資料3 南米ワーキンググループで出された主な意見等

 平成24年11月 
大臣官房国際課

1.背景

○ 南米は地理的に我が国からみて地球の真裏に位置するが、19世紀後半にペルーやアルゼンチンへ日本人が移り住んで以降、現在では、世界で最も多くの日系人を有する地域として親日派も多い。
○ 南米諸国はODA対象国ではあるが、例えば、中南米のGDPは、ASEANの約2.5倍、一人当たりGDPも中国の2倍と非常に大きく、特にブラジルは中南米の約半分を占め、ブラジルだけでASEAN、ロシア、韓国を上回っている。世界経済危機であっても引き続き4~6%の成長率を維持し、今後も有望な成長市場として期待。中南米は資源と食料の供給源として魅力が高く、例えば、銅は世界の生産量の約半分、鉄は約4分の1、大豆は約半分のシェアを占めるなど、特に我が国にとって資源確保、食糧供給の観点から国際社会の中で日本を支援してくれる国として重要であり、南米諸国の存在意義は極めて大きい。 
○ 中南米全体で33か国というのは、国連加盟国の約2割を占め、国際場裏での発言力は高まっている。
○ 日本の面積の5.5倍ある不毛の大地と言われたセラードを世界有数の穀物生産地に変えた、1970年代半ばから始まった日本の国際協力「日伯農業開発セラード・プロジェクト」によりブラジルの大豆生産が大幅に増えたが、中国、韓国が最近急速に南米にアプローチし、特に中国がその多くを買っている。しかしながら、製造業への投資、特に技術を移転させ、雇用の拡大をしてきた投資は、日本が圧倒的に行ってきており、50年以上の伝統があるJICAをはじめとする日本の長い国際協力をベースに作られてきた協力関係は、ごく最近始めたばかりの中国、韓国と比べても、簡単に替わられるものではないことは現地でも理解されている。
○ しかしながら、前述のような同国発展への貢献後20年以上に渡る空白期間を経て、南米諸国での日本の影は薄くなっている。
○ 他方、南米諸国の進展する産業界では、産業育成・人材育成が各国の課題となっており、教育強化のため、不足している人材育成への取り組みや自国の予算を投じて先進諸国への留学生派遣などを進めようとしており、我が国がそれらの要請に応え、戦略的に国際教育協力を進めることによって、日本のプレゼンスを再び示すことができると考える。

2.現状と課題

(1)JICA等による協力
○JICAが行う教育協力の手法のうち、南米の場合はこれまでに最も実績があるのが「技術協力」であり、次の三つに分類。
  ・基礎教育プロジェクト
    主として学校運営の改善や、理数科、算数等の科目に係る教員研修による教員の質の向上を目的として、専門家をペルー、コロンビア、ボリビア、パラグアイ、チリなどに派遣するもの、また、課題別研修として南米諸国から大学等の研修プログラムに参加し、更にそこで策定されたアクションプランを研修員が母国に持ち帰り、自分たちのアクションを事業化していくフォローアップ協力による支援を実施。
   
  ・地球規模課題対応国際科学技術協力(SATREPS)(H20~)
    開発途上国と我が国の国際共同研究を通じて、地球規模課題の解決と人材育成を目指すもの。中南米では、ブラジルが最も案件数が多い。プロジェクトの例として、温室効果ガス排出削減の制度設計のために森林に蓄積された炭素量の効率的、効果的測定を行う「アマゾンの森林における炭素動態の広域評価(ブラジル)」、津波に対する防災の協力「津波に強い地域づくりの技術の向上に関する研究(チリ)」がある。

SATREPSは大きなポテンシャルを持っており、科学技術分野におけるさらなる日本の南米への協力の重要なアプローチになると期待。
  
  ・海外移住事業における人材育成
    南米諸国に住む12~15歳の日系子弟を日本の中学校等に招へいする「日系社会次世代育成」、日系人の日本の大学院への留学支援「日系社会リーダー育成」、短期間の研修プログラム「日系研修員受入」、ブラジルの日系社会にある日系関係団体に日本から2年間ボランティアを派遣する「日系ボランティア」。
    特に「日系ボランティア」では、最近、日本でブラジル人を多く受け入れている愛知県等の公立学校の現職教員をブラジルの日系社会の学校等に派遣し、そこで日本語教育等に取り組みながらブラジルの学校教育を経験した後、出身県に戻って在日ブラジル人の支援に貢献するという制度を4年前から導入。

○JICAの課題別研修で途上国から受け入れている研修員数は年間6000~7000名程度と、国ごとの受入数はさほど多くはないが、国に固有の重点分野や、その国を対象に動いている大きなプロジェクトにそれぞれ合致する課題別研修という形で、大きな目的のために抱き合わせで実施する支援の一つと考えている。
  
○南米に対する協力は、経済成長が著しい地域であることから、選択と集中を方針として
    実施。インフラ分野での整備の遅れに対する協力、同じ地震頻発地域として我が国の知見を活用した防災分野での協力、森林・熱帯雨林等の自然保護の観点からの協力、地方の貧困地域の小学校建設の協力を実施。
  
○教育分野での協力として、例えば、ブラジルからは、造船分野での人材不足に対する専門家派遣の要請あり。

○南米では人材育成を基盤とした国づくりが課題となっており、伝統的に大きい貧困格差をなくすような支援を目指すべき。
  
○JICAは、ODAのサクセスストーリーなどを、英語やその他の外国語、特にスペイン語やポルトガル語に翻訳して南米諸国に対し広く情報発信すべき。
  
○ 経済産業省における対南米人材協力は、研修生の受入れと現地専門家派遣の2つ。
    ・研修生の受入れ
      民間企業等のニーズを踏まえ途上国の産業人材を対象に、座学で一般的知識を習得した後、日本企業においてOJT方式で研修を行う「技術研修」、同窓会組織AOTS(海外技術者研修協会)を通じて募集した現地のマネージャークラスに対する研修を行う「管理研修」をそれぞれ実施。
   ・現地専門家派遣
      企業からの負担を得つつ、実際に事業を行う現場において、企業の経営・技術向上支援に必要な助言・指導を実施するための専門家を派遣。
    ・今年度より、我が国の学生・若手社会人の途上国の政府系機関・現地企業への海外インターンシップの支援を開始。また、H21~23に実施し評価を得た産業人材裾野拡大支援事業の後継事業として、「海外における中小企業の大卒、高専等の現地高度人材確保の支援」を新規要求。
    
○ブラジル進出日系企業の雇用に関する課題として、1 高い知識を持ったエンジニアの確保が難しいこと、2 教育水準の地域格差があること、3 日本に比べて高い離職率、などがある。

○日本人学生、外国人留学生の、現地日系企業でのインターン実施は、グローバル人材育成
  のために効果的であると考えられるとともに、企業にとっても優秀な人材を確保することにつ
  ながる可能性あり。南米の場合、距離的遠さ、コスト、ビザ問題、治安等による難しさはある
  が、知見のあるNPO「ブラジル日本交流協会」とも連携して、現地企業や現地NGO等への学
  生のインターン参加の推進を図れないか。
    
○南米出身で、日本の大学等高等教育機関に留学している者、又は出稼ぎに来ている日系ブラジル人等定住外国人の本邦企業への就職は、現地国側・日本側が共に目標とすることの一つ。(とりわけ、グローバル化が進展する現在、中小企業を含む日本の多くの企業が新興国に進出。優秀な現地人材を確保することは日本の企業にとって課題。)そのため、企業側の人材ニーズをいかに大学等の教育・人材育成プログラムに組み込むか、またそれら人材育成において企業と連携できることは何か。
 
 
2)初等中等教育に係る協力
○2008年に30万人とピークに達した在日ブラジル人の数は、その直後の日本の経済後退やブラジル本国の経済成長により、約三分の一がブラジルに帰国し、現在は21万人にまで減少してはいるものの、ブラジル本国以外に居住するブラジル人の数としてはアメリカに次いで2番目に多い国。また、日本に居住する外国人数では、韓国、中国に次いで3番目に多い国であり、21万人のうち4万5000人が初等中等教育対象年齢。将来ブラジルへの帰国を考えている者への支援として、トヨタや三井物産等日本企業による研修制度や、ブラジル人学校の学費を払うことが困難で日本の公立学校に入りたいと考える者が日本語教育を受けるための「虹の架け橋教室」プロジェクトが日本政府により提供。
  
○「虹の架け橋教室」等で日本語を習得した在日日系ブラジル人が、ブラジルへ帰国した後に日本語を広める上で大きな役割を果たしてくれるものと期待。

○ピーク時には我が国に100校ほどあったブラジル人学校が、現在では70校に減っており、そのうち各種学校として認可を受けている学校は13校。
  
○日系ブラジル人コミュニティからの要望として、各種学校として認可されているブラジル人学校に対して特定公益増進法人制度及び指定寄附金制度を適用することにより、所得税の免除及び当該学校への寄附金に対する免税処置がなされることによって、ブラジル人学校へ寄附をしたり支援をしたいと考える民間のイニシアティブを奨励するものと期待。
○JICAの教育分野に係る技術協力の一環で派遣教員として世界各国に行った方々のレポートを分析したところ、中南米については、国ごとに一律の学習指導要領もなく、また統一した教科書もないなど、教育課程の面でのニーズが非常に高いことが伺える。

○例えば、特に理数科教育について、中米の広域協力という形でホンジュラスのもとにある組
  織とJICAが長期間協力して学習指導要領や教科書を整備する等して算数教育のレベルを高めたという実績があるなど、中南米諸国の教育ニーズはここにあると思われ、日本のノウハウを輸出することにより教育協力に貢献できるものと思料。
  
○ブラジルでは、基礎教育8年間の義務教育課程での進級率が82%と、欧米の先進諸国と比較して著しく低いことが大きな問題であり、魅力あるカリキュラムの構築、教員の教授能力の向上及び教育指導体制の充実等が必要不可欠である。そのための具体的な戦略及び協力の枠組みをいかにすべきか。
    【参考】「学校教育の質向上プロジェクト」(2003~2010、ボリビア)
    
○ブラジルなど、教育へのアクセスが一定水準以上実現できている南米諸国にあっては、それに加えて教育の質の向上を図る上で不可欠となる持続発展教育(ESD)の視点を盛り込んだ教育協力を行うことが必要。
    【参考】「国連・持続可能な発展のための教育の10年(DESD)」について、2002年の国連総会で採択されて以降、ユネスコが主導機関として指名

(3)高等教育及び研究開発に係る協力
 〔留学生交流の推進〕
○ブラジルは1億人以上の人口を抱え、この20年間経済的にも非常に安定している国であり、海底油田が次々に発見されるなど、これからの経済成長も見込まれている。さらに、2014年にサッカーのW杯、2016年にはリオデジャネイロで夏季オリンピックが開催される予定であり、インフラ整備のために日本企業からの投資も増えている中で、専門的知識を有した人材育成が急務となっており、その必要性からブラジルでは、今後10万人の理系分野における学部学生及び大学院生をブラジル政府奨学金で海外の先進国へ留学させる「国境無き科学」プロジェクトを2011年に策定、2012年年7月、IJASという協定を日本(JASSO)と締結し、我が国にも2013年より3年間で4000人の留学生を送り込む予定。


○留学先の優先学部としては、化学、生物学、ナノバイオテクノロジー、航空工学、石油・ガス採掘工学などで、日本において最新の研究が進められている分野でもあり、これらに協力することによって両国の関係を更に強固なものにすることが可能。

○日本に住んで日本文化や日本語をある程度理解している在日ブラジル人の子弟がブラジルに帰国後、例えば、ブラジルで大学学部レベルまで在学し、このたびの新規プログラム「国境無き科学」の制度で日本の大学院に留学するため、再び来日するという流れができれば、両国の架け橋となる人材養成が効果的に行えるものと思われる。
  
○アルゼンチンでは、米州開発銀行から留学生派遣のための資金を得て、科学技術分野における日本への留学生派遣を希望しており、現在受入れ方法等について検討中。
                        
○ブラジルを始め南米諸国からの日本への留学生は、2011年度には前年比マイナス18.1%と大幅に減少しており、「留学生受入れ30万人計画」を踏まえ、ブラジルやアルゼンチン国等における日本への留学生派遣プロジェクトの活用等により受入数の増を図ることが必要。
  
○ペルーやコロンビアなどは、日本への留学経験者が多く、人的な交流が非常に重要であることを感じており、今後もこういった関係を続けていくためには受入れ留学生数を増やすことはマストである。
  
○日本とメキシコとの間の日墨交流計画で、毎年100人の両国の学生、研究者、企業の人々が交流して、目に見えないところで大きな効果があったのではないかと思う。そういう南米向けの重点的な留学プログラムができれば日本に来たい人はたくさんいるのではないか。

○国費外国人留学生の教員研修留学生制度は、我が国の国立大学の教員養成系学部に海外の教員を招いて1年半程度トレーニングをするプログラムで30年近くの実績があり、ペルーやブラジル等南米からも多くの教員が採用されている。帰国した教員とのネットワークを作る等フォローアップを行うなど、南米諸国の教育協力の柱と位置付けて、両国で連携して実施していくことも一考。
  
○一定期間、南米諸国側学生を本邦で受け入れるとともに、本邦学生を現地に派遣することができないか。日本人学生にとっては、短期間であっても現地で多様かつ優秀な人材と交流する機会が得られ、国際協力や海外への意識が高まることが期待できる。
 
 
 

 〔人材育成への協力〕
○アジアや中東では、高等教育分野での国際教育協力としてSEED-NetやE-JUSTが非常にうまくいっているが、南米でも不足が指摘されている工学部等人材の育成に係るこういったモデルをつくっていくべき。その場合、南米は日系人というバックグラウンドがあることから、ある程度絞った形でプログラムをつくり、必要に応じ南米にある地域ネットワーク(南米諸国連合:UNASUR)等を活用するなどして、それを徐々に広げていく方法も考えられる。
  
○これまでの国際協力は、その国のファンである教員が非常に熱心にやっているケースがあり、当該教員が退職等で不在となるとその後は途絶えてしまうことが多い。国際協力を組織的に継続していくためには、組織として継承していくようなシステム作りが必要である。


(4)産学官連携による教育協力
○ブラジルで70年以上にわたりビジネスを展開している三井物産株式会社では、次のようなブラジル人支援に係る社会貢献を実施している。
    ・在日ブラジル人の子弟向け奨学金制度(2009年~)
    愛知県、静岡県等の集住都市にあるブラジル人学校に在学する児童・生徒に対する月謝の補助を実施。
    〔24年度〕22校、322人
    〔23年度〕24校、284人
   
    ・NPO、ボランティア団体に対する支援活動(2005年~)
    在日ブラジル人を支援するNPO法人やSABJAなど全国規模で活動する組織や、地域において教育・医療等の分野で活動する組織を支援。
   
    ・在日ブラジル人学校教員養成に係る支援(2009年~)
    マトグロッソ連邦大学が日本の東海大学と協力して行う「ブラジル人初等教育教員養成」の大学コース「日本学」に係る費用を支援。
   
    ・カエルプロジェクト
    〔ブラジル(2008年~)〕日本からブラジルに帰国したブラジル人子弟の現地学校や社会等への適応を支援(常勤専門家2名、教師3名をサンパウロ州の学校に派遣)。
    〔日本(2009年~)〕ブラジルで当該プロジェクトに携わっている専門家を日本に招へいし、主に在日ブラジル人の児童・生徒の保護者を対象にしたセミナーを開催。
   
    ・自閉症児自立支援教育プログラム支援(2012年~)
      100人に1人の割合で存在するブラジル本国の自閉症児に対し、日本の武蔵東学園で開発された、薬物療法に頼らず体育を中心とした教育により、本人の自立を促す活動を実施(現在8名が対象)。
    
○日系ブラジル人等定住外国人の子弟が本国へ帰国した際、現地学校や社会への適応支援を目的として、子どもたちを心理面、学習面及び環境面からケアし、日本語・ポルトガル語、及び/又は日伯文化を学ぶことができるような環境支援など、将来両国の架け橋となる人材育成への取り組みを拡充できないか。
  
○三井物産株式会社のような日系企業の社会的責任(CSR)活動がより活発になり、結果として定住外国人子弟の本国への帰国に際して現地学校や社会への適応支援が行われることを期待。


(5)その他
○日本では、ODA対象国から外れると国際協力はできないということになるが、中国や韓国はそうではなく、資源や戦略的重要性の観点からどの国が重要かという発想をしている。日本でも戦略的重要国特別支援制度というようなプログラムをつくり、ODAとは別のメカニズムをつくらないと完全に諸外国との競争に負けてしまう。

○ブラジルでの日本語教育については、日系人に対する継承語教育としてはJICAが行っていて、それ以外は国際交流基金が行っているということだが、日本語教育や日本文化を広めるときに日系人から更にその先に広がっていかなければいけないことを考えると、両方の良いところを活かす形でまとまった方針があるとよい。 

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