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3   法科大学院の教員組織
 
 
(1)教員組織に関する基本的な考え方
 
   法科大学院の教員組織については、2のような教育内容・教育方法を円滑かつ効果的に実施するのにふさわしい数と質の教員が現実に配置されなければならず、そのためには、意見書の趣旨に沿って充実した教育体制を整備することを促進するような内容の基準が定められるべきである。その基準は、専門大学院に関する基準をも参考にしつつ、法科大学院の特殊性に配慮して定められるが、意見書でも指摘されているように、移行期における法科大学院の設置を円滑にし、その教育水準を確保するために、当分の間、基準を柔軟かつ現実的に運用する経過措置を講じる必要がある。
   専任教員数や実務家教員に関する基準については、法科大学院設置後一定期間が経過すれば、その教員の相当数が実務経験を有するようになり、また、同一教員が複数の科目を担当し、法律基本科目と同時に展開・先端科目あるいは基礎法学科目を担当したりすることになると予測される。したがって、基準の策定にあたっては、このように教員の教育研究スタイルが変わっていくことを考慮に入れるべきであり、現在の教員の教育研究スタイルを当然の前提にした規定にならないように留意する必要がある。
 
(2)教員の資格と専任教員数
 
   法科大学院の教員資格に関する基準は、意見書の言うとおり、教育実績や教育能力、実務家としての能力・経験を大幅に加味したものとすべきであり、すでに大学院の指導適格教員と認定されている者についても、法科大学院の趣旨に照らして再審査することを検討すべきである。
   専任教員数については、意見書の趣旨に沿って充実した教育を現実に実施できる数と質の教員を配置することを基準で義務づけ、各法科大学院は、可及的速やかにそのような数と質の教員を任用するよう努めることを当然の前提とした上で、法科大学院設置当初から基準をそのまま適用することから生じうる各種の弊害(人事の硬直化、教員の全般的なレベル低下、教員の教育研究スタイルの転換の障碍等)を抑止し、法科大学院の教育水準を下げることなく、教員組織の充実を弾力的にはかるための経過措置を講じる仕組みとするのが適切である。
 
   以上のような点を考慮すると、専任教員数は、大学院設置基準の規定方式と同様に、最低数基準と学生比率とに分けて、以下のように規定するのが適切である。
   1最低数基準……… 専門大学院に関する現行告示でも、最低10名(専攻を分割したときは各々6名)の研究指導教員が必要とされており、法科大学院についても、最小規模のものでも、公法系、民事系、刑事系、実務基礎科目群、基礎法学・隣接科目群、展開・先端科目群にバランスよく教員配置をするためには、12名以上の専任教員を置くことを義務づけることが適切である。ただし、上記のような考慮から、当分の間、その3分の1以内の教員は、学部・大学院の専任教員としても算入できるものとする経過措置を講じる必要がある。
   2専任教員対学生比率……… 専門大学院に関する現行基準(1対10)は、法科大学院では個別的な研究指導は行わないこと、また、アメリカのABAロー・スクール認定基準と比べても厳しすぎることなどを考慮すると、これをそのまま法科大学院に適用することは適切ではなく、教員1人当たりの学生定員は15人以下とし、科目群間のバランスに配慮しつつ、専任教員を配置することを義務づけるのが適切である。ただし、当分の間、最低教員数の場合と同様、その3分の1以内の教員は、学部・大学院の専任教員としても算入できるものとする必要がある。
   なお、上記のような経過措置による場合でも、法科大学院の教育を担当する教員が、自己の所属する法科大学院以外の学部・大学院等における教育に一定限度を超えて関与することは、個々の教員の負担過剰を招き、法科大学院の教育体制の充実の妨げになりうるから、このようなことが生じないように十分に留意すべきことは言うまでもない。
 
(3)実務家教員
 
   意見書は、実務家教員の数及び比率については、カリキュラムの内容や新司法試験実施後の司法修習との役割分担等を考慮して、適切な基準を定めるべきであるとし、また、実務家教員の確保を円滑にするために、弁護士法や公務員法等にみられる兼職・兼業の制限等について所要の見直し及び整備を行うべきであるとしている。
   法科大学院においては、実務家教員は、実務基礎科目群だけでなく、展開・先端科目群の相当科目、さらに法律基本科目群の一定科目をも担当することになるから、いずれにしろ、非常勤の教員を含めれば、相当数の実務家教員が不可欠である。どのような形態であれ、実務家教員の配置を義務づける以上、現実にそれだけの実務家教員を確保することを可能とする制度的・人的条件が整備されていることが、具体的な基準の策定の前提条件であろう。
   専門大学院に関する実務家教員の比率(専任教員の概ね3割程度以上)に関する現行基準を法科大学院にそのまま適用することは、司法修習による実務修習を別に実施するという制度設計のもとでは必ずしも適切ではなく、また、専任教員にこだわることは、最新の実務に通じた実務家が法科大学院の教育に関与することを困難にしかねない。専任実務家教員の比率自体を緩和するとともに、実務家教員の任用形態を多様化・弾力化したり非常勤の教員を一定の要件のもとで専任扱いとしたりする措置を講じて、法科大学院全体として、実務基礎教育を中心に、理論的教育と実務的教育との架橋をはかるカリキュラムを円滑に実施できる数の教員を配置することを義務づけることが適切である。
   長期的にみても、法科大学院教員と実務家との兼業緩和や人事交流が促進されるならば、法科大学院修了者が法科大学院教員になる頃には、実務経験をもつ教員が増え、実務家教員の数や比率を規定することの意味は乏しくなるであろう。制度的・人的条件の整備が不十分な現時点では、数や比率による厳格な基準を設けて専任実務家教員の配置を義務づけるよりは、兼業緩和や人事交流の促進等により、実務家教員が多様な任用形態で弾力的に法科大学院の教育に関与し、法科大学院の実務基礎教育体制の充実をはかる条件整備を急ぐべきである。
   したがって、法科大学院設置当初は、実務家教員に関する基準としては、5年以上の実務経験をもつ専任教員を少なくとも1名以上配置することを義務づけ、学生数に応じた実務家教員の数については、学生数に応じて必要とされる全専任教員の概ね2割程度以上の実務家教員を配置することとするのが適切である。併せて、そのうち概ね3分の1以上は専任教員でなければならないが、当分の間、一定の人数を限って、年間6単位以上の授業を担当し、かつ、実務基礎科目を中心に、法科大学院全体のカリキュラムの編成と実施に責任をもって関与する非常勤の教員をも、専任教員とみなす経過措置を講じることが望ましい。
   第三者評価にあたっては、以上のような専任実務家教員数の要件が充たされているかどうかだけを評価するのではなく、非常勤の教員をも含めて、実務基礎科目をはじめ、法科大学院のカリキュラム全体における理論的教育と実務的教育との実効的な架橋に必要な実務家教員が適正に確保されているかどうかを、各法科大学院のカリキュラムの内容や学生定員・地理的条件等を個別的に考慮して評価することを重視すべきである。
   なお、法科大学院において充実した教育を現実に実施するためには、教育補助教員の具体的な活用方法を検討することが重要であり、基準レベルで何らかの規定をして、その位置づけを明確にし、その人的・制度的整備をはかる必要があり、本研究会でも今後の検討課題としたい。



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