資料3 国際協力推進会議中間報告書案

目次

1.はじめに

2.現状と課題

(1)共通
  1.  ODAを超えた国際教育協力の必要性
  2. 点から面へ 産学官連携の必要性
  3.  人材確保の必要性
  4.  グローバル人材育成の必要性
   5.  ものづくりの教育協力の必要性
(2)ASEAN
  1.  ASEANとの関係の維持・強化
   2.  AUN/SEED-Net(アセアン工学系高等教育ネットワーク)
   3.  SEAMEOとの協力
(3)中東産油国
  1.  人材育成の必要性
  2.  理数科教育の必要性
   3.  女子教育の必要性

3.進むべき方向性

(1)共通
   1.  ニーズを正確に把握し、自助努力を育てるような協力
   2.  新たな協力枠組み-プラットフォームの構築
   3.  産業界による更なる貢献と連携による相乗効果の発揮
   4.  大学の知見を国際協力に一層活用した相乗効果の発揮
   5.  国際協力の現場を活用した「グローバル人材育成」の推進
   6.  専修学校、高等専門学校が有する技術の対外発信
(2)ASEAN
   1.  多様性に応じた教育協力及び「三角協力」の推進
   2.  AUN/SEED-Netのオールジャパンでの活用
   3.  SEAMEOへの協力推進
(3)中東産油国
   1.  円滑な留学生の受入れ
   2.  理数科・工学系教育支援の推進
   3.  女子教育支援の推進

4.おわりに

 

1.はじめに

 グローバル化の進展等により、国際社会及び我が国を取り巻く環境が大きく変化する中、国際教育協力の在り方についてもその転換を迫られている。とりわけ台頭するアジア・中東等の新興諸国に対しては、民間企業を含めた多様な関係者の協働によるオールジャパンの戦略的な国際協力の実施が求められている。
 例えば、急速な経済成長を続け、我が国との経済的な相互依存関係を一層強めるアセアン諸国においては、グローバル化に対応する産業界のニーズに応える高度人材の育成が日・アセアン双方の共通の課題となっている。
また、中東産油国においては、資源枯渇後を見据えた人材育成を基盤とした国作りが課題となっている中で、日本式教育への関心が高まっており、初等中等教育段階、高等教育段階、研究開発等、様々な面での協力が期待されている。
 こうした現在のニーズを踏まえ、文部科学省は、我が国として必要な国際協力の在り方について検討するための場として、平成23年6月に「国際協力推進会議」を設置し、(1)国際教育協力(アジア・中東における新興国との国際教育協力)について(2)国際協力現場を通じたグローバル人材の育成について、平成24年2月まで有識者による議論を重ねてきた。
   本中間報告書は、平成23年度中に開催された本推進会議における各委員の大所高所からの提言をとりまとめたものであり、課題や今後の展望を掲げるものである。 

 

2.現状と課題

(1)共通

1.ODA(政府開発援助)を超えた国際教育協力の必要性
 従来、国際教育協力は主としてODAとして実施されてきており、日本はODAを通じて、ASEANなど多くの国々と緊密な関係を築いてきた。ODAの性質上、対象国が経済発展を遂げるにつれて規模は縮小されざるを得ないが、事業が終了するとともに相手方との関係自体が途切れてしまい、日本の協力で育成された人材が他国によって活用されるといった事例も珍しくない。また、中東産油国等ODAスキームが活用できない国々に対しては、留学生受入れを除いて政府ベースでの協力は行われていない。
しかし、実際には経済成長を遂げた国(一定所得水準以上になり、DAC統計上のODA対象国でなくなった国・地域)であっても人材育成という面では大きな課題を抱えている場合が多く、教育協力に係る広範かつ多大なニーズが存在している。
新興国等を含めた「開発途上国」における教育協力は、相手国にとってメリットであると同時に、日本にとっても、(1)相手国の人材を獲得・活用しようとする日本の企業や大学にとってのニーズがある、(2)将来の事業パートナーや親日派のテクノクラートが育ち、開発途上国が日本にとって有利な市場に育つというメリットがある。

 2.「点」から「面」へ―産学官連携の必要性
 様々な日本の関係者が各国との交流・協力を多数行っているが、それらは多くの場合、組織・予算を超えたオールジャパンの協力になっていないため、組織ごと、予算項目ごとの「点」としての取組に留(とど)まっており、日本全体としては必ずしも協力の相乗効果を発揮できていない状況である。しかし、全般的に厳しい予算状況を考えると、経済成長を遂げた国が増えるにしたがって、官官・官民の協力による相乗効果を発揮した「面」としての取組がますます必要になっている。
 相手国側の全てのニーズに日本が対応することは不可能であるため、特に産官学の連携で教育協力を進める場合には、日本の教育協力の得意分野や日本として戦略的に推進したい分野で選択・集中して教育協力に取り組む必要がある。

  3. 人材確保の必要性
 高等教育分野の国際協力には、留学生施策及び大学教員の参画がある。
日本は、これまで数多くの留学生を本邦に受け入れてきており、平成20年7月には、関係省庁で留学生受入れのための方策をまとめた「留学生30万人計画」骨子を策定して留学生数の拡大を推進している。しかし、留学生の帰国後のフォローアップが十分に行われておらず、日本全体として十分に留学生を活用できていない状況である。
 大学教員の国際協力への参画については、過去に、日本はアジアを中心に多くの大学教員を現地に派遣し国際協力を実施してきた。しかし、大学の組織としての国際協力への参画は余り進んでおらず、近年、海外に派遣する人材の確保、特に現役教員の派遣が困難になってきている。その要因として、(1)国立大学の法人化に伴い、一般的に大学の経営状況・人員体制が以前より厳しくなったこと、(2)若手教員が安定したポストを得ることが難しくなったこと、(3)業績主義が拡大し、教員が常に研究成果を求めなければならなくなったことが挙げられる。
 これらの課題に対処し、相手国の要望に応じて教育を提供できる人材・教材などの体制を整備することが必要である。

  4. グローバル人材育成の必要性
 日本の若者にかかる「グローバル人材の育成」が喫緊の課題となっている。日本政府は、平成22年9月7日閣議決定の「新成長戦略実現会議の開催について」に基づき、我が国の成長を支えるグローバル人材の育成とそのような人材が活用される仕組みの構築を目的として、平成23年5月に「グローバル人材育成推進会議」を設置し、平成23年6月に「グローバル人材育成推進会議 中間まとめ」を公表した。中間まとめでは、「高校・大学・専修学校等でのグローバル人材育成メニューの開発・提供を促進する」こと、「職業訓練を通じたグローバル人材の育成を促進する」こと、「青年海外協力隊を中核とする、JICAによるボランティアへの参加を促進する観点から、その経験を帰国後における社会の様々な分野での(特に女性の)活躍に有効につなげるための方策を、NGO・経済界等各方面の参画を得て検討する」ことなどが明示されている。
 こうしたグローバル人材育成を具体的に推進するに当たり、国際協力の現場を活用した大学教育プログラムの形成が考えられないか、検討する必要がある。

 5. ものづくりの教育協力の必要性
 新興諸国から日本に対する高等教育分野の協力要請は、工学分野に集中しているが、上述の問題もあって日本として十分に対応できていない状況である。日本の専修学校や高等専門学校(以下、高専)が持つコンテンツ分野(IT、CG、ゲーム)等の技術などについては注目が集まっているところである。

(2)ASEAN

 1.  ASEANとの関係の維持・強化
ASEAN諸国の一部は経済成長が進み、民間セクターを中心とした自立的な成長過程に入っているが、産業構造の一層の高度化、ASEAN統合、東アジア共同体構想、域内及び国内格差の解消、民主化、環境改善などの課題が依然として残っている。特に、2015年のASEAN統合は優先度が高く、国境を越えた連結性の強化が課題となっている。こうした中、日本の協力に対するニーズは依然として大きく、日本を取り巻くアジア諸国における経済発展と民主主義の実現に向けて協力することは、日本にも直接的に裨益(ひえき)する。
 また、日本企業にとっても、ASEANとの関係は生命線である。ASEANにおいて生産ネットワークを確立している日本企業は、現地の優秀な人材へのニーズが高い。タイの洪水が日本企業を直撃したのは、経済的にほぼ一体であることの象徴である。さらに、日本の大学も、ASEANの多くの大学と様々な交流を行っているなど、ASEANとの関係を維持・強化していくためには戦略的なオールジャパンの力の結集が必要である。
 ASEANとの関係強化の上で考慮すべき点は、ASEAN加盟各国が多様性に富み、国によってニーズが異なることである。未(いま)だ多くの援助を必要としている国がある一方、いわゆる先発ASEANの中では後発ASEAN諸国やアフリカ・中東などの地域への協力(南南協力)を積極的に行うものも出てきている。例えば、マレーシアは、南南協力を実施している国の一つである。東方政策を掲げるマレーシアに対して、日本政府は様々な支援により多くの留学生受入れを実施してきたが、円借款の枠組みで実施してきたHELP(高等教育借款事業) については、円借款供与終了後もマレーシア側が自らの負担で本事業の枠組みを継続することを希望している。マレーシアは高等教育のトランスナショナルプログラムを積極的に推進しており、アジア・中東・アフリカなどから多くの留学生を受け入れている。

 2.  AUN/SEED-Net(アセアン工学系高等教育ネットワーク)
AUN/SEED-Netは、JICA事業として実施され、ASEAN各国の主要な工学系大学の教員を育成するとともに、それらの大学間・本邦の協力大学間における強固なネットワークを構築してきた。
 今後10年の間に域内経済の統合や産業の高度化の動きが更に加速することを踏まえると、グローバルな高度産業人材の育成と技術革新に貢献する研究活動、さらには重要性が増す地域共通課題への対応といった点でAUN/SEED-Netのような拠点大学間のネットワークが果たすべき役割は更に大きなものになる。また、AUN/SEED-Netは、これまでに形成した大学間・研究者間のネットワークを更に強化することで、アジアにおける科学技術振興の新たなプラットフォームを形成する可能性を有している。

 3.  SEAMEO(東南アジア教育大臣機構) との協力
SEAMEO(東南アジア教育大臣機構)に対し、日本は文部科学省及び幾つかの大学が小規模に協力・交流を行ってきた。他方、中国や韓国は現時点で殆(ほとん)ど関わりを有していないため、日本のプレゼンスを十分に発揮することが可能である。

(3)中東産油国

 1.  人材育成の必要性
 「オイルマネー」により経済力をつけた中東産油諸国は、ICTに根差したハイテク産業を中心とした産業の育成を国家目標にしている一方、そうした人材がいまだに当該諸国出身者では十分に育っていないという問題点を抱えている。サウジアラビア、アラブ首長国連邦、カタールは、マンパワーのうち、70%から85%近くが外国人であるという統計があり、マンパワーの現地化の課題は、共通課題であると言える。人材の質という面では極めて大きな課題を有している。
 中東産油諸国政府は、石油枯渇後を見据えて自国民の人材育成を重視し始めており、主として高等教育分野において先進諸国の関与をオイルマネーで呼び込もうとしている。そのため、先進諸国の大学の中東産油諸国への進出、また、産油諸国からの留学生獲得競争が展開されている現状である。
 また、サウジアラビアやUAEなどは、自国民を一定割合雇用することを外国企業に求めている。したがって、現地人材の育成は、進出日本企業にとってもメリットとなる。中東産油諸国においては、概して日本の規律正しさや技術力などに対する敬意・親近感が強い。そのような点で、日本は他の先進諸国よりも優位な状況にあると言えるが、とりわけ高等教育分野における我が国の協力については欧米諸国に対し出遅れていることは否めない。教育・人材育成分野での国際協力のニーズは大きいが、ODAを活用できないため、日本にはこれらの国に対する協力のシステマティックな枠組みがないのが現状である。

 2.  理数科教育の必要性
 TIMSS(IEA(国際教育到達度評価学会)が実施する国際数学・理科教育動向調査)のデータなどが示すように、中東産油諸国人材の理数科能力不足は深刻である。日本への留学生受入れや日本企業への採用に当たってネックになっているのは、学力が必ずしも十分でないことである。 

  3.  女子教育の必要性
 一部の国では、教育を受けることに関する女性のモチベーションは概して男性より高い。アラブ首長国連邦では、工学系分野を除き、ほぼ全ての教育分野において、大学に就学する女性の割合が7割を超えている 。男性の就学人口の中には外国人学生も含まれるが、一般に女性は海外で教育を受けるよりは出身国及び近隣の中東諸国で教育を受けることが多いため、この女性の割合はアラブ首長国連邦出身の女性を指すと考えてもよい。また、サウジアラビアでは、医学及び薬学分野に就学する女性の割合は全体の6割、現地人男子学生と現地人女子学生の割合は1対1.5であり、大学での教育を受ける女性は、全ての分野を総合しても数の上で男性を上まわっている。情報技術と自然科学分野では、1対0.5、1対0.8となっているが、全就学生に占める女性の割合は、それぞれ31%と43%と、日本の当該分野における女子学生の割合をはるかに超えている 。さらに、産油諸国では女性の社会進出が進む等、キャリア形成上も教育ニーズが増えてきている。(他方、こうした傾向とは裏腹に、女性の就労機会は十分に進んでいない状況にある。)これら女性の大学教育が進んでいる国家においては、イスラム的価値観が根強いことから、特にサウジアラビアやカタールでは、男性と女性のキャンパスやクラスを別々にして教育することが慣行となっている。その意味で、女子教育を強化するニーズは高い。

3.進むべき方向性

(1)共通

  1.  ニーズを正確に把握し、自助努力を育てるような協力
 日本の国際協力における成功した取組には、日本人の持つ誠実かつひたむきな努力が背景にある。とりわけ、教育や人材育成面での協力においては、息の長い努力を要する。相手の発展の度合いに合わせてニーズをくみ上げ、自助努力の芽を育てるような協力が不可欠である。相手の変化するニーズを正確に掴(つか)むためには、マクロ的な当該国の経済や教育事情の把握が必要であり、その分野の研究者の知見に頼ることが大いにある。また、ミクロ的には、実際にビジネスやものづくりを営んでいる経済界の方の知見に頼ることが多い。このマクロ及びミクロの両者を融合できるような組織やネットワークが必要である。さらに、長年協力してきた専門家に、相手国のどこに協力が必要かを明らかにしていただき、その部分への協力を行うような努力が必要である。
 また、自助努力を育てるような持続可能な開発を行うためには、外部の知識をそのまま持ち込むのでなく、現地の知識に適合した取組や、地域住民参加型の取組を行うことが重要である。

  2.  新たな協力枠組み-「プラットフォーム」の構築
 一定所得水準以上の途上国には、原則として無償資金協力・技術協力・円借款が供与できない仕組みとなっている。そこで、経済成長を遂げた国に対しては、ODAの枠組みを超えた(「Beyond ODA」)新たな協力の枠組みが必要であり、産官学を初めとしたオールジャパンの連携による国際協力の実施が求められる。
 その際、国内においては、産官学・関係各省をコーディネートするハブ組織として、関係諸機関連携の「プラットフォーム」を設置し、グローバル人材、インフラ輸出、成長戦略等の国家戦略との関係を踏まえて国際教育協力の戦略を練り、省庁で実行に移す仕組みを作ることが望ましい。戦略の策定においては、日本の外交や日本の産業界のニーズを踏まえて、限られた資金の中で、日本が重点を置く国・分野の判断をしなければならない。判断するためには、外務省、文部科学省、経済産業省、大学、高等専門学校、企業、国際機関、途上国協力機関、NGOがそれぞれに行っている国際教育協力の情報が必要であり、それらを上手(うま)く組み合わせて重複を排除し、予算を無駄なく使うことができれば大変効果的である。事業実施に当たっては、非ODA予算(文部科学省、経財産業省予算等)、国際金融機関(世界銀行/アジア開発銀行/アフリカ開発銀行等)への拠出金、官民連携予算(PPP予算)、OOF(低利の融資、非ODA)、民間資金等を使って産官学の連携をどのように行うかを具体的に検討する必要がある。
 また、対外的には、上記のプラットフォームの下で、オールジャパンチームを代表して相手国政府と交渉し、資金を引き出す窓口となる組織が必要である。相手国政府及び進出日本企業のニーズを把握し、適切な対応に結びつける上で、在外公館やJICA、JETROの現地事務所が大きな役割を果たすと考えられる。
 相手方の費用負担を引き出し日本の協力を「売る」ためには、「商品」の魅力が重要であり、そのためには産官学の協力による「商品開発」で付加価値を高めることが必要と考えられる。例えば、世界的に評価の高い民間の技術力や日本文化などのソフトパワーを教育協力に活用することが考えられる。また、高等教育においては特に工学、初等中等教育では理数科教育や授業研究が、これまで日本が実施してきた得意分野として諸外国から評価されている。
 なお、中進国向け円借款については、人材育成分野での供与は認められている。したがって、経済成長を遂げた国と合わせて、当該分野で借款供与をすることが戦略的に望ましい国・内容について産官学で議論し、絞り込むことが重要である。円借款事業に、文部科学省予算、経済産業省予算、民間資金等を組み合わせ、途上国協力機関が大学と連携してプロジェクト・マネジメントを担っていく可能性を検討する必要がある。円借款を中進国向けに供与する場合は、中進国が円高リスクを負うことへの懸念を持たずに済むよう、外貨建て方式の導入も検討する必要がある。

※「プラットフォーム」の設置について
産官学オールジャパンの協力を実現するためには、そのためのプラットフォームとその中核となる組織が必要だが、具体的にどの組織が協力・連携の中核を担うかが課題である。以下に、参考事例としてイギリス及びドイツの例を記載する。

(参考)
イギリス・ドイツにおいては、対新興国への協力について省庁横断的に戦略を協議する場が存在し、更にその実施をコーディネートするハブ機能がある。
 イギリスは戦略・実施の両レベルでハブ機能を持ち、国家安全保障会議の新興国小委員会が基本戦略を議論し、この戦略に基づき各省庁が個々に新興国とのパートナーシップを構築する。特に、国際協力については、DFID(国際開発省)が一元的にその方針を策定・実施する。
 一方、ドイツにおいては戦略面の省庁間連携はイギリスに比べると緩やかだが、実施面では国際協力実施機関であるGIZ(国際協力公社)が新興国への協力のハブ機能を果たしている。GIZはBMZ(経済協力開発省)のODA予算だけでなく、他省庁の非ODA予算も動員して、卒業後も新興国に国際協力を継続できるほか、コンサルティング部門を持ち新興国政府を含む外部団体からの受託事業を実施している。ODA・非ODA予算を動員して、途上国への協力のみならず、新興国・先進国向けの事業も行っている。
 このようなODA・非ODA協力を一体となって実施する、官官・官民連携の体制を日本においても構築できないか。既存の途上国協力機関等がハブとなり、そこに民間などが協力する形が可能であれば、新興国向けの全く新しい枠組みを別途構築するより、効率的と考えられる。


  3. 産業界による更なる貢献と連携による相乗効果の発揮
 教育協力は、新興国側・日本企業側双方にとってメリットとなる。日本企業にとっては、本社及び現地子会社の外国人社員の質は重要である。国・地域によって、また短期的、中長期的な視点によって求められる人材が大きく異なるため、これらを明確に分けた人材育成戦略が必要である。中東の途上国学生の基礎知識や基礎能力(自分の中でPDCAを回すなど)を高められるような教育協力が成されればメリットになる。
 対新興国協力においては、民間企業が重要な役割を果たしうる。企業の人材、施設、資金、知恵や経験を活用し、奨学金の供与、インターン受入れ、現地大学・研究機関等への寄附講座(海外協力拠点での現地法人企業社員の講師提供)や研究協力等を効果的に実施することが望ましい。
 また、産業育成を軸にしながら官民様々なリソースを動員できるよう、教育協力と産業協力を一体にしたパッケージ協力を行うことが有効と考えられる。相手国の人材育成・産業育成に係る政策対話を官民連携で実施し、具体的な産業育成分野や相手国及び日本企業のニーズを踏まえながら、途上国協力機関等や大学、民間企業等が教育協力を実施する。その際には民間資金の提供・活用が期待される。

  4.  大学の知見を国際協力に一層活用した相乗効果の発揮
 高等教育分野の国際協力に当たっては、日本の大学の知見を一層活用して、相乗効果を発揮することが望ましく、(1)留学生施策の更なる推進と(2)大学教員の参画が必要不可欠である。
 今後、新興国からの政府派遣留学生の増加が予想される。優秀な多数の留学生を受け入れたい我が国としては、積極的に対応する必要がある。特に、近年、我が国の大学との受入れ調整について新興国から要望がある。これについては、我が国の財政状況の厳しい中、相手国政府の負担も求めつつ、適切に対応していくことが期待される。
 留学生施策においては、留学生数の拡大とともに、日本留学経験者をオールジャパンで活用することが重要である。具体的には、(1)日本企業等による採用、(2)要職についている帰国留学生を親日家のキーパーソンとして多方面で活用することが望ましい。留学生同窓会組織への支援など、日本留学経験者をフォローアップする仕組みの強化が必要である。
 大学教員の国際協力への参画においては、国際的な経験を持ちプロジェクト運営ができる専門職人材(教育職、事務職ともに)を国際協力の担い手として確保できることが望ましく、待遇・給与体系についての検討が必要である。とりわけ大学教員の現地への派遣が容易になるよう、研究環境の確保等の環境整備、国際協力に従事しようとする大学への制度的後押しが必要である。方法としては、(1)国際協力事業への参加を教員の評価ポイントに含める、(2)国際協力に参画して学務サポートが十分にできない場合でも、活動業績として評価する仕組みにすることが挙げられる。
 また、文部科学省関連予算が全体的に縮減される中で、国際協力に組織として積極的に参画しようとする大学を後押しする方法として、大学の業績評価において国際協力事業に参画する大学を高く評価することが望ましい。
 さらに、JICAシニアボランティア等の予算を活用して、国立大学の退職教員を、教育協力要員及び大学生指導現地教員として活用する仕組みなどが考えられる。
 総じて、人材ネットワークの形成・構築・維持管理に必要な体制の整備が必要である。

  5.  国際協力の現場を活用した「グローバル人材育成」の推進
 「グローバル人材育成」は現在の日本にとって重要課題の一つであり、様々な施策が検討されている。開発途上国や新興国の開発と日本の若者の育成双方につながり得る事業の在り方を検討する必要がある。
 グローバル人材育成の推進に当たり、国際協力の現場を活用した大学教育プログラムの形成が有効である。例えば、日本や現地の学生による現地日系企業へのインターンシップ参加や学生ボランティア活動を推進することが考えられる。
 日本の現地法人やプロジェクトの現場などでインターンシップの体験機会が得られれば、中身の濃い学習効果が得られる。若者は、様々な国の人々と接することで豊かな現場体験を積むことができ、その効果として視野が広がり、考え方が深まり、実践力が高まることが期待できる。
 特に、現在、本邦製造業の生産現場はASEANが中心であり、そのような企業に勤める可能性のある若者にとって、学生時代にASEANを経験しておくことは有意義である。
 インターンシップ生の受入れにおいては、学生の語学力(日本語又は英語)、基礎学力と労働意欲が必要である。また、インターンシップ期間の相場は現状では1~2週間と短いため効果が限定的であるが、1か月以上の期間になればワークシェアができるようになる可能性もあり、企業、学生双方にとってメリットが生じてくるとも言える。期間の長期化に伴って宿舎や生活費に係る公的補助の意義は高くなる。
 「青年海外協力隊」等の海外ボランティア活動への参加については、例えば、広島大学大学院国際協力研究科では、JICAと協力して「ザンビア・プログラム」を実施し、ザンビアにおける青年海外協力隊員としての活動の成果を修士論文にまとめることで修士号を取得できるよう制度化している。新潟医療福祉大学においても同制度を導入しており、今後、より多くの大学・大学院が海外ボランティア活動の単位認定等を行うことが望まれる。

  6.専修学校、高等専門学校が有する技術の対外発信
 日本が有する特色ある教育機関として専修学校や高専があり、国際教育協力にかかる潜在的なニーズがある。この強みを生かした戦略的な国際協力の実施が望まれる。
 専修学校・高専等、日本が世界に対して優位性を持った教育機関において、潜在的なニーズが大きいと思われる成長分野(コンテンツ等)の中核的専門人材の養成を推進することにより、留学生の受入れを増加させていくことが必要である。 

(2)ASEAN

 日本はASEANとの関係を強化し、ASEAN+3,ASEAN+6等においても経済統合をリードする立場に立つことが望まれる。そのためには、多様性に富む各国への個別の支援とともに、ASEAN統合を視野に入れた協力が必要である。その観点からもAUNやSEAMEOへの協力は重要であり、推進していく必要がある。

  1.  多様性に応じた教育協力及び「三角協力」の推進
 ASEAN各国は多様なので、相手国の実情(資金・技術・教育等)に応じた柔軟な協力枠組みを検討する必要がある。ミャンマーなどの後発ASEANについては基本的には無償資金協力・技術協力による協力となるが、ODA卒業間近の国に対してはHELP、MJIIT(マレーシア日本国際工科院) 両事業のように円借款を活用しつつ相手国政府にも負担を求める形での協力が適当である。
 具体的には、人材育成分野で借款供与する国・内容を、産官学で議論して戦略性をもって絞込む。その上で、中進国向け借款やOOF、文部科学省予算や経済産業省予算、民間資金等を組み合わせて協力できないか検討が必要である。
 また、日本型教育協力の意義を更に国際的に発信するためにも、先発ASEANのドナー化を支援(「三角協力」)することが重要である。特にアジア・中東・アフリカから多くの留学生を受け入れているマレーシアについては、東方政策の関係もあり、連携を進めるパートナーになり得るものと考えられる。マレーシアの三角協力の促進においては、ASEAN事務局の統合基金(外務省予算)にマレーシア予算を加える形で新基金を設立する方法が考えられる。

  2.  AUN/SEED-Netのオールジャパンでの活用
 AUN/SEED-Netがグローバルな高度産業人材の育成や、技術革新に貢献する研究活動、地域共通課題に対応するためには、各大学及びネットワークとしての教育・研究能力のさらなる強化が必要である。また、AUN/SEED-Netが形成してきたアジアにおける科学技術振興のプラットフォームの基盤を更に強化し、高度人材が双方向・多方向に循環する互恵性溢(あふ)れるものとするためには、構成メンバーの研究・教育レベルが一定の国際水準を満たし、自立的に国内・域外の大学と交流できるようになる必要がある。我が国には、ASEAN諸国とともに拠点大学のさらなる底上げとネットワークの強化に一層努力をすることが求められており、例えば、ダブルディグリー・プログラム等による本邦・ASEAN側メンバー大学間交流の推進が考えられる。
 また、AUN/SEED-Netで育成してきた人材とネットワークを、オールジャパンで活用・発展させていくことが望まれる。AUN/SEED-Netの存在及び活動について日本企業に周知し、日本企業による奨学金供与、寄附講座、産学共同研究、卒業生の採用等を推進することにより、日本企業との連携の強化が期待できる。
 さらに、AUN/SEED-Netの活動推進のため、ASEAN事務局への借款制度新設、又は、アジア開発銀行との協調融資によるAUN/SEED-Net拡大継続への円借款あるいは、日本特別基金活用策の検討も考えられる。

  3.  SEAMEOへの協力推進
SEAMEOが現在構想中の「SEAMEOカレッジ」 は、単に人材育成を行うのみならず、各国の高官が域内の共通の課題につき協議をし、共通の価値観を醸成していこうとする構想である。これを支援することで、SEAMEO、ASEAN全体への協力につながっていくものと思われる。
 ただし、日本のODAは通常二国間での協力を想定した制度であるため、ASEAN全体に対する支援を行うことは容易ではないため、ASEAN全体への協力を行う際には、文部科学省の非ODA事業の有効活用等の検討が必要である。

(3)中東産油国

 中東産油国は、日本にとってエネルギー安定供給の観点から良好な関係の維持・強化が不可欠であるだけでなく、膨大な市場ポテンシャルを有しており、日本企業の進出を後押ししていく必要がある。こうした国に対してはODAは活用できないが、教育面での課題は非常に大きく、先方の資金により教育協力を遂行することが望まれる。以下のいずれの協力についても、先方の資金をできるだけ多く引き出す(「高く売る」)ために、日本に対する関心を引くような、オールジャパン体制による魅力的な「商品開発」が必要である。
 教育サービスが民営化されている中東産油国において、国際入札に日本の民間団体も応札が可能だが、受注は容易ではない。日本政府は教育協力協定の発効の際に、日本政府が支援していることを表明するなど、現地に進出している民間教育産業の教育協力をサポートし、官民それぞれの強みを生かした連携の下、産油国に対する働きかけを行うことが必要である。
 同じ産油国でも国によって大きく状況が異なるので、それぞれに適した協力を行う必要がある。サウジアラビアの留学生の日本の大学への受入れに関しては、学生に対する奨学金だけでなく、研究費等もサウジアラビア側に負担してもらうような交渉も必要である。UAEやカタールは、ICT産業とサービス業に特化した産業構造にシフトしているので、そういった分野での人材育成が必要である。
 対中東への教育協力の課題については、国毎の教育協力協定の締結後、経済産業省の「日本・サウジアラビア産業協力合同タスクフォース」にあるような、官民及び関係機関が一体となった推進体制を構築して検討することが望ましい。

  1.  円滑な留学生の受入れ
 留学生のより円滑な受入れのためには、特に理数科・言語(英語・日本語)へのHELP事業等を活用した組織的な予備教育の充実が必要であると考えられる。現地国及び本邦における予備教育に加えて、イスラムという共通項があるマレーシア等、実績がある第三国での予備教育の実施についても検討が成される必要があり、これらの手段を状況に応じて使い分けることが有効である。
 マレーシアの次期5か年計画では、高等教育を一種のサービス業として売り出し、高等教育の留学先としてのマレーシアの魅力を高めていく方針が打ち出されている。マレーシアは中東の比較的厳格なイスラム国から見ると敷居が低い国の一つであり、そこで一旦受け入れ、ある程度日本語を学習した後に日本へ留学すれば、日本でカルチャーショックを受けることなく、スムーズに勉強が進められる等のメリットが考えられる。

  2.  理数科・工学系教育支援の推進
 理数科・工学系教育分野への協力を推進する必要がある。これによって、主として理工系分野における留学生受入れの拡大、日本企業への就職の増加などの様々な波及効果が期待される。
 理数科教育にかかる協力は、日本が過去から現在に至るまで途上国に対して実施してきた「得意分野」である。産油国に対する協力においても、これらのノウハウを活用するべきである。

  3.  女子教育支援の推進
 女子教育を推進する必要がある。本邦にも対中東の女子教育に実績のある大学があり、それらの経験を踏まえて協力を実施することが有効である。女子大生は起業に関心が高く、中東には起業に関する学科を持っている大学がある。そこへ日本の教員を派遣する可能性も追求して、日本の顔を見せていくことも有効なやり方である。中東女性の本邦への招へい、日本女性の派遣がいずれも容易ではない等、中東への女子教育に係る諸課題があるが、日本の女性教員を現地に派遣することも視野に入れつつ、いかに事業を実施できるか検討する必要がある。 

 

4.おわりに

 これまで見てきたとおり、オールジャパンでの戦略的な国際協力が喫緊の課題であることを広く社会で認識するとともに、新たな教育協力枠組みとして関係諸機関連携のプラットフォームを構築し、国際教育協力の国家戦略を策定することが重要である。
 また、国際協力現場を通じたグローバル人材の育成を推進するためには、国際協力の現場を活用した大学教育プログラムの形成が有効であり、学生交流に合わせて、現地日系企業へのインターンシップ参加や学生ボランティア活動を推進することが考えられる。これによって、若者は、様々な国の人々と接することで豊かな体験を積むことができ、その効果として視野が広がり、考え方が深まり、実践力が高まることが期待できる。  オールジャパンの戦略的な国際協力の実施と国際協力現場を通じたグローバル人材育成の推進により、我が国が今後も各国との協力関係を強化し、相互に発展していく道を歩むべく努力していくことが重要である。
 本推進会議としては、本中間まとめの提言内容のフォローアップ等を行いつつ、平成24年度は新興国の対象地域を変えて、国際教育協力について議論を継続し検討を深めていく予定である。

 

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大臣官房国際課国際協力政策室

(大臣官房国際課国際協力政策室)