「定住外国人の子どもの教育等に関する政策懇談会」の意見を踏まえた文部科学省の政策のポイント

平成22年5月19日
文部科学省

1 はじめに

 平成2年に出入国管理に関する法令改正が行われ、就労制限のない定住の在留資格で日本に居住するブラジル人等が近年急激に増加した。しかしながら、平成20年下期以降、経済情勢が悪化する中で、不安定な雇用形態で就労する日系人の雇用、住居、子どもの教育等の課題が顕在化した。

 文部科学省では、平成21年12月に「定住外国人の子どもの教育等に関する政策懇談会(主宰:中川正春文部科学副大臣)」を設置し、有識者等から意見を伺った。そのうち、喫緊の課題として、日系人等のいわゆるニューカマーと呼ばれる外国人の子どもの就学や留学生に対する日本語教育等に焦点を絞って、今後の政策のポイントを取りまとめた。

2 定住外国人の子どもの教育等に関する基本方針

[ポイント]
 日本語指導の充実等を図るとともに、制度面についての検討を行い、小中学校に入りやすい環境を整備する。また、外国人学校の各種学校・準学校法人化を促進する。さらに、留学生に対する日本語教育等の体制の充実を図る。

 定住外国人の子どもの教育については、公立学校とブラジル人学校等の外国人学校で行われており、どちらを選択するかは、子ども・保護者の判断に委ねられるべきである。

 日本での滞在の長期化・定住化傾向が見られることを踏まえ、就学機会を確実に確保するために、公立学校については、「入りやすい公立学校」を目指し、これを実現するための日本語指導、適応支援、進路指導等の受入れ体制を整備する。外国人学校については、経営を安定させ、充実した教育内容を提供できるように、各種学校・準学校法人化を促進する。また、定住外国人の大人や不就学の子ども等に対応するため、学校外における日本語指導等の学習支援を促進するとともに、留学生に対する日本語教育や就職支援の充実を図る。

3 「入りやすい公立学校」を実現するための3つの施策

[ポイント]
 公立学校に定住外国人児童生徒が存在することを前提に、「入りやすい公立学校」を実現するために、主に3つの施策を充実する。

- 第一に日本語指導の体制の整備
- 第二に定住外国人児童生徒が、日本の学校生活に適応できるよう支援体制を整備
- 第三に公立小中学校へ入学・編入学する定住外国人児童生徒の受入れ体制について、制度面の検討を含め、環境整備を行うとともに、上級学校への進学や就職に向けた支援を充実

(1) 日本語指導の体制の整備

  • 日本語指導と教科指導を統合した指導方法(JSLカリキュラム)の普及、適応指導・日本語指導等に関するガイドラインの作成、日本語能力の測定方法及び教員研修マニュアルの開発。
     
  • 日本語指導については、各地で既に使用されている指導法や教材のうち優れたものに関する情報や外国人児童生徒への対応のノウハウや経験を集積し、共有化を図るとともに、IT技術等を活用しながら、全国に提供。
     
  • 外国人児童生徒に対して日本語指導を行う教員については、日本語指導を必要とする定住外国人児童生徒に対し、きめ細かな教科指導の充実を図ることができるよう、当面、本年8月を目途に行われている「今後の学級編制及び計画的な教職員定数の改善に関する検討」の中で、日本語指導に係る加配定数の拡充について検討を行うとともに、今後、外国人児童生徒の実態把握に努め、将来需要に対応した定数改善や配置基準の明確化について検討を行う。
     
  • 日本語指導に関わる人材に対する支援については、適応指導・日本語指導等に関するガイドラインを作成するとともに、日本語能力の測定方法を開発し、その周知・共有化を進めていく中で、外国人児童生徒の現状を正確に把握し、人材の需要を予測して、対応する必要がある。また、日本語指導に携わる教員の養成については、今後、教員の資質向上方策の抜本的見直しの中においても検討される必要がある。当面は、人材確保のため現職教員の日本語指導能力の向上を図る。このため、大学等による日本語指導能力の向上を図る履修証明プログラムの充実等を検討。
     
  • 学校外でも日本語が学べるように、平成21年度補正予算で開始された「虹の架け橋教室」事業において、公立学校に在籍する外国人児童生徒に対する日本語指導も対象とし、3年間の期限付とされている同事業終了後の継続を検討。

(2) 適応支援等の体制の整備 

  • 定住外国人児童生徒や親の相談相手になり、日本語能力が不十分な親の支援を行う、要員の配置の促進が必要。地方自治体においては、この人員の活用により外国人児童生徒の保護者に対し、日本の教育制度、学校の教育方針等について情報を分かりやすく、かつ伝わりやすい方法で提供することが必要。この場合、定住外国人児童生徒等に円滑な支援を行うため、たとえば、バイリンガルその他の専門的能力を有する人材とスクールソーシャルワーカー等の人材の連携が必要。

(3) 受入れ体制の環境整備及び上級学校への進学や就職に向けた支援の充実

  • 学習指導要領等において定める外国人児童生徒に対する指導上の配慮事項について、教育委員会や学校への周知・徹底を図る。
     
  • 外国人児童生徒の日本語能力等に配慮した弾力的なカリキュラムの編成など制度面についての検討や、学齢を超過した者を含め、入学・編入学させたり、その際に下学年へ受入れたり、就業実態を踏まえ、必要な場合には、いわゆる夜間学級を活用したりするなど、小学校または中学校に入りやすい環境の整備を促進。
     
  • 中学校を卒業していないなどの場合において、高等学校に進学する際に必要となる中学校卒業程度認定試験について、定住外国人の子ども等が受けやすくなるよう、更なる配慮を行うことを検討。
     
  • 高等学校への受入れについては、定時制、通信制の活用も含め、日本語指導をはじめ、幅広い受入れ環境の整備を支援するとともに、就業体験などのキャリア教育を推進。
     
  • 特に日本語能力が十分でない定住外国人児童生徒等に対する進学や就職の支援を充実するため、地方自治体におけるバイリンガルその他の専門的能力を有する人材確保を支援。

4 学校外における学習支援

[ポイント]
子どもだけでなく、大人に対する日本語学習についても充実を図る。

  •  子どもだけでなく、定住外国人の大人に対する日本語指導についても、日本語能力評価基準、標準的なカリキュラム及び教材を作成するとともに、大学や日本語学校等と連携し、これらの周知・活用等により日本語学習の充実を図る。
     
  • 公立学校の授業について行けない児童生徒や外国人学校に在籍していて日本語学習の機会が十分でない子ども、あるいは不就学・不登校になっている子どもに対して、補完的な学習の機会を提供し、確実な就学につなげていくため、平成21年度補正予算で開始された「虹の架け橋教室」事業について、3年間の期限付とされている同事業終了後の継続を検討。

    また、就学前の子ども等を本事業の対象にするかどうかについては、速やかに、検討。

5 外国人学校における教育体制の整備

[ポイント]
ブラジル人学校等が充実した教育内容を提供できるようにする。

  •  ブラジル人学校等の経営を安定させ、充実した教育内容を提供できるように、各種学校・準学校法人化を促進する必要がある。このため、認可権を有する都道府県に対して、適切な範囲内での基準の適正化を引き続き求めていく。
     
  • ブラジル人学校等に在籍している子どもについても、日本社会で生活していく上で日本語の習得が必要不可欠であるので、学校外での日本語学習の機会を充実。

6 留学生に対する日本語教育や就職支援

[ポイント]
留学生に対する日本語教育や就職支援の抜本的な充実を図る。

  •  大学において入学後の留学生の教育をスムーズに行えるよう、母国においてe-ラーニングを活用することや、海外の大学や国際交流基金(さくらネットワーク)等とも連携し、渡日前の留学生に対する日本語教育を充実。
     
  • 産業界とも連携し、就学支援のためのプログラム等の構築を進めるとともに、留学生に対して優れた就職のための日本語教育を行っている大学等への支援。
     
  • e-ラーニングを活用した日本語の遠隔教育等を行う大学等への支援。
     
  • 日本の大学を卒業した留学生が日本社会に定着し、活躍できる場を提供するために、地域においても産学官連携による就職支援や受入れ、在留期間の見直し、就職の際の在留資格の弾力化等(調理師、美容師等の職に就く場合に一定の実務経験がないと在留資格が得られない等)の総合的な推進体制の構築。
     
  • 母国と日本との架け橋となる帰国留学生の活用を図るため、大学において卒業後も含めた留学生情報の整備及び同窓会組織への支援。 

7 更に検討を要する課題

[ポイント]
 以下の課題には、関係府省庁、自治体等の関係機関が連携して総合的に取り組むべく、今後、検討を行う必要がある。

  •  外国人の受入れに関する基本方針の策定(日本語教育、子どもの教育、雇用、職業訓練、社会保障、住宅等)。
     
  • 外国人の子どもの教育課題に対処するための関係機関との連携の在り方(行政とNPO法人との情報・課題共有、国・地方自治体・企業等による基金の創設等)。
     
  • 外国人に対する行政サービスの在り方(ワンストップサービスでの対応、地方自治体間の行政サービスの格差の是正、地方自治体における外国人の生活全般に関わるソーシャルワーカーの育成の支援等)。
     
  • 日本語教育の総合的推進

    ・地域における日本語教育の推進体制の充実

    ・日本語教員等の養成・研修のあり方

    ・日本語学校をはじめとする日本語教育機関の充実

    ・日本語教育に関する各種情報の共有化(優良事例の収集等)

    ・外国人研修生、技能実習生等に対する日本語教育の充実(日本語学校等の活用)

    ・国際交流基金と我が国の大学等との連携・協力を通じた海外での日本語教育の推進

  • 外国人学校の法的な位置付け及び日本語教育への支援。

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