活用は,ボランティアという意味か。

○  米国・カナダの例では,寮費を免除したりしていた。ある程度の報酬はあってもいいが,キャンパスを案内してくれた学生は,キャンパス案内をやることのメリットについて「普段会えないような貴方のような人と,一対一で話ができる。それは自分にとってはよいトレーニングである」と言っていた。日本の学生にも,そういった報酬以上のものを得られるという雰囲気を作っていく必要がある。

○  広島大学でもボランティア活動の単位化について検討されていると思うが,学内でのボランティアも念頭に置いているか。また,自分の所属する組織の中での活動を単位化することは,ボランティア精神に沿うものなのか。

○  学内ボランティアについても検討の対象にはなっているが,全てが対象というわけにわいかない。学内ボランティアの利点は,外部で行う場合に比べて,実験の場として失敗が許されることである。また,教育の機会が増えると考える。
  「課外活動」という語について言えば,「課外」という用語は学生がなすべき正課に対して,希望者が勝手にやっているという印象を与える。しかし課外活動は,学生生活の重要な柱の一つである。そうした認識を教職員,学生に持ってもらうための適切な語を,広島大学内で議論している。

○  卒業後の寄付を集めようという先行投資の意味もあるが,米国の大学では課外活動に予算も使っている。日本の大学ではそれが足りない。

○  戦後五十年を経て大学で変わっていないものとして,成績証明書があるが,評価のしかたもそう変わっていない。単位だけでなく,課外活動やボランティア活動,国際交流,資格取得なども記録できる,学生生活の記録というものを作ったらどうか。それによって学生にインセンティブを与えることができる。また,課外活動に教員が携わる場合は,単なるボランティアではなく,報酬面や経歴で処遇をきちんとすることが重要である。米国では,学生は就職する際に,日本の履歴書と全く異なるレジュメを作る。その中で,自分が学生生活でやってきたことをボランティアや課外活動を含めてしっかり表現している。

○  UBCでキャンパス案内をしてくれた学生も,在学中のこうした活動は就職する際に非常に評価されると言っていた。

○  今は,大学のサークル活動などの課外活動は,就職するときにプラスにならない。また,米国では,学生に授業を評価させ,教官が他の大学に移るときにはそれがセリング・ポイントになる。日本ではそのような仕組みがない。

○  不登校の問題についてだが,学校に確信犯的に行かない学生を除くのではなく,確信犯の方にむしろ問題があるのではないか。学生は大学で社会を知らずに「豊か」に過ごしているが,社会に出たとたん,「貧乏」な現実にショックを受ける。その落差を経験したくないが故にアパシーになってしまうのではないか。そのあたりに不適応の原因もあるのではないか。

○  わが大学でも担任制度のような制度を導入している。現在新入生の前期成績不振者との面談が進んでいる。そこでの印象としては,日本の大学では,小柳先生の発表のように学生を途中で休ませる制度はなかなか難しいと感じる。教官に理解があり,学生を休ませたり,進路変更をさせたりしようとしても,就職事情に不安を感じている保護者と衝突してしまうし,最短修業年限プラス2年で卒業した学生でないと採用しない企業が一般的である。親や企業の価値観と学生の希望の間で板ばさみになるという現実がある。

○  教官だけでなく,事務官の関与についても考えなければならない。教官,事務官,学生が連携をして,全体としてどう対応するかを考える必要がある。


(6)次回の会議日程について,事務局から11月26日(金)10:00からを予定している旨の説明があった。

(高等教育局学生課)

ページの先頭へ