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3−1.カリキュラムの全体像

  法科大学院は、原則として3年間で法曹養成のための専門教育を行う機関であり、したがって、そのカリキュラムも、3年間で完結的な内容となることが前提となる。もっとも、いわゆる法学既修者については、一定の要件の下で修業年限を短縮し、あるいは一定科目の履修免除が認められるという可能性があるが、ここでは、法学未修者について3年間でどのような民事法系のカリキュラムが提供されることになるかを述べることとする。
  現在の法学部教育においては、たとえば法学部生はある日の1限から4限まですべての授業を履修するということも少なくない。しかし、このような履修の仕方は、必然的に授業時間以外にその科目の予習・復習にかける時間が少なくなることを意味する。これは、学部の授業の履修の仕方としても大いに問題のあるところであるが、とりわけ、法科大学院における授業のあり方、すなわち、受講者の十分な予習・復習を前提とした主体的・能動的な授業参加を前提とすると、そのような履修は実際上不可能であり、1日につき、通常は2科目程度、例外的に3科目というのがせいぜいのところであろう。そうすると、比較を容易にするために従来の単位計算方法を用い、またゼメスター制を前提とすると、各学期につき20単位程度、1年間で40単位程度の授業の履修が相当と考えられる。
  また、法律学の体系が段階的・発展的な性格を有することを考慮すると、第1年次においては、基礎的な法分野に関する基本的知識の体系的理解が主要な教育目標となる。ついで第2年次においては、第1年次において得られた基本的な法的思考能力(法的にものを考える能力)を前提として、各基本法分野におけるより高度の専門知識の理解・習得と、個々の法分野を超えた総合的な法的分析能力の育成に主眼が置かれるべきである。この際、事実を法的に把握する能力の育成についても、とくに配慮することが必要である。さらに、第3年次においては、各人の必要に応じて、幅広い分野の先端的・応用的科目および、司法研修所における実務修習の基礎となるべき実務教育科目(法曹倫理科目、模擬裁判、要件事実論の基礎等)の履修が中心となり、このようにして、3年間の法科大学院専門教育を経た者は、将来実務法律家となるにふさわしい能力を身につけることができると考えられる。ただし、実務に関連する教育は、狭義の実務教育科目に限られるものではなく、とくに第2年次における諸科目において、理論と実務の接合を常に意識したカリキュラムを策定することが肝要である。
  検討会議のとりまとめた「検討のまとめ」においては、法科大学院における授業科目が7群に分けられているが、これを民事法系のカリキュラムに即してみれば、1年次においては「基礎科目」が、2年次においては「基幹科目」および一部の先端的・現代的分野科目等(以下、便宜上、展開科目と呼ぶ)が、3年次においては、主として展開科目が履修されるべき科目となる。したがって、基礎科目において基本的な法的思考能力の育成が、基幹科目においてより高度の法的分析能力の育成が目指されることになるが、これらは、いわば民事法系カリキュラムのコアをなす必修科目であり、将来実務法律家になろうとする者はすべてこれらを履修し、その内容を理解していることが必要である。これに対し、展開科目は選択科目として、各人がそれぞれの必要にしたがって履修することになるが、履修の必要度は必ずしも一様ではなく、たとえば、ある展開科目は、必修科目ではないが履修することが望ましい科目とされ、他の展開科目は、将来一定の法分野をとくに専門的に取り扱おうとする者にとって有用な科目とされることもありえよう。
  このような考え方に立って、民事法のカリキュラムの全体プログラムは、大要、以下のような案が考えられる。

       1年次 基礎科目 民法
商法
民事訴訟法
12単位〜14単位
  6単位〜8単位
  4単位〜6単位
       2年次 基幹科目 民事法演習I
民事法演習II
民事法演習III
民事法演習IV
民事法演習V
民事法演習VI
(民事判例演習)
(民事事例演習1)
(民事事例演習2)
(民事事例演習3)
(民事裁判演習)
(実体法・手続法統合演習)
2単位
2単位
2単位
2単位
4単位
4単位
       3年次 展開科目 (選択科目)
具体例として、「倒産法」および「消費者法」
(科目により2〜4単位)

  これらの具体的内容と単位数の設定については、3−2以下において一つの具体的モデルを提示するが、あらかじめいくつかの点を指摘しておきたい。
  第一に、広範囲にわたる民事法系の分野をどのように科目に割り振り、どの程度の単位数とするか、個々の授業科目にどのような内容を盛り込み、どのような方法で行うか等については、多様な考え方がありうることはいうまでもない。本報告書の提示するカリキュラム案も、その一つの可能性にとどまるものである。
  第二に、研究会メンバーの主たる専攻分野が、民法および民事手続法であることから、具体的なモデルについては、これら両分野を主たる検討の対象としており、商法分野について具体的な授業計画や授業モデルを掲げてはいない。しかし、とくに基幹科目や展開科目では、民法・商法さらには手続法が一体的に取り扱われることが少なくない。民法演習、商法演習、民事訴訟法演習といった個別分野を示す科目表記を避け、「民事法演習」と名付けたのは、この理由によっている。
  第三に、展開科目の例は種々に考えられるが、倒産法は、実体法と手続法の融合した分野として応用科目にふさわしいこと、また、消費者法は、民事法の枠を超えて経済法や公法にも及ぶ多様な法的問題を広く包含するものであることから、それぞれ、展開科目の典型例として取り上げ、具体的モデルを示すこととした。

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