21世紀の大学を考える懇談会(第3回) 議事録

1  日時

  平成13年1月31日(水)10時00分〜13時00分

2  場所

  霞ヶ関東京會舘ゴールドスタールーム

3  出席者

(委員)

吉川弘之(座長),阿部博之,石弘光,大沼淳,荻上紘一,岸本忠三,黒田壽二,小林俊一,小林陽太郎,遠山敦子,鳥居泰彦,野中ともよ,蓮實重彦,廣中平祐,山崎正和  の各委員

(文部省)

町村文部科学大臣,大野副大臣,河村副大臣,小野事務次官,工藤高等教育局長,大熊科学技術・学術政策局長,遠藤研究振興局長,坂田研究振興局審議官,木谷高等教育企画課長,泉振興企画課長他

4  議事

  • (1)町村文部科学大臣からあいさつがあり、省庁再編に併せ審議会が再編されたことを踏まえ、本懇談会の在り方についても今後検討する旨、発言があった。
  • (2)事務局から初参加の委員の紹介があった。
  • (3)阿部委員,石委員からそれぞれ意見発表があったのち,自由討議を行った。

【阿部博之委員の意見発表の概要】

発表事項:「21世紀の大学-国際的に魅力のある大学-について」

1.今後の四半世紀に向けての大学改革の視点
  •   大学改革は国の中長期的戦略の一環であるが、それが必ずしも明瞭でない日本において大学の理想像をどう考えていくかが課題。人類の幸福と持続的発展のため、という意識は大切であるが、大学改革の視点としてはかなり抽象的であり、もう少し具体的に考えることが必要。
  •   学術研究と教育は、一国の競争力であり、基礎体力そのものであるが、日本はそのような認識が希薄。日本の有力大学とアジアの有力大学の相対位置は、今の延長線上でいけば、10年後の逆転が明白。
  •   大学の存在価値は、学術文化の研究及びその教育において一国の競争力に資するところにある。世界中から優秀な人材が集まるよう、海外から見た魅力を重視して大学の整備を行うことが必要。
  •   日本の大学と海外の大学との相違点として組織力の差があり、日本は特に、支援体制、事務体制の充実と経営力強化を図って行くべき。国内事情第一の改革から脱却すべきであり、アメリカンスタンダードにも十分対応できる組織力を持つ大学でなければならない。一方、欧米のものまねでは、魅力的でない。
  •   2025年までには、国際的に魅力のある大学を整備しないと日本は衰退すると考えるべき。
2.教育、研究の面から
  •   海外から見て魅力ある大学であるためには第一に教員が輝いている必要がある。そのため、大学内の国際的競争環境の強化が必要であり、優れた外国人教員を全教員のうち20%程度とすることを目標とすべき。待遇面、研究スペース等の抜本的整備を急ぐ必要がある。ポストが開かれていることも必要。
  •   研究拠点を形成することは効率的であるが、単一拠点とするのではなく、競争のため、少なくとも数大学に形成が必要。また、研究(重点型)大学院は国公私全体で30位は必要ではないか。そこでは、研究者養成のみならず、様々な専門家の育成も行う。
  •   評価システムについては、国際的に評価されるシステムが望まれる。研究論文の引用数だけを重視するのではなく、若手研究者が全く新しい分野の開拓、人のやらない分野の開拓に臆病にならないよう、多様性に留意すべきである。
  •   大学生、大学院生の競争相手は実は海外の学生たちであり、このような意識の涵養が望まれる。併せて学生の自立心の回復も必要。また、Ph.D取得者が研究開発マネジメントや行政の仕事にも従事できるよう進路開拓を図る必要がある。21世紀型の課題の解決には、複数の博士を取得した専門家が必要だと考える。
  •   日本が先進国の一員としての責務を全うしていくためには、大学が未来についての枠組みの創出と提案の役割を果たすことが不可欠。
3.その他
  •   米国の競争力の変化と世界の多極分散化、学術研究の"controversial public debate"(生活に科学が入り込んでくるため、様々な最終決定に市民が加わってくること)の活発化、国民国家の大幅変質ないし事実上の崩壊などに対して大学がどれだけ存在感のある役割を果たすことができるか、これらが大学の魅力につながる。
  •   研究重視型大学の抜本的整備なくして、魅力のある大学を持つ国になることはあり得ない。

【石 弘光 委員の意見発表の概要】

発表事項:「日本の大学と国際競争力  社会科学系大学の視点から」

1.現状認識
  •   大学は非競争原理が貫徹しており、国際競争力に欠ける。社会科学分野は一刀両断に研究の良し悪しがいえない部分がある。また、個人経営的な部分があり、組織化されておらず、研究費獲得の理由となるインセンティブもない。
  •   その原因は、学内外の護送船団方式である。愚者には楽園だが賢者には犠牲を強いてきている。やる気のある人の芽を出させる制度的な仕組みがない。今は、大学人としてのモラルによって頑張っているのが事実。
  •   国際的な人事交流が必要であるが、日本語のできない優秀な外国人が日本に来るかとか、英語で講義をしてどれだけ学生がついてくるかという問題もある。
  •   これらの背後にあるヒト、カネ、モノの問題を改善しないと国際競争力のなさを克服できないだろうと考える。
2.人材育成の課題--ヒトの問題
  •   大学院重点化の早急なフォローアップが必要ではないか。学生数は増えたがスタッフも事務局も建物も増えていない。従って大学院の質も低下したのではないか。学部の単位が取れないのではないかとさえ思えるような大学院生も存在する。講義負担増で教員も苦しんでいる。
  •   文科系は博士号取得がネックになっている。国内で頑張ってもなかなか博士号が取得できない。従って、意欲のある人は欧米の大学に留学させ、しっかりした大学院教育の下で博士号を取らせて、スタッフとして迎えるということをしている。
  •   また、欧米のPh.Dに優位性があるといわれるが、それは、欧米ではしっかりした大学院プログラムを持っているからである。日本ではゼミ制を取っており、昔型の教育をまだやっている。
  •   大学院は学生数が増え大衆化したが、一方で、大学院の研究志向的なムードがずいぶん変わってきた。研究に参加し、国際的にも活躍できる人材を発掘していかないと大衆化におぼれてしまう。特別な奨学金制度など考えて行くべき。
3.研究資金及び施設の確保--カネとモノの問題
  •   外部資金を導入してはいるが、まだ使い勝手がよくない。
  •   予算面での文教科学費の低さをどうするかが大きな課題。政府研究開発投資の計画で24兆円(平成13〜17年度)といわれるが、これは各省の既存枠の合計であり、どれだけ新規プロジェクトや新しい人材の育成に使われるかは疑問である。この計画によって、削減を回避できたものがあるということや、前回(8〜12年度)に比し4.5兆円増えたことは評価できるが、補正予算を含めた金額でもあり、どう評価するかは難しい。
  •   24兆円の予算化という点では、各省の積み上げでその金額になるかどうか疑問。教育も聖域ではなく、特別に優先度が高いわけでもない。文教施設の拡充や科学技術の投資を社会的インフラの視点から世に訴え、世論を味方にしないと難しい。
4.大学及び教員の種別化
  •   大学、教員組織をどうするかという問題があるが、大学や教員の種別化を図るしかないだろう。今後、市場原理で自然にそうなると思う。
  •   現在、教員は、教育、研究、学内行政の三重苦によって良い面が伸ばせないでいる。アメリカのように40歳くらいでどれか1つ特技を生かす方向に進むがよいのでないか。定年まで3つを与えつつ、実際はどれもさぼっているという現状は問題。

【委員】

  大学の質の維持という観点で、研究にも教育にも問題がある不適任者には、指導を行っていくべきではないか。制度的に仕組みを作り、学長にその権限を与えるということも一つの考え方ではないか。
  大学の人文社会系について最大の問題は、知的発信力が著しく乏しいことである。文科系に必要な専門的能力が高くかつインターディシプリナリー(学際的な)な視野のある人を育てる仕組みがない。
  また、経済産業省のIT関係ソフト開発者の発掘事業のように、プロジェクトマネージャーが相当の裁量権を持って研究費を配り研究組織を作っていける仕組みができればよい。

【委員】

  国際的に魅力のある大学を創出していくべきとの提言に賛同する。今の大学院生が教授になるであろう20年後に国際的に評価されうる大学が全体の5%はあってほしいと思う。そのための方策を大胆に集中的に講ずることが大切だ。
  また、大学教育のことは中央教育審議会大学分科会、学術研究のことは科学技術・学術審議会と、分ければ綿密な議論をすることができるが、トータルな日本の大学の方向性を決めるような議論もしばらく必要ではないか。

【委員】

  研究と教育では視点を変えて考える必要がある。研究は、実力のある優秀な人を集めて重点的に行うことも大事だが、特定大学について大学院も重点化し、かつ学部も充実するといった方法を今後も進めていけば、戦後の高等教育におけるすそ野の全国的な広がりを崩してしまうことになるのではないか。
  一方、教育は、特に学部レベルについては必ずしも都市部の大学で集約的にやれば良いものができるとは限らない。国全体へ分散して行うべきである。教育、研究、雑務それぞれをいいわけにして何もしない教員がいるが、特に教育については、例えば遠隔講義を行い、誰からも広く見られるような形にすべき。そしてその遠隔講義が他大学で講義として採用されたら、報酬をあげるなど、はっきりしたインセンティブを与えるべきである。

【委員】

  理科系の研究面で国際競争力の向上は、教員種別化抜きには成立しない。研究を行う人と教育を行う人の二種類の教員に分けるべきである。大学も大学院中心の大学と学部中心の大学とにすべき。その際には、大学から大学院への進学段階などで学生に流動性を充分に持たせ、学生が混ざり合うことが必要。混ざり合うことで、自然に比較が起こり、競争も評価もうまくいくようになる。

【委員】

  世界トップ5の大学を挙げ、研究、組織、資金等について、それらの大学と日本の大学にどれだけの差があるのか明らかにすることが大事。
  また、生み出した人材をどう評価するのか、どういう人たちを生み出そうとしているのか。シビリティー(礼節)やキャラクター(品性)のことが自然に念頭におかれないようでは、スキルの上でレベルが高くても世界で通用しない。アウトプットをしっかりすべき。
  日本のトップ10%の大学を世界のトップ10%の大学と同じレベルにもっていくこと、次は、トップ30%の大学を世界に通用するものとすることについて、どうすればできるのかを考えるべき。企業が過去20年に海外の大学に出した金を日本の大学に出していれば大分違ったのではないか。税制の問題もあるが、何のために日本の大学に投資が必要なのかということについて、企業と大学との合意ができていなかったのではないか。
  10%、30%を世界と同じレベルにするには何が必要であるかといった合意ができれば、かなり具体的な動きが企業からも出てくるのではないか。

【委員】

  「世界一流大学」という言葉の使用をやめるべき。ハーバードやスタンフォードと比較できる大学は、資金面でも経営方針でも、日本に限らず他にもない。比肩は間違いだと思う。途方もない資金を持つ大学とは別の大学を作る必要があると思っている。また、教育大学と研究大学の種別化は必要だが、インセンティブなしでは非常に難しいと思う。

【委員】

  教育問題としてだけで議論するのでなく、国の戦略的な政策の中で教育はどういう位置付けになるのかという視点が必要ではないか。国の政策が出てきたときに教育はどういうミッションを持つのかを考えたときに大学のあるべき姿が出てくるのではないか。こういう視点を持った議論の場が必要ではないか。

【委員】

  戦後、経済発展という国の目指してきた方向に教育システムがかなり寄与してきたと思うが、それが機能不全を起こしている状況だと思う。具体的にこれまであったパラダイムのどこが悪かったかを頭に置きつつ、今までのシステムにあてはめて作られた審議会とは異なる形の議論の場が必要である。

【委員】

  未来についての枠組みの創出と提案を大学が行っていくべきではないか。専門なり知性の立場からの具体的な提案を大学がやらなければならない。

【委員】

  科学の影響力の増大で、未来の枠組みは学者自身が考えなければ他の人間にはわからないという状況の中での大学改革は、制度面だけでなく、学術と社会の関係といった視点が必要である。また、例えば教員にどうシビリティーをもたせるか、というようなことについては、時間をかけて成していくメカニズムが必要だが、その際、国が教員の評価を行うといったことはもはやすべきではなく、おそらく、国の側にはそのようなことが大学の側で自然発生的に、進化論的に起こる仕組みを提供する責任があるのであって、それは、各大学が競争的環境の延長上に、最終的に国際的に教育研究で太刀打ちできるような、いわばワールドクラスの仕組みを作らなければならないということに他ならない。そのためには、各学長は、日本は将来何をしようとしているのか、世界にどう貢献していこうとしているのか、ということを考える中で山積している問題に取り組んでいかなければならないわけだが、個別具体にいろいろな問題点は分かっているものの、それらをシステマティックに描いたものがなく、トータルに描いたポリシーがほしいところである。

【委員】

  研究の問題については、科研費の見直しを行うべき。特に文科系については総量を増やす必要はないと思うが、科研費に重点を置き、講座当たりで配分されるような研究費はむしろ減らすべき。学内で穏当に配分するのではなく、プロジェクトマネージャーが内容にわたるイニシアチブをとり、明確な意志を持ってその時々のプロジェクトを行えるよう、科研費を機動的に使用できるようにしてほしい。

【委員】

  国際的な事象についても敏感になるべきある。米国の研究予算が昨年比15%増ということについて、誰も言及がない。それに触れずに日本の研究予算の総額の話だけをしており、議論の具体性が欠如している。なぜ突然そんなに増えたのか分析すべき。そういったことをしないことが、日本の大学問題から具体性を奪い、抽象的、精神的にしているのではないか。

【委員】

  では、大学教育システムについて、具体的にどこをどう変えた方がいいと思っているのか。

【委員】

  年齢、性別、国籍の構成の幅をひろげ、比率を変えるべきだと思っている。その比率を変えるだけで大学は非常に変わる。法律を変えなくてもできるやり方を実行していけば、ずいぶん大学を変えられるのではないかと思う。

【委員】

  出席者の誰もが現状がいいとは言わず、変わるべきという。しかも変えることが難しいという。新しい大学をつくってみたらどうかという気がする。24兆円もあれば英知を集め新しいモデル大学ができるのではないか。

【委員】

  バーチャル大学であれば、現実にできるのではないか。

【委員】

  アジア諸国では新しい大学を作って成功している。我々は新しい大学を作りそびれている。作りそびれながら国際的競争力を持てないというのは、文部科学省が悪いのではないか。世界的な大学を1つ作るべき。

【委員】

  日本の大学にもいいところはある。資源はいろいろあるが、トータルマネジメントが欠落している。それについての社会的評価がないために資源が生かされていない。

【委員】

  世界的なモデル大学を作るといった試みには企業も積極的な協力をできるのではないかと思う。どのレベルをベンチマークにしてモデル大学を作るのか。また、具体的に大学を作るには何が必要なのか。

【委員】

  日本の大学の抱える問題は、時代に合わない分野を守っている学者集団がいて、教育と称して学生に押しつけていることであり、これらを直す必要がある。また、解体すべきものは解体すればよく、そのかわりに新しい大学を作ればよい。新しい構想で大学や学部を作ることには、制度的には障害はない。新しいものを提案しても学内でつぶされることこそ問題。また、エデュケーション=教育と訳したのは森有礼だが、福沢諭吉は人間開発ではないかといった。米国人の感じる「エデュケーション」と教育とは違うのではないか。教えるところからはじまっても、内発的に開発されるものの比率が高まってくるのがエデュケーションなのではないか。日本の「教育」は教えたことを覚えているかどうかを最後にためす、という形になっている。この違いは大きい。

【委員】

  日本の大学は金がないといわれるが、なぜなのか。

【委員】

  日本の大学が貧しくて不自由だとは思わないが、金の使いかたがまずい。また、自己資金の問題がある。米国の大学は自己資金を持っている。日本の大学はそれを作ることを本気で考えていなかった。税制の問題だけでなく、自己資金を作ることを良しとしなかった雰囲気がある。

【委員】

  税制の問題があるとよく言われるが、寄附をしないという国民性の問題もある。国立大学にはこれまで寄附は必要なかった。しかし、これからは恒常的なパイプを作って集めるのが学長の仕事になるだろう。外部資金をいかに調達するかが決め手になってくる。

【委員】

  我が国では、研究はただでやるものだという思想がある。たとえば、財団で研究を委託して金を出す場合、研究業務に対して報酬を出すことが認められていない。研究実費についてしか出せないという制度的な問題がある。

【委員】

  新しい大学を作る試みについて具体的に取り組んでいただきたい。年齢・性別・国籍の話が出たが、これらの問題も抜本的に打破することまで考えた、懇談会や検討会を作ればどうか。

【委員】

  直近の問題として国立大学の独立行政法人化というチャンスををどうとらえ、長期的なものの1ステップにするのかということが緊急の問題であり大学人はそれを考える責任がある。したがって、このような問題を考えていくことができる場は必要である。

【事務局】

  本懇談会はこれで終わりとは考えていない。別の形で整理したい。

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高等教育局高等教育企画課

-- 登録:平成21年以前 --