3−3.民事法・基幹科目
3−3−1.基幹科目の内容と編成

  基幹科目の授業においては、基礎科目の履修を終えた学生が、そこで習得した基本的な知識・ツールを活用し、また、自ら必要な資料や参考文献等を探しだし、それらを利用して、理論的・実務的により高度な問題に対処することができるよう、専門的・応用的な法的分析能力の育成が必要となる。
  このような教育目的を達成するため、民事法の基幹科目として、たとえば、2単位の民事法演習を6科目(民事法演習I〜Y)を開講することが考えられる。
  これらは、基礎科目とは異なり、一定の法分野のみに限定されるものではないが、各基幹科目において取り上げられる主たる項目は、民法分野が中心となるもの、商法分野が中心となるもの、民事訴訟法(ないし民事手続法)が中心となるもの、実体法(民商法)・手続法融合型のもの等、種々のものがありうる。また、素材とする対象も、事例分析を行うもの、判例分析を行うものなど、科目によって異なりうる。また、ここでいう「演習」は従来の法学部における報告型の形式ではなく、あらかじめ与えられた素材をもとにして、教員と学生間、学生相互間というように、多方向的なディスカッションを行い、これを通じて各人が高度の法的分析能力を体得するという性質のものである。
  各基幹科目において、具体的にどのようなテーマを取り上げるかについても、種々の選択可能性が存し、各法科大学院により、選択結果に相違が生ずることも少なくないであろう。しかし、一般的にいえば、基礎科目で十分に取り上げられなかったが理論的・実務的に重要な問題、基礎科目で取り上げられたものの、さらに専門的な検討を必要とする問題、あるいは複数の法分野にわたる総合的な分析・判断が必要となるため、基礎科目の全般にわたる理解が前提となり、基礎科目を履修する段階では詳しく取り扱うのに適当ではない問題等が、基幹科目のテーマとして選択されることになろう。

  以下においては、民事法演習I(民事判例演習)、民事法演習II(民事事例演習)、民事法演習V(民事裁判演習)、民事法演習VI(実体法・手続法統合型演習)の授業ユニットとモデルを提示する。

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3−3−2.民事法演習I(民事判例演習)(2単位)

  判例研究の方法は、その目的に応じて種々に異なりうるが、法科大学院における判例演習においては、判例の分析・検討にあたって、とりわけ以下の点に留意すべきである。
  すなわち、学習者は、各判決例について、事件全体の事実関係がいかなるものであったか、当事者の相対立する主張につき、裁判所はどのような事実認定を行ったか、また、裁判所は、当事者の事実主張を法的にどのように評価したか等を客観的に把握することが必要である。
  さらに、これを踏まえて、各審級の判断に相違があるとすれば、それはどのような理由によると考えられるか、最高裁判決の判旨はどのような趣旨であり、これまでの判例理論とどのような関係にあるか、当該判旨はどのような点で新たな判断を示し、その射程はどこまで及ぶか、学説との対立があるとすればそれはどのように評価されるか等についても、批判的に検討を加え、判決の意義を明らかにすると同時に、その判決に問題点があるとすれば、それをどのように克服すべきであるか等についても、考える必要がある。もっとも、検討の対象となる判決例に応じて、各審級における事実認定の仕方や事実に対する法的評価の相違に重点が置かれたり、あるいは関連する判決例相互の「判例理論」の整合性が主として議論となるというように、分析・検討の手法が異なることはありうる。
  たとえば、下掲のユニットのうち、[1]については、各審級における事実の評価の仕方、法的構成の仕方、法規の解釈の仕方の相違とその理由を吟味することが重要であり、[3]においては、両判決が果たして整合的な解決を提示しているといえるのか、[7][8]については、この4つのそれぞれ重要な判決は相互にどのような関係にあるというべきなのか、今後判例はどのように推移すると予想されるか、[10]については、判例変更がどのような場合に認められるのか、といった点がそれぞれ問題となりうる。
  判決の選択も、対象となる論点の重要性というよりは、判例の読み方、分析の仕方を学ぶのに適切な題材かどうかという基準にしたがって行われるべきである。

□民事法演習Iのユニット

  [1] 組合契約の解釈、強行規定
    ・最判平11年2月23日民集53巻2号193頁
  [2] 債権の準占有者に対する弁済−民478条の適用範囲
    ・最判昭和48年3月27日民集27巻2号376頁
    ・最判昭和59年2月23日民集38巻3号445頁
    ・最判平成9年4月24日民集51巻4号1991頁
  [3] 消滅時効の援用
    ・最判平成11年10月21日民集53巻7号1190頁
    ・最判昭和48年12月14日民集27巻11号1586頁
  [4] 抵当権と利用権の調整1−賃料債権への物上代位
    ・最判平成元年10月27日民集43巻9号1070頁
  [5] 抵当権と利用権の調整2−抵当権に基づく占有者の排除
    ・最大判平成11年11月24日民集53巻8号1899頁
    ・最判平成3年3月22日民集45巻3号268頁
  [6] 医師の過失と患者の自己決定(輸血拒否事件)
    ・最判平12年2月29日判時1710号97頁
  [7][8] 被害者の素因と過失相殺の類推適用;因果関係
    ・最判昭和63年4月21日民集42巻4号243頁(心因的要因)
    ・最判平成4年6月25日民集46巻4号400頁(身体的素因)
    ・最判平成8年10月29日民集50巻9号2474頁(身体的特徴)
    ・最判平成12年3月24日民集54巻3号1155頁(電通事件)
  [9] 将来債権の包括的譲渡
    ・最判平成11年1月29日民集53巻1号151頁
    ・最判昭和53年12月15日裁判集民事125号839頁(判時916号25頁)
  [10]転用物訴権
    ・最判平成7年9月19日民集49巻8号2805頁
    ・最判昭和45年7月16日民集24巻7号909頁
  [11]内縁夫婦の一方の死亡と居住不動産の利用関係
    ・最判平成10年2月26日民集52巻1号255頁
  [12]無権代理と相続
    ・最判平成10年7月17日民集52巻5号1296頁
    ・最判平成6年9月13日民集48巻6号1263頁
    ・最判昭和63年3月1日判時1312号92頁
  [13]遺言の解釈(「○○を相続させる」旨の遺言)
    ・最判平成3年4月19日民集45巻4号477頁

□授業モデル=ユニット[1]

・対象判例=最判平11年2月23日民集53巻2号193頁
・検討課題
(1) 判決から知られる紛争の実態を正確に把握する。
  (1-1) 第一審において、原告・被告はそれぞれどのような事実を主張し、それに基づきどのような法的主張を行ったか。
  (1-2) 各当事者は、それぞれ、どのような事実について証明する責任を負担しているか。
  (1-3) 第一審裁判所は、どのような証拠に基づき、どのような事実を認定したか。また、どのような法的判断を行ったか。
  (1-4) 同様にして、第二審において、当事者の主張と裁判所の事実認定・法的判断はどのようなものであったか。
  (1-5) 上告理由は、第二審判決の判断のどの点をどのように争ったか。
  (1-6) 本件最高裁判決は、上告理由にどのように答え、どのような判断をしたか。
(2) 本件判決はどのように評価されるべきかを検討する。
  (2-1) 各審級における事実関係のとらえ方、認定の仕方にはどのような問題があるか。
  (2-2) とくに、組合契約の成立はどのように認定されているか。組合契約の規約はどのように解釈されるか。
  (2-3) 認定された事実に基づく法的判断について、どのように考えるべきか。

  あらかじめ、たとえば、以上のような検討課題を与えて判例を事前に読ませたうえで、クラスにおいて多方向的なディスカッション形式で問題点を検討する。

  この検討を通じて、1同じ事実であっても、判断の仕方によって法的な性質決定が異なりうること、2規約の作成について当事者の有していた意思が必ずしも明確ではない場合の少なくないこと、3契約の解釈という作業が、種々の価値判断を含みうること等を理解させるとともに、4民法上の組合がどのような場合に認められるべきか、5組合からの脱退に関するルールはどのような性質を持っているか、等の理論的問題点にも注意を促す。

  最後に、読むべき判例評釈を紹介する。これを事前に読ませることも考えられるが、この場合、クラスにおける議論がこれらの評釈・解説に影響されてしまうという危険があり、いずれの方法を採るかは、クラスにおける反応なども考慮して、教員が判断すべきものであろう。

【判例評釈】矢尾渉・ジュリスト1163号、山田誠一・重判平成11年度、松本恒雄・リマークス20号、中舎寛樹・民商122巻109号、大村敦志・民法判例百選I(第5版・近刊)。

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3−3−3.民事法演習II(民事事例演習)(2単位)

  事例分析を主たる対象とする民事法演習において、事例の提示の仕方には種々の方法が考えられる。法律実務家は、社会に生起する生の事実関係から、法的に有意義な事実を抽出する必要があり(2−3参照)、このような観点からすると、仮設事例においても、実際の事件に近い形で事実関係を詳細に示すことが必要となる。しかし、他方では、最初に聞いた事実関係だけではその背後に存在する紛争の全体像が明らかではなく、たとえば、クライアントからの相談を聞く中で、あるいは事実関係をその他の方法で調査する過程で、新たな事実を発見し、それに即して法的対応を考えることも必要となる。したがって、仮設事例についても、ごく基本的な事実関係のみから出発し、そのような事実関係が包含しうるバリエーションを考え、それらに応じて問題が展開し、あるいは深化することを学ぶこともまた重要であると考えられる。
  以下に示す授業ユニットのモデル(および検討されるべき問題点の例)は、後者の形で事実関係を提示するものであるが、上記の両者の方法は、二者択一的ではなく、事例演習の中で、これらを適宜組み合わせていくことが必要である。前者のモデルについては、3−3−5を参照されたい。

□民事法演習IIのユニット

[1] 代理の対外関係と内部関係
  ・代理権の濫用と権限踰越
  ・善管注意義務違反
  ・法人の代表者
  ・親権者の代理権濫用
  ・無権代理人の責任と不法行為責任
[2] 医療契約上の債務不履行
  ・注意義務違反
  ・結果との因果関係
  ・不法行為責任と契約責任
  ・損害賠償の範囲
  ・情報提供義務とインフォームド・コンセント
  ・専門家責任
[3] 給付物の瑕疵
  ・債務者の給付義務の範囲
  ・原始的瑕疵と後発的瑕疵
  ・追完可能な瑕疵と追完不能の瑕疵
  ・瑕疵担保責任の位置づけ
  ・商事売買と民事売買
  ・給付者の帰責事由
  ・損害賠償の可否・範囲と拡大損害
  ・錯誤による救済可能性との関係
[4] 不動産取引の保護 → 後掲モデル参照
[5] 運送契約上の物品事故
  ・運送業者の責任
  ・被用者の過失、履行補助者の過失
  ・約款による免責の可能性
  ・請求権競合
[6] 契約の成立過程における瑕疵
  ・古典的ルールとしての民法の原則
  ・契約的拘束からの解放可能性
  ・契約成立の諸態様
  ・非対面取引(とくにパソコンを介した取引)
[7] 重複填補と損益相殺・代位
  ・種々の保険給付(私的保険、社会保険等)が損害賠償請求権に及ぼす影響
  ・生命保険と損害保険
  ・重畳的に損害填補を受けることの可否−損益相殺による考慮
  ・同−保険代位による考慮
  ・労働災害と保険
[8] 保証人の弁済と求償権の行使、原債権の移転
  ・保証人による弁済と求償権の発生時期
  ・代位と原債権との関係
  ・物上保証人の地位
[9] プライバシー・日照権の侵害
  ・権利と権利の衝突
  ・保護法益としてのプライバシー・日照権
  ・差止請求の可否
[10]契約の無効・取消・解除と清算関係
  ・解除と不当利得
  ・受領物の返還
  ・無形的利益の返還
  ・利益の現存
  ・受益者の善意・悪意
  ・不当利得と不法行為
[11]離婚とその効果
  ・離婚の実体的要件
  ・離婚の法的手続
  ・離婚の効果
  ・財産分与と分与者の無資力
  ・仮装離婚
  ・未成年者の親権者決定
  ・幼児の引渡請求
[12]親子関係の存否と相続権
  ・嫡出否認の訴えと親子関係不存在確認の訴え
  ・前提問題としての親子関係の存否
  ・親族法における意思と事実
  ・詐欺・錯誤・強迫に基づく認知
[13]遺産の分割
  ・遺産分割協議と前提事実に関する錯誤
  ・遺産共有
  ・債務の共同相続
  ・負担付遺贈
  ・物権的帰属関係

□授業モデル=ユニット[4]

  以下の仮設事例と質問内容をあらかじめ配布し、それがどのような問題に関わっているか、事実関係の変化に応じてどのような法的観点が問題とされる必要があるかについて、受講生に準備させ、クラスにおいて主としてディスカッションの形式で授業を行う。
  受講生は、基礎科目における基本的知識を自ら確認しておくとともに、必要な限りで自ら文献・資料にあたって準備する。質問内容については、あらかじめ配布するものをこれらの一部に限定し、ディスカッションの中で、適宜質問を追加したり、バリエーションを用意しておく等の工夫を行い、あらかじめ暗記してきた「答え」を発表するというような結果に終わらないよう、とくに留意することが必要となる。

【出発点となる事例】
  Aは、土地甲の所有者であると称するBから、B名義で登記がなされている甲を買い受けた。Aが甲の占有を開始したところ、第三者Cは、Aに対し、甲の正当な所有者はCであると主張して、Aの立退を求めた。

【質問内容】
*  Aは、甲を買い受けるに際して、Bが正当な所有者であるかどうかをどのような方法によって確認することができるか。
*  Bが甲の所有者となった法律上の原因として、どのようなものが考えられるか(売買、贈与、時効取得、相続等)。
*  AがBから買い受けた時点で、Bが正当な所有者であった場合にも、Aは第三者Cからの権利主張を受けることがあるか。あるとすれば、それはどのような場合か。
*  また、Bが所有者であったことを前提として、Aはどのような事実があれば所有者となったといえるのか。この際、すでに代金が支払われた場合、代金の一部が支払われた場合、内金のみが支払われた場合、代金がまったく未払いの場合にそれぞれ相違があるか。
*  Cが自己の権利主張を行う事情として、どのような場合が考えられるか。
*  Aは、第三者の権利主張を防止するためには、どのような手段を講じることができたか。また、そのような手段を講じることは容易か。
*  Aが、甲の土地上に建物乙を建築していた場合にはどうか。この場合に、Cは建物の存在を認識しているといえるか。また、認識していた場合、認識していなかった場合に、それはCの行動にどのような影響を及ぼすと考えられるか。
*  甲の登記名義がBでありながら、Bが真正な権利者ではないという事態はどのような場合に生ずるか。
*  Aが、B名義の登記を信頼してBから甲を買い受けた場合に、Aは、その信頼を保護される可能性があるか。あるとすれば、それはどのような場合か。
*  Aの信頼が保護される場合に、事後の各当事者間の法律関係はどうなるか。反対に、Aの信頼が保護されない場合にはどうか。
*  以上のケースで、取引の対象が不動産ではなく動産であった場合にはどうなるか。

【テーマのねらい】
*  不動産取引に関連する諸制度を総合的に理解する。
*  対抗要件制度、公信と公示、無権利者からの権利取得の可能性等に関わる判例*学説の動向を正確に把握し、これを批判的に検討する。
*  内容が多岐にわたり、制度全般を理解しなければ各設問の意味するところが十分に把握できないことを受講生に体感させる。

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3−3−4.民事法演習V(民事裁判演習)(4単位)

[授業の内容・方法]
  民事手続法については、実体法と密接な関連性があり、実体法とともに授業を行った方が理解を得やすい項目(例えば、既判力、訴訟物、証明責任等)と、訴訟手続の流れに関連し、実体法との繋がりは相対的に薄く、むしろ手続の流れに即して教えた方が理解の深まる事項(争点整理手続、証拠調べ各論等)とがあるように思われる。本演習は、民事手続法のうち、相対的に実体法との関連性が薄く、手続全体の流れの中で理解することが期待される事項について、実務理論の基礎(弁護士倫理、要件事実、事実認定)を含めて対象とするものである(上記のような点については、3年次に実務科目として、より詳細な授業が展開されることを前提に、その入門としての意味を持たせる。特に実務的な部分については、適宜、実務家をゲスト講師として迎える)。すなわち、基礎科目である民事訴訟法において得られた基礎知識を前提に、3年次の実務科目及び研修所における実務教育に連続していくものとして、民事裁判の進行に対するより深い認識を与えることをその目的とする(他方、実体法との関連性の強い部分については、別途、実体法・手続法統合科目である民事法演習VIを用意する。3−3−5参照)。
  授業の方法としては、まず具体的な事件の訴訟記録一式を学生に与え、それについて毎回、関連する部分の文書を指摘して予習させてくる。これによって、学生はこれから学ぶ部分が訴訟手続においては具体的にはどのように現れるかを理解できる。各回、おおむねまず当該項目に関する基礎的な知識をリマインドすることから始めて、その後に、事前に設定しておいた設問について問答方式で行う。その場合の設問は、実務家が日常的に接するようなありふれたものでありながら、その解決について考え方が分かれうるようなものを抽出する。また、いくつかの対象では、学生を裁判所、原告、被告に分けて、役割を分担させ、ロールプレイイングゲームの要素を取り入れながら展開する(例えば、訴状の作成について、原告グループを中心としながら、それが被告から見るとどのように見えるか、裁判所から見るとどの点に注意を要するか等多様な視点を加えることで、重層的な見方を習得させるとともに、相互に議論させる。このような立場の相違を人工的に作り出すことは、議論の活性化を可能にしよう)。さらに、適宜、模擬的な争点整理や証人尋問等を行わせる。授業の最後には、当該項目と関連する一定の文書を作成させることとする(時間が十分に取れない場合には、この点を宿題とすることも考えられる)。この場合の文書作成は、実務教育が目標とするようなそのまま実務で使えるレベルのものではなく(したがって、準備書面などでも要件事実を踏まえたものである必要はなく)、そこで何がどのように記載されるか、そしてそれは何故そうなのかを理解する方法としての意味を持つものと考えられるべきであろう。

□民事法演習Vのユニット

  [1]導入−訴訟記録の解説
  [2]依頼者面談、代理権授与(ゲスト:弁護士)
  [3]弁護士倫理入門(ゲスト:弁護士)
  [4]訴状の作成(簡単な事件例を幾つか与え、グループごとに訴状を作成させる)
  [5]訴状に関する議論(各グループに分かれて前回作成した訴状の内容を議論)
  [6]送達(送達の実際上の問題点から手続保障の本質論)
    (ゲスト:裁判所書記官)
  [7]欠席の場合の処理
  [8]要件事実論入門1証明責任、主張責任、推定
  [9]要件事実論入門2要件事実の内容、請求原因・抗弁・再抗弁
  [10]準備書面の作成(簡単な事実を幾つか与え、グループごとに準備書面を作成させる)
  [11]準備書面に関する議論(各グループに分かれて前回作成した準備書面の内容を議論)
  [12]釈明
  [13]争点整理実習1弁論準備手続(ゲスト:裁判官)
  [14]争点整理実習2書面による準備手続(各グループから出させた準備書面を基に、電話会議システムを用いて争点整理を実習)(ゲスト:裁判官)
  [15]事実認定論入門1証拠法総論、事件の筋とすわり
  [16]事実認定論入門2経験則の役割
  [17]証拠の採否
  [18]書証の認否
  [19]和解実習(ゲスト:裁判官)
  [20]証人面談、陳述書の作成(ゲスト:弁護士)
  [21]証人尋問実習1(訴訟記録を基に、証人尋問の方法を議論)
  [22]証人尋問実習2(実際に模擬的な証人尋問を実習)
  [23]判決書の作成(簡単な事件例を幾つか与え、グループごとに判決書を作成させる)
  [24]判決書に関する議論(各グループに分かれて前回作成した判決書の内容を議論)
  [25]控訴状、控訴理由書、控訴判決書
  [26]上告受理申立書、上告受理申立理由書、上告判決書

□授業モデル1=ユニット[6](送達)

1  事前に、訴訟記録の送達報告関係部分の予習を指示。また、以下の事例を示して検討を指示
2まず、ゲストである裁判所書記官から、送達の実情、実際上困難な問題点等について解説。学生から質問等(40分)
3  次の事例について議論(30分)
「クレジット会社による立替金返還請求事件。訴状を郵便によって送達したところ、被告の妻が受領した。被告欠席のまま、原告勝訴の判決がされたところ、後になって実際にクレジットカードを使っていたのは被告の妻であり、被告は訴訟の存在を知らなかったことが判明。妻と離婚した被告は、前記欠席判決に対してどのような救済を求めることが可能か」
4  次に事例について議論(30分)
「クレジット会社による立替金返還請求事件。原告から、被告の住所には送達ができず、就業場所は不明である旨の上申書が出され、その結果、書留郵便に付する送達がされた。被告欠席のまま、原告勝訴の判決がされたところ、後になって実際には原告は被告の就業場所を調べれば調査することが可能であったことが判明。被告は、前記欠席判決に対してどのような救済を求めることが可能か」

□授業モデル2=ユニット[12](釈明)

1  事前に、訴訟記録の当事者の求釈明及び裁判所の期日外釈明書部分の予習を指示。以下の事例を示して検討を指示
2  まず、釈明の制度について、リマインドのための質疑(20分)
3  次の事例について議論(30分)
「兄Aから弟Bに対する土地所有権確認請求事件。ABともに第三者からの買い入れを主張。裁判官は、諸般の間接事実から、AB両人の父親であるCが右土地を買い入れた可能性があると考えた。そして、次回弁論準備期日の2週間前にAから提出された準備書面により、Cが既に死亡していることが明らかになった。裁判官は、右期日までの間に釈明を行うべきか。行うとした場合、釈明の内容・方法はどのようなものとなるか」
4  次の事例について議論(30分)
「貸金返還請求事件。弁済期から既に15年が経過していることが貸付契約書から明らか。被告は、貸金の成立を認めて、弁済の抗弁のみを主張する。しかし、領収書は提出されておらず、それが存在するかどうかは現段階では不明。被告が時効の抗弁を主張しない事情も明らかではない。裁判官としては、時効の抗弁について釈明をすべきか。裁判官が釈明をした場合に、原告としてはそれを争う方法はあるか」
5  学生に、上記から選択した事例について、具体的な釈明を文書にして作成させる(20分)


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3−3−5.民事法演習VI(実体法・手続法統合演習)(4単位)

[授業の内容・方法]
  本演習は、理論的教育と実務的教育とを架橋する法科大学院における授業として、一つの中核を占めるものと位置付けられる。ここでは、実務において最も日常的に発生する事件類型を題材とすることによって(実務技術の習得を条件として)すぐにでも実務で活動できる基盤を提供することを目的とする。実体法の関係では、ここで付与される知識はその一部に過ぎないが、日常実務の中では中核となるようなものが対象となる。他方、手続法の関係では、手続法固有の項目については民事裁判演習が別途提供されるが、実体法との関連が深い項目については、実体法と関連させながら、ここで理解させる。また、できるだけ詳細な生の事実を学生に示し、そこから法的問題を抽出させ、不足する事実を探求させることにより、生の事実から出発して自分の頭で考えさせる訓練も目的とする。
  授業の方法としては、各項目について、おおむね2回程度の授業を用意する(複雑な問題が含まれるものについては、3回程度の授業のものもありうる)。最初の授業の前提としては、事実の設例だけを提供し、それに基づいて法律問題を自分で考えてくることを求め、まず自分の頭で考える能力の育成を図る。そして、第1回の授業では、学生の間でフリーディスカッションをさせることで、他の者の考え方を理解し、様々な考え方を互いに建設的に批判をする方法を学ぶことを主眼とする。第2回においては、そのような議論に基づいて、必要な知識を十分に学ぶことを目的として、追加的な設例等を付与しながら、十分な予習を求める。授業においては、学生を指名し、答えられない者は適宜飛ばしながら、教官と学生との質疑・問答を中心として進めていく。そして、授業の最終段階では、やはり何らかの形で文書の作成を行わせるものとする。

□民事法演習Yのユニット

  [1]  導入
  [2][3]貸金返還請求事件
          (実体法:消費貸借、手続法:自白、相殺の抗弁、二重起訴)
  [4]-[6]保証債務履行請求事件
          (実体法:保証、時効、無権代理、手続法:擬制自白、共同訴訟、弁論分離、反射効、訴訟告知、同時審判共同訴訟)
  [7][8]立替金返還請求事件
          (実体法:求償権、手続法:合意管轄、移送)
  [9][10]売買代金請求事件
          (実体法:売買、行為能力、手続法:訴訟能力、法定代理)
  [11][12]建物収去土地明渡請求事件
          (実体法:賃貸借、借地借家法、手続法:既判力の時的限界)
  [13]  共有土地境界確定事件
          (実体法:共有、手続法:固有必要的共同訴訟、形式的形成訴訟、検証、不利益変更禁止)
  [14]-[15]抵当権登記抹消請求事件
          (実体法:抵当権、不動産登記法、手続法:訴訟物、争点効、意思表示義務の執行)
  [16][17]債権者代位事件
          (実体法:債権者代位権、手続法:訴訟担当、独立当事者参加、既判力の主観的範囲)
  [18][19]医療過誤事件
          (実体法:過失、手続法:訴訟物、鑑定、証拠保全)
  [20][21]不法行為事件:交通事故
          (実体法:自賠法、損害、手続法:当事者照会、一部請求、証明責任、訴訟物、損害額の認定)
  [22]-[24]不法行為事件:公害
          (実体法:因果関係、手続法:訴訟物の特定、当事者能力、選定当事者、将来給付の訴え、文書提出命令、証明度)
  [25]-[27]離婚事件
          (実体法:婚姻、離婚、手続法:訴訟物、弁論主義、形成訴訟)
  [28][29]親子関係確認事件
          (実体法:親子関係、手続法:職務上の当事者、確認の利益、補助参加、再審)

□授業モデル=ユニット[4]-[6](保証債務履行請求事件)

【設例】
  以下は、2001年4月1日、Aがある弁護士事務所を訪れた際に語った内容である。
  Aは資産家の息子であり、親の跡を継いで刃物製造の工場を経営している。Aには、やはり資産家の息子であり、高校時代からの友人であるBがいる。AとBの間では、家族ぐるみの交際があり、経済面でも、30年近くにわたりお互いに百万円単位の貸し借りを繰り返す間柄であった。その多くは事業資金であり、ABともに銀行嫌いであり、銀行から借り入れると、抵当権が付けられ父祖伝来の土地に傷がつくことを嫌がっていたため、なるべく仲間内で貸し借りして凌いでいた。これまでの貸借関係は、多少の遅れ等はあったものの、最終的にはすべてキチンと弁済されてきた。中でも、1985年には、Aの工場施設の拡張資金として、Bから1500万円の融資がされたが、2年後には完済されている。
  1987年になって、Bは、親譲りの酒屋をたたみ新たにコンビニを設立することを決意し、Aに相談した。当初は、Aも共同事業として開業する計画を練ったが、週刊誌等の記事でコンビニ経営に様々な問題があることを知ったAの妻が計画に強く反対した。結局、Aは共同事業の形をとらず、開業資金の一部を融資することとした。1988年1月20日、AはBに1500万円の金員を3年間貸し付ける旨の契約を締結した。
  Aが持参した書類の中には、1988年1月20日付けの金銭消費貸借契約書と題する書面があり、そこにはB名義の署名・捺印があった。それとともに、同日付けの連帯保証契約書と題する書面があり、そこにはC名義の署名・捺印があった。Cは、Bの妻Dの兄にあたる人物であり、医師としてDの実家の診療所を継いでいるという(若い頃に離婚して現在は独身で、子供もいないという)。
  Bのコンビニの経営は当初は順調であったが、開業2年目頃からBが病気がちになったこともあり、売上不振に陥り、資金繰りが悪化し、運転資金調達のために住居の土地建物等を抵当にして銀行等から借り入れをした。Aからの借入金についても、返済余裕資金はなく、1991年の返済期日が来ても返済できなかった。Aとしては古くからの友人であり、また病身でもあるところから、時々は催促したものの、Bに泣きつかれると強くは返済を迫ることはなく推移した。それには、Aの工場の経営が順調であり、特に緊急に手元資金を要する状況ではなかったこともある。
  しかし、最近になってAの方も工場の売上が落ちてきて、資金を必要とする状況が生じたので、保証人であるCに返済を頼んでみようとしてCに連絡をとった。すると、Cは、そのような保証をした覚えはないとして、保証債務の履行を拒否した。Cの保証をもらう際には、Aは全く関与せず、すべてBの方に任せきりであった(そもそもAがCに会ったのも今回が最初であった)。Cによると、「確かに昔、Dから話があり、Bがコンビニを開業するので、200万円の開業資金を必要とするので、保証人になってほしいという話はあった。自分は、保証人には決してならないという信条を持っているが、唯一の肉親であるDからの頼みでもあるので、無下にはできず、そうかそうかと言って聞いていたが、特に具体的な話にはならずに、そのままになってしまった。保証契約書などは見たこともない」ということであった。
  驚いてBのところに行くと、Bは入院しており、代わって身重のDがコンビニを経営していたので、Dに話を聞いた。Dによると、「十数年前に兄に話をしたとき、兄は確かに「よし、分かった」と言った。自分は兄から実印を預かり、財産の処分等について一部任されてきていた。というのも、両親が死んだときに、診療所を含めてその財産はすべて兄が相続し、自分は形見分け程度のものしかもらわなかったが、兄はそのことを気にしていたようで、自分の財産の管理をある程度任せてくれていたということである。そこで、自分が兄に代わって保証契約書に判子を押してもよいという委任を受けたと判断して、預かっている実印を契約書に押したものである。金額についても自分が書き入れたが、200万というふうに兄に話をしたかどうかは忘れてしまった」ということであった。
  そこで、Aとしては、貸付金を回収したいということであり、依頼を受けた弁護士としては、どのような方法によるかを検討していたところ、Aから入院していたBが死亡した旨の連絡があった。Bには、両親・妻Dのほか、未成年の子供が二人いるということであった。

【授業の進め方イメージ】
(1)  ユニット[4]
  1  事前には上記設例だけを学生に示しておき、問題点を考え予習してくるように指示。
  2  まず、どのような法的問題点があるかをフリーディスカッション(50分)
  3  次に、Aの弁護士としては、誰に対してどのような訴えを提起すべきかを検討させる(50分)
    ・  Dと子供二人に対する貸金返還請求(相続との関係、胎児の相続権・当事者能力、子供の訴訟上の扱い)
    ・  Cに対する保証債務履行請求
    ・  保証が無権代理の場合:Dに対する無権代理人の責任追及
    ・  上記の場合、C及びDに対して、同時審判請求の申出の可能性
  4  宿題として、参考判例・教科書等の参照個所を指示。考えられる当事者・請求の趣旨を文書としてまとめてくるように指示。

(2)  ユニット[5]
  1  まず、前回の復習を兼ねて、考えられる訴訟等について議論(20分)
  2  次に、訴訟の争点としてどのような法律問題が予想されるか、それに基づきAの代理人である弁護士はどのような準備をすべきかを議論(30分)
    ・  そもそも本当に貸金なのか(出資金として構成される可能性、その場合の法律問題)
    ・  保証書の真正について(二重の推定、実印の管理状況等)
    ・  保証契約の成立について:当事者間のやり取り(弁護士会照会・当事者照会の可能性)
    ・  代理構成がとられる場合に、代理権の授与の有無、表見代理成立の可能性 (立証責任の問題)
    ・  一部保証の成否(立証責任の問題)
  3  次の追加設例に基づき議論(25分)
    「AはCのみを提訴した。しかし、Cは、Bには、抵当に入っているコンビニや住居の土地建物以外にも、熱海に親譲りの別荘地があることを知っていた。Cから相談を受けた弁護士としては、どのような助言をすべきか」
    ・  検索の抗弁
    ・  Dらに対して訴訟告知(告知の手続、効果)
    ・  Dらに対する事前・事後求償権に基づく訴えの提起(提訴+弁論併合の申出、引き込み:訴訟告知と比較して議論)
    ・  財産保全措置:仮差押え、(Dの債権者からの保護)相続財産分離、相続財産破産
  4  次の追加設例に基づき議論(25分)
  「AはC及びDらを提訴した。Cが欠席した場合に、裁判所はどのようにすべきか。弁論を分離して判決した後、主債務が時効により消滅しているとしてDらに対する請求を棄却する判決を裁判所がしたとして、Cは自分に対する前の請求認容判決を争うことはできるか」
    ・  CDの両者を代理する場合の弁護士倫理の問題
    ・  弁論分離
    ・  保証債務の付従性
    ・  反射効
  5  宿題として、次回の追加設例を提示してその検討を指示。次回のDの課題について予め検討しておき、文章化できるように指示。

(3)  ユニット[6]
  1  次の訴訟中の追加設例に基づき議論(20分)
  「訴訟において、1997年3月と2001年2月に、それぞれ50万円の弁済をした旨の主張をDがした。このような主張はCの法的立場にどのような影響を与えるか。Cはそのような弁済の主張を否定することはできるか」
    ・  保証人による時効の援用
    ・  時効の中断と保証人
    ・  時効援用権の放棄と保証人
    ・  通常共同訴訟の効果
    ・  補助参加の可能性(共同訴訟的補助参加)
  2  次の訴訟中の追加設例に基づき議論(20分)
  「Dの当事者尋問の中で、かつてDがAと不倫の関係にあったことが判明した。Cはこの事実を自己の有利に援用できるか」
    ・  Bによる慰謝料債権による相殺の可能性
    ・  慰謝料債権の相続、Cによる相殺主張の権利濫用性
    ・  保証人による相殺権の行使
    ・  時機に後れた攻撃防御方法と相殺
  3  次の訴訟中の追加設例に基づき議論(15分)
  「訴訟係属中に、Cが交通事故で死亡した。訴訟関係にどのような影響を与えるか。Aとしてはどのような対応が考えられるか」
    ・  無権代理人による本人の相続
    ・  訴訟手続の中断(Cに弁護士がついている場合とついていない場合)
    ・  損害賠償債権に対するAの仮差押、債権者代位
  4  次の訴訟後の追加設例に基づき議論(15分)
  「Cは和解の結果、700万円をAに弁済した。その後、調査したところ、前記貸付金債権については、他に、Bの友人であるEとFも連帯保証をし、かつ、Fは自己の500万円の価値のある不動産に抵当権を設定していることが判明した。Cとしては、E・Fに対してどのような請求をすることが可能か。E・Fは、Cの保証が一部保証であったことを主張できるか」
    ・  共同保証の場合の求償権
6次の点について、弁護士としての助言を書面に書かせる(30分)
  「このような紛争の発生を防ぐために、貸金をしようとしているAから相談を受けた弁護士としては、どのような助言をすべきか」

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