国際協力推進会議(平成24年度)(第2回) 議事録

1.日時

平成24年11月21日(水曜日)9時30分~11時30分

2.場所

文部科学省 2特別会議室
(東京都千代田区霞が関3-2-2 中央合同庁舎第7号館東館)

3.議題

  1. 対南米協力の現状と課題について

4.出席者

委員

木村座長、井上副座長、内田委員、江原委員、大野委員、桜井委員、清水委員、田中委員、冨澤委員、平井委員、細野委員

文部科学省

森口事務次官、山中文部科学審議官、加藤国際統括官、永山国際課長 外

オブザーバー

(外務省) 横林国際協力局国別開発協力第二課課長補佐 外
(経済産業省) 田村通商政策局米州課中南米室長 外
(独立行政法人国際協力機構) 亀井人間開発部基礎教育第一課長

5.議事録

○南米ワーキンググループで出された主な意見等について、事務局から資料3に基づき説明があった後、自由討議が行われた。

<事務局説明>
【三枝海外協力官】  資料3の「南米ワーキンググループで出された主な意見等」は、第1回目の推進会議で出させていただいた論点整理のペーパーを、頂いた意見をもとに膨らませている。黒字記載部分は現状、背景で、赤字記載部分は要望、課題といった形で整理をしている。
 まず、「1.背景」だが、南米は地理的に地球の真裏に位置しているが、現在では世界で最も多くの日系人を有する地域として親日派も多い。
 南米諸国はODA対象国ではあるが、中南米のGDPはASEANの約2.5倍、1人当たりGDPも中国の2倍で、ブラジルは中南米の約半分を占め、ブラジルだけでASEAN、ロシア、韓国を上回っており、有望な成長市場として期待されている。中南米は資源と食料の供給源ということで、我が国にとってはその存在意義は極めて大きい。
 中南米全体では33か国で、国連加盟国の約2割、国際場裏での発言力は高まっている。
 1970年代半ばから始まった日本の国際協力「日伯農業開発セラード・プロジェクト」によって、ブラジルの大豆生産は大幅に増えたが、中国、韓国が最近、急速に南米にアプローチをしており、特に中国がたくさんの大豆を買っている。一方、50年以上の伝統があるJICAをはじめとする日本の長い国際協力、協力関係は簡単にとってかわられるものではないと認識している。
 しかし、その後20年以上にわたる空白期間があり、南米諸国での日本の影は薄くなっている。
 他方、南米諸国は人材育成への取組や、先進諸国への留学生派遣などを進めようとしていて、我が国がそれらの要請に応えて日本のプレゼンスを再び示すことができると考える。
 次に、「2.現状と課題」だが、南米ワーキングにおける各機関のプレゼンテーションに基づいて整理している。
 まず、JICA等による協力であるが、JICAが行う教育協力の中で、南米で最も実績があるのは技術協力で3つに分類されている。
 基礎教育プロジェクトでは、主に学校運営の改善や、理数科等に係る教員研修による教員の質の向上を目的として、ペルー、コロンビア等に専門家を派遣している。また、課題別研修では、南米諸国から日本の大学等の研修プログラムに参加した研修員が、そこで策定したアクションプランを母国に持ち帰り、自分たちのアクションを事業化していくフォローアップ協力を行っている。
 地球規模課題対応国際科学技術協力―SATREPSについては、平成20年度から始まっている。開発途上国と我が国の国際共同研究を通じて、地球規模課題の解決と人材育成を目指すもの。
中南米では、ブラジルが最も案件数が多くなっている。プロジェクトの例として、ブラジルで温室効果ガス排出削減の制度設計のために森林に蓄積された炭素量の効率的、効果的測定を行うプロジェクト、また、チリで行われている津波に対する防災の協力がある。SATREPSは大きなポテンシャルを持っており、科学技術分野における、さらなる日本の南米への協力の重要なアプローチになると期待されている。
3つ目であるが、海外移住事業における人材育成については、南米諸国の日系子弟を日本の中学校等に招聘(しょうへい)する「日系社会次世代育成」、日系人の日本の大学院への留学支援をする「日系社会リーダー育成」、短期間の研修プログラムで「日系研修員受入れ」、また、ブラジルの日系社会にある日系関係団体に日本から2年間ボランティアを派遣する「日系ボランティア」がある。
 特に「日系ボランティア」については、日本でブラジル人を多く受け入れている公立学校の現職教員をブラジルの日系社会の学校に派遣して、ブラジルの学校教育を経験した後に出身県に戻って在日ブラジル人を支援していただくもので、4年前から導入されている。
 JICAの課題別研修は、研修員数は年間6,000名から7,000名程度であり、国ごとの受入れは多くないが、国に固有の重点分野や、大きなプロジェクトに抱き合わせで実施する。
 南米に対する協力は選択と集中を方針として実施しており、インフラ分野の協力、防災分野での協力、自然保護の観点からの協力、また、貧困地域の小学校建設の協力を実施している。
 教育分野では例えばブラジルから造船分野での人材不足に対する専門家派遣の要請がある。
 課題等として、南米では人材育成を基盤とした国づくりが課題となっており、伝統的に大きい貧困格差をなくすような支援を目指すべきである。
 JICAはODAのサクセスストーリーなどを、英語、その他の外国語、スペイン語やポルトガル語に翻訳をして、南米諸国に広く情報発信すべきである。
 経済産業省における人材協力は、研修生の受入れ、現地専門家の派遣がある。研修生の受入れでは、途上国の産業人材を対象にして、日本企業でOJT方式で研修を行う「技術研修」、また、マネジャークラスに対する研修を行う「管理研修」が実施されている。
 現地専門家派遣では、企業からの負担を得ながら、企業の経営・技術向上支援に必要な助言・指導を実施するための専門家を派遣する。
 今年度から途上国の政府系機関・現地企業への海外インターンシップの支援を開始して、「海外における中小企業の大卒、高専等の現地高度人材確保の支援」を新規に要求している。
課題としては、ブラジル進出日系企業の雇用において、高い知識を持ったエンジニアの確保が難しいこと、教育水準の地域格差があること、日本に比べて離職率が高いことが挙げられる。
 日本人学生、外国人留学生の現地日系企業でのインターン実施はグローバル人材育成のために効果的であると考えられ、企業にとっても優秀な人材の確保につながる可能性がある。一方で、南米は距離的な遠さや、コスト、ビザ問題、治安等の難しさがあるので、知見のある、例えばNPOの「ブラジル日本交流協会」とも連携してインターン参加の推進を図れないかという意見があった。
南米出身の日本の高等教育機関への留学生や、定住外国人の本邦企業への就職は、現地国側、日本側が共に目標とすることの1つである。中小企業を含む日本の多くの企業は新興国に進出しており、優秀な現地人材の確保は日本企業にとって課題となっている。そのために企業側の人材ニーズをいかに大学等の教育・人材育成プログラムに組み込むか、また、人材育成における企業との連携が課題である。
2つ目に初等中等教育に係る協力についてだが、2008年にピークに達した我が国の在日ブラジル人の数は、日本の経済後退等によって、現在は21万人にまで減少している。うち4万5,000人が初等中等教育対象年齢で、ブラジルへの帰国を考えている方を対象とした、トヨタや三井物産等の日本企業による研修制度や、日本の公立学校への就学希望者が日本語教育を受けるための日本政府による「虹の架け橋教室」プロジェクトが提供されている。
 今後の課題として、「虹の架け橋教室」等で日本語を習得した在日日系ブラジル人がブラジルへ帰国した後に、日本語を広める上で大きな役割を果たしてくれるものと期待される。
また、ピーク時には我が国に100校ほどあったブラジル人学校だが、現在では70校ほどに減っており、そのうち各種学校として認可を受けている学校は13校である。
日系ブラジル人コミュニティーからの要望として、各種学校として認可されているブラジル人学校への、特定公益増進法人制度及び指定寄附金制度の適用が挙げられる。それによって、所得税の免除及び当該学校への寄附金に対する免税措置がなされ、ブラジル人学校への寄附や支援をしたいと考える民間のイニシアチブの奨励が期待される。
また、JICAの教育分野に係る技術協力の派遣教員のレポートを分析したところ、中南米については国ごとに学習指導要領の有様は様々で、統一した教科書もないなど、教育課程の面でのニーズが高いことが伺えた。
課題等として、例えば、特に理数科教育について、ホンジュラスの組織とJICAが長期間協力して学習指導要領や教科書を整備するなどして算数教育のレベルを高めた実績がある。中南米諸国の教育ニーズはこういったところにあり、日本のノウハウを輸出することによって教育協力に貢献できるものと考える。
 ブラジルでは基礎教育8年間の義務教育課程での進級率が82%で、欧米の先進諸国と比べて著しく低い。魅力あるカリキュラムの構築、教員の教授能力の向上及び教育指導体制の充実等が不可欠であり、具体的な戦略及び協力枠組みをいかにするべきかという課題がある。
 また、教育へのアクセスが一定水準以上実現できている南米の国々では、教育の質の向上を図る観点から、持続発展教育―ESDの視点を盛り込んだ教育を行うことも必要と考える。
3番目として、高等教育及び研究開発に係る協力である。この20年間経済的にも安定しているブラジルは、これからの経済成長も見込まれており、2014年にはサッカーのワールドカップ、2016年には夏季オリンピックが開催される予定で、専門的知識を有した人材育成が急務となっている。ブラジルでは今後10万人の理系分野の学部学生及び大学院生をブラジル政府の奨学金で先進国へ留学させる「国境無き科学」プロジェクトが昨年策定されて、今年7月、我が国のJASSO―日本学生支援機構と協定を結び、我が国にも来年度から3年間で4,000人の留学生が送り込まれる予定である。
課題として、留学先の優先学部は、化学、生物学、ナノバイオテクノロジー、航空工学、石油・ガス採掘工学などで、日本で最新の研究が進められている分野でもあるので、協力によって両国の関係を強固にすることが可能である。
 日本に住んで、日本文化や日本語をある程度理解している在日ブラジル人の子弟が、ブラジルに帰国後、例えばブラジルで学部レベルまで勉強して、国境無き科学プログラムで日本の大学院に再び留学すると、両国のかけ橋となる人材養成が効果的に行えると考える。
 また、アルゼンチンにおいても、米州開発銀行から留学生派遣のための資金を得て、科学技術分野における日本への留学生派遣を希望している。
南米諸国から日本への留学生は、2011年度は前年比18.1%減で大幅に減少しており、我が国の「留学生受入れ30万人計画」等も踏まえて、ブラジル、アルゼンチンから日本への留学生派遣プロジェクトの活用等により受入数の増加を図ることが必要である。
 ペルーやコロンビアは日本への留学経験者が多く、人的な交流が非常に重要である。今後もこういった関係を続けていくためには受入れ留学生数を増やすことはマストである。
日本とメキシコの日墨交流計画で、毎年100人の両国の学生、研究者、企業の方々が交流して、目に見えないところで大きな効果があった。南米向けの重点的な留学プログラムができれば、日本に来たい方はたくさんいると思う。
 国費外国人留学生の教員研修留学生制度は、国立大学の教員養成学部に海外の教員を招いて1年半ほどトレーニングをするプログラムで、30年の実績があり、ペルーやブラジル等南米からも多くの教員が採用されている。帰国した教員とのネットワークをつくってフォローアップも行いながら、南米諸国の教育協力の柱に位置づけて、両国で連携して実施することも考えられる。
 一定期間、南米諸国の学生を本邦で受け入れるとともに、本邦学生を現地に派遣することができれば、日本人学生にとっては、短期間であっても、現地で多様かつ優秀な人材と交流する機会を得られ、国際協力や海外への意識が高まることが期待できる。
人材育成への協力については、アジアや中東では、高等教育分野での国際教育協力として、SEED-NetやE-JUSTがうまくいっているので、南米でも不足が指摘されている工学部等人材の育成に係るモデルをつくっていくべきではないか。その場合、南米は日系人というバックグラウンドもあるので、ある程度絞った形でプログラムをつくり、必要に応じて南米の地域のネットワークなどを活用して徐々に広げていく方法も考えられる。
これまでの国際協力はその国のファンである教員が熱心に行っているケースがあり、その先生が退職して不在になると途絶えてしまった。組織的に継続していくためにも、組織としてシステムづくりが必要である。
産学官連携による教育協力ということで、三井物産株式会社よりプレゼンテーションしていただいた。同社はブラジルで70年以上ビジネスを展開しており、ブラジル人支援を実施している。
 1つ目に、在日ブラジル人子弟向け奨学金制度が2009年から行われているが、これは、愛知県、静岡県等の集住都市にあるブラジル人学校に在学する児童生徒に対する奨学金である。また、NPO、ボランティア団体に対する支援活動を2005年から実施している。さらに、在日ブラジル人学校教員養成に係る支援で、マトグロッソ連邦大学が東海大学と協力して行う「ブラジル人初等教育教員養成」の大学コース「日本学」に係る費用を支援している。
 同社は、ブラジル側、日本側でカエルプロジェクトを行っている。ブラジル側では2008年から、帰国したブラジル人子弟の現地学校や社会等への適応を支援するため、常勤の専門家、教師等をサンパウロ州の学校に派遣している。日本ではブラジルでこのプロジェクトに携わっている専門家を招聘(しょうへい)して、在日ブラジル人の児童生徒の保護者を対象にしたセミナーを開催している。
また、自閉症児自立支援教育プログラムを今年度から実施している。武蔵東学園で開発された薬物療法に頼らない体育を中心とした教育によって、自立を促す活動を実施している。
課題等として、日系ブラジル人等定住外国人子弟が本国へ帰国した際、現地学校や社会への適応支援を目的として、子供たちを心理面、学習面及び環境面からケアして、日本語、ポルトガル語、日伯文化を学べるような環境支援など、将来両国のかけ橋となる人材育成の取組を、三井物産株式会社の例も参考にしながら拡充できないか。日系企業の社会的責任―CSR活動がより活発になって、結果として定住外国人子弟の本国への帰国に際して、現地学校や社会への適応支援が行われることを期待する。
また、日本ではODA対象国から外れると国際協力はできなくなるが、中国や韓国はそうではなく、資源や戦略的重要性の観点から、どの国が重要かという発想をしている。日本でもそういった戦略的重要国特別支援制度のプログラムをつくって、ODAとは別のメカニズムをつくらないと、諸外国との競争に負けてしまうという意見があった。
 ブラジルでの日本語教育については、日系人に対する継承語教育はJICAが、それ以外は国際交流基金が行っている。日本語教育や日本文化を広めるときに、日系人からその先に広がっていくには、両方のよいところを生かす形でまとまった方針があるとよいという意見を頂いた。盛り込めていないところもあると思うので、足りないところを補足いただければと思う。

<自由討議>
【平井委員】  私がブラジルに通算9年弱駐在した15年前、20年前の話だが、私がいたころは、ブラジル経済は、超高インフレの中でわりと経済はうまくいっていて、それに伴って日系企業も相当いた。現状を見ると、日系企業は撤退し、今は徐々にまた復興しているようだ。例えば造船業は、IHIがリオデジャネイロに進出し船の建造等をするぐらいの勢いがあった。しかし、一時撤退していたが、再度、IHIは、造船用エンジンの生産等でブラジルに今、事務所をつくる動きもある。ブラジル東北部のレシフェにも某日本の企業が中型造船をつくるという動きがあり、徐々にブラジルの政治も今は安定して、経済もうまく回っているので、日本企業の回帰が見られる。
 そういう中で、造船業は人材が少なく、IHI、某A企業も現地での人材育成が必要と考えている。ブラジルは一時、経済が低迷していた間、国としての人材育成政策はなかったと思う。しかし、今、ブラジルの経済が世界的にも注目される中で、人材の育成はいろいろな分野で求められている。例として造船の話をしたが、ここに書かれている分野である程度できるところは積極的に進めていかないと、特にブラジルとは、鉄鉱石などの資源だけでなく、農産物などの輸入もしており重要な国である。この大国を重視するという視点からいくと、もっと力を入れるべきではないかと考える。

【冨澤委員】  私もトヨタ自動車の駐在でブラジルに10年ほど、2回に分けて駐在した経験がある。トヨタ自動車は1958年にブラジルに進出しており、約50年以上、向こうでビジネスを続けているが、日本に比べると、ブラジルの中でのビジネススケール、規模としては、今年で自動車市場が約300万台を超えているが、その中のまだ5%も行かないようなビジネス規模である。
ブラジル・サンパウロ州のサンベルナルドに工場を構えて、バンデランテという車をつくってきたが、物づくりはまず人づくりということが我々のモットーであり、工場周辺の職業訓練学校で、SENAI(ブラジルの全国工業職業訓練機関)のようなところに対する支援を引き続き継続的に行いながら、そこから優秀な人材を工場のワーカーを採用していくという流れは綿々と続けている。
 ブラジル自動車産業も、今年も新自動車政策を発表しているが、最近とみに、現地での自国の自動車産業をもっと発展させたいという大変強い思いがある。国境無き科学プロジェクトは、ジルマ大統領の肝いりだと伺っているが、こういうところにも力を入れてやっていくのだと思うので、企業としてどのような貢献の仕方ができるのかということはある。例えば一定期間、インターンシップの中、留学期間中に企業として受け入れるようなこともひとつやれればいいとも思うし、そういった学生が現地に戻った際に優秀なエンジニアとして採用できれば、我々としても、トヨタだけではなく、ほかの企業もそういう活動のチャンスは出てくるのではないかと思う。

【大野委員】  私は、昨年度の国際協力推進会議に参加させていただき、今は国際協力や国際開発政策全般、経済協力や官民連携等に関心を持って取り組んでいる。地域としては、最近はアジアやアフリカでの活動が多いが、「空白の20年」のときにJBICで中南米の円借款部門の担当課長を務めたり、世界銀行でペルーを中心に担当していた。そういった意味で、新たな視点で今回、中南米地域への国際協力を考える機会を頂き非常に有り難く思っている。
 前回の御議論、それから先ほどの御議論を含めて、幾つか感じたことを申し上げる。次回会議で中間報告について、どういった形で実施しているかといったことをお話しいただけるということだが、昨年度、中間報告作成時に議論したことは、中南米協力にも当てはまるキーポイントである。中間報告のうちASEAN、中東といった地域限定的な部分は別として、ODAとODAを超えた(Beyond ODA)という発想でいろいろなリソースを動員しよう、産学連携を通じて「点」から「面」へ教育協力を進めよう、そのためにも大学の体制を充実していこう、グローバル人材の育成を強化しよう、といった点は共通だと思う。これらに取り組むこと自体が国際教育協力の基礎体力を高めることになり、南米への協力の基本になる。そういったことをまず根幹に置いて、引き続き取り組んでいくべきだと思う。
 それから、ブラジルの国境無き科学プロジェクトが始まったことは、大きなイニシアチブだと思う。アルゼンチンもIDBを通じて日本を含めて留学生を派遣したいと聞いた。ということは、南米の新興国は、ODA以外のリソースを準備できることを意味するので、いかに日本として体制を整え、企業のニーズにも応える形で発想して、例えば、工学部であればこの分野の講座を充実させよう、この分野は企業と連携しながらやっていこう、といった戦略をきちんとつくって実施していく。その分野においてはインターンシップや帰国後のフォローアップも含めて、例えば日系企業への就職を斡旋(あっせん)なども含めて、日本としてどのようにこの機会を使っていくかという発想で考えることが重要だと思う。ブラジルの国境なき科学プロジェクトを1つのエントリーポイントとして、「点」から「面」へとか、ODAプラスによる協力を考える、大学の体制を整えるといったことに使えないかと思う。
同時に、これは3年間のプログラムで、日本だけでなく、世界各国に留学生を送るものなので、恐らく留学生の受入れ競争になるのではないか。4,000人、日本に来てくれるという話だが、日本は他国に比べて、日系人を通じた交流の蓄積というアセットがあるので、日本としてこのアセットをどのように活用して、国際競争で勝てるかを考えて、本プログラム終了後の3年後も、日伯で拡大していけるようやっていけばいいと思う。国境なき科学プロジェクトを1つの試金石として取り組むぐらいの位置づけをしてはどうか。アジアではSEED-Netの取組があるが、南米ではすぐSEED-Net的な広域の大学間協力に発展しなくてもよいのではないかと思う。
 それから、JICAの取組の中で、今後、ポテンシャルがあるものとしてSATREPSの話があった。これは資金的規模もかなり大きいと思うし、科学技術関係で大学を巻き込んだ協力だと思うが、これについてもう少し御説明いただき、ポテンシャルについてお話しいただければと思う。
 それから、中間報告との関係だが、今説明いただいた「その他」のところで、戦略的な重点プログラムを考えていこうというコメントがあったが、それはそうすべきだと思う。中間報告の8ページで、イギリスやドイツは、Beyond ODAという発想で、新興国とのパートナー戦略をつくるプラットフォームがあり、その中で各省庁・関係組織が役割に応じて何をすればいいかを議論する場があり、それぞれ実施体制も持っていることを囲みに入れていただいた。そういったこととも関連し、日本ならではの戦略的な支援を考える1つの契機としてほしいと思う。

【内田委員】  国境無き科学プロジェクトは2013年度より3年間、日本へ4,000人送り出すということだが、送り出すブラジルと、受け入れる日本の大学とで、うまく機能しているかというと、日本の大学は夏にブラジルに行って説明会をしたと思うが、ブラジルの要望と日本の要望と随分違っていたというのが第一の認識である。ブラジルの学生の9割以上は学部へ入ることを希望しているが、日本の大学は大学院生を受け入れたいと考えている。ブラジル政府の標語は大学院生を送るということだが、ブラジルの一般の大学生たちの認識とは大分違っていた。
 また、日本の大学で受け入れる際のブラジル側のリクエストは、これまでの入試制度と関係なく入れてほしい、学費は全額免除にしてほしいなど、たくさんある。しかし、各大学が受け入れるためのリソースがどれだけあるか、どれだけフレキシブルにできるかということになるだろうと思う。
 そうした場合には、文科省が持っている様々な制度で、受け入れる際にうまく使えるものがどれだけあるか、例えば国費留学生で特定の枠をつくるようなことを考えるのか、ブラジルの意向と、それを受け入れる日本政府、あるいは各大学の意向のすり合わせをして、日本として受け入れやすい制度をつくらなければならないと思う。
 東南アジアや中東との関係で、日本の大学進出の議論はあり得ると思うが、日本にとってどういうメリットがあって、各大学にとってどういう形で可能か、距離の問題や言葉の問題、それから、向こうの初等中等教育の年数が日本とは違っているので、そういうものをどう考えるかという、具体的なプロジェクトに落としていく際の細かな論点をきちんと調査する必要があるだろうと思う。
 それから、現状認識はこのとおりだろうと思うが、この会議の中で戦略的という言葉がよく使われているが、戦略的とは一体何を意味するのかという議論は余りされていない。戦略的である必要はあると思うが、それは具体的にどういうものかを定義した上で、その内容としてどういうものがあるのか、それを実現していくためには、お金を含めてどういう形で制度をつくることができるのかというところに落としていかないと、実質的に意味のある効果はなかなか出ないと思う。

【木村座長】  国境無き科学についてのブラジルと日本との話合いの詳細を報告していただけないか。

【山口学生・留学生課課長補佐】  8月にサンパウロとリオデジャネイロで国境無き科学で学生を受け入れてもいいという日本の10大学が大学説明会を実施した。両会場とも300人程度の学生が参加し、その中で出た意見かと思う。国境無き科学全体のシステムをどう回していくかについては、我々がJASSOを経由して各大学に情報提供するようにしている。内田委員から頂いた話等も踏まえながら、情報をきちんと提供していくようにしていきたいと思う。

【大野委員】  これはブラジル政府が奨学金を出すのか。

【山口学生・留学生課課長補佐】  ブラジル政府が奨学金を支給する。

【大野委員】  ということは、学費について日本側は考えなくてもいいということか。

【山口学生・留学生課課長補佐】  最初、先方からは、授業料免除としてもらえれば有り難い、授業料免除を期待するという話はあったが、日本の大学はそれぞれ事情があるので、各大学における授業料減免の制度などの情報を取りまとめて学生に提示することとした。各大学は授業料減免制度を有しており、申請して採択されれば減免になる可能性もあるという情報を提供している。受入れ大学に対して必ず免除してくださいとか、減にしてくださいという話はしていない。

【木村座長】  差し支えなければ、その10大学の名前を教えていただけないか。

【山口学生・留学生課課長補佐】  北海道大学、東北大学、筑波大学、東京大学、横浜国立大学、名古屋大学、大阪大学、九州大学、早稲田大学、芝浦工業大学である。

【木村座長】  SATREPSについても質問が出たので説明をお願いしたい。

【野田国際研究専門官】  SATREPSは、文部科学省とJST(科学技術振興機構)、並びに外務省とJICAの協力により平成20年度に創設されたもの。特徴としては、日本のすぐれた科学技術と政府開発援助の連携によって、アジア、アフリカ、中南米等のニーズに基づき、環境・エネルギー、防災、感染症などの地球規模課題を解決することを目的とする事業である。これまで全世界35か国で68の研究課題が採択されている。

【大野委員】  これは、ODAと文部科学省の科学技術関係の予算を組み合わせたもので、実施主体は大学になるのか。

【野田国際研究専門官】  日本側ではJSTが日本の研究機関に公募して、外務省、JICAは開発途上国の研究機関等から要請を受け付けて、それらのマッチングされた中から採択する形になっている。

【井上副座長】  昨年度の国際協力推進会議でASEANと中東地域のことを議論したが、そのときのキーワードと、今年度の南米地域への教育協力は、似通ったところがあると思う。この問題は、キーワードが幾つかあって、1つはオール・ジャパンということだと思う。2つ目は戦略的な重点化、これは重点国、あるいは重点領域という意味である。3つ目は、今まで余り経験もない、地理的にも遠いということで、国境無き科学にも見られるように、個別ケースの向こうのニーズとこちらがオファーできるものを適切にうまく組み合わせられないと、ニーズに応えられず、かえってよろしくないということが3つ目である。4つ目は日系人の活用ということだと思う。
 附言すると、南米については、失われた20年間はあるにせよ、企業の方が現地のニーズをつかんでいると思う。例えばエンジニアの養成の話などもある。そういうことに日本の高等教育セクターがどのように応えることができるのか、企業のニーズ、人材養成のニーズに日本の高等教育機関がどれだけ応えていくことができるかが1つのオール・ジャパンの試金石だと思う。
 それから、日系人の活用についてだが、今、ブラジル人で4万5,000人の初等中等教育レベルの子供がおり、日本に滞在していたことによって、日本語が上手な子もいるだろうし、いろいろな方がいると思う。その子供たちが、ブラジルに帰って、もう一回日本に行ってみたい、日本の大学でもう一回学びたいと考え、将来、ブラジルに戻って、ブラジルの企業を支えることになると、日本語ができるブラジル人ということで、対ブラジル協力にとって、今後の5年、10年、15年を考えていくと、大きなアセット、宝になる。そういう観点から、日本にいるブラジルの子弟をどのように教育していったらいいのか、助けていったらいいのかを考える必要があると思う。
 また、協力において、JICAはいつもスクラップ・ビルドと言う。例えばプロジェクトを実施すると、3年でスクラップだ、5年でスクラップだということになる。こういった教育協力は簡単にスクラップ・ビルドしていいのか、ある程度の期間がないとできないこともあるのではないかと思う。 広島大学にいた武村先生が、理数教育で5年、10年、ケニアで学習指導要領をつくる指導をしていた。この方は広島大学から教科調査官になった方だが、南米の理数教育でもどこでも、そこにささげようという人を支援していくことが大事だと思う。そういう献身的な人たちがやっているときにも、はい、スクラップですよというようなことでいいのかと私は疑問に思う。

【細野委員】  日本、特に南米との教育分野での国際協力は、新しいモメンタムというか、いろいろな新たな状況が生じていて、このモメンタムを生かすという大変重要な時期にあると思う。
 1つは、20年前後の、完全に空白期間ではなく着実な関係強化もあった「やや空白期間」の後、近年、日本と南米諸国との経済関係の新たな展開、拡大が見られている。これはブラジルだけではなくて、チリ、ペルー、コロンビア及びメキシコなどの太平洋連盟の諸国においても大きな動きがあるし、中南米全体、特に南米との関係が大きく変わってきており、この機会を捉えることが重要だと思う。
 2番目は、南米側のイニシアチブとして、「国境無き科学」は目立つ部分だが、チリ、アルゼンチン、あるいはその他の国々の教育分野を強化しようとするいろいろなイニシアチブがあるので、これを日本側もうまく捉えていくことが新たなモメンタムとなると思う。
 3番目は、従来から日系人の方々の存在は重要であるが、今日、現地における日系人の活躍も広がっており、在日の日系の方は日本にとって大きなアセットでもあり、この方々が将来活躍される可能性も高いので、このアセットを活用する。
4番目は進化するODAといった方がいいのかもしれないが、SATREPSももちろんだが、民間連携による新しい取組も進んで、使えるものになってきている。それに加えて、E-JUSTやSEED-Netなど、南米以外の地域で行われている協力のスキームで参考になるものが出てきているので、様々な進化するODAの活用もモメンタムになっていく。
 5番目に、日本の大学も今、東大の秋入学などの新しい動きがあるが、欧米の先進諸国の大学との競争に関して一層センシチブになっており、そういう国々と大いに競争できるような体制をつくっていく必要性に迫られている。他方で少子化問題への対応や、日本の大学の置かれた立場が変わってきていて、国際化するための体制整備が行われつつあると思う。これもある意味でモメンタムではないかと思う。うまく受入れ体制が整っていくかどうかは各大学に問われているところだが、今申し上げた5つのことが、戦略性を考える際の重要なポイントになっていくと思う。
 戦略性についての指摘がいろいろあったが、まず、南米の社会経済の現状と課題、特にその中での様々な教育ニーズ、特に高等教育の大学院を含むニーズの把握は重要だと思うし、併せて日本と中南米の経済を含む様々な関係の展望と課題、科学技術、あるいは文化の交流もあると思う。これを展望し、どういう課題に取り組むべきかを十分に研究して、戦略性を考えていくことなくして戦略性をしっかりと捉えることは難しいのではないか。したがって、戦略性についての一層の研究を深めることも大事だと思う。
 中東やアジアと比べると、日本における中南米研究、特に南米の研究は手薄であった。これはやむを得ない事情があったと思うが、現在、特に研究者が少ない。しかし、アジアと並ぶグロースセンターとなってきた中南米の研究をする体制は、大学その他研究機関で整備していく必要があると思う。そういう日ごろの着実な研究があった上で、戦略性を考えることができると思う。
 これは小さなことだが、資料3の「1.背景」の1行目、「日本人が移り住んで以降」と書いてあり、ペルー、アルゼンチンが載っているが、ブラジルまで入れて「ブラジル、ペルー、アルゼンチンへ日本人が移り住んで以降」としていただいた方がいい。それと同じようなことだが、「2.現状と課題」の「アルゼンチンでは米州開発銀行から留学生派遣のための資金を得て」と書いてある黒い字の次の赤いパラグラフの2つ目のところに、「ペルーやコロンビアなどは」とあるが、太平洋連盟は、チリ、メキシコ、ペルー、コロンビアが加盟国となっている。メキシコは南米に入らないのでメキシコは入れなくてもいいが、可能であれば、「チリ、ペルー、コロンビアなどは」とする方がベターではないかと考える。留学経験者が多いことも大事だが、チリは日本との貿易投資関係が最近活発化しており、かつ、日本への留学経験者が多いので、このように表現を変更することを提案させていただきたい。ちなみに、日智経済委員会はペルー、コロンビア以上にはるかに活発である。今、南米の中ではチリが注目されているので、チリ、ペルー、コロンビアと、つけ加えさせていただきたい。

【桜井委員】  私は、この国際協力推進会議は、少し大げさだが、日本の生き残り戦略の一環と捉えている。その生き残り戦略で進めていく上でのキーワードは、1番目は統合、2番目は協力、3番目は支援、4番目は集中と考えている。
 「統合」の意味するところは、官財学が本当に団結することである。一昔前、官民一体となって行動した体制は、諸外国でジャパン・インクや日本株式会社と呼ばれて恐れられたが、もう一度、本当の官財学の一致協力が必要である。昔、経済産業省はノトーリアス・MITIと言われていた。悪名高き、名声のあると訳すのかわからないが、世界で恐れられていた。今回の国際協力推進会議では、文部科学省が大いに頑張っていただき、ノトーリアス文部科学省とノトーリアスMEXTとして、世界から尊敬され恐れられるように、プロジェクトを進めていただきたいと考えている。
「協力」というのは、実際上は統合するだけではなくて、密接に協力することである。役所の縦割り行政とよく言われているが、縦割り行政をやっていると日本はもたない。役所と大学、役所と企業、企業と大学もしっかり密接に協力することが重要である。
 「支援」は、プロジェクトを進めていくと必ず、企業でも大学でもそうだが、相当の犠牲を伴う。人材の面、お金の面、費やす時間等々である。きちんと政府として、これらの犠牲に配慮しないとうまくいかない。
 「集中」は、いろいろな分野で必要である。例えば強い分野、ナノテク、耐震、災害、バイオ、新素材など、いろいろあるが、技術訓練センターなどを建設する場合でも、国ごとに造るのではなく、南米の主要な国の数か所に集中して技術訓練センターを造り、そこに、近隣諸国の技術者を呼ぶやり方もあると思う。
 もう1つは効率的な方法は何かを考えることである。例えば国ごとに一般の学生を教育するのではなくて、学生を教える先生、あるいはリーダーをしっかり教え、育てる。そのような効率的な方法を考えることである。
 更に南南協力が今、注目されているが、これは相当効果があると私は思っている。日本はかなり進んでいるので、そのまま後発発展途上国に移転することは結構難しい。日本人が教えるより、むしろ日本人が教えた優等生の国を立てて、彼らが、より発展途上の国を支援するやり方が効果的である。
 「国境無き科学」プログラムについては、今回は試金石のようなものだから、集中してしっかりやることが必要である。失敗は許されない。問題があれば、それらを一つずつ解決するという形でやればいいと思う。
 それから、日本企業のCSRは必ずしも十分ではない。むしろ欧米企業に比して相当遅れている。日本企業のCSR活動の特徴は、まずお金を出せばいい、寄贈すれば、寄附金を出せば、それで済みという企業が相当多いことである。2番目は、自分たちの行ったことを外部にPRしないということがある。日本型謙譲の美徳は、海外では通じない。したがって、今後は日本企業も前面に出て、顔の見える形で自分たちの取組や考えをしっかりPRする必要があると思う。

【田中委員】  先ほど戦略的とは具体的に一体何を指すのかという指摘があって考えてみたが、ODAを超えたという点で考えれば、これまでの日本が行ってきた国際協力において、互恵というか、共存共栄というか、そういう視点がもう1つ必要なのではないかと思う。先ほど冨澤委員から、物づくりは人づくりというトヨタの1つの方針が語られたが、教育というのはそういう意味で互恵的な営みがないと、相互刺激されないという点があると私は大学でやってきて感じている。
 その点では、今日の御提案の中で短期的に急務であるのはエンジニアへのニーズで、高等教育へのニーズ、もっと言うと、これはグローバル人材なので、英語が話せる人たちである。日本の大学院で教育しても、日本語でのコミュニケーションはまず無理なので、学部にせよ、大学院にせよ、英語でのコミュニケーションがとれる方たちを、アメリカの大学ではなく日本の大学に吸い寄せるためには、現地での説明会だけではなくて、個別に大学と直接コンタクトをとっていく窓口をつくる必要があると思う。
 国境無き科学について、筑波大学でも一応アナウンスはされたが、説明会に行かれたという報告などは余りなく、現地情報がなかなか届かないという話があった。実際のところ、理系の先生の中から、どういう形で連絡とってくるのかという質問もあったぐらいで、そういう人たちへの情報整理の仕方を考えていく必要がある。
 もう1つは、中長期的に初等中等教育を重点的に基礎づくりとして行っていくという、これまでの東南アジアや中南米等で行ってきたことへの継続的な支援が必要だと思うが、その場合に、ポルトガル語と日本語の語学の壁はかなりあると思う。ここをどうするかということは戦略的に考える場合には非常に大事で、日本語教育ももちろんだが、日本人でポルトガル語が話せる人をどのように養成していくのか、ブラジルの大学と交流協定を結んでいる大学はどれぐらい日本にあるのか、姉妹都市はどれぐらいあるのか、ポルトガル語の通訳がどれぐらいのリソースとして日本にあるのかなど、その養成を長期的に考えていく必要があると思う。
 大学としては3年間で4,000人迎えるということは大変大きな事業になると思うので、できれば大学同士の助け合いのネットワークや、あるいは大学に重点化して、アフリカは広島大学、中南米は筑波がやるというような明確なミッションがあれば、執行部としての動きも違ってくるのではないかと思う。

【清水委員】  私もこの分科会に出ていなかったので、そこでどのような議論がなされたかは、今日の御説明と資料3を見せていただいて、おおむね理解できたと思うが、この中で一番目にとまったのは、赤字の部分である。企業の立場から申し上げると、優秀な現地人材を確保することは日本企業にとっての課題であり、海外展開の戦略そのものである。したがって、南米に海外展開をして、そこに海外拠点をつくって日本の企業として存続を図っていく、あるいは展開をしていくといった場合に、どれだけ現地で優秀な人材を獲得できるかというところが、企業活動のキーポイントになってくると思う。そういうところを1つの出口として考えたときに、今回の会議の議論の方向性の1つが見えてくると思う。
 それはどういうことかというと、1つには、日本の企業が南米の地区に進出していくといったときに、どういう国に対して、どういう企業が出ていこうとしているのか、例えば、ブラジルには多分、いろいろな産業があるので、多種多様な企業が進出していると思うし、これからも進出していくと思う。私どもの身近なところからいくと、関心が高いのはやはり資源である。ブラジルの、特にオフショア、海洋の資源は世界的に注目されているから、ここに出ていこうとする日本の企業がどのような現地の人材を必要としているかというと、先ほど平井委員から造船の話があったが、実は私どもも全く同じようなニーズを感じている。海洋の資源開発をするには船が必要である。したがって、企業側にはこれまでとは違った形の船をつくる人材、技術のニーズが高まっている。 一方、太平洋岸の方を見てみると、チリ、ペルー、あるいはコロンビアなどの太平洋岸の国々が新しい経済連携に合意をして、太平洋を挟んでアジアを見据える動きが出てきているようである。そういった場合に、どういう産業において、アジアの一番手前にある日本とこれらの南米の国々がどういう形で結びついていくか、日本のどういう企業がそこで活躍の余地があるか、そこではどのような人材が日本企業として必要なのか、彼ら自身がどういう人材を育成したいと思っているのか等を把握することが大切だろう。JICAが長年、これらの国々に対して基礎教育の協力をしており、これは戦略的には重要な宝だと思う。ある意味で戦術かもしれないが、そういうものを生かした形でもって、こういう国々との人的な関係を深めていくことも必要かと思う。
 南米を考えたときに、どの国でどのような日本の企業が活躍の余地が高いのかということも含めて検討した上で、この会議のアウトプットとして、教育協力の方針を出されると思う。そういうものを出した時点で、それをもとに、例えば、JETRO等の力をお借りするような形になると思うが、日本の現地企業に対して、このような教育協力、人材育成協力をするが、あなた方のニーズは何ですかというようなことをアンケート方式で聞いて日本企業の現地人材ニーズを探り当てていただく。その上で、今度は現地国側のニーズをよく見極めて、それらのマッチングをして、具体的にどのような教育協力をしていったらいいかという施策づくりにそれを生かしていく。こういった形で行動に移せるような議論の方向性を出していただいたらよいかと思う。

【江原委員】  アメリカやヨーロッパ諸国と比べて日本の魅力がどこにあるかを考えたときに、国境無き科学やたくさんの国々の留学生を受け入れる上で、日本が言えることは、アジアの窓口としての日本、つまり、日本に来ることによって、アジアへのネットワークが広がるという魅力をアピールすることが大事だと思う。
 国際教育協力という面で考えると、これはいろいろな面から考えられるかと思うが、短期的に一定の成果を出す、また、それと同時に中長期的に投資となるような事業も行っていくことの両面を考える必要があると思う。短期的に、ある一定の期間内で成果を出すためには、ある程度メジャラブルなゴールというか、その成果がはかれるようなメジャラブルな目標を出して、それを達成することが重要だと思う。
 しかし、それと同時に、こういう国際教育協力というものは、さっきスクラップ・アンド・ビルドでは駄目だという話もあったが、長期的に価値が出るものであって、日本の教育協力が、今言ったようなメジャラブルな短期目標と同時に、はかることのできない、数値では出ないようなネットワークであるとか、カルチャーを持ったものになる必要があると思う。
 欧米と日本の大学の違いを考えたときに、欧米の優秀な大学は黙っていても人が集まる。それだけの魅力を持っているのは、そこが持っているネットワークの力、そこに行けばいろいろな人が知り合って、いろいろな人脈ができるといったようなものだと思うので、そういう力が日本の大学にはあるということを生み出せるような国際教育協力という目標があってもいいと思う。
 具体的に、現地人材と日本人材と考えたが、短期的には企業が南米との関係で考えた場合、まだ教育機関よりは企業が最前線におられて一番現地の事情も知っておられるところだと思うから、そこのところで必要となるようなもの、また、貢献できるようなことにあわせて、ある程度、短期的に人材養成を行っていく目標を立ててもいい。
 ただし、日本の人材ということになると、少し時間がかかる。今、日本の学生は内向きになっていると言われるが、視野が狭く、半径数メートルの世界で、全部メールや携帯で済むので、そういうところを知らない。核を担う日本の人材の養成ということを考えると、日本人の学生をもっと多く海外に送っていくことが必要だと思う。戦略的なBeyond ODAのところでの支援制度で日本人を送ることも考えていただければと思う。
 もう1つは、中長期的に、今の高等教育や企業の職業教育だけでなくて、日系人もたくさん受け入れている日本の初等中等教育のところをどうするかが問題である。日本で育った人材が虹の架け橋教室を利用して、その後現地に帰って、ブラジルの大学を出て日本に国境無き科学で来てくれるとなったら、それは理想的だが、実際のところ、日本語のレベルも、ポルトガル語、スペイン語のレベルも、進学や仕事など実際の場に使えるようなレベルにとても至っておらず、そうした理想にはほど遠いという現状がある。
 しかも、日系人の子たちが高校へ進学する率はたしか70%台だと最近の調査で聞いている。だから、日本人の子供が高校進学するのは九十六、七%であるのに比べて約7割しか高校へ就学できていない。その子たちの中の一部が大学へ来ることができているのだが、そうして選ばれた彼らでも語学レベルに不安がある場合も多いのが実態である。
 グローバル人材を日系人の中から出すためには、日本にあるブラジル人学校への日本語教育、ポルトガル語教育への非常なてこ入れプラス日本の公立学校にいる日系人子弟への、いわば母語維持教育なり、ブラジル本国や南米諸国とのきずなを持ちつつ、日本語が高度に使える人材をつくっていくための長期的に考えた手当てをしないと、そのようにできる確率は、残念ながら、今のところ非常に少ないというのが、生徒や学生の実態を見ていて、私の感想である。そこのところをよく考えて、手当てをしていかれればいい。
 現在の様々なモメンタムを活用してプログラムをつくっても、それが数年たったら、もうどこへ行ったかわからないということでないように、プログラムとして自立して動き出すシステム、仕掛けを考えていく必要がある。つまり、坂の上まで石を押し上げたら、あとは石を下に向かって落とせば自分でごろごろ落ちていくような、坂の上まで石を持ち上げるような、なるべく長続きするようなことを考えていく必要があると思う。

【大野委員】  清水委員から企業の立場からの戦略性という話を伺って、また江原委員からも、長期的に考えると、いろいろなアセットはあるものの、その動員・活用は必ずしも簡単ではないという話も伺った。
 そういった意味で、企業のニーズを軸として、南米側、日本側にとってもウイン・ウインになる形で考えていくことが戦略性のキーポイントになると考える。現地の企業のニーズについて、例えばJETROを通じて情報収集できないかという清水委員の御提案については、私は、すべきだと思う。
外務省、経産省、JETRO、JICAから御出席者がいらっしゃるが、わざわざこれから時間をかけてやらなくても、既にこういったニーズ調査をこれら組織が実施して使えるものがあるのか、あるいは、途上国現地のODAタスクフォースや、キーパーソンの協力を得ることが可能なAOTSの同窓会制度などを活用して、そういった調査をこの会議の期間中に実施し、すぐにまとめて情報提供していただくようなことは可能なのか。感触だけでもお知らせいただけると、今後の議論を深めるときに重要なインプットになると思う。


【清水委員】  例えばJETROをはじめとして日本の現地企業を対象としたアンケートは、いろいろな形でやられていると思う。
 私がここで申し上げたかったのは、何のためのアンケートかをはっきりと示して、その上で企業の声を聞くということ。日本企業がそこで企業活動をする上で、あなた方は何をしてほしいか、相手国政府に何を注文したいか、そういう形での設問はよくあるが、今回は一歩踏み込んで、教育協力、人材育成協力の大きな戦略をここでつくり上げていくためにこういう方法で産官学連携で取り組む、こういう方向で国は動く、学も動く、そこで、さて企業は、こういう方向性の中であなた方は何を望みますかという意味でのヒアリングなりアンケートというふうに絞り込んで聞けば、それなりにビビッドな回答が得られるのではないかという意味で申し上げた。

【細野委員】  姉妹都市がどのくらいあるのかという御指摘、質問があったので、それに関連して発言させていただくが、日系人の方々は、ブラジルはもちろんだが、ペルー、パラグアイ、ボリビア、チリに多数活躍されておられる。ブラジルだと、主要都市にはかなりの数の県人会があるし、そういう方々が動かれて、姉妹都市の提携もされている。東京にいると、距離が遠いという感じがあるのかもしれないが、市民レベル交流は、中南米、南米とは相当あると思う。言葉の壁があるという指摘も幾つかあったが、これも市民レベルの交流等を通じてかなり親近感を持っておられる方も地域によって相当あると思う。タスクフォースの方では、豊田市の例など、いろいろ出ているが、県によっては随分送り出しているところがあって、かなり親近感の強い状況になっているかと思う。
1つヒントとして申し上げたいのは、今日配られた資料の赤い字の、日本・メキシコの日墨交流計画については、最近は減少しているが、毎年100人で40年間以上交流を行ってきている。この交流計画でメキシコに行かれて、スペイン語が非常に上手になられた方が、今、企業、中央官庁、大学にもかなりおられるかと思う。1年間のプログラムだが、長い間続けてきたことで言葉にも堪能で、現地に非常に詳しく、中南米との橋渡しをされているような方がたくさん育っている。わずか100人でもそれだけできるわけで、これから本格的に取り組めば、距離感、言葉の壁、あるいは遠さは十分乗り越えられると思うし、現に地域によっては相当近い関係になっているという印象を持っている。

【井上副座長】  教育協力の定義について、一方においてエンジニア養成から、他方において理数教育まで幅広い議論が展開されている。OECDの場でも、APECの場でもチリは積極的で、教員問題、教員の養成や確保、あるいは教員の評価、待遇に関して、ほかの先進国はどのように行っているかについて非常に関心があった。これは教育協力の狭い分野かもしれないが、教育の根本は教員なので、そういうことにチリが非常に関心を持っていたということを紹介したい。日本にとって協力できる重要な分野だと思う。

【桜井委員】  清水委員からの提案は、私も大賛成である。せっかく推進会議を行っているので、文部科学省がリーダーシップをとっていただきたい。この席には、外務省、JICA、JETRO、経団連の4組織の代表者もおられる。協力すれば、実施は十分可能である。ただ、問題は、どういう質問表を作るかである。現地の商工会議所に依頼することになると思うが、時間はかかるもののやろうと思えばできると思うので、この会議で是非やろうという結論を出すといい。

【平井委員】  JETROの業務は進出されている日系企業がビジネスを進める上での課題、障害があるのか、現地政府に物申さなければいけない内容等経営上の課題についてのアンケートは、南米に限らず、どこの地域でも行っているので、そういう視点ではできると思う。しかし、教育の問題を直接的にどうかということはなかなか難しいと思われるので、その辺は、つかさつかさのところでやって、それをトータルで最終的に取りまとめる形になると思う。進出している日系企業がどう考えているかという経営上の問題等については、既にアンケートをしているので、私どもの方で何かできるのではないかと思う。

【江原委員】  日本側のニーズを調べることは重要で、是非実施すると良いと思う。日本側のニーズを調査するのであれば、逆に中南米側の例えばチリ、ペルー、ブラジル、メキシコの広い教育事情、教育問題について専門家の方を呼んで、ニーズの実態を知ることも、あったらいい。

【木村座長】  皆様方の意見に、私もほとんど賛成だが、難しいところもある。SEED-Netというプログラムについては昨年度の国際推進協力会議でも話が出たが、1期でアウトになりかけたのが、何とか2期が認められて、3期がいよいよ認められ、トータルすると十六、七年になる。
 11月29日にタイで調印式をやるようだが、この3期のアプリケーションを出すのに、JICAとしては相当いろいろ苦労された。我々も井上副座長、JICAの萱島部長と現地へ行って、今後、SEED-Netは何を狙うのか、つまり、どういうデマンドが現地にあるのかということを、日本企業の3社の方に来ていただいて伺った。先ほど冨澤委員から、今、ブラジルで300万台のうち5%しかつくっていない、そういう場合の必要な人材は、恐らくテクニシャンレベルの人だけで、それ以上の人は求められていない。ところが、タイでは、自動車メーカーによっては、完全に現地で生産しているので、ハイプロファイルなエンジニアも、それ以下、その次のクラス、更にテクニシャンクラスも必要だとおっしゃる。もう1社の自動車会社の方は、うちはそこまでやっていないから、2番目の、テクノロジスト、エンジニア、テクノロジスト、テクニシャンという階層があるが、テクノロジストとエンジニアの中間ぐらいとおっしゃる。それからもう1社は、どちらかというと自動車のかなり大きな会社でパーツをつくっておられて、ここの方ははっきりと、自分たちはテクニシャンでいいとおっしゃる。だから、ニーズといってもなかなかこれは簡単にいかない。
 ニーズに応じるためにどういう教育をやるかSEED-Netで考えているが、そうすると、結局、全部やらなければいけない。真っ白なところへ行く場合は、どういう人材が要るかそこで答えが出てしまうが、それがずっと進化していくと、恐らく、冨澤委員が、ブラジルでタイのようなことをおやりになると、これは全部テクニシャンがいることになる。だから、その辺が戦略ではないかと思う。
 例えばトヨタ自動車が、ブラジルで描いている将来像がそのとおりいくかまだわからないが、いくとすれば、ブラジルでトヨタの規模が大きくなるに従って、多様な人材が必要になってくるので、その辺はなかなか難しい。大野委員の話に異議を挟むつもりはないが、1つの断面で調査しても、それがずっと続くかはわからない。だから、その辺の問題も考えておかなければいけないとタイへ行って私は痛感した。
 今、エンジニアリングの教育の世界でも、インターナショナル・エンジニアリング・アライアンスという国際会議がある。これはワシントン・アコードや、キャンベラ・アコードなど、いろいろなものを包括している会議だが、そこで今申し上げたことが出てきて、エンジニアリング教育とテクノロジスト教育とテクニシャン教育は違うから区別しろということになり、それぞれの組織をつくることになった。そういうことが世界的に言われ出したということは、企業のニーズもそれだけはっきりピンポイントとして分かれてきたのではないかという気がしてしようがない。

【冨澤委員】  トヨタ自動車の場合は、日本を除いてアメリカ、欧州、最近では中国、タイにも研究開発拠点をつくって、車両の開発等々もやっている。
 一方、南米、特にブラジルで、工場の作業の方々へのテクニシャン教育はずっと行ってきたが、今年、ブラジルで新自動車政策が出て、企業への要求として、各企業のブラジルでのR&Dへの貢献も新たに出てきている。
 ブラジルでは、フレックスという、エタノールとガソリンを混ぜたエンジンを使っているが、これは世界でも先駆けている。今後は、車両開発を進めていくなど、日本だけでやっていたエンジニアからローカル化を進めていかないと、ブラジル政府の要請にスピーディーに応えていけない。

【田村経産省中南米室長】  ブラジルの国境無き科学に特化してではあるが、ブラジル側から、研修生のインターンについても考えてもらえないかという要望があり、実は昨日1回目の打合せをした。国境無き科学で来られる方と、企業とのマッチング、インターンを受け入れてくれそうな方とのマッチングをどうしたらいいかについて、文科省と相談を始めているところである。
ただ、前提となるのは、研修生がどこに来るのか、どこの大学で受け入れているのか、そもそも大学でインターンの課程を組み込んでいるのか、どこの学区に入るのかなどの情報がないと、企業の方に、ただ単に年間1,300人来ますよと御案内しても、なかなかマッチングが進まないという認識は一致している。そういった情報がいつの時点でどこまで出せるのかといったところから始めて、それをどのルートを通じて流すかは検討中ではある。近い事業所の場所で受け入れられるところ、ニーズがあるところにそういった御案内ができないか協力して行っていこうとしているところである。製造業の方と商社の方とその他の方ではニーズが違うと思うので、そういうようなマッチングができないかということも、3年間あるのでやっていきたい。
 ただ、前提として、ブラジル側の募集が始まったばかりということもあり、本来であれば、日本に来る前にある程度の調整ができればいいとは思うが、向こうの体制もそうなっていないとお聞きしている。先が長いかもしれないが、できれば御案内できるようになればとは思っている。
 ただ、その前に、博士課程の方なのか、それとも学部の方なのかという需用の差もあると聞いているので、そのあたりも考えていかなければいけないと思う。
 2点目は、人材のアンケートの件については、私どもで実施しているアンケートの中に、どういう事業でどういう問題がありますかというものは多々あるが、どういう人材を募集していますかというのは、座長の話にもあったように、かなり難しいのではないかと思う。
 というのは、ブラジルの国境無き科学計画で来る人については、どういうスペシフィックな人が必要で、どういう分野の人であれば受入れ可能か、スペシフィックにマッチングできるからこそ意味があると思う。しかし、単純にどういう人材が不足していますか、どういう人材を募集していますかというものを頂いた後、我々としてどういう人を提供、マッチングさせるかは、なかなか難しいと思う。若干話はずれるが、例えば進出企業が必要としている製品について地元企業をマッチングさせることはよくやっている。これもデータベースをつくって、どれだけの能力があるかを調べて初めて、何十社という企業の中からいいサプライヤーを見つけることになる。アンケートをした後に提供できるものがないと、どうしてくれるのかと我々は言われてしまうので、そこまで踏み込まれるのであれば、送り手側のことを考えていただかないといけない。小さい規模で言えば、今までAOTSの研修で行った人がいます、同窓会を通じてこういうところで募集していますということはできるが、それ以上のものを送り手側として求められると、そのツールが今のところない。

【清水委員】  私は現地で日本企業がどういう人を雇えば、日本の競争力が高まるかという観点での具体的調査という意味で申し上げた。日本からの送り手側に何かを求めるということではなくて、まずは現地のニーズをきめ細かく把握するためのアクションという意味である。日本企業がこういう現地の人材を必要としているのならば、それに効果的な日本の教育協力の在り方があるのではないか。エンジニアクラスか、テクノロジストクラスか、テクニシャンクラスか、基礎工学的なものが必要か、応用工学か、個別専門分野か、そういうことも含めた形での実態把握ということである。
 それからもう1点、この会議では、日本の若い人たちのグローバル人材をどのように育てていくかというもう一つの視点があるが、今回も南米という1つのエリアにおいて、日本のグローバル人材をこれらの国々との関係でどのように効果的に育成していくかという視点で議論があってもいいと思う。
 グローバル人材といっても、現実的にはリージョナル人材だと思う。中東であれ、アジアであれ、南米であれ、世界全体がわかる人間というのは、いろいろな国の経験をして初めてグローバルになるわけである。若い人たちはまずはこの国、この地域を好きになればモチベーションが働いてその地域に強くなっていく。そういう意味で、南米の人材育成も、日本人の南米シンパをどうつくっていくかだと思う。あわせて、お役所の方も、リージョナルな、南米なら南米に強いキーパーソンを1年、2年で交代せずに、腰を据えてこの地域に取り組めるようにしていただき、日本の若者の人材育成戦略を展開していっていただいたらどうかと思う。

【木村座長】  申し遅れたが、タイでの調査の際には、SEAMEO(東南アジア教育大臣機構)事務局、高等教育カウンシル、大学へも伺って、国としての人材をどう考えるか伺った。しかし、そういうところの方は、自分の国にある企業の現実をさほど御存じなく、こういう人材がこの国にとって必要だという明確な答えがなく、企業の方がはるかに明確な答えを頂いたので、なかなか調整が難しいという感じを持ったことを覚えている。

【山中文部科学審議官】  実は先週、インドネシアと日本の学長会議があり、インドネシアから20大学ぐらい、日本から30大学ぐらいが出席した。そこでインドネシアの大使が、2050年になるとインドネシアはGDPで世界第4位だと発言したので、調べたら、シティグループが2011年に出した予測の中で、1位はインド、以下、中国、アメリカ、インドネシアが4位で、ブラジル、ナイジェリア、ロシア、日本は8位、メキシコ、エジプトだった。2010年はアメリカ、中国、日本、インド、ドイツ、ロシア、ブラジル、イギリス、フランス、イタリアなので、かなり様変わりする。ゴールドマン・サックスが2007年に出したものを見てみたら、中国、アメリカ、インド、ブラジルが4位で、メキシコ、ロシア、インドネシア、日本、イギリス、ドイツで、11位にナイジェリアという状態になっている。
 文部科学省では日中韓3か国でキャンパス・アジアという事業を実施している。ASEANとの関係でも、大学間の連携プログラム「大学の世界展開力強化事業」を実施している。
 ブラジルやメキシコはGDPのトップ10にあらわれてくる国なので、教育、研究面でどういう協力をしていくのか是非御提言いただき、ブラジルの国境無き科学も大きなプロジェクトだから、これを取っかかりにして、日本学生支援機構任せにしないで文部科学省でしっかりやれというような、明確なメッセージを出していただけると、私どもとしてもやりやすくなると思う。
 その後は、残っているのはロシアとナイジェリアという地域があるので、今は南米であるが、そういうところも文部科学省として考えながら、今後の経済の発展の中で、大きなパートナーになってくるだろう地域や国との関係を教育研究の面でもしっかりと取り組んでいきたい。できるだけ具体的な提言をしていただけると有り難い。

【森口文部科学事務次官】  まずやれることとして、文科省の人事政策は、これまではゼネラリスト育成が中心だったが、今の話を伺って、それぞれの国や地域に詳しい人材を育てていく必要があると思った。その辺は省内でも議論していきたい。

【木村座長】  本日は資料3で、これまで出していただいた意見をまとめたものを最初に紹介して、それを中心に御議論を頂いたが、そのほかにもいろいろな話題を提供していただいた。事務局で、今日出た意見をこれに加えて、資料を厚いものにしていくということになるか。

【三枝海外協力官】  今回頂いた意見をまたリバイズさせていただきたい。

【木村座長】  大変建設的な意見をたくさんお出しいただいた。それでは、本日の議論はここまでということにしたい。

○最後に、事務局より次回の会議での議題や今後の予定について説明がなされ、閉会した。

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(大臣官房国際課国際協力企画室)