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大学における学生生活の充実に関する調査研究会議事要旨

1999/09/28 議事録
大学における学生生活の充実に関する調査研究会 (第2回)議事要旨

             大学における学生生活の充実に関する調査研究会(第2回)議事要旨


1.日  時      平成11年9月28日(火)14:00〜16:00

2.場  所      文部省5A会議室

3.出席者
(協力者)廣中平祐座長,内田伸子,大谷毅,加藤雅治,加藤美智子,喜多信雄,佐々木大輔,濱名陽子,平野敏政,保坂亨,森茜,茂里一紘の各協力者
(文部省)佐々木高等教育局長,遠藤審議官,高塩学生課長,亀井課長補佐  他


4.議  事

(1)前回議事要旨(案)について,修正意見等があれば,1週間以内に事務局に連絡いただき,座長の責任において,確定することとされた。

(2)加藤美智子東京都立大学助教授より「大学における学生相談について」の発表が資料に即して行わ れた。加藤氏の発表内容は概ね次のとおりである。

1)東京都立大学学生相談室の現状について

・  東京都立大学は大学の規模としては5学部・5研究科・1研究所で,学生数は学部で4,990人,大学院で1,409人,合わせて6,399人の学生数である。夜間部があり,二部制で行われている。また,昼夜開講制をとっており修業年限は4年又は5年である。2年ごとに取得単位のチェックがあり,2年次から3年次へ進む際に進級判定が行われている。また,人文学部及び法学部では2年次になる時に専攻学科を選定する。教養部については各学部から選出された「一般教育委員」で運営されている。


・  学生相談室は昭和32年に設置され,昭和48年に専任のカウンセラーが置かれ,現在に至っている。学生部は,学生課と相談課の2課に分かれ,相談課は学生相談室である。学生相談室の構成員は,専任カウンセラーが教授,助教授各1名で2名(男女各1名),事務職員が1名で常勤3名である。加えて,主にカウンセラーに助言するスーパーヴァイザーと非常勤のカウンセラーが各1名ずつおり,週2日は4名の体制になる。また,嘱託の精神科医が月1回来訪し,必要のある学生の相談に乗ってもらっている。

・  学生相談室の開室時間は長期休暇中も含め,毎日朝9時から18時までだが,週2日は,夜間部があることに配慮し,20時まで開室している。土曜日は基本的には休みだが,夜間学部生や卒業生のために,隔週で開室しているのが現状である。学生相談室の運営の経費は,学生関係経費と教官の研究奨励費を充てている。

・  学生相談室には,和室の集団面接室,2つの面接室,箱庭療法ができる箱庭室,学生が調査データの入力やパソコン操作の練習を行ったり,バイオフィードバックの装置やストレス緩和のための音を振動に変換するボディーソニック等の装置がある実習室がある。集団用の和室は,学生のグループのミーティングや,個人的な電子ピアノや楽器の演奏などに使ったりするほか,休養や一時避難的な場として利用されている。カウンセラーの部屋は個室になっており,一室は非常勤の先生用のもので図書室も兼ねている。図書室には心理学関係の蔵書が多いので,図書の貸し出しを契機に相談に結びつく場合もある。事務室には教務関係資料が参照できる学内LUNの端末があり,学生の成績などを相談員が見ることができるので,修学相談に役立っている。

・  利用状況は,昭和48年の開設以来毎年度,学生数の増加とともにふえてきているが、来談者の実数はそれほど変化はない。来談率は5%程度である。新入生に対して最初にアンケートを行っているが,「学生相談室で相談したいことがあるか」という問いに昼間部学生の25%,夜間部学生の35〜40%が相談したいと答えている。来談者の内訳では,大学院生の比率が増えている。


・  学生相談の内容は,昨年度自分が担当した99名の学生でみると,1.修学相談,2.心理相談,3.療学援助的な相談に分類できる。

・  修学相談については,事務手続など新しい環境に戸惑いながら場所や手続きの内容を聞きに来るケースがある。数分のガイダンスで終了するが,そういった学生の中には,後日様々な問題で,また相談に来る場合もある。また,学校・学部・専攻学科が不本意な状況で入学したため,目的を喪失し,先行きまで不安になる学生からの相談が最近多くなっている。その他,卒論のテーマが決まらないという相談が,特に心理,教育学関係の学生に多い。他に保護者からの相談もあり,親とともに本人が来る場合と,来ない場合がある。また,ある学生の事例では,一度目は友人から相談があって,アルコール依存,自殺企図があることが判明し,後日,本人の意思で来談するようになった。また,研究室を変更したいという大学院生が来訪したが,後日親からも相談があり,本人同席で研究室の先生と相談した。この事例では,最終的に摂食障害が判明し,医療機関へ紹介した。

・  心理相談については,最近は心理に関する様々な本もあるため,自分の症状はアダルトチルドレンではないかといった心配から相談に来る学生がいる。自分のことが分からない,自分がめちゃめちゃになっている等,自分に対する疑問を持ちながら,どこから手をつけていいか分からないという学生も増えている。また,人の前で話せず,声さえ出なくなることがあるという学生もいる。また,家族関係が悪いので自分で自立したいが,奨学金をもらうにも,授業料減免の手続きをするにもすべて親の承諾が要るため,どの手続きもできないという事例があり,大学側とも交渉したが,その状況を変えることはできなかった。現在,手続きの見直しについて学生部と話をしている。

・  療学援助的面接(メンタルヘルス)は,多くの場合,学生は医師にかかりながら面接に来ている。面接時間は他の場合より長くなり,卒業後も面接する場合も多い。ある学生は,サークル内の人間関係の失敗を契機に発病し,危機介入で6時間ほど一緒に過ごして家に送り届け,翌日に入院した。そのようなケースは10年間の在職中に2名あった。卒業生からは,手紙や電話で相談されることが多い。

・  その他,目立つところでは,体育会系の部活の旧態依然とした人間関係に悩んでしまう学生が多い。


・  これらの面接の状況から面談に来る学生の特質を考えると,自分の感情が分からない反面,非常に繊細で他人への気配りが強く,また周囲の評価を気にする習性が感じられる。人間不信に陥っているが,大変依存的であり,甘えたい,人と話したいという気持が強いのになかなかそうできないことに苦しみ,相談に来る。また,自己表現ができない学生は,非常に他人のことを気にして,自分の考えを主張できずにいるうちに,自分の考えさえもわからなくなってしまう,という特徴があるように思われる。自分は何をしたいのかわからないという学生は,周囲と同じでなくてはならないと考えているケースがある。よく言われるように今の学生は幼い面を持っている一方で,自己表現できる可能性も持っており,感受性が豊かで,自分が幼いことを理解し,成長したいと願っている。このような学生に対しては言葉で表現するのが難しい場合もあり,箱庭を使ったり,絵画療法,音楽療法のようなイメージを使いながら表現を可能にしていくという手順を踏むことがある。

・  学生相談員の仕事は,個別面接が中心である。そのほか,こころの健康の啓蒙普及活動として,講演会を企画,運営している。また,エンカウンターグループという自己理解・他者理解のための集団によるアプローチを,合宿形式や日常の中で行っている。更に,1997年から全学共通科目で「人間関係の科学」という講義を担当しており,自己理解を深めるような心理教育のプログラムを実施している。また,調査関係の仕事や,広報関係事務,外部からの見学者への対応なども行っている。

・  学内の諸会議へは主に教授が参加している。


2)学生相談のこれからに向けて

・  これまでの学生相談は,正課外の活動とされてきた傾向が強いが,これからは大学教育の一環として学生相談を捉えることが重要である。SPSの理念を導入する歴史的流れの中で,昭和28年に文部省大学学術局学生課編の「学生助育総論」という本があるが,この内容は今でも古くなっていない。この理念を実現するために自分たちが何ができるかを考えなくてはならない。これまで,学生管理のための機能と誤解されたり,問題のある特別に困った学生が行くところとのイメージをもたれたりしてきたが,これらの誤解やイメージを正し,すべての学生を対象とした学生のための教育・心理発達機関として学生相談をとらえ直す必要がある。

・  その理念を具体化するためには,学生相談担当者の専任化,資格化が必要である。学生や教職員と同じキャンパスを生活基盤にし,全学生を視野に入れ,大学教育に対して責任と義務を担う学生相談担当者の身分としては,専任であることがふさわしい。また,資格については臨床心理士があるが,学生相談学会は学生相談カウンセラーの資格化を検討している。

・  大学教育の一環として活動を行うのであれば,教員の身分も必要になる。更に,相談担当者が研究も同時に行うことは,職務の内容を高める観点からも必要である。

・  学生相談室の活動は多岐に渡り,また,相談件数も増えているので,相談担当者は過重負担になりがちであり,どこの相談室もかなり忙しい状況である。学生相談学会の調査によると,開室時間が長く,専任カウンセラーを置くなど,学生相談機関としてよく整備されている機関は,来談回数が増える傾向にある。自分自身の労働時間は,一人あたりの面接時間は60分から90分,週平均20人,多いときで24人の学生と面談し,週4日から5日勤務し,授業は1〜2コマを担当している。授業の担当が増えると相当時間を割かれるし,また,教授会のメンバーになると個別面談の時間が益々取れなくなる。


・  学生相談については,大学全体の中での組織化について十分な配慮がなされる必要があり,学生相談の現場から大学上層部への上申システムを構築することが重要である。現在,東京都立大学では年に一,二度上層部に報告する機会がある。

・  組織化に際しては,柔軟性が重要である。今の学生への対応を通じて感じていることは,一人一人の能力や潜在的な創造性を開花させることは十分可能であるということである。その過程において「子育て」「育ち直し」「発達援助」が必要になることが出てくるが,これは必然的に手間暇がかかることであり,その意味でも柔軟性を持った組織体制が必要である。

・  地域・医療機関等との連携については,柔軟かつ迅速な連携体制をどのように作っていくかが重要である。東京都立大学の場合,多摩地区に移転してから医療機関との連携はかなり難しい状況にあり,対策を検討中である。


(3)加藤氏の発表の後,質疑応答が行われた。その内容は次のとおりである。

○  わが大学では学生相談室があるが,セクシュアル・ハラスメントに関しては,セクシュアル・ハラスメント委員会の下にセクシュアル・ハラスメント対策室を作り,そこを相談窓口とする体制をとっている。東京都立大学では,セクシュアル・ハラスメントを含む全ての問題に学生相談室で対応しているのか。どういった方法が望ましいと考えるか。

○  セクシュアル・ハラスメントについては,学内委員会を作る方向で検討が進められている。現時点では学生相談室で必然的に受け入れざるを得ない状況だが,実際には,学生相談室のみでは対応は難しい。

○  心理学,教育学の学生の相談が多いとのことだが,自分が担当している心理学コースの学生は,1学年15名のうち4年生に2人の拒食症の学生がおり,他専攻に比べて出現率が高いように思う。専攻によっての偏りがあるのか。また,資料の大学院生のグラフを見ると,平成2年から平成10年にかけて4倍,平成9年に比べても2倍近くに来談者が増えているが,なぜか。

○  心理学・教育学の学生は卒論のテーマを決めるのに悩む学生が多いと感じている。大学院生については,一つには,学部時代からの継続で社会に出られず大学に残り,面接を継続している学生の存在がある。もう一つは,学部の間は受け身の姿勢で勉学を進めることが可能であったが,大学院ではそれが不可能になるため,自分が何をテーマとして,どのように働きかけて研究を進めたらよいか分からず,行動ができない。その上,人間関係を上手に構築できないと,引きこもりや身体症状が出てしまう。

○  わが大学にも学生相談室があるが,事務局棟の中にあって,学生が出入りしにくい。学生相談室が気楽に立ち寄れる空間であれば,学生の悩みも深刻になる前に防げる要素があると思われる。

○  東京都立大学でも学生相談室がある学生部棟には学生用の会議室が並んでおり,学生が多く集まるときは,相談室を利用する学生がかえって出入りしにくくなる傾向があるのではないかと思われる。ただ,一般の学生も集まるので,その建物自体に出入りするのは気軽である。

○  1991年に東京都立大学はキャンパスを移転したが,キャンパスが都心にあった頃と今とでは学生相談の状況に変化はあるか。

○  都心では,大学や授業から逃れる場が喫茶店などいろいろあるが,移転してからはそういった場所があまりなく,行き場を失った学生が何となく相談室に来る印象がある。

○  修学上の相談の中に,学科や専攻が不本意であるという相談があるとのことだが,転学部・転学科は学生相談の大きなテーマの一つである。東京都立大学の場合,転学部・転学科はしやすいのか。

○  従来は転学部・転学科がしやすいのが東京都立大学の特徴であったが,最近は各学部が別々に基準を作るようになった。また,1年次から一般教養でも履修科目が指定されるようになり,転学部・転学科はかなり難しくなってきている状況にある。特に人文学部から他の学部に移ることや,夜間部から昼間部に移ることは難しい。逆は比較的容易である。選択学科の不本意というのは,人文学部は2年生から学科が分かれるが,最近の傾向として,文学系はあまり希望者がいないものの,各学科に定員があるために振り分けなくてはならないため,第4,第5希望の学生が行かざるを得ない場合もある。学科の不本意という相談の多くは転学部・転学科が難しくなってきていることの影響ではないかと思う。東京都立大学の場合,転学部・転学科の人数は1年に一桁程度である。転学部・転学科の際,従来は入学時と在学中の成績を併せて評価していたが,現在は在学中の成績のみを考慮することとなっており,転学部・転学科を希望する学生は非常に勉強する必要がある。

○  学生相談室が転学部・転学科や大学院生の専攻の変更の相談を受けた場合,学内の横の連携をどうしているか。

○  転学部・転学科については,室員自身はほとんど動くことができない。ただ,留年を重ねていたり疾病がある学生については,学部長に直接状況を説明し,教授会の判断に任せることがある。大学院生の場合はなるべく本人に教員と話すよう勧めるが,相談員が研究室と学生を仲介することもある。

○  大学院の専攻や担当教官の変更,また転学部・転学科などは,学内で別の組織が必要なのではないか。学生相談室のカウンセラーが教官の間を動くのは難しいし,ある意味では危険だと思う。

○  わが大学ではカウンセラーが行う学生相談と,履修関係・転学部・転学科などの相談とは,別の組織で行っている。他の大学ではどうなっているのか。

○  東京都立大学ではそういった組織がないので,カウンセラーが動かざるを得ない。

(4)次に,佐々木大輔弘前大学保健管理センター所長から,「大学における学生相談について」資料に即して発表が行われた。佐々木氏の発表内容は概ね次のとおりである。

・  日本学生相談学会が1997年に行った学生相談機関についての調査でみると,一大学平均で年間114人の学生が来談し,一人の学生の平均来談回数は4.1回である。また,来談率は約2.7%である。先程発表のあった東京都立大学よりは低い値となっているが,大学によるマンパワーの限界もあるのではないかと考えられる。

・  国立大学等保健管理施設協議会では,1995年の調査を基に,1997年に「学生の健康白書」を発刊した。その中で,「精神保健・心理相談から見た健康状況」の統計では,国立大学39校,学生数192,272人のデータがまとめられている。病的な症状としては1.神経症,2.躁鬱病圏,3.適応障害の順に多いが,実は心身症と摂食障害を合わせると合計207人となり2番目になる。その後は,分裂病圏,人格障害と続く。相談内容については,1.学業,2.対人関係,3.進路の悩みの順で,進路の悩みについては高学年になるほど増える傾向にある。その次は健康面,家族・友人などの順である。

・  京都大学の青木健次氏の調査によれば,年々来談者の実人数は増えているが,それに従って一人一人の面談時間や回数が減らざるを得なくなっており,マンパワーの限界が指摘されている。

・  現在の大学の学生相談の内容を集約してするものとして,国立大学等保健管理施設協議会とメンタルヘルス研究協議会で平成9年度に行ったアンケート調査がある。その中で「貴大学で,学生生活及びメンタルヘルスに関して,最近問題・話題になっている事柄を項目を3つ以内書いてください」という問いに対して,教官76人,事務官82人から372の回答があった。一番多いのが1.対人関係で40件あり,友人関係・友達ができない・他人とコミュニケーションができない学生が増えているというものである。同じく2.留年・不登校・休退学など修学上の問題も40件である。次は,3.社会性の未熟,すなわち,集団生活不適応,自分勝手,道徳の低下,基本的礼儀の欠如,自立心の不足などである。続いて4.無気力,意欲減退などが27件であり,学業意識の喪失,無関心・無気力,スチューデント・アパシーが話題としてあがっている。その次に5.進路・適性で22件,6.摂食障害・うつ・不眠・心身症が21件,7.留学生の諸問題が14件,8.いじめ・セクハラ・カンニングが13件と続いている。このほか制度・システムに関するものが65件あるが,この中から学生相談についての問題を抜き出すと,学生相談室の設置,学生相談室の組織及び運営,学生相談室の充実とケア,学生相談体制の整備等があり,これらは合わせて17件で,全体の中で7番目となる。

・  メンタルヘルス研究協議会の平成10年度のアンケート調査の中で行った「過去3年間のうちに,新たに実施された相談体制」についての調査によれば,様々な取組が回答されている。サービス内容としては,東洋心身医学に基づくスクリーニングや摂食障害のスクリーニング,芸術療法,さらに変わった取組としてペットの貸し出しやハーブ園作りというものもあった。大学人の発想することの能力のすごさというものを感じた。人員配置については各大学ではなかなか困難な状況にあり,非常勤カウンセラーの配置などに力を入れているようである。その他,連絡会議を作るなど,全学的な体制を作る大学が少しずつ増えてきている。

(5)その後,各委員の間で意見交換が行われた。その内容は次のとおりである。
○  東京都立大学では,学生相談室と一般教官との連携体制はどのようになっているか。

○  教授が学内の教授会や委員会にメンバーやオブザーバーとして出席することに力を入れてきた。その場で他の教官と話をしたことがきっかけで,相談室と連携する教官もいる。今のところ組織的な連携はなく,オフィス・アワーのような制度もない。

○  マンパワーの限界という話があったが,わが大学でも,学生相談に当たるセンターの人員の定員増の要求が出るが,国立大学という事情もあり,なかなか人を増やせない状況にある。そこで大学院の学生が学業相談に当たることを検討している。昨年,メンタルヘルスの勉強にアメリカを視察したが,専門家を目指す学生が,インターンシップと勉強を兼ねてそのような相談に対応する大学がいくつかあった。わが大学でも導入したいと考えたが,学生に委ねることへの反対もあった。他の大学でそういう事例はないか。

○  わが大学では,大学院生ではないが,新入生に対してスチューデント・カウンセラー(SC)を学生から希望者を集めてサークル活動のような形で1年生を手助けする制度がある。学生相談室で年2回研修をしており,学生相談の中で,一般的な修学相談については任せている。

○  大学院学生が学部学生のカウンセリングをするようなケースは多い。学生も年齢が近いため相談しやすい。

○  人員の増員要求もさることながら,学生を使う取り組みも必要なのではないか。

○  相談内容の秘密保持や身分の問題もあるのではないか。

○  そういった問題はあるが,できない話ではないのではないか。アイオワ大学では各フロアごとにシニア・スチューデントの相談員がおり,オフィス・アワーもあった。そういった制度の整備の有無によって大学の人気度も左右される傾向があり,大学側も力を入れている印象を受けた。相談員の学生にも若干の特典があるが,それ以上に勉強になるという評価がある。いろいろと問題はあろうが,こうした方策を積極的に考えていくべきではないか。

○  ティーチング・アシスタント(TA)やリサーチ・アシスタント(RA)の制度を活用してできるのではないか。

○  6年前になるが,京都大学では,スーパーヴァイザーから専門の訓練を受けた臨床心理専門の大学院生が専門のカウンセラーに常時付き添い,来談者の相談を受ける制度があった。留学生のチュートリアル制度はあるのだから,その変形としてできるのではないか。留学生のチュートリアル制度では,レポートの添削をしたり,一緒に授業に出てノートを点検するなどをわずかな報酬で行っており,その後親交ができる例もある。

○  教えることは一番いい勉強になるし,学生を様々な形で活用するのは,学生自身の勉強にもなる。

○  日本大学では,新入生の時期にかけ「青空相談」と称して,臨床心理の学生がキャンパスに出て相談にあたっている。ただ,それをやるために普段から自主研修会で勉強してきちんと知識を持ち,相談員の先生もしっかり指導している。学生を活用するにはそのあたりに時間をかけてきちんとやらないと難しい。

○  短期大学の場合は,学生相談の体制が整っていない。学習に際してノートを取るとか本を読むなど基本的な指導は学習支援センターで一応行っているが,履修相談などは一般の教員が担任制という形で担当している状況である。カウンセラーも非常勤であり,加藤先生の発表を聞いて,専任の人間が必要だと感じた。

○  就職部ではカウンセリングの手法がかなり違う。カウンセリングには3種類ある。一つ目は,
  placement counseling(就職相談)である。ハーバード大学やアメリカの主要な大学ではほとんどそういった手法をとっている。内容としては,経済や雇用など企業の最新情報を学生に勉強させ,適職を発見させるという手順を踏むものである。二つ目は,vocational   counseling(就業相談)である。現在は,せっかく就職しても職業のミスマッチで早期に離職してしまう。ミスマッチの原因は学生自身の適職発見にミスマッチがあることと,大学側の助言が安易になされるためである。また企業側が安易に学生を雇用してしまうということもある。そういったミスマッチを防ぐために職業または職種の相談が行われる。内容としては各種職業検査などである。三つ目は,career   counselingであるが,これは卒業後の就職だけでなく,大学院への進学や学部での選択科目,ライセンスの取得,ボランティア活動やクラブ活動,アルバイト等への助言など正課外活動の支援,インターンシップまで幅広い範囲を含むので,かなり大変な作業である。こういった助言をするには日常的にゼミナールなどで学生に接し,相談に乗っている学部の教員との連携を強化していく必要がある。

○  先程の加藤先生の発表で療学援助的面接では卒業後も続くことが多いという話があったが,どういった相談か。

○  その後の人生で,会社での人間関係などを相談に来る。ただ,卒業生に対しては毎週というような形の面談はせず,多くても2週に1回程度にしている。徐々に頻度を減らして,おおむね3年以内には面談が修了するよう努力している。

○  就職のミスマッチが増えていると言うが,それはなぜか。

○  一つは,進学率が上昇し大学が大衆化して多様な学生が入学するようになったことがある。また,今の学生は社会人になるためのテキストがない。高度成長期の一番のテキストは家庭の父親・母親の姿であるが,今は,学生の家計支持者の世代はベビーブーム世代であり,リストラ対象であったりするため,親自身も自信を持ってアドバイスできなくなっている。
    就職でミスマッチが起こっていることは数字の上ではっきりしており,労働省の調査から推計すれば,短期大学では就職して3年以内で41%,4年制大学では32%が転職している。これはマッチングができていないからである。日経連などは価値観の変化や労働力の流動化が原因と言うが,いわゆる学卒の転職はキャリアアップにはつながらず,労働力の流動化等にはあたらないのではないか。反対にキャリアダウンしてしまう。学生,就職指導担当者,企業の三者のミスマッチではないか。

○  ミスマッチというが,社会人になるためのテキストは本当に作れるのか。最初に勤めたところにいつまでもいる必要はないのではないか。ミスマッチもあっていい。会社や仕事の内容も変わっていき,リストラにあう危険性もあり,混沌としている時代では,ある一定の基準に従って助言しても責任がとれない。就職相談も伝統的なあり方から変わらなくてはならないのではないか。

○  2種類の意見を聞いたことがある。一つは日本企業の人から聞いた話だが,優秀な人間ほど他にいい職があるとすぐ逃げてしまいかえって困るということである。もう一つは米国の企業の人から聞いた話で,そこでは新しい人が入ればどんどん勉強させるが,彼らは2年くらい経つとすぐ転職してしまう。これでも企業側は損ではなく,自社で勉強した人が,全米に広がるというのは会社の将来のために役立つということであった。このような考え方もある。

○  コンピュータ業界などのように技術革新が早い職種では,若いうちに稼いで早めに引退するといった,今までと異なる人生観を持たないと,回転が速すぎて勤まらないところもある。金融業界のように,ずっと同じ会社にしがみついた人がトップになってもうまくいかないところも多い。そういった例を考えると簡単にミスマッチが悪いと言えるのか疑問である。

○  学生相談室にいると就職の相談はかなり来る。そういう場合,自分が何をしていいか分からない場合が多い。今の学生はかなりの割合で卒業時に就職の準備を整えておらず,そういう学生が多ければ,就職の時点でどんなにきちんと情報を与えて相談に乗っても,離職率は大幅には減らないと思う。同じことが高校の進路指導や大学の転学指導でも起こるだろう。就職相談の在り方をこういう状況に合わせて変えていく必要がある。
    大学側は,学生は全て就職を望んでいることを前提には対応はできないのではないか。相当数の学生がもう一度編入学,再入学を希望しているのではないかと思うが,大学側には,編入学,学士入学の制度が整っていない。そちらの方がミスマッチではないか。近年,医学部が学士編入学を始めているが,10年くらい前の資料によると,当時首都圏の国公立大学医学部の入学者の2割以上は学士の再入学者であった。現在は,このように,どれくらいの学生が大学に再入学しているかというデータがない。

○  早期離職・転職の問題は,職種の内容にもよる。編集者などは一人前になるのに時間がかかり,そこで経験上身につけたノウハウによって質の高い仕事ができ,会社でも重用される。職種によっては最初は,長い時間をかけて育てることにより質を高めることが必要な職種もある。職種の内容も含めてvocational   guidanceは重要である。

○  国立大学と状況が違うのかもしれないが,私立大学では,学生は明らかに就職のことを意識して学生生活を送っている。
    一方,就職に関して何が学生のためなのかわからない状況の中で,就職相談をどうするかは,わが大学では議論になっている。一つの意見はvocational   placementに集中して専門の職員が専門的な観点で学生を各々の企業に振り分けるといったもので,就職指導・相談機関を独立した形で運営すべきだというものである。それに対して,就職については何が本人にとってよいのか分からないので,専門の就職指導・相談機関ではなく,学生部のような幅広い組織の中でcareer   counselingを重視し,社会に出て働くのはどういうことか,男と女が社会・家庭を作ることの意味など全体としての教育的なカウンセリングとして就職相談を位置づけることが必要だという意見がある。どちらの方向を取るかで就職指導の在り方は変わる。

○  ある男子学生は,内的な自我発達に伴って職業選択をしていった。最初はビルの掃除のような誰にも知られずにできるアルバイトの仕事を選んだ。次に嘱託という形態になり,ようやく常勤の仕事を選べるようになったのは卒業後7,8年経ってからだった。自分の内的な状況と職種・職業の選択は非常に密接に関わると思う。女性についていうと,女性がキャリアをもって活躍するのは特殊な能力持たなくてはならないという意識にとらわれ,自分には社会の中で何もできないと悩むことが多い。そういう人は職業選択ができず,大学にもう少し残りながら自分の方向性を考えるために,大学院進学,学士入学を望む人がかなりいるのではないかと思う。

○  男女の問題については,男女の差別なく学生時代を送り,就職活動時にはじめて男女差別に直面して,大学院に入ってくる女子学生もいる。

○  そういった女子学生が大学院に入ると,研究者への道を選ぶしかないが,研究所や大学でも採用は男性の方が有利という状況が依然としてある。就職時に男女差別を感じて大学院に進んでも,大学院を修了してからも,女性にとっては就職は更に狭き門になっている。

○  学生個々人の内的な課題への対応について分類してみると,一つは学生相談体制をどうするかという制度的な問題がある。これについては更に議論を行っていきたい。もう一つは,カウンセリングを受ける学生について自己評価と客観認識の整合性がとれていないことがあげられると思う。かつては濃密な人間関係の中で徐々に修正していったが,最近の学生はケーススタディが足りず,希薄な人間関係の中で,この両者のすりあわせが行われなくなっている。例えば,学部・専攻の不適応などはそのためではないか。そういった学生に対して,専門家が個別的に誘導するのではなく,学生が時間をかけて自分自身で理解できる包括的な枠組みを作っていく必要があるのではないかと思う。

(6)次回の会議日程について,事務局から10月26日(火)14:00からを予定している旨の説明 があった。 

(高等教育局学生課)

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