国際協力推進会議(平成24年度)(第4回) 議事録

1.日時

平成25年2月15日(金曜日)16時00分~18時00分

2.場所

文部科学省1特別会議室

3.議題

  1. 南米諸国との国際教育協力に関する審議のまとめ(案)について

4.出席者

委員

木村座長、井上副座長、内田委員、江原委員、大野委員、岡本委員、桜井委員、讃井委員、田中委員、冨澤委員

文部科学省

森口文部科学事務次官、加藤国際統括官、永山国際課長 外

オブザーバー

(外務省) 狩俣国際協力局地球規模課題総括課企画官、梶本中南米局南米課課長補佐 外
(経済産業省) 田村通商政策局米州課中南米室長 外
(独立行政法人国際協力機構) 亀井人間開発部基礎教育第一課長

5.議事録

○審議に入る前に、本会議の委員の一人が所属している日揮株式会社の社員及び関係者が被害を受けたアルジェリア人質事件について、木村座長から哀悼の意が表され、全員で黙祷(もくとう)を行った。

○南米諸国との国際教育協力に関する審議のまとめ(案)について、事務局から参考資料に基づき説明があった後、自由討議が行われた。

<事務局説明>

【犬塚国際課企画調整室長】  本まとめ(案)については、これまでに審議いただいた内容をもとに、事務局で整理した素案について、各委員、オブザーバーから意見を頂き、取りまとめた。去年まとめられたものは、国際協力推進会議中間報告書だが、今回は、特に南米諸国との国際教育協力に焦点を絞った審議のまとめなので、内容に即して、題名も「南米諸国との国際教育協力に関する審議のまとめ」とした。
 目次は、「はじめに」、「2.南米諸国の概要」、「3.日本と南米諸国間の教育交流の重要性」、「4.今後の推進方策」、「(1)基本的な考え方」、「(2)初等中等教育段階」、「(3)高等教育段階」、「(4)産業人材育成」、「おわりに」という構成になっている。
 「1.はじめに」では、資源や市場の確保等我が国との互恵関係の構築、充実が期待される国々からの要請に応え、戦略的に国際教育協力を進めることは、国際社会における我が国のプレゼンスを強化し、それらの国々との持続的な協力・連携関係の基盤を形成する観点から極めて重要であることを述べた。BRICSの一角として急速な経済成長を続けるブラジルを含む南米に焦点を当てるため、国際協力推進会議のもとに南米ワーキンググループを設けて、産学官の南米に造詣が深い有識者による対南米協力の現状と課題と抽出し、オールジャパンでの戦略的な国際教育協力の実施の必要性について審議いただいた。
 本報告書(案)については、大所高所からの国際戦略の展開という観点から、今後の推進方策を取りまとめたものという位置づけである。
 「2.南米諸国の概要」「(1)地政学的概要」についてだが、南米の独立国は12か国である。また世界で最も多くの日系人を有する地域として、親日派も多い地域である。
 「(2)経済の概要」についてだが、南米諸国は、1980年代の失われた10年と呼ばれる経済危機を経て、新自由主義的経済に大きく舵(かじ)を切り、同時に軍事政権下から次々に民主化を達成、1990年代からは政治の刷新や経済の回復も目覚ましい状況である。我が国のODAの基準としているDACの統計上、12か国は全てODA対象国となっているが、一部は高中所得国、残りは低中所得国である。
 「(3)教育の概要」についてだが、EFA(万人のための教育)の進展に伴い、南米各国も教育改革や拡充を進めている。南米諸国の義務教育年限は、それぞれ延長されている。教育機会の拡大に関しては格段の進歩を達成しつつあるが、初等教育の修了率の向上、中等教育以上の段階への就学の拡大、教育の質の向上という点では課題に直面している。学力面では、PISAの2009年調査に見る南米各国の習熟度については、OECD平均を下回っている。南米から我が国への留学生数は、2012年5月現在622名である。
 「3.日本と南米諸国間の教育交流の重要性」についてだが、南米諸国は全てODAの対象国だが、例えばブラジルは経済成長著しい新興国の中でも、とりわけ発展を遂げている国である。近い将来、ODA卒業国となることも視野に入ってきている。中南米では、銀、銅はそれぞれ世界の生産量の約半分、大豆は約半分のシェアを占めるなど、我が国にとって資源及び食料の供給源として非常に魅力の高いところである。多くの国で産業育成、産業人材育成が課題になっており、先進国への留学生派遣などを進める動きが出てきている。しかしながら、日本の影は薄くなっている面があると指摘されている。他方、地震国であるペルーとは、「地震」を二国間援助の対象分野の協力が行われており、非常に緊密な関係ができている。国際教育協力の実施については、友好親善の強化、外交、経済面等の結びつきをより緊密化するなど、様々なメリットが期待され、これを戦略的に推進していくことは極めて重要である。南米諸国にとっては、国の持続的な発展のため、国家的課題の取組を我が国の協力を得て、更に充実、加速することができる。また、我が国にとっても、大学等による協力や企業におけるインターンの受入れによる産業人材育成協力を通じて、日系現地企業のより大きな発展の基盤につながるものとも考えられる。また、我が国の大学にとっても、留学生交流や国際共同研究の実施などを通じて、教育と研究の両面にわたる国際化に大いに寄与することは期待される。
 「4.今後の推進方策」「(1)基本的な考え方」についてだが、引き続き、官の縦割り行政を越え、産学官が協力して国際教育協力に係るリーダーシップを更に発揮していくべきである。相手国の事情とニーズを十分に把握し、それに的確に対応することを基本としつつ、特に南米諸国への協力に関しては、現地の多様な分野において指導的立場にある日系人との連携協力を図りつつ、次の諸点について考慮する必要がある。
 「1、集中」については、一つ目として、科学、バイオテクノロジー、航空工学、材料工学など、相手国に固有の重点分野や、我が国としての得意分野を加味して、相手国が真に必要とする分野に集中すること。二つ目に、日本が支援してきた発展途上国を通じた南南協力を促進することにより、資源を集中すること。三つ目に、研修等の対象を、彼らを教える教員やリーダー等に集中、限定すること。また、南米諸国内での集中を考え、協力を実施する際には、世界各地に対する我が国の協力の全体像を考慮しつつ行う必要がある。さらに、国際教育協力を実施する際には、当事者それぞれにおいて情報発信力を持つことが極めて重要である。
 「2、日本側における組織的かつ継続的な協力体制の確保」についてだが、国際教育協力を個人の力に依存することなく、組織として継承していくような体制が必要である。その際には、現地の日系人組織や同窓会組織との連携を図るとともに、大学の学長、政府高官等、できるだけ高いレベルでの双方向の交流の機会を持つことによって、組織的な協力体制を構築することも有効である。継続性を確保する観点からは、政府を含む関係機関において、それぞれの国や地域に詳しい人材の育成に配慮することも有効である。
 「3、ポストODAへの対応」についてだが、南米諸国の中には、ODA対象国から卒業することが見込まれる国もある。そのような中、ポストODAに対しては、ODAとは別のメカニズム構築について検討を行うことが重要である。
 「4、南米での日本語教育」についてだが、ブラジルは、世界でも最も年少者の日本語学習者が多い国でもある。成人の日系以外の日本語学習者も増えてきている。そのような状況の中、ブラジルでの日本語教育については、日系人に対する継承語教育としてはJICAが、それ以外は国際交流基金がそれぞれ行っている。年少時からの日本語学習を通じて、日本に理解の深いブラジル人の裾野を広げていくことは、長期的な視点から見て重要である。両方の制度を戦略的に生かした取組やプログラムが重要である。
 「5、安全等リスクへの配慮」についてだが、南米に限ったことではないが、政治的に不安定であったり、治安面に問題があるような国、地域において教育協力を行う場合には、事業実施の安全への配慮、非常時の対応策など、リスクへの対処について十分に配慮する必要がある。
「(2)初等中等教育段階」「1、南米諸国の初等中等教育機関への支援」についてだが、教育システム、学校運営の改善や、特に理科、算数等の基本科目の教育内容の充実が課題である。そのため、教員の質の向上、必要に応じた教育課程の編成、教育指導体制の充実等が求められている。
 具体的には、「ア、教員の資質の向上、教育課程の構築等に向けた協力」として、JICAで行われている教育協力の中で、基礎教育分野プロジェクトがある。これらのプロジェクトでは、主として学校の運営の改善や理科、算数等の科目に係る教育研修による教員の質の向上を目的として、専門家をペルー、コロンビア、ボリビア、パラグアイ、チリなどに派遣している。引き続き、そのようなスキームと連携するとともに、教員研修による現地教員の養成に貢献し、教育課程、学習指導要領及び教科書の整備に協力することが必要である。具体的には、ブラジル、ペルー、コロンビア、ボリビア、パラグアイ、チリ、それらの国を初等中等教育協力拠点国として、当該国の教育課程、学習指導要領及び教科書の整備に協力するとともに、近隣国の教員も参加する形で取組を行い、南南協力も活用しつつ、初等中等教育協力を進めることが考えられる。また、国費外国人留学生の教員研修留学生制度については、海外の教員を招いて、1年半程度のトレーニングをするプログラムで、30年近い実績もあり、帰国した教員とのネットワーク構築等のフォローアップを行うなど、南米諸国との教育協力の柱と位置づけて、両国で連携して実施していくことが重要である。
 「イ、持続的発展教育(ESD)の視点を盛り込んだ教育協力」としては、教育へのアクセスが一定水準以上実現できている南米諸国にあっては、それに加えて、地球市民教育や教育の質の向上を図る上で不可欠となる持続発展教育ESDの視点を盛り込んだ教育協力が重要である。
 「ウ、大学等高等教育段階への就学率向上への協力」について、南米では、大学等高等教育段階への就学率は低い。特に、中等教育段階での就学の増加及び高等教育段階への円滑な接続について改善を図るための協力が考えられる。
「2、定住外国人の子供への支援」。我が国に定住する外国人に対する教育機会の提供については、子供の権利を守るために重要な課題である。特に、将来ブラジル等南米への帰国を考えている者の子供への教育支援や日本の公立学校に入りたいと考える子供への就学支援、このようなものは国際的な人材を育てて、日本のイメージ向上に寄与する観点からも、一層の充実を図っていく必要がある。文部科学省、地方自治体、日本企業による、なお一層の協力が求められている。今後は、グローバル化の中で、日本在住の高度な外国人人材を拡充するためには、外国人学校を含む様々な教育機関が教育の質を向上させ、かつ人材育成の一連のサイクルとして働くよう、今一段の努力が求められている。
 「ア、『虹の架け橋教室』プロジェクト」についてだが、自宅待機、不就学等になっているブラジル人等の子弟の就学を支援することを目的として、平成21年度から定住外国人の子供の就学支援事業、虹の架け橋教室を、IOMにおいて実施している。これまで2000人以上が就学を果たしたという実績がある。同プロジェクトについては、平成26年度で終了を予定しているが、継続的な取組が重要であることから、その延長が必要である。
 「イ、外国人児童生徒の公立学校での受入れ体制の整備等」については、外国人が、その保護する子を公立の義務教育諸学校に就学させることを希望する場合には、無償で受け入れている。教科書の無償配付及び就学支援を含め、日本人と同一の教育を受ける機会を保障している。受入れ等に当たり、日本語指導を行う教員を配置するための加配定数を措置し、日本の教育制度や就学の手続等をまとめた就学ガイドブックを、ポルトガル語を含めた7言語で作成、配付している。また、入学、編入学前後の外国人の子供への初期指導教室の実施、日本語指導や外国人保護者との連絡調整の際に必要な外国語が使える支援員の配置等、地方自治体における取組を支援することにより、地域人材との連携による外国人児童生徒の公立学校への受入れ体制の整備が行われている。引き続き、外国人の子供の就学機会を保障し、日本で生活していくために必要となる日本語や知識、技能を習得させるため、公立学校での受入れ体制の整備により教育支援を推進することが必要である。
 「ウ、日本の企業による教育協力」については、日系企業の中には、在日ブラジル人の子弟向け奨学金制度、NPO、ボランティア団体に対する支援活動、ブラジルに帰国した子弟、現地学校、社会等への適応支援、自閉症児自立支援、また在日ブラジル人向け自動車整備学校プロジェクト、現地の職業訓練学校へのサポートなど、ブラジル人支援に係る社会貢献に力を入れている。引き続き、企業による社会貢献の実施を期待する。
 「(3)高等教育段階」についてだが、我が国の留学生30万人計画を踏まえて、ブラジルやアルゼンチン等における日本への留学生派遣プロジェクトと効果的に連携して、留学生の受入数の拡大を図ることが必要である。特にブラジルについては、国境無き科学プロジェクトを2011年に策定して、企業へのインターンシップを含む留学を推進している。我が国としては、2012年7月に覚書を結び、2013年より3年間で3900人の受入れを目標としている。また、アルゼンチンでは外部資金を活用して、日本への留学生派遣を希望している。チリ、ペルー、コロンビアなどは、日本と貿易投資関係が最近活発化しており、かつ日本への留学経験者が多いため、継続的な人的交流が非常に重要である。そのため、今後もこれらの国で留学フェア、留学生セミナー等の定期的な実施や、IT等を用いて日本の関心を高めるための広報に努めることが重要である。
 「1、ブラジルの『国境無き科学』プロジェクト等」については、当面、ブラジルの国境無き科学プロジェクトにおける日本での受入れを確実に行う必要がある。引き続き、日本側の大学に適切な情報提供をするなどして、積極的な受入れに努める必要がある。インターンシップを行うに当たり、その受入先については、現在、関心を示す企業等と連携しているが、企業へのインターンシップ受入れの情報提供を行うなど、インターンシップ受入れメカニズムを構築すべきである。アルゼンチンについては、科学技術分野における日本への留学生派遣を希望しているので、文部科学省において具体的な受入れ方法等を検討し、引き続き、受入れ実施に向けた先方政府との調整を行う必要がある。
 「2、双方向の学生交流」については、南米諸国側学生を本邦で受け入れるだけではなくて、我が国の学生を現地に派遣することは、日本人学生にとって短期的であっても、現地で多様かつ優秀な人材と交流する機会が得られ、国際協力に対する意識が高まることが期待でき、積極的に推進すべきである。また双方向の学生交流が進まない原因の一つとして、双方の教員レベルの交流が少ないことも考えられ、交流が促進されるような教員にインセンティブを与える施策が必要である。
 「3、大学間交流の構築」については、留学生受入れのための大学の体制整備や大学間の協働教育プログラムの実施等を通じて、南米諸国の大学とも連携を図るべきである。その際、国際教育交流の推進に大きく貢献した大学等、功績のある者への顕彰等があると有効である。
 「4、工学系人材の養成等」については、工学系分野の新領域開発プロジェクトに重点を絞っていくことによって、大きな成果を上げられる可能性がある。その際、産学官の協力、連携のもと、国際教育協力を進めることによって、人的つながりの醸成等、日本のプレゼンスを再び示し、今後の持続的な協力、連携関係の基盤を形成することもできると考えている。工学系人材を養成することを目的としたODAを活用した他の事例としては、SEED-Net、E-JUST等がある。E-JUSTについては、相手国政府にも相応の負担を求めつつ、教育研究について、我が国の支援大学が技術協力としてサポートするという形態をとっている。ODA卒業間近のブラジル等の新興国においては、このような支援の方策も検討すべきである。
 「5、科学技術を通じた人材育成」については、文部科学省、JST、外務省、JICAの協力によって、開発途上国と我が国の国際共同研究を通じて、地球規模課題の解決を目指す事業で、SATREPSというものを実施している。それを今後も継続し、同事業を通じた研修生や留学生の受入れを推進すべきである。
 「(4)産業人材育成」については、現地の発展に資するエンジニア等の人材に係る協力とともに、日系企業にとって優秀な人材を確保することにつながる現地日系企業でのインターンシップの実施による協力が重要である。日系企業が現地で必要とするローカル人材を確保しやすくするために、当該人材育成のニーズに日本の高等教育分野での協力がどれだけ応えていくことができるかが鍵になる。そのため、現地の人材ニーズを見極めた上で、企業と連携した我が国の具体的な教育協力を考えていくことが効果的である。また、経済産業省は、対南米人材協力として、OJT方式で研修を行う技術研修、海外技術者研修協会同窓会連合を通じて、募集した現地のマネジャークラスに対する研修を行う管理研修を行っている。そのほか、海外における中小企業の大卒、高卒、高専等の現地高度人材確保の支援を検討中である。これらの現地研修生の受入れを引き続き実施することが重要である。
 最後に、「5.おわりに」だが、我が国がグローバル化の進む世界の中で、国際教育協力によってプレゼンスを確保することは、政治、経済、外交での有効な結果を得るためにも不可欠な条件である。国内の教育の充実と併せて、世界の教育改善のために更新していくべきである。南米諸国は教育の改革と拡充に乗り出しているので、相手国が必要とし、我が国が貢献可能な得意な分野を生かした協力を、短期、中期、長期にわたり探求の上、積極的な開発促進すべきである。昨年3月の本会議中間報告書で述べたとおり、国際教育協力においては、産学官の連携や組織、継続的な支援など、オールジャパンでの戦略的な取組が不可欠である。これは今後、大きく発展する可能性を秘めた南米諸国への協力に当たっては、特に留意すべき点である。今後、我が国と南米諸国との持続的な協力、連携関係の基盤形成を目指し、本審議のまとめを十分踏まえつつ、関係省庁、大学等の教育機関、企業を初めとする関係者が、更に積極的な取組を展開されることを切に期待したい。

<質疑応答等>
【江原委員】  「持続発展教育」という概念は、日本が提案した概念だと思うが、「持続発展教育」と短く縮めていいものか。普通、持続可能な発展のための教育という長い言葉であったと思うが、縮めてしまっていいのか。

【永山国際課長】  公式に法律で決まっているものはない。最初のころは、おっしゃるとおり、少し長い説明的な言い方をしていたが、ここ数年は、「持続発展教育」という言い方に統一しようと、文部科学省としてはしているので、文部科学省が出す文書であれば問題ない。

【木村座長】  7ページの下にフットノートも出ているので、それで良いと思う。

【狩俣外務省地球規模課題総括課企画官】  ただ今、文科省より行政として「持続発展教育」という訳を用いているとの説明があったが、事実は異なり、国の行政機関の中にそのようなコンセンサスは存在しない。文科省のみが用いているものと認識している。委員御指摘のとおりESDは、従来「持続可能な開発のための教育」という訳を使用してきており、また、条約等国際約束、これらは国会に上呈されるが、これの日本語正文又は仮訳においても基本的に「持続可能な開発」の語を使用する。特定分野に限定された文脈においてのみ発展との語を使う場合もある旨補足しておきたい。

【犬塚国際課企画調整室長】  確かに外務省がおっしゃったように、ESDは「持続可能な開発のための教育」と訳されていたが、日本ユネスコ国内委員会で国内への普及促進を目指して、より簡単に「持続発展教育」という名称を使ったという経緯もあるので、そこも含めて御議論いただければと思う。

【永山国際課長】  例えば、脚注のところでもう少し説明して、いろいろな訳があるがここではこのように縮めて使っていると入れれば、いかがか。外務省とも事務的に相談したい。

【岡本委員】  「国境無き科学」では、日本が幾ら学生をとると言っても、ほかの国も同じように考えている。「国境無き科学」で来る学生への他国のサポートに関するデータがなかったので余り議論できないが、日本が、国境無き科学、あるいはアルゼンチンでの米州開発銀行からの留学生に対して、プラスアルファの具体的な支援ができるような提言も盛り込んだ方がいいのではないか。インターンシップの配慮として情報提供するというのはどこの国でもやることなので、日本がどのように学生をとるのが望ましいかという文言を入れて、予算措置等につながればと思う。

【永山国際課長】  全体で10万人なので、我が国の数はそれほど大きくはないが、日本だけが特に優遇をするところまでまだ行っていない。具体的支援を例示することは可能だと思うので、そこは加える方向で相談してみたい。

【岡本委員】  欧米に比べると出おくれているので何らかのことをアピールしないと、流れをこちらに向けるのは難しいと思う。

【木村座長】  南米からの留学生は、どの国も数として非常に小さい。日系の方がたくさんいるブラジルですら減ってしまっているので、サムシング・エキストラを工夫したい。

【桜井委員】  今回の会議でも、「官民一体」という単語がよく使われるが、官民一体というのは、官が民間企業、あるいは民間の大学でもいいが、活動しやすいような環境づくりをして、インセンティブ等を与えるというのが一つと、それから、もう一つは、民間企業とか大学等が非常にいいことをした場合は、それを認めて、評価して、それを行動で示すということである。表彰制度については、大学間交流のところに書かれているが、もう少し具体的にやった方がいい。企業のCSRでトヨタや三井物産が頑張っておられる、あるいは、大学で筑波大学や広島大学がよくやっておられる。そのような組織に対しては、高く評価して、文部科学大臣賞か何かをお与えするのがいい。戦後、日本の輸出振興に当たっては、総理大臣や通産大臣の輸出貢献賞があり、これは大変効果を発揮した。私が海外のジャーナリストや有力者を連れて工場に行くと、最初に案内されたのは表彰状が掲げてある場所で、大変誇りに思っておられた。その後、80年代に、私のJETRO在任時に輸入促進のJETRO理事長表彰をやったが、相当効果があり、輸入促進運動が軌道に乗った。表彰制度は想定されるよりはるかに効果があるので、もう一歩踏み込んだ形でやるといいと思う。

【永山国際課長】  文科大臣表彰という限定的な指摘だと、100%我々も対応できるかどうか、この時点では申し上げにくい。今の書き方では、顕彰があると有効だということだけなので、もう少し行政の方に検討を促すような書きぶりは可能かと思う。

【桜井委員】  対象は、大学のみならず、企業である。「等」と書いてあるので、含まれているかもしれないが。

【永山国際課長】  それも含めて工夫する。

【大野委員】  今回の案は、南米のニーズや日本の実情がよりわかりやすく書かれていて、全体のコンテクストがわかる。何をしなければいけないかが具体的になったと思う。大きな方向では賛同しているが、中間報告の取りまとめのときから参加していた者として、若干問題提起をさせていただきたい。中間報告のときにも、ODAを超えたところでの取組を産学官連携で、オールジャパンでやっていくためのプラットホームをつくろうという提案があった。その枠組みの中で中南米との協力を実施していくということと理解している。実際に、審議のまとめの案でも、要所要所に、産学官連携のオールジャパンでポストODAの対応をするといったことが書かれているが、そろそろ具体的にどのようにやっていくかといったことを踏み込んで書き込んでいった方が、実効性といった意味で前に進むと思う。例えば、中間報告で工程表をつくっていただいたが、プラットホームの構築については引き続き検討するといった形で終わっていて、それが前に進まないと、せっかくの南米諸国の取りまとめも進んでいかないと思う。
 それで、もしできれば、これは国際教育協力の推進のためのイニシアチブなので、文部科学省が中心になる形で、関係省庁、あるいは関係機関を含める形などいろいろあると思うが連絡調整会議のようなものをつくり、こういったことを具体的に前に進めていただけないだろうか。そういった仕組みづくりについて少し踏み込んで書いていただいた方が、実効性を担保するといった意味でいいのではないかと思い、提案させていただく。そういった場で経済産業省、外務省、文部科学省、財務省等を含めて、本会議の提案を具体化する上で、どういったリソースがあって、何を省庁間連携や産学官連携等に通じてマッチしていかなければいけないのかといった情報共有も大事だと思う。特に「国境無き科学」を具体的に前に進めていくために、インターンの話やアンケートを行い、ポストODA時代の産学官連携のパイロットプロジェクトと位置づけて、重点的な施策として、省庁の垣根を越えた形で協力体制をつくっていくべき。そういった方向で取り組んでいく旨、少し踏み込んだ形で示していただけると非常にいいと思う。ブラジルの「国境無き科学」については、相手国はリソースがあるわけなので、ポストODAの取組として、日本側としても柔軟に対応できる体制を整えながら、いろいろなリソースを持ち寄っていく。重要な試金石だと思うので、重点プロジェクトとして位置づけて、本会議のフォローアップとして、関係省庁も含めて協力する仕組みをつくっていくという方針を具体的に書いていただけると有り難い。

【木村座長】  大野委員からは、書面でその御意見を出していただいており、これについて事務局と相談した結果、おっしゃるとおりだと感じた。今回は文章にすることができなかったが、事務局と私にお任せいただければ、最大限努力する。

【讃井委員】  全体的には、とてもよくできていると思う。南米諸国に限定したことで、焦点が絞られている。南米諸国の課題である産業の多角化、高度化、さらなる飛躍を支える人材の育成、その発展のプロセスで日本企業は貢献をしていきたいと考えているが、そういう日本企業のことも視野に入れていただいている。南米では日系人の存在があるので、現地の日系人、日本にいらしている日系の方、今後の日本との架け橋の人材になるポテンシャルの高い方に対する支援についても書かれていて、非常に特徴をつかんだ記述になっていると思う。アプローチとして集中ということを取り上げていただいた。限られたリソースの中でどのように集中し取捨選択をしていくかということが大変重要なので、国際教育協力の中でポイントとして挙げていただいたのが大変良いと考えている。大枠としてはよくできているが細かいところで気になるところがある。2ページ目の真ん中に、経済の概要というところで数字が出ているが、経済成長率のところに単位がついてないので振っていただいた方がよいと思う。4ページ目の真ん中あたりに、南米諸国に進出している日系企業の人材に関する課題ということで、エンジニアの確保が難しいこと、教育水準の地域格差があること、利息率が高いことを指摘されており、これは確かにそういう問題を抱えていると思う。産業人材育成協力を通じて、こういったものが解決できると書かれているが、エンジニアの確保や地域格差の解消には大変効果的だと思うが、離職率が高いことに対してどれだけ解決に結びつくのか、ロジックがよくわからないので説明いただきたい。新興国では、職場を移っていくことによってキャリアを高めていくことが多々あり、スキルアップをすると、そこにとどまるよりは、自分を高く売れるということでよそに行く。あるいは、自分のスキルアップが更にできるようなところに移っていくという行動パターンがあると思う。また、4ページの下から「集中」ということが書かれていて、1は教育の領域の集中、2は教育の手法の集中、3が教育の対象の集中だが、2の南南協力を促進することによる集中というところがわかりにくい。この後の文章の記述の中で、南南協力が言及されているのは、7ページの上から2行目だが、一部分の国をハブのような形にして近隣諸国もそこに取り込んでいくという意味の南南協力である。4ページから5ページにかけて書かれている、日本が直接やるのではなく、別の途上国を通じて間接的に行うという南南協力とは、趣旨が違うと思うし、南南協力の実践がどうあるべきかは、この審議のまとめ(案)の中では言及されていないので教えていただきたい。それから、10ページの下から2行目、3行目あたりに、「日本人学生にとって短期間であっても現地で多様かつ優秀な人材と交流する機会が得られ、国際協力に対する意識が高まることが期待できる」とあるが、アウトカムとして期待できるのが国際協力に対する意識が高まることだけでは寂しい気もする。現地の理解を深める、国際的視野を拡大する、あるいはもっと大きく言えば全人的な成長に寄与するなど、より大きな成果が得られると思う。

【犬塚国際課企画調整室長】  最初に4ページ目のところの当方の考え方だが、日本の大学や政府の協力を通じて、日本に対する思い、信頼感、そういうところで働きたいと思うポテンシャルやクオリティーを知る機会になるので、単にスキルを蓄えること以上に啓蒙(けいもう)が促されると考えて、何らかの課題解決につながると考えたところである。また、5ページ目のところで、先ほどこれを読み上げたときに、「リソースを集中する」という言葉を速攻で入れたが、文章の方は考えたいと思う。10ページについては、先生のおっしゃるとおりだと思うので、修文を考えたい。今、政府としても掲げているグローバル人材の育成という観点から、それらに寄与するものと思うので修文を考えたい。

【木村座長】  最初の方に御指摘があった、スキルアップをするとほかの企業へ移っていくという点については、SEED-Netの第3期をやるときにタイへ行って、日本の企業の方とお目にかかったときに、現地の人々は非常にドライなのでその点が悩みだということを盛んにおっしゃっていた。したがって、そのようなことはある程度起きるということを前提として案をつくっていかなければいけない。しかし、私がいた東京工業大学にはタイから非常に優秀な学生が来ていて、同窓会を開催すると百数十人が集まるが、この人たちはほとんど転職せず、日系企業の役員のトップになって頑張っている。だから、どういうところを見るかによって状況がかなり違う。タイで、そのことを言おうかと思ったが、余り反対の意見を言うのはいかがなものかと黙っていたが、東工大の卒業生に関しては、非常にそういうことが少ない。しかし、一般的には、讃井委員のおっしゃったようなことは、現地の企業の方も、せっかく育ったと思ったらいなくなってしまうということを盛んにおっしゃっていた。

【永山国際課長】  南南協力という言葉を使わなくても、文章として十分通るようにすることは可能だが、南南協力という言葉を残した方がよいか。5ページのところでも、発展途上国を通じた協力を促進と、平たく言っても文章としてはおかしくはないが。

【木村座長】  国際協力の文章には南南協力という言葉が盛んに入ってくるので、言葉としては残した方がいいのではないか。

【大野委員】  全ての国に対して個別に支援するのではなくて、日本が今まで支援してきた途上国の中で、今までの日本との協力を通じて、特定分野において非常に有用な知見を蓄積してきた国々があるはずだ。その国をハブにして、その国から、ほかの中南米の国に対して協力をしていく。そういった発想で、集中という発想から南南協力といったことが出てきていると理解するので、やはり入れた方がいいのではないか。むしろ、そこに対する説明をもう少し膨らませて、なぜ集中なのか、今まで日本が支援してきた途上国に対する蓄積があるといったことを含めて補足説明をするのがいいと思う。

【内田委員】  この文章は後ろの方にいくと、全て何々すべきであるという言葉になっている。そうすると、すべきであるができていない原因の究明をしなければいけないということと、具体的にどうしなければならないかという二つの論点がある。これからの展開の方向として、障害をどのように明確にして、それを乗り越える具体的な方策をつくるかということにつながる言葉を最後に入れていただいた方がいい。それから、昨年度は、中間報告書を作成したので、それに対するのは最終報告書だが、これは審議のまとめなので、これとは別に最終報告書を今年か数年後につくるということか。

【永山国際課長】  まず、2点目の方だが、我々としては、3年間、この議論をしていきたいと考えている。昨年3月に、その議論を詰めておけばよかったのかもしれないが、おっしゃるとおり、中間まとめの後は最終ということになって、今回、最終ということになると、2年で終わってしまうことになりかねない。今回議論いただいたのは、南米に限ったことなので、通常、中間まとめと最終報告の関係というのは、余り変わらないものが出てくるのが通常なので、そういう意味では、今回、最終報告という言葉は使えない。かといって、全く去年と同じ中間報告書ということだと、中間報告書が二つあるのも変な話なので、今回はこういうタイトルにさせていただいた。

【木村座長】  最終報告書は、いずれつくるということで考えてよいか。

【永山国際課長】  この時点で、必ずつくりますということではないが、我々としては3年間という中で、つくるとすれば、中間まとめなり、あるいは今回の議論なり、全部総合したようなものという形になろうかと思う。それは、年度が替わって、新しい体制の中で議論していくことかなと思う。

【井上副座長】  申し上げたいことが3点ある。一つは、冒頭、黙祷(もくとう)を捧(ささ)げたが、途上国に対する協力は危険と直面しており、テロや、熱帯の感染症など、いろいろなことがあると思う。そういう中での協力は、具体的には一人一人の専門家がやっていくので、こういう人たちに対する敬意を表することが大事だと思う。これは、南米だけではなくて、全体にかかわることかもしれない。経済活動でやっているという面もあるかもしれないが、大変な困難を克服して行っているので、そういう人たちに敬意を表する。そういう意味で、協力している方に対する支援という観点から、オールジャパンでやっているということが非常に大事であるということと、もう一つは、それを踏まえて、いろいろな提言を実効性のあるものにしていくことが大事であり、そうしていただきたいと思う。2点目は、今のことも関係するかもしれないが、危険だからやめようというオプションがあるかどうかだが、一方において期待されていることがある。他方においては、止めようというオプションは日本の置かれた立場として余りないのではないかということもある。この報告書の中で、安全性に関する情報や対処について触れていただいているが、これは今後、若い人たちが協力をしていく、協力に携わっていくという観点から、政府全体として安全・安心に配慮していて、それを担保できるようなことを書いておくことが非常に大事だと思う。実際には、既に書かれているが、それも敷衍(ふえん)して申し上げた。3点目は、高いレベル、学長や政府高官のレベルで交流することが大事だと書いてあるが、ここの書き方は、「できるだけ高いレベルでの双方向交流の機会を持つことによって、組織的な協力体制を構築することも有効である」。これを「も」にするのか「が」にするのか、どちらがいいかよくわからない。5ページの中ごろで、南米やラテン系の人の専門をしている方の御意見を教えていただければと思うが、国によっては積み上げていくよりも、トップダウンでやった方が有効だという国が結構あると思う。そうすると、これは協力をするときに、「構築することが」なのか、「も」なのか、非常に細かいところだが、そこら辺は南米の御専門の方に、トップダウンがいいのか、ボトムアップがいいのか、双方になると思うが、そこら辺のニュアンスを教えていただければと思う。

【桜井委員】  私は10年ぐらい中南米に駐在したが、向こうは、トップに情報と権限が集中しているので、ほとんどトップダウンでないと機能しない。ラテンの世界では、ある程度の人的関係がしっかりしていれば、文部大臣でも次官でも会える。極力上の方にいくのがいいと思う。

【木村座長】  それでは、そこまでニュアンスを含んだ「が」ということにする。

【冨澤委員】  民間の立場から書面でコメントを述べさせていただき、その方向でまとめて御尽力いただき、有り難く思う。12ページの産業人材育成で、アンケートをしてというお話もあったが、今度それを実現、具現化していくときに、具体的に文部科学省にお話を持っていけばいいのか、経済産業省に持っていけばいいのかが、民間の立場からすると見えにくいので、この中にそれを記載するかどうかは別にしても、そのあたりを是非お願いをさせていただければと思う。

【木村座長】  それは、先ほど大野委員御指摘になったプラットホームのことであれば書き込むつもりでいるので、そこでハンドリングができるのではないかと思う。

【大野委員】  実効性のところで、オールジャパンや戦略的な取組をしていくといったことに、プロジェクトによってやり方に違いがあると思う。既にある程度、JICA、経済産業省と一緒に文部科学省が取り組んで動いているもの、過去にも似たような経験があるプロジェクトについては、あえて、オールジャパンや戦略と言わなくても、連携の仕方は関係機関の間でわかっていると思う。一方で、例えば「国境無き科学」は、今まで経験のない取組である。ブラジル側のイニシアチブで先方のリソースで多様な人材が派遣されてくる。これは、日本にとってチャンスとなり得るが、日本の企業としてどう対応するか。日本の大学も、グローバル人材の育成としてどのように対応していくのか、学校の受入れ体制も整えなければならない。これは特別なプロジェクトなので、関係省庁、産学官が意識的に連携をして、特別な受入れ体制、メカニズムを考えなければならないと思う。オールジャパンや戦略的な取組といったときでも、今までやったことを踏襲してできるものと、今後の試金石となるパイロットプロジェクトとして重点プロジェクトと位置づけて行っていくべきものと分けて考える必要がある。両者へのアプローチを変えて、めり張りをつけたフォローアップの仕方を提案いただけると有り難い。国際教育協力においては、文部科学省を主導とした形で連携していくと理解する。また、例えば、経済産業省が、サウジアラビアとハイレベルで関係のある企業を巻き込んで、政策対話、産業技術対話をしていたのはすばらしいと思う。つまり、分野によって、どこの省庁がハブとなるかは、違いがあっていいが、オールジャパンの共通のプラットフォームは必要だと思う。そして、何が重点プロジェクトか、何は恒常的なことができるかといったことを考えながらできると思うので、そういったことを少し踏み込んで書いていただけると有り難い。そういった情報を共有する枠組みがあるといいし、そういったことをしないと、日本はやっていけないと思う。

【田中委員】  私も、「審議のまとめ」は、前回よりも充実したものになっていると思う。タイトルが、「南米諸国への」ではなく「南米諸国との」というニュアンスが重要だと感じている。国際教育協力というのは、これまでは我々が援助するものと一方的なものだけを考えていたところが、双方向的なものだとポイントに置かれている。もう一つは、南米諸国ということで、「中」は抜けているが、そういう捉え方でよいのか。

【永山国際課長】  2点目の点について、今回は南米ということで抜けている。1や2の説明の中でも、そこは抜かして書いている。それは、我々としては、ブラジルを中心に考えていくのがスタートラインであったわけで、広げていくと焦点が少し薄くなっていくという意味もあって、意図的に今回の報告書からは除いている。

【田中委員】  集中すると、フォーカスが当たらないところも出てくる。全体論を見ながら、ブラジルへの注視、集中というものも、両にらみでどこかで考えていく視点も必要かと思う。というのは、我々はどちらかというと中米の方を援助してきたので、ブラジルだけの話になってしまっていいのかということを感じていた。これは「審議のまとめ」に反映させていただかなくても結構だが。

【犬塚国際課企画調整室長】  5ページに書かせていただいたとおり、南米諸国内での集中を考え、協力を実施する際には、南米地域を含めた世界各地に対する我が国の行う協力全体像を考慮しつつ行う必要がある。中米、南米に対する協力の比重、アジア又は中東という全体の中で、リソースをどう配分していくか考えながら、それぞれの地域にどう対応していくかを検討することが必要だという御指摘を受けて書かせていただいた。今回の報告書は、その中の南米に当たってはというところなので、そういう意味で、中米はこの報告書から除かれているが、視野から除かれているというわけではない。

【木村座長】  今の御指摘の「との」は、私は象徴的だと思っている。留学生の問題だけに限ると、1983年当時は1万人強で、当時の中曽根総理が10万人計画を言い出されたときはとても無理だろうと思っていたが、2000年には見事に10万人を超えた。それまでは留学生の受入れは、発展途上国に対する日本のサポート、発展途上国「への」協力という感覚でやっていたが、2000年少し過ぎたあたりから、殊に民の方から優位な人材を入れる必要があるという要求が出て、高度人材をいかにして我が国に入れるかという議論が始まった。2009年に文部科学省がグローバル30というプロジェクトをつくって、こちらからも学生を派遣するし、向こうからも受け入れるという対等な立場で考えようということを提案した。その意味で留学生に対する考え方は、歴史的にかかわってきている。そういうことから、「との」というのは象徴的だと私自身も見ていた。

【桜井委員】  4ページに「官の縦割り行政を越え」とある。日本と世界の教育協力や文化交流を促進させるには、人的体制を整えないといけないと思う。少し具体的に言うと、在外公館はたくさんあるが、その中で、例えば文化担当の書記官、あるいは文化担当の参事官のリストを見ると、外務省のプロパーの人が多くて、特に文化や科学の専門家ではなく、ローテンションで回っている人がかなり多い気がする。昔調べたことがあるが、諸外国では、専門的な人、例えば大学の教授がイタリアの大使館にいる、あるいは教育や文化普及の専門家等が、割合大使館に配置されている。日本も、大学の先生あるいは文部科学省の人など、専門家を配置したら良いと思う。文部科学省は、教育と文化と科学の三つとも兼ねておられるので、それら3分野の専門家が行って、目に見える形で、顔の見える形で、文化外交等を展開されるというのが一つかと思う。もう一つは、少し前の在日イタリア大使館の文化参事官は、ボッコーニ大学というミラノにある大学の先生だったが、彼の名刺の肩書は文化とアカデミックというのが入っていた。アカデミックは日本の大学といろいろな大学協力・交流を推進したいということで、イタリアの外務省と折衝して無理やりそのタイトルをもらってきたということを言っていた。今や文化、科学、アカデミック、教育の専門家が専門的にやっていく時期に来ていると思う。

【木村座長】  私も自分自身がブリティッシュカウンシルのスカラーだったので、同じようなことを何十年と考えている。ブリティッシュカウンシルの存在を、初めて知ったときは驚いた。160か国ぐらいにオフィスがあり、今は日本では使わなくなったが、60年代から70年代までは、日本名では英国大使館文化部と称していた。今はブリティッシュカウンシルというだけで、その名前は使わなくなったが、ディレクターでくるような人は一流の人がほとんどで、文化、教育は自分たちがやるという強い自負を持っておられる。日本でも同様のものができるといいと思って、いろいろな会合の席上で発言したが、結局、いまだに実現しない。英国は、そのために多額の予算を使っている。

【狩俣外務省地球規模課題総括課企画官】  ブリティッシュカウンシルも、孔子学院も、非常に展開していると思う。そういうのを外交団の中でやるのか、外にくくり出してしまうのか、貿易代表をJETROという形でくくり出してしまうのかということとも似た話だと思う。教育、文化、科学についての専門の方がいればすばらしいとも思う。他方で、行政機関の中では、機構・定員は厳しく縛られている。そういう人員をいただけるのであれば、我々もうれしい話だと思うが、大きい公館は教育、文化、科学を専任で持つ方もいるが、最小単位の大使館はいろいろな任務を兼務している。政策広報から何から全てを兼務して、カルチャーアタッシェが広報も兼ねているのが大多数である。そういった現実もあることを御理解いただければ幸いである。

【木村座長】  JICAの理事長には田中先生がなられるというようなことも起きているので、徐々に、実現していくのではないかという気もする。

【江原委員】  3ページの上から4行目に、「南米各国の習熟度」と書いてあるが、「学習達成度」の方がいい感じがした。今、教育、文化、科学の専門家というお話があったが、それもすばらしいと思った。5ページの真ん中あたりに、「継続性を確保する観点から、政府を含む関係機関において、それぞれの国や地域に詳しい人材の育成に配慮することも有効である」というところは非常に重要である。留学生数を見ても、南米圏の人数は少ないし、可能性のある地域であるにもかかわらず、スペイン語圏が広大であるにもかかわらず、言語の面でも、文化の面でも、日本の中で影が薄い。そういうところが、今後考えていかなければいけないところだと思う。大学、学部段階からの言語教育、英語だけでない、スペイン語、ポルトガル語等も含めたような、言語教育の充実も将来的にはお考えいただけたらいいと思う。ブラジルの「国境無き科学」を重点的にやるべきだというのは、私も賛成である。受入れを目標としていると言っているが、受け入れて日本好きになって帰るかどうかは、数多く入れるだけでなく、更に踏み込んで考えなければならないところだと思う。例えば、アメリカのフルブライト計画は、学生をただ受け入れただけでなくて、様々なプログラムを展開してアメリカに親しませる、ボランティア等が交流を行う、知識をあらかじめ与えるなど、いろいろな工夫があっての受入れなので評判が高いのだと思う。これだけ大きなものをやるというところで、受け入れてからの留学生に対する扱いの充実が必要だということも、一言言っておいていただけたらと思う。

【木村座長】  最近は殆(ほとん)どなくなったが、30年ほど前には日本は、国費留学生に十数万の奨学金を渡して確実に反日家を育てているとメディアが書いていた。事実は全く違う。私は東工大の卒業生の同窓会にあちこち行ったが、彼らは日本のサポーターでありファンである。文科省では毎年留学生にアンケート調査をしているが、日本に来てよかったという留学生が、80%を超えている。日本人は、本質的に人に敵対する人間ではないから、彼らから見ても安心していられるのだろう。しかし、「国境無き科学」については、相当頑張らないとそんなには来てくれないと思う。私は、ブラジル移民100年祭によばれた際、向こうの長老で東大の医学部を出られた著名な医学者の方とお話をする機会があった。その先生によると、学生に日本に行けと言ってもなかなか言うことを聞かないと言われていた。相当工夫をしないと南米の学生は日本には来てくれないのではないか。その辺は、文部科学省も相当考えないといけない。

【井上副座長】  今、江原先生のおっしゃったこと、私は賛成である。中国や韓国の在京大使館の教育部・文化部・科学部の担当官は、非常に日本語ができて、こちらの人脈も全部知っている。前あそこの部局にいましたねとか、あのときの課長どなたでしたかねと、みんな知っている。中国に行って、いろいろな大学に行っても、国際部には日本語のできる方がいて、そういう意味では、言語のことに配慮した協力を長年やっている感じである。9・11の後、ブッシュ政権がああいうことになったのは、一極集中になって、自分たちはアラビスト、インド、ペルシャの言葉ができる人たちの養成を怠っていたといって、巨額のお金を人材養成につぎ込んだと聞いている。恐らくそれは継続していると思うが、アメリカの社会にはアラビア系の人もいれば、スパニッシュができる人もいるから、本格的にやろうと思えばかなり人材がいると思う。翻って、日本は、スパニッシュやアラビストができる人はそれほどいないから、かなり意識して努力しないといけない。言葉プラス向こうの教育、文化の状況、歴史をわかっている人がいないと、協力も限界があるのではないか。ここはまた、文部科学省の方でもいろいろ御配慮いただければ有り難いと思う。

【木村座長】  英国の事情しか知らないが、英国は、外国語ができる人に対するリスペクトの度合いが非常に高い。戦略的にも、第二次大戦のときに、民間人から中国語ができる人をリクルートして、日本の英国大使館に駐在させて、ありとあらゆる情報をとったという話を聞いたことがある。言葉ができるということに対するリスペクトが非常に高い。井上副座長は珍しくウルドゥー語を専攻されているが、いろいろな言葉を学ぶことはいいことだということを徹底して浸透させていかないといけない。井上さんは、日英高等教育協力協定をやったときに、英国のハイヤーエジュケーションファンディングから来たペルシャ系の名前を持った人とペルシャ語で話をしておられた。こういう人がどんどん増えないといけない。
 一通り御意見を伺って、大きな宿題を頂いたので、全部こなせるかどうか自信がないが、できるだけこなす努力をしたいと思う。また、皆様には御相談をさせていただくかもしれないので、よろしくお願いしたい。
 2000年に私は日米科学技術対話に引っ張り出されて、科学技術の理解増進と、防災の二つのテーマを担当したが、そのときのレポートをダウンロードして、正直恥ずかしくなった。というのは、いろいろな提案がなされているが、それがほとんど実行されていない。例えば、アメリカと博物館のネットワークをつくるなど、いろいろなことが提案されているが、博物館の館長に聞いてみると、殆(ほとん)ど何もできてないことがわかった。今回のレポートについては、そういうことがないようにしたい。

【永山国際課長】  今日頂いた御意見は我々も考えるが、御相談しないといけない中身もあるので、最終的には委員の方々と座長に御相談をして、最終的なものをまとめていきたい。引き続き、御協力をお願いしたい。

【木村座長】  たくさん御意見を頂き、有り難く思う。なるべく、宿題をこなしたいと思うので、御協力をお願いしたい。

【森口文部科学事務次官】  この推進会議は、昨年9月から、ワーキンググループを併せて6回開催させていただいた。お忙しい中、木村座長、井上副座長初め、各委員の方々に御参加いただきお礼申し上げる。今日は、官邸で教育再生実行会議があった。安倍政権になって、教育は大きな柱の一つになっており、この名前にあるように実行ということがキーワードになっている。今まさしく木村座長がおっしゃったように、実行を伴わないといけないので、我々としてもいろいろな提言をいかに実行するかが大事だと思っている。今日、見せていただいた報告書では、かなり具体的な提言を頂いて、それを今後、役所はいかに実行していくかが非常に大事だと改めて思った。そういう意味で言うと、役所においても南米のスペシャリストを養成していかなければいけないとこの会議の中でお答えしたと思うので、その辺は肝に銘じて、いろいろな面でそれが実行できるようにしていきたいと思う。今回おまとめいただいたものをしっかりと実現するということを改めてお約束申し上げて、これまでのいろいろな御協力に対する感謝と、御協力に対するお礼にしたいと思う。本当にありがとうございました。

【木村座長】  どうもありがとうございました。

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