大学における学生生活の充実に関する調査研究会 (第6回)議事要旨 |
大学における学生生活の充実に関する調査研究会(第6回)議事要旨
1.日 時 平成12年3月1日(水)10:00〜13:00
2.場 所 霞が関東京會舘エメラルドルーム
3.出席者
(協 力 者)廣中平祐座長,内田伸子,大谷毅,加藤雅治,加藤美智子,喜多信雄,小谷部育子,佐々木大輔,西野哲朗,濱名陽子,平野敏政,森茜の各協力者
(意見発表者)井村裕夫科学技術会議議員
(文 部 省)佐々木高等教育局長,高塩学生課長,亀井課長補佐,関就職指導専門官他
4.議 事
(1)前回議事要旨(案)について,修正意見等があれば,1週間以内に事務局に連絡いただき,座長の責任において確定することとされた。
(2)井村裕夫科学技術会議議員の「今後の大学における学生指導の在り方について」の発表が資料に即して行われた。井村氏の発表内容は概ね次のとおりである。
・ 平成3年に大学設置基準が大綱化され,ほとんどの国立大学で教養部が廃止された。その後,国立大学における教養教育は困難な状況にある。教養部廃止後の教養教育の実施形態は,
![]() ![]() ・ 国立大学協会の調査によると,教養部の廃止により,教養教育の単位数は減少した大学が多い。教養教育の目標がはっきりしないためだと思われる。教養教育の問題点は,
![]() ![]() ![]() ![]() ![]() また,カリキュラムが不完全という問題もある。多くの大学では多様なカリキュラムが提供されているが,学生はどれを選んでよいかわからず,その指導体制も不十分である。ハーバード大学で導入されているコア・カリキュラムについて,数年前に研究がされたことがあったが,日本では,履修科目の自由選択を重視する意見が多く,定着しなかった。
更に,責任主体が不明確であることも問題である。一般の教員には教養教育への責任感がない。
・ 自分が京都大学学長時代に,全学共通科目レビュー委員会を設置したが,そこで教養教育について多くの問題点が指摘された。全学共通科目改善特別委員会で問題の解決に当たったが,解決策の一つとして,新入生を対象とした「ポケット・ゼミ」と呼ばれる少人数セミナーを導入した。当時の一般教育では,多い場合には500人もの学生が履修する科目もあったことを反省し,教員1人当たり学生5〜15名とし,学部を問わず,コンピュータで受付をした。ポケットゼミは,人文科学系と社会科学系で構成されるA群,自然科学で構成されるB群の科目がほとんどである。
・ 1年後に少人数セミナーをめぐっての調査をしたが,予想外によい結果だった。学生の満足度や,学生自身の受講態度の評価も高く,少人数教育でしか得られないものを実感したと感じる学生が多かった。少人数教育のメリットについても,学生は,教員の人間性に触れることができ,学部の枠を越えて友人を作る機会ができたと感じたようである。また,3分の2の学生が,教養教育を物事の基本的な考え方を理解し,人間性を高めるものと考えているという結果が出た。教官に対しても調査したが,ほぼ同じ結果だった。教官は,少人数セミナーにおいて,学生の発言の機会が多かったことや,対面で細かな指導ができたことをメリットと考えている。
・ この少人数教育におけるメリットは,
![]() ![]() ![]() ![]() ![]() ・ 今後の課題としては,少人数教育の拡大が必要であると考えている。現在,特に自分の関わる医学の分野では,知識の蓄積が進み,学生にすべて教え込むことは不可能である。そのため,学生が受け身ではなく,自分で能動的に学習する方法を身につけることが重要である。そこで発達したのがハーバード大学で定着している,New
Pathwayのようなチュートリアル教育である。また,少人数教育においては,古典を読ませる機会を増やすことも必要である。
・ 現在,バーチャル・ユニバーシティなどインターネット時代が到来しつつあるが,ものの考え方,生き方を学ばせるにはface
to faceの教育も重要である。
また,現在の大学は各学部が独自に存在している「マルチバーシティ」であるが,入学時から様々な学部の教員,学生がふれ合うことが必要であると考える。
キャンパスライフにおいては,単に講義や自習で学ぶのみならず,その他の部分も学生の自己形成に役立てることが必要である。京都大学の卒業生への調査でも,大学教育が役に立っていないが,キャンパスライフ全体は良かったと考える卒業生が多かった。
(3)井村氏の発表に対する質疑応答及び自由討論が行われた。その概要は次のとおりである。(□発表者)
○ 学部によっては,ポケット・ゼミの履修が卒業のための単位に認定されていないが,学生の対応はどうか。また,科目によっては,複数の教官が担当しているが,これはリレー式に講義を持ち回るのか。
□ 学生の態度は概ね良い。また,複数の教官が担当する科目はリレー式で実施する他,理系の科目では,2人の教官が同時に担当することも行われている。
○ ポケット・ゼミは学生の自由選択で履修するとのことだが,新入生の何割くらいが履修するのか。また,賛同した教員が科目を開設するとのことだが,賛同する教員はどれくらいの割合か。
□ 新入生の約2分の1が履修している。また,賛同する教員について詳細には承知していないが,教授全体の4分の1から5分の1くらいが科目を提供してくれていると思う。ポケット・ゼミは開始した当初は100科目であったが,現在では120科目程度あると聞いている。
ポケット・ゼミを始める3年ほど前から,各学部の教授で一般教養についての討論会を年に1度行った。その場の議論を通じて,学生と教官との接触が必要であると感じ,ポケット・ゼミを提案した。
○ 科目を提供する教官の学部に偏りはあるのか。
□ ほとんどの学部,研究所から参加がある。特に研究所の教官は学生との接触が少ないため,普段は寂しく感じているようだ。大学院重点化の中で,学生とのつながりを軽視する人もいるが,大学には若い人の新たなエネルギーが必要である。
○ 他学部の教官の科目を取る学生は,どれくらいの割合がいるか。
□ 正確にはわからないが,2,3割はいるのではないか。
学長時代,自分の選択した専門にミスマッチを感じる学生の率が非常に高いことが問題であると思っていた。学生相談室への来談理由として,圧倒的に転学部や転学科の相談が多いのではないか。学生は,入学志願時には,学科の違いまではわからないことが多い。そのため,学科毎に学生を募集するのを,できるだけ避けるようにしてきた。工学部などは25学科に分けていたのを,7学科に統合した。
学部段階で教養教育と専門教育を併せて教えているのは日本の大学のみであり,それが問題である。18歳で自分の人生を選ばなくてはならないのはどうか。学部教育については,米国では教養教育,欧州では専門教育を行っている。
○ 日本では,コア・カリキュラムの導入が難しかったというが,なぜか。
□ 詳しくはわからないが,わが国の大学には,強制することはよくないという意識が強いことが原因として考えられるのではないか。慶應義塾大学の湘南・藤沢キャンパス(以下SFC)では,コア・カリキュラムを導入しているようだ。ハーバード大学には教養教育のコア・カリキュラムがあり,これらを履修しながら3年目にmajor(専攻)を決める。
○ ハーバード大学のコア・カリキュラムは全員が履修すべき必須のカリキュラムで6分野に分かれている。Educated Personつまり大学を卒業した者にふさわしい教養を身に付けさせることを目的とした全人教育であり,単位の取得も厳しい。日本の教養教育は教養を広げるのが目的となっており,その点が決定的に違う。
○ ポケット・ゼミについては,京都大学は恵まれた面もある。地方大学の場合は,インターネットでも活用しないと難しいのではないか。京都大学のように100人も教員をそろえられないだろう。
□ 医学部の少人数教育は,国立大学でも既に始まっており,TAなども動員して幅広く行われているが,更に工夫が必要である。若手を参加させることにより,もっと少人数教育を増やすことができる。
○ 教官が足りないのはどこも同じで,ハーバード大学では,コース・アシスタントとして学生を活用している。1年生の時,コア・カリキュラムで優秀だった学生が,後輩の面倒を見るシステムである。地方大学では,少人数教育よりは,コア・カリキュラムの方が現実的という印象である。学部にこだわらず少人数教育を行うためには,キャンパスも京都大学のように一体になっていないと難しい。キャンパスが分散している大学では,インフォメーション・テクノロジー(IT)を利用せざるを得ないのではないか。
□ すべてにおいてface to faceの教育は難しいが,いずれかの段階で少人数教育は必要である。
3年前に英国の大学の調査をしたことがあるが,オックス・ブリッジでは,未だにチュートリアル制がある。それ以外の新しい大学も部分的に導入している。英国では,人口比でノーベル賞受賞者が多いが,その要因の一つとして,チュートリアル制を挙げる人がいる。
英国では,全寮制が崩れつつあるものの,未だに寮生活の教育的効果を説く人も多い。東京理科大学のキャンパスは,東京と北海道に分かれており,北海道キャンパスの学生は1,2年は全寮制で過ごし,3年生で東京に来ると,1年生から東京にいた学生とは違いがあると聞く。旧制高校の全寮制もそうだが,寮生活が人間のトレーニングになるのではないか。
○ ハーバード大学では,最初の2年間は原則全寮制であり,どのdomitory(寮)にもハウスマスターという住み込みの経験豊かな教授が家族で住んでいる。その他,1つのハウス当たり10人くらいのアソシエイトという教官が,小さなオフィスを持っている。これらの人々が,学生とふれ合う環境にある。
□ 小規模大学なら全寮制も可能だろう。オックスフォードやケンブリッジの寮生活は良い例である。英国の大学では知識を学ぶだけではなく,知識を学ぶ方法を教えている。
○ サプライサイドの論理ではなく,学生と教員の双方通行が必要である。日本では,これまで学生は,カスタマーとも,構成員とも考えられていなかったのではないか。
○ ポケット・ゼミを提供している教官の満足度は高いということだが,ゼミの提供は教官にとっては負担になることであり,ゼミを担当したことを評価する仕組みが必要ではないか。
□ 教員の評価はこれから問題になっていくだろう。教員にとっての一番の問題は負担増である。日本の大学では,研究者を自負する教員が多いが,その要因として,教育者としての側面が評価されないということがある。次の世代を育てることが,大学にとっても,日本にとっても,必要なことであるという意識改革をどう実行するかが課題である。
○ わが大学でも,新入生対象に各講座ごとに基礎ゼミを作った。講座ごとに持ち回りで1人の教員が20人の学生を教えている。教員と親しくなれるので,学生の反応もよい。基礎ゼミの受講がきっかけで転学科したいという学生も出てきている。
(4)平野敏政慶応義塾大学学生総合センター長から「今後の大学における学生指導の在り方について」の発表が資料に即して行われた。平野氏の発表内容は概ね次のとおりである。
・ 本日の報告のキーワードは,「インセンティブ」,「差異化・差別化」,「相談,支援・発信」である。
これまでの大学教育は,教師と学生,正課と課外のように,単純な二元的構造として捉えることができ,学生生活の在り方が成績に還元されて評価されていた。しかも,学生生活の場が一大学のキャンパス内に限定され,卒業という出口を見ると,企業就職が圧倒的に多かった。
これからの大学教育は,学生たちはインターネットなどを利用して,インターキャンパス,トランスキャンパスの生活をし,出口の方では,学生の要望が多様化し,多元的な評価に基づいて,大学院進学,企業就職,海外留学,起業など様々な方向を目指して学生生活を送っていくと思われる。学生生活の中身では,正課においては,学生による授業評価,インターンシップ,産学協同が進められ,これまでの教授中心の授業のみで学生を指導していくことはもうできなくなっている。課外活動でも,学生の多様で自主的なサークル活動,ボランティア活動を活性化し,支援していく学生相談・学生指導が求められている。そのためSPS,Student
DevelopmentやStudent Successといった理念を受け入れる動きが出ている。教員と学生の関係を見ても,海外留学や単位互換のコンソーシアムが盛んであり,学部の中でも専攻の中からmajor,minorを自由に履修させ,場合によってはminorだったものをmajorに変更してもよいという動きもある。さらに,慶應義塾大学のSFCのように,学生を学部の授業の補助者として取り込むことなど,多様な授業,講義,学生生活の相談・指導の在り方が現れてきている。この状況を前提に,これからの学生指導の在り方を考えていかなくてはならない。
・ 就職が,学生生活指導のインセンティブとしての意味を失いつつあるのではないか。これまでは,良い就職をするには良い成績,課外活動が必要であるという暗黙の了解の下で,教員,学生は学生指導や学生生活を行ってきたが,卒業後3年以内の離職率が32.0%となっている現状では,学生は,企業に就職するために学生生活を送るのではなく,卒業後も自分探しをしているということである。私立大学協会の調査によれば,学生の就職希望の割合は,1995年と1998年を比較するとすべての職種において希望率が下がり,就職への動機付けが相対的に低下している。
・ 同時に,これまでの成績中心の評価をもっと多様な評価へ変えるべきである。成績優秀者の履修科目を検証すると,「楽勝科目」と呼ばれる科目に集中している。そういった成績に意味があるのかと思う。ケンブリッジ大学には,tripos
seminarと呼ばれる成績優秀者として表彰されたい人が必ず履修しなければならないセミナーがあり,毎回異なる担当者が来て徹底した議論を行い,厳格な評価をする。大学生活を活性化するには,このように,個々の大学が,どのような学生を優秀と評価するのか基準を明確にし,それを発信すべきである。例えば,各大学が求める学生像を明確にし,そうした学生に対して奨学金を支給すれば,それも発信の一つである。成績以外のことを評価することも学生生活における多様なインセンティブの一つになる。慶應義塾大学では,体育分野における奨励賞を学業成績が悪く留年しそうな学生にも授与した。
・ 発信の一番よい手がかりは,学生を「褒める」ことである。奨学金や学生の表彰など,様々な分野で学生を褒めることが必要である。慶應義塾大学の教員で,自分のゼミの学生に懸賞論文に多く応募をさせる先生がいる。入選学生は,褒められることで評価される。学生に成績以外の多様な評価や自己提示のしかたを教えることが必要である。それは正課外の部分で最もよく実施できる。
多様な評価をするためには,学生が経験の場を広げるための支援が必要ではないか。まず,大学生活において多くの経験ができるよう援助すべきである。インターネットによる履修登録や情報提供が進み,学生が大学へ来る機会が減少する中で,キャンパスに来る魅力を学生に提示する方策が必要である。また,自主的,主体的活動を活性化させるために,我が大学では,統合的な自治活動の代わりに三田祭実行委員会や卒業準備委員会など目的,機能別学生組織を形成させ,活動を支援している。
・ 教育の内容や方法についても学生の参加が必要である。私立大学で進められているFDの中の学生参加の方法は学生による授業評価に集中しているが,もっと幅を広げて,討論型又はゼミナール型の授業や少人数教育を進める必要がある。また,SFCでは学生の参加の一環として,学生のSA,TA,メディア関係のコンサルタントを採用している。その際,きちんとした知識や技能のある学生を選考する過程で,学生間で差異化が起こる。大学生になれば全員を一律に扱うのではなく,明確な基準のもと,差異化を認め,きちんと評価すべきではないかと考える。
・ インターンシップやボランティア活動も積極的に支援することで,学生の社会的経験を多様化することにも役立つ。そのためには,ボランティア・ビューローやインターンシップ委員会を設置して,そこに学生を参加させる方が良い。また,例えば1月の大学箱根駅伝を運営するようなインターカレッジサークルの支援も必要である。
・ 学生の現状について,1984年と1999年の慶應義塾大学調査で比較してみると,「自分の行動が他人を不愉快にする」,「自分が他人に不快感を与えているのではないかと気になる」「人が自分の噂をしているような気がする」という問に「はい」と回答した学生が大幅に増えている。女性についても,「自分の考えが人に知れ渡ってしまうように感じることがある」と回答した者が,前回より大きく増加している。結果からは,学生が内向化している傾向が読みとれる。そうした学生の視線を外側に向けるには,学生を褒めることと,我々が積極的に学生をもっともっと好きになることしかないのではないかと思っている。
(5)平野氏の発表についての発表に対する質疑応答及び自由討論が行われた。その概要は次のとおりである。
○ わが大学は理系なので,学生がキャンパスに来ざるを得ないカリキュラムを組んでいるが,課外活動においても,ロボットコンテストなど正課に近い形で学生を褒める努力をしている。ただ,1人の学生を褒めても,それが他の学生への刺激になっていないと感じている。インセンティブを与えるためには褒めた方がいいのか,批判してハングリー精神を持たせた方がいいのかつかみきれない。
○ 正課教育についてはアメとムチの使い分けは有効な方法だが,課外活動は褒めることに徹した方が良いと考える。
○ これからの大学教育について,卒業後の進路が多様化していくとのことだが,これは本当に学生が選択した結果なのか。大学院を卒業した後,あるいは海外留学をした後,自分がどうするのか理解している上での多様化か,疑問がある。
○ 卒業目前になって大学院しか行くところがないので,大学院へ進む学生もいるが,積極的に1年生の時から大学院や海外留学を目指す学生も増えてきている。学生は自分の進路について意図的に選択するようになってきているのではないか。
○ 従来の学生への進路指導や進路結果の捉え方は外枠のみで捉えていた。枠組みにはまりきらない学生の生き方が社会全体に行き渡った時にどうするかが問題である。
○ 学生をSA,TAなどで活用することについては,学生はまだ未熟なので,失敗もあると思うが,問題点はないのか。
○ SA,TAは,教官の指導するアドバイザリー・グループに属し,2年間活動しているが,問題はあまり起こっていない。アドバイザリー・グループを終えても,先輩としてグループの面倒を見る学生もいる。
○ 課外活動の課題は,時間にゆとりのある文系学生に対して,理系学生は,課外活動に割く時間がないことである。わが大学も総合大学なので,文系・理系の合同でサークルを作るケースが多いが,理系の学生が離脱してしまうケースが多いと聞いている。
○ 慶應義塾大学では,理系の学生は理系キャンパスの中でサークルを作る者と,文系の学生と同じサークルに入る者がいるが,そこでも,理工系の学生が脱落しない形でサークル運営をしていたり,また,三田祭実行委員会などは,理工系学生が,配電盤を作って学内に電線をめぐらせたりして活躍している。医学部の学生は,サークルで伝統的に毎年夏休みに無医村へ手伝いに行くなどうまくやっているようである。わが大学ではサークル団体の表彰をすると,中に理工系の学生が入っていることも多い。
○ 私立大学の理系学生はサークルに没頭すると留年を覚悟しなくてはならない。国立大学の理工系はカリキュラムが厳しいためサークル活動は難しいと思う。理工系であるわが大学でも廃部が続いている。
○ 理工系でもうまくやっている学生もいる。ただ,奨学金は,留年すると貸与がうち切られることがある。学生を多様な基準で評価するのであれば,このあたりは弾力的にしてもいいのではないか。1年間ボランティアをするために留年するなど,積極的な理由であれば,これを評価してもよいのではないか。
○ 私立大学の中では,ボランティア,海外留学,サークル活動などに奨学金を出す大学も出てきている。スポーツの優秀な学生に奨学金を出すのもよい。慶應義塾大学でも,多様な形で奨学金を与える観点から,新しい奨学金を作ろうとしている。
○ 心に問題を抱えていると診断されるような学生にとっては,少人数セミナーの5〜15人という人数は一番苦手な人数である。そのような学生は,課外活動からはほぼ取り残される層である。他人の目を気にして,自己育成に取り組めない。1人の教員が,入学から卒業までの学生生活を一貫して指導できる体制が良いのではないか。
○ 「褒める」ことに関連するが,日本の子どもは,他の人が褒められてもあまり関心を持たず,その人自身の結果や,前よりも良くなったという変化を認めてやる時に達成感を一番感じられるようだ。賞をもらったりお金をもらったりという実務的な褒め方より,むしろ達成感を感じられるような評価が本当の意味で一番効果的なのだと思う。
○ 最近,学生が例えば,卒業研究や勉学の進捗状況について面談して評価する時に「僕的にはよくやったんで満足です。」という言い方をすることがある。要するに「自分としてどうか。」ということのみを真剣に考えているようで,他者との比較をあまり考えていないように感じる。
○ 米国では,理系のみだけでなく文系も忙しいのか。
○ 文系でも忙しい。米国の大学は,とにかく学生に勉強させようというのが一番大きな主眼である。キャンパスライフを充実させるのは,基本的には勉強させるためであり,「勉強だけでは潰れてしまうから少し楽しみも付けてやろう」という考えに基づいている。宿題が毎日たくさん出されるので学生は勉強せざるをえず,やっていくのは非常にきつい。
○ 米国の大学のレベルもいろいろあると思うが,中程度の大学でもそうか。
○ 日本よりずっと以前から,米国は卒業生に対して即戦力としての能力を要求する社会だった。日本では,特定の大学を卒業した学生であれば,学生時代に勉強していなくても社内で教育すればものになるという考えがあったが,米国は大学が学生にしっかり勉強させるための努力をしないと,大学の価値が下がり,結果として就職率も悪くなる。大学は学生に,本当に勉強させているというところを示さなければならない。
○ 昨年MITに行ったが,学生が成績について非常に真剣であった。宿題も採点基準は何なのか,どこまで書いたら満点くれるのか,とうるさく感じるくらい質問してくる。就職も奨学金も全部成績に結びつくため,良い成績を取るために非常にアグレッシブである。最近の日本の学生は,むしろミニマム,卒業できればいいという感じになっており,良い成績を取ろうというインセンティブが希薄になっている。
○ 日本では,大学が教育に熱心に取り組むことを歓迎している企業もあるが,逆に批判的な企業もある。即戦力にはなっても,あまり忠誠心がないという批判である。まだまだ,日本の企業は抱き込み式で優秀な人を抱き込んで最後までいてほしいという考え方が中心である。米国では,雇った期間にその人が何をしてくれるかということが最も重視される。
○ 「褒める」ことに関連して,米国で教育に関するスピーチなどを聴くと,20年くらい前まではBrain and Mindが言われていたが,最近ではBrain,Mind and Motivationということをよく聞く。どの国でも,動機付けというのが一番の問題である。動機付けなしでBrain,Mindと言ってもどうにもならない。
○ 就職では,かなりの会社が最近はまずインターネット上で適性検査を行い,次の段階として,エントリーシートのレポートをメールで行い,その後ようやく本当の人間を試す面接に入る。学生は,前2段階では直接企業側に会うことがない。企業は知識というより提案をさせる。今の学生の3分の1くらいはビジュアル世代であり,非常に文章が下手である。英語も大学の成績は評価されず,ほとんどの企業がTOEIC,TOEFLのスコアを要求している。
(6)次回の会議日程について,事務局から,4月10日(水)14:00からを予定している旨の説明があった。
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