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3−2−1−1.民法・基礎科目の編成

  上述のように、第1年次において修得すべき民法・基礎科目の単位数は、各法科大学院において、履修すべき総単位数をどの程度とするか、その中で民事法・基幹科目の内容や単位数をどの程度とするか等によって異なりうるが、本報告書で提示される具体的モデルでは、民法・基礎科目の単位数を12単位としている。
  この単位数は、現在の法学部においても民法科目の総単位数が概ね20単位程度に達していることを考慮すると、専門法律家の養成を使命とする法科大学院における基礎科目単位数としては少なすぎるという印象を与えるかもしれない。しかし、民法・基礎科目の単位数を12単位程度とするのは、次のような理由によるものである。第一に、学部教育においては、とくに低学年次における授業について、高校から大学への転換を図る必要があるところ、法科大学院生はすでに一定の専攻分野について学士を取得し、あるいはこれに準ずる資格を得ている者であり、導入教育の必要性という点で学部学生とは大きく異なるところがある。第二に、現在の法学部生の進路は多様であり、授業の履修についても関心の程度が各人により著しく異なっているのに対し、法科大学院は、まさに専門法律家となることを欲して入学した同質の集団であり、法律学の学習に対するモティベーションはきわめて高いと予想され、授業の密度もそれに応じて高まると考えられる。第三に、右の点とも関連して、受講者の予習・復習を前提とした授業が可能となり、法科大学院生の実質的な勉学時間数は、法学部における平均的な学生とは比較できないほどに多くなる。第四に、基礎科目と連携して基礎演習を開講することが予定され(後述)、授業内容の理解度をきめ細かくチェックするとともに、課題を与えることにより、種々の能力の育成が可能となる。第五に、第2年次において、民事法・基幹科目が設けられ、民法の基本的知識の体系的理解を前提とした応用的な授業が行われることにより、いわば重層的に民法の体系を学ぶことが可能となっている。
  それでは、この12単位をどのように編成するべきか。これにも種々の考え方がありえようが、たとえば、前期に8単位、後期に4単位の授業を行うこととし、これらを以下のような授業編成とすることが考えられる。

<第1年次・前期>
  ■民法1−財産法1
(4単位)〜契約法の一般理論を中心とした授業
  ■民法2−財産法2(4単位)〜契約の具体的な類型を中心とした授業

<第1年次・後期>
  ■民法3−財産法3
(2単位)〜不法行為法およびその他の法定債権関係
  ■民法4−家族法  (2単位)〜親族法・相続法

  この場合に、とくに前期の8単位については、4単位科目が二つ併行して行われるよりも、全体を8単位科目として前期の前半に民法1を、後半に民法2を行うことがより適切ではないかと考えられる。というのも、このような方法で前期8単位の民法・基礎科目を一体化することにより、法学未修者の理解の進度に応じた段階的な授業が可能となるからである(もっとも、この場合に、授業担当者を前半と後半で分けるといったことはありうるであろう)。これに対し、後期の2科目は、それぞれ独立性が高く、前期の授業を通じて得られた法的思考能力があれば、同時併行的に履修することにとくに支障がないと考えられる。
  以下、各科目の編成モデルを具体的に提示するが、授業は100分で行われ、4単位科目の場合、1ゼメスターで25回程度、2単位科目の場合、13回程度授業が行われることを前提としている。また、とくに民法1、民法2については、民法典の編別とは大きく異なったカリキュラム編成となっていることを考慮し、各回の授業(これを「ユニット」と表記)で取り上げられる主要な項目もあわせて掲げることとした。

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3−2−1−2.民法1の編成および授業ユニット

  民法1の編成、授業ユニットおよび授業モデルとして以下のものが考えられる。

  ■民法1−財産法1(4単位)〜契約法の一般理論を中心として

序章 民法入門 ユニット[1]
第1章 契約の成立 ユニット[2][3]
第2章 契約の当事者 ユニット[4]
第3章 契約の効力 ユニット[5]-[11]
第4章 契約の履行 ユニット[12]-[16]
第5章 契約に基づく権利の変動 ユニット[17]-[20]
第6章 契約に基づかない権利の変動 ユニット[21][22]
第7章 所有権およびその他の財産権 ユニット[23][24]
第8章 民法の基本原理 ユニット[25]

  □民法1のユニット

[1] 民法入門
・民法とはどのような法律か
・民法の歴史的背景
・民法典の体系的特色
・民法典に含まれない実質的民法規範の位置づけ
[2] 契約の成立
・契約とは何か
・契約と法律行為・意思表示
・契約の諸類型
・契約はいつ成立するか
・契約成立前の法律関係
・契約の拘束力
・契約成立後の事情変更(広義)
[3] 合意の内容
・契約当事者の意思による契約関係の形成
・当事者意思とその補充(推定的当事者意思、慣習、任意規定と強行規定、信義則等)
・契約の解釈
[4] 契約の当事者
・権利の主体
・自然人と法人
・権利能力と行為能力
・代理人による契約の締結
[5] 契約の有効性1−契約当事者の意思
・行為能力の制限
・能力の補充
・心裡留保と虚偽表示
[6] 契約の有効性2−錯誤
・錯誤とは何か
・錯誤の諸形態
・動機錯誤と性質錯誤
[7] 契約の有効性3−詐欺・強迫
・詐欺・強迫による取消
・違法性
・詐欺と錯誤の関係
・詐欺・強迫と消費者契約法4条
[8] 契約の有効性4−適法性と妥当性
・法律の規定と異なる合意の効力
・公序良俗違反
・消費者契約法8条以下の規定による無効
[9] 契約の有効性5−代理行為の効力1
・代理権の基礎となる法律関係
・有権代理と無権代理
・無権代理の法律関係
[10] 契約の有効性6−代理行為の効力2
・代理権の濫用
・表見代理制度
[11] 契約の無効・取消の効果
・契約当事者間における法律関係
・契約の無効と第三者の関係
・無権利者からの譲受人の法的地位
[12] 契約の履行1−債務内容の実現
・任意の履行
・弁済と同視しうる消滅原因
・履行強制
[13] 契約の履行2−履行障碍1
・契約締結前の履行不能
・契約締結後の履行不能
・履行不能と危険負担
・履行不能に基づく損害賠償
[14] 契約の履行3−履行障碍2
・履行期の到来
・履行の遅延と履行遅滞
・履行遅滞に基づく損害賠償
・主たる債務の不完全な履行
・その他の義務違反
[15] 契約の履行4−履行障碍3
・不履行の効果
・損害賠償
・契約の解除
[16] 契約の履行5−履行の確保1
・債務者の責任財産を維持する制度
・債権者代位権
・債権者取消権
[17] 契約に基づく権利の変動1−当事者間の法律関係
・契約の効果としての権利変動
・意思主義と形式主義
・所有権の移転
・その他の財産権の変動・移転
[18] 契約に基づく権利の変動2−第三者との法律関係1
・不動産取引における対抗要件主義
[19] 契約に基づく権利の変動3−第三者との法律関係2
・登記への信頼を保護する可能性
・動産取引における対抗要件主義
・動産取引における善意者保護制度
[20] 契約に基づく権利の変動4−債権の移転
・債権譲渡
・債務引受
・契約上の地位の移転
[21] 契約に基づかない権利の変動1
・権利変動の原因
・取得時効と消滅時効
[22] 契約に基づかない権利の変動2
・死亡による権利変動  →  相続法
・その他の変動原因
[23] 財産権1−所有権
・所有権の効力
・所有権の制限
[24] 財産権2−所有権以外の財産権
・制限物権
・債権(特定物債権、金銭債権、なす債務等)
・その他の財産権と保護法益
[25] 民法の基本原理
・信義則と権利濫用
・民法の体系再考
・民法解釈のあり方

□授業モデル1=ユニット[6](契約の有効性2−錯誤)

  あらかじめ、以下のような設例を配布し、教科書ないし参考書の該当部分(例えば、内田貴『民法I(第2版補訂版)』63頁−75頁、四宮=能見『民法総則(第5版)』187頁−201頁、山本敬三『民法講義I』153頁−194頁等)を事前に読むように指示し、錯誤に関する議論の状況をあらかじめ把握させるとともに、設例がどのように解決されるのか、解決されるべきなのかについても、各自準備するように指示する。その際、とくに留意させる点を以下のとおり掲げる。

【設例1】
1  Aは、事業者Bから郵送された通信販売のカタログに基づき、ネクタイ甲を購入する意思で、カタログ番号56番の商品を注文した。しかし、甲のカタログ番号は57番であったところ、Bは、Aの注文書に基づき、カタログ番号56番のネクタイ乙をAに請求書とともに送付した。この場合、A・Bの法律関係はどうなるか。
2  1において、Aの注文書に「カタログ番号56番の甲を注文する」旨の表記がなされていた場合にはどうなるか。

【設例2】
1  Aは、知人Bが婚約し、近々結婚する予定であると聞き、これを祝うためにCからワイングラスセット甲を購入し、これをBに贈与した。しかし、Bは、実際には婚約をしておらず、Aをからかうために虚偽の事実を伝えていたにすぎなかった。この場合、A・C間の法律関係はどうなるか。また、A・B間の法律関係はどうなるか。
2  1において、Aが甲を購入した時点ではBが婚約していたが、その後、Bが婚約を解消したという場合にはどうなるか。

【設例3】
1  Aは、Bが所有する絵画甲が著名な画家Xの真作であると信じて、5億円でこれを買い受けた。しかし、専門家の鑑定により、甲は巧妙な模写に過ぎないことが明らかとなった。A・B間の売買契約の効力はどうなるか。
2  1において、Aが甲を100万円で買い受けていた場合に相違が生ずるか。
3  1において、甲は、実際にXの真作であり、時価5億円と評価される絵画であったところ、A・Bは、ともに甲は後世の画家が模写したものであるとの前提で、100万円で売買契約が成立したという場合に、この契約の効力はどうなるか。

【留意点】
*  「錯誤」とはどのように定義されているか、その定義にはどのような問題があるか。
*  契約ないし法律行為の解釈と錯誤とはどのような関係に立つか。
*  錯誤はどのように分類されているか。その分類の仕方についてどのような議論があるか。とくに、表示行為の錯誤と動機の錯誤の関係について、どのような議論があるか。
*  動機の錯誤とは具体的にどのような場合を指すのか。物の性質に関する錯誤は、どのような類型の錯誤として捉えられるか。
*  表意者の錯誤主張が認められなかった場合、表意者はどのような不利益を受けるか。また、表意者の錯誤主張が認められると、相手方はいかなる不利益を受けるか。
*  立法論として、錯誤無効の主張を認めることについてどのように評価されるか。

  授業においては、最初に、教科書・参考書を読むだけでは理解が困難と思われる問題を中心に、ごく簡単に概括的な説明を行い、上掲設例について適宜受講生に質問し、その回答内容に応じて、設例を変化させ、あるいは上掲設例とは異なったケースを示して、その場で考えさせる。とくに教員の説明に際しても、随時受講者に質問を発し、受講者が説明を単に聞き流すことのないように工夫する。
  必要に応じて、授業終了時に、授業で取り上げた問題に関連する設例を課題として与え、レポートを提出させて基礎演習においてチェックする。

  授業終了後に、たとえば以下のようなレポート課題を与える。

【課題】
  Aは、交通の便の良い地域に分譲マンション甲を所有していたが、子供の成長などで甲が手狭になったことから、郊外にある分譲マンション乙の購入を計画し、乙の所有者Bとの間で乙の売買契約を締結した。この際、Aは、甲を売却して、その代金を乙の購入資金の一部に充てることとし、Cとの間で甲の売買契約を締結した。しかし、その後、Cが契約の効力を争い、代金を支払おうとしない。Aは、これを理由としてBとの売買契約の効力を争うことができるか。Bに対して、Cから受領する代金を、売買代金の一部に充てる旨を告げていた場合に相違が生ずるか。

□授業モデル2=ユニット[13](契約の履行2−履行障碍1)

  授業の方式は、ユニット[6]と同様である。設例として、たとえば以下のものをあらかじめ配布し、受講生に準備させる。その際、指示する留意事項として、たとえば以下の点を掲げる。

【設例1】
1  Aは、自己の所有動産甲をBに売却し、後日、代金の支払いと引換えに甲をBに引き渡すことが合意された。しかし、約定の期日が到来する前に、甲は第三者Cの過失によって滅失した。この場合、A・B間の契約はどうなるか。この場合に、CがAの従業員であった場合にはどうなるか。
2  1において、甲が動産ではなく、不動産であった場合にはどうなるか。
3  1において、甲がA・B間の契約締結時にすでに滅失していたという場合にはどうなるか。

【設例2】
1  Aは、自己の所有する分譲マンション甲を5000万円でBに売却した。A・B間において、Bは代金を3ヶ月後に支払い、Aはこの代金の受領と引換えに登記をBに移転することが合意されていたが、その後、甲の市場価格が上昇し、第三者Cは、A・B間の契約について事情を知らないまま、5500万円で甲を買いたいと申し入れ、Aはこれに基づいてCと売買契約を締結したうえ、代金の受領と引換えにCに登記を移転した。この場合、A・Bの法律関係はどうなるか。また、B・Cの法律関係はどうなるか。
2  1において、CがA・B間の契約の事情を知りながら、より高額の売買代金を申し出て契約を締結したという場合に、相違が生ずるか。
3  1において、Cへの売却後も、甲の価格が上昇している場合に、Bの損害額はどのように算定されるか。また、甲の価格が変動を繰り返している場合にはどうなるか。

【留意点】
*  双務契約における危険負担とはどのような問題か。
*  危険負担に関する民法のルールはどうなっているか、そのルールにはどのような問題点が存在するか。
*  動産・不動産によって相違が生ずるか。
*  二重譲渡の場合に、どの時点で履行が不能となるか。
*  第一買主は、第二買主の権利を争うことができるか。
*  また、第一買主は売主に対してどのような損害の賠償を求めることができるか。
*  損害賠償に際して、売買契約を解除することにはどのような意味があるか。

  授業においては、最初に、教科書・参考書を読むだけでは理解が困難と思われる問題を中心に、ごく簡単に概括的な説明を行い、上掲設例について適宜受講生に質問し、その回答内容に応じて、設例を変化させ、あるいは上掲設例とは異なったケースを示して、その場で考えさせる。とくに教員の説明に際しても、随時受講者に質問を発し、受講者が説明を単に聞き流すことのないように工夫する。
  必要に応じて、授業終了時に、授業で取り上げた問題に関連する設例を課題として与え、レポートを提出させて基礎演習においてチェックする。

  課題例については、省略。

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3−2−1−3.民法2の編成および授業ユニット

  ■民法2−財産法2(4単位)〜契約の具体的な類型を中心とした授業

第1章 契約の諸類型 ユニット[1]
第2章 有償契約類型
(1) 権利移転型契約−売買 ユニット[2]-[5]
(2) 利用型契約
  (ア)賃貸借契約 ユニット[6]-[8]
  (イ)利息付き消費貸借契約 ユニット[9]
(3) 役務提供型契約
  (ア)請負契約 ユニット[10][11]
  (イ)有償委任契約 ユニット[12]
(4) その他の契約類型(非典型契約を含む)
第3章 無償契約類型 ユニット[13]
(1) 贈与
(2) 使用貸借
(3) 無利息消費貸借
(4) 無償委任
(5) その他の無償契約
第4章 組合と団体 ユニット[14]-[16]
第5章 債権担保法
(1) 担保制度総説 ユニット[17]
(2) 物的担保
  (ア)抵当権 ユニット[17]-[19]
  (イ)不動産譲渡担保および
        その他の非典型担保 ユニット[20]
  (ウ)質権と動産譲渡担保 ユニット[21]
  (エ)留置権・先取特権・所有権留保 ユニット[22]
(3) 人的担保 ユニット[23][24]
(4) 相殺およびその他の担保制度 ユニット[24]
(5) 弁済による代位と求償 ユニット[25]

  □民法2のユニット

[1] 契約の諸類型
・典型契約と非典型契約
・双務契約と片務契約
・有償契約と無償契約
[2] 売買契約1
・双務有償契約の典型
・売買契約の成立
[3] 売買契約2
・売主の義務1
[4] 売買契約3
・売主の義務2
[5] 売買契約4
・買主の義務
・売買契約の諸類型
[6] 賃貸借契約1
・民法上の賃貸借
・賃借権と地上権
[7] 賃貸借契約2
・借地借家法1
[8] 賃貸借契約3
・借地借家法2
[9] 消費貸借契約
・消費貸借契約の成立
・期限の定め
・利息の規制
[10] 請負契約1
・請負とは
・請負契約の諸類型
・請負契約に共通する原則
[11] 請負契約2
・建築請負契約を中心として
・約款と民法上のルール
[12] 有償委任契約およびその他の契約類型
・有償委任契約
・委任と請負
・他の典型契約
・非典型契約
[13] 無償契約
・贈与
・使用貸借
・無利息消費貸借
・無償委任
[14] 組合と団体1
・民法上の組合
[15] 組合と団体2
・法人の諸態様
・法人格の意義
[16] 組合と団体3
・権利能力なき社団
・組合と共有
・建物の区分所有
[17] 担保制度総説+抵当権1
・平等弁済と優先弁済
・債務の履行を確保する制度概観
・物的担保と人的担保
・約定担保と法定担保
・抵当権制度概観
[18] 抵当権2
・抵当権の効力1
[19] 抵当権3
・抵当権の効力2
[20] 不動産譲渡担保およびその他の非典型担保
[21] 質権と動産譲渡担保
[22] 留置権・先取特権・所有権留保
[23] 人的担保1
・保証
・連帯保証
・身元保証
[24] 人的担保2+相殺その他の担保制度
・連帯債務
・重畳的債務引受
・相殺
・その他の担保制度
[25] 弁済による代位と求償
・第三者弁済と求償関係
・任意代位と法定代位

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3−2−1−4.民法3の編成および授業ユニット

  ■民法3−財産法3(2単位)〜不法行為法およびその他の法定債権関係

第1章 不法行為 ユニット[1]-[10]
第2章 不当利得 ユニット[11][12]
第3章 事務管理 ユニット[13]

  □民法3のユニット

[1] 不法行為法序説
・契約に基づく債権関係と法定債権関係
・不法行為制度概説
[2] 過失と権利侵害
[3] 因果関係
[4] 損害賠償の範囲と損害額の算定1
[5] 損害賠償の範囲と損害額の算定2
[6] 法定監督者責任、使用者責任
[7] 工作物責任
[8] 共同不法行為
[9] 特別法上の不法行為1
[10] 特別法上の不法行為2
・契約責任と不法行為責任
[11] 不当利得1
[12] 不当利得2
[13] 事務管理
・財産法の体系再論

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3−2−1−5.民法4の編成および授業ユニット

  ■民法4−家族法(2単位)〜親族法・相続法

第1章 家族法総説 ユニット[1]
第2章 親族法
(1) 親族法総説
(2) 夫婦 ユニット[2][3]
(3) 親子 ユニット[4]-[6]
(4) 後見・保佐・補助 ユニット[7]
(5) 扶養
第3章 相続法
(1) 相続法概説 ユニット[8]
(2) 法定相続 ユニット[8]-[11]
(3) 遺言による相続 ユニット[12][13]

  □民法4のユニット

[1] 家族法総説
・親族法総説
[2] 夫婦1−夫婦関係の成立と効力
[3] 夫婦2−夫婦関係の解消
[4] 親子1−親子関係の成立
[5] 親子2−親権
[6] 養親子関係
[7] 後見・保佐・補助
・扶養
[8] 相続法概説
・法定相続人
[9] 相続の効力1
[10] 相続の効力2
[11] 相続の承認・放棄
[12] 遺言1
[13] 遺言2

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3−2−1−6.民法・基礎演習

  基礎演習は、基礎科目に併設される演習であり、基礎科目の授業4回に1回程度開講される。基礎科目の授業で課される課題(3−2−1−2における授業モデル例1の末尾部分参照)を検討したり、小テストを行ったり、疑問点について質問を受けたりすることによって、1年次生の理解度をきめ細かくチェックするとともに、習得した知識を確実なものとすることができる。授業の担当者との連携は不可欠であるが、同一の教員が担当する必要は必ずしもないといえる。
  なお、この基礎演習は、民法・商法・民事訴訟法のような民事法科目に限らず、基礎科目に含まれる科目すべてについて、併設されることが望ましい。

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3−2−2.民事訴訟法・基礎科目

  ■民事訴訟法(1年後期・6単位)

[授業の内容・方法]
  基礎科目としての民事訴訟法は、手続の全体を一体的に教えて、手続の全体像を学生に把握させる点に重点を置くことをその目的とする(ソフトである手続の部分に対応するハードである裁判制度の部分については、1年前期に裁判制度論という形で授業を置くことが前提とされるが、これについては、刑事のカリキュラム案参照)。その主たる狙いは、実務家として必要となる手続の基礎知識を全体的に取得することにあり、調停や仮差押えを知らない実務家は本来ありえないところ、狭義の民事訴訟法に限定せず、広く民事手続を一通りカバーすることを重視したものである。この段階で、実体法と関連する事項の細部に踏み入ることは、学生の混乱を招くおそれが大きいので、その詳細は基幹科目としての民事法演習(3−3−3参照)に委ねる。この点で、実体法との関連性が相対的に薄いとされるアメリカの手続法の教育(通常ロースクールの冒頭で開講されるという)とは、相当に異なる配慮が日本では必要になると思われる。また、手続の流れの細部、特に実務的な部分については、やはり基幹科目としての民事裁判演習(3−3−3参照)に委ねる。したがって、民事訴訟法では、基礎知識の十分な習得を目標とし、その代りに狭義の訴訟法に止まらずに、実務において重要となるその前後の手続(調停等ADR手続、民事保全手続、民事執行手続等)についても、その概要を授業の対象に含めるものとする(なお、総単位数の関係で、民事訴訟法が4単位とする場合には、対象が判決手続の部分に限られることもやむをえないであろう)。
  授業方法は、体系的な基礎知識の定着・確認ということを目的とするため、学生の徹底した予習を前提にして、テキストを読めば分かる部分は大胆に省略し、書物だけでは理解が困難と見られる部分、誤解を生じやすい部分、基礎的事項で特に確かな理解を必要とする部分について、なるべく具体的な事例に即して、適宜学生に対する質問・学生の側からの質問も交えながら集中的に解説する。ここで重要なのは、単なる制度の知識ではなく、それが何故そうなっているかという理解を完全なものにすることである。このような理解があって始めて、知識が確かなものとして定着し、応用可能なものとなるものと考えられるからである。したがって、上記の解説では、特にその点に留意して制度の表面的な解説に止まらないようにする必要がある。そして、確実な知識習得を確認するため、基礎演習のほか、各回の授業の後半部分では、論文の読解、判例の読解等様々な資料に基づき、特に双方向性を中核とする時間を導入する。ただ、ここでは知識の確認定着が中心目的となるので、同様の資料を用いても基幹科目等とは異なる使い方になろう。

  □民事訴訟法・基礎科目のユニット

[1] はじめに、民事訴訟法とは何か、民事訴訟の目的
[2] 司法権の限界、訴訟と非訟、裁判を受ける権利
[3] ADR総論−ADRの歴史、理念、種類
[4] ADR各論−裁判外の和解(示談)、調停、仲裁
[5] 民事保全1保全命令の発令
[6] 民事保全2保全命令に対する不服申立
[7] 民事保全3保全執行、保全処分の効力
[8] 訴え1訴え提起の方式、送達、二重起訴
[9] 訴え2訴訟物
[10] 裁判所:管轄、移送、除斥等
[11] 当事者1:当事者確定、当事者能力、訴訟能力
[12] 当事者2:代理、訴訟担当
[13] 訴訟要件
[14] ADR弁論主義、釈明
[15] 口頭弁論の諸原則
[16] 準備書面、争点整理手続
[17] 訴訟行為、欠席、中断・中止
[18] 証明1自由心証主義、自白
[19] 証明2証明責任
[20] 証明3証人尋問、当事者尋問
[21] 証明4書証、鑑定、検証、証拠保全
[22] 和解、請求の放棄・認諾、取下げ
[23] 判決1判決の手続、既判力の客観的範囲
[24] 判決2既判力の時的限界・主観的範囲
[25] 複雑訴訟1訴えの併合、訴えの変更、反訴
[26] 複雑訴訟2共同訴訟
[27] 複雑訴訟3訴訟参加
[28] 複雑訴訟4訴訟承継
[29] 控訴
[30] 上告・上告受理
[31] 抗告、再審
[32] 少額訴訟、手形・小切手訴訟、督促手続
[33] 強制執行1債務名義、執行文
[34] 強制執行2不動産執行(差押え、売却準備)
[35] 強制執行3不動産執行(売却、引渡命令、配当)
[36] 強制執行4動産執行
[37] 強制執行5債権執行
[38] 強制執行6非金銭執行
[39] 強制執行7執行手続における不服申立て

  □授業モデル1=ユニット[3](ADR総論)

1   ADRの総論に関する解説・質疑(50分)
・  ADRの歴史(概観)、ADRの理念(中心的に解説)、ADRの種類(調停と仲裁の区分等基礎的部分を確認)
2   論文の読解(50分)
  参考文献:田中成明・現代社会と裁判第3章、加藤新太郎ほか「民事司法の機能の現状と課題」判タ1027号22頁以下
・  参考文献について、事前に指示して予習させておく。
・  教師から、上記講義に即して、論文の該当部分を指摘して内容の説明を求め、また意見を言わせる。また、学生の間で討論をさせる。
3   宿題として、下記の問題についての意見を書かせる(基礎演習における議論・添削)。
  「裁判とADRの機能の適切な分担のあり方」

  □授業モデル2=ユニット[4](ADR各論)

1   ADRの各論に関する解説・質疑(50分)
・  民事調停・特定調停、仲裁(片面仲裁、国際仲裁)
2   個別のADR機関の規則について検討(50分)
  民事調停規則、弁護士会仲裁センター規則、日本商品先物取引協会紛争処理規程等を題材にあるべきADRの手続ルールについて考えさせる。
・  予め上記参考資料を配布して予習させておく。
・  教師から、上記規則等の相違部分・共通部分等について質問し、その理由等について考えさせる。
3   宿題として、下記の問題についての意見を書かせる(基礎演習における議論・添削)。
  「ADRのルールとして必要な項目およびその内容」

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