資料3 国際協力推進会議報告書骨子案

1.現状

<共通>

○従来、国際教育協力は主としてODAとして実施されてきており、中東産油国等ODAスキームが活用できない国々に対しては、留学生受入れを除いて政府ベースでの協力は行われていない。しかし、実際には「ODA卒業国」であっても人材開発という面では大きな課題を抱えている場合が多く、教育協力に係る広範かつ多大なニーズが存在している。

○日本は過去ODAを通じて、ASEANなど多くの国々と緊密な関係を築いてきた。ODAの性質上、対象国が経済発展を遂げるにつれて規模は縮小されざるを得ないが、事業が終了するとともに相手方との関係自体が途切れてしまい、日本の協力で育成された人材が他国によって活用されるといった事例も珍しくない。

○新興国等を含めた「開発途上国」における教育協力は相手国にとってのメリットであると同時に、その人材を獲得・活用しようとする日本を含めた外国の企業や大学にとってのニーズでもある。様々な日本の関係者が各国との交流・協力を多数行っているが、それらは多くの場合「点」に留(とど)まり、日本全体としては必ずしも協力の相乗効果を発揮できていない状況である。

○同様に、過去数多くの留学生を本邦に受け入れてきたが、帰国後のフォローアップが十分に行われてはおらず、日本全体として十分に留学生を活用できていない。

○過去、アジアを中心に日本は多くの大学教員を現地に派遣し国際協力を実施してきた。しかし大学の組織としての国際協力への参画は余り進んでおらず、近年、海外に派遣する人材の確保(特に現役教員の派遣)が困難になってきている。

○新興諸国から日本に対する高等教育分野の協力の要請は、工学分野に集中しており、上述の問題もあり日本として十分に対応できていない状況。日本の専修学校が持つコンテンツ分野(IT、CG,ゲーム)等の技術などについては注目が集まっているところ。

○日本においては、日本の若者にかかる「グローバル人材の育成」が喫緊の課題となっている。

<ASEAN>

○ASEAN諸国は経済成長が進み、民間セクターを中心とした自立的な成長過程に入っているが、産業構造の一層の高度化、国内格差の解消、民主化、環境改善などの課題が依然として残っており、日本からの協力に関するニーズは依然として大きい。日本を取り巻くアジア諸国における経済発展と民主主義の実現に向け協力することは日本にも直接的に裨益(ひえき)する。

○ASEANとの関係は日本企業にとっては生命線である(タイの洪水が日本企業を直撃したのは経済的にほぼ一体であることの象徴)。また日本の大学もASEANの多くの大学と様々な交流を行っている。ASEANとの関係は、日本のみならず中韓・欧米も重視しているため、ASEANとの関係を維持・強化していくためにはオールジャパンの力の結集が必要である。

○ASEAN加盟各国は多様性に富み、ニーズは国によって異なる。まだ多くの援助を必要としている国がある一方、いわゆる先発ASEANの中では後発ASEAN諸国やアフリカ・中東などの地域への協力(南南協力)を積極的に行うものも出てきている。

○また、ASEANにおいては2015年のASEAN統合が優先度の高い地域の課題となっており、国境を越えた連結性の強化が課題となっている。

○AUN/SEED-Net(アセアン工学系高等教育ネットワーク事業)においてはJICAの事業として、ASEAN各国の主要な工学系大学・学部の教員を育成するとともに、それらの大学間・本邦の協力大学間における強固なネットワークを構築してきた。しかし、育った人材やネットワークがオールジャパンで十分に活用されているとは言い難(にく)い現状がある。

○SEAMEO(東南アジア教育大臣機構)に対し、日本は文部科学省及び幾つかの大学が小規模に協力・交流を行ってきた。他方で中国や韓国は現時点で殆(ほとん)ど関わりを有していない。

○東方政策を掲げるマレーシアに対し、日本政府による様々な支援もあり多くの留学生受入れを実施してきた。従来円借款の枠組みで実施されてきたHELP(高等教育借款事業)事業については、円借款供与終了後もマレーシア側が自らの負担で本事業の枠組みを継続することを希望している。

<中東産油国>

○「オイルマネー」により経済力をつけた中東産油諸国も、人材の質という面では極めて大きな課題を有している。教育・人材育成分野での国際協力のニーズは大きいが、日本にはこれらの国に対する協力のシステマティックな枠組みは存在しない。

○サウジアラビア・UAEなど各国は、自国民を一定割合雇用することを外国企業に求めている。したがって、現地人材の育成は、進出日本企業にとってもメリットとなる。

○中東産油諸国政府は石油枯渇後を見据え、自国民の人材育成を重視し始めており、主として高等教育分野において先進諸国の関与をオイルマネーで呼び込もうとしている。ある面では、先進諸国の大学による中東産油諸国への進出、また産油諸国からの留学生獲得競争が展開されている現状。

○TIMSSのデータなどが示すように、中東産油諸国人材の理数科能力不足は深刻である。日本への留学生受入れや日本企業への採用に当たってネックになっているのが学力が必ずしも十分でないことである。

○中東産油諸国においては、概して日本の規律正しさなどに対する敬意・親近感が強い。そのような観点では、他の先進諸国よりも優位な状況にあると言えるが、とりわけ高等教育分野においては欧米諸国に対し出遅れていることは否めない。

○女性に教育の機会が十分に与えられていない。他方、教育を受けることに関する女性のモチベーションは概して男性より高い。なお、産油諸国の女性は新しいマーケティング対象として注目されつつある。

2.進むべき方向性

●ODAの枠組みを超えた(「Beyond ODA」)新たな教育協力枠組みを構築し、産官学の連携によるオールジャパン型の協力が必要である。
具体的には、企業のニーズに沿った人材育成を産官学で連携して行うと同時に、企業がその費用の一部を負担することが求められる。あわせて、相手国にも応分の負担を求めることが必要。相手方の費用負担を引き出すためには、産官学の協力による魅力的な「商品」を提示する必要がある。(世界的に評価の高い民間の技術力や日本文化などのソフトパワーを活用する)

●今後、特に新興国からの政府派遣留学生が増加することが予想され、より優秀な多数の留学生を受け入れたい我が国としては、これについて積極的に対応する必要がある。特に、近年我が国の大学との受け入れ調整についての要望があり、これについては、我が国の財政状況の厳しい中、相手国政府の負担も求めつつ、適切に対応していくことが期待される。

●教育協力と産業協力を一体にしたシステムを作ることで協力の付加価値を高めること、産業育成を軸にしながら、官民様々なリソースを動員していくといった発想が重要である。相手国の人材育成・産業育成に係る政策対話を官民連携で実施し、具体的な産業育成分野等相手国及び日本企業のニーズを踏まえながら、その具体的な育成人材の対象によって、JICAや大学が教育協力を実施する。その際には民間資金の提供・活用が期待される。

●日本が官民人材による技術協力を有償(先方負担)で行う枠組みの構築に係る検討が必要。相手方の費用負担を引き出すためにも、円借款や低利の融資の戦略的な実施が有効と考えられる。

●ODA卒業国に対する教育協力においても、JICA、JICE等ODA事業において大きな知見や実績を有する組織の活用が必要である。

●人材育成については国・地域によって、また短期的、中長期的な視点によって求められるものが大きく異なるため、これらを明確に分けた戦略が必要。

●国際協力の担い手の育成が必要であり、大学教員が国際協力に従事しやすい環境を整備する必要がある。

●専修学校等、日本が世界に対して優位性を持った教育機関において、潜在的なニーズが大きいと思われる成長分野(コンテンツ等)の中核的専門人材の養成を推進することにより、留学生の受入れを増加させていくことが必要。

<ASEAN>

●従来日本がODAで育成した人材やネットワークをオールジャパンで活用していくことが必要。とりわけ、AUN/SEED-Netで育成してきた人材とネットワークを、オールジャパンで活用・発展させていくことが望まれる。→例えば、本邦・ASEAN側大学との産学共同研究等が推進できないか。

●日本はASEANとの関係を強化し、ASEAN+3,ASEAN+6等においても優位な立場に立つべきである。そのためには、各国を個別に支援するのではなく、ASEAN各国のレベルの差を念頭に置きつつ、ASEAN統合を視野に入れた協力が必要である。その観点からもAUNやSEAMEOへの協力は重要であり、推進していく必要がある。

●SEAMEOが現在構想中の「SEAMEOカレッジ」は、単に人材育成を行うのみならず、各国の高官が域内の共通の課題につき協議をし、共通の価値観を醸成していこうとするものであり、これを支援することで、SEAMEO、ASEAN全体への協力につながっていくものと思われる。

●ASEAN各国は多様なので、相手国の力(資金・技術・教育等)に応じた柔軟な協力枠組みを検討する必要がある(ODA卒業間近の国に対してはHELP事業を参考にする等)。また、先発ASEANのドナー化を支援(「三角協力」)することで、日本型教育協力の意義を更に国際的に発信することができる。

●ASEAN諸国との交流を通じたグローバル人材育成が重要である。(本邦製造業の生産現場はASEANが中心であり、そのような企業に勤める若者にとって、学生時代にASEANを経験しておくことは有意義である。)

<中東産油国>

●理数科教育分野及び語学(日本語・英語)教育の協力の推進を検討する必要がある。これによって、日本における留学生受入れの拡大、日本企業への就職の増加などの様々な波及効果が期待される。

●同じ産油国でも大国(サウジ等)、中小産油国(カタール、UAE等)では大きく状況が異なるので、それぞれに適した協力プログラムを設定する必要がある。

●いずれの協力についても、先方の資金をできるだけ多く引き出す(「高く売る」)ために、先方の日本に対する関心をうまく利用しつつ、オールジャパン体制による魅力的な「商品開発」が必要である。

●女子教育の推進が必要。潜在的なマーケットという意味でも重要である。

3.課題

■産官学オールジャパンの協力を実現するためには、そのためのプラットフォームとその中核となる組織が必要だが、これをいかに構築するか。

■一定所得水準以上の途上国には原則として円借款が供与できない仕組みとなっている。また、ODA卒業国の教育事業に対する公的な融資は行われていない。

■国際協力の担い手をいかに育成・確保していくか。若手を中心とした日本人教員の海外派遣を促進するためにはどのような方策があるか。

■日本企業による国際教育協力への関与・貢献(奨学金提供、寄附講座、インターンシップ受入れ等)をいかに増加させることができるか。
→工学系高等教育を修了した学生の採用に当たり、期待される人材像はどのようなものか、また大学教育に期待することは何か。

■教育サービスが民営化されている中東産油国において、日本政府はいかに民間の教育協力をサポートできるか。

■  本邦への留学生、SEED-Net等ODA事業で育成した人材をいかにオールジャパンで活用できるか、いかに日本企業による採用を増やすか。

<ASEAN>

■「三角協力」を進めようとしているマレーシアのような新興国に対し、日本はどのようなインセンティブを与えうるか。また三角協力の場合、関係者間の費用負担等をどのように調整するか。

■ASEANにおいては単に個別の国々との協力のみではなく、ASEAN全体に対する支援が求められている。これを日本の協力枠組みの中でいかに実現していくか。あるいは、それに適した枠組みをいかに構築していくか。

■SEAMEOカレッジ構想の詳細はまだ明らかになっていない。

<中東産油国>

■ODA卒業国に対しては、日本政府が実施できることが限られている。

■多くの国で教育事業の民営化が進められており、国際入札に日本の民間団体も応札が可能だが、受注は容易ではない。

■中東への女子教育に係る諸課題(中東女性の本邦招へい、日本女性の派遣がいずれも容易ではないこと等)をいかに解決できるか。

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