国際協力推進会議(平成24年度)(第3回) 議事録

1.日時

平成24年12月20日(木曜日)16時00分~18時00分

2.場所

文部科学省旧庁舎5階 文化庁特別会議室

3.議題

  1. 平成23年度中間報告書を踏まえた国際教育協力の実施方策について
  2. 平成24年度中間報告書(提言)のイメージについて

4.出席者

委員

木村座長、井上副座長、内田委員、江原委員、大野委員、岡本委員、讃井委員、清水委員、田中委員、平井委員、細野委員、青木主査(冨澤委員代理)

文部科学省

山中文部科学審議官、加藤国際統括官、永山国際課長 外

オブザーバー

(外務省) 梶本中南米局南米課課長補佐、狩俣国際協力局地球規模課題総括課企画官 外
(経済産業省) 田村通商政策局米州課中南米室長 外
(独立行政法人国際協力機構) 亀井人間開発部基礎教育第一課長

5.議事録

○平成23年度の中間報告書のフォローアップについて、事務局から参考資料に基づき説明があった後、自由討議が行われた。

<事務局説明>
【犬塚国際課企画調整室長】  平成23年度中間報告書フォローアップは、中間報告書の進むべき方向性とその主なポイントについて、現在の対応状況と今後の対応策にまとめている。
 「共通」部分について、ニーズを正確に把握し、自助努力を育てるような協力を行うことに関して、現在の対応状況は、ベトナム・カントー国際大学への支援については、JICAが2012年8月に基礎情報収集調査結果を提出して、カントー大学への支援を優先的に進めることが決定され、ベトナム政府に通報されたところである。カントー大学の方で具体的なプロポーザルを作成しており、今後、日本側からも大学の先生方を含めた調査団を派遣する段取りになっている。
ラオス、ベトナム、カンボジアでは、コミュニティ・イニシアティブによる初等教育改善プロジェクトが実施されており、地域住民が主体的に学校の環境改善を計画・実施することにより、学校教育への意識が高まった。このような各国の動き、それから、各国の要求に基づいて対応を各省と連携して行っている。
 新たな協力枠組み――プラットフォームの構築については、官だけではなく、産、学とともに戦略を練るような土台をつくるべきという指摘を頂いた。まさに今回の国際協力推進会議においては、産学官の多様な領域における専門家に参加いただき、オールジャパンの体制で南米への国際協力教育の在り方を中心に検討いただくこととしたという体制、枠組みのところで一歩進めたところである。
 また、内閣官房及び外務省が中心となって、関係省庁及び民間企業等からなるミャンマー官民連携タスクフォースが本年7月に設置されて、各省庁・機関の対ミャンマー協力の取組及びミャンマー側に要請すべきポイントに関して、情報共有を行っている。
 産業界によるさらなる貢献と連携による相乗効果の発揮について、基本的に産業界の方々にインターンシップの受入れというところで連携、協力を得ているところである。また、奨学金については、独立行政法人日本学生支援機構によると、2011年11月現在、139の民間団体の奨学金が設けられている。
メコン諸国で急務となっている雇用に直結する産業人材の育成に関しては、日本企業のニーズを踏まえたJICAや海外産業人材育成協会のプログラム拡充を求めている。
 大学の知見を国際協力に一層活用した相乗効果の発揮については、外務省と共催でシンポジウム「大学とODA」を7月に開催して、大学がODA事業に参画する方法や大学にとってのメリットに関する情報提供を行うとともに、既に行われている事例について、経験の共有を行った。
 今後の対応策としては、大学とODAの分野別ワークショップを今後開催する予定であり、また、名古屋大学ではCALEで蓄積した国際協力事業に必要なノウハウを全学的に普及させるための研修プログラムを開発したり、全学的検討を行い、規程改正を含めた処遇の整備を目指すという動きになっている。
 また、大学評価・学位授与機構における今後の取組についても、新興国からの政府派遣留学生については、文科省、外務省が連携した取組を継続予定だが、特にブラジルの「国境無き科学」については、学部、博士、ポスドクを合わせて3年間で4,000人を受け入れられるように調整を行っている。
 国際協力の現場を活用した「グローバル人材育成」の推進については、SEED-Netの枠組みを活用した日本と海外の大学の共同研究実施の際に、日本の学生が現地に滞在して研究活動等を行う事例などがある。また、今後、SEED-Netのみならず、MJIITとの間においても、日本の大学との共同研究を通じて、日本の学生が現地に滞在して研究活動等を行う可能性がある。
 専修学校、高専が有する技術の対外発信に関しては、専修学校は、地域産業界、自治体等とも連携しつつ、留学生の就職、生活支援の取組を総合的に推進するための経費を措置している。専門学校では、学習成果を海外で証明できる仕組みの構築に向けた検討を行うため、成長分野等における中核的専門人材育成の戦略的推進企画推進委員会にグローバル専門人材ワーキンググループを設置した。
 高専では、国立高等専門学校機構において、シンガポール、タイ、香港、台湾の大学等と包括交流協定を締結して、学生・教職員の相互交流や国際シンポジウムの開催等を行うとともに、さらなる交流拠点の拡充に取り組んでいる。
 地域ごとの提言に対するフォローアップ状況に関しては、ASEANについては、多様性に応じた教育協力及び「三角協力」の推進ということで、SEED-Netの枠組みにおいては、先発のASEANの大学が後発のASEANの大学を支援する仕組み、三角協力の枠組みが効果的に機能しており好事例となっている。
 また、2013年3月から始まるSEED-Netのフェーズ3において新たに加盟する大学は、先発のASEAN諸国の大学院レベルの教育が確立している大学及び日本の大学にドナーを限定し、ネットワークとしての教育・研究能力の底上げにつながる大学という観点から強化を図ってきている。
 AUN/SEED-Netのオールジャパンでの活用については、今後フェーズ3に入るが、フェーズ2の終了時点でプロジェクトの評価を行った。その活動評価の中でも、産業界も含めたオールジャパンの活動につながるような評価の視点を入れた。
 平成24年度の大学の世界展開力強化事業(ASEAN諸国等との大学間交流形成支援)は、我が省のプログラムであるが、12大学14プログラムを採択した。本事業において、ダブルディグリー・プログラム等による質の保証を伴った日本とASEAN等の学生の交流プログラムを実施している。
 SEAMEOへの協力の推進では、SEAMEOカレッジへの協力について、SEAMEO事務局と話し合っている。2013年3月に実施予定の科学技術政策研究所の未来予測、デルファイに係る短期研修会にSEAMEOセンターの職員が参加できる旨、SEAMEOセンター長会議で発表し、募集を募っており、SEAMEOカレッジへの協力の一つとして進め始めている。
 中東地域に関しては、円滑な留学生の受入れということで、相手国からの要望に応じて対応可能な範囲で教育協力を行っている。一方、ODAを活用できないため、対応は限定的になっているのが現状である。先方の応分の資金負担を引き出しながら行っている。
 また、平成16年4月にアラブ首長国連邦との間で高等教育及び科学研究の協力に係る覚書に署名し、22年7月には、サウジアラビアとの間で同様の覚書に署名している。相手国の要望に応じて対応可能な範囲でということであるが、平成16年アラブ首長国連邦との覚書の中には、留学生の受入れ、派遣での協力が書かれている。
 私は、先日、アラブ首長国連邦の教育省に行って、昨日はアブダビの教育関連の部局に行ってきた。先方は、日本に留学生を送るために、留学生派遣先の大学のリストを作成しようとしており、そのリストへの協力、また、これは経産省の予算になると思うが、アブダビ、UAEの関係者を日本に招聘(しょうへい)して、留学生を受け入れられると思われる大学を見てもらう受入れのプログラム、また、先方での留学生へのセミナーを来年度ぐらいに開催することも含めて意見交換し、今後のアクションプランを検討してきた。そういう形で、相手国の希望や関心を丁寧に捉えて、引き続き、日本への留学、日本からの派遣も視野に入れて検討し対応していきたいと思っている。
 日本・サウジアラビア産業協力合同タスクフォースは開始から5年目を迎えたが、投資促進、人材育成支援、中小企業政策支援を実施している。人材育成支援分野では、自動車、プラスチック加工、電気電子・家電製品の3分野で職業訓練研修を展開し、サウジ人の人材育成、雇用促進に貢献している。今後、タスクフォースを延長して、2国間の産業協力を発展させる予定である。
 また、今年3月末にTVTCと東海大学、東京工科大学、ものつくり大学の3大学と契約書を締結して、今年9月、21名のTVTCの卒業生が、3大学の附属の日本語学校に留学のため来日し、既に日本語コースが開始されている。別途、本件プログラムの専任エージェントとして、JICEと同3大学の間で業務請負契約書を締結した。
 理数科・工学系教育支援の推進では、サウジアラビア王国のジェッタ市内の複数の私立の進学校に対して、他の案件で開発された「ものづくり理科教育講座」の模擬授業を提案すべく、提案内容の検討を行っている。取りまとめ次第、両校を訪問してプレゼンテーションを実施する予定である。E-JUST等の理事会で、大学側から、当該大学の専攻に理工系分野に加えて人文社会系分野の専攻を加えるとの提案があったが、理事会からの意見として、理工系分野に特化した形で進めるべきということで、その方向でまとまっている。
 女子教育支援の推進では、5女子大――お茶の水大学、津田塾大、東京女子大、奈良女子大、日本女子大のコンソーシアムでアフガニスタンの指導的女子教育者のための研修を実施している。今後の対応策だが、JICAによる援助戦略の見直しで、より現地ニーズを踏まえた研修にするため、JICA青年研修として男女にかかわりなく支援する方向に変更になっている。


<質疑応答>
【大野委員】  現在の対応状況というのは、中間報告書が出される以前から取り組まれているものも含まれているか。

【犬塚国際課企画調整室長】  含まれている。

【大野委員】  中間報告書が出る前からやってきているものが多いのであれば、「今後の対応方策」だけが今後なのか。現在の対応状況は、新たな取組も含めて書いているという理解で良いか。

【犬塚国際課企画調整室長】  現在の対応状況は、今年の3月にまとめていただいてから、新たな予算が確保できたというフェーズでもないので、大きな動きがあるわけではない。それに加えて、報告書の内容が多岐にわたっており、具体案につながるところまでまだ政策的に考えないといけないところがある。
 今回、先生方にまとめていただく報告書の中では、もう1つ踏み込んでいただいて、具体的なところまで少しでも盛り込んでいただければと思う。具体的なプログラムの御示唆をいただけると、フォローアップしやすい。

【大野委員】  今、国際協力は大きな転換点に来ているという認識のもと、中間報告書は、少し背伸びすることも覚悟した上で、こうあるべきだと踏み出して、新しいプラットフォームや、産学官の連携などを書かせていただいた。しかし、実際フォローされるときには、省内でできることと、他省との調整が必要なことがいろいろあると思うので、それは理解する。
文科省を超える取組などで具体的な対応がそう簡単にはできない場合は、逆にそういったことを検討する。例えば省内でチームをつくったとか、財務省と相談し始めたとか、外務省とはこういうことを始めているとか、そういった1つのステップでもいいので書いてはいかがか。実際には、中間報告書が打ち出した方向で実現できるかどうかは政治的な判断が要るかもしれないという点は理解している。しかしながら、中間報告書をふまえて、どういう方向で検討が始まっているのかがわかる形で示されるといい。
 全てについて実現するのは非常に難しいことは皆わかっているので、既に取り組まれているような、官民連携によるベトナムやミャンマーへの協力であれば、その中で、中間報告の精神を生かして、文科省としては、例えば人材育成についてこういった取組を盛り込んでいきたいと考えているとか、そういう形でまとめていくのも一案ではないかと思う。

【犬塚国際課企画調整室長】  そういう意味では、「大学とODA」というシンポジウムを外務省と共催で開いたが、これは、大学が地元自治体や地元企業と連携して行っている活動があり、それを海外でも生かせるのではないかということで、大学の先生方、地元企業の方々にも声をかけて参加いただいたものである。基本的には関係省庁と連携しながらやっているが、これからプロジェクトを考えていくに当たって、先生方にまとめていただいた報告書を踏まえながら進めたとことがわかるように整理していきたいと思う。

【大野委員】  名古屋大学で、国際協力事業に必要なノウハウを全学的に普及させるための研修プログラムの開発や、全学的検討を行って規程改正を含めた処遇の整備を目指すとある。例えばどういうことをしようとされているのか。規程の改正や、研修プログラムについて、もう少し詳しく教えていただきたい。これは名古屋大学のイニシアティブとして始まっていることか。名古屋大学の知見を生かした国際協力の取組で、規程改正を含めた処遇の整備とはどういうことをしようとしているのか。

【犬塚国際課企画調整室長】  名古屋大学では、法政国際教育協力研究センター(CALE)において、国際協力事業に必要なノウハウを全学的に普及させるための研修プログラムを開発している。具体的には、日本法教育研究センター等の海外事務所の運営に際し、相手国固有の事情や法制度に造詣の深いCALEにおいて、事務局等の海外での活動を促進するため、海外視察研修や情報交換会の開催を実施している。
また、日本法教育研究センター等、海外事務所での活動のために、職員を長期滞在させるとともに、「現地スタッフ」を雇用し業務を遂行しているが、勤務時間等の労働条件、所得税、社会保険等様々な問題が生じている。これらの課題を解決するため全学的に検討を開始し、規程改正を含めて処遇の整備を目指している。

【木村座長】  犬塚室長が昨日アブダビから帰られたので、アブダビの状況について紹介いただきたい。

【犬塚国際課企画調整室長】  UAEは、UAE政府奨学金とアブダビ政府奨学金で留学生を各国に派遣しているが、UAEの教育省のリストに日本の大学が明確に含まれてなく、30程度の大学の精査や新たな大学の追加等について協力できないかということで、UAEの教育省と会談した。
 また、アブダビの教育関係部局と同じように会談したが、両方とも、政府奨学金で学生を派遣したいが、どういう大学があるかという相談だった。UAEの方は30程度検討しているが、今後、日本側から、大学を提案できるように調整を行おうと思っている。一方、アブダビの方は、日本が入っているリストがない状態なので、そのリストに入れるために、調整しなければいけない。
 UAEとアブダビが求めているような大学の行き先は同じではなくて、UAEの方は、日本で最先端の、ランキングでいえば上の方の大学に行きたい、工学系、理学系の分野で行きたいという話があった。
 一方、アブダビの方は、大学のリストをつくるに当たって、日本の大学のクオリティーが高いことはわかっているが、イスラム圏の方が留学するときの受入れ体制、家族の方も含めてこられる場合もあるが、その場合の環境がむしろ重要と考えている。UAEから日本の大学に受け入れているところも既にあるので、そういう大学のリストを提供することも含めて今後意見交換をしていくことになっている。
 もう1点、授業で使う言語については、日本の大学に英語で行う授業があることも示しながら意見交換をしてきたが、両先方は、英語で授業を行う大学にも関心があるし、日本語で授業を行う大学にも関心があるということだった。特にアブダビの方は、英語であればアメリカやイギリスの大学に行けばいいから、日本に行く場合は日本語の大学でもいいと仰(おっしゃ)っていた。
留学生数は、UAEから多いときで14名ぐらいを毎年日本に受け入れている。その中の日本の国費留学生は1名、ほかはUAEの教育省の留学生、プラスUAE側の民間の留学制度で来ている学生である。アブダビの留学生は、リストがまだない。UAEからの留学生をオーストラリアが4年間で40名ぐらいから700名ぐらいに増やす政策を意欲的に行っているが、UAE側は、そういうものを持ち出しながら、日本もそういう展開を考えていけるのではないかと言っていた。まだ話を始めたところなので、具体的にコミットするような人数は提示されていない。両方とも3桁になるといいが、なかなか難しいところがあると思う。

【井上副座長】  中東地域との協力において、理数系・工学系教育支援の推進で、サウジアラビアのジェッダのケースがあるが、JICEの方で提案内容を検討中とある。前回の中間報告のときに、言語を何でやるのかが議論になったが、これは英語で行うのか、日本語で行うのか、アラビア語で行うのか。複数の私立進学校というのは、高等学校レベルか。

【犬塚国際課企画調整室長】  英語で行う。中学校又は高等学校、又は両方を対象とするかは確定していない。

○平成24年度中間報告書のイメージについて、事務局から資料2に基づき説明があった後、自由討議が行われた。

<事務局説明>
【犬塚国際課企画調整室長】  平成24年度中間報告書の構成は、「1.日本と南米諸国間の教育交流・協力」、「2.現状と課題」、「3.進むべき方向性」、「4.おわりに」という、4つの章の構成をイメージしている。
 「1.日本と南米諸国間の教育交流・協力」では、南米諸国の概要、日本と南米諸国間の教育交流の重要性、産学官連携等による教育交流・協力という柱立てで、今後、先生方の御示唆も含めながら、ドラフトさせていただきたい。
 「2.現状と課題」と「3.進むべき方向性」は、「初等中等教育」、「高等教育」、「その他」の3つに分けている。
 「現状と課題」の初等中等教育関連では、2008年に30万人とピークに達した在日ブラジル人の数は、その後、日本の経済後退やブラジル本国の経済成長によって3分の1がブラジルに帰国して、現在は21万人まで減少しているが、日本に居住する外国人数で見ると、ブラジルは、韓国、中国に次いで3番目に多い国であり、21万人のうち4万5,000人が初等中等教育対象年齢であることを記載した。
「進むべき方向性」は、先生方から頂いた知見をまとめている。「初等中等教育関連」では、「虹の架け橋教室」等で日本語を習得した在日日系ブラジル人等が、母国へ帰国した後に日本語を広める上で大きな役割を果たしてくれるものと期待できるのではないか。
 理数科教育については、中米の教育協力という形でホンジュラスのもとにある組織とJICAが長期間協力して、学習指導要領や教科書を整備する等して算数教育のレベルを高めたという実績を紹介いただいたと思うが、それに鑑みて、日本の当該ノウハウを輸出することにより中南米諸国の教育ニーズにマッチした教育協力に貢献できるものと思料。
 ブラジルなど、教育へのアクセスが一定水準以上実現できている南米諸国にあっては、それに加えて地球市民教育や教育の質の向上を図る上で不可欠となる持続発展教育(ESD)の視点を盛り込んだ教育協力を行うことが必要。
 南米では人材育成を基盤とした国づくりが課題となっており、従来からの大きな貧困格差をなくすことにもつながる教育課程等の支援を目指すべきである。
 日本企業が従来から行っている海外での社会的責任活動については、今後ともより活発に取り組むことにより、定住外国人子弟の本国への帰国に際して、現地学校や社会への適応支援が行われることを期待。
 高等教育関連では、留学生交流の推進については、ブラジルを始め南米諸国から日本への留学生は、2011年度には前年度比18.1%減少している。我が国の留学生受入れ30万人計画を踏まえて、ブラジルやアルゼンチン等における日本への留学生派遣プロジェクトの活用等を行って、受入数の増加を図ることが必要。また、これらの国で留学生フェア、セミナー等の定期的な実施が有効。
 ブラジルの「国境無き科学」プロジェクトによる留学生の優先学部は、化学、生物学、ナノバイオテクノロジー、航空工学、石油・ガスなどである。相手国に固有の重点分野や、その国を対象とした大きな目的に応じて、相手国が真に必要とする分野に協力することによって、将来的な人的ネットワークの形成につながるなど、両国の関係を強固なものとすることは可能。
 日本に住んで日本文化や日本語をある程度理解している在日ブラジル人の子弟がブラジルに帰国後、例えばブラジルで大学学部レベルまで在学し、「国境無き科学」の制度で日本の大学院に留学して戻ってくるという日本に留学する流れができれば、両国のかけ橋となる人材養成が効果的に行えるのではないか。
 チリ、ペルー、コロンビアなどは、日本との貿易投資関係が最近活発化しており、かつ、日本への留学経験者が多く、継続的な人的な交流が非常に重要。今後も良好な関係を続けていくためには、受入れ学生数の増が必要。
 また、日本とメキシコとの間の交流の中で、40年以上にわたって毎年100人の両国の学生、研究者、企業の人々が交流しているが、現地に詳しい中南米諸国との橋渡しをしているような方が育っている等、目に見えないところで大きな効果があったことは事実。これと同様の南米向けの重点的な留学プログラムができれば、非常に効果的ではないか。
 国費外国人留学生の教員研修留学生制度については、我が国の国立大学の教員養成系学部に海外の教員を招いて1年半程度トレーニングをするプログラムであり、30年近くの実績がある。ペルーやブラジル等南米からも多くの教員が採用されており、帰国した教員とのネットワークをつくる等フォローアップを行い、南米諸国の教育協力の柱として位置づけて、両国で連携して実施していくことも一考である。
 一定期間、南米諸国側学生を本邦で受け入れるとともに、本邦学生を現地に派遣することによって、日本人学生は、短期間であっても現地で多様かつ優秀な人材と交流する機会が得られ、国際協力やグローバル人材としての意識が高まることが期待できる。
 「国境無き科学」等のプログラムでたくさんの留学生を受け入れる場合においては、アジアの窓口としての日本、日本の大学に来ることによってアジアも含めていろいろな人と知り合い、人脈ができる、アジアへのネットワークを広げることができるという魅力をアピールすることが重要ではないか。
 ブラジルの「国境無き科学」では、ブラジル側から、留学期間中のインターンとしての受入れについて要望がある。将来的に、インターンを経験した学生が母国の日系企業等でエンジニア等有益な人材として採用される可能性もある。
 人材育成というカテゴリーだが、高等教育分野での国際協力として、アジアのSEED-Netや中東のE-JUST等のプロジェクトが順調に進捗しているところであるので、南米でも不足が指摘されている工学系人材の育成に資する同様のモデルを検討していくべき。その場合は、南米は日系人というバックグラウンドを持つ方もいらっしゃるので、ある程度、国、地域を絞った形でプログラムをつくって、必要に応じ南米にある地域ネットワークも活用させていただきながら、徐々に広げていく方法も考えられる。
 これまでの国際教育協力は、特定の教員が非常に熱心にやっているケースがあり、当該教員が退職等で不在になるとその後は途絶えてしまうということが多いことも現実なので、国際教育協力を組織的に継続していくためには、組織として継承していくような工夫が必要である。
 研究の分野では、JST(科学技術振興機構)とJICAが行うSATREPS、地球規模課題対応国際科学技術協力がある。これは、大きなポテンシャルを持っており、科学技術分野における日本の南米への教育協力の重要なアプローチになるものと期待。
 「進むべき方向性」の「その他」は、「集中」という視点に関連したものである。我が国の予算、マンパワーを効果的に活用するため、プロジェクトの集中を考えることが必要である。すなわち、科学、バイオテクノロジー、ナノテクノロジー、航空工学、石油・ガス採掘工学、新素材、造船学、地震災害対策、天文学、鉄道、品質管理など、相手国固有の重点分野や、その国を対象として大きな政策という目的に応じて、相手国が真に必要とする分野への集中。また、技術訓練所等をつくる場合、各国につくるのではなく、二、三か国に1つぐらいに集中して行う。そこに近隣から技術を教える指導者を招聘(しょうへい)していく。研修等の対象を一般学生だけではなくて、彼らを教える教員やリーダーに広げて集中していく。
 日本の先進の技術やシステムを相手国に伝えるのに加えて、今まで日本が支援してきた相手国が、第三国に対して協力する南南協力を促進する。
 JICAは、ODAのサクセスストーリーなどを、英語やその他の言語、特にスペイン語やポルトガル語に翻訳して、南米諸国に対して情報発信をすることも一考である。
 日系企業は現地ニーズをある程度つかんでいると思われ、当該人材養成のニーズに日本の高等教育機関がどれだけ応えていくことができるかがキーポイントである。そのためには、どの国でどのような人材養成のニーズがあるかを把握している日系企業に例えばアンケート方式などで聴取して、現地の人材ニーズを見極めた上で、我が国の具体的な教育協力を考えるのが効果的である。

【江原委員】  今までの案が大体網羅されて、こういうところが核になると思うが、初等中等教育と高等教育の接続が難しいところが人材養成の一番の課題だと思う。例えばブラジルのドイツ人学校は私立で初中等の段階を持っているが、そこからドイツの大学に留学して、向こうで訓練を受けた人がブラジルに帰国して就職すると聞く。
 また、ブラジルにあるアメリカンスクールもそういうことができて、アメリカの課程を履修しながらブラジルの課程も履修して、ブラジルからアメリカへ留学する仕掛けがある。
 しかし、日本の場合はなかなか難しくてできていない。例えばブラジルに日系人のつくった学校があるが、ドイツ人学校のように日本の大学に来られるようにはなっていない。
 どうしたらいいかはわからないが、昔からブラジルの日系人社会に日伯学園構想があった。日伯学園とは日本とブラジルの学園構想だが、1980年代終わりぐらいから出ては消え出ては消えで、日本の移民祭、ブラジルの移民の記念100年祭のときも、現地の方では、日伯学園ができたらいいと一部の人は言っていたが、その後、結局潰れてしまって、今は何もないということである。
 しかし、例えばメキシコには日墨学院があり、現地の人材、日本の人材を両方育てることができている。ブラジルの150万人日系人社会の中で、そういう仕掛けができないか。
 ただ、日伯学園をゼロからつくるのは、相当難しいと思う。ブラジル人の意見によると、今、ブラジルの日系人社会の中で非常に成功している私立学校がある。日系人がつくった私立学校で、ブラジルの教育課程を適用しているが、日本語教育を放課後等に行っている。
 そういう学校を出た人が日本の大学へ来ることができるのであれば、向こうにいる日系人は、この学校から日本の大学へ進学する夢ができる。また、日本とブラジルの長い協力の歴史のシンボルとして、そういうものがあってもいいのではないかと思う。短期ではないが、高校と大学の接続の便宜も考えることができないかというアイデアである。

【木村座長】  私も移民100年祭に行ったが、確かにそういう話があった。しかし、私は、全体としてパワーは余りないという印象を受けた。その意味で、今おっしゃったようなプロジェクトを実行するのは大変ではないかと思う。3世、4世の方の顔が日本へほとんど向いていないことを1世、2世の方は嘆いておられた。

【平井委員】  「進むべき方向性」の初等中等、高等教育の関連だが、この文章の表現が、例えば初等中等教育関連で、「してくれるものと期待」、「貢献できるものと思料」というのは誰が主体的にやっていこうとしているのか。これは、ブラジルにやってくださいと言っているのか、我々日本側も協力するのでやりましょうということなのか。この文章の書き方を見ると、ブラジルはこうやってきているので、こういうものを現地でやってくださいという、お任せの印象がある。
 2点目だが、初等中等教育関連で、「「虹の架け橋教室」等で日本語を習得した在日日系ブラジル人等が、母国へ帰国した後に日本語を広める上で大きな役割を果たしてくれるものと期待」とある。今、日本にいらっしゃるお子さんたちは、企業の工場などに家族で来て、何年かして帰る方が、割合としては多いと思うが、子供たちがブラジルに帰って、日本で学んだ日本語を現地に帰って広めるような役割はできるのか。
 というのは、今、日本に来られている日系のブラジル人の方々は、帰ったら帰ったで自分たちの生活にまず一生懸命になってしまって、子供たちが日本で学んだ日本語を広めるような役割ができるのか。ある程度システム的にやるべきではないか。
 日墨学院は日本人のお子さんとメキシコのお子さんが一緒に勉強する。日墨学院に来るメキシコの人たちは、官庁や地元の大企業の役員になるようなレベルの人たちが多い。やはりある程度どういう形でシステム的に拡充して、内容を充実していくかをもう少し入れた方がいいと思う。全てお任せして、期待、貢献と、書いている印象がある。

【木村座長】  確かに、任せるというのではなくて、日本が主体性を持ってプロジェクトを進めていくという書き方にしないといけないと思う。

【内田委員】  ここに書かれているのは、これまでの議論をまとめたということだが、方向性には、観点と論理の2つが必要で、ここではそれが余り見えていない。論理を立てるときにどういうことがポイントになるかというと、ASEANや中東と違って、ブラジルには日系人が150万人ぐらいいる。そうすると、1つの議論の焦点は日系ブラジル人に対してどう考えるかということだが、その場合、在日の日系ブラジル人に対する話と、在ブラジルの日系ブラジル人に対する話では議論の立て方が違うので、明確にした方がいい。これは、初等中等教育と高等教育の全てにおいて当てはまると思う。
 2点目は、南米地域といっても地域の違いがある。これまでの議論ではブラジルに焦点を合わせていたので、ブラジルと南米全体とのめり張りをつけて議論することが必要だと思う。
 3点目は、この議論では特に、教育とそれ以外の関連性を強化することが重要である。例えば、ブラジルにおける日系企業の観点や、経産省や外務省の観点もあると思うので、産学官という場合も、文科省だけではなく産学官の連携をどうするかという観点は重要だと思う。
 4点目は、日本をどう見せるかということである。ブラジルから見た場合に、中国との関係は非常に重要だと思われるが、中国との対比で日本を売り込むには、ここにも出ているようにアジアへのゲートウエーということである。中国の場合には、政治的、経済的な体制の不安定な問題がある。そういう中で、日本が、北東アジアだけでなくて東南アジアを含めてそこへ出る際の拠点であって、日本にはそういうところから学生がたくさん来ているので、日本ではうまくミックスできるという議論を立てることが必要だと思う。
 5点目に、「集中」に関する部分は、大変すぐれていると思う。リーダー層をつくる、そして、その人たちがブラジルのみならず南米の国々において、日本型の初等中等教育や高等教育も含めて、日本の国際的な教育政策の展開の橋渡しをして、広めていく。そういう指導的人材をつくることに力点を置く際、予算やマンパワーなどの限定がある以上は、「集中」が重要である。
 6点目に、個人から組織へという流れ、あるいはどういう制度をつくるかが重要だという視点も入れて、これまでの議論をまとめていただけるとよいと思う。

【大野委員】  2点だけコメントしたい。1つは、ブラジルの「国境無き科学」プロジェクトだが、これは前回の議論でも関心が集まったが、同時に、ブラジル側の考え方、思わくと、日本側とどこまで合うか、いろいろなところのすり合わせや調整が必要と伺った。
 いろいろな困難があるのかもしれないが、これはある意味では、産学官の連携や「Beyond ODA」という発想での取組を考えたときに、1つのモデル的な事業の候補になり得るという気がする。ブラジル側の思わくと日本側の意図の調整にある程度折り合いがつくのであれば、先方の資金を動員して、1年に1,300人、3年間で4,000人といった形でブラジル人留学生を受け入れる機会を日本としても有効に活用すべき。相手国にとって将来の人材育成を強化したい分野であり、同時に、日本の企業も関心があるのであれば、将来のブラジルとのネットワークの構築やインターン受入れに意識的に取り組み、モデル事業として位置づけては如何(いかが)か。モデル事業としてやっていくために、場合によっては、JICAの専門家などの協力を得て、現場でニーズ調査やアンケート調査を行う可能性も検討の余地があるかもしれない。日本として、新興国の留学生との交流を産学官の連携として「Beyond ODA」の取組として位置づけ推進していくのであれば、そのように明確に書いた方がいい。
 日本をアジアの窓口としてのゲートウエーとして見せていくことについて、確かにそういったポテンシャルは大いにあろう。しかし、英語で議論できるシンガポールやマレーシアは、今、大学の国際化を率先して行っていて、多くの留学生が世界中から来ている。そういった競争相手の国があることも念頭に置いた上で、日本がアジアへのゲートウエーとしての役割を果たすためには、具体的にどういうことをした方がいいか、しなければいけないか、何を売り込んでいくのかなど、戦略、やるべきこと、あるいは日本のアピールポイントなどをきめ細やかに考え、書きこんでいくべき。さもなければ、難しいと思う。

【細野委員】  進むべき方向性の在り方を考えるためには、課題をしっかりと捉える必要があって、何が課題かをしっかりと捉えることも大事だと思う。
 その観点から改めて考えると、ラテンアメリカは、中東、アジアと比べて、どこが違って、どういうメリットがあるのかというあたりからしっかり議論する必要があって、フルにそのメリットを生かすためにどういうことが必要かという課題、そして、その課題に立って、どういう方向性で取り組んでいくかというストーリーラインを中間報告書でしっかりと書き込んでいっていただけるといい。
 2点目は、ラテンアメリカは、日系の方が橋渡しをしてくださる状況にあって、なおかつ、ラテンアメリカは、アジアと並ぶ非常に重要な成長センターになってきている。産油国を中心とする中東とはその点でまた違うと思う。アジアが恐らく最も大きな成長センターだが、様々な問題があるアジアと、日本と普遍的価値を共有しているラテンアメリカは、かなり違いがある。
 また、ラテンアメリカは基本的に非常に安定した大陸であって、非核の地域でもあるし、普遍的価値観はかなり共通している。
 更に各論に入っていくと、ブラジルを含め、中南米の多くの国々で日本企業が活動を高めている中で、その活動に資するような様々な協力も必要になってきている。他方で、ラテンアメリカ諸国は、科学技術を含む一層の高度化を目指している。そういう状況にあることを押さえる必要があると思う。
 アジアのゲートウエーとしての日本という点は、シンガポールとの競争などあるので、何をすれば、競争しながら、アジアのゲートウエーとしての魅力を日本が発揮できるかをしっかりと捉える必要があると思うが、そういった特徴を持つ日本とラテンアメリカ諸国の関係を踏まえて、どういう課題があるかということに移行していくかと思う。
 課題は、チャンスをいかに生かしていけるかだと思う。チャンスを生かすために必要なのは、産学官が一体となって補い合いながら、力を合わせて連携しつつ、先方の新たなニーズ、あるいは日本企業の活動のニーズに応えていくことだと思う。
 官の予算は、財政上の制約がある中でまさに選択と集中をせざるを得ない部分があり、学は学で、予算が限られている。しかし、人材や科学技術の蓄積があり、それを利用することができる。官も学も持っているリソースがあり、産も使えるリソースがある。これがばらばらであるとそれをうまく一体化できないので、連携するシステムが南米に向けてうまくつくれるといい。
 先ほど、個人から組織へという話もあったが、国際協力予算が非常に少ないために、熱心な先生がそれを工面なさっているが、その方が定年でやめられると、そのエネルギーが失われてしまうという指摘が先ほどあったが、それを乗り越えるためにも組織化を勧めることが必要だと考える。
 産学官の連携を収れんさせていく対象だが、基本的にはブラジルのシエシア・シン・フロンテーら(「国境なき科学」)プロジェクトに産学官でどう対応していくかが非常に具体的でわかりやすく、成果を発揮できる分野だと思う。
 チリも同様のプロジェクトを持っている。チリは南米では唯一のOECD加盟国で、学術的にも先進的なので、中南米の留学生を集めている。そういうところが目指している、ブラジルと同様のプロジェクトへの対応などは可能だと思う。
 日墨学院をモデルにした、日伯学園の可能性についても発言があった。現地日本人学校では日本語で教えているが、現地のアメリカンスクールなどと連携をして、インターナショナルバカロレアのような国際的に通用する教育を目指し、進出した企業の方々が安心してお子さんの教育ができるような条件をつくることが重要である。今、海外に日本人が行かない原因は、海外へ出るほど教育面で不利になっているからではないか。現地日本人学校は既にいろいろやっておられると思うが、グローバル人材のお子様たちがきちんと勉強できる条件が十分に整っているのかどうか、この辺も書き込んでいただけると有り難い。
 別紙2-3の第1パラグラフの下から2行目、「これまで日本が育てた先進発展途上国を」というと、いかにも先進発展途上国を日本が育てたように聞こえてしまうので、「先進的あるいは先発の発展途上国において、日本が国際協力等を通じてその発展に協力した研究機関や大学を通じた南南協力等を促進する」と、表現を工夫していただくと良い。
 南南協力、三角協力は、最近、世界的に脚光を浴びているので、このことの指摘は大変いいと思う。たまたま国際問題研究所の『国際問題』という雑誌の最新号にODA特集があり、その中で南南協力、三角協力の議論もさせていただいているので、参考にしていただきたい。この中に、日本がJICAを通じてつくった、センター・オブ・エクセレンスがたくさんできていることを強調した。ペルーでの地震研究も、中米にある算数教育もセンター・オブ・エクセレンスである。これは調べていくとたくさんある。ブラジルには非常に多い。そういうものをうまく活用した南南協力・三角協力は大きな成果をもたらしうると考える。

【岡本委員】  日系人の社会がしっかりしている南米の国は、日系人は非常に高く評価されているので、そこにおいて日本の優位性はあると思う。
 先般、ブラジルへ行ったが、「国境無き科学」は、今のままだと、どこの国との違いもない。そこに企業のセットを、産学の何らかのプラスアルファの支援を国としてつける必要がある。
 ブラジルの学生がどこの大学を選ぶかは、どういうインターンシップがあるかが一番の評価になっている。ヒュンダイやサムスンは、世界中に散らばっている「国境無き科学」の学生を、旅費全部と滞在費も出して囲い込んでおり、アメリカの企業も同様のことを行っている。そういうことを日本の企業にも情報共有して、インターンシップの経費を省庁横断的な経費でつけるということをやらないといけないと思う。
 初等中等教育については、日系人社会は信用されている。日本のすばらしい義務教育の、清掃教育やアクセシビリティー教育を南米にも輸出することが重要だと思う。

【讃井委員】  「進むべき方向性」の中で書かれている南米との国際教育協力の目的は、集約すると、長期的な日本との関係を支えるかけ橋の人材育成と、現地の発展に資する人材育成だと思う。長期的なかけ橋になる人というのは、単発で教育をしてそれで終わりということでは育っていかない。フォローアップなり、あるいは組織的な対応ということが書かれているが、何らかの制度的な対応が必要である。持続可能な仕組みをつくっておかないと挫折してしまうので、知恵を絞る必要があると思う。
 その点で、日墨交流計画は40年以上の歴史を持っており、中南米諸国との橋渡しをしている者が多く育っているという非常に成功している例として引かれていると思うが、成功要因を分析をして、それをほかのプログラムなどにも適用していくことが必要だと思う。
 現地の発展に資する人材育成は、拡大解釈をすると、現地で貢献をしている日本の企業にとって役に立つ人材の育成にもなると思う。そういう観点からは、「進むべき方向性」に書かれている「集中」という視点は、とても重要なことだと思う。
 では、どんな切り口で「集中」を考えるかというと、ここでは相手国が真に必要とする分野が書かれているが、相手国のニーズだけでいいかというと、必ずしもそうでなくて、日本が強みを持っている分野や技術、切り口、日本の企業が必要な人材を育てるための分野など、日本側のニーズも加味して「集中」ということを考えていくのが必要だと思う。

【田中委員】  共通項目に「ニーズを正確に把握し」と書いてあるが、教育の場合のニーズは、お客様のニーズと違って、本人は自覚していない場合が多い。むしろ指導者が発掘するのが教育のニーズである。そのため、かなり介入的なところもある。そういう役割を、支援のニーズにおいてももっと考える必要があると思う。
 日本人学校で日本語を教えたある教員の方によると、日本語がブラジルにおいては衰退してきており、辞典や教材がない。辞典、教材、日本語の指導者など、こういうところにニーズは埋もれているのではないか。
 これを発掘できるかというと、アンケート調査などではなかなか把握できない。特別支援教育ではニーズアセスメントと言うが、それは指導者がそのニーズに気づき、刺激し、発掘するのが教育のニーズだという。その鉱脈を当てるためには、アンケート調査よりも、目で見て、現地にいる人たちからのいろいろな情報をしっかりと受けとめる必要がある。日本の企業の方々にアンケートという一文もあるが、教育の場合には教育に関係している人たちの通信などを予備調査的に読んでおく必要があると思う。ニーズを把握する場合には、調査隊が必要ではないか。そうした研究の点で大学は協力できるところもあるし、理数系重視だけでいいのかということも、よく考えた方がいい。
 名古屋大学は5年間、法教育、法律の教育で実績を積み重ねてきていて、大学の研究の実績の積み重ねの延長線上で、プロジェクトになっている。今、日本の国立大学は、得意分野あるいは強みを持っている分野はどこか再定義するよう迫られている。大学をそうした場として使っていくためには、得意分野の問い返しをしていくとともに、コンソーシアムのような形で大学間の連携もつくっていっていただくと、ネットワークが広がるのではないかと思う。こうした援助は短期と中長期が重要で、「集中」とは重点配置ということでまとめていただいたのは非常によかったと思う。

【井上副座長】  マッチングをどうするかが非常に大事であって、ニーズとサプライをどのようにうまく組み合わせることができるかが大事だと思う。
 このペーパーで余り触れていないが、リソースをどうするか、財政的なものと人材をどうするか、どの程度の規模のものを考えているかということも必要である。東南アジアの国だと、長いおつき合いをしているから大体わかるようなところもあるが、中南米は、出張費1つとってみても東南アジアの大体3倍から5倍ぐらいかかる。その財源をどうするかというプラクティカルな視点がないといけないと思う。
 他方、プレーヤーの連携は非常に大事だと思うが、主体をはっきりさせた方がいいと思う。
 「集中」は、大変いいことだと思うが、どこの国とやるのか。ブラジルとその他南米とやるのか、それとも、ブラジルとチリとその他南米とやるのか。ブラジルとチリを重点的にやると、ほかの国の人たちは、何で自分の国の名前がないのか、日本国文部科学省は自分たちを見捨てたのかと思われてもいけない。「集中」という観点からそれを書くとしたら、腹をくくって書かなければいけないと思う。
 協力のための組織をどうするかという点については、例えば国立大学特会のときは、センターをどこかの大学につくることができたと思うが、国立大学法人法になって、こういうことができるのか。それとも、ネットワークを作るのか。その場合、ネットワークを誰が管理するのか。そういうところまで書かないと、具体な成果が出てこないと思う。

【清水委員】  フォローアップの説明を聞いた上で、今回のこの骨子、方向性をどういうふうに読み取ったらいいのかという観点で眺めていたが、フォローアップの方は、過去のことも含めた対応状況をそれぞれの項目ごとに整理をされて、「今後の対応方策」ということで、これからどういう方策をつくり出していったらいいのかという趣旨だと理解した。そうすると、「進むべき方向性」も、そういう意味でこれを提言の骨子にされることになると思うが、これは、今後の対応方策まで踏み込んだものではなくて、こういう方向でやりたいという趣旨と理解した。
 そうすると、「進むべき方向性」は、観点とロジックが整理されなければいけない。具体的な方策まで踏み込んでいくことになると、まだそこまで議論が煮詰まっていないかもしれない。方向性の議論と方策の議論が混同してしまっている部分があると思う。
 そういう意味からすると、方向性の一番のポイントは、これを政策あるいは施策に展開したときの、産学官連携での対象はどこかである。日本人の留学生か、相手国の留学生か、あるいは現地の日本企業が必要としている人材のリソースか、あるいは日系人をキーワードとして、日系人という、これまでにはない対象をピックアップして、そういう対象に対して何をしたらいいかという方向性を整理していく観点が必要だと思う。そうすると、誰のために、何のためにということがはっきりして、方策も打ち出しやすくなると思う。
 もう1点は、スケジュール性である。中長期的にやるべきことは何か。短期的にいつまでにどういう数値目標を掲げて何をするかが明確に打ち出されてくると、企業としては、インターンの受入れも含めて現実的な対応がしやすくなってくると思う。そういう意味で、タイムスケジュール性を持って、中長期的にはこういうコンセプトでやりましょうという記述があってもいいと思う。
 それから、協力というのは協力競争でもある。南米も例外ではない。ここで日本のプレゼンス、アジアのゲートウエーとして日本をアピールする。アジアのゲートウエーはシンガポールだと言う人もたくさんいる。そこで、日本の独自性、強みをどう訴えていくか。これは教育の基礎、初等教育から高等教育、企業の人材養成というところまで含めて、しっかりと見すえていかなければならない。そうしないと、施策を打ち出しても、その中に埋没してしまうリスクがある。よその国の協力戦略政策とどう違いをつけていくか、そういう方向性を持って検討をされていかれたらどうか。
 ブラジルの例だが、ペトロブラスという国営の石油・ガスの企業がある。このペトロブラスの前の総裁からうちのトップが直接聞いた話らしいが、2012年から2016年までの5年間で1,400億ドル投資する計画を持っている。この投資事業では基本的な方針として、外国のものは一切入れず、全部自国のもので実現していくと断言をしていた。
 相手国、特に新興国は、日本が「ものづくりでこういうものをお出ししますよ。だから、買ってください」ということで通用する国ではない。新興国が自立化している中で、日本の企業がどうやって活路を見いだしていくのか。相手の懐に入っていかない限り、恐らく勝ち目はないと思うし、外から持ってくるものは必要ないということになる。技術供与も、単にライセンシングで供与しますということではなくて、相手国と一緒になって企業をつくって、そこで共同の事業を生み出して、日本の強みのある技術を発揮していくというアプローチをしないと日本企業はほとんど勝ち残っていけない状況にある。
 そういうこともよく認識をしながら、どこの国をターゲットにするか。ブラジルだけでいいのか。チリが非常に教育熱心で、しかも今、太平洋連盟でもって日本に顔を向けているということであれば、戦略的にチリを攻めるというのもやり方かと思うので、その辺も含めた形での方向性の整理をしていただければ、次につなげやすいと思う。

【木村座長】  日系人を頼るのは非常に難しい気がする。4、50年前に始めていれば、強固なネットワークができたのではないかとも思うが、3世、4世の日系人であるサンパウロ大学の学生と話をしても、ほとんど日本に興味がないようであった。日系の方というのは、1つのくさびにはなるであろうが、それには頼れないという印象を受けた。ただ、そこにきずながあることは確かなので、それをうまく利用する方法も考えなくてはいけない。
 現状では、地震工学を通じて日本はペルーと非常に結びつきが強い。学問の分野でもいいが、そういうものを1つのてこにすることを考えていいと思う。
 初等中等教育もそうだが、高等教育も1つの大きな武器になる。前にもここで議論したが、SEED-Netの第3フェーズが4月からスタートする。先般、調印式に行ってきたが、新たに参画したい大学が多く、選考委員会も困ったと聞いた。それほどSEED-Netは成功している。10年間で900人の修士、ドクターを出し、その人たちが各国の工学教育のレベルを上げた。ターゲットを絞ってやると非常に大きな効果が出る良い例であろう。調印式に、予定した部屋では入り切れないぐらい人が来て、理事長は50ぐらいの文書にサインされていたが、非常に熱気があった。これはODAの関係で非常に成功した例だと思うが、そういうことが南米に対してできないかどうか考える必要があると思う。

【江原委員】  先ほど日伯学園の話をしたが、ブラジルに既にある私立学校で日系の文化を維持しているところと例えば日本の私立大学とが提携するなどの工夫をして日本の大学へ行くルートをつくったらどうか。工夫の仕方で遺産をうまく活用できないかと思う。
 ブラジルで企業の懐に入らなければいけないというのであれば、ブラジルに、CNIという、Sシステムを行っている大きな企業連盟がある。従業員の給料から1%ずつ引いたものを各州がプールして、ブラジル工業連盟という大きな組織をつくっていて、そこが企業内教育や技術革新を大変な勢いで行っている。昔、JICAもそこへ支援したという話を聞いた。
 それは、アマゾンを含む州にも広がっていて、徒弟制度のように、字が読めない労働者を教育するなどしている。ほかの南米諸国からたくさんの研修生を集めて訓練しているので、そのネットワークを日本として利用させてもらうことができないか。
 企業の懐に入って一緒にやることと共通するかもしれないが、ブラジルに対して日本が協力する、また、ブラジルが日本にという、相互関係だけを見ているが、例えば日本とブラジルが協力し合って、世界に打ち出すようなプロジェクトを協力して行うことで、日本はブラジルの勢いを借りるし、ブラジルは日本の知恵を借りつつ、世界に貢献する。ブラジルと日本の協力で始まった教育プロジェクトなり、いい教育実践のコンクールのようなものをやってもいいと思う。地球の裏側同士の国が合わさって、例えば平和と共生、開発という理念のもとにいい教育実践を集めて、中南米のネットワークを使って世界に発信して、日本とブラジルの連携をうまく世界に打ち出すことで、日本とブラジルのプレゼンスを世界に広めるプログラムを考えてもいいと思う。

【井上副座長】  SEED-Netの話は今までの成功をもとに第3期計画に入っていったが、それまでの成果を評価し、実際に現地に行って大学を訪問して、1年がかりで設計している。そうすると、進むべき方向性の中で、化学、バイオ、ナノ、航空工学、石油・ガス採掘、新素材、造船、地震、天文学、鉄道、品質管理、の1つをとっても非常に大きな分野である。ここまで集中できたといえば集中したのかもしれないが、リソースを考えた場合、もう少しお考えになった方がいいのではないか。
 他方、協力も競争だから、いつまでも検討しているのでなく急いでいろいろやらなければならず、実態の評価は誰がやってもらえるのかということもゆっくり調べてやらなければならない。急いでゆっくりと矛盾しているが、そういうことが必要だと思う。

【木村座長】  SEED-Netの場合は、幹事校になった11の大学の努力がすばらしく、現地へ行かれた工学部の先生方の数は非常に多い。カンボジアの大学に行かれたり、ベトナムの大学に行かれたり等大変な努力をされている。そういうバックアップも必要だったということである。
本日は、大所高所からの御意見をいただけたと思う。ありがとうございました。

○最後に、事務局より次回の会議での議題や今後の予定について説明がなされ、閉会した。

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