国際交流政策懇談会 最終報告書(案)
我が国がグローバル化時代をたくましく生き抜くことを目指して
国際社会をリードする人材(人財)の育成
国際交流政策懇談会
平成23年3月
目次
1.はじめに
2.グローバル化に対応する教育の提供
3.2つのワーキング・グループのとりまとめ後の対応について
4.おわりに
(参考資料)
我々が生きる現代は、いわゆるグローバル化の時代である。情報通信技術の進展や交通手段の発達により移動が容易になるのみならず、ヒト、モノ、カネの流動性が高まることにより「国境」の意義が曖昧となり、各国の相互依存が深化すると同時にその形態も複雑化している。
とりわけ、経済分野におけるグローバル化は、世の中の在り方に大きな影響を与えている。米国でのサブプライム問題に端を発した歴史的な世界経済の後退は、皮肉にもグローバル化時代の経済がいかに相互依存の状態にあるかを浮き彫りにした。さらに、経済のグローバル化は、同時に環境・エネルギー問題といった国家を超えた深刻な人類共通の課題を我々に突きつけるまでに至っている。
また、近年の知識型経済の国際的な広がりは、新たなダイナミズムと競争環境を生み出しており、とりわけ、我が国を取り巻くアジア地域においては新興諸国が目まぐるしい勢いで発展を続けている。先進諸国は、市場のみならず技術や人的資源といった知識型経済における重要な要素においても、インドや中国をはじめとした新興諸国に大きく依存している。
こうしたグローバル化の流れを受けて、我が国も、国際社会全体が新たな制度を模索していく過程に、存在感ある形で参画することが求められている。そのためには、我が国がこれまで推し進めてきた「知の国際化」を更に加速させ、「平成の開国」を支える礎にしていかなければならない。
我が国の持続可能な成長を支えるイノベーションの源泉は、人材(人財)の多様性にある。つまり、「知の国際化」により、我が国が新たな価値を絶え間なく創造するような社会になることが期待されている。「知の国際化」をもたらすのはまさに人材であり、昨今言われているグローバル化した国際社会をリードする人材の育成は、我が国の将来を左右する最重要課題である。
こうした現状を踏まえ、文部科学省は、国際交流及び国際協力を推進する上で必要な方針や具体的な施策について検討する場として、平成21年1月に「国際教育交流政策懇談会」を設置し、同年12月までの約1年間にわたり、有識者で議論を重ねた。同年12月には、懇談事項に、教育交流のみならず、科学技術、文化、スポーツ・青少年交流も含めることとし、名称を「国際交流政策懇談会」(以下、「懇談会」という。)に変更した。
また、懇談会の下には、個別のテーマに基づいて、2つのワーキング・グループが設置された。一つは、「ブラジル人学校等の教育に関するワーキング・グループ」(平成21年1月設置)であり、昨今の景気後退の影響により、日系ブラジル人等定住外国人の子供が不就学となっている問題について議論を行い、平成21年4月に「定住外国人の子供の就学支援に関する緊急提言」をとりまとめた。
もう一つは、「東アジアにおける交流に関するワーキング・グループ」(平成21年12月設置)であり、政府の東アジア共同体構想に対応する形で、ASEAN諸国等を含む東アジア地域における大学間交流、科学技術協力、文化交流、スポーツ・青少年・教職員交流の在り方について幅広く議論を行い、平成22年7月に「東アジアにおける交流に関するワーキング・グループ最終報告書」を公表したところである。
本報告書は、懇談会及び2つのワーキング・グループにおける議論を集約するとともに、今後の課題や展望を掲げるものである。
グローバル化の進展に伴い、ヒト・モノ・カネの流動性が著しく高まる一方で、近年、我が国では、学生や研究者等若者の内向き志向が社会問題となっている。例えば、海外の大学等に在籍する日本人学生数は、平成16年の約8万人をピークに、その後は減少傾向にある。かつては、アメリカの大学等に在籍する留学生数は日本が首位であったのに、現在では、中国、インド、韓国等の他のアジア諸国の後塵(こうじん)を拝しているのが現状である。また、著名な研究者がそうであるように、かつては、欧米の大学に留学することが研究者のキャリア形成上必要なステップであったが、近年では、帰国後のポストへの不安等から、海外留学を躊躇(ちゅうちょ)する場合が多いという傾向も問題である。
資源に恵まれない日本が国際社会の中で競争力を保ち続け、存在感を維持していくためには、次世代を担う若者が海外で積極的に研鑽(けんさん)を重ね、国際的な感覚を養うとともに、幅広い人脈を築くことが不可欠であり、若い世代の内向き志向は、極めて憂慮すべき事態である。
現在、我が国が直面する厳しい国際競争の時代を生き抜くためには、日本人としての素養を大前提として、外国語で論理的にコミュニケーションをとれる能力、異文化を理解する寛容な精神、新しい価値を生み出せる創造力が求められる。グローバル化時代に対応できる人材というと、語学力の問題が挙げられることが多いが、日本人の素養として、我が国固有の文化や歴史から培われた独自の価値を国際社会で臆することなく伝えるという姿勢が重要なことは、改めて特筆する必要がある。
グローバル化がますます進展する未来に成人を迎える現在の子供たちが、こうした能力を身に着け、国際的に通用する人材として育成されるためには、幼少期から青年期に渡るまであらゆる教育段階において、グローバル化に対応する教育を提供する必要がある。
(学校の国際化)
将来、国際社会でリーダーシップを発揮できるような人材を育成するためには、幼少期から多様な文化や言語に触れる機会を提供することが極めて効果的である。例えば、外国人の子供のための日本語学級を設けている学校もあり、そこでは、異文化コミュニケーションを育むユニークな取り組みが行われている。こうした国際性を持った特色ある学校が我が国に増えていくことが望まれる。また、国際交流に積極的な学校を増やすためには、海外経験を積み、国際的な素養のある教師の育成が求められるため、教員への海外研修の機会の付与、地元の外国人留学生に国際教育に参加してもらう等の取り組みも広がっていくことが重要となる。
また、OECD(経済協力開発機構)は、PISA調査(生徒の学習到達度)を始め、加盟国共通の課題解決に向けて教育施策に関するデータの収集・分析や、情報の提供を行っている。グローバル化が進展する中で、我が国としても、積極的にOECDの取組に参画し、教育の質の向上や国際化に努めることが重要である。
(語学力の向上について)
責任ある国際社会の一員として生きていくためには、日本人としての素養を身につけた上で、多様な価値観を受け入れる寛容な精神を育むと同時に、異なる文化を持つ人々と意思疎通を図るコミュニケーション能力が不可欠である。
内向き志向の要因の一つとして、語学力不足の問題が挙げられている。読み書きに先立ち、「聞く」、「話す」等のコミュニケーション能力の強化については、幼少期から取り組むことが重要である。今や国際社会の共通語となっている英語については、母国語である日本語に加え、論理的に意思疎通をできるレベルに習得させなければならない。ASEAN諸国、中国、韓国ともに、英語教育には力を注(そそ)いでおり、その成果はめざましい。語学力を身につけるためには、より早期から外国語に触れ、関心を持つことができるような環境が望ましく、例えば、外国語のテレビ番組等からも習得することが可能である。
我が国も、英語をはじめとする外国語教育の充実に向けて、学習指導要領を改訂したところである。小・中・高を通じ「コミュニケーション能力の育成」を目標に掲げ、小学校においては、第5・6学年で新たに「外国語活動」を導入し、「聞く」「話す」を中心とした活動によりコミュニケーション能力の素地(そじ)を養うことを目指す。中学校・高等学校においては、「聞く」「話す」「読む」「書く」の4つの技能をバランスよく育成することを目標としつつ、中学校においては授業時数の約3割増、高等学校においては生徒が英語に触れる機会を充実するとともに、授業を実際のコミュニケーションの場面とするため、授業は英語で行うことを基本とする等の形で、英語教育の改善・充実を進めている。
現在、文部科学省では、「外国語能力の向上に関する検討会」を開催し、英語教育に関する目標設定の在り方や英語教員の英語力・指導力の強化、授業改善のための体制整備等、英語をはじめとする外国語能力の向上のための方策について、有識者との意見交換を行っているところである。このような取組を通じて、英語教育の更なる改革が図られることを期待する。
(高校生の留学促進)
10代という感受性豊かな吸収力の大きい時期に異文化の人々と接することは、国際社会への関心を呼び覚ます大きな一歩となりうる。その観点から、高校生の留学を促進することは、我が国の施策として重要である。高校生の留学は、子供たちの異文化理解を深めるのみならず、諸外国との友好親善の増進に寄与し、高等教育レベルでの留学やその後の国際交流活動の拡大に資するものであることから、積極的に推進していくべきである。
(国際バカロレア及びインターナショナルスクール)
国際的に活躍しうる人材を幼少期から育成する場として、国際バカロレア (IB)やインターナショナルスクールのさらなる活用が求められる。
国際バカロレアは、学生の柔軟な知性の育成と国際的に活躍できる人材養成の点から高い評価を得ており、我が国では、インターナショナルスクールを中心に現在19校が参加している。最近では学校教育法第1条 に規定されている学校でもIB教育の導入の動きが出ており、現在5校がある。
また、インターナショナルスクールは、海外から日本で勤務する研究者、職業人の子供や帰国子女等の教育の場となっている。平成21年、千葉市に設立された幕張インターナショナルスクールは、学校教育法1条校に認められており、我が国の学習指導要領に沿いながら、それに加えてイギリス等の教育課程を取り入れた教育を実施している。
こうした流れを加速させるため、今後、シンポジウムの開催等を通じた全国へのIBの周知・普及や1条校化を希望するインターナショナルスクールに対する情報の提供等を促進することが必要である。
(若者の内向き志向)
日本の若者が海外留学をためらう理由は、語学力や留学費用の問題のみならず、厳しい経済状況下における就職活動の激化・長期化や、留学経験が必ずしも就職の際に評価されないという社会的背景まで、多様な要因が考えられる。また、海外留学は依然として学生個人の事柄と見なされ、大学等が組織的に学生の留学促進に向けた体制を整えていない等の問題も指摘される。
学生の留学を促進するために、企業側においては、就職活動の開始を遅らせる、あるいは、海外留学をしている者が就職活動で不利にならないような配慮が求められる。採用に当たり、留学経験やその成果を積極的に評価する等の姿勢があれば、留学を志す若者に対して力強い後押しとなるだろう。また、例えば、ギャップイヤーのように、学生や若者が一定期間、海外等で社会経験を積むという制度も、内向き志向を打開する一つの解決策となりうる。現在、経済界には、日本のグローバルな事業活動をリードするような学生を対象とした奨学金設立の動きもあり、こうした試みが今後も拡大することが大いに歓迎される。
他方、大学においては、海外の大学とアカデミックカレンダーを合わせ、日本人学生が留学を選択しやすくする等の抜本的な改革から、語学教育に実践的なトレーニングを加える等の実務的な工夫まで、内向き志向対策を広く視野に入れることが望まれる。我が国でも、一部の大学で既に導入されている入試におけるTOEFL等外部の英語能力試験結果の活用も、中長期的には幅広い層の学生に海外留学のきっかけを与える良い機会になると考えられる。また、例えば、国際教養大学では、在学期間中にすべての学生が1年間海外に留学するカリキュラムとなっており、こうした取組も、学生の海外留学の促進の一つの方策となるため、特にグローバル化を図る多くの大学において、今後積極的に取り入れられることが期待される。
(大学の国際化)
「知の国際化」を担う中心的な場が大学であることは言うまでもない。大学の使命には、教育と研究のみならず、社会発展への貢献も含まれ、我が国が、グローバル化時代を力強く生き抜いていくために、大学の果たす役割は極めて重要である。
大学の国際化に向けた取組は、これまで中央教育審議会においても議論されており、大学国際化戦略事業、そして現在のグローバル30にも見られるように、様々な形態で実施されてきているが、これらの取組は決して十分とは言えない。
高等教育の分野において、「国を開く」ためには、学生や研究者の流動性を高めることが求められ、そのためには、質保証を伴った大学間連携を推進することが重要である。質保証を伴った大学間連携の推進は、経済や社会の一体化が世界規模で加速する中、グローバルな視野で活躍できる人材育成の上でも不可欠な要素であり、例えば、欧州における「欧州高等教育圏」構築の取組に見られるように、国境を越えた学生交流を活発化させ、域内の連携強化を図る取組が進んでいる。我が国としても、国内の大学の国際化を進めるとともに、アジア地域を中心として質の保証を伴った大学間交流・連携や学生交流を促進することが必要である。
日中韓3か国においては、日中韓サミットでの合意に基づき、単位互換や成績評価等の質の高い大学間交流を促進する「キャンパス・アジア」構想が進められており、引き続き具体的な交流プログラムの実施等の取組が進められるとともに、アジア地域全体を視野に入れた大学間交流の枠組み作りに取り組むことが重要である。
(アジア太平洋地域における単位互換の推進)
欧州においては、いわゆるリスボン相互認定条約 を基礎として、ボローニャプロセスやエラスムスプログラムとともに、活発な人的交流が行われている。我が国では、現在、日中韓3か国における大学間の質保証や交流プログラムの推進に取り組んでいるが、今後、アジア各国の大学の連携強化により、アジア版のエラスムス計画と呼べるような構想を実現していくためには、その基礎として、学位等の質保証の体制整備が不可欠となる。
我が国が位置するアジア太平洋地域内における学位や単位の相互認定の制度を整えるための条約として「ユネスコ・アジア太平洋地域における高等教育の学業、卒業証書及び学位の認定に関する地域条約 」(以下「地域条約」という。)があるが、我が国も早期に加盟することが求められている。
本年11月には、我が国のイニシアティブにより、東京で、地域条約改正案を採択するための高等教育関係閣僚会議が開催される予定であり、地域条約の改正案の成立と我が国の早期加盟に向けた取組が進められている。
(外国人学生の受入れ)
少子高齢化社会を迎えている我が国が、今後も国としての活力を維持し続けるためには、優秀な外国人学生を受け入れることは不可欠である。また、日本への留学経験のある者がいわゆる知日派となり世界各国に存在することは、我が国が外交や経済の舞台で活躍する際に大きな後押しとなりうる。例えば、現在、アジアをはじめとする世界各国で活躍する指導者の中には、かつて我が国の大学に留学した知日派も多い。外国人の日本への留学促進とあわせて、海外において日本研究や日本語教育を広めていくことも、国際社会における我が国の地位や影響力に大きく寄与する。
しかし、こうした日本留学経験を持つ指導者たちが、あと数年で現役を離れ、次の世代は日本ではなく欧米への留学経験を持っていると事実は、我が国にとっては憂慮すべき事態である。こうした観点からも、我が国は、次世代の日本留学組を早急に育成していくことが重要である。
人材獲得という趣旨から、より円滑かつ戦略的に、欧米、アジア等の優秀な学生を日本に留学させるためには、宿舎や日本語の予備教育を充実させるとともに、学費等の面で日本への留学を躊躇(ちゅうちょ)しないよう、奨学金制度の柔軟な運用が求められる。また、学生の双方向交流を推進するものとして、従来の国費・私費留学制度や日本人学生の海外派遣に加え、平成23年度予算案では、新たに3か月未満の学生の受入れ・派遣を行うショートビジット・ショートステイ等の事業も計上されている。こうした多様な交流形態を推進するという政策に基づき、今後も高等教育分野における人的交流を拡大していくことが重要である。
上述した若者の内向き志向の一方で、世界の第一線での活躍を志す若者、青年海外協力隊のような国際協力活動への積極的な参加を志す若者がいることも事実である。このような意欲的な学生は、将来、国際的な舞台に羽ばたく貴重な人材であり、彼らの熱意と能力を十分に開花させるために、海外ボランティアやインターンシップとして、国際機関等へ派遣する機会を積極的に提供することが重要である。
そのためには、大学教育の中に、ボランティア活動やインターンシップという実践の場を取り入れ、プログラム化することが効果的である。例えば、国内での入念な事前研修の後、学生を国連ボランティア(UNV)として開発途上国に派遣するプログラムを単位化した関西学院大学の例等は特筆できる取組であり、他の大学にもより一層広まることが望まれる。このように、 我が国の大学が国際機関や独立行政法人国際協力機構(以下、「JICA」という。)等と連携しながら、国際的な人材育成に積極的に取り組んでいくことが望まれる。
国際機関等で働く日本人職員の数が我が国の分担金や拠出金に比較して少ないという懸念は、従前より指摘されているにもかかわらず、未(いま)だ抜本的な解決には至っていないのが現状である。財政難の中、年々ODA予算が減額され、かつてのように途上国支援という方策のみでは国際社会をリードできなくなった我が国にとって、国際機関等で働く日本人職員は国際社会において我が国の存在感を高めるための貴重な存在となり得る。
また、我が国は、戦後のめざましい経済復興、バブル崩壊後の経済の停滞、急激に進む少子高齢化社会等、様々な経験をしており、我が国が直面した経験の中で得てきた教訓に対して、国際機関からも関心を示すところもあり、我が国の行政官が蓄積してきた知見による貢献も大いに期待される。今後は、外務省等とも連携しながら、国際機関の幹部として活躍できるような行政官を育成する必要があり、国際舞台での経験を多く重ねられるような行政官のキャリアパスの構築が望まれる。
科学技術は、本来、国際性を有し、研究者の活動も国境を越えて展開されるものである。近年、世界規模で頭脳循環が進展する中で、海外との双方向の交流により、世界に通用する人材を育成・確保することが求められている。
しかし、我が国の研究者交流の現状を見ると 、海外から我が国の研究機関への受入れ研究者のうち30日を超える研究者数は横ばいで推移している一方、我が国から海外へ派遣される研究者のうち、特に30日を超える研究者数はピーク時の半数以下にまで減少している。さらに、1年を超える派遣期間で見ると、平成21年度の調査では、派遣研究者数は全体の0.3%にすぎないことが明らかになった。以上の我が国の研究者交流状況を踏まえ、世界的な頭脳循環の流れから我が国が取り残されつつあるのではないかという懸念がある。
長期派遣研究者数の減少要因については、日本の研究環境が整備されてきたといったことが挙げられる一方、帰国後のポストについての不安や、海外の機関へ移籍するための人脈がないこと等が挙げられている。このような状況も踏まえ、研究者が機関に所属したまま海外で研鑽(けんさん)を積むことのできる派遣制度の充実や海外の日本人研究者のネットワーク化等により、海外における研究活動を積極的に展開するよう支援の充実に取り組むことが必要である。大学等においては、若手研究者の育成・指導を行う際に優秀な若手研究者を海外へ積極的に派遣する指導方針をとるとともに、海外で研鑽(けんさん)を積んだ研究者を積極的に受け入れることが望まれる。
地球規模の問題解決で先導的役割を担い、我が国が世界の中で確たる地位を維持するために、アジア・アフリカなどと国際協力を積極的に推進し、これらの国々における科学技術の発展、人材養成等に貢献し、我が国とのネットワーク強化を図ることが必要である。これらを通じて、我が国の技術や規則、基準、規格の国際標準化や、社会インフラの整備に関するパッケージ化した結合システムの海外展開を推進することが望まれる。
また、東アジア共同体構想の一環として、参加国が互恵関係を構築し、地域共通課題の克服に資する研究開発を共同で実施するとともに、人材養成や人材交流を促す「東アジア・サイエンス&イノベーション・エリア構想」を推進することが望まれる。
子供たちに最も身近に接する教員は、未来ある子供たちの瞳を世界に開く大きな役割を担っており、教員自身が様々な機会を通して国際的な経験を重ねることは極めて重要である。教員自身が海外での体験を語り、国境を越えた人脈を学校教育に還元することは、広い世界に対する子供たちの純真な関心を喚起することとなり、長期的な観点から、「日本を開く」ことの大きな一歩となりうる。
(米国への教員派遣)
米国は、我が国にとって重要な国の一つであり、政治・経済に加え、教育の分野においても、米国と人的交流を拡大することは、我が国にとって大変有益なことである。
昨年11月の日米首脳会談において、菅総理が人材、文化等日米交流の強化に関する提言をした。日本人の若手英語教員を米国の大学に派遣し、英語教育の教授法を学ぶとともに、米国の理解を深め、英語指導力等の充実を図る事業が行われることとなった。これにより日本の子供たちに対する英語教育の質の向上が期待できるとともに、中長期的な視点に立てば、日米同盟の深化・発展のための国民の幅広い層における相互理解促進にも資するものであり、この事業の確実な実施が望まれる。
(中国、韓国の教職員交流)
中国、韓国をはじめとする東アジアも、地理的・歴史的な観点より、草の根レベルでの相互理解を育むことが不可欠な地域であり、教育に携わる者の交流の促進が求められる。平成22年5月の第3回日中韓サミットにおいて発表された「日中韓三国間協力ビジョン2020」には、「人的・文化交流及び協力を通じた友好関係の促進」として、3国間の教員交流を促進することが明記されている。交流プログラムを通じて培われた教職員間の絆(きずな)が、姉妹校協定等学校間の交流にまで発展した例も増えており、今後も多くの地域でこのような動きが起こることが望ましい。
今後は、交流・研修プログラム事業の成果の評価や活用を更に深めるとともに、日本から派遣される教職員数が少ないことをふまえて、中国、韓国政府の協力を得ながら、バランスのとれた交流に努めることが望ましい。
(青年海外協力隊)
青年海外協力隊は、国際協力の志を持つ者が途上国を訪れ、現地の文化・習慣に溶け込みながら、草の根レベルで途上国抱える課題の解決に貢献する事業であるが、現職教員も参加できる制度となっている 。
青年海外協力隊としての経験は、教員自身の指導力や人間力等の資質向上に大きく寄与しているのみならず、教員が途上国で困難を伴う環境の中に身を置くその姿勢こそが、子供達(たち)の目を海外に向けさせる強い影響力を持つこととなる。また、近年では、帰国後の教員が自らの派遣経験を生かして行う国際理解教育や外国籍児童への対応が効果的であることも注目されている。このような貴重な経験が日本の教育界において更に有効に活用されるような配慮が望まれる。
さらに、経験教員を通して、より多くの子供たちが青年海外協力隊の成果に触れ、影響を受けられるよう、例えば、応募資格の年齢制限を緩和したり、対象学校を私立学校にも広げる等、「現職教員特別参加制度」の対象者の一層の拡大が望ましい。
(大学及び高等専門学校の教職員)
大学や高等専門学校の教職員も、国際協力の現場において、日本の技術を途上国に伝えて共同で新たな知を作り出すという両国の架け橋の役割を果たしている。具体的には、JICAの専門家としての派遣が中心となっているが、現地の開発への寄与に加え、派遣中・帰国後の日本人学生への教育や、途上国からの外国人留学生に対する教育に関しても、海外技術協力での経験を大きく活用している。こうした国際協力に参画する教職員の経験は、研究実績として学内で評価されることが望ましく、高等専門学校の教員については、今後、国際協力への更なる参画を促進していく方策を検討することが必要である。
これからの社会を生きる子供たちは、異文化を尊重し、環境、エネルギー、資源、人権、貧困、格差問題等、地球規模の様々な問題を身近に感じていけるような国際的な視野を持つことが求められる。そうした子供たちを育成する上で、持続発展教育(ESD:Education for Sustainable Development)は、大きな意味を持つ。ESDとは、「持続可能な社会の担い手を育む教育」であり、例えば、人格の健全な発達や、自律心、判断力、責任感等の人間性を育むこと、他人、社会、自然環境との関係性を認識し、「関わり」「つながり」を尊重する個人を育むこと等の観点が必要とされており、初等中等教育から高等教育まで、あらゆる教育段階に取り入れられることが望ましい。つまり、日本人である前に「地球人」であることを認識させる教育である。
ESDは、我が国がイニシアティブを発揮して、国際社会で推進している教育である 。途上国を含めた国際社会に広くESDを普及させることは、気候変動や生物多様性等の地球規模課題の解決に取り組む人材の育成につながり、こうした人材が我が国から数多く輩出されることは、科学技術外交や国際協力の推進に大きく寄与することとなる。
こうしたESDの概念を我が国の教育に明確に取り込むためにも、近年、学習指導要領に持続可能な社会の構築の観点が盛り込まれた。また、教育振興基本計画(2008年策定)においては、ESDが我が国の教育の重要な理念の1つとして位置づけられている。
国際理解教育や環境教育等のESDの研究テーマは、ユネスコスクール(UNESCO Associated School Project) の研究テーマと一致するため、我が国では、ユネスコスクールをESDの推進拠点として位置づけ、その加盟校増加、ネットワークの強化に取り組んでいる。2005年にはわずか19校であった我が国のユネスコスクールも、2011年1月現在279校まで増加している。今後も、教育委員会、大学等の関係機関、民間団体の支援体制が整備され、ESDが更に普及・促進することが望まれる。
本懇談会の下には、「ブラジル人学校等の教育に関するワーキング・グループ」及び「東アジアにおける交流に関するワーキング・グループ」の2つが設置され、それぞれ、提言や報告書が公表されている。これらを踏まえ、既に開始されている一定の取組の概要等を以下に述べる。
この懇談会に設置された「ブラジル人学校等の教育に関するワーキング・グループ」では、平成20年秋のリーマンショック後の景気後退により、ブラジル人学校等への学費が払えなくなり、不就学・自宅待機となった子供たちへの支援として、国や地方公共団体、NPO等が連携して日本語指導や学習指導、地域交流等を行う場を提供することが緊急提言された。
それを踏まえて、平成21年度補正予算において約37億円を措置し、3年間の予定で「定住外国人の子供の就学支援事業」を実施することとなった。文部科学省から国際移住機関に拠出を行い、景気悪化により、不就学・自宅待機となっていたブラジル人等の子供に対して、日本語等の指導や学習習慣の確保を図るための「虹の架け橋教室」を外国人集住都市等に設置し、主に公立学校等への円滑な転入を目指している。
平成21年度は34の「虹の架け橋教室」で約1,250人の子供たち(不就学になりそうな子供も含む)が学び、約160人が公立学校・ブラジル人学校等に進学・転入した。平成22年度は42教室において事業を実施し、9月末時点で約1,200人の子供が通っている。また、授業参観や給食体験を始めとする小中学校との連携体制の構築や、地域交流の促進など様々な成果が上がっている。
本事業は、平成23年度で終了予定であるが、依然として厳しい経済情勢にある中、各地域から事業の継続について要望が寄せられている。今後、事業の評価・検証を行うとともに、ブラジル人学校調査等の情報も活用し、子供の就学状況や新たなニーズの把握に努め、効果的・効率的な事業として継続し、そのために必要な人員体制を整備する必要がある。
本懇談会に設置された「東アジアにおける交流に関するワーキング・グループ」では、豊かで安定し、開かれた東アジア共同体を形成するため、ASEAN+3、EAS(東南アジア首脳会議)、SEAMEO(東南アジア教育大臣機構)等、既存の枠組みを活用して、大学間交流、科学技術、文化、スポーツ、青少年等の交流・協力を促進しつつ、国際的に活躍できる域内の人材を育成することが重要であると提言した。
とりわけ大学間交流の分野については、我が国は、ASEAN工学系高等教育ネットワーク(AUN/SEED-Net)の構築等、工学系を中心に高度人材の育成を担う高等教育機関の整備につき、国と大学の協働により長期にわたり支援してきた。その結果、アジア諸国の大学との間に良好なパートナーシップが形成されるとともに、現在も、インド、マレーシア等から工学系高等教育に関する支援要請を受けている。
アジア諸国の協力ニーズに適切に応えていくためには、人的・物的資源を有効に活用し、相手国のニーズと我が国大学の協力リソース等を踏まえた効果的な協力を行っていく必要がある。さらには、育成した人材を我が国が有効に活用することがアジア諸国、我が国双方にとって重要であり、その視点を含めた国際教育協力の在り方について、政府、経済界、JICA、大学等の幅広い関係者の参加により検討を進めていくことが必要である。
以上の提言を実現するに当たっての取組方針として、我が国が、今後とも人材の国際交流を加速化し、世界の活力を取り入れるためには、内容に応じて、二国間、多国間関係等、効果的な枠組みを戦略的に活用していくことが重要である。例えば、二国間関係においては、重点国と重点分野にかかる覚書の締結が有効である。我が国の国際交流の現状を踏まえ、相手国、重点的に推進する分野、取組を検討し、我が国から積極的に覚書の作成を働きかけることが必要である。これによって、教育、文化、スポーツ、学術・科学技術分野での取組を促進し、関係機関同士の交流を支え、持続的かつ発展的な交流という成果が期待できる。
また、多国間関係においては、ユネスコやOECD等の国際機関に加え、ASEAN+3、EAS(東南アジア首脳会議)、ASEM(アジア欧州会合)、APEC(アジア・太平洋経済協力)、SEAMEO(東南アジア教育大臣機構)等、東アジアを中心とした枠組みにおける教育に関する取組も積極的に活用し、我が国の考え方を提起し、協力関係を構築していくとともに、それらの成果を我が国の教育改革に生かしていく努力が必要である。
大臣官房国際課国際協力政策室