大学における学生生活の充実に関する調査研究会 (第7回)議事要旨 |
大学における学生生活の充実に関する調査研究会(第7回)議事要旨
1.日 時 平成12年4月10日(月)14:00〜16:00
2.場 所 文部省5A会議室(5階)
3.出席者
(協力者)廣中平祐座長,内田伸子,大谷毅,加藤雅治,加藤美智子,喜多信雄,小谷部育子,佐々木大輔,濱名陽子,平野敏政,保坂亨,森茜,茂里一紘,吉本圭一の各協力者
(文部省)高塩学生課長,関課長補佐,齋藤就職指導専門官他
4.議 事
(1)前回議事要旨(案)について,修正意見等があれば,1週間以内に事務局に連絡いただき,座長の責任において確定することとされた。
(2)事務局から人事異動の紹介が行われた。
(3)事務局から「学生の福利厚生施設について」及び「学生の希望や意向等の反映方法について」の説明が資料に即して行われた。
(4)廣中平祐山口大学長から「学生の福利厚生施設及び正課教育外の活動について」の次のような意見が述べられた。
・ 大学における教育・研究に直接かかわる諸条件の整備が必要である。近年,大学進学率の上昇に伴い,学生の能力・適性等が多様化してきており,学生の人間形成を図る観点から,生活環境の整備,特に,その中心としての学生関係の厚生補導施設の整備をすすめることが重要な課題である。
・ 大学における課外活動は,学生自らの主体性において行うものであり,学生にとって自主性を養い,友情を培い,豊かな人間性を育てる上で,重要な意義を有するものである。その活動内容の充実を量・質ともに助長するためには,サークル活動の中心となる課外活動施設の整備を図る必要がある。米国では課外活動を本格的に行っており,例えば,アメリカンフットボールでは,多くの大学が独自のアリーナをもち,熱心にやっている。
・ 学寮は,団体生活による人間形成という効果も備えている。米国での寮は,ハウスと言われており,大学にはいくつかのハウスがある。それぞれ特徴があり,ハウス同士で競争がある。各ハウスでは個性を出そうといろいろ工夫を凝らしている。
・ 米国は,いち早く大学の大衆化に対応した。1960年代には,黒人を積極的に入学させたり,1970年代には,女子学生が全体の5割を占めるようになった。こうして学生が急速に多様化し,これに対応するため,教官の形態も多様化した。
例えば,プリセプターという学位がなくても教えることのできる教員やシニア・プリセプターという教えることを専門にする教員を配置した。また,大学院生は,スチューデント・アシスタント(SA)として授業の補助を担当させ,優秀な学部生はコース・アシスタントとして,宿題の採点,質問に対する応答に充てた。このように学生を動員して多様化に対応した。
・ 大学院生の寮は個人中心の運営がなされているが,学部生の寮は組織的に運営されている。寮は,ヤードがあってその中にいくつかの建物があり,それらを合わせてハウスと言っている。ほとんどの場合,ハウスには,ハウス・マスターというかなり年輩の教育経験の長い教員が住み込んでいる。また,若い教員がこれを補助することもあり,少人数の学生を担当し,きめ細かな指導でハウス・マスターの役割を補う。教員1人が必ず何人かの学生の面倒を見るといった体制をとっている。
今後,日本も寮のあり方について改めて検討する必要があるのではないか。
(5)その後,質疑応答及び自由討論が行われた。その概要は次のとおりである。
○ 米国における学生の意思決定機関への参加はどのようになっているのか。
○ 管理・運営の面で,実質的に参加するのは主に卒業生である。ハーバード大学では,毎年,卒業生から選ばれた約60人が,大学の重要決定事項に否決権をもっている。授業評価のための組織は学生で構成されており,授業の目的や内容に関する質問表を作成して配付し,評価している。それぞれ点数化されており,集計後,すべて公表されている。
○ ハーバード大学の寮生は卒業までいるのか。
○ 詳しい資料は持っていないが,基本的には1,2年生が全寮制である。
○ 英国のケンブリッジ大学では,1年生全員が寮に入る伝統がある。寮は,教育的効果という意味で非常に重要であるが,大学が大衆化している現状では,私立大学の学生は何千人もおり,全員を寮に入れるためには膨大な経費がかかり,非常に難しい。そのため,今後,教育的効果の意義を兼ねあわせながら,寮の問題を検討しなければならない。
○ 10年前ぐらいの話になるが,米国でも月の寮費は400〜500ドルと比較的高かった。生活費を安上がりにするため,2,3人の仲間で大きなアパートを借りて,共同生活している学生もいた。
○ 国立大学の場合,新入生は希望すれば寮に入れる割合が高いが,2年生になると寮を出ていくことが多い。寮にいる学生は,外国のような教官との濃密な接触はない。
○ ケンブリッジ大学には,スーパーバイザーがいて,寮にいる学生を1人あたり5〜10人抱えている。毎週土曜日に,スーパービジョンという徹底的な教育をしている。1年いれば,かなりのことを身につけることができる仕組みになっている。
○ 日本では現在,学生寮をあまりウエイトをおいて考えていないが,一方留学生の宿舎には力を入れており,日本の学生と留学生の混住方式の寮を増やしていくことで寮の不足を補っている。
また,学生会館の問題だが,米国の大学には,ボウリング場や郵便局も備えた,1つの町のような学生会館を持っている大学があり,そこで朝から晩まで1日中過ごすことができる。日本にも学生会館は存在するが,貧弱である。わが大学のあるキャンパスは,元々大学院のみのキャンパスであり,福利厚生施設は不足しており,食堂はあるが,学生の集まる場所がない状況であった。その中で,ジュースの自動販売機を大学内に設置したところ,そこがたまり場になり,学生はすごく喜んだ。大規模な施設の整備も大事だが,小さなことから学生の視点に立って,取り組んでいくことが大事なのではないか。
○ 学生にとって,居場所は重要な意味を持つのではないか。わが大学では,学生生活実態調査を行っているが,その中で学生は居場所の確保に大変苦労している。例えば,高校にはロッカーがあったが大学にはないといった具合で,通常荷物置き場にしてはいけない食堂にまで荷物を置いたりしている。学生から,大学での居場所がほしいといった切実な要望があり,我々も大学の上層部にはその旨伝えているが,保有する土地には限りがあるので,なかなか対応できないのが実態である。
(6)森茜図書館情報大学事務局長から「学生の希望・意向等の反映方法について」資料に即して発表が行われた。その内容は概ね次のとおりである。
・ 多くの大学は,学生生活実態調査を行っている。その中では課外活動・日常生活に関する事項のみならず,大学の教育や研究に関する事項も調査している。
・ 図書館情報大学では,授業に関するアンケート調査をしている。授業終了時のみの調査では,現に受講している学生に対する調査の結果の還元ができないことから,授業開始後1ヶ月以内に実施するA調査と,試験週間の前週に一斉に実施するB調査の2種類を実施している。A調査は現在受講中の学生に,教授技術に関する要望等を自由記述式で問うもので,学内の教育委員会の作成したモデル案にしたがっているが,質問事項・調査用紙は教員の自由な工夫に委ねている。配付回収は教員が行い,独自に授業改善の参考とする。B票は6段階評価を内容とする本紙と,自由記述を内容とする別紙からなる。本紙は教育委員会で回収し集計を行い,集計結果に調査原票を添えて返却する。別紙は教員が回収し次年度以降の授業改善の参考とする。B調査の質問事項では,まず学生自身が当該授業にどのような態度で履修したかを自己評価する5項目を含めることにより,学生が無責任に回答しないように工夫している。
また,本学では学生委員会により,キャンパスの物理的環境等に関する学生の意識や評価を問うアンケート調査を別に実施されている代表的調査項目の構成は次のようになっている。卒業後の進路(希望職種・業種),経済状態(収入と支出・アルバイト),授業・設備・学習への満足度(授業の満足度,カリキュラム・時間割の満足度,教育施設・設備の満足度,授業内容の難易度,授業内容の魅力,授業への出席状況,授業以外の勉強時間),大学に対する要望(教員,大学に対する期待・要望),読書(新聞を読む時間,テレビやラジオの視聴時間,本や雑誌の購読冊数)。このうち,読書は図書館情報大学に特有の項目であり,その時のトレンドを把握するのに便利である。調査後は,関連の委員会に結果を示すと同時に,学内ウェブにのせることで学生にフィードバックをしている。
・ 東京学芸大学は,教育学部のみの単科大学であるが,各年の入学定員は1700〜1900人である。学生生活の実態調査はやっているが,平成10年度から新しい試みとして,キャンパスライフ委員会を設置した。この委員会はセクシュアル・ハラスメント防止委員会を設けて相談員をおくという全国的な動きの中で,出てきたものである。東京学芸大学は教員養成を主目的にしているので,入学当時から少ないクラスで10人,多くても30人という少人数の学科編成であることもあり,近年,学生のミスマッチが多い。学生を指導する上で,大きな問題となっている。
キャンパスライフ委員会設置の趣旨は,セクハラ問題のみならず,大学において教職員・事務官・学生が快適なキャンパスライフを送ることができるように,教育・研究上の条件や,大学生活の様々な場面における人間関係,その他快適なキャンパスライフにとって障害となる諸問題の調査・改善策を検討する,というものである。教職員・事務官・学生に対して必要な啓発を行い,また必要に応じて一般的な対応策について提案を行う。また,これに加えて,学長はキャンパスライフ・コンサルタントを委嘱し,個別的なケースについての調査等を行わせ,その結果を委員会に報告する。それとともに,必要な改善策を提案し,関係機関における対応を進める。
委員会の構成は,部局長会より学長・学生部長を含めて若干名,各部等より各2名程度,事務局より若干名で構成されている。
一般的な対応としては,必要な改善案についての提言をとりまとめて,部局長会を含む関係機関に提案するほか,教官・事務官・学生に対する啓蒙活動を企画・実施する。個別的な対応を進めるために,学長はキャンパスライフ・コンサルタントを,各部等からの推薦を受けつつ,学内の教官・事務官・学生の内から委嘱する。コンサルタントは関係者との面接・調査等を通じて,問題点をとりまとめるとともに改善策を提案する。コンサルタントの提案を受けて,学長はそれぞれのケースに即した対応の対応の体制を検討し,委員会に報告するとともに,関係機関に提案し,必要な改善の方策を推進する。また,任務を遂行する上で必要であると認めるときは,学長及び学内の関係機関に対し,問題の解決に必要な提言を行う権限を持っている。
教官は当然,コンサルタントのスタッフであるが,注意すべき点は大学事務局の相談員の個人名をはっきりと出して,学内で周知,実行しているところである。周知させるために,キャンパスライフ委員会の相談名簿といったパンフレットを何万枚もつくって,学生会館や食堂など学内中に置いている。
・ 委員会設置から実質2年経ち,どういう問題が出たのかをキャンパス通信にプライバシーに関わらない程度に掲載している。内容としては,セクハラ問題が上がるのは当初から予想されていたが,予想外に多かったのが,学生と教官の関係についてである。個人の問題というより,卒業論文研究時の学生に対する教官の指導方法についてであり,その指導の中で,双方に軋轢ができてしまうというものである。セクハラについては,卒業論文が完成して教官の了解がとれた直後に問題が起きるケースが多いが,その場合,調査を開始する頃には当事者がいなくなってしまい,大学側としては苦慮している。開始当初は,苦情処理的意味合いが強かったが,その後は個別問題の中から一般的な問題・意見を吸い上げるようになった。
・ 筑波大学には,学生担当教官の制度がある。担当教官には2種類ある。各クラス担当と全学的な立場から学生問題を考える教官から成り立っている。学生側は,クラス連絡会をキャンパスライフ上の組織として積極的に位置付けている。連絡会は大学における教育活動や学生生活などに関する事項を学生に伝達し,周知を図るとともに,これらに対し学生の意向を反映させることを目的としている。クラスを大学側からの連絡調整機能にとどめないために,学生側,教官側の双方にクラス単位,学年単位,学部単位,全学単位へと集約権能をもたせている。また,課外活動団体も文科系・体育系・芸術系ごとに,学部,全学との集約機能をもたせる。
学生担当教官会議は,学生生活に係る指導・助言に関し全学的調整を必要とする事項その他基本的事項について協議する。議長は当該事項を担当の副学長に報告する。この会議で協議された内容が副学長直轄の学生担当教官室で話し合われる。
学生担当教官室は,全学的視野の下に学生の指導・助言や援助に当たる組織である。学生担当教官室で議論されたことは,副学長と教官・学生の同数出席する懇談会で検討される。その会議での内容が議事録として作成され,学生に配られる。
・ 一橋大学では,学生の力が強い。新入生歓迎行事や大学祭も活発であり,また,就職活動においては学生自ら資料を作成する。しかし,今ではこうした活動に学生自治会が関与していない。新歓・大学祭・就職活動とそれぞれ事柄ごとに委員を募り,自治会とは別に委員選出をしているのが現状である。学生の自治会への参加率は,極端に低下している。
・ 学生の意見の反映方法については,従来,課外活動・厚生補導といった観点に偏りがちだったが,今後は,正課教育に学生の意見をどう取り入れるかを考えていかなければならない。
また,筑波大学のクラス制度は高校の延長のような部分があるため,教官にとっても手間がかかる。実際,クラス会の役割は教官からの伝達だけに終わっている。構成員の意見を集約できる活動,構成員として行動できる単位といった概念を各大学の運営に導入するべきである。こうした役割は以前,自治会が担ってきたが,その機能低下が明らかな現在,学生をどう組織化してこれまで自治会が担ってきた役割を,果たすべきかを考える必要がある。
(7)森氏の発表に対する質疑応答及び自由討論が行われた。その概要は次のとおりである。
○ 東京学芸大学のキャンパスライフ委員会は,人権問題以外の案件もすべて相談員が対応するのか。
○ 人権問題ではないと判断したときは,例えば,就職や授業料の免除,奨学金,課外活動のことであれば学生センターの学生サービス課など,他の相談窓口を紹介する。ただし,たらい回しにならないように注意している。相談者が他の窓口では不十分だと考える場合には,相談員が対応する。更に,相談者の意向に応じて,別に面接の機会を作るなど,継続的に相談にのるようにしている。問題を十分に把握した上で,相談者はまずどうしたいのか希望を聞いている。ただ話を聞いてほしいのか,有効な解決策を大学に求めているなどの見極めが必要である。相談者の同意を得た上で,キャンパスライフ委員会事務局に連絡する。
○ 筑波大学のクラス制度は実際,どのように機能していたのか。
○ 大学側からの連絡伝達を行う機能が主であり,学生からの意向反映ということには,あまり重視していない。少なくとも,学生生活に関する意向を聞く場であっても,正課教育についての意向を汲み取るものではなかった。
○ わが大学には,公認の自治会があるが,全学生が入学と同時に自治会員になる。自治会は各クラブ活動の資金の配分を行っている。学生の委員会と教員の委員会で定期的に連絡協議会を開催して,様々な学生の要望を取り上げて検討するとともに,クラブ活動の調整を行っている。そこで行われた議論は必要に応じて教授会に上げられる。
○ 学生生活に関する問題は多岐にわたる。例えば,「教官と学生の接触が必要である。」と言われる一方で,接触が強まることで逆に,セクハラ問題などいろいろな問題が起こることにもなりうる。双方が接触のしかたを考える必要がある。現在は教官・学生・事務官がそれぞれ別々の存在になっており,あまり連携がないのではないか。
○ 学生寮などのインフラ面の整備にも力を入れる必要がある。特に,国立大学の場合,予算配分においても,学生のためという視点は二の次,三の次になっているのではないか。米国など欧米諸国の大学は,学生の教育・指導を第一義的に考えており,そのために,学生の意向をできるだけ反映しようという基本的な姿勢を持っている。日本でも,予算を教官の手当や研究費に配分するのではなく,学生のためにもっと振り向けていく必要があるのではないか。
○ 大学改革を進めるにしても,学生のモチベーションを高めるという効果がなくてはならない。グローバリゼーションの中で,今後は,日本の学生が外国の大学に流れ出してしまう可能性もあり,腰を据えて学生のことについて真剣に考える必要がある。
(8)今後の調査研究会の日程及び進め方について,事務局から説明があった。(次回の会議日程は,5月10日(水)10:00からを予定。)
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