国際協力推進会議 南米ワーキンググループ(第2回) 議事録

1.日時

平成24年10月29日(月曜日)10時00分~12時00分

2.場所

文部科学省3階 2特別会議室

3.議題

  1. 対南米教育協力について(現状と課題)

4.出席者

委員

木村座長、井上副座長、江原委員、桜井委員、田中委員、細野委員、青木主査(冨澤委員代理)

(発表者)
パウロ・バターリャ在日ブラジル大使館ブラジル人コミュニティ部部長、セシリア・リソロ在日アルゼンチン共和国大使館二等書記官、折井陽太三井物産株式会社経営企画部海外室次長

文部科学省

山中文部科学審議官、加藤国際統括官、永山国際課長 外

オブザーバー

(外務省) 林中南米局南米課事務官、竹村国際協力局国別開発協力第二課課長補佐
(経済産業省) 兵藤通商政策局米州課中南米室室長補佐
(独立行政法人国際協力機構) 森田中南米部南米課企画役、亀井人間開発部基礎教育第一課長

5.議事録

○筑波大学教授の田中委員から「教育学系とJICA筑波の国際教育協力プロジェクトの実績と意義」について発表。引き続いて質疑応答を行った。概要は以下のとおり。

【田中委員】 私は、教師教育について2つのプロジェクトに協力した経験をもとに発表させていただく。ペーパーで配付している1番目は、派遣型の教師教育、日本の現職の先生がJICAの派遣生として1年半ほど行かれて、その報告をまとめたものが1つのペーパーである。もう一つは、招へい型で、ドミニカ共和国、コロンビア、ボリビア、ホンジュラス等の教員養成機関の幹部の方を1か月ほど日本にお招きして集中的なプログラムを展開するものであり、この2つの経験をペーパーにまとめたものをお配りしている。
 日本の大学の中南米への国際協力は比較的手薄である。その理由は、留学生も非常に少ないということがある。筑波大学でも南米からの留学生は非常に少なく、一桁台である。私は海外への協力センターなどに勤務している者ではなく、通常の授業や管理職の業務を遂行しながら大学人として何か中南米の教師教育に協力できないかということでチームを組み、3年間実施したものが、今ここに示しているものである。
 招へい型の場合、招く方と招かれる方の両方にとって、お互いに情報を共有したり、交流したりすることが知的な刺激を得る機会になった。研修は、少人数で来ていただき、日本の学校を参観したり、実習施設を参観したり、特に筑波大学の場合には、特別支援も含めて附属学校がたくさんあるので、そうした附属学校での交流を進めて、ディスカッションを進めて交流を深めた。このディスカッションの一部は「教育学系論集」の93ページから94ページのところに掲載している。日本の学校の先生たちの様子について、あるいは子供たちの様子について彼らは大変驚いていた。例えば、「朝の読書会をやっているのに、先生がいないけれども、どうしたことなのか。南米であればとても成立しないのに、どう指導して集団づくりをしたのか」という質疑の様子がある。そこのところはゆっくりごらんいただくとよいかと思う。
 招へい型の協力を行って感じたことは、私たちにとっては教育や研究と関連づけた協力事業が行えたということである。ただ、通常の業務とあわせてやっているので、負担が大きかったところは率直にある。この事業では、非常勤の方を一人雇って、特に経理や業務の報告書などの作成は大変負担になったので、こうした非常勤のサポート体制があれば、こうした事業も引き受けやすいのではないかと思う。
 もう一つ、今、国立大学法人は組織評価にさらされていて、大学としてどのような社会貢献をやっているかを中期目標にも掲げているし、それをもとにした組織評価が年次ごとに行われている。私どもは、国際協力を社会貢献として、組織的な評価や教員評価で、是非正当に価値づけていただきたい。これまでの国際協力というと、その国のファンの先生が非常に熱心にやられるが、その先生が退官されると、あとはほとんど途絶えてしまうことが多い。これを組織的に継続していくためには、組織として継承していくようなシステムづくりが求められている。
 そのためのインセンティブとしては、例えば、事業に協力した組織に対して、感謝状とまでは言わないが、組織的な評価を客観的に示すような文章などをいただけると、大学の組織評価の中で大変アピールできる。今回のこの事業はJICA筑波と協力して行った。JICAと筑波大学は多方面で協定を結び協力をしているが、実は、この事業に関しては大学の本部はほとんど掌握していなかったということで、残念ながら、組織の評価の中では文書にも載らず、参加した教員たちは落胆したという実情があった。これは事務局のミスもあるが、JICA筑波にも率直にそれを申し上げたら、ホームページに事業の様子を掲載していただいた。3年間、無報酬で、手弁当で協力したものについては、組織的なサポートや組織的な評価を加えていただければ、ほかの大学でも協力しやすいのではないかと思う。
 日本の国立大学は80年代くらいから外国の教師たちを招いて国費で1年半ほどトレーニングするプログラムを持っている。これは、文部科学省高等教育局留学生課で、国費外国人留学生・教員研修留学生という制度で行っているものである。これは全国の日本の大学が実施しているもので、教員養成系を中心に、筑波大学も、去年は震災の影響で少なく5人くらいだったが、今年は8人ぐらいで中南米からも結構いる。ルーマニアからもいて、これも教師教育の事業としては長年の実績を持っている。たしか、月19万円ほどの支給が行われていて、かなり手厚いものだと聞いている。こうした事業を、是非、高等教育の海外協力の中で位置づけて連携を取っていかれるといいと思う。その中には、中南米、ペルーやブラジルから来た先生もいて、帰国後、フォローアップしていないものですら、30年近くやっているのだが、帰国された方たちとの通信、ネットワークをつくることができればいいのではないかと思う。
 以上、大学として、教師教育の側面から中南米と協力しました実績と課題について報告をさせていただいた。

【桜井委員】  3つ質問させていただきたい。1点目は、招待した人は小学校の先生か。2点目は、今回の相手国は、コロンビアとホンジュラス、ボリビア、ドミニカ共和国だが、コロンビアは大国で、残りの国は割合に貧しい小国であり、その教育レベルも違うと思うが、そのあたりは如何(いかが)だったか。3点目は、こういった経験は蓄積するのが非常に重要だと思うが、ノウハウの蓄積はどうされているか。

【田中委員】  招へいは、小学校の先生というよりは、小学校の教員を養成している機関なので、日本で言うと昔の師範学校で、校長先生と呼ばれる方が多かった。そういう幹部の方をお招きしている。
 そして、国としては大変小さな国も多いが、我々が驚いたのは、お互いの国同士が、スペイン語圏なので交流をし始めて、さすが教員養成機関の幹部で、お互いの情報を共有し合って相互に学び合いを始めていた。コロンビアなども、学校のすぐ近所でゲリラの撃ち合いが始まったというエピソードなども公表されて、国別にいろいろな事情を抱えているが、同じ教師教育に携わっている者としての情報交換は非常に濃密にできたと思う。
 それから、蓄積については、論文の形で少しでも残して次の方たちが行われるときに役に立てばと思うが、1つだけ資料で言うと、『日本型カリキュラム実践』のこの論文の111ページに図表を書いている。これはJICAの派遣教員で世界各国に行かれた方たち、合計130人くらいのレポートを分析したが、111ページの中南米のところを御覧いただくと、教育課程のところのニーズが非常に高い。全国一律の学習指導要領も教科書もなく、教育課程の面で突出したニーズが、66人くらいの派遣隊員の感想として出てきている。ここに中南米地域の教育ニーズがあるのではないか。日本のいろいろなノウハウを輸出するとすれば、ここの側面からのサポートではないか。筑波大学の附属小学校では、算数教育で現職の先生を派遣して、向こうの先生たちの教育指導を行ったりしている。

【木村座長】  前のスライドで、コロンビアやドミニカとあったが、これは公募したのか、それとも現地のJICAで決めてきたのか。

【田中委員】  現地で選んでこられた方である。現地のJICA事務所で情勢を判断して決めてきた。

【井上副座長】  先ほどフォローアップの重要性等のお話があったが、こういう協力をする場合は、ある一定のクリティカルマスが必要だと思う。南米も大変大きなところだが、ポツポツと来て、果たしてそれがどの程度効果があるのか。もちろん、大学の先生は一生懸命にやるけれども、JICAの方針としてクリティカルマスをつくろうとしているのか、あるいは、パラパラとやろうとしているのか。

【森田中南米部南米課企画役】  研修については、課題別研修という形で、多いころで年間8,000名くらい途上国から受け入れる仕組みがある。今は少し減って6,000名から7,000名くらいだと思うが、年間そのくらいの研修員を受け入れることを長年やってきている。しかし、最近、そういった研修だけでどれだけ成果につながるのだという指摘も受けているので、そういった国に対する重点分野と合致する課題別研修、若しくは、その国で動いている大きなプロジェクトに合致する課題別研修という形で、抱き合わせで実施する方向に変わってきている。成果がどのように出るような方向性でやっているのかという御質問に対しては、この課題別研修は、そういった1つの大きな目的に向かう投入の一つと位置づけて実施してきているということがお答えになるかと思う。

【田中委員】  今の点で補足させていただくと、今回のプログラムの改善点は、帰国後、アクションプランをつくっていただいて、その追跡調査をテレビ会議で行った。研修で終わりっ放しではなくて、その後、アクションプランをつくって帰って、それを実践してどうかというところまで跡づけでいるところが改良された点だと思う。

【細野委員】  補足的なことだが、今御紹介いただいたケースは、本邦研修という形を使って教育への貢献、日本の協力をされている。JICAのプログラムは様々なアプローチがあって、その中で、例えば、学習方法、特に理数科教育については、ホンジュラスのもとにある組織とJICAが長い間協力して、中米の広域協力という形で、技術協力による包括的なプログラムが算数教育のレベルを非常に高めた。教科書と学習指導要領も整備して、非常にたくさんの専門家の方、その他の方々が行ってやっておられる。同様なことがチリや他の国でも行われており、JICAのいろいろな教育協力の一環ということで、総合的に考える必要がある。

○続いて、在日ブラジル大使館ブラジル人コミュニティ部部長のパウロ・バターリャ氏より発表があった。概要は以下のとおり。

【バターリャ一等書記官】日本の皆様方には、常に温かい歓迎をしていただいていることを感謝申し上げる。
 ブラジルと日本の関係は非常に長く、深い歴史を持っている。全部語ると非常に長くなってしまうので、本日は2点に絞ってお話をさせていただく。
 1点目は、日伯の教育協力に関して、ブラジルの中で行える部分であり、2点目は日伯の教育協力で、日本に住む在日ブラジル人コミュニティの観点から見た協力の可能性である。
 1点目からお話しする。ブラジルは1億人以上の人口を抱え、この20年間、経済的にも非常に安定をしている国である。これからの経済成長も見込まれている国である。海底油田が次々に発見されていて、これからの大きな成長が見込まれている。
 また、2014年にはサッカーのワールドカップがブラジル開催、2016年にはリオで夏季オリンピックが開催される予定で、それに向けて今、インフラ投資が行われており、そこに日本の企業の方々にも参加していただいている。このようなブラジルの経済成長、そして大きなイベント、そして鉱物資源という文脈の中で専門的な知識を持った専門教育を受けた人材が非常に必要とされている。その必要性から、2011年、ブラジル政府は、学生の「国境無き科学」という名前をつけたプログラムを発表して、学生の海外交流というプログラムを立ち上げた。そのプログラムでは、今後10万1,000人の学部大学生、大学院生を海外、特に先進国の大学に留学させるというプログラムである。その先進国の中には当然、日本も含まれている。
 学生の行き先としてはアメリカ、西ヨーロッパが多いが、アジアの中では日本に対しても4,000人の学生が留学に来ると見込まれていて、日本のよい大学で勉強する予定になっている。アジアには日本だけではなくて、中国や韓国にも留学生を送るが、今年の7月に日本学生支援機構(JASSO)と覚書(MOU)を署名して、その中でブラジルの留学生を受け入れる体制が整ったので、来年から留学生が日本に来ることになっている。
 その中で、優先学部としては、工学部全般だが、化学、生物学、ナノビオテクノロジー、航空工学、石油ガスの採掘の工学である。今、挙げた分野においては、日本は最新の研究が進められている分野でもあるので、この分野に対して協力を行うことによって、日本とブラジルの間の協力を更に深いものにし、科学技術交流を強化してまいりたいと思っている。
 次に、2番目の在日ブラジル人コミュニティの観点から日伯協力の可能性についてお話しする。2008年には在日ブラジル人の数がピークに達して30万人の在日ブラジル人がいた。その後、経済危機によって3分の1がブラジルに帰国して、現在、日本にいるブラジル人は21万人である。日本の経済が失速したことと、また、他方、ブラジルで経済が成長していることもあり、3分の1がブラジルに帰ったが、今なお21万人のブラジル人が日本で生活しており、この数はブラジルにとっては2番目に多い国となっている。アメリカに住んでいるブラジル人が一番多くて2番目が日本になっている。また、この21万人のブラジル人にとっては、日本にとっても3番目に多い外国人となっている。韓国、中国に次いで3番目である。
 そして、21万人のうち4万5,000人が、小学校、中学校、高校に通っている年齢である。この4万5,000人の就学年齢の子供たちは2つのタイプに分かれて、1番目は、将来はブラジルに帰ってブラジルで生活したいと考えている子供たち、2番目は、日本にそのまま残って日本の社会の一員となって暮らしていきたいと考えている子供たちである。1番目の、ブラジルに将来帰りたいと考えている子供たちに関しては、日本企業の、トヨタや三井物産から支援を受けている。ブラジルに帰るのを支援するプロジェクトや、トヨタでは自動車分野での研修制度をとってくださっている。また、日本に残りたいと考えている子供たちに関しては、日本政府の方で「虹の架け橋教室」というプロジェクトを立ち上げてくださり、協力してくださっていることに感謝申し上げたいと思う。
 ブラジル人学校に通っていたものの、経済不況の関係で学費が払えず、日本の公立学校に入りたいと考えている子供たちに対して、「虹の架け橋教室」で協力・支援をしてくださっている。このプロジェクトは、3年延長して2014年まで行うことを決定してくださったことに感謝申し上げたい。
 また、もう一つのメカニズムとしては、各種学校の認定である。各県がブラジル人学校を各種学校と認定する制度があるが、各種学校に認定されると税制優遇を受けることができる。危機にもかかわらず、経営を続け、教育を行っているブラジル人学校が日本にあるが、その学校にはこのメカニズムが適用されている。
 ピークのときには、ブラジル人学校は日本全体で100校あった。現在はその数が67校に減っている。その67校のうち、各種学校として認可を受けている学校は14校である。この各種学校として認可された14校に関しては、日本政府の支援を受けてよい教育が行われているので、この学校経営を続ける、よい教育を行っていくという面においても日本政府の協力は不可欠なものだと考えている。このような日本政府からの支援を継続していただくことが将来の二国間の教育協力にもつながっていくと考えている。一つ、提案をさせていただきたいのは、これはブラジル人コミュニティからの要請でもあるが、所得税制の中で柔軟な対応をしていただきたいということである。
 1つは、特定公益増進法人制度、もう一つは指定寄附金制度で、ブラジル人の各種学校に対してもこの制度を適用していただけるようにお願いしたいと思う。この2つの制度が適用になると、各種学校として認定されているブラジル人学校の所得税が免除されるというメリットと、その学校に対する寄附金に対して免税が行われるというメリットがある。この特定公益増進法人制度と指定寄附金制度を使うことが、ブラジル人学校に対して寄附をしたり、支援をしたいという民間のイニシアチブを奨励することにもなるので、この制度の適用をお願いしたい。

【木村座長】 「国境無き科学」は何年までの予定か。

【バターリャ一等書記官】  「国境無き科学」のプログラムは2011年から2015年までの計画である。

【木村座長】  日本に4,000人という、ターゲットとしての数字をお挙げになったが、4,000人を5年で割ると1年間に大体800人である。今、300人くらいだから800人を足すとブラジルからの留学者が1,000人を超える。

【バターリャ一等書記官】  4,000人というターゲットは2015年までのトータルの目標なので、毎年同じではなく、合計して4,000人にすることがターゲットである。

【桜井委員】  ブラジルへの日本企業の投資誘致は大変重要で、私も前の職場のJETROでそれを一生懸命にやってきたが、ブラジルに進出する有利な条件の一つとして、日系人の方が140万人くらいおられるということがある。しかし、今、ブラジルで起こっている問題は、二世から六世くらいまでいる日系人が日本語と疎遠になり、日本語を勉強する日系人が少なくなっていることである。その観点から言うと、今日本にいる21万人のブラジルの日系人が日本語とポルトガル語をきちんと勉強すれば、日本の企業がブラジルに割合にスムーズに進出できるので、この点については日本政府もJICA等も、戦略的かつ真剣に考える必要があると思う。

【バターリャ一等書記官】  日本に住んでいるブラジル人はほとんどが日系人なので、日本に住むことによって日本語ができるようになったり、また、日本の文化を吸収することは非常に大切なことだと思う。また、それに関して、「虹の架け橋教室」というプロジェクトで助けてくださっているが、この日系人の人たちがブラジルに帰ったときには、ブラジルで日本語を広めるために大きな役割を果たしていく人材であると考えている。

【細野委員】  1点目が10万人に上るプログラム、もう一つが在日のブラジル人の方々の教育に関する御発表だったが、この2つの関連を伺いたい。というのは、欧米に留学するのと違って、日本への留学は、日本文化なり日本語が、ある程度できた方がいいわけだが、在日ブラジル人の方々がブラジルに帰られて、更にどういう教育レベルで帰られるか、在日ブラジルの子弟の方々がブラジルに帰国された後、例えば、大学レベルまでブラジルで勉強されて、「国境無き科学」プログラムを使って再び、大学院レベルや、高いサイエンスのレベルで日本に留学する。そういうことができれば非常に効果的な人材養成になっていくし、日本でも希望しているグローバル人材の養成にもつながっていくわけである。言いかえると、在日ブラジル人の方々が一たんブラジルに戻り、その子弟の方が、「国境無き科学」プログラムで、日本に再び来られれば、非常に効果的な人材養成になると思うので、そこを質問させていただきたい。
 もう一つは、日本にもいろいろな特徴を持つ大学があり、ブラジルの科学技術にかかわる日本への期待は様々なものがあると思う。ブラジルにはたくさんの県人会があり、日本とブラジルの交流を行っている。そういう交流を行っているところを通じての情報交換し、4,000人をベストな形でブラジルから日本に送り込むのは、非常に大きなアンビシャスなプランである。できるだけスムーズに、かつ情報をうまく活用して、いいマッチングをするためにはいろいろな方法があると思うが、そういう県人会のような組織を活用することは考えられるか。あるいは、他にもっといい方法があるのかもしれない。その辺を質問させていただきたい。

【バターリャ一等書記官】  今のコメントは有り難く、賛成する。ブラジルには150万人の日系人社会がある。この日系人社会はブラジルの社会の中でも非常に成功しており、日系人の鉱山動力大臣がいたこともあるし、現在の空軍の司令官は日系人である。この日本とブラジルの交流を更に大きくするものが、「国境無き科学」プログラムで日本に来るブラジル人の学生たちだと思っている。この学生が、日本で勉強した後、ブラジルに戻って、更に日本とブラジルの交流を強化していくと思うし、それに対して、県人会や、県費で日本へ留学して戻った元留学生グループなどがあるので、そういうグループの人たちがこの交流計画に大いに協力してくれるものと期待している。

【江原委員】  日本にたくさんあるブラジル人学校だが、全部ではないかもしれないが、日本側はブラジル人学校の情報が不足しているケースも見たことがある。日本としても、ブラジルとしても、そういう学校にいる子供が育ってグローバル人材になってくれることを望んでいるわけだが、そういう研究をしている方の発言からは、ブラジル人学校での教育について、例えば、ポルトガル語教育の水準が問題であり、日本語が随分できていないと聞く。非常に高い望みを持っているのに反(はん)して、なかなか現実的に難しい点がある。特にブラジル人学校が日本の地域に対してどうしてもらいたいのか、また、どんなふうに交流したいのか、なかなか日本のコミュニティとの連絡がつけにくいという問題があるような気がする。ブラジル人コミュニティの側からの要望はどんなものがあるのか、また、このコミュニケーションギャップの問題をどうするかということについて、お考えがあればお聞きしたい。

【バターリャ一等書記官】  今、ブラジル人だけではなくてペルー人も非常に増えているという状況もあるが、ちょうど先週、ブラジルから教育省の代表が来て、日本の文部科学省との二国間教育会議を開き、ブラジル人学校の要請について情報交換が行われた。また、政府レベルでもそういうものが行われており、各県のレベルにおいてもブラジル人学校に対する支援が行われている。特に愛知県の豊田市等には非常に大きな支援を頂いている。先ほど申し上げたが、県のレベルにおいては各種学校の認可を受けるということがブラジル人学校への非常に大きな支援にもなるし、さらに、所得税制の上での寄附金制度の適用を受けることによって、ただ単に財政的な支援を受けることが大切ということではなくて、このような制度が行われることによって民間レベルの関心が高まり、それが学校運営に対しての支援につながるものと考えている。

【井上副座長】  今までのお話は日系人を中心にして日本とブラジルの協力をどうしていくかということだったと思う。日系人が灯(とも)した火は、日本とブラジルの関係において非常に財産であると思う。一方、六世くらいになると日本語をよく知らない方もいらっしゃり、その人たちにどのように日本語を教えていくかは1つのポリシーアジェンダだと思う。ブラジル政府として、日系人を仲立ちにして日本との関係を強化していきたいのか、あるいは、日系人ではなくてもジェネラルにそういうことを強化していきたいとお考えになっているのか。ブラジルは日系人を通じて日本との関係があると思うが、ブラジル社会はいろいろなところから、いろいろな国が来ている。それぞれの出身の方のところと仲よくしようとしているのか、そこのジェネラルなフィーリングを教えていただけると有り難い。

【バターリャ一等書記官】  2008年にブラジル日本人移住100周年が祝われた。そして2011年には、日本へのブラジル人移民20周年が祝賀された。そういうことで、確かに日系人の存在というのは両国間をつなぐ絆(きずな)として非常に大きな象徴的なものではあるが、それ以外にも日本とブラジルの関係、特に経済的関係が非常に大きなものとなっている。日本は80年代、90年代に、ブラジルへの投資国として第1位だった。その後、撤退していく企業等もあり、現在では第4位のブラジルへの投資国になっている。今、ブラジルでは日本車が一番売れている。そして、ブラジルの大豆は世界第一位の輸出国になっているが、その大豆の輸出国になれたのは、ブラジルの中西部、何も農業ができないと考えられていた中西部のセラードを開発して大豆生産ができるようになったのは、日本のセラードプロジェクトのおかげである。だから、日本とブラジルの関係は、最初は日系人との関係で始まったが、今や、大きな経済関係として日本からの投資をブラジルでは増やしたいと思っているし、また、日本へのブラジルの投資も増やしたいと考えている。

○続いて、在日アルゼンチン共和国大使館二等書記官のセシリア・リソロ氏より発表があった。概要は以下のとおり。

【リソロ二等書記官】教育省を代表して、日本が国際協力推進会議を構成され、南米ワーキンググループを設けてくださったという、このイニシアチブは非常に重要なものと考えている。
 アルゼンチンは、日本がこのように南米の教育支援に関心を持ってくださっているということを大変評価している。というのも、アルゼンチン自体、南南協力、あるいは三角協力、教育におけるそうした協力を非常に重視しているからである。日本とアルゼンチンの関係は既に100年を超えている。協力関係も20年以上に及んでおり、1979年以来続いている。
 本日の私の話だが、3つの点についてお話ししたい。まず、私どもの国としての教育の大原則、それから、教育制度の構造、最後に二国間の教育にかかわる協力をどのように進化、発展させていけるかということについてお話しさせていただく。
 アルゼンチンでは、教育については憲法の第14条に定められている。それからまた、憲法と同じレベルの重要性を付与されている各国際協定によって教育の権利が保障されている。そして、2006年に批准された教育法によって、教育と知識は公共の財であり、国家が保障する人と社会の権利であると定めている。教育は、我が国にとっては優先事項の一つであり、公正な社会を築き、国の主権とアイデンティティを再確認し、民主的な市民権の行使を進化させ、人権や基本的自由を尊重するために必要であるとされている。
 そうした観点に基づいて、アルゼンチンとしては、教育の営利的なサービスであると解釈するような協定、あるいは、公教育を何らかの形で商業化することを奨励するような二国間・多国間の自由貿易協定には、政府は調印しないという義務を負っている。
 教育の管理については、基本的に、教育の運営と構成立案は、州とブエノスアイレス自治市が行っている。国が管理しているのは、基本的には国立大学のリソースであり、国立大学において教育政策を提案している。大学の管理を国が行っていると申し上げたが、それぞれの大学の自主性を尊重している。
 アルゼンチンでは、州の単位で教育の管理を行っている。その中で国としては、そうした各州が行っている教育の調整、均質化を図ることが役割となっている。したがって、その責任ということで考えると、教育法の適用についての全責任を負うのは、基本的には教育省になる。
 具体的に教育省の役割は、教育にかかわる政策を策定し、教育法の履行を確保することである。各州政府は、この法律の履行を支援する。また、教員養成に関する研究を進めて、教育が緊急事態になったときに教育省が対処する。教育の緊急事態とは、例えば、教育を受ける権利が危機にさらされている事態を言う。その場合に教育省が手段を講じるわけであるが、その際にもどのような手段、方策をとるかについては各州、あるいはブエノスアイレス自治市と合意の上、行う。
 では、構造はどのようになっているかであるが、2010年に行った国民調査によると、アルゼンチンの人口は4,000万人に上っている。その中で幼稚園から大学、あるいは生涯教育に至るまで、教育を受けている人たちの数が1,200万人になっている。
義務教育は、5歳から中学校修了までとなっている。この教育は、これらの子供たちに対して4つの段階で行われるが、小学校前は、生後45日の赤ちゃんから5歳の子供までになる。5歳になると、義務教育の一環となる。6歳から小学校で、小学校の期間は6年、あるいは7年であり、州によって就学期間が異なる。中学校も、6年ないしは5年ということになる。小学校が6年であれば6年になるし、小学校が7年であれば中学校は5年になる。中学は2つのサイクルに分かれる。基本的なサイクルは全部、共通のものを勉強する。2つ目のサイクルは専攻型だが、例えば、商業や人文科学など、特定の分野を、より強調したサイクルとなっている。高等教育は2つに分かれて、大学と、高等教育機関で行う教育ということになる。これは、高等教育機関であるが大学ではないというものである。
 先ほど申し上げたように、こうしたいろいろなレベルでの教育を受けている生徒数が1,200万人いる。憲法によって教育を受ける権利が保障されているので、すべてのアルゼンチン人が教育を受けられるように政府はサポートする。そのためにいろいろなモラリティ、方式を用意している。特定のニーズに対処することによって万民、あるいは国民全体がきちんと教育を受けられるようにしている。
 今、申し上げた特定のニーズに応えるための様式は8つある。1つは職業訓練、もう一つが芸術教育、障害者向けの特殊教育、何らかの理由で18歳までの義務教育を修了することのできなかった青年や成人のための生涯教育、都市部から遠いところに住んでいる農民、あるいは地方の人たちのための、いわゆる農村教育、アルゼンチンの先住民を対象としたバイリンガルな文化教育、刑務所などに収監されている人たち向けの自由剝奪(はくだつ)下の教育、収監されているけれども教育を受けたいと望んでいる人たちが教育を受けられるようにするものである。そして、8つ目が、在宅、そして病院における教育である。
 冒頭にも申し上げたが、アルゼンチンは日本と同じようにラテンアメリカのほかの国との協力に関心を持っているが、日本との教育関連の協力にも強い関心を寄せている。分野としては、特に理科、新しいテクノロジー、デジタル・テクノロジー、マルチメディアを含む。それから、専門教育、プロジェクトサイクルにかかわる協力である。
 先ほど1979年と申し上げたのは、アルゼンチンと日本との間の文化協定が結ばれた年であるが、教育省としては、この協定は非常に価値あるものと評価している一方、今、両国はそれぞれ新しい現実と、そのときはなかった可能性を持っているので、そうしたことにかんがみて、この79年当時の文化協定の条件の見直しを望んでいる。そうすることによって、新しい両国の現状に合わせたものに適用させていくことが、私どもが望んでいるところである。
 改めて、本日このように皆様にお話しする機会を賜ったこと、そしてアルゼンチンの教育について、また、我が国が日本との協力に関心があることについてお話しできたことをお礼申し上げる。

【井上副座長】  最近の新しい現実に即して、教育の可能性をこれから検討したいというお話があった。ブラジルのお話だと、工業化、資源開発、プロジェクトが今後政府としてあるようだが、今後のアルゼンチンの国家としての方策、例えば、農業に行くのか、工業に行くのか、あるいはデジタル新技術などの方向に行くのか、それに基づいてどういうところで協力をしていきたいのかについてお考えを教えていただきたい。

【リソロ二等書記官】  政府として、今、一番関心を寄せているのは新テクノロジーの開発と、新しいテクノロジーを伝統的な分野にどう適用していくかということである。例えば、アルゼンチンは農業国であるが、農業にバイオテクノロジーなど新しいテクノロジーを適用させていくこと、あるいは土壌の生産性向上テクノロジーを伝統的な部分に適用していくことに関心を寄せている。

【江原委員】  日系人社会がアルゼンチンにおいてどのように受けとめられているのか、その活動がどのようなものであって、それは日本とアルゼンチンの協力の中に何らかの可能性や役割を果たせるものなのか、お考えを伺いたい。

【リソロ二等書記官】  アルゼンチンは、移民の受入れということでは長い伝統を持っているので、移住者は私たちにとって大変身近な存在である。そして、日本からの移住者も幅広く受け入れられている。また、ほかの国からの移住者にもそういうところがあるが、日本からの移住者も社会的に上昇していく、その一つの象徴的な存在で、最初の移住者の世代の人たちは、例えば、アルゼンチンに行って、商業や花卉(かき)栽培、あるいはクリーニング業などに従事しているが、その子供は、大半は大学で勉強をして、専門としては、例えば、保健医療にかかわる職業や、テクノロジーにかかわるような職業についておられる方が大変多い。
 それから、日本との交流についてだが、日系人の人たちは日本との交流は結構あって、特に教育においては修士課程、大学院レベルで留学する人たちが非常に多く、また、一般的な日本の文化や、日本との交流に関心のあるアルゼンチン人は、そうした日系人との交流によって、慈善交流を行っている。

○続いて、三井物産株式会社経営企画部海外室次長の折井陽太氏より「『三井物産のブラジル人支援活動」について発表があった。概要は以下のとおり。

【折井次長】  本題に入る前に、弊社のブラジルとの関係を冒頭に手短に説明させていただきたい。三井物産は、ブラジルでは70年以上、ビジネスをさせていただいている。オフィスはサンパウロ、リオ、ベロオリゾンテ、マナウスと4つ構えており、今、総勢80名の日本人が駐在でブラジルに勤務している。
 ビジネスの内容だが、例えば、ヴァーレという鉄鉱石生産会社への出資であったり、マルチグレインという我々の子会社が農業生産をしていたり、サンパウロの地下鉄4号線に出資といったインフラビジネス等々をやらせていただいている。弊社のブラジルへの投融資保証残高は約5,700億円で、ブラジルでたくさん商売を行わせていただいている中、本業のビジネス以外の社会貢献等々も行ってブラジルを支援していきたいということから、このような取組を開始した。今日は、一民間企業の取組として、主に教育面だが、我々のブラジル人の支援活動に関して、日本における取組とブラジルにおける取組を分けて説明させていただきたい。
 まず、日本における支援活動についてだが、在日ブラジル人の生徒向けの奨学金制度を2009年から実施している。愛知県、静岡県など、ブラジル人の多い都市にある在日のブラジル人学校、今年度は22校を通じて300人強の児童・生徒の月謝を補助させていただいている。御参考までに、去年は24校、300名弱に支援した。2005年から2008年は、30校に対して、コンピューター、顕微鏡、各種教材などを寄贈する活動をさせていただいていた。リーマン・ショックの後、在日ブラジル人学校で、残念ながら閉校になる学校がかなりたくさん出てきたこともあって、より生徒に直接、支援できる奨学金制度にして、この形で2009年から継続している。
 NPO、ボランティア団体の支援活動も2005年から行っているが、ブラジル人を支援するNPO法人SABJA、健康相談窓口のDisque Saudeなど、全国規模で活動する組織や地域で教育医療などの分野できめ細かに活動する組織への支援をしている。言いかえると、日本での生活への適応上の諸問題の解決のお手伝いをしている。具体的に申し上げると、専門分野でボランティアが困った方々の相談に応じているという取組である。
 続いて、4つ目の在日ブラジル人学校教員養成のための支援についてだが、これは2009年から取り組んでいる。マトグロッソ連邦大学が日本の東海大学と協力して行う事業への支援という形での取組である。ブラジル人初等教育教員免許の取得ができる教員養成の大学コースの「日本学」に係る費用を支援している。これは、言いかえると、ブラジル人学校の日本語教育の質の向上を目指すといった取組である。
 次に、ブラジルにおける支援の状況について説明させていただく。まず、カエルプロジェクトについてだが、これは、親の仕事の関係でブラジルから日本に来ていて、帰国した子弟のブラジルでの学校や社会への適応を支援するプロジェクトである。ブラジルに帰った子供の支援ということで「カエルプロジェクト」という名前がついている。主に心理面や学習面での適応をサポートするプロジェクトで、常勤の専門家2人、心理学や教育心理の専門家の方々と教師3人をサンパウロ州の学校に派遣して、家庭及び学校と協力してケア活動をしている。
 カエルプロジェクト・日本セミナーの開催については、2009年から開始しており、先ほど申し上げたブラジルでのカエルプロジェクトに携わっている専門家を日本にお呼びして、在日のブラジル人の生徒や父兄を対象にセミナーを開催している。日本からブラジルに帰国する子女が直面する、言葉や生活習慣の違いといった現地での最新の問題を解説していただいて、今、日本にいる御父兄とともに解決策を探るセミナーである。ちょうど先週、ブラジルから専門家の方が3週間のプログラムの予定で来日されて、セミナーを実施している最中である。
 次に、自閉症児の自立支援教育プログラム支援についてだが、これは今年から始めている。ブラジルでも約100人に1人の割合で自閉症の子供がいるので、日本の武蔵東学園で開発された、薬物療法に頼らない、体育を中心とした教育でこれらの子供の自立を促す活動で、在ブラジルNPOの傘下の青空学級という教育施設を通じて支援している。月曜日から金曜日まで、現在8名の児童の教育に当たっている。
 1点、補足で、来週の11月7日、8日に経団連の日伯経済委員会が主催するブラジルと日本と合同の第15回日伯経済合同委員会という大きな会議が開催される予定である。弊社の社長の飯島がこの委員長を務めさせていただいていることもあり、紹介させていただく。経済の活性化を中心とした会議ではあるが、今回の議論で何らかのヒントがあるかもしれないので、御興味があれば、そちらにも是非足を運んでいただければと思う。

【桜井委員】  私も2003年から2006年までブラジルに駐在していたが、企業のCSR活動に関心を持ち、外資系企業、ブラジル企業、政府系企業、日系企業を含めて調査をした。結果的には、ブラジルは、企業の社会的責任活動、CSRが大変進んでいることがわかった。有力経済紙による表彰制度などもあり、アメリカ商工会議所やドイツ商工会議所も独自の表彰制度を持っており、しっかりやっている。そこで、2005年くらいに、ブラジル日本商工会議所の中にCSR分科会をつくって、日系企業にCSRの実態を調査するためにアンケートをした。そのときに三井物産にも回答していただいたが、そのときと比べて格段にいろいろやっておられるのですばらしいと思った。
 CSR活動は、教育分野、貧困分野、雇用関係、文化、環境、コミュニティといろいろな分野に及ぶが、諸外国の企業は非常に頑張っている。したがって、例えば、三井物産やトヨタ自動車などの日本のチャンピオン企業は、この分野において将来的にもっと頑張っていただきたいと思っている。

【折井次長】  我々は、ブラジルで70年近く商売をさせていただいて、いろいろなビジネスを展開させていただいている中で、何か本業以外でもお役に立てないかということや、経団連の日伯の委員長も務めさせていただいているようなこともあり、考えた結果、今のような活動の状況になっている。
 企業のCSR活動は、CSRといってもいろいろな分野があるが、弊社は、ブラジルに限らず、主に教育関係と二国間の関係強化といったところに焦点を当てたプログラムを組ませていただいているのが現状である。

○続いて、独立行政法人国際協力機構中南米部南米課企画役の森田千春氏より「対南米教育協力の現状と課題」について発表があった。概要は以下のとおり。

【森田中南米部南米課企画役】 説明の前に、JICAが今、有している協力手法について説明をさせていただく。大きく3つの手法があり、大きい金額からいくと、1つは借款、ローンである。これは旧JBIC、国際協力銀行の借款部分がJICAに統合された関係で現在、有償資金協力を実施している。南米という観点から言うと、インフラ系が中心となっており、道路プロジェクトや浄水場などの保健衛生施設の建設が中心となっている。世界的に見ても、社会開発分野での借款は総体的に少ないと思う。マレーシアの留学生借款という有名なものがあったが、南米で借款による事業は、実施中のものはない。
 2つ目の協力手法として無償資金協力がある。これは、金額的には10億円前後で、ハード、施設、機材を中心に整備することを目的としている。南米の教育分野というと、ボリビアで小学校建設案件を七、八年前に実施している。無償資金協力は、ただでハードを整備するという手法なのでアフリカが中心であり、南米では、経済的に一番おくれているボリビアの小学校が協力案件となっているが、これも南米におけるメインの協力手法ではない。
 3つ目の技術協力だが、こちらは、これまでJICAの中でも長くやってきた手法で、大きなものではプロジェクト型で、日本から専門家が行って滞在し、協力を行う。そのほか、先ほど説明いただいた筑波での協力のように、課題別研修として、日本に受け入れて行うものも技術協力の一つとなっている。
 この3つの協力手法の中で、対南米教育協力で一番実績があり、説明にふさわしいと思うのが技術協力なので、今日は技術協力という観点から説明したい。
 主な協力の観点、3つを説明する。まずは、基礎教育分野のプロジェクト、これは技術協力の中で一番特徴的な、専門家が日本から途上国に行って、そこに滞在して協力を行っていくタイプのプロジェクトである。2つ目は、平成21年度から始まった新しいタイプで、地球規模課題対応国際科学技術協力、SATREPSと呼ばれているものである。3つ目は長くやっているが、移住事業における人材育成ということで、南米地域の特徴ある協力である。
 まず、基礎教育プロジェクトについてだが、こちらに最近実施したもの、終了したものも含めて記載している。ペルー、コロンビア、ボリビア、パラグアイ、チリなどで技術協力のプロジェクトを実施していた。主として学校運営の改善、教員研修を通じた教員の質向上を支援にしている。南米に限らず、ほかの地域を含めても、JICAのこの基礎教育分野は、2つの大きなプロジェクトがあって、学校運営、教員研修、特に理数科、算数といった科目を通じた教員研修を重点的に行っている。南米においても学校運営の改善と教員研修というところで協力をしてきている。
 この分野の今後の課題や方向性については、先ほど細野委員からも、域内の教育協力、1つの拠点から拡大していくという話があったが、課題別研修に参加した研修員が日本でつくったアクションプランを持って帰って、そこでフォローアップを申請することができる。フォローアップ協力という制度があり、金額的には数百万円くらいのものだが、こういったフォローアップを通じて国全体で帰国研修員が自分たちのアクションを事業化していく支援もあるし、それから、国の外に向かって帰国研修員活動を通じて第三国に向けた研修や、専門家派遣に拡大していく手法もある。日本から専門家が入って協力するタイプは、南米においてはもう一定の役割を遂げたところだと思うが、こういった直接的な協力を通じて育ってきた人たちが、自分たちの国のほかの地域、若しくはほかの国に向けて協力を拡大していくことが、今後の役割かと思う。
 次の地球規模課題対応国際科学技術協力だが、これは平成21年から実施している新しい手法で、タイプが2つある。1つはプロジェクト型、複数の専門家が入っていくもので、もう一つは専門家派遣の個別型で、それぞれ南米地域の実績として8件、13件ある。これは南米に予算が幾らと決まっているわけではないので、それぞれニーズがあってマッチングがうまくいけば実施可能な手法である。
 南米での協力は、環境・エネルギー分野が中心となる。案件としては、ブラジルが一番多くなっている。別途、A3の紙でお配りした一覧表に、これまでの南米での案件名、協力の日本側の研究機関と相手側の研究機関を書いている。国の研究所、大学など、いろいろな研究機関が協力の提携を結んで実施している。
 この科学技術協力の中から代表的なものを2つ御説明したいと思う。1つは、ブラジルでの「アマゾンの森林における炭素動態の広域評価」である。今、国際社会で森林減少、劣化の抑制に関する温室効果ガス排出削減制度づくりの議論が行われているところだが、この中での制度設計で必要な森林減少・劣化に伴って変化する森林に蓄積された炭素量をいかに効率よく精度よく測るか、この点についての技術協力を行っている。ブラジル側は国立アマゾン研究所、宇宙研究所、日本側は森林総研と東京大学で、この研究者の交流を通じてこれらの技術を向上させているところである。
 もう一つは、チリのプロジェクトで、「津波に強い地域づくりの技術の向上に関する研究」である。チリには、南米の中で非常に経済レベルが高い高中進国になるので、技術協力の数もそれほど多くないが、津波の被害を受ける国ということで、この点、最近、防災の協力ニーズが高まっており、いち早く、2012年1月にチリでこのプロジェクトは開始された。これらの協力を通じてほかの国々にも成果が普及できるといいということで、数多くの大学、機関、両国ともにかかわっている研究プロジェクトである。
 最後に移住事業における人材育成である。JICAの前身の移住事業団と、海外に協力するODCAが40年くらい前に一緒になってできたのがJICAである。移住者の支援は、JICAとしてこれまでもずっと行ってきている。
 その中で現在でも続いている事業として、海外移住事業の中の人材育成分野がある。日系社会次世代育成、日系社会リーダー育成、日系研員受入れ、日系ボランティアと4つのプログラムを実施している。日系社会次世代育成、これは、祖父母、若しくは、曽祖父母が日本から来たという、日本のアイデンティティを持ちにくい新しい世代の12歳から15歳の日系子弟が対象であり、日本語を勉強している子供たちを日本に招へいして、日本の中学校での体験などをしてもらうものであり、非常に効果が高い。数としてはそれほど多くないが、1人、日本語を頑張って勉強した人が行くことによって、周りの子供たちや日系社会全体が日本に対する関心を、より持つことができるということで非常に好評を頂いている。
 そのほか、日系社会リーダー育成がある。これは日系人の日本の大学院への留学支援である。日系研修員の受入れは、もう少し短期間の研修プログラムへの参加である。日系ボランティアは、日本からブラジルの日系社会にある日系関係団体に2年間の単位でボランティアを派遣するものである。最近は、例えば、日本でブラジル人を多く受け入れている愛知県の公立小学校の先生が、このプログラムでブラジルの日系社会の日本語学校に派遣されて、日本語を教えながらブラジルの教育、学校を知り、帰国後、自分たちの県で在日ブラジル人の受入れに貢献していくといった意味合いを持つ取組も行っている。

【細野委員】  一、二点、つけ加えさせていただくとすれば、最初に基礎教育分野のプロジェクトがあって、その後、SATREPSと科学技術研究員派遣の地球規模課題対応国際科学技術協力が進められている。特にこのSATREPSは重要なポテンシャルを持っていて、これからの南米と日本の科学技術分野の協力のさらに大きなアプローチになっていくと思う。
 それに関連するが、今日取り上げられていない一般的なJICAの技術協力のプロジェクトはたくさんあって、例えば、ペルーでは地震関係のエンジニアがたくさん来日するとともに、日本からたくさん研究者が行かれて、ペルーには地震に関わるセンター等もできているし、ペルー以外の国々でもこういったことが行われている。ブラジル、アルゼンチンも、これまでのいろいろな技術協力の大きな蓄積があって、それが更にSATREPSのシーズになっていく。例えば、オゾン層のモニタリングについての協力なども、広い技術協力からSATREPSにつながっていくこともある。今までの技術協力の大きな成果なり、蓄積、そして、それをベースにして、SATREPSなどを使った協力に発展していくとすばらしいと思う。

○最後に、事務局より国際協力推進会議(第2回)での議題や今後の予定について説明がなされ、閉会した。

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