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21世紀医学・医療懇談会

医療人育成を見直す背景は何か  

○全体報告


医療人育成を見直す背景は何か


1. 医療人育成を見直す背景は何か

1. 社会の視点

 (1)21世紀の社会は,長寿化,国際化,情報化,環境問題など,人類を取り巻く状況が大きく変化することが予測される。現在の医療人育成システムが形作られた昭和20年代においては,平均寿命50年の人生を国内のみで過ごすという,言わば「50年生きる日本人」の社会であった。今日においては,人生80年時代を迎えており,今後さらに長寿になり,また活動範囲も日本国内にとどまらず地球規模での活動が期待される。すなわち,各個人も医療人も「100年生きる地球人」として人生を過ごす社会であり,この観点から医療人育成システムについて見直すことが必要である。

 (2)我が国における長寿化は,21世紀には他に例をみない超高齢化社会をもたらすことが予測されている。患者が抱える疾病は慢性疾患中心型になり,病いと共存しつつ,如何に質の高い人生を送れるかが課題になる。医療に加え,介護や福祉まで含めた総合的社会保障の再検討が進められており,その際国民負担及び公費負担の限界が問われている。さらに医療人自身も長寿になり,実働年限が長くなることに留意した医療人育成のあり方を考えることも必要である。
    また,個人が地球規模で活動することは,疾病構造がボーダーレス化するとともに我が国の医療を受ける患者も多国籍化することを意味し,また,医療人も地球規模で活躍することが期待される。このような観点から,我が国の医療あるいは医療人育成システムが国際的に評価される内容になっているのかどうかについて検証することが求められる。

2. 医学・医療の視点

 (1)我が国の医学・医療は大きな変革期にある。国民皆保険制度は,国民に健康をもたらすことに大きく貢献してきた。しかしながら,医療の現場において,患者中心,患者本位の立場に立った医療が十分提供されているのであろうか。患者の人権や生命の尊厳を尊重した医療,患者のLOL(Length of Life,長命)と同時に患者のQOL(Quality of Life,生活と人生の質)を重視した医療が求められている。また,疾病の治療だけでなく,疾病の予防から,リハビリテーション,介護,福祉まで一貫して考えることが必要になっている。

 (2)近年の医学・医療の進歩は急速である。先端医療の進歩は様々な疾病の克服に貢献しているが,他方で脳死,臓器移植,体外受精,遺伝子治療など生命倫理に関わる問題を投げかけている。先端医療の進歩と生命の尊厳との調和をどのようにとっていくかは大きな課題である。

3. 教育の視点

 (1)大学・学部の選択において,いわゆる「受験学力」の偏差値が一つの判断基準になっており,結果として医学部を中心に「受験学力」が高い者が進学する傾向がみられる。医療人になるためには,確かに学習しなければならないことが多いが,単に「受験学力」を高めるだけの学習が,果たして良き医療人になるための基盤になるのであろうか。国民の健康を預かる医療人になるための人材をどのように選考すればいいのかは,大きな課題である。

 (2)医療人育成は,主として大学における医療関係学部において行われているが,国民の健康を守る医療人に求められる態度・技能・知識の修得が十分に行われ,その評価が適切に行われているのかどうかについて検討する必要がある。特に人間性豊かな医療人を世に送り出しているのかどうかが厳しく問われている。


 (高等教育局  医学教育課) 




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