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大学における学生生活の充実に関する調査研究会議事要旨

2000/01/31 議事録
大学における学生生活の充実に関する調査研究会 (第5回)議事要旨

 大学における学生生活の充実に関する調査研究会(第5回)議事要旨


1.日  時      平成12年1月31日(月)14:00〜16:00

2.場  所      霞が関東京會舘エメラルドルーム

3.出席者
(協力者)廣中平祐座長,内田伸子,大谷毅,加藤美智子,喜多信雄,佐々木大輔,西野哲朗,濱名陽子,平野敏政,保坂亨,森茜,吉本圭一の各協力者
(文部省)高塩学生課長,亀井課長補佐,関就職指導専門官  他


4.議  事


(1)前回議事要旨(案)について,修正意見等があれば,1週間以内に事務局に連絡いただき,座長の責任において確定することとされた。

(2)吉本圭一九州大学助教授より「大学における就職指導の在り方について」の発表が資料に即して行われた。吉本氏の発表内容は概ね次のとおりである。

・  若年労働市場の日本における現実を,学校基本調査から推計すると,中学を卒業した198万人のうち,大学卒業までの各段階で就職している者は138万人しかいない。残りの約4分の1を占める54万人は,中退や学卒無業,不明者として数えられている。これまで新規学卒市場で無視されてきたこれらの人々の状況を今後把握する必要があるのではないか。
    国際比較の視点から見ると,日本では,学卒1年未満の就職率が諸外国より高くなっている。学卒後すぐに就職する多数派にとっては円滑な仕組みだが,すぐに就職しない少数者にとっては,就職することが困難な状況である。
    また,これからの大卒労働市場は,内定率の低下や,早期離職の問題,経済展望などから不透明な状況であり,学生指導は転機にさしかかっている。

・  日本の青年の労働観を諸外国との比較から分析すると,発展途上国の若者は「労働は社会に貢献するため」と考え,欧米諸国の若者は「自己実現のため」と考える傾向が強いのに対し,日本の若者は,労働は「社会的な義務であって,義務が終了すれば労働の必要はない」と捉える傾向にある。
    若い世代は,就職や大学選択において,社会とのつながりを重視しておらず,自分探しなど,内面性の追求に関心が向いている。学生に,個人の外側にある社会にも目を向けさせるためには,例えば青年期に社会サービスを行うことを義務化するなど,社会にさらす機会がないと,「労働は,個人のためであり,かつ社会のためである」という労働観は醸成されないのではないか。その意味では,インターンシップの活用も非常に有効である。

・  現在の就職指導の現状は,私立の新興大学の「営業型」,私立の老舗大学の「アドバイザー型」,国立大学の工学系の「押し込み型」,国立大学の文系の「自由放任型」に分類される。従来,取組が遅れているとされていた国立大学においても,近年は就職指導専門員の配置などの組織面や全学的なガイダンス活動の活発化など,改革も進んできている。今後求められることとしては,個別指導の実施が挙げられる。特に全体の約4分の1を占める中退者や学卒無業者に対しては,彼らを「病人」として取り扱うのではなく,学部の専門に応じたアドバイスをできるような個別指導を行うことが効果的であると考える。
    また,国公私立大学に共通する課題としては,第一に,教員と事務職員との協力関係が不十分であることが挙げられる。現状では,教育課程を決定するのは教員のみである一方で,事務職員の経験も教員にフィードバックされにくい面がある。
    第二に,学生を活用することである。大学が持つ大きな資源である学生を,就職指導にも活用すべきである。学外との連携も重要であり,インターンシップにおいても,受入側の企業の若手が学生を指導することで若手社員の教育にもなるという観点も考えていく必要がある。
    第三に,就職指導のみを卒業前の最後の1年間に行うものとして独立させるのではなく,中退者であっても,その教育段階に応じて就職指導が受けられるよう教育プロセスに統合し,4年間を通して,徐々に労働観や就職の問題について指導を行う必要がある。そのためには,学務部や学生部で全体の教育プロセスを企画した上で,各学部で専門的なカリキュラムを開発する分担関係を構築することが望ましい。

・  インターンシップを,授業科目として位置付ける大学数は増加しているが,その中身を見ると,大学側は募集を掲示するのみで,派遣学生の選考も抽選となり,企業での実習の内容も企業任せで,試行段階より教育効果としての内容が薄くなっているケースも見られる。
    今後,インターンシップを発展させていくためには,労働観の形成,学習意欲の喚起などインターンシップの教育的意義のみを強調するだけではなく,経済的価値も評価していくことが必要である。現在のインターンシップは就職活動から切り離され,報酬を与えないことを原則としているが,企業側はある程度有給でもいいと考えており,大学側とは考え方が多少異なる。企業に対するインセンティブも必要であり,インターンシップが企業のPRの場となることが必ずしも悪いわけではないと考える。また,採用についても,インターンシップが直接採用につながるのは問題だが,間接的に関係することは構わないのではないか。
    ドイツでは,週の半分に学校に行き,残り半分を企業で働いて多少の報酬を得るというデュアルシステムが中小企業を中心に多く実施され,大学生を含む若者の7割が経験している。この訓練プログラムの開発費用・運用費用については,公的に負担されている。様々な問題もあるが,中小企業にとっては優秀な人材を確保する良い機会となっている。

・  就職指導全体の課題としては,次のような点が挙げられる。
    第一は,教育機関では,実利的側面に対する関心が低い又は忌避観を持っていることである。
    教員は学問的研究志向が主で実利的側面への関心が低く,就職指導に関しては学生部長一人に任せておけばよいと考える傾向にある。教育課程においても,学外でのものはボランティア活動に限定されてしまう傾向にある。また,学生の生活支援に対する関心が低く,アルバイトは掲示板に掲示するのみの対応しかなされていない。実利を生まないインターンシップが好ましく,賃金を得るアルバイトが好ましくないという態度はおかしいのではないか。学生の経済生活の側面へ配慮することが必要である。
    第二は,日本では,インターンシップを神聖化しすぎていることである。
    文部省は,学生に無報酬で採用にもつながらない労働を経験してボランティア精神を養うことを求めているし,労働省も雇用者に対して教育的なインターンシップを求めている。一方で,通産省は少し立場が異なり,ベンチャーなどと関連づけて教育を投資的に活用する戦略をとっている。企業と大学は相互の価値体系の違いを理解する必要がある。教育の立場は,百人の人間がいれば,百人全員を価値ある人間に育てようとするものであり,企業の立場は,百人全体のうち例え一人であっても総体として大きな価値を生み出せばよいというものである。
    第三は,労働観を学生生活の中で継続して形成していかなくてはならないことである。
    今後は,労働省,文部省が資金面やモデルプログラムを作るなどの公的なサポートを行っていく必要があるのではないか。


(3)吉本氏の発表に対する質疑応答及び自由討論が行われた。その概要は次のとおりである。

○  インターンシップは黎明期で多くの課題を抱えているという話を聞く。現在は「おつきあい」として学生を受入れる企業が多く,2週間のインターンシップの期間を,人が全く来ないような倉庫番として過ごさせた企業もある。担当する教員にとっても,学生の失礼がないようにと企業に気を遣い,負担が大きい。個々の大学としての対応のみでは限界があり,企業の理解が進み,社会における全体的なシステムができあがらないと普及は難しい。

○  自分が九州地域で行われたインターンシップの試行事業に携わったときは,企業側と学生のスケジュールを調整し,受け入れ先の企業に挨拶に出向くなどしていた。これを,全教員が行うことは難しく,30万,50万の学生には対応できない。企業側としてもプログラムを作るなど,立ち上げるために相当のコストがかかっている。米国では,1994年に成立したthe   School-to-Work Opportunities Actにより,様々な公的な支援を行っている。企業で高校のインターンシップのコーディネーターをしている社員の給料のうち,半分が補助されている例もある。日本でもインターンシップを普及させるためには,何らかの形の公的な支援が必要ではないか。

○  これまでの日本人は,自分で積極的に課題を探求する力が弱かった。今後,初等中等教育段階で教科の枠を超えた「総合的な学習の時間」が始まり,この時間が有効に作用すれば,改善されうると思う。米国のカリフォルニア州では,「キャリア・アカデミー」という制度を取り入れている高校がある。学校の中で,テーマごとに30人程度ずつ,5〜6のアカデミーに分けて,例えばそのうちの「メディア・アカデミー」では,ジャーナリズムについて考えさせる授業をしている。

○  フランスでも幼児期から木工や料理などの教室に行き様々な分野の達人に触れ合う機会を作っている。

○  教員の役割が変わったと思う。教員は教育をするだけではなく,自分の専門外の分野についても,教育リソースである専門家をいかにコーディネートするかが重要である。

○  日独協会では,今夏に日本の学生200人を40日間,ドイツでインターンシップさせようという国際的な試みがある。日本でも諸外国からインターンシップを受入れるなど,グローバルな学生の育て方の検討をしてもよいのではないか。また,現在は,日本的なインターンシップの定義が明確でない。日本と異なり,米国では圧倒的に有給でやっているところが多い。現在は無報酬だが,報酬を出せれば,大学・学生や受入れ企業ももっと気楽にインターンシップが実施ができるのではないか。

○  ヨーロッパ大陸の伝統的な大学では,実学よりも純粋科学を重視しており,ドイツを除いて,インターンシップの制度が見られない。ドイツでは,学生は4年で卒業できるところを平均6年くらいかけて卒業し,その間に自分でインターンシップの期間を自由にプログラムするなど,学生が自主的にインターンシップを準備している場合もある。

○  わが大学では,就職・職業指導を1年生から始めるべきではないかという観点から,中小企業経営者をOB会から講師として招き,講座を開くことを提案をしたことがあったが,教員の労力がかかりすぎ,研究に支障が出ることが問題となり実施できなかった。資金や労力をどこが提供するのかは難しい問題である。また,その後の議論で,一度就職した会社で一生を終えるという終身雇用観をなくした現代の学生に,何を目指して教えればいいのかという議論になり,最終的には就職担当の専門職員が従来の就職紹介を行うという結論に落ち着いてしまった経緯がある。

○  アルバイトとインターンシップとの違いは何かと考えると,インターンシップにより,学生は,通常は大卒入社10年目くらいでようやく経験できる仕事を経験できることもある。短期間とはいえ,様々な部署を経験することにより組織全体が見渡せ,組織の行動により経済価値が生まれることが理解できるところにアルバイトとの違いがある。

○  現代においては,学生に労働の意義を伝えきれていないのではないか。最近の学生は,賃金を得る仕事の時間と仕事の後の自己実現の時間は違うという発想を持っているため,自分の人生において自己実現としてどのような仕事をしていくかという考えを持っていない。大学におけるインターンシップは,自分がどのような方向で自己実現するか,そして企業内の労働における自己実現の可能性を探る役割を持つ。また,企業の経済活動の観点からすると,企業側のコストを誰が負担するのか,整理が必要ではないか。

○  基調発表において,大学段階までに中退,学卒無業者とされているのが約50万人ということだったが,実際は必ずしも無業ではなく,文部省の学校基本調査のカテゴリーに入っていないということではないか。大学に入学した学生全員が就職する時代ではなくなってきており,大学でも,高校と同様,進路指導という用語を使用した方が適切ではないか。今後は,学校基本調査で捉えきれない流動化する学生層に対して,どう援助したらいいのかを考える必要がある。

○  介護実習で学生を受入れているが,最近の学生はマナーができていない。実習も義務で行っているようでやる気が感じられない。

○  大学側の立場から見ると,小・中・高と一貫して「生きる力」を身につけるプログラムを作るべきだと思う。現在は,小学校では社会見学をやっているが,中学・高校をとばして,いきなり大学でインターンシップをやっている。

○  インターンシップについて,米国では,学生は若くて自由な発想を持っていることで社内の刺激になり,卒業して他の企業に就職するとしてもその企業のシンパが米国中に拡大することにつながると好意的に考えている。日本のように,学生を囲い込んでいるわけではない。


(4)事務局から中央教育審議会答申「初等中等教育と高等教育との接続の改善について」及び「大学における学生生活の充実に関する調査について」の説明が資料に即して行われた。


(5)次回の会議日程について,事務局から,2月の下旬から3月上旬を予定しており,後日連絡する旨の説明があった。 

(高等教育局学生課)

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